説明

アスファルト舗装体撤去方法、アスファルト舗装体撤去システム、電磁誘導コイルユニット、アスファルト舗装体撤去装置、及びアスファルト舗装体の剥離方法

【課題】大きな振動や騒音を出さずに、小さな電力で効率よくアスファルト舗装体を剥してブロック状に取り扱うことを可能とする。
【解決手段】鋼板12上に設けられたアスファルト舗装体22の上方に位置する電磁誘導コイル36により、アスファルト舗装体22下面を溶融する。そして、熱伝導性を有し、剥離層70が上面に形成された楔状の剥離部材60を、アスファルト舗装体22下面の溶融した層74に挿入して鋼板12からアスファルト舗装体22を剥す。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体22を剥すことができ、剥したアスファルト舗装体22をブロック状で扱うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波の電磁誘導コイルによって、アスファルト舗装体を剥す剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装道路の改修工事等の際にアスファルト舗装体を剥す方法として、人力はつり工法やウォータージェット工法が知られている。
【0003】
しかし、例えば、橋梁等の鋼床版デッキプレート上に舗装されたアスファルト舗装体にはつり工法を用いた場合には、鋼床版を傷つけ易く、大きな振動や騒音が発生し、さらには、作業効率も極めて低いために小規模な施工に限られてしまう。
【0004】
また、ウォータージェット工法を用いた場合には、アスファルト舗装体と鋼床版の境界付近に高圧水を噴射してアスファルト舗装体を剥すので、鋼床版上面の接着層まで除去することができる。しかし、はつり工法同様に大きな振動や騒音が発生し、また大量の水を使用するために、給水や排水処理の大型設備が必要となってしまう。
【0005】
そこで、これらの問題を解決するために、特許文献1のような剥離方法が提案されている。この方法は図13に示すように、マイクロ波発振器200から発振されたマイクロ波が、マイクロ波照射器202からアスファルト路面204に照射され、アスファルト層206を昇温、軟化する。そして、軟化したアスファルト層206が、押し切り刃208によって切断剥離されるものである。これによって、大きな振動や騒音を出さずにアスファルト層206を剥すことができる。
【0006】
しかし、特許文献1は、アスファルト層206全体を昇温、軟化するものなので、大きな電力を必要とする。また、すべてが軟化したアスファルト層206は撤去の際に扱いにくく、積出し作業が困難である。また、積出し作業時に、アスファルト層206中の骨材や砂等がこぼれて散乱するので清掃等の作業を要してしまう。
【0007】
特許文献2の加熱剥離装置210は、図14に示すように、高周波電力が供給される電磁誘導コイル212から交番磁界を発生させ、金属板214の表面に渦電流を流すことによって、金属板214を自己加熱し、この金属板214上の被膜216を加熱剥離するものである。
【0008】
しかし、被膜216のような0.1〜5.0mm程度の厚さのものならば、加熱によってめくれ上がり自然に剥離するが、アスファルト舗装体のような厚みのあるものを加熱のみによって剥すことは難しい。電磁誘導コイル212に多くの高周波電力を供給してアスファルト舗装体のすべてが軟化したとしても、引用文献1と同様に、剥したアスファルト舗装体の取り扱いは困難であり、また、金属板214が過剰に加熱されて熱劣化してしまうことも危惧される。
【0009】
引用文献3の誘導加熱装置230は、図15に示すように、マンホール枠220内部に設けられた電磁誘導コイル222に交流電流を流すと、磁路部材としてのフランジ224を介してマンホール枠220内部を通過する交番磁束が発生する。この交番磁束による誘導電流がマンホール枠220に流れ、マンホール枠220がジュール熱により加熱される。そして、この熱によってグースアスファルト228を流動化させ、マンホール枠220の外周面と既設舗装226の間に形成された空隙内にグースアスファルト228を充填するものである。
【0010】
しかし、熱流動化性のグースアスファルト228をアスファルト舗装体として用いて、引用文献2のような加熱剥離装置210によって加熱し、アスファルト舗装体のすべてが軟化したとしても、引用文献1と同様に、剥したアスファルト舗装体の取り扱いは困難となる。
【特許文献1】特開2000−303408号公報
【特許文献2】特開平4−267091号公報
【特許文献3】特開平1−198905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は係る事実を考慮し、大きな振動や騒音を出さずに、小さな電力で効率よくアスファルト舗装体を剥してブロック状に取り扱うことを可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去方法であって、前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成工程と、形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出工程と、前記取出工程によって取り出された前記アスファルト塊を移動させる移動工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
請求項1に記載の発明では、鋼板上にアスファルト舗装体が設けられている。
【0014】
また、軟化層形成工程によって、下面が鋼板に接する軟化層をアスファルト舗装体に形成する。軟化層は、鋼板を電磁誘導加熱することによって、アスファルト舗装体に形成される。
【0015】
また、取出工程によって、アスファルト舗装体に形成された軟化層をこの軟化層に接する鋼板から剥離させ、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す。
【0016】
また、移動工程によって、取出工程により取り出されたアスファルト塊を移動させる。
【0017】
そして、これらの工程によって、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去する。
【0018】
よって、アスファルト舗装体に形成された軟化層により、アスファルト舗装体が鋼板から剥離し易くなるので、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体を分断することができる。
【0019】
また、軟化層以外のアスファルト舗装体は固化状態にある。よって、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。これにより、アスファルト塊の取り出し作業が容易となって、作業効率を上げることができる。
【0020】
また、電磁誘導加熱されるのは鋼板なので、効率よく加熱することができる。また、鋼板付近に軟化層を形成させる加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記軟化層の温度を、55°C以上とすることを特徴としている。
【0022】
請求項2に記載の発明では、軟化層の温度を、55°C以上とすることによって、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させるのに適した粘度の軟化層をアスファルト舗装体に形成することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、前記アスファルト舗装体に、該アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの1つ又は複数の第1の切目を入れる第1の切目工程をさらに含み、前記アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出されることを特徴としている。
【0024】
請求項3に記載の発明では、第1の切目工程によって、アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する1つ又は複数の第1の切目をアスファルト舗装体に入れる。第1の切目は、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さに入れられている。
【0025】
また、アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出される。
【0026】
よって、アスファルト塊を板状の矩形ブロックとして取り出すことができるので、搬送車両等への積み込みを効率的に行うことができ、また、挟持装置によってアスファルト塊を両側面方向から挟み込む場合に、確実に挟み込むことができる。
【0027】
また、アスファルト舗装体に入れる第1の切目は、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0028】
また、アスファルト舗装体に入れる第1の切目が、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていなくても、アスファルト舗装体の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易にアスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断することができる。
【0029】
請求項4に記載の発明は、前記アスファルト舗装体に、前記1つ又は複数の第1の切目と交わる、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの複数の第2の切目を入れる第2の切目工程をさらに含むことを特徴としている。
【0030】
請求項4に記載の発明では、第2の切目工程によって、第1の切目と交わる複数の第2の切目をアスファルト舗装体に入れる。第2の切目は、鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さに入れられている。
【0031】
よって、所定の大きさを有する板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことができる。
【0032】
また、アスファルト舗装体に入れる第2の切目は、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0033】
また、アスファルト舗装体に入れる第2の切目が、鋼板又は鋼板上に形成された付属物に達しない深さまでしか入れられていなくても、アスファルト舗装体の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易にアスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断することができる。
【0034】
請求項5に記載の発明は、前記取出工程は、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して上方に持ち上げる又は手前に引くことによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴としている。
【0035】
請求項5に記載の発明では、取出工程において、保持手段で保持したアスファルト舗装体を上方に持ち上げる又は手前に引くことによってアスファルト舗装体を分断する。そして、アスファルト塊として取り出す。
【0036】
よって、簡単な方法で、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことができる。
【0037】
請求項6に記載の発明は、前記取出工程は、前記アスファルト舗装体に、前記第1の切目と交わるように押当て部材をあてがい、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して折ることによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴としている。
【0038】
請求項6に記載の発明では、取出工程において、アスファルト舗装体に、第1の切目と交わるように押当て部材をあてがう。そして、このアスファルト舗装体を保持手段で保持して折り、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す。
【0039】
よって、簡単な方法で、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことができる。
【0040】
また、第1の切目と交わる切目を入れる作業が不要になる。これにより、第1の切目と交わる切目を入れる作業によって鋼板又は鋼板上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0041】
