説明

アジュバントウィルス粒子

本発明は、免疫増強又はアジュバント特性を有する、免疫原‐キャリアに関する。特に、該免疫原‐キャリアは、ポテックスウィルスファミリー、更には、パパイヤモザイクウィルスに由来するウィルス様粒子(VLP)である。組換え技術によって製造されるVLPはそれ自身の蛋白質と蛋白免疫原との融合体である。このVLPと、ウィルス、細菌又は寄生虫からの蛋白質抽出物はワクチンとして使用することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫原を含み、且つ免疫増強力又はアジュバント活性を有するウィルス粒子に関する。本発明は特に、組換えウィルス粒子及びこれら粒子によってヒト又は動物における免疫応答を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは感染症疾患に対して戦う最も効果的な方法である。新たなウィルス疾患(例えば、肝炎Cウィルス、ヒト免疫不全症ウィルス)の出現、及び病原体による抗生物質に対する抵抗性(腸チフス:Salmonella typhii)は憂慮すべきことである。従って、ワクチンはこれら疾患を抑える助けとなる効果的な代替策になる。
【0003】
過去15年以上に亘って、遺伝子工学によって、防御的免疫応答に関与する蛋白質断片の正確な同定をすることが可能となった。従って、新たなワクチン戦略が出現した。適当な免疫原ペプチドで動物を免疫することによって、疾患を抑えることが可能な中和抗体の生産が可能となった。これら免疫原ペプチドの異種系における発現によってサブユニットワクチンの基礎が提供された。
【0004】
蛋白質に由来する化学合成オリゴペプチドは該蛋白質に対する抗体の産生を刺激することがこれまでに示されてきたが、該ペプチド自体は一般的にワクチンとして機能するには免疫原性が不十分であると見られてきた。従って、ペプチド配列が巨大分子構造内に組み立てることが可能なキャリア分子に融合したエピトープ提示系の開発に深い関心がある。
【0005】
宿主に抗原を投与するときに、アジュバントのような免疫増強剤(immunopotentiator)を使用することによって、特異的免疫は増強される。免疫応答は免疫系の様々な細胞によって媒介される。2つの型の免疫応答がある。抗体により媒介される体液性免疫、及び、主に細胞障害性Tリンパ球によって媒介される細胞性免疫である。抗原提示細胞(APC:Antigen
Presenting Cells)は抗原を加工しB細胞及びT細胞の両方に提示する。B細胞は活性化の結果、特異抗体を分泌し、T細胞は体液応答に対するヘルパー細胞になるか、又は、障害性細胞となって抗原を直接攻撃する。アジュバントはこれまでこれら免疫応答を増大させるものとされてきた。
【0006】
抗原の最初の提示によって、IgM及びIgG抗体の両方が誘発され、第一次応答を形成する。しかしながら抗体産生は時間経過と共に減少する。IgG抗体の産生を主に含む第二次応答は、二次又は時間的により遅い、抗原の提示によって開始される.しかしながら、宿主を単に抗原でプライムすることによって、第二次応答、及び一次応答でさえ保証されるものではない。
【0007】
抗原投与に際してしばしが遭遇する困難なことは、免疫系がどの程度応答するかということである。或る抗原は特に免疫原性が高い訳ではないので、投与に際して、それらは弱い一次免疫を引き起こすか、又は応答を全く起こさない。このような場合には、免疫系は第二次の感作に応答せず、例えば、宿主はその抗原による免疫によって防ごうとした疾患又は病状に苦しむことになる。
【0008】
かかる状況においては、生理学的応答調節因子(physiological response modulator:PRM)を与えることが普通である。PRMは一般的に、免疫増強化合物(immunopotentiating
compound)と定義される。それは百日咳菌又はざ瘡菌のような細菌に由来するものであり得る。PRMはまた、ポリヌクレオチドのような化学物質、胸腺ホルモンのような生理学的活性分子、及びアジュバントを含むものである。
【0009】
アジュバントとは、抗原と共に投与されると免疫系応答を増強し、より高い力価の抗体を産生し、宿主応答を引き延ばす化合物である。一般的に使用されるアジュバントには、油中水エマルジョンから成るフロイント不完全アジュバント、これにヒト結核菌及びミョウバンを添加したフロイント完全アジュバントがある。しかしながら、これらの物質をヒトに使用する際の困難なこととして、それらは毒性があるか、又は、宿主においてその注射部位に傷害を発生させる可能性があるということである。
【0010】
他の方法がカワムラ及びベルゾフスキーによりジャーナル・イムノロジー、136:58 (1986)に記載されている。この方法によれば、或るB細胞に存在する免疫グロブリンに対して反応性であるような、抗Ig抗体をフェリチン及びミオグロビンと共役させ、フロイント不完全アジュバントと共にマウスに投与する。該混合物の免疫原性は改良されたが、アジュバントの添加なしには混合物の免疫原性は示されなかった。更に、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント及びモンタナイド(Mantanide)のようなアジュバントは抗原に対する免疫応答を非常に増強することが出来る一方で、それらには幾つかの欠点がある。注射可能な形態で抗原と共に使用する際に、しばしば注射部位に大きな傷害が形成される為に、ヒト、ペット又は食肉用家畜に対してこれらを使用することは望ましくないものである。更に、これらのアジュバントは経口又は経腸的に投与されると免疫増強剤として機能しない。
【0011】
