説明

アジャスタ構造

【課題】 電蝕状態の発現とガタ発生の危惧なくして内側アジャスタの外側アジャスタからの抜け落ち阻止を可能にする。
【解決手段】 車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ11の軸芯部に上下動可能とされながら車体側チューブ1の軸芯線Cを中心線にして回動可能に配設される外側アジャスタ2を有すると共に、この外側アジャスタ2の内側に配設されて同じく車体側チューブ1の軸芯線Cを中心線にして回動可能とされる内側アジャスタ3を有してなるアジャスタ構造において、内側アジャスタ3と外側アジャスタ2との間に設けられる位置決め手段が内側アジャスタ3に形成される透孔3cと、外側アジャスタ2に形成されて上記の透孔3cに照準される凹部2dと、上記の透孔3cに配設されて外側部が上記の凹部2dに臨在される連結部材とからなり、内側アジャスタ3の外側アジャスタ2に対する外側アジャスタ2の軸線方向への移動が阻止されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アジャスタ構造に関し、特に、二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークへの具現化に向くアジャスタ構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークとしては、これまでに種々の提案があるが、一部のフロントフォークにあっては、ハンドル側に連結される車体側チューブの上端部に車高調整用の外側アジャスタと減衰力調整用の内側アジャスタとを有してなるものがある。
【0003】
たとえば、特許文献1に開示されているフロントフォークにあっては、図4に示すように、上端側部材たる車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ11の軸芯部に上下動可能とされながら車体側チューブ1の軸芯線Cを中心線にして回動可能とされる外側アジャスタ2を有すると共に、この外側アジャスタ2の内側に配設されて同じく車体側チューブ1の軸芯線Cを中心線にして回動可能とされる内側アジャスタ3を有してなる。
【0004】
ちなみに、外側アジャスタ2は、その回動時に上下動して、図示するところでは、下端側に直列するバネ受4およびスペーサ5を介して係止する懸架バネ(図示せず)の上端を昇降させてバネ力を変更する。
【0005】
また、内側アジャスタ3は、その回動時に、図示するところでは、下端側に直列する連結アジャスタ6を上下動させ、この連結アジャスタ6の下端に直列するコントロールロッド7を介してコントロールバルブ(図示せず)を制御して発生減衰力を変更する。
【0006】
このとき、外側アジャスタ2は、キャップ11の軸芯部に螺合される一方で、下端部の外周に嵌装のスナップリング21がキャップ11の軸芯部の内側に形成のテーパ部11aに係止されることで、キャップ11からの上方への抜け出しが阻止される。
【0007】
それに対して、内側アジャスタ3は、外側アジャスタ2の内周に形成の内側段部2aに外周に形成の内側段部2aを当接させることで、外側アジャスタ2からの上方への抜け出しが阻止される。
【0008】
一方、内側アジャスタ3の外側アジャスタ2からの下方への抜け落ちは、内側アジャスタ3の上端部の外周に形成の環状溝3bに嵌装されるスナップリング31が外側アジャスタ2の軸芯部の内側に形成のテーパ部2bに当接されて具現化される。
【0009】
それゆえ、この図4に示すアジャスタ構造、すなわち、特許文献1に開示のアジャスタ構造にあっては、外側アジャスタ2からの内側アジャスタ3の下方への抜け落ちがスナップリング31利用で阻止されるから、内側アジャスタ3の回動によるフロントフォークにおける所望の減衰力調整の具現化が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−286200号公報(明細書中の段落0030,図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した特許文献1に開示のアジャスタ構造にあっては、フロントフォークにおける所望の減衰力調整の具現化を可能にする点で、基本的に問題がある訳ではないが、利用の実際を勘案すると、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0012】
すなわち、上記したアジャスタ構造を具現化するフロントフォークについてだが、近年では、軽量化を図る観点から、フロントフォークにアルミ材が多用される傾向にあり、内側アジャスタ3にあってもアルミ材で形成されることがある。
【0013】
それに対して、スナップリング31については、バネ力を具有することが重視されるから、これが鋼材からなる。