また、アスファルト舗装体の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易に折ることができる。
【0042】
請求項7に記載の発明は、前記取出工程は、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して折ることによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴としている。
【0043】
請求項7に記載の発明では、取出工程において、保持手段で保持したアスファルト舗装体を折ることによってアスファルト舗装体を分断する。そして、アスファルト塊として取り出す。
【0044】
よって、簡単な方法で、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことができる。
【0045】
また、アスファルト舗装体に入れられた第2の切目によって、より容易にアスファルト舗装体を折ることができる。
【0046】
請求項8に記載の発明は、前記保持手段は、前記鋼板と前記軟化層との間、又は前記軟化層に挿入する剥離部材を備えて、前記アスファルト舗装体を上下方向から挟み込む上下挟持装置であることを特徴としている。
【0047】
請求項8に記載の発明では、保持手段が、アスファルト舗装体を上下方向から挟み込む上下挟持装置である。また、この上下挟持装置は、鋼板と軟化層との間、又は軟化層に挿入する剥離部材を備えている。
【0048】
よって、アスファルト舗装体を確実に保持することができる。
【0049】
請求項9に記載の発明は、前記保持手段は、前記アスファルト舗装体を吸引して保持する吸引装置であることを特徴としている。
【0050】
請求項9に記載の発明では、保持手段として、アスファルト舗装体を吸引して保持する吸引装置を用いることにより、挟持装置よりも短い時間でアスファルト舗装体を保持することができる。よって、施工スピードが上がる。
【0051】
請求項10に記載の発明は、前記保持手段は、前記第2の切目が入れられた前記アスファルト舗装体を両側面方向から挟み込む側方挟持装置であることを特徴としている。
【0052】
請求項10に記載の発明では、保持手段として、第2の切目が入れられたアスファルト舗装体を両側面方向から挟み込む側方挟持装置を用いることにより、アスファルト舗装体を確実に保持することができる。
【0053】
請求項11に記載の発明は、前記保持手段は、前記アスファルト舗装体の表面を爪部材で掴む把持装置であることを特徴としている。
【0054】
請求項11に記載の発明では、保持手段として、アスファルト舗装体の表面を爪部材で掴む把持装置を用いることにより、挟持装置よりも短い時間でアスファルト舗装体を保持することができる。よって、施工スピードが上がる。
【0055】
請求項12に記載の発明は、前記アスファルト舗装体の厚みを計測する計測工程をさらに含み、前記第1の切目及び前記第2の切目の少なくとも1つは、前記計測工程によって計測された前記アスファルト舗装体の厚みに基づいて、該アスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられることを特徴としている。
【0056】
請求項12に記載の発明では、計測工程によってアスファルト舗装体の厚みを計測する。そして、第1の切目及び第2の切目の少なくとも1つは、計測工程によって計測されたアスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられる。
【0057】
よって、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物を傷つけることなく、切目を入れることができる。
【0058】
請求項13に記載の発明は、前記取出工程において取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送工程をさらに含むことを特徴としている。
【0059】
請求項13に記載の発明では、移送工程によって、取出工程で取り出されたアスファルト塊を、このアスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する。
【0060】
よって、取出工程で取り出されたアスファルト塊をこのアスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に撤去することができる。
【0061】
また、取出工程で取り出されたアスファルト塊をこのアスファルト塊を取り出した位置の前方に移送する場合には、撤去する前のアスファルト舗装体上に、アスファルト塊を積載する搬送車両等を配置することになるので、搬送車両等の走行に支障を来さない。また、搬送車両等の入れ替え作業がアスファルト舗装体の取り出し作業の邪魔にならない。よって、作業効率が上がり、かつ安全性を向上させることができる。
【0062】
請求項14に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去システムであって、前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成装置と、形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出装置と、前記取出装置によって取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送装置と、を備えることを特徴としている。
【0063】
請求項14に記載の発明では、アスファルト舗装体撤去システムが、軟化層形成装置、取出装置、及び移送装置を備え、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去する。
【0064】
また、軟化層形成装置は、鋼板を電磁誘導加熱する。これにより、下面が鋼板に接する軟化層をアスファルト舗装体に形成する。
【0065】
また、取出装置は、アスファルト舗装体に形成された軟化層をこの軟化層に接する鋼板から剥離させ、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す。
【0066】
また、移送装置は、取出装置によって取り出されたアスファルト塊をこのアスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する。
【0067】
よって、アスファルト舗装体に形成された軟化層により、アスファルト舗装体が鋼板から剥離し易くなるので、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体を分断することができる。
【0068】
また、軟化層以外のアスファルト舗装体は固化状態にある。よって、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。これにより、アスファルト塊の取り出し作業が容易となって、作業効率を上げることができる。
【0069】
また、電磁誘導加熱されるのは鋼板なので、効率よく加熱することができる。また、鋼板付近に軟化層を形成させる加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。
【0070】
請求項15に記載の発明は、前記アスファルト舗装体に、該アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの1つ又は複数の第1の切目を入れる第1の切目装置をさらに備え、前記アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出されることを特徴としている。
【0071】
請求項15に記載の発明では、第1の切目装置によって、アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する1つ又は複数の第1の切目がアスファルト舗装体に入れられる。第1の切目は、鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さに入れられる。
【0072】
また、アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出される。
【0073】
よって、アスファルト塊を板状の矩形ブロックとして取り出として取り出すことができるので、搬送車両等への積み込みを効率的に行うことができ、また、挟持装置によってアスファルト塊を両側面方向から挟み込む場合に、確実に挟み込むことができる。
【0074】
また、アスファルト舗装体に入れる第1の切目は、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0075】
また、アスファルト舗装体に入れる第1の切目が、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていなくても、アスファルト舗装体の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易にアスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断することができる。
【0076】
請求項16に記載の発明は、前記アスファルト舗装体に、前記1つ又は複数の第1の切目と交わる、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの複数の第2の切目を入れる第2の切目装置をさらに備えることを特徴としている。
【0077】
請求項16に記載の発明では、第2の切目装置によって、第1の切目と交わる複数の第2の切目がアスファルト舗装体に入れられる。第2の切目は、鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さに入れられる。
【0078】
よって、所定の大きさの矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことができる。
【0079】
また、アスファルト舗装体に入れる第2の切目は、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0080】
また、アスファルト舗装体に入れる第2の切目が、鋼板又は鋼板上に形成された付属物に達しない深さまでしか入れられていなくても、アスファルト舗装体の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易にアスファルト舗装体を鋼板から剥離させて分断することができる。
【0081】
請求項17に記載の発明は、前記アスファルト舗装体の厚みを計測する計測装置をさらに備え、前記第1の切目及び前記第2の切目の少なくとも1つは、前記計測装置によって計測された前記アスファルト舗装体の厚みに基づいて、該アスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられることを特徴としている。
【0082】
請求項17に記載の発明では、計測装置によってアスファルト舗装体の厚みを計測する。そして、第1の切目及び第2の切目の少なくとも1つは、計測装置によって計測されたアスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられる。
【0083】
よって、鋼板又は鋼板上に設けられた付属物を傷つけることなく、切目を入れることができる。
【0084】
請求項18に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去システムにおいて、前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する電磁誘導コイルユニットであって、前記アスファルト舗装体撤去システムの進行方向側に、該進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルの第1の組と、前記第1の組からみて前記進行方向と反対側に、前記進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルの第2の組と、前記第1の組と前記第2の組とを固定するためのフレーム部材と、を備え、前記第1の組と前記第2の組とを、前記第1の組の前記複数の電磁誘導コイルの各々の中心が前記第2の組の隣接する電磁誘導コイルの中心間に位置するように偏倚させて前記フレーム部材に配置することを特徴としている。
【0085】
請求項18に記載の発明では、アスファルト舗装体撤去システムによって、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去する。そして、電磁誘導コイルユニットが、鋼板を電磁誘導加熱する。これにより、下面が鋼板に接する軟化層をアスファルト舗装体に形成する。
【0086】