当該技術分野において、様々な性質の異なる免疫原又は抗原のキャリアが比較的容易に遺伝子工学的に作成されてきた。植物ウィルス系は、植物において産生される系であり、本用途に容易に採用することが出来る。カウピーモザイクウィルス(CPMV)、タバコモザイクウイルスX(TMVX)及びアルファルファモザイクウィルス(AIMV)は目的のエピトープを提示するために修飾されることが知られている。他の植物ウィルスベクターとして、ポテックスウィルス(potex virus)の一員であるジャガイモウィルスX(PVX)が完全蛋白質外被の運搬を許容することが知られている。更に、米国特許第6,232,099号、第6,042,832号、国際特許出願公開第WO97/39134, WO02/04007, WO01/66778, WO02/00169, 及び欧州特許出願第1167530号には、内在性蛋白質と融合された外来性蛋白質を運搬するウィルス様粒子の様々な変形が記載されている。しかしながら、これら文献のいずれにも、これらの粒子が免疫増強作用又はアジュバント特性を有することは述べられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の当該技術分野における状況に鑑みるに、実際にはなされているようなアジュバントの使用及び二次ワクチンを避けて、ヒト及び動物の強力な免疫を可能にするような、化合物及びキャリア粒子に対する大きな必要性が存在しているものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの目的は、ウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る、免疫増強特性を有する免疫原−キャリア複合体を提供することであり、それは該蛋白質又はその断片に対する免疫応答を誘発する組成物の調製に用いることが出来る。
【0014】
本発明の別の目的は、ワクチンとして使用できる、VLP、及び、ウィルス、細菌又は寄生虫由来の蛋白質又は抽出物を含む組成物を提供することである。
【0015】
本発明によれば、ヒト又は動物における免疫応答を増強する方法であって、該ヒト又は動物にウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る免疫原キャリアを投与するか、又は、VLPに直接結合していない抗原に付随して該VLP若しくはその断片を投与することから成る、前記方法も提供される。
【0016】
本発明は更に、蛋白質と融合した少なくとも一つの免疫原を担持するVLPから成る免疫原−キャリア複合体をコードするポリヌクレオチド、又は、該VLPの断片若しくはVLPのみから成る免疫原−キャリア複合体をコードするポリヌクレオチドであって、該免疫原−キャリア複合体が植物細胞、動物細胞又は微生物内で発現したときに集合する能力を有する、前記ポリヌクレオチドに関する。
【0017】
本発明は、又、パパイヤモザイクウィルスのアジュバントとしての使用を提供する。
【0018】
本発明のために、以下に用語を定義する。
【0019】
「キメラ蛋白質」という表現は、通常は別個の蛋白質をコードする二つ以上の遺伝子が、自然に、又はヒトの介在によって組換えられ、これら二つの蛋白質の夫々の全て又は部分の結合である蛋白質をコードするようになったときに使用される。
【0020】
「融合キャプシド蛋白質」という表現は、該融合における遺伝子の一つが植物ウィルスキャプシド蛋白質をコードするような融合蛋白質を意味する。
【0021】
本明細書中における「防御免疫」という表現は、哺乳類、鳥、又は魚のような動物が病原体の抗原、該病原体との接触した後に罹るであろう疾患又は死亡に暴露された場合に、それらに抵抗(症状の遅延発生、又は症状の重篤度の軽減)する能力を意味する。防御免疫は、粘膜、体液性又は細胞性免疫の一つ又はそれ以上の機構によって達成される。粘膜免疫は主に、呼吸器管、胃腸器官、及び生殖器官の表面上のIgA(sIGA)抗体の分泌の結果である。sIGA抗体は抗原提示細胞、B及びTリンパ球に媒介される一連の事象の結果生成されるものであり、それは生体の粘膜系組織におけるBリンパ球によるsIGA抗体の産生を引き起こす。粘膜免疫は経口ワクチンによって刺激することが可能である。防御免疫の最初の結果は病原体の破壊又はそれ自身の複製能の阻害である。
【0022】
本明細書中における「体液性免疫」という表現は、血清中におけるIgG抗体及びIgM抗体の結果を意味する。
【0023】
本明細書中における「細胞性免疫」という表現は、細胞障害性Tリンパ球、又は、マクロファージ及びTリンパ球が関与する遅延型過敏症、抗体を必要としないT細胞が関与する他の機構を介して達成されるものを意味する。
【0024】
「組換えウィルス」はウィルスの遺伝的物質が他の遺伝的物質と結合したウィルスを意味する。
【0025】
本明細書中における「ポリペプチド」又は「ぺプチド」という用語は、少なくとも4つのアミノ酸がペプチド結合により結合した分子を意味する。
【0026】
本明細書中における「ウィルス核酸」という用語は、ウィルスのゲノム、又は、該ゲノムの塩基配列にに相補的な核酸分子を意味する。ウィルスRNAに相補的なDNA分子もウィルス核酸と看做される。ウィルスDNAに相補的なRNA分子もウィルス核酸と看做される。
【0027】
本明細書中における「ウィルス様粒子(VLP)」という用語は、ウィルス粒子に類似する物理的外観を有する自己集合性粒子であり、偽ウィルスも含む。ウィルス様粒子は野生型ウィルスの或る遺伝子を欠いているか又はその機能不全のコピー所有しており、その結果、該ウィルス様粒子は、例えば、複製及び/又は細胞‐細胞運動のような、該野生型ウィルスに特徴的なある機能がないことがある。
【0028】
本明細書中における「ワクチン」という用語は、融合蛋白質、該蛋白質が部分であるその如何なる粒子、又は、植物物質のような該蛋白質がその部分である如何なる調製を意味する。