【0014】
その結果、内側アジャスタ3の上端部にスナップリング31を有する状況下では、内側アジャスタ3および外側アジャスタ2とスナップリング31とが異種金属同士で接触する状況になり、電位差によるいわゆる電蝕状態が発現されて、スナップリング31が白い粉を吹いたような好ましくない外観を呈することになる危惧がある。
【0015】
また、上記したアジャスタ構造にあっては、内側アジャスタ3の上端部の外周に形成の環状溝3bにスナップリング31を嵌装する上で、内側アジャスタ3を上昇させて環状溝3bを外側アジャスタ2の上端上方に露出させなければならないから、外側アジャスタ2の内側段部2aと内側アジャスタ3の外側段部3aとの間に環状溝3bの少なくとも半分以上となる幅のクリアランスhを設けることが必須になる。
【0016】
そのため、環状溝3bにスナップリング31を嵌装した後は、上記の内側段部2aと外側段部3aとの間に上記のクリアランスhが出現し、たとえば、いわゆる内圧の変化などで、内側アジャスタ3が外側アジャスタ2に対して上記のクリアランスh分を昇降し得ることになり、いわゆるガタ発生に繋がる不具合がある。
【0017】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、電蝕状態の発現とガタ発生の危惧なくして内側アジャスタの外側アジャスタからの抜け落ち阻止を可能にするアジャスタ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成するために、この発明によるアジャスタ構造の構成を、基本的には、車体側チューブの上端開口を閉塞するキャップの軸芯部に上下動可能とされながら車体側チューブの軸芯線を中心線にして回動可能に配設される外側アジャスタを有すると共に、この外側アジャスタの内側に配設されて同じく車体側チューブの軸芯線を中心線にして回動可能とされる内側アジャスタを有してなるアジャスタ構造において、内側アジャスタと外側アジャスタとの間に設けられる位置決め手段が内側アジャスタに形成される透孔と、外側アジャスタに形成されて上記の透孔に照準される凹部と、上記の透孔に配設されて外側部が上記の凹部に臨在される連結部材とからなり、内側アジャスタの外側アジャスタに対する外側アジャスタの軸線方向への移動が阻止されてなるとする。
【0019】
そして、内側アジャスタが有頭筒状に形成されて下端側部たる筒部の下端部に肉厚を径方向に貫通する透孔を有し、この透孔に外周側から照合されて環状溝からなる凹部を外側アジャスタの下端部の内周に設け、この凹部に上記の透孔に配設される鋼球あるいはピン状体からなる連結部材の外側部を臨在させてなるとする。
【0020】
また、内側アジャスタが有頭筒状に形成されて下端側部たる筒部の内側にロッド状に形成されながら下端にコントロールロッドを直列させる連結アジャスタの上端側部を出没可能に挿通させ、連結アジャスタの上端側部に位置決め手段を構成する連結部材の内側部を臨在させる縦溝を有すると共に、連結アジャスタがディテント機構の配設下にキャップ側に下端部を昇降可能に螺合させてなるとする。
【発明の効果】
【0021】
それゆえ、この発明にあっては、フロントフォークを構成する車体側チューブの上端部に連結されるキャップの軸芯部に外側アジャスタと内側アジャスタとを有するアジャスタ構造にあって、内側アジャスタと外側アジャスタとの間に位置決め手段が設けられて外側アジャスタに対する内側アジャスタの外側アジャスタの軸線方向への移動が阻止されるから、前記した特許文献1に開示されているように外側アジャスタからの内側アジャスタの抜け落ちを内側アジャスタの上端部に嵌装するスナップリングで実践する場合に比較して、異種金属の接触による電蝕状態の発現を阻止できる。
【0022】
そして、この発明にあっては、内側アジャスタの上端部の外周にスナップリングを嵌装しないから、内側アジャスタの上端部に環状溝を形成する手間を要しないのはもちろんのこと、スナップリングの削減が可能になると共に、スナップリングの嵌装に伴う内側アジャスタと外側アジャスタとの間におけるガタ発生の危惧なくして済み、さらには、内側アジャスタの上端部を外側アジャスタの上端から上方に突出させなくて済むから、上記の環状溝を形成する長さと外側アジャスタの上端から突出する上端部の長さ分、フロントフォークの上端位置を低く設定し得る。
【0023】
また、この発明にあっては、内側アジャスタと外側アジャスタとの間に位置決め手段が設けられて外側アジャスタに対する内側アジャスタの外側アジャスタの軸線方向への移動が阻止されるから、前記した特許文献1に開示されているように外側アジャスタの上端部の内周に内側段部を設けると共に内側アジャスタの上端部の内周に内側段部を設けて、この外側段部と内側段部との当接で内側アジャスタの外側アジャスタからの上方への抜け出しを阻止する場合に比較して、外側アジャスタおよび内側アジャスタの上端部の構成を簡素化し得る。