また、電磁誘導コイルユニットは、複数の電磁誘導コイルが並置された第1の組と、複数の電磁誘導コイルが並置された第2の組と、これら第1の組と第2の組とを固定するためのフレーム部材と、を備えている。
【0087】
第1の組は、アスファルト舗装体撤去システムの進行方向側に、この進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルである。
【0088】
第2の組は、第1の組からみてアスファルト舗装体撤去システムの進行方向と反対側に、この進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルである。
【0089】
そして、第1の組の複数の電磁誘導コイルの各々の中心が第2の組の隣接する電磁誘導コイルの中心間に位置するように偏倚させて、第1の組と第2の組とをフレーム部材に配置している。
【0090】
よって、第1の組及び第2の組の複数の電磁誘導コイルは並置されているので、電磁誘導コイルユニットの下方に位置する鋼板の全面を加熱することができる。
【0091】
ここで、電磁誘導コイルユニットをアスファルト舗装体撤去システムの進行方向に移動させながら、電磁誘導加熱する場合、電磁誘導コイル中心付近の下方に位置する鋼板には渦電流が十分に流れないので、この部分の加熱が弱くなる。しかし、第1の組を構成する電磁誘導コイルの各々の中心が第2の組を構成する電磁誘導コイルの中心間に位置するように偏倚させてフレーム部材に配置することによって、前方の第1の組の電磁誘導コイルによって十分に加熱できなかった鋼板の部分は、その後、後方の第2の組の電磁誘導コイルによって加熱されるので、鋼板の全面を均等に加熱することができる。
【0092】
請求項19に記載の発明は、前記第1の組は2つ以上の電磁誘導コイルからなり、前記第2の組は前記第1の組の電磁誘導コイルよりも1つ多い電磁誘導コイルからなることを特徴としている。
【0093】
請求項19に記載の発明では、2つ以上の電磁誘導コイルから第1の組が構成され、第1の組の電磁誘導コイルよりも1つ多い電磁誘導コイルから第2の組が構成されている。
【0094】
そして、第1の組を構成する電磁誘導コイルの各々の中心が、第2の組を構成する電磁誘導コイルの中心間に位置するように偏倚させて、第1の組及び第2の組をフレーム部材に配置することによって、電磁誘導コイルをアスファルト舗装体撤去システムの進行方向に移動させながら電磁誘導加熱する場合に、鋼板の全面を均等に加熱することができる。
【0095】
また、進行方向の前方にある第1の組の電磁誘導コイルよりも、進行方向の後方にある第2の組の電磁誘導コイルの数が多くなっている。これにより、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させる直前まで鋼板のより多くの面積を強く加熱することができる。
【0096】
請求項20に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去装置であって、前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成装置と、形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出装置と、前記取出装置によって取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送装置と、前記軟化層形成装置、前記取出装置、及び前記移送装置が搭載された移動体と、を備えることを特徴としている。
【0097】
請求項20に記載の発明では、移動体に、軟化層形成装置、取出装置、及び移送装置が搭載されている。そして、これらの装置によって、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去する。
【0098】
また、軟化層形成装置は、鋼板を電磁誘導加熱する。これにより、下面が鋼板に接する軟化層をアスファルト舗装体に形成する。
【0099】
また、取出装置は、アスファルト舗装体に形成された軟化層をこの軟化層に接する鋼板から剥離させ、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す。
【0100】
また、移送装置は、取出装置によって取り出されたアスファルト塊をこのアスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する。
【0101】
よって、アスファルト舗装体に形成された軟化層により、アスファルト舗装体が鋼板から剥離し易くなるので、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体を分断することができる。
【0102】
また、軟化層以外のアスファルト舗装体は固化状態にある。よって、アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。これにより、アスファルト塊の取り出し作業が容易となって、作業効率を上げることができる。
【0103】
また、電磁誘導加熱されるのは鋼板なので、効率よく加熱することができる。また、鋼板付近に軟化層を形成させる加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出すことができる。
【0104】
また、軟化層形成装置、取出装置、及び移送装置を移動体に搭載することにより、各装置の設置及び撤去の作業を迅速に行うことが可能なので、機動性を発揮することができる。
【0105】
請求項21に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を剥すアスファルト舗装体の剥離方法において、所定の幅に分割する切目を前記アスファルト舗装体に入れる分割工程と、所定の幅に分割された前記アスファルト舗装体の上方に位置する電磁誘導コイルに高周波電力を供給することにより、前記鋼板を加熱して前記アスファルト舗装体下面を溶融する溶融工程と、熱伝導性を有し、溶融した前記アスファルト舗装体下面の付着を阻止する剥離層が上面に形成された楔状の剥離部材を、前記アスファルト舗装体下面の溶融した層に挿入する剥離工程と、を備えることを特徴としている。
【0106】
請求項21に記載の発明では、所定の幅に分割する切目が、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体に入れられる。また、所定の幅に分割されたアスファルト舗装体の上方に電磁誘導コイルが設けられている。
【0107】
まず、電磁誘導コイルに高周波電力を供給すると、電磁誘導による渦電流が鋼板に発生し、鋼板の有する電気抵抗により発熱する。そして、加熱された鋼板と接するアスファルト舗装体下面が溶融する。
【0108】
次に、アスファルト舗装体下面の溶融した層に楔状の剥離部材を挿入して、鋼板からアスファルト舗装体を剥す。溶融した層は、短時間で局所的に加熱されたものなので、全体の熱量は小さい。よって、熱伝導性を有する剥離部材の上面に接触すると、短時間で、再付着しない程度の温度まで下がる。このとき、剥離部材の上面には剥離層が形成されているので、アスファルト舗装体下面の温度が下がるときに、アスファルト舗装体下面が剥離部材に貼付くことがない。
【0109】
よって、剥離作業スタート時の状態として、剥離部材を鋼板上に配置するスペース分のアスファルト舗装体を剥しておけば、後の剥離作業は、電磁誘導コイルによってアスファルト舗装体下面を溶融し、この溶融した層に剥離部材を挿入するだけなので、大きな力を必要としない。よって、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体を剥すことができる。
【0110】
また、電磁誘導コイルが加熱するのは鋼板なので、効率よく加熱することができる。また、アスファルト舗装体下面のみが溶融する加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体を剥すことができる。
【0111】
また、剥したアスファルト舗装体は軟化しておらず、アスファルト舗装体下面においても剥離部材の上面に接触することによって、短時間で、再付着しない程度の温度まで下がる。さらに、剥離層によって、温度下降時にアスファルト舗装体が剥離部材に貼付くことがない。よって、剥したアスファルト舗装体をブロック状で扱うことができるので撤去作業等が容易であり、効率よく作業を行うことができる。
【0112】
請求項22に記載の発明は、前記剥離層は、フッ素樹脂であることを特徴としている。
【0113】
請求項22に記載の発明では、請求項21と同様の効果が得られると共に、耐磨耗性、耐熱性を有するフッ素樹脂を剥離層に用いることによって、長期に剥離部材を使用できる。
【0114】
請求項23に記載の発明は、前記剥離層は、油であることを特徴としている。
【0115】
請求項23に記載の発明では、安価で容易な方法によって、請求項21と同様の効果が得られる。
【0116】
請求項24に記載の発明は、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を剥すアスファルト舗装体の剥離方法において、所定の幅に分割する切目を前記アスファルト舗装体に入れる分割工程と、所定の幅に分割された前記アスファルト舗装体の上方に位置する電磁誘導コイルに高周波電力を供給することにより、前記鋼板を加熱して前記アスファルト舗装体下面を溶融する溶融工程と、熱伝導性を有する楔状の剥離部材を、前記アスファルト舗装体下面の溶融した層に挿入する剥離工程と、前記剥離部材に設けられた分離手段により、前記剥離部材に貼付いた前記アスファルト舗装体を前記剥離部材から切離す分離工程と、を備えることを特徴としている。
【0117】
請求項24に記載の発明では、所定の幅に分割する切目が、鋼板上に設けられたアスファルト舗装体に入れられる。また、所定の幅に分割されたアスファルト舗装体の上方に電磁誘導コイルが設けられている。
【0118】
まず、電磁誘導コイルに高周波電力を供給すると、電磁誘導による渦電流が鋼板に発生し、鋼板の有する電気抵抗により発熱する。そして、加熱された鋼板と接するアスファルト舗装体下面が溶融する。
【0119】
次に、アスファルト舗装体下面の溶融した層に楔状の剥離部材を挿入して、鋼板からアスファルト舗装体を剥す。溶融した層は、短時間で局所的に加熱されたものなので、全体の熱量は小さい。よって、熱伝導性を有する剥離部材の上面に接触すると、短時間で、再付着しない程度の温度まで下がる。このとき、剥したアスファルト舗装体の下面が剥離部材に貼付く。
【0120】
次に、所定の場所で、分離手段によってアスファルト舗装体を剥離部材から切離す。
【0121】
このように、剥離作業スタート時の状態として、剥離部材を鋼板上に配置するスペース分のアスファルト舗装体を剥しておけば、後の剥離作業は、電磁誘導コイルによってアスファルト舗装体下面を溶融し、この溶融した層に剥離部材を挿入するだけなので、大きな力を必要としない。よって、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体を剥すことができる。
【0122】
また、電磁誘導コイルが加熱するのは鋼板なので、効率よく加熱することができる。また、アスファルト舗装体下面のみが溶融する加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体を剥すことができる。
【0123】
また、剥したアスファルト舗装体は軟化しておらず、アスファルト舗装体下面においても剥離部材の上面に接触することによって、短時間で、再付着しない程度の温度まで下がる。よって、剥したアスファルト舗装体をブロック状で扱うことができるので撤去作業等が容易であり、効率よく作業を行うことができる。
【0124】
また、アスファルト舗装体の剥離部材への貼付け、及びアスファルト舗装体の剥離部材からの切離しをコントロールすることができるので、剥したアスファルト舗装体の撤去作業等において、剥離部材からのアスファルト舗装体の落下を防ぐことができる。
【0125】
請求項25に記載の発明は、前記分離手段は、前記剥離部材の上面を加熱する加熱手段であることを特徴としている。
【0126】
請求項25に記載の発明では、剥離部材の上面を加熱手段によって加熱し、剥離部材に貼付いたアスファルト舗装体下面を再度溶融する。これにより、剥離部材とアスファルト舗装体下面との接着力が弱まり、アスファルト舗装体を剥離部材から切離すことができる。
【0127】
よって、容易な分離手段を用いて、請求項24と同様の効果を得ることができる。
【0128】
請求項26に記載の発明は、前記分離手段は、前記剥離部材の上面に設けられた押出手段であることを特徴としている。
【0129】
請求項26に記載の発明では、剥離部材の上面に設けられた押出手段により、剥離部材に貼付いたアスファルト舗装体を押出してアスファルト舗装体を剥離部材から切離すことができる。よって、アスファルト舗装体下面を再度溶融せずに、請求項24と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0130】