【0029】
本明細書中における「免疫増強剤(immunopotentiator)」という用語は、抗原と混合されたときに、免疫原性又は抗原性を増強し、優れた免疫応答を提供する物質を意味する。それは、マクロファージ及び他の抗原提示細胞上の共起刺激分子(costimulator)の発現を増強させることが可能であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明によれば、内因性ウィルス蛋白質と融合した免疫原を担持するウィルス様粒子(VLP)が提供され、免疫増強が可能であるか、又は、アジュバント効果を有する新たな型の免疫原−キャリアを形成する。
【0031】
本発明の一具体例において、免疫原又はハプテンと遺伝的に結合したときに、該複合体が非経口的、経腸的、又は経口的に投与されたにも拘らず、該免疫原又はハプテンに対する宿主の免疫応答を増強することが出来るキャリアのクラスを提供する。更に、それらを使用してもその注射部位の大きな傷害を形成しない。
【0032】
マクロファージ、Bリンパ球、及び樹状細胞のようなアクセサリー細胞はT細胞依存性免疫応答の誘発に必須である。アクセサリー細胞はMHC−制限T細胞に抗原を提示し、膜関連で分泌する共起刺激分子を産生し、これがTリンパ球の増殖及び分化を増加させる。従って、有能なアクセサリー細胞が存在することによってT細胞依存性免疫応答が刺激され、それらがない場合には欠陥のある応答につながる。このような抗原提示細胞(APC)によってセントされた(sented)休止マクロファージ及び天然の未刺激なBリンパ球は天然のCD4+T細胞を刺激しないかも知れず、T細胞寛容を誘発さえする。対照的に、樹状細胞及び活性化マクロファージ及びB細胞は高レベルのAPC同様に共起刺激分子を発現する。本発明の免疫原キャリアの作用機序は、マクロファージ又は他のAPC上の共起刺激分子の発現を増加させることである。これによって、免疫原又は蛋白質抗原を本発明の免疫原キャリアと共に投与することによって、アジュバントとして同時に作用して、細胞媒介免疫及びT細胞依存性抗体産生を促進する。免疫原は本発明の免疫原キャリアと結合させて投与したときに、全身免疫を生じさせるの最も効果的である。
【0033】
第一の具体例において、本発明は、キャリアであるウィルス様粒子(VLP)に結合した免疫原を含む複合体であり、該複合体が宿主内に投与されたときに、該キャリア分子は宿主の該免疫原に対する免疫応答を増強させるようなものを提供する。ここで、該免疫原は抗原又はハプテンを含むことが出来、キャリア分子はウィルスの完全粒子を含むことが出来る。特に本発明のウィルスとしては植物ウィルスが好適である。
【0034】
B細胞の良好な応答を得る一つの方法は、抗原を組織化された様式で提示することである。繰り返し配置されたエピトープはB細胞受容体に効果的に架橋して迅速なY細胞非依存性IgM応答を誘発し、その後、IgG応答が続くことが示されている。従って、エピトープの免疫原性を増加させて免疫系の認識及び提示を増加する良い戦略は、PapMVのような植物ウィルスの表面上のような組織化された様式で免疫ドミナントなエピトープを発現することである。特に、PapMVは系統的に離れた抗原であり、哺乳動物系には異種であり、分子的に非常に複雑であり、そして高分子量を有する組織化された構造であるので、それは良いアジュバント及びキャリアとしての幾つかの要件を満たす。
【0035】
驚くべきことに、本発明者により、結晶及び繰り返し構造は本来の免疫系によって認識されるのみならず、更に、免疫された宿主の免疫系に対するアジュバントとしての効果も有していることが判明した。
【0036】
本発明の一具体例では、良性の多数コピーの数棒状ウィルス、好ましくはパパイヤモザイクウィルス(PapMV)のような植物ウィルスを使用することによって、ウィルス外被蛋白質サブユニットに結合した免疫原を製造する方法が提供される。該ウィルス粒子は集合すると、一つのビリオン当り1000以上の同一な融合蛋白質(これは典型的には外被―外来性蛋白質の融合分子)の長い螺旋状アレイを含む。一般的に、免疫原部分は該ウィルス粒子の外表面上に提示される。
【0037】
本発明によれば、植物及び動物ウィルスのキャプシド蛋白質の構造はこのような条件を満たしているので、病原体又はワクチンーアジュバントを製造するための他の源に由来する免疫原性ペプチドを提示するように遺伝子工学的に操作される。これに限定されるものではないが、パパイヤモザイクウィルス(PapMV)の外被(コート)蛋白質はこのような免疫原―キャリア増強剤を開発するための優れた候補である。このウィルスは結晶質棒状形態を有し、多数の繰り返し(ビリオン当り同じサブユニットが1200コピー)を有する。PapMVを用いた最近の免疫試験によれば、このウィルスは非常に強い免疫応答をマウスで誘発し、ワクチン開発の優れたベクターであることが示された。この免疫原キャリアウィルスは、例えば、ポーリン蛋白質由来の腸チフス菌(Salmonella typhii)ペプチドのようなHCV表面エンベロープ蛋白質の幾つかの免疫原ペプチド、及びインシュリンのペプチドα9−23と共に遺伝子工学的に処理される。VLPに担われる融合外被蛋白質の集合は、アジュバントマてゃ免疫増強特性を有する免疫原−キャリアと定義される。
【0038】