【0024】
さらに、この発明にあっては、外側アジャスタと内側アジャスタとの間に設けられる位置決め手段が内側アジャスタに形成される透孔と、この透孔に配設される連結部材と、外側アジャスタの内周側に形成されて連結部材の外側部を臨在させる凹部とからなるから、簡単な構成にして、内側アジャスタの外側アジャスタからの抜け落ちおよび抜け出しを効果的に阻止し得る。
【0025】
そしてまた、内側アジャスタ直列される連結アジャスタがロッド状に形成されながら内側アジャスタの筒部の内側に出没可能に挿通される上側部に連結部材の内側部を臨在させる縦溝を有するから、内側アジャスタと連結アジャスタとの連結状態を簡素化し得て、部品製作を容易にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明によるアジャスタ構造を具現化したフロントフォークにおける上端側部を部分的に示す半截縦断面図である。
【図2】位置決め手段の構成を図1中のX−X線位置で拡大して示す横断面図である。
【図3】他の実施形態によるフロントフォークにおける上端側部を図1と同様に示す図である。
【図4】特許文献1に開示されているところを図1と同様に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるアジャスタ構造は、図示するところでは、ダンパ内蔵型のフロントフォークに具現化され、このフロントフォークは、二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器として機能する。
【0028】
すなわち、図示するフロントフォークは、図1に示すように、車体側チューブ1と図示しない車輪側チューブとからなり、車体側チューブ1と車輪側チューブとがテレスコピック型に出没可能に挿通されて伸縮可能とされ、このフロントフォークを伸長方向に附勢する懸架バネ(図示せず)を内装すると共に、このフロントフォークの伸縮作動時に所定の減衰作用を具現化するダンパ(符示せず)を内蔵してなる。
【0029】
ちなみに、図示するフロントフォークは、車体側チューブ1が大径のアウターチューブとされると共に車輪側チューブが小径のインナーチューブとされる倒立型に設定されるが、この発明が意図するところからすれば、車体側チューブ1が小径のインナーチューブからなると共に車輪側チューブが大径のアウターチューブからなる正立型に設定されても良い。
【0030】
そして、図示しない懸架バネについてであるが、コイルスプリングからなり、基本的には、車体側チューブ1と車輪側チューブとの間に配設されて、フロントフォークを伸長方向に附勢するが、図示する実施形態では、下端が車輪側チューブのボトム部側に担持され、上端が後述するスペーサ5およびバネ受4を介して車体側チューブ1の上端部側に係止される。
【0031】
また、図示しないダンパについてであるが、筒型にして片ロッド型からなり、このダンパを構成するシリンダ体が下端部を車輪側チューブのボトム部側に一体的に連結されるなどして車輪側チューブの軸芯部に起立される。
【0032】
そしてまた、このダンパにあって、シリンダ体内に先端側たる下端側が出没可能に挿通されるピストンロッドたるロッド体8は、基端部たる上端部が後述するホルダ部材9に一体的に連結されることで、結果的に、車体側チューブ1の軸芯部に垂設される。
【0033】
ところで、図示するフロントフォークにあっては、車体側チューブ1の上端開口をシール12の配設下に閉塞するキャップ11の軸芯部にシール22の配設下に外側アジャスタ2を回動および上下動可能に有すると共に、この外側アジャスタ2の軸芯部に、すなわち、内側にシール32の配設下に内側アジャスタ3を回動可能に有する。
【0034】
このとき、図示するところでは、外側アジャスタ2の上端位置と内側アジャスタ3の上端位置とが一致して面一となり、特に、内側アジャスタ3の上端が外側アジャスタ2の上端より上方に突出しないように配慮して、たとえば、内側アジャスタ3の上端のハンドルへの干渉を回避する。
【0035】
そして、外側アジャスタ2は、筒状に形成されて下端部の外周に外側螺条2cを有し、この外側螺条2cをキャップ11の後述する連結部11dの内周に形成の内側螺条11gに螺合させて、キャップ11に対して回動および上下動可能とされる。
【0036】
また、この外側アジャスタ2に対して、内側アジャスタ3は、有頭筒状に形成されて、上端側部たる頭部の外周に外側段部3aを有し、この外側段部3aを外側アジャスタ2の上端部の内周に形成の内側段部2aに当接させてこの内側アジャスタ3の外側アジャスタ2からの上方への抜け出しが阻止される。