本発明は上記構成としたので、大きな振動や騒音を出さずに、小さな電力で効率よくアスファルト舗装体を剥してブロック状に取り扱うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0131】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0132】
なお、本実施形態では、橋梁の鋼床版デッキプレート上に設けられたアスファルト舗装体に対して本発明を適用した例を示すが、これに限らず、電磁誘導コイルの渦電流を流すことが可能な鋼板上にアスファルト舗装体が設けられた構造物等に適用できる。また、グースアスファルト14とアスファルトコンクリート16が積層されたアスファルト舗装体22について示したが、電磁誘導コイルによって下面が溶融する、さまざまな構成のアスファルト舗装体に適用できる。また、鋼板の厚さを12mmとしたが、さまざまな厚さの鋼板に適用できる。
【0133】
まず、本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の設備構成について説明する。
【0134】
図1に示されるように、橋梁の鋼床版デッキプレート上部の部材となる厚さ12mmの鋼板12上に、アスファルト舗装体22を構成する厚さ35mmのグースアスファルト14と厚さ40mmのアスファルトコンクリート16がこの順に積層されている。
【0135】
アスファルトコンクリート16上には、10tonのダンプトラック18が載っている。このダンプトラック18の前進方向がアスファルト舗装体22の剥離方向20となる。
【0136】
本発明は、鋼板12からアスファルト舗装体22を剥し、アスファルトブロック24として取り出すものであるが、以降、剥離方向20を縦方向、剥離方向20と直交する水平方向を横方向と記載する。また、図7(C)に示すように、アスファルトブロック24の縦方向の長さをアスファルトブロック長さL1とし、アスファルトブロック24の横方向の長さをアスファルトブロック幅L2とする。
【0137】
図7(A)に示すように、アスファルト舗装体22には、予め、所定のアスファルトブロック幅L2にアスファルト舗装体22を分割する切目72がカッティングブレード(不図示)によって入れられている。通常、道路幅は片側3,500mm程度なので、例えば、アスファルトブロック幅L2を1,000〜1,800mm、アスファルトブロック長さL1を600〜1,200mmとし、アスファルト舗装体22を2〜3分割するように切目72を入れればよい。図7(A)では、アスファルト舗装体22を3つのレーン30A、30B、30Cに分割した例が示されている。
【0138】
カッティングブレードによる切目72は鋼板12に届く深さとする必要はなく、80%程度の深さでよい。これにより、鋼板12が傷つくことを防げる。また、カッティングブレードは、アスファルト舗装体22に切目72を入れられるものであればよく、回転歯の付いた丸鋸やアスファルトを溶かしながら切り込んでゆく押し切り刃等を用いてもよい。
【0139】
図1に示すように、ダンプトラック18後方のアスファルトコンクリート16上面には、コイルユニット32が載っている。図2(B)のコイルユニット32の平面図に示すように、FRP製の箱状のフレーム部材34内の後方には3つの電磁誘導コイル36が等間隔で横方向に並べられ、前方には2つの電磁誘導コイル36が後方の電磁誘導コイル36の配置に対して、略コイル半分の距離をずらして横方向に並べられている。
【0140】
図2(B)A−A断面図の図2(A)に示すように、フレーム部材34の底部34A上には、電磁誘導コイル36が固定されている。フレーム部材34の底部34Aは、電磁誘導コイル36のカバー部材として役割りも兼ねており、使用時の電磁誘導コイル36の損傷を防ぐことができる。
【0141】
また、別の固定方法として、フレーム部材34の対向する内壁間を橋渡されるように設けられた水平材の下面に、フェライト38及び電磁誘導コイル36の保持部材を設けて、フェライト38及び電磁誘導コイル36を水平材に固定してもよい。
【0142】
電磁誘導コイル36の上面には、フェライト38が電磁誘導コイル36の中心に対して放射状に置かれている。第1の実施形態では、フェライト38が電磁誘導コイル36の上面を部分的に覆うようにしたが、電磁誘導コイル36の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面を部分的に覆ったり、電磁誘導コイル36の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面の全部を覆うようにしてもよい。
【0143】
フレーム部材34の鉛直方向の中間層には、図3の平面図に示すようなフェライト38とほぼ同じ厚さの板材40が略水平に設けられている。板材40には、フェライト38の水平方向の移動を拘束する切抜き部41が形成されている。よって、切抜き部41にフェライト38を置くことによって所定の位置からフェライト38が水平方向に動くことがない。
【0144】
電磁誘導コイル36による加熱効率を高めるために、電磁誘導コイル36の下面をできるだけ、アスファルトコンクリート16上面に近接するようにし、鋼板12上面から電磁誘導コイル36下面までの距離を短くする。第1の実施形態では、鋼板12上面から電磁誘導コイル36下面までの距離Hは100mmとなっている。すなわち、アスファルトコンクリート16上面と電磁誘導コイル36下面の間には、25mmの隙間がある。
【0145】
フレーム部材34の天井部34Bは、取外し可能なFRP製のカバーになっている。これにより、電磁誘導コイル36が高温状態のとき、作業員等がこの電磁誘導コイル36に触れることを防ぎ、フレーム部材34の外部への放熱を促すことができる。また、天井部34Bを取外すことによって、電磁誘導コイル36のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0146】
フレーム部材34の四隅付近には、車輪44が設けられている。また、コイルユニット32は、横方向に複数連結可能となっている。
【0147】
なお、フレーム部材34の材料をFRPとしたが、絶縁性を有し、電磁誘導コイル36及びフェライト38の設置が可能な、箱体としての十分な剛性を確保できる材料であればよく、合成樹脂パネル材等を用いてもよい。第1の実施形態では、補強材43、45によってフレーム部材34の剛性をさらに高めている。また、フレーム部材34の天井部34Bは、絶縁性を有し、熱伝導率の大きい材料を用いることが好ましい。説明の都合上、図2(B)には、天井部34B、板材40、補強材43等が省略されている。
【0148】
また、図1に示すように、ダンプトラック18の荷台には、電気ケーブル58から電磁誘導コイル36に高周波電力を供給する高周波電力発生装置46と高周波電力発生装置46の電源となる発電機48が搭載されている。
【0149】
ダンプトラック18の荷台後部には、下方に突出する支柱50が固定されており、その下端部付近に設けられた連結部52とコイルユニット32の前方に設けられた連結部54
とが牽引ワイヤー56によって繋がれている。
【0150】
また、コイルユニット32後方の鋼板12上には、剥離部材となるリッパー60がアーム62の先端に取付けられた小旋回型のバックホー64が載っている。
【0151】
図4に示すように、リッパー60は、熱伝導性を有する楔状のベース部材66の上面に先の尖った鉄製の爪部材68が交換可能に取り付けられたものであり、この爪部材68の上面にはテフロン(登録商標)70がコーティングされている。また、リッパー60の横方向の幅は、アスファルトブロック幅L2よりも小さくなっている。熱伝導性を有する楔状のベース部材66は、溶融したアスファルト舗装体22下面の熱がこのベース部材66に伝わって逃げるものであり、併せてアスファルト舗装体22の剥離作業に必要な強度と耐久性を持った材料であればよく、鋼材を用いることが好ましい。
【0152】
テフロン(登録商標)70は、耐磨耗性、耐熱性を有するので、長期にリッパー60を使用できる。また、爪部材68は交換可能なので、長時間の剥離作業によって爪部材68の先が丸まってしまったり、テフロン(登録商標)70が剥がれてしまった場合においても、新しい爪部材68に交換できる。また、爪部材68を取外して先端部分を再整形したり、テフロン(登録商標)70のコーティングをし直して、再使用することができる。
【0153】
次に、本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順について説明する。
【0154】
なお、剥離作業スタート時は、バックホー64及びリッパー60を鋼板12上に配置するスペース分のアスファルト舗装体22を剥して除去した状態とする。また、説明の都合上、図7にはダンプトラック18及びコイルユニット32が省略されている。
【0155】
まず、図7(A)に示すように、アスファルト舗装体22に、アスファルトブロック幅L2にアスファルト舗装体22を分割する切目72をカッティングブレードによって入れる。これにより、アスファルト舗装体22は、3つのレーン30A、30B、30Cに分割される。
【0156】
次に、最初に剥すアスファルト舗装体22上の領域B、Cにコイルユニット32を1台ずつ載せる。第1の実施形態では、バックホー64前方のレーン30A、30Bのアスファルト舗装体22を交互に剥していくので、2台のコイルユニット32を横方向に連結し、これを1台のダンプトラック18で牽引する。
【0157】
まず、領域B、Cにあるコイルユニット32の電磁誘導コイル36に高周波電力発生装置46から電気ケーブル58を介して高周波電力を供給すると、コイルユニット32下方に位置する鋼板12に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼板12の有する電気抵抗により発熱する。
【0158】
そして、加熱された鋼板12と接するグースアスファルト14下面が溶融し、溶融層74が形成される。電磁誘導コイル36に供給する高周波電力は、グースアスファルト14下面のみが溶融する温度に鋼板12が加熱されるように調整する。
【0159】
鋼板12の温度がグースアスファルト14下面の溶融点よりも低すぎると上手く剥がれない。また、鋼板12の温度がグースアスファルト14下面の溶融点よりも高すぎるとアスファルト舗装体22全体が軟化してしまいブロック状に扱えなくなり、さらに、鋼板12が変形してしまうことも危惧される。
【0160】
グースアスファルト14は、通常、80゜C程度で溶融するので、80゜Cよりも少し高い温度に鋼板12が加熱されるように、高周波電力を電磁誘導コイル36に供給することが好ましい。
【0161】
そして、加熱開始と共に、ダンプトラック18を前進させてコイルユニット32を牽引し、剥離方向20へ徐々に移動する。コイルユニット32の移動スピードは、コイルユニット32の加熱能力や剥離作業の施工スピードに応じて適宜決める。
【0162】
図2(B)に示すように、電磁誘導コイル36は、等間隔で横方向に並べられているので、領域B、Cの鋼板12全面を加熱することができる。
【0163】
電磁誘導コイル36中心付近の下方に位置する鋼板12には、渦電流が十分に流れないので、この部分の加熱が弱くなるが、前方の2つの電磁誘導コイル36が後方の電磁誘導コイル36の配置に対して、略コイル半分の距離をずらして横方向に並べられている。よって、コイルユニット32が剥離方向20に移動すると、前方の2つの電磁誘導コイル36によって十分に加熱できなかった鋼板12の部分は、その後、後方の電磁誘導コイル36によって加熱されるので、領域B、Cの鋼板12全面を均等に加熱することができる。
【0164】
また、フェライト38が電磁誘導コイル36の上面を覆うことにより、電磁誘導コイル36周囲の磁気回路抵抗が小さくなるので、渦電流を効率よく鋼板12に流すことができる。
【0165】
次に、図5(A)に示すように、グースアスファルト14下面が溶融したら。直ぐに領域Bのグースアスファルト14下面の溶融層74にリッパー60を挿入して、鋼板12からアスファルト舗装体22を剥す。
【0166】
次に、リッパー60の根元部分を上方に持上げると、図5(B)に示すように、持上げられていないアスファルト舗装体22は、自重及び鋼板12との接着力によって、持上げられたアスファルト舗装体22を下方に戻そうとするので、リッパー60の先端付近にせん断力が発生し、下方から亀裂が入る。
【0167】
そして、図5(C)に示すように、持上げられたアスファルト舗装体22が、持上げられていないアスファルト舗装体22から完全に引離されるまで、リッパー60を水平にして上方に持上げる。これにより、レーン30Aからアスファルトブロック24が取出される。
【0168】