本発明によれば、所与の抗原に対する免疫応答を免疫増強又は促進(boost)させることが可能である。特に、小分子はインビボ系において抗体を引き起こす能力において、免疫原としてしばしば弱い作用しか示さないことが知られている。本発明のそれ自体抗原性である免疫原−キャリアウィルスに結合させれば、このような小分子に対する抗体応答も改善される。本発明の系の免疫原−キャリアに結合した小分子はハプテン又は抗原と呼ぶことが出来、その大きさは小さいものから非常に大きいものまで様々である。健康保健分野において興味のあるこの組み合わせの一例として、それ自身は抗原性がない所定のアミノ酸を含む肝炎B表面抗原の小部分を、VLP、キーホールリンペット免疫原−キャリアに結合させ、得られた共役体は、インビボの系において、VLPの天然表面抗原と交叉反応をし、且つ肝炎ウィルス全体と強い交叉反応をすることが出来る抗体を引き起こす。この免疫原−キャリア系はハプテン又は抗原がコードする疾患に対する有効なワクチンの基礎となり得るものである。
【0039】
本発明において、以下に記載されるような新規な免疫原−キャリア複合体が提供される。該複合体は、従来の組換えDNA技術によって製造され、単価又は多価の免疫原性ワクチンを提供するに有用であり、上記の免疫原−キャリア概念を採用するものである。
【0040】
免疫原がキャリアVLPに結合して免疫原−キャリア複合体を形成し、宿主内において免疫応答を誘起するのに使用することが出来る。免疫原はT細胞、B細胞、NK細胞及びマクロファージの表面構造に特異的であるか又はそれに認識されることが出来るものであるが、クラスI又はIIAPC関連細胞表面構造に対しては特異的ではなく又それに認識されることもない。
【0041】
キャリアVLPが結合する免疫原はペプチド、ハプテン、炭水化物、蛋白質、核酸、及び、ウィルス、細菌、寄生虫及びその他の微生物全体の一部を含む。選ばれた免疫原に拘らず、それはキャリアVLPに、抗原性物質として宿主の免疫系に免疫原が認識されることを干渉しないような様式で結合されなければならない。
【0042】
免疫原−キャリア複合体は宿主において免疫応答を起こすワクチンとして使用することが可能である。該複合体は最初に、免疫応答を開始させるために適当な投与量で与えられえる。この後に、該複合体又は免疫原単独による増強(ブースティング:boosting)が行われる。この方法の変法として、一つ以上の形態の免疫原が一つ以上のキャリアVLPに結合している一つ以上の免疫原−キャリア複合体を形成し、複数種のこのような複合体を投与するものがある。
【0043】
本発明の免疫原−キャリア複合体を投与する目的は、宿主に該抗原に対する防御を賦与し、望ましくない副作用を有するアジュバントの使用を避けることである。
【0044】
一具体例において、抗原はハプテンのような小さな免疫原でも良く、ウィルスの一部のように比較的大きいものでも良い。抗原の大きさ及び型は本発明の実施において重要なことではない。宿主においてそれに対する免疫応答が望まれる任意の抗原を使用することが出来る。しかしながら、本発明は、小さな弱い免疫原性のハプテンに特に有用である。
【0045】
一種又は複数種の免疫原−キャリア複合体が形成されると、それらを宿主に投与することが出来る。この投与レジメは一般的に受け入れられている任意のワクチンプログラムと異なるものではない。効果的な免疫応答を開始させるに十分な量で単独投与が行なうことができる。又は、最初の複合体投与後に、抗原単独又は一つ以上の複合体を使用するブースティングからなる他のレジメを使用することも出来る。同様に、もし抗体力価が許容レベル未満である場合には、最初の投与後に続く複合体又は抗原による複数回のブースティングを行うことも可能である。
【0046】
本発明の更なる具体例は、VLPが、蛋白質又はその自由なサブユニットの集合に比べてより免疫原性が高い規則的な多価及び真の螺旋状構造を有しているので、コードする核酸から容易に自己集合することができる。更に、該粒子はより安定性が高いために、免疫系に対して免疫原部分を長期間に亘り暴露することが出来る。
【0047】
免疫原が結合するウィルスの部分は、好ましくは、VLPの外表面上に位置しているものである。即ち、該粒子がPapMV由来である場合には、キャリア部分はアミノ若しくはカルボキシ末端に位置するか、又はCPの外表面に位置する内部ループ内に挿入される。その結果、CPの別の位置上の第二の部分を有する粒子の集合に比べてより優れた集合が得られ、該粒子表面上の第二の部分の免疫認識を増加することが出来る。
【0048】
本発明の一具体例において、植物ウィルスベクターを使用するペプチドワクチンの開発によって、安全な条件下でワクチンを大量に製造することが可能となった。組換えPapMVを用いて新鮮な感染葉1kgあたり組換えウィルス1gが期待される。
【0049】
本発明の別の具体例では、14μgのペプチドに相当する、200μgの組換えウィルス又は免疫原−キャリアを投与することにより免疫が十分になされる可能性がある。従って、感染パパイヤの1ヘクタールは、500万人の患者へのワクチンに十分であり得る。更に、植物を成長させるのは、安価で効果的である。農業には複雑な装置は必要としないので、バイオマスを生産するのに一番安価方法である。
【0050】
ウィルス又は偽ウィルスは宿主細胞内で集合して、核酸及び融合蛋白質を含む感染性ウィルス粒子を産生する。これによって、感染性ウィルス又は偽ウィルス粒子による隣接する細胞への感染及び融合蛋白質の発現が起こる。
【0051】
宿主細胞は、最初に粒子形態(即ち、核酸及び蛋白質を含む集合棒状体(rod))、又は、最初の感染に使用するウィルス核酸が複製し、キメラ蛋白質を有する完全なウィルス粒子を生産することが出来れば核酸形態(即ち、ウィルスRNAのようなRNA、cDNA又はcDNAから調製される流出転写物)のウィルス又は偽ウィルスにより感染させることが出来る。
【0052】
融合蛋白質の第一の(ウィルス)部分は、任意に遺伝子工学的に修飾された変型(欠失、挿入、アミノ酸置換など)を含むウィルス由来の任意の蛋白質、ポリペプチド又はその一部であり得る。或る具体例では、第一の部分は、ウィルス外被(コート)蛋白質(又はその遺伝子工学的に修飾された変型)由来である。パパイヤモザイクウィルスの外被蛋白質がこの目的に適している。融合蛋白質は他の融合蛋白質又は野生型外被蛋白質と集合(会合)することによって免疫原−キャリアビリオンとなることが出来る。