【0037】
このとき、外側アジャスタ2の内側段部2aと内側アジャスタ3の外側段部3aとは、前記した特許文献1に開示の提案に比較して、図示するように、隙間なく当接されて良いから、上記文献開示の提案のように両者間にクリアランスh(図4参照)を設ける必要がなく、したがって、外側アジャスタ2と内側アジャスタ3との間にガタ発生の危惧がない。
【0038】
一方、外側アジャスタ2は、下端に座金23の配設下にバネ受4を当接させ、このバネ受4と懸架バネとの間にスペーサ5を有すると共に外側アジャスタ2の回動でバネ受4およびスペーサ5を介して懸架バネにおける上端を上下動させてこの懸架バネにおけるバネ力の高低調整を可能にする。
【0039】
また、スペーサ5は、懸架バネをいたずらに長く形成することで、フロントフォークにおける重量を大きくすることを避けるために配設されるが、多くの場合に、懸架バネの径とほぼ同じ径を有する筒状に形成され、内外周側における作動油の通過を許容する連通孔(図示せず)を適宜に有する。
【0040】
なお、この発明が意図しているところからすれば、上記のスペーサ5については、これが配設されずして、したがって、後述するホルダ部材9における中間部9cが、図示しない懸架バネの上端部の内側に臨在されても良い。
【0041】
ここで、キャップ11について説明すると、このキャップ11は、上記したように、車体側チューブ1の上端部の内周に螺着されて車体側チューブ1の上端開口を閉塞し、このとき、キャップ11と車体側チューブ1との間にはシール12が配設されて密封性が保障される。
【0042】
そして、このキャップ11は、フランジ状に形成の蓋部11bと、この蓋部11bの外周側端部に連設されて車体側チューブ1の上端部の内周に螺着される筒状に形成の連結部11cと、蓋部11bの内周側端部に連設されて外側アジャスタ2を回動可能および上下動可能に装着させる筒状に形成のガイド部11dとを有してなる。
【0043】
そしてまた、このキャップ11は、ガイド部11dと連結部11cとの間を筒状の空間部11eにして、この空間部11eにホルダ部材9の上端部たる連結部9aを臨在させると共に、この連結部9aをガイド部11dの外周に螺着させる。
【0044】
ところで、キャップ11は、上記の構成たる蓋部11b,連結部11c,ガイド部11dおよび空間部11eを有する限りには、任意の材料で、また、任意の手段で形成されて良いが、所定の機械的強度を有しながら軽量化や部品コストの点からすれば、たとえば、アルミ材で鍛造されるのが好ましいであろう。
【0045】
このとき、キャップ11にあって、蓋部11bは、いわゆる撓みを許容するように、また、連結部11cおよびガイド部11dは、他部材への連結あるいは他部材の連結を許容するように、それぞれ所定の機械的強度を具有し得る肉厚に、すなわち、いたずらに肉厚を大きくしないように形成される。
【0046】
以上のように、キャップ11は、ガイド部11dと連結部11cとの間を筒状の空間部11eにするから、連結部11cに対してガイド部11dが揺れるようになるとき、すなわち、連結部11cの軸芯線がガイド部11dの軸芯線に対して傾斜する状況になるとき、蓋部11bが撓むようになってこれを許容する。
【0047】
その結果、図示するフロントフォークにあっては、車体側チューブ1と車輪側チューブとの間に曲がり現象が発現される状況になっても、結果的にキャップ11を介して車体側チューブ1に連結されるロッド体8がその軸芯線を車輪側チューブに連結されるシリンダ体の軸芯線と同じにし得ることになり、ダンパにおいて作動時の齧り現象が発現されなくなる。
【0048】
また、この発明にあって、キャップ11は、言わば薄肉に形成されるから、キャップ11における部品重量が小さくなり、結果として、フロントフォークにおける重量の軽減化に寄与する。
【0049】
ところで、上記のキャップ11の軸芯部に配設される、すなわち、下端部がキャップ11のガイド部11dに螺着される外側アジャスタ2についてだが、上端側部がキャップ11の上端から外部に突出して、この外側アジャスタ2に対する回動操作を可能にすると共に、下端部が外周に嵌着されたスナップリング21を有し、このスナップリング21がキャップ11におけるガイド部11dの下端の内側に形成のテーパ部11aに当接されることで外側アジャスタ2のガイド部11dからの抜け出しが阻止される。
【0050】
ちなみに、図示する実施形態にあっては、後述するホルダ部材9がキャップ11と分離形成されるから、外側アジャスタ2をキャップ11の軸芯部に配設する際のスナップリング21の嵌着作業を容易に実践し得ることになり、いわゆる組立性を良くする。
【0051】