溶融層74は、短時間で局所的に加熱されたものなので、全体の熱量は小さい。よって、熱伝導性を有するリッパー60の上面に接触すると、短時間で、再付着しない程度の温度(グースアスファルトの場合は、通常、70゜C程度)まで下がる。このとき、リッパー60の上面にはテフロン(登録商標)70がコーティングされているので、アスファルトブロック24下面の温度が下がるときに、アスファルトブロック24下面がリッパー60に貼付くことがない。
【0169】
次に、図6(D)に示すように、アスファルトブロック24がリッパー60から落ちないように、リッパー60の先端を少し上げた状態で、リッパー60をさらに上方に持上げ、アーム62をレーン30Cの上方まで10〜30度ほど旋回させる。アスファルトブロック24がリッパー60から落ちないように、例えば、アスファルトブロック24を上下から挟込む装置等のような落下防止手段を設けることが施工上、安全上において好ましい。
【0170】
そして、図6(E)、図7(B)に示すように、レーン30C上面にアスファルトブロック24をゆっくり落として仮置きする。仮置きされたアスファルトブロック24は、別途用意された積込み機械によってダンプトラック等に積込まれる。この積込み作業は、剥離作業と並行して連続的に行われる。
【0171】
次に、図7(C)に示すように、レーン30B上の電磁誘導コイル36によって加熱された領域Cのグースアスファルト14下面の溶融層74にリッパー60を挿入して、鋼板12からアスファルト舗装体22を剥す。そして、これまでに述べた図5(A)〜(C)の手順を繰り返し、レーン30A、30Bのアスファルト舗装体22を交互に剥していく。剥すアスファルト舗装体22がなくなったら、図7(D)〜(E)に示すように、1つのコイルユニット32をレーン30C上に乗せ、ダンプトラック18によって牽引しながら、レーン30A、30Bと同様の方法で、レーン30Cのすべてのアスファルト舗装体22を剥す。
【0172】
次に、本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の作用及び効果について説明する。
【0173】
図1に示すように、剥離作業スタート時の状態としてバックホー64及びリッパー60を鋼板12上に配置するスペース分のアスファルト舗装体22を剥して除去しておけば、後の作業は、電磁誘導コイル36によってグースアスファルト14下面を溶融し、この溶融層74にリッパー60を挿入するだけなので、大きな力を必要としない。よって、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずにアスファルト舗装体22を剥すことができる。
【0174】
また、電磁誘導コイル36が加熱するのは鋼板12なので、効率よく加熱することができる。また、グースアスファルト14下面のみが溶融する加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体22を剥すことができる。
【0175】
また、アスファルト舗装体22は軟化せず、グースアスファルト14下面においてもリッパー60の上面に接触することによって、短時間で、再付着しない程度の温度まで下がる。さらに、テフロン(登録商標)70によって、温度下降時にグースアスファルト14下面がリッパー60に貼付くことがない。よって、剥したアスファルト舗装体22をブロック状のアスファルトブロック24として扱うことができるので撤去作業等が容易であり、効率よく作業を行うことができる。
【0176】
なお、第1の実施形態では、レーン30C上面にアスファルトブロック24を仮置きしたが、バックホー64のアーム62を180度旋回させて、バックホー64の後方に仮置きしてもよい。
【0177】
また、爪部材68の上面に形成された剥離層をテフロン(登録商標)70としたが、温度下降時にグースアスファルト14下面がリッパー60に貼付かないものであればよく、ポリイミド樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、変性フッ素樹脂、ナイロン、ポリエチレン、塩化ビニル、テフロン(登録商標)樹脂や、ジェラコン、MCナイロン等のエンジニアリングプラスチック等を用いてもよいし、これら樹脂と、ガラス繊維、カーボンファイバー、又はアラミド繊維等との複合材料シートを用いてもよい。
【0178】
これらの樹脂は、耐磨耗性、耐熱性を有するので長期にリッパー60を使用することができる。耐熱性については、グースアスファルト14の溶融温度が80゜C程度なので、120゜C程度までの温度に耐えられる材料であればいい。耐磨耗性、耐熱性に優れたテフロン(登録商標)70を用いるのがより好ましい。
【0179】
また、簡易に剥離層を形成したい場合には、剥離層として軽油、ネッパラン(登録商標)等の油を用いて爪部材68の上面に塗布したり、砂等を爪部材68の上面に撒いてもよい。ネッパランは、アスファルト合材付着防止剤であり、軽油よりも高い剥離性を発揮することができる。ネッパランWは、鉱物系油脂、界面活性剤、及び上水を成分としたものであり、ネッパラン・エコWは、植物油、界面活性剤、水溶性溶剤、油溶性溶剤、及び上水を成分としたものである。
【0180】
また、リッパー60を櫛状にすれば、溶融したグースアスファルト14下面をリッパー60にさらに貼付き難くすることができる。
【0181】
次に、本発明の第2の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の設備構成及び施工手順と、その作用及び効果について説明する。
【0182】
第2の実施形態は、第1の実施形態のリッパー60を構成するベース部材66の上面に取り付けられた爪部材68の上面に、テフロン(登録商標)70がコーティングされていないものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0183】
図8に示すように、リッパー76は、熱伝導性を有する鋼材からなる楔状のベース部材66の上面に先の尖った鉄製の爪部材68が交換可能に取り付けられたものである。また、リッパー76の横方向の幅は、アスファルトブロック幅L2よりも小さくなっている。
【0184】
爪部材68は交換可能なので、長時間の剥離作業によって爪部材68の先が丸まってしまった場合においても、新しい爪部材68に交換できる。また、爪部材68を取外して先端部分を再整形して、再使用することができる。
【0185】
さらに、分離手段となるヒーター78がベース部材66に内臓されている。このヒーター78は、電気二重層コンデンサーからの電力によって爪部材68を瞬間的に加熱することができる。
【0186】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、図5(A)〜(C)の順にアスファルト舗装体22を鋼板12から剥してアスファルトブロック24を取出すが、図5(C)でアスファルトブロック24下面の温度が下がるときに、アスファルトブロック24下面がリッパー76に貼付く。
【0187】
よって、図6(D)において、アーム62をレーン30Cの上方まで10〜30度ほど旋回させるときに、アスファルトブロック24がリッパー76から落ちる心配がない。
【0188】
そして、図6(E)のときに、瞬間的に爪部材68をヒーター78によって加熱し、アスファルトブロック24下面と爪部材68上面との接着力を弱めて、リッパー76からアスファルトブロック24を切離す。このとき、溶融したアスファルトの付着防止処理が表面に施されたシートや角材等の上にアスファルトブロック24を仮置きする。
【0189】
このように、第2の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、アスファルトブロック24のリッパー76への貼付け、及びアスファルトブロック24のリッパー76からの切離しをコントロールすることができるので、取出したアスファルトブロック24の撤去作業等において、アスファルトブロック24のリッパー76からの落下を防ぐことができる。
【0190】
なお、第2の実施形態では、爪部材68をヒーター78によって加熱し、リッパー76からアスファルトブロック24を切離したが、アスファルトブロック24下面と爪部材68上面との接着力を弱める程度の加熱ができるものであればよい。電気二重層コンデンサーを電源とすれば、ヒーター78は瞬間的に爪部材68を加熱できるので迅速に切離しを行うことができる。
【0191】
また、爪部材68の上面にピエゾ素子を設けたり、油圧ジャッキや電気モーターを用いた機構によって、アスファルトブロック24を物理的に押出すようにして切離しを行うようにしてもよい。ピエゾ素子は、動作レスポンス、エネルギー効率に優れている。ストロークが足りない場合には、複数段重ねて用いればよい。
【0192】
次に、本発明の第3の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の設備構成について説明する。
【0193】
第3の実施形態は、第1の実施形態のリッパー60と同様の剥離部材を自走式の台車80の先端に設けたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0194】

図9に示すように、上面が緩い勾配の山形になっている台車80が、鋼板12上に載っている。台車80の走行装置として、電気又は内燃機関を動力とするキャタピラー(登録商標)84が設けられている。また、キャタピラー(登録商標)84はゴム製なので、後に述べるリッパー82を溶融層74に挿入する際に十分な水平方向の反力を得ることができる。
【0195】
台車80の先端には、リッパー82が設けられており、第1の実施形態のリッパー60と同様の材料であるベース部材86、爪部材88、テフロン(登録商標)90によって構成され、リッパー82の横方向の幅は、アスファルトブロック幅L2よりも小さくなっている。
【0196】
リッパー82の先端は、油圧シリンダー96を伸縮させることによって上下に動く。これによって、溶融層74の適切な位置にリッパー82を挿入することができる。また、剥離作業以外の移動の際には、リッパー82の先端を上げておけば、台車80の走行の邪魔にならない。
【0197】
台車80の上面の山形に沿うように、ベルトコンベヤー92が設けられており、矢印94の方向に動き、図9の左から右にアスファルトブロック24を搬送する。
【0198】
次に、本発明の第3の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順について説明する。
【0199】
第3の実施形態では、最初に剥すアスファルト舗装体22上の領域Bにコイルユニット32を1台載せ、これを1台のダンプトラック18で牽引する。すなわち、1つのレーンずつ剥離作業を行っていく。
【0200】
まず、図9に示すように、第1の実施形態と同様の方法でグースアスファルト14下面を溶融し、直ぐに台車80を剥離方向20に走行させ、溶融層74にリッパー82を挿入する。
【0201】
グースアスファルト14下面は、熱伝導性を有するリッパー82の上面に接触すると、短時間で、再付着しない程度の温度(グースアスファルトの場合は、通常、70度程度)まで下がる。このとき、リッパー82の上面にはテフロン(登録商標)90がコーティングされているので、グースアスファルト14下面の温度が下がるときに、グースアスファルト14下面がリッパー82に貼付くことがない。
【0202】
また、剥がされたアスファルト舗装体22は、リッパー82の上面の傾斜に沿うように斜め上方に移動する。これによって、リッパー82先端の上方に位置するアスファルト舗装体22上面付近が折れ曲がる状態になり、リッパー82先端付近に亀裂が発生する。
【0203】
次に、剥がされたアスファルト舗装体22の右端下部は、ベルトコンベヤー92に掛かるので、矢印98の方向に引上げられる。これにより、剥がされたアスファルト舗装体22は完全に引離され、アスファルトブロック24として取出すことができる。
【0204】
次に、取出されたアスファルトブロック24は、ベルトコンベヤー92により左から右へ搬送され、台車80後方の鋼板12上に順次置かれていく。台車80上面及びベルトコンベヤー92の下り勾配は緩やかなので、鋼板12上に静かに置いていくことができる。
【0205】
次に、本発明の第3の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の作用及び効果について説明する。
【0206】
図9に示すように、第3の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、アスファルト舗装体22を剥し終えた、台車80後方の鋼板12上にアスファルトブロックを仮置きするので、すべての剥離作業が終わった後に、アスファルトブロック24のダンプトラック等への積込み作業を行うことができる。また、すべてのレーン30A、30B、30Cに台車80をそれぞれ配置し、同時に剥離作業を行うことができる。
【0207】
また、バックホー64の旋回動作が不要なので、第1の実施形態よりも連続した剥離作業が可能となり、施工スピードを上げることができる。