【0053】
本発明の好適態様では、粒子はポチウィルス(potyvirus)、より好適にはPapMVのようなポテックスウィルス(potexvirus)由来であり、このような具体例では、第二の部分は外被蛋白質のC末端、又はその隣接部に位置する。PapMVにおいては外被蛋白質のC末端はビリオンの外側における領域を形成する。
【0054】
好ましくは、免疫原部分をコードするポリヌクレオチドはウィルス部分をコードするポリヌクレオチドの末端又はその隣接部に挿入し、翻訳されたときに、融合蛋白質がその一端にウィルス部分をその反対に免疫原部分を有するようにする。ウィルス部分が全ウィルス外被蛋白質を含む必要はないが、これも別な選択肢ではある。
【0055】
融合蛋白質を発現するように遺伝子工学的に修飾されたウィルス又は偽ウィルス、及び、このようなウィルス又は偽ウィルスに感染した任意の宿主細胞も本発明の更なる態様を構成するものである。
【0056】
好ましくは、ウィルス又は偽ウィルスを複製するために使用される宿主細胞は細菌であり、ウィルスとしては植物ウィルスであるが、植物細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞及び細菌もこのような細胞内で複製可能なウィルスと共に使用することが出来る。該細胞は好ましくは大腸菌のような細菌であり、上記のような他の細菌及び細胞も有用である。細胞は、ウィルス様ペプチドが由来するウィルスの天然宿主細胞であっても良いが、その必要はない。
【0057】
本発明の特定の態様によれば、動物へのワクチンの為に、ペプチドエピトープを安定して長期間提示するために全ウィルス様粒子を使用する。
【0058】
本発明の別の態様によれば、PapMV及びPapMV様粒子が非常に安定であり、室温で容易に保存できる。植物ウィルスは環境において見出される極めて厳しい条件に抵抗して進化してきたので、それらは非常な高温及び悪条件に対して抵抗性がある。これは、アクセスが困難である貧困な国、地域に住む人々にワクチンを届けるために、又は、長期間に亘って診断試験を保存するために、非常に有利な点である。
【0059】
或いは、本明細書に記載したVLPはそれ単独で免疫増強剤又はアジュバントとして使用することができ、ヒト又は動物における免疫応答を増強させることが出来る。アジュバント又は免疫増強VLPはそれに対する免疫応答が誘発される抗原と同時に投与することが好ましい。しかしながら、アジュバントVLPは、必要に応じて、ヒト又は動物である患者に抗原を投与する前又は後に投与することが出来る。
【0060】
本発明を参照して以下の実施例を参照して更に詳しく説明する。該実施例は本発明の範囲を限定するのではなく、本発明を説明するために提供されるものである。
【実施例1】
【0061】
免疫原−キャリアVLPの調製
本明細書中で記載されるパニング法から選択したアフィニティペプチドの結合活性を該ペプチドの多量化(multimerisation)により改善される。多量化はポテックスウィルス(potexvirus)の一種であるパパイヤモザイクウィルス(PapMV)の表面で実施される。PapMVはCPサブユニットの集合により作られる棒状構造を有する。一つのウィルス粒子は1200のサブユニットを有する。選択されたペプチドをPapMVCPと融合させる。融合は、大腸菌発現系から発現、生成されたPapMVCPからのインビトロ集合の後にPapMVCP粒子の表面に該ペプチドを暴露させるために行われる。ウィルスCPの集合によって該ペプチドの多量化が確保され、その結合活性が顕著に改善される。
【0062】
外被(コート)蛋白質:CPの遺伝子はパパイヤモザイクウィルスのCPを用いるインビトロ集合系でクローニングされ開発される(図1)。PapMVのCPは大腸菌で大量に製造され(図2a)、野生型に非常に類似したインビトロのPapMV様粒子で製造される(図2b)。組換えPapMVCPがインビトロでウィルス様粒子において集合することが初めて示された。CPのC末端への幾つかのペプチドの融合がインビトロ集合によって可能となり、その融合によって野生型より幅広くなったウィルス様粒子が生起される(図3)。
【実施例2】
【0063】
免疫原−キャリアVLPの免疫増強効果
ワクチン候補の免疫応答を増加させるために、しばしばアジュバントが使用される。炎症応答の増強により食細胞が注射部位により移動するようになり、それが抗原提示細胞(APC)による抗原提示が改善される結果となる。ミョウバン、乳化物、微粒子及びGM−CSFのようなサイトカインは全てこのようなワクチン候補の免疫応答を増加させるためにこれまで使用されて来た。PapMVがそれ自身で炎症症状を誘発し、追加のアジュバントの必要性をなくす。エアーポーチ(air pouch)モデルを用いて、PapMVがインビボで好炎症(proinflammatory)事象を誘発するか否かを検討した。このモデルにおいて、第0日及び3日に滅菌空気をマウスの舌端下に注射し、第7日に、好炎症剤をエアーポーチ内に注射し、炎症応答を測定した。このモデルは皮下注射部位を緊密に表現するものである。
【0064】
PapMVをマウスのエアーポーチに注射すると約8.5x10個の白血球が集積したのに対して、ビークルを注射したマウス(PBS)には約0.8x10個の白血球が集積した(図4)。好中球(85%)及び単球(15%)がPapMV注射の6時間後にマウスのエアーポーチに集積した。1μgの量のPapMVで白血球の集積を誘発するに十分であるが、100μgPapMVを注射したときに最大の集積が起こった。この集積は強力な免疫増強因子であるLPS1μgの注射で誘発されるもの類似していた。これらの結果は、PapMVが炎症症状を効果的に引き起こすことが可能であることが明瞭に示している。この観察によって、PapMVは免疫系に感知され、我々有機体の防御に関与する細胞のシグナル化及びリクルートを誘発することが明確に示される。PapMVは本来の免疫を通じてシグナル化を誘発するようである。