そして、この外側アジャスタ2にあっては、キャップ11に捩じ込むように回動するとき、バネ受4を押し下げ、また、逆転されてキャップ11から抜き出すように回動するとき、バネ受4の上昇を許容する。
【0052】
このとき、外側アジャスタ2の回動に対して、ホルダ部材9がキャップ11に連結されて連れ運動しないから、このホルダ部材9に連結のダンパを構成するロッド体8が連れ運動せず、したがって、ダンパにおけるロッド体8の設定のストロークを変更せずして設定通りの減衰力発生を可能にする。
【0053】
一方、上記の内側アジャスタ3についてだが、この内側アジャスタ3は、連結アジャスタ6を介してダンパを構成するロッド体8の軸芯部を挿通するコントロールロッド7を昇降させるもので、外側アジャスタ2の軸芯部には上下動することなく回動可能に収装される。
【0054】
なお、連結アジャスタ6の下端は、図示するところでは、コントロールロッド7の上端に当接されるとするが、両者の一体性を向上させる上からは、図示しないが、たとえば、スプライン構造などで一体的に連結されるとしても良い。
【0055】
そして、この内側アジャスタ3は、前記したように、外側段部3aが外側アジャスタ2の内側段部2aに当接されて、外側アジャスタ2からの上方に抜け出しが阻止される一方で、外側アジャスタ2に対して位置決め手段で位置決められて、外側アジャスタ2からの下方への抜け落ちが阻止される。
【0056】
そこで、この位置決め手段について少し説明するが、この位置決め手段は、図2にも示すように、外側アジャスタ2と内側アジャスタ3との間に設けられ、図示するところでは、内側アジャスタ3に形成される透孔3cと、この透孔3cに配設される連結部材たる鋼球Sと、外側アジャスタ2に形成されて鋼球Sの外側部を臨在させる凹部たる環状溝2dとで構成される。
【0057】
ちなみに、図2中に符号2cで示す部位は、外側アジャスタ2の下端側部の外周に形成の外側螺条である(図1参照)。
【0058】
すなわち、内側アジャスタ3は、前記したように有頭筒状に形成され、下端側部たる筒部の下端部にその肉厚を径方向の貫通する透孔3cが形成され、この透孔3cに連結部材としての鋼球Sを配設させる。
【0059】
このとき、鋼球Sの径は、内側アジャスタ3の筒部の下端部における肉厚より大きく設定され、透孔3cに配設された状態で、鋼球Sの外側部が下端部の外周側に突出し、鋼球Sの内側部が下端部の内周側に突出する。
【0060】
一方、外側アジャスタ2は、下端部の内周に凹部たる環状溝2dを有し、この環状溝2dに鋼球Sの外側部を臨在させる。
【0061】
それゆえ、位置決め手段を構成する鋼球Sは、内側アジャスタ3の外側アジャスタ2からの下方への抜け落ちを阻止すると共に、透孔3cにおける回転の際の抵抗を小さくし、また、外側アジャスタ2における環状溝2dにおける回転の際の抵抗を小さくし、その結果、内側アジャスタ3の外側アジャスタ2内での円滑な回動を実現可能にする。
【0062】
ところで、上記したところ、すなわち、図1に示すところでは、外側アジャスタ2の内周に形成の内側段部2aに内側アジャスタ3の外周に形成の外側段部3aが当接されることで、外側アジャスタ2に対する内側アジャスタ3の上方への抜け出しが阻止されるとした。
【0063】
しかしながら、この発明のアジャスタ構造にあっては、上記の位置決め手段を有してなるから、内側アジャスタ3の下端部の透孔3cに配設される鋼球Sが外側部を外側アジャスタ2の下端部の環状溝2dに臨在させる限りには、内側アジャスタ3の外側アジャスタ2に対する外側アジャスタ2の軸線方向への移動、つまり、外側アジャスタ2に対する内側アジャスタ3の下方への抜け落ちが阻止されるのはもちろんのこと、外側アジャスタ2に対する内側アジャスタ3の上方への抜け出しも阻止される。
【0064】
このことからすると、図1に示す実施形態では、外側アジャスタ2が有する内側段部2aに内側アジャスタ3が有する外側段部3aが当接されることで、外側アジャスタ2に対する内側アジャスタ3の上方への抜け出しが阻止されるとしたが、上記の位置決め手段を有する限りには、図3に示すように、内側アジャスタ3が外側段部3aを有せずして有頭筒状に形成される一方で、外側アジャスタ2が内側段部2aを有せずして単純な筒状に形成されても良いことになる。
【0065】
そして、この図3に示す実施形態による場合には、外側アジャスタ2および内側アジャスタ3がそれぞれ段部を有しないから、各側アジャスタ2,3についての部品製作の上で有利になるのはもちろんのこと、両者の組み合わせ、すなわち、アジャスタ構造の組立作業が容易になる点で有利となる。
【0066】
ちなみに、位置決め手段を構成する鋼球Sが透孔3cにいたずらなガタなく配設され、また、この鋼球Sの外側部が環状溝2dにいたずらなガタなく臨在されることで、外側アジャスタ2と内側アジャスタ3との間におけるいたずらなガタ発生を危惧しなくて済む。