【0208】
第3の実施形態では、ベルトコンベヤー92により、剥されたアスファルト舗装体22を矢印98の方向に引上げて、剥されたアスファルト舗装体22を引離したが、図10に示すように、リッパー82先端を上方に上げて引離してもよい。
【0209】
また、台車80及びリッパー82の横方向の幅が可変できるようにして、さまざまなアスファルトブロック幅L2に対応できるようにしてもよい。
【0210】
また、キャタピラー(登録商標)84による台車80の走行操作は、台車80に設けられたコントロールボックスによって手動で操作してもよいし、遠隔操作するようにしてもよい。また、車輪式にして台車80をダンプトラック18で牽引してもよい。
【0211】
次に、本発明の第4の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の設備構成について説明する。
【0212】
第4の実施形態は、第1の実施形態のカッティングブレード、コイルユニット32、リッパー60を1台の自動車に一体化して設けたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0213】
図11に示すように、鋼板12上に設けられたアスファルト舗装体22のアスファルトコンクリート16上には、バンタイプの自動車100が載っている。また、自動車100内には、高周波電力発生装置46、発電機48が搭載されている。
【0214】
自動車100の中央付近には、アスファルト舗装体22に切目72を入れる丸鋸タイプのカッティングブレード102が設けられている。このカッティングブレード102は、自動車100の車体下部に上下移動可能に設けられており、これによって、切目72の深さを調整することができる。
【0215】
カッティングブレード102後方の車体シャーシー下面には、コイルユニット104が固定されている。コイルユニット104は、第1の実施形態のコイルユニット32に車輪44が設けられていないものである。
【0216】
自動車100の車体後部には、下方に突出する切刃106が設けられており、切刃106の先端はアスファルトコンクリート16の上面に近接している。
【0217】
さらに、自動車100の車体後部の上方には、矢印112、114の上下方向に移動可能な支持部材108が設けられ、車体後方に張出している。また、この支持部材108は、矢印116、118の前後方向に伸縮するので、支持部材108の後端部に設けられたピン110を前後に移動させることができる。
【0218】
アーム部材120の上端部が、ピン110を介して支持部材108の後端部に回転可能に連結され、駆動装置(不図示)によって、アーム部材120が矢印122、124の円周方向に旋回する。
【0219】
アーム部材120の下端部には、リッパー126が取付けられている。リッパー126は、第1の実施形態のリッパー60と同様に、熱伝導性を有する鋼材からなる楔状のベース部材128の上面に鉄製の爪部材68が取付けられ、この爪部材の上面にテフロン(登録商標)70がコーティングされたものである。リッパー126の横方向の幅は、アスファルトブロック幅L2よりも小さくなっている。爪部材68の先端が車体に向うようにアーム部材120に取付けられているので、矢印122の旋回によって、リッパー126をグースアスファルト14下面の溶融層74に挿入することができる。
【0220】
次に、本発明の第4の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順について説明する。
【0221】
まず、図11に示すように、アスファルト舗装体22に、アスファルトブロック幅L2にアスファルト舗装体22を分割する切目72をカッティングブレード102によって入れる。
【0222】
次に、第1の実施形態と同様の方法で、アスファルトブロック幅L2に分割されたグースアスファルト14下面を溶融し、直ぐにアーム120を矢印122の円周方向に旋回させ、溶融層74にリッパー126を挿入して鋼板12からアスファルト舗装体22を剥す。上下方向の挿入位置の調整は、支持部材108を上下方向に移動させて行う。
【0223】
次に、リッパー126の挿入によって、リッパー126先端付近のアスファルト舗装体22下部から亀裂が入る。このとき、リッパー126を上方向に上げると、亀裂の上方に位置するアスファルト舗装体22上面が切刃106に当って切断され、アスファルトブロック24として取出すことができる。
【0224】
次に、支持部材108を矢印118の方向へ伸ばし、リッパー126がアスファルトブロック24を持上げた状態のまま後方へ移動させる。そして、後方へ移動した後、矢印124の方向へアーム120を旋回させ、アスファルトブロック24を鋼板12上に静かに置く。
【0225】
次に、本発明の第4の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の作用及び効果について説明する。
【0226】
図11に示すように、第4の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、すべての設備を一体化することによって、優れた機動性を発揮することができる。
【0227】
第4の実施形態では、リッパー126を第1の実施形態のリッパー60と同じ構成にしたが、第2の実施形態のリッパー76と同じ構成にしてもよい。
【0228】
なお、第1〜第4の実施形態では、リッパー60、76、82、126のベース部材66、86、128を熱伝導性を有する部材としたが、より大きな熱伝導性を有する材料を用いたり、冷却フィンや冷却ファンをリッパーの裏側に設けることにより、溶融したアスファルトブロック24下面の冷却を早め、施工の迅速性を高めることができる。
【0229】
爪部材68、88を鉄製としたが、先端部が丸まり難い硬質材料であり、耐熱性及び熱伝導性を有する部材であればよい。
【0230】
また、リッパー60、76、82、126を楔状としたが、少なくともリッパーの先端部が鋭利になっていればよく、例えば図12に示すような、等厚の部材の先端部のみが切刃状になっているリッパー130を用いてもよい。
【0231】
リッパー60、76、82、126の溶融層74への挿入を容易にするために、爪部材68、88の先端部分を振動させてもよい。上下方向に振動させると、鋼板を痛めたり、騒音を発生させたりすることが危惧されるので、前後方向に振動させることが好ましい。
【0232】
リッパー60、76、82、126の上面の勾配を大きくすれば、リッパーを溶融層74に挿入したときにアスファルト舗装体22に亀裂が入り易くなる。剥したアスファルト舗装体22を引離すときに、楔状の切刃を上から当てて切断したり、予めカッティングブレードで切目を入れておいてもよい。
【0233】
また、電磁誘導コイル36の仕様(コイル芯線の断面径、コイルの直径、コイルの巻数等)は、対象とするアスファルト舗装体の厚さ(鋼板12上面から電磁誘導コイル36下面までの距離)やアスファルト舗装体下面の溶融温度に応じて適宜決めればよい。
【0234】
コイル芯線の断面径やコイルの直径を大きく、又はコイルの巻数を多くした方が電磁誘導コイル36の鋼板12に対する加熱能力が上がる。また、コイル芯線にリッツ線を用いたり、電磁誘導コイル36を冷却する装置を設けることによって、加熱効率を高めることができる。
【0235】
コイルユニット32、104に電磁誘導コイル36の設置高さを調整する機構を設ければ、電磁誘導コイル36の設置高さを変えることによって鋼板12に対する加熱能力を調整することができる。
【0236】
また、コイルユニット32が、ダンプトラック18によって牽引される例を示したが、ダンプトラック以外の車両で牽引してもよいし、コイルユニット32を自走式にしたり、ダンプトラック18のシャーシー下面に取付けてもよい。
【0237】
また、コイルユニット32、104内で電磁誘導コイル36を横方向に周期的に往復移動させる装置を設け、電磁誘導コイル36の数を減らしてもよい。これによって、さまざまなアスファルトブロック幅L2への対応が容易にできる。
【0238】
図7では、2つのコイルユニット32を横方向に連結し、アスファルト舗装体22の領域B、Cの鋼板12を同時に加熱したが、2つのコイルユニット32を剥離方向20にずらして連結し、領域Bのコイルユニット32が領域Cのコイルユニット32に先行して移動するようにダンプトラック18によって引張れば、レーン30A、30B共に、より加熱直後の溶融層74にリッパー60、76を挿入することができる。また、30A、30Bの各レーンにダンプトラック18及びコイルユニット32を1台ずつ配置し、それぞれのコイルユニット32を牽引するようにしてもよい。
【0239】
また、第1〜第4の実施形態では、リッパー60、76、82、126の幅をアスファルトブロック幅L2よりも小さくしたが、可変式であることが好ましい。
【0240】
また、バックホー64のアーム62の先端にリッパー60、76が取付けられた例を示したが、これに限らず、リッパー60、76が取付けられ、旋回するアームを備えた車両であればよい。
【0241】
次に、本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法、アスファルト舗装体撤去システム、及び電磁誘導コイルユニットについて説明する。
【0242】
図16に示されるように、アスファルト舗装体撤去システム250では、第1の実施形態と同様に、橋梁の鋼床版デッキプレート上部の部材となる厚さ12mmの鋼板12上に、アスファルト舗装体22を構成する厚さ35mmのグースアスファルト14と厚さ40mmのアスファルトコンクリート16がこの順に積層されている。
【0243】
アスファルトコンクリート16上には、搬送車両としての10tonのダンプトラック254が載っている。すなわち、後に述べるアスファルト塊256を取り出す位置Rよりも、ダンプトラック254の前進方向の前方にダンプトラック254が配置されている。
【0244】
なお、第5の実施形態では、このダンプトラック254の前進方向がアスファルト舗装体撤去システム250の進行方向252となる。また、進行方向252と直交する水平方向を道路幅方向と記載する。また、図17(B)に示すように、板状の矩形ブロックとして取り出されるアスファルト塊256の進行方向252の長さをアスファルト塊長さSとし、アスファルト塊256の道路幅方向の長さをアスファルト塊幅S2とする。
【0245】
図17(A)に示すように、アスファルト舗装体22の幅を複数の幅(アスファルト塊幅S)に分割する、進行方向252と平行な第1の切目258が、第1の切目装置としての切目装置260のカッティングブレード262によって入れられる。
【0246】
切目装置260は、図18(A)に示すように、ダンプトラック254の後方の位置でアスファルト舗装体22上に載置されたキャタピラー(登録商標)式の走行台車264の前方に配置されている。
【0247】
走行台車264の前面から張り出した支持部材266の先端部からレール部材268が吊下されている。レール部材268は道路幅方向に延びている。そして、このレール部材268に沿って移動可能に移動部材270が設けられている。
【0248】
移動部材270には、駆動装置(不図示)によって進行方向252の前後に移動するアーム部材272が貫通されている。
【0249】
アーム部材272の両端には、アスファルト舗装体22の厚みを計測する計測装置274と切目装置260が固定されている。計測装置274は、進行方向252の前方に設けられ、切目装置260は、進行方向252の後方に設けられている。すなわち、アーム部材272が前後に移動することによって、計測装置274と切目装置260が同時に前後に移動する。
【0250】
計測装置274は上下方向に移動可能となっており、これによって計測装置274の高さを調整することができる。
【0251】
切目装置260は上下方向に移動可能となっており、これによって切目装置260のカッティングブレード262の切り込み深さを調整することができる。
【0252】
アスファルト舗装体22に第1の切目258を入れる手順は、まず、図18(A)に示すように、移動部材270に対してアーム部材272を進行方向252の後方に移動させて、切目装置260を移動部材270に対して最も後方の位置に到達させる。このとき、切目装置260は上方へ移動しており、カッティングブレード262がアスファルト舗装体22に接していない状態になっている。なお、図18(A)には、切目装置260の下方の位置まで既に第1の切目258が入れられている状態が示されている。
【0253】
次に、計測装置274により、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物としての添接板276、添接板276を鋼板12に接合するボルト278、マンホール等までの距離(アスファルト舗装体22の厚み)を計測する。
【0254】