【0065】
更に、本発明において、PapMVはマウスにおいて強力で長期間に持続する体液性応答を誘発する(図5)。10匹のマウスに3種類の濃度(1,10及び100μg)のPapMVを注射した。PapMVで免疫したBALB/cマウスにおける初期抗体反応が免疫経路に関係なく効果的に誘発された(図5)。高力価が免疫5日後に検出された。初期IgM応答の古典的な曲線が観察された。より多くのウィルスでマウスをブーストしても、20日頃にはIgM応答はなくなった。免疫マウスにおけるIgG応答は古典的動力学に従う。抗PapMVの高力価は免疫12日後に検出され、このウィルスでブーストした後、比例的に増加した。IgGアイソタイプの分析によって、Ab応答の初期(一次)及び二次相の間でIgG2b及びIgG1の産生が優先することが示された。IgG3の力価はab応答の記憶相において増大した。これらのデータから、PapMVマウスにおいて効果的なAb応答を誘発することが出来ることが示された。初期(一次)及び二次の応答が長期間のAb記憶と同様に効果的に誘発された。IgG1が優先的に産生されることは、IL−4の放出が優先されていることを示唆する。IL−4はこの種のIgGのクラススイッチングを有利に行う。従って、このようなマウスにおいてはTH2応答へのバランスが予見される。IgG2aの欠如から、この種のIgGアイソタイプへのクラススイッチングに直接関与するサイトカインであるIFN−αがないことが示される。これらから、PapMVには効果的で長期間の抗体応答を誘発する能力があることが示された。この結果から、PapMV粒子が体液性ワクチンの開発にとって非常に優れたベクターであることが示唆された。目的の免疫原とVLPとの融合は免疫系によって同様に認識され、目的のエピトープに対する強力な免疫応答を引き起こすであろう。
【0066】
更に、PapMV VLPがBALB/cマウスへの腹腔内又は皮下注射後にリンパ節および脾臓に特異的に移動することが観察された(図6)。この結果は、PapMV VLPは、免疫応答が生起する部位に効果的に移動するので優れたキャリアであることを示している。
【0067】
実験データは、PapMV−抗原がマウスにおいて効果的な抗体応答を誘発することを示している(図5)。事実、一次及び二次応答は長期間の抗体記憶と同様に効果的に誘発される(図6)。幾つかの免疫経路によって効果的に大量の抗体が産生される。経口投与は免疫応答を誘発しなかった。胃酸を中和するために使用したNaHCO3がウィルス粒子損傷を与え該粒子の免疫原性に影響を与えたようである。100μgのPapMVを1回注射した350日後でも、IgG1,IgG2a,IgG2b及びIgG3は存在した(図6)。IgG2a及びIgG3が存在し持続しているので、TH1応答がPapMVで誘発されたと推論することが出来る。これは、PapMV粒子が外来性抗原に対する体液性免疫応答の発生・進行するための優れたベクターであることを示唆するものである。目的のエピトープをPapMV粒子へ融合することによって、該エピトープに対する体液性免疫応答の開始が補助される。
【0068】
マウス舌端におけるエアーポーチモデル用いた実験データによれば、PapMVは炎症応答を促進し、食細胞が注射部位に移動するのを促進する(図6)。この結果は、PapMVが炎症症状をそれ自体を誘発するものであり、抗原提示細胞による抗原提示の改善を目的とする追加アジュバント戦略の必要性をなくすものである。同様な結果が、組換え蛋白質からインビトロで生成された特異的ペプチドの融合を担持するVLPを用いて得られた(図6)。処理6〜9時間後に最大の細胞が観察されたので、捕集(リクルートメント)は非常に早かった(データ示さず)。更に、PapMV粒子は、非免疫原性として知られている卵アルブミンに対する免疫応答を効果的に誘発する(図7)。これは、マウス(Balb/c)に、きわめて弱い免疫原である卵アルブミン2mg、又は、50若しくは100μgのPapMVと組み合わせて腹腔内注射することによって実施した。一つの処理あたり6匹のマウスを使用し、注射の0,4,8,12及び20日後に試料を採取した。各処理に対して1回きりの注射を行った。卵アルブミンが弱い免疫原であるにも拘らず、PapMVの存在によって卵アルブミンに対する2倍強い免疫応答が検出された。
【0069】
これらの観察から、PapMV粒子は哺乳動物免疫系によって迅速に外来物として認識され、有機体の防御に関与する細胞のシグナル化及びリクルートを誘発することが明確に示される。
【実施例3】
【0070】
ワクチン標的としての肝炎Cウィルス
肝炎Cウィルスは急性及び慢性肝臓疾患の原因となるプラス鎖RNAウィルスである。感染の初期の症状は僅かではあるが、肝硬変及び肝細胞腫瘍の原因となり得る。世界で1億7000万人以上が感染し、それはHIV患者の4倍もの数である。今後数年で、HCV関連疾患による死者の数はAIDSによる死亡率を上回る可能性がある。現時点で、HCVに対する現在の治療は十分とはいえない。唯一の利用可能な治療はインターフェロン(IFN)であるが、インターフェロン誘発蛋白質キナーゼ(PKR)がHCVE2蛋白質によって阻害されるために、殆どのHCVが抵抗性である。
【0071】
HCV感染患者の20%が自然にウィルスを駆除することが知られている。この観察は免疫系が効果的に反応すれば、該ウィルスを排除できることを示唆している。更に、もし、該ウィルスに対する中和抗体を生起させることにより、ウィルス感染を排除する助けとなり得るようなHCVに対する治療ワクチンで患者の免疫系を増強することができれば、慢性感染患者を助けられることを示唆している。