【0067】
また、上記した位置決め手段にあっては、結果的に内側アジャスタ3と連結アジャスタ6とを連結するのにあって、図4に示す前記した特許文献1に開示の提案のように内側アジャスタ3の筒部に縦長の割り類を形成する場合に比較して、内側アジャスタ3の下端部に透孔2dを形成するのみで足りるから、内側アジャスタ3における機械的強度を保障し易くなる。
【0068】
また、連結アジャスタ6にあっても、図4に示す前記した特許文献1に開示の提案のように上端部に上記の縦長の割り類に案内される頭部を形成する場合に比較して、部品形成が容易になる点で有利となる。
【0069】
一方、連結アジャスタ6は、ロッド状体からなり、上端側部が内側アジャスタ3の筒部の内側、すなわち、空部3dにいわゆるガタなくして出没可能に挿通されるとし、上記の位置決め手段を構成する鋼球Sの内側部を臨在させる縦溝6a(図1参照)を有してなる。
【0070】
そして、この連結アジャスタ6は、下端にコントロールロッド7の上端を当接させながら下端部を後述するホルダ部材9の下端部9bにディテント機構D(図1参照)の配在下に螺着させている。
【0071】
ちなみに、ディテント機構Dは、ホルダ部材9の下端部9bに形成の横穴(符示せず)に収装される鋼球S1と、同じく横穴に収装されながら鋼球S1を連結アジャスタ6の下端部における外周に形成の縦溝からなる嵌合部(符示せず)に向けて附勢するバネS2とを有し、嵌合部に鋼球S1の内側部が臨在される。
【0072】
そして、内側アジャスタ3は、結果的に、ディテント機構Dを介してホルダ部材9における下端部9bに連結されるから、外側アジャスタ2の回動時に外側アジャスタ2と連れ運動せず、このとき、外側アジャスタ2は、環状溝2dで鋼球Sを転動させる。
【0073】
それゆえ、連結アジャスタ6は、内側アジャスタ3の回動で位置決め手段を構成する鋼球Sを介して回動すると共にホルダ部材9の下端部9bに対して回動しながら上下動し、コントロールロッド7を昇降させ、コントロールロッド7の昇降で、図示しないが、たとえば、ロッド体8の下端部に連設されているピストン部に配設の減衰バルブを迂回するバイパス路における作動油の通過流量の多少を調整し、フロントフォークの伸縮作動時における減衰作用を変更し得る。
【0074】
そして、この内側アジャスタ3を回動するとき、外側アジャスタ2が連れ運動で回動しないのは、外側アジャスタ2の回転トルクが内側アジャスタ3の回転トルクより大きくなるからであり、このとき、位置決め手段を構成する鋼球Sの外側部を臨在させる凹部が外側アジャスタ2の内周に形成の環状溝2dからなるから、鋼球Sがこの環状溝2dを転動しながら移動することになり、内側アジャスタ3の回動を阻害しない。
【0075】
上記したところでは、位置決め手段を構成する連結部材が鋼球Sからなるが、この鋼球Sの機能するところ、つまり、連結部材の機能するところを鑑みると、これが鋼球Sに代えて、図示しないが、両端が丸みを帯びるピン状体からなるとしても良く、また、材質としては、アジャスタ操作力などに耐えられるのであれば、任意に選択されて良い。
【0076】
また、上記したところでは、連結アジャスタ6が横断面を円形にするロッド状体からなるとしたが、内側アジャスタ3との関係からすれば、つまり、位置決め手段が言わば分離されて構成されるとすると、図示しないが、連結アジャスタ6が四角棒あるいは六角棒からなり、空部3dが四角穴あるいは六角穴からなるとしても良く、さらには、内側アジャスタ3が空部3dを有せずして割りを有する態様に形成され、この割り内にコントロールロッド7の平板状に形成の上端部が挿し込まれるとしても良い。
【0077】
ところで、ホルダ部材9は、図示するところでは、前記したキャップ11の一部をなすもので、したがって、前記した特許文献1に開示の提案(図3参照)のように、キャップ11と一体に形成されても良い。
【0078】
ただ、このホルダ部材9がキャップ11と一体とされる場合には、前記したスナップリング21の配設作業が面倒になると共に、バネ受4の形状を工夫すること、および、そのバネ受4の配設作業が面倒になる不具合を招来する危惧がある。
【0079】
それに対して、この発明にあっては、ホルダ部材9がキャップ11と分離形成されるから、スナップリング21の配設作業を簡単にし、バネ受4の形状をいたずらに工夫しなくて済む上に、そのバネ受4の配設作業が簡単になる。
【0080】
そして、ホルダ部材9は、上端部たる連結部9aと、下端部9bと、この下端部9bと連結部9aの間となる中間部9cとを有し、連結部9aが筒状に形成され、中間部9cが筒状に形成されながら二股状に形成される。
【0081】