次に、図18(B)に示すように、切目装置260のカッティングブレード262を回転させた状態で切目装置260を下方に移動し、カッティングブレード262によるアスファルト舗装体22の切り込みを行い、第1の切目258を形成する。このとき、第1の切目258の深さが、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さになるように、計測装置274により計測されたアスファルト舗装体22の厚みに基づいて切目装置260の上下位置を調節する。
【0255】
次に、図18(C)に示すように、カッティングブレード262によるアスファルト舗装体22の切り込みを継続させたまま、移動部材270に対してアーム部材272を所定方向252の前方に移動させながら、第1の切目258を前方に入れて行く。このとき、カッティングブレード262の第1の切目258の深さが、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さに常になるように、計測装置274により計測されたアスファルト舗装体22の厚みに基づいて切目装置260の上下位置を調節し続ける。
【0256】
そして、図18(D)に示すように、切目装置260を移動部材270に対して最も前方の位置に到達させる。
【0257】
なお、計測装置274は、金属を検知し、その金属までの距離を計測できるものであればよい。計測装置274としては、電磁誘導方式の計測装置が適している。電磁波方式の計測装置を用いた場合、排水性舗装の内部に含まれている水分等のように誘電率が急激に変化する位置で電磁波が反射し、誤計測を行ってしまうことが懸念される。しかし、電磁誘導方式は、金属を検知する計測方法なので、このような誤計測を防ぐことができる。
【0258】
第5の実施形態では、カッティングブレード262により入れられる第1の切目258の深さを、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さとしたが、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物に達しない深さであればよい。鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近くした方が、後に述べるアスファルト舗装体22を分断してアスファルト塊256として取り出す作業が容易になる。
【0259】
また、アスファルト舗装体22上面から一定の深さに第1の切目258を入れるようにしてもよい。例えば、最も浅い位置にあるボルト278の頭部までの深さよりも少し浅い位置を一定の深さとする場合には、鋼板12上面から20mm程度の厚さのアスファルト舗装体22を残して第1の切目258を入れるのが好ましい。
【0260】
また、切目装置260は、アスファルト舗装体22に第1の切目258を入れられるものであればよく、ダイヤモンドカッター等のカッティングブレード262の他に、押し切り刃等を用いてもよい。
【0261】
通常、道路幅は片側3,500mm程度なので、例えば、アスファルト塊幅Sを1,000〜1,800mm、アスファルト塊長さSを600〜1,200mmとし、アスファルト舗装体22を2〜3分割するように1つ又は複数の第1の切目258を入れればよい。図17(A)では、アスファルト舗装体22を3つのレーンに分割した例が示されている。
【0262】
切目装置260の数及び配置は、第1の切目258の本数(アスファルト舗装体22の道路幅方向の分割数)に応じて適宜決めればよい。
【0263】
図16に示すように、走行台車264後方のアスファルトコンクリート16上面には、第1の実施形態と同様のコイルユニット32が載っている。第5の実施形態では、このコイルユニット32が、軟化層形成装置としての電磁誘導コイルユニットとなる。すなわち、コイルユニット32は、アスファルト舗装体撤去システム250において、鋼板12を電磁誘導加熱することによって、下面が鋼板12に接する軟化層をアスファルト舗装体22に形成する。
【0264】
図2(B)に示すように、コイルユニット32は、2つの電磁誘導コイル36が並置された第1の組と、3つの電磁誘導コイル36が並置された第2の組と、これら第1の組と第2の組とを固定するためのフレーム部材34と、を備えている。
【0265】
第1の組の電磁誘導コイル36は、進行方向252(図2(B)では、剥離方向20)側に、この進行方向252と交わる向きに並置されている。
【0266】
また、第2の組の電磁誘導コイル36は、第1の組からみて進行方向252と反対側に、この進行方向252と交わる向きに並置されている。
【0267】
そして、第1の組の2つの電磁誘導コイル36の各々の中心が第2の組の隣接する電磁誘導コイル36の中心間に位置するように偏倚させて、第1の組と第2の組の電磁誘導コイル36をフレーム部材34に配置している。
【0268】
このように、第1の組及び第2の組の複数の電磁誘導コイル36は並置されているので、コイルユニット32の下方に位置する鋼板12の全面を加熱することができる。
【0269】
電磁誘導コイル36中心付近の下方に位置する鋼板12には渦電流が十分に流れないので、この部分の加熱が弱くなる。しかし、第1の組の電磁誘導コイル36の各々の中心が第2の組の電磁誘導コイル36の中心間に位置するように偏倚させてフレーム部材34に配置しているので、コイルユニット32を進行方向252に移動させながら加熱し続ければ、前方にある第1の組の電磁誘導コイル36によって十分に加熱できなかった鋼板12の部分は、その後、後方にある第2の組の電磁誘導コイル36によって加熱される。これにより、鋼板12の全面を均等に加熱することができる。
【0270】
また、進行方向252の前方にある第1の組の電磁誘導コイル36よりも、進行方向252の後方にある第2の組の電磁誘導コイル36の数が多くなっている。これにより、アスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させる直前まで鋼板12のより多くの面積を強く加熱することができる。
【0271】
電磁誘導コイル36による加熱効率を高めるために、電磁誘導コイル36の下面をできるだけ、アスファルトコンクリート16上面に近接するようにし、鋼板12上面又は鋼板12上に設けられた付属物上面から電磁誘導コイル36下面までの距離を短くする。第5の実施形態では、鋼板12上面から電磁誘導コイル36下面までの距離Hは100mmとなっている。すなわち、アスファルトコンクリート16上面と電磁誘導コイル36下面の間には、25mmの隙間がある。
【0272】
図16に示すように、走行台車264の荷台には、電気ケーブル58から電磁誘導コイル36に高周波電力を供給する高周波電力発生装置46と高周波電力発生装置46の電源となる発電機48が搭載されている。
【0273】
さらに、走行台車264の上方には、移送装置としての2つのベルトコンベヤー280A、280Bが進行方向252の前後に並べて設けられている。そして、このベルトコンベヤー280A、280Bによって、取り出されたアスファルト塊256を走行台車264の後方から前方へ移送し、ダンプトラック254の荷台に積み込む。すなわち、移送装置としてのベルトコンベヤー280A、280Bが、コイルユニット32及び切目装置260の上方に配置され、取り出されたアスファルト塊256をこのアスファルト塊256を取り出した位置Rの前方に移送する。
【0274】
2つのベルトコンベヤー280A、280Bのうち、前方にあるベルトコンベヤー280Aの略中央では、下端部が走行台車264の前面に回転可能に固定されたアクチュエータ282の上端部が回転可能に固定されている。このアクチュエータ282の伸縮により、ベルトコンベヤー280Aの前方部分を上下に移動させ、さらに、ダンプトラック254を進行方向252の前後に移動させることにより、アスファルト塊256をダンプトラック254の荷台の所定位置に降ろすことができる。
【0275】
走行台車264の後部には、下方に突出する支柱284が固定されており、その下端部付近に設けられた連結部286とコイルユニット32の前方に設けられた連結部54とが牽引ワイヤー56によって繋がれている。
【0276】
また、コイルユニット32後方の鋼板12上には、剥離部材としてのリッパー288と挟持部材290を備えた保持手段としての上下挟持装置292をアーム62の先端に取付けた小旋回型のバックホー64が載っている。挟持部材290の先端には切刃298が設けられている。そして、上下挟持装置292とバックホー64によって取出装置を構成している。
【0277】
リッパー288は、第1の実施形態のリッパー60と同様に、熱伝導性を有する楔状のベース部材66の上面に先の尖った鉄製の爪部材68を交換可能に取り付けたものであり、この爪部材68の上面にはテフロン(登録商標)70がコーティングされている。また、リッパー288及び挟持部材290の道路幅方向の幅は、アスファルト塊幅Sよりも小さくなっている。
【0278】
バックホー64のアーム62の先端には、支持板294の上部が回転可能に固定されている。そして、リッパー288の末端部は、支持板294の下部に固定されている。また、支持板294の略中央で、挟持部材290の末端部が回転可能に固定されている。さらに、支持板294の上部には、下端部が挟持部材290の略中央上面に回転可能に固定されたアクチュエータ296の上端部が回転可能に固定されている。
【0279】
よって、アクチュエータ296を伸縮させて挟持部材290を開閉させることにより、リッパー288と挟持部材290とでアスファルト塊256を上下面で挟み込んだり、また、挟持部材290の先端に設けられた切刃298でアスファルト舗装体22に切目を入れることができる。すなわち、切刃298が設けられた挟持部材290とアクチュエータ296によって、第2の切目装置が構成されている。
【0280】
よって、これまでに述べたように、図16のアスファルト舗装体撤去システム250は、切目装置260、軟化層形成装置としてのコイルユニット32、上下挟持装置292とバックホー64とからなる取出装置、移送装置としてのベルトコンベヤー280A、280B、及び搬送車両としてのダンプトラック254を備えている。
【0281】
次に、アスファルト舗装体22の撤去方法について説明する。
【0282】
なお、作業スタート時は、バックホー64及びリッパー288を鋼板12上に配置するスペース分のアスファルト舗装体22が除去されている状態とする。
【0283】
アスファルト舗装体22の撤去方法は、まず、図17(A)に示すように、アスファルト舗装体22の幅を3つの幅(アスファルト塊幅S)に分割する、進行方向252と平行な4つの第1の切目258が、第1の切目装置としての切目装置260のカッティングブレード262によって入れられる(第1の切目工程)。これにより、アスファルト舗装体22は、3つのレーン300A、300B、300C(進行方向252に向かって左から右にレーン300A、300B、300C)に分けられる。なお、レーン300A、300Cの外側の縁が既に切られている場合には、レーン300A、300Cの外側に第1の切目258を入れなくてよい。
【0284】
第1の切目258は、図18に示した方法で入れられる。すなわち、計測装置274によってアスファルト舗装体22の厚みを計測し(計測工程)、この計測されたアスファルト舗装体22の厚みよりも小さい深さに第1の切目258は入れられる。これによって、第1の切目258の深さは、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さになっている。
【0285】
次に、図17(A)に示すように、最初に分断するアスファルト舗装体22上に道路幅方向に連結した2台のコイルユニット32を載せる。このコイルユニット32は共に、走行台車264によって牽引される。
【0286】
次に、コイルユニット32の電磁誘導コイル36に高周波電力発生装置46から電気ケーブル58を介して高周波電力を供給すると、コイルユニット32下方に位置する鋼板12に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼板12の有する電気抵抗により発熱する。
【0287】
そして、この電磁誘導加熱によって加熱された鋼板12に下面が接する軟化層302をグースアスファルト14に形成する(軟化層形成工程)。
【0288】
軟化層302の厚さは、アスファルト舗装体22の性状や厚さ等に応じて適宜決め、この厚さの軟化層302を形成するように電磁誘導コイル36に供給する高周波電力を調整する。よって、グースアスファルト14のみに軟化層302を形成してもよいし、グースアスファルト14とアスファルトコンクリート16の両方に軟化層302を形成してもよい。すなわち、下面が鋼板12に接する軟化層302がアスファルト舗装体22に形成されていればよい。
【0289】