【0072】
HCVビリオン表面に2つのエピトープが見出されている。E1エピトープ(アミノ酸285−303)及びE2エピトープ(アミノ酸512−536)は、ウィルス感染を駆除した患者で強力な免疫原として示されている(David et al)。PapMVを遺伝子工学的に操作して、そのC末端にHCVのE1及びE2ペプチドを融合させ、それらがインビトロでPapMVウィルスにおいて集合できるようにした(図3)。
【0073】
ウィルスエンベロープ糖蛋白質の保存領域におけるHVR−1の外側のE1及びE2のHCVビリオンの表面に見出された3つのエピトープが選択された。E1エピトープ(アミノ酸285−303)及びE2エピトープ(アミノ酸512−536及び528−546)は、ウィルス感染を駆除した患者で強力な免疫原として示されている。更に、一つのE2エピトープ(アミノ酸512−536)は感染を駆除した患者の血清に見出された中和抗体の産生を引き起こすことが示された。これら3つの領域はHCVサブタイプ及び株を通じて保存されており、エンベロープ糖蛋白質の超可変領域の外に位置しているので、HCVワクチン開発のための良好な候補である。PapMV−E1及びPapMV−E2構築物を大腸菌内で発現させた。この組換え蛋白質を精製しインビトロで集合させた。CPとHCVE2との組換え融合物の集合により、融合した結果僅かに大きくなったことを除いて、組換え野生型CPコントロールに類似したrVLPが得られた。
【0074】
マウスをインビトロで製造した組換えVLPで免疫した。ポリミキシン(polymixin)カラムを用いてLPS除去し、マウスの腹腔内及び皮下注射した。1,10及び100μgのVLPを使用し、各処理で3匹のマウスに注射した。PapMV及びペプチドに対する免疫応答をELISAで分析した。VLP表面及び該ペプチドに対するIgGが得られた(図8)。この結果は、組換えPapMVをエピトープの表面において優れた免疫応答を開始させる為に使用でき、アジュバントの助けなしにワクチンとして使用できることを示している。
【実施例4】
【0075】
チフスに対する免疫
腸チフスは、腸チフス菌が原因である、網内皮細胞系、腸管リンパ系組織及び胆嚢の急性感染である。これは未だに世界的に重大な疾患であり、1600万人以上の人間に感染し、その内の60万人が感染で死亡している。感染の多くは子供及び若い大人であり、ワクチンによって予防可能である。現在、以下のような様々なワクチンが使用されている。1)熱不活性化、フェノール保存全細胞の親(parental)ワクチン(Wyet-Ayerst)、2)アセトン不活性化乾燥全細胞親ワクチン、3)注射によりデルトイド内に投与される精製(非変性)Vi多糖類親ワクチン(Aventis)、4)経口生ワクチンとして使用される弱毒化galE、Vi陰性株Ty21a。
【0076】
不活性化親細菌(上記1〜3型)はそのリポ多糖類(LPS)が複雑であり、及び、望ましくない副作用を引き出す多くの抗原が提示されているが故に、望ましくない免疫応答を生起させることがある。更に、Vi多糖類は胸腺非依存性抗原であり(Robins and Robins, 1984)、臨床試験では良好な結果を有することが示されたが、免疫記憶を誘発するには不充分であることも示されている。防御を維持するには、抗原への複数回の暴露が必要であり、この方法は風土病地域を訪れる旅行者に対してのみ適当である。現在使用可能なワクチンは常に汚染されている地域に住む人々に対しては採用されていない。弱毒化細菌に基づくワクチン(4型)は、悪心、むかつき、嘔吐及び腹痛を引き起こすことがある。このワクチンを免疫抑制、腸疾患、下痢、抗生物質摂取患者、又は妊娠女性及び6歳未満の子供に対して投与することは薦められない。このワクチンは熱に対して弱いので4℃で保存しなければならず、又、凍結すべきでなはい。最も腸チフスに感染している地域である熱帯気候下での貧しい国に住む人々に届けようとしたときに、Ty21aが悪条件に対して弱いことは問題である。
【0077】
ポリン(porin)と呼ばれる腸チフス菌由来の膜蛋白質は、抗体及び細胞免疫応答の双方をマウス及びヒトにおいて引き出し、腸チフスからマウスを防御することができるので、優れた免疫原であることが示されている。ポリンはグラム陰性細菌の膜に最も豊富に存在する蛋白質であり、低分子量分子の受動拡散チャンネルとして機能する。これらの蛋白質は構造的及び機能的な高程度の相同性を示し、共通の祖先を有していると考えられる。腸チフス菌の表面に露出している、該菌のポリンのループ6及び7に対応する2つの小エピトープはポリンによる免疫で開始される防御機構に関与していることが示された。これら領域は腸チフス菌に特異的であり、組換えサブユニットワクチンの開発のために優れたエピトープである。本発明者は、PapMVのC末端に腸チフス菌ポリンのループ6をクローニングした。この組換え蛋白質を精製し、PapMVウィルス様粒子をRNAを用いてすでに記載の方法によりインビトロで製造した(図3)。
【0078】
本発明は上記の好適な具体例に限定されるものではなく、本明細書に添付の請求の範囲内である限り、それらの修飾も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、精製PapMVの電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、PapMV CPのトリサイン(tricine)SDS−PAGE分析(A)、及び、融合が該PapMV VLPの表面上に暴露されたことを示す免疫金標識(B)である。