また、このホルダ部材9にあって、連結部9aは、図1に示すように、前記したキャップ11のガイド部11dの外周に螺着され、下端部9bは、ロッド体8の上端部をロックナット81の併用下に螺着させる。
【0082】
ところで、このホルダ部材9にあって、中間部9cは、二股状に形成されるが、その具体的な形状を説明すると、図1に示すように、まず、この中間部9cは、連結アジャスタ6の挿通を許容し、また、バネ受4を配設するのに充分となる空間を有するように筒状に形成される。
【0083】
このとき、この中間部9cは、その外周が前記した筒状に形成のスペーサ5の内周に言わばいたずらな隙間を出現させることなく近隣し、スペーサ5を径方向にガタつかせない態勢に維持する。
【0084】
そして、ホルダ部材9にあって、中間部9cは、直径方向で対向することになる一対の欠落面からなる垂直面(符示せず)を有する二面幅構造に形成され、かつ、直径方向に貫通する連通孔(符示せず)が垂直面に開口してなる。
【0085】
それゆえ、このホルダ部材9にあっては、これが前記したキャップ11に連結される前にバネ受4を中間部9cの内側に収装することが可能になり、言わばバネ受構造を具現化するための組立作業を容易にする。
【0086】
一方、前記したバネ受4は、図示するところでは、環状に形成されてホルダ部材9における中間部9cの内側に収装される本体部4aと、この本体部4aにおける直径方向の外周側端部に連設されながらホルダ部材9における中間部9cの外方に突出してスペーサ5の上端を当接させる一対の鍔部4bとを有してなる。
【0087】
それゆえ、このバネ受4にあっては、仮にキャップ11とホルダ部材9とが一体形成されているとすれば、ホルダ部材9の中間部7cに開口している連通孔にこれを導通していわゆる組み立てられることになるが、この場合に、その作業が容易でないのが前記した特許文献1に開示の提案であった。
【0088】
それに対して、この発明では、キャップ11とホルダ部材9とが言わば分割態様に形成されるから、前記したように、上記のバネ受4をその所定位置たるホルダ部材9における中間部9cの内側に配設する作業を極めて容易に実践し得る。
【0089】
それゆえ、以上のように形成されたこの発明のアジャスタ構造にあっては、外側アジャスタ2の回動操作で懸架バネにおける上端を上下動させてこの懸架バネにおけるバネ力の高低調整を可能にして、フロントフォークにおいて二輪車の前輪側の車高を高低調整し得る。
【0090】
ちなみに、この発明のアジャスタ構造にあっては、外側アジャスタ2の回動操作による懸架バネの上端の上下動時に、内側アジャスタ3が連れ運動せず、したがって、ロッド体8内を挿通するコントロールロッド7が昇降せずして、ダンパによる設定通りの減衰力作用の具現化が可能になる。
【0091】
また、この発明のアジャスタ構造にあっては、内側アジャスタ3の回動操作による連結アジャスタ6およびコントロールロッド7の上下動時に、ロッド体8内を挿通するコントロールロッド7が昇降し、たとえば、ロッド体8の下端部に連設されるピストン部に配設の減衰バルブを迂回するバイパス路における作動油の通過流量の多少を調整し、フロントフォークの伸縮作動時における減衰作用の変更が可能になる。
【0092】
そして、この発明のアジャスタ構造にあっては、外側アジャスタ2を有するキャップ11と、ロッド体8を螺着させるホルダ部材9とが分離形成されるから、それぞれについての加工が容易になると共に、キャップ11への外側アジャスタ2の装着などのいわゆる組立が容易になる。
【0093】
そしてまた、この発明のアジャスタ構造にあっては、ホルダ部材9が下端部9bの軸芯部にダンパを構成するロッド体8の上端部を螺着させると共にこのホルダ部材9における連結部9aと下端部9bの間となる中間部9cが二股状に形成されて内側にバネ受4を上下動可能に収装させるから、中間部9cの内側へのバネ受4の収装が容易になり、組立性が改善される。
【0094】
さらに、図示するフロントフォークにあっては、キャップ11がホルダ部材9を連結させるガイド部11dの歪みを許容する、すなわち、車体側チューブ1の上端部1aに連結されるキャップ11における連結部11cに対する撓みを許容するから、ホルダ部材9に連結されるロッド体8からの曲げ力を吸収することが可能になり、ダンパにおける齧り現象の発現が回避されて、ダンパにおける作動性能が保障される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
ガタ発生の危惧なくして内側アジャスタの外側アジャスタに対する位置決めを可能にするアジャスタ構造であって、二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークの上端部への具現化に向く。
【符号の説明】
【0096】
1 車体側チューブ
2 外側アジャスタ
2a 内側段部
2c 外側螺条
2d 凹部たる環状溝
3 内側アジャスタ
3a 外側段部
3c 透孔
3d 空部
4 バネ受
4a 本体部
4b 鍔部
5 スペーサ
6 連結アジャスタ
6a 縦溝
7 コントロールロッド
8 ロッド体
9 ホルダ部材
9a 連結部
9b 下端部
9c 中間部
11 キャップ
11a テーパ部
11b 蓋部
11c 連結部
11d ガイド部
11e 空間部
12,22,32 シール
21 スナップリング
81 ロックナット
C 車体側チューブの軸芯線
D ディテント機構
S 連結部材たる鋼球
S1 鋼球
S2 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブの上端開口を閉塞するキャップの軸芯部に上下動可能とされながら車体側チューブの軸芯線を中心線にして回動可能に配設される外側アジャスタを有すると共に、この外側アジャスタの内側に配設されて同じく車体側チューブの軸芯線を中心線にして回動可能とされる内側アジャスタを有してなるアジャスタ構造において、内側アジャスタと外側アジャスタとの間に設けられる位置決め手段が内側アジャスタに形成される透孔と、外側アジャスタに形成されて上記の透孔に照準される凹部と、上記の透孔に配設されて外側部が上記の凹部に臨在される連結部材とからなり、内側アジャスタの外側アジャスタに対する外側アジャスタの軸線方向への移動が阻止されてなることを特徴とするアジャスタ構造。
【請求項2】
内側アジャスタが有頭筒状に形成されて下端側部たる筒部の下端部に肉厚を径方向に貫通する透孔を有し、この透孔に外周側から照合されて環状溝からなる凹部を外側アジャスタの下端部の内周に設け、この凹部に上記の透孔に配設される鋼球あるいはピン状体からなる連結部材の外側部を臨在させてなる請求項1に記載のアジャスタ構造。
【請求項3】
内側アジャスタが有頭筒状に形成されて下端側部たる筒部の内側にロッド状に形成されながら下端にコントロールロッドを直列させる連結アジャスタの上端側部を出没可能に挿通させ、連結アジャスタの上端側部に位置決め手段を構成する連結部材の内側部を臨在させる縦溝を有すると共に、連結アジャスタがディテント機構の配設下にキャップ側に下端部を昇降可能に螺合させてなる請求項1または請求項2に記載のアジャスタ構造。
【請求項4】
外側アジャスタが筒状に形成されて下端部の外周に外側螺条を有し、この外側螺条をキャップの内周に形成の内側螺条に螺合させて、キャップに対して回動および上下動可能とされてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のアジャスタ構造。
【請求項5】
外側アジャスタが下端に下方の懸架バネに上方から直列するスペーサの上端を係止するバネ受けを当接させてなる請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載のアジャスタ構造。
【請求項6】
内側アジャスタが有頭筒状に形成されて上端側部たる頭部の外周に外側段部を有し、この外側段部を外側アジャスタの上端部の内周に形成の内側段部に当接させてこの内側アジャスタの外側アジャスタからの上方への抜け出しが阻止されてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載のアジャスタ構造。
【請求項7】
外側アジャスタがキャップの軸芯部に螺合されながら下端部の外周に嵌装のスナップリングをキャップの軸芯部の内側に係止させてキャップからの上方への抜け出しが阻止されてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5または請求項6に記載のアジャスタ構造。
【請求項8】
キャップがフランジ状に形成の蓋部と、この蓋部の外周側端部に連設されて車体側チューブの上端部の内周に連結される筒状に形成の連結部と、蓋部の内周側端部に連設されて外側アジャスタを回動可能および上下動可能に螺着させる筒状に形成のガイド部とを有すると共にガイド部と連結部との間を筒状の空間部にしながらガイド部の外周にホルダ部材の上端部を連結させ、このホルダ部材が下端部の軸芯部にダンパを構成するロッド体の上端部を螺着させると共にこのホルダ部材における上端部と下端部の間となる中間部が二股状に形成されて内側にバネ受を上下動可能に配設させてなる請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5,請求項6または請求項7に記載のアジャスタ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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