【図3】図3A〜3Gは、PapMV及びインビトロで集合したPapMV VLPの電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、空気袋(air pouch)モデルにおけるPapMVにより誘発されたリンパ球蓄積を示す。
【図5】図5は、PapMVに対する免疫応答を示す。PapMV又はISS(等張食塩水)溶液を一度腹腔内注射されたマウス(各濃度に対して6匹)。
【図6】図6は、PapMV VLPに対する免疫応答を示す。PapMV又はISS(等張食塩水)溶液を一度腹腔内注射されたマウス(各濃度に対して6匹)。
【図7】図7は、オボアルブミン(OVA)に対するアジュバントとしてのPapMVの能力の評価を示す。
【図8】図8A〜8Bは、HCV表面グリコプロテインE1及びE2由来のHCV蛋白質、及びPapMVに対する免疫応答の特徴づけを示す。
【図9】図9は、腹腔内注射に伴う、PapMV CPのリンパ節および脾臓への特異的な移動を示すウェスタンブロットの写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る、免疫増強特性を有する免疫原−キャリア複合体。
【請求項2】
該免疫増強特性が、アジュバント効果、細胞媒介依存性抗体産生若しくはT細胞依存性抗体産生の増強能力、又は、マクロファージ又は他の抗原提示細胞上の少なくとも一つの共起刺激分子の発現を増強する能力である、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項3】
免疫原が、ペプチド、蛋白質、ハプテン、及びアレルゲンから成る群から選択される、請求項1記載の免疫原キャリア複合体。
【請求項4】
免疫原が、ヒト又は動物において免疫を誘発し得る、ウィルス、細菌若しくは寄生虫の蛋白質又はその分画である、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項5】
免疫原が、該VLPのキャプシド、コーク又は膜蛋白質とのカルボキシ又はアミノ末端融合体である、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項6】
該VLPがウィルス、ウィルス粒子、ビリオン、又は、ウィルス外被蛋白質の集合体由来の粒子である、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項7】
該VLPが植物ポテックスウィルスから成る群から選択される、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項8】
植物ポテックスウィルスがパパイヤモザイクウィルスである、請求項7記載の免疫原キャリア−複合体。
【請求項9】
該免疫原が、該VLPの外表面で融合している、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項10】
該免疫原が、各抗原ドメインが特異的免疫応答を引き起こすような一つ以上の抗原ドメインから構成されている、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項11】
該VLPが一つより多い特異性を有する免疫原を担持する、請求項1記載の免疫原−キャリア複合体。
【請求項12】
ヒト又は動物における免疫応答を増強する方法であって、該ヒト又は動物にウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る免疫原−キャリアを投与するか、又は、VLPに直接結合していない抗原に付随して該VLP若しくはその断片を投与することから成る、前記方法。
【請求項13】
蛋白質と融合した少なくとも一つの免疫原を担持するVLPから成る免疫原−キャリア複合体をコードするポリヌクレオチド、又は、該VLPの断片若しくはVLPのみから成る免疫原−キャリア複合体をコードするポリヌクレオチドであって、該免疫原−キャリア複合体が植物細胞、動物細胞又は微生物内で発現したときに集合する能力を有する、前記ポリヌクレオチド。
【請求項14】
ウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る免疫原−キャリア複合体又はVLPの、該蛋白質又その断片に対する免疫応答を誘発する組成物の調製のおける使用。
【請求項15】
ウィルス様粒子(VLP)の蛋白質又はその断片と融合した少なくとも一つの免疫原を担持する該VLPから成る免疫原−キャリア複合体又はVLPを含む、抗原に対する免疫応答を増強する組成物。
【請求項16】
VLP又はその断片を含む免疫増強剤。
【請求項17】
VLP、及び、ウィルス、細菌又は寄生虫由来の蛋白質又は抽出物を含む組成物。
【請求項18】
ワクチンとして使用する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
パパイヤモザイクウィルスのアジュバントとしての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−504644(P2006−504644A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−518318(P2004−518318)
【出願日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【国際出願番号】PCT/CA2003/000985
【国際公開番号】WO2004/004761
【国際公開日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(505008198)
【出願人】(505008202)
【出願人】(505008213)
【出願人】(505008224)
【Fターム(参考)】