また、アスファルト舗装体22に形成する軟化層の温度が55°C以上になるように、電磁誘導コイル36に供給する高周波電力を調整すれば、アスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させるのに適した粘度であり、かつ10mm程度以上の厚さの軟化層302をアスファルト舗装体22に形成することができる。
【0290】
さらに、一般的な道路用アスファルトである、改質アスファルトを用いた加熱アスファルト混合物やグースアスファルトを用いた硬質アスファルト混合物において、加熱アスファルト混合物は80°Cで溶融し、硬質アスファルト混合物は96°Cで溶融する。
【0291】
よって、アスファルト舗装体22に形成する軟化層の温度が、加熱アスファルト混合物では80°C以上、硬質アスファルト混合物では96°C以上になるように、電磁誘導コイル36に供給する高周波電力を調整すれば、アスファルト舗装体22を鋼板12からより剥離させ易くなるので好ましい。
【0292】
また、アスファルト舗装体22の下面がこのような80°C以上の高温に達したときにおいても、軟化層302は、鋼板12上面から上方へ16mm程度以下までにしか形成されないので、アスファルト舗装体の大部分は固化状態になっている。よって、アスファルト舗装体を分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことが可能となる。
【0293】
次に、図17(B)に示すように、グースアスファルト14に軟化層302が形成された状態で、走行台車264を前進させてコイルユニット32を牽引し、コイルユニット32を所定方向252へアスファルト塊長さS分だけ移動させる。
【0294】
このとき、コイルユニット32を進行方向252に移動させながら加熱し続ければ、前方にある第1の組の電磁誘導コイル36によって十分に加熱できなかった鋼板12の部分は、その後、後方にある第2の組の電磁誘導コイル36によって加熱される。これにより、鋼板12の全面を均等に加熱することができるので、より確実にアスファルト舗装体22に軟化層302を形成することができる。
【0295】
次に、図19(A)に示すように、グースアスファルト14に軟化層302が形成されたら、直ぐにレーン300Aのグースアスファルト14に形成された軟化層302と鋼板12の間に剥離部材としてのリッパー288を挿入する。なお、リッパー288は、鋼板12上面付近の軟化層302に挿入するようにしてもよい。
【0296】
リッパー288の挿入は、バックホー64を前進させたり、アーム62を動作させて行うが、上下挟持装置292にリッパー288を前後に移動させる機構を設けて、この機構を用いて行ってもよい。
【0297】
次に、図19(B)に示すように、アクチュエータ296を伸長して挟持部材290を閉じて、リッパー288と挟持部材290とでアスファルト舗装体22を上下方向から挟み込む。このとき、挟持部材290の先端に設けられた切刃298がアスファルト舗装体22を押切り、アスファルト舗装体22には、第1の切目258と交わる第2の切目が入れられる(第2の切目工程)。
【0298】
第2の切目の深さは、第1の切目258と同様に、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さになっている。第2の切目の深さは、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物に達しない深さであればよい。鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近くした方が、後に述べるアスファルト舗装体22を分断してアスファルト塊256として取り出す作業が容易になる。
【0299】
例えば、最も浅い位置にあるボルト278(図18(A)参照のこと)の頭部までの深さよりも少し浅い位置まで第2の切目を入れるのが好ましく、鋼板12上面から20mm程度の厚さのアスファルト舗装体22を残して第2の切目258を入れるのが好ましい。
【0300】
次に、図19(C)に示すように、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を保持した状態で、上下挟持装置292を上方に持上げる。これにより、アスファルト舗装体22に形成された軟化層302をこの軟化層302に接する鋼板12から剥離させ、アスファルト舗装体22を分断して、所定の大きさを有するアスファルト塊256を取り出す(取出工程)。この状態が、図17(B)に示されている。
【0301】
アスファルト舗装体22には、挟持部材290の先端に設けられた切刃298によって第2の切目が入れられているので、取り出されるアスファルト塊256は板状の矩形ブロックになる。
【0302】
次に、図19(D)に示すように、アスファルト塊256をさらに持上げて上方へ移動し、走行台車264の上方に設けられたベルトコンベヤー280Bの上に降ろす(移動工程)。この状態が、図17(C)に示されている。
【0303】
次に、取出工程によって取り出され、移動工程によってベルトコンベヤー280Bの上に降ろされたアスファルト塊256は、ベルトコンベヤー280B、280Aによって走行台車264の後方から前方へ移送され、ダンプトラック254の荷台に積み込まれる(移送工程)。すなわち、取出工程によって取り出されたアスファルト塊256を、このアスファルト塊256を取り出した位置Rの前方に移送する。
【0304】
そして、これらの工程(軟化層形成工程、取出工程、移動工程、及び移送工程)によって、鋼板12上に設けられたアスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊256として撤去する。
【0305】
次に、レーン300Aのアスファルト舗装体22からアスファルト塊256を撤去したのと同様の方法(図19(A)〜(D))で、レーン300B、300Cのアスファルト舗装体22からアスファルト塊256を撤去する。各レーン300A、300B、300Cで、複数回の取出工程が行われるので、アスファルト舗装体22の各レーンには、複数の第2の切目が入れられることになる。
【0306】
図17(D)は、レーン300Bのアスファルト舗装体22を分断して取り出したアスファルト塊256をベルトコンベヤー280Bに降ろしている状態を示し、図17(E)は、レーン300Cのアスファルト舗装体22を分断して取り出したアスファルト塊256をベルトコンベヤー280Bに降ろしている状態を示している。
【0307】
そして、図17(A)〜(E)の作業を繰り返し、鋼板12上に設けられた全てのアスファルト舗装体22を撤去する。
【0308】
次に、本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法、アスファルト舗装体撤去システム、及び電磁誘導コイルユニットの作用及び効果について説明する。
【0309】
第5の実施形態では、コイルユニット32によってアスファルト舗装体22に形成された軟化層302により、アスファルト舗装体22が鋼板12から剥離し易くなるので、はつり工法のように大きな振動や騒音を出さずに、アスファルト舗装体22を分断することができる。
【0310】
また、軟化層302以外のアスファルト舗装体22は固化状態にある。よって、アスファルト舗装体22を分断して板状のアスファルト塊256として取り出すことができる。これにより、アスファルト塊256の取り出し作業が容易となって、作業効率を上げることができる。
【0311】
また、アスファルト塊256を所定の大きさを有する板状の矩形ブロックとして取り出すことができるので、ダンプトラック254などの搬送車両等への積み込みを効率的に行うことができる。
【0312】
また、第1の切目258と第2の切目は共に、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0313】
また、コイルユニット32が加熱するのは鋼板12なので、効率よく加熱することができる。また、鋼板12付近に軟化層302を形成させる加熱量でよい。よって、小さな電力によってアスファルト舗装体22を分断してアスファルト塊256として取り出すことができる。
【0314】
また、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を挟み込んで、このアスファルト舗装体22を持ち上げることによりアスファルト舗装体22を分断するので、簡単な装置及び方法で、アスファルト舗装体22を分断して板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊256を取り出すことができる。また、アスファルト舗装体22を上下方向から挟み込む上下挟持装置292を用いることにより、アスファルト舗装体22を確実に保持することができる。
【0315】
また、アスファルト舗装体22に入れる第1の切目258や第2の切目が、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていなくても、アスファルト舗装体22の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易にアスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させて分断することができる。
【0316】
また、撤去する前のアスファルト舗装体22上にダンプトラック254を配置させることができるので、ダンプトラック254の走行に支障を来さない。
【0317】
また、アスファルト舗装体22を分断する位置Rよりも前方にダンプトラック254が配置されているので、ダンプトラック254の入れ替え作業がアスファルト舗装体22の取り出し作業の邪魔にならない。よって、作業効率が上がり、かつ安全性を向上させることができる。
【0318】
また、作業順序と同じ順になるように切目装置260、軟化層形成装置(コイルユニット32)、取出装置(上下挟持装置292、バックホー64)、移送装置(ベルトコンベヤー280B、280A)、及び搬送車両(ダンプトラック254)を配置することによって、一連の作業を円滑に行うことができる。
【0319】
また、上下挟持装置292によって取り出したアスファルト塊256をベルトコンベヤー280Bに移動させるときには、アスファルト塊256を下から上へ移動させることになるので、バックホー等の揚重機械を用いた場合に、アスファルト塊256を保持した状態での旋回動作を極力減らすことができる。よって、作業効率が上がり、かつ安全性を向上させることができる。
【0320】
なお、第5の実施形態では、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を保持した状態で上下挟持装置292を上方に持上げることにより、アスファルト舗装体22を分断した例を示したが、図20に示すような方法を用いてもよい。
【0321】
図20では、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を保持した状態で、上下挟持装置292を手前に引っ張る。これにより、アスファルト舗装体22を分断してアスファルト塊256として取り出す。
【0322】
また、第5の実施形態では、アスファルト舗装体22に入れる第2の切目を、上下挟持装置292の挟持部材290先端に設けられた切刃298によって入れたが、例えば、図21に示すような方法で第2の切目を入れてもよい。この場合には、切目装置260が第2の切目装置となる。
【0323】
図21では、カッティングブレード262によって入れる切目が進行方向252と交わるように、走行台車264の後方に切目装置260を設けてアスファルト舗装体22に第2の切目を入れる。このとき、カッティングブレード262の切目の深さが、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さになるように、図18で示した計測装置274により計測された値に基づいて切目装置260の上下位置を調節する。
【0324】
次に、本発明の第6の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法、アスファルト舗装体撤去システム、及び電磁誘導コイルユニットと、その作用及び効果について説明する。
【0325】
第6の実施形態は、第5の実施形態の挟持部材290の先端に設けられた切刃298を押当て部材とし、アスファルト舗装体22を折ることによって分断するものである。したがって、以下の説明において、第5の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0326】
図22(A)に示すように、上下挟持装置292の挟持部材290先端には押当て部材304が設けられている。押当て部材304は楔状の断面を有する鉄製の板材であり、挟持部材290の道路幅方向に沿って設けられている。
【0327】
第6の実施形態では、図19で示したアスファルト舗装体22の取り出し方法が第5の実施形態と異なっている。図22(A)に示すように、第5の実施形態と同様の方法でアスファルト舗装体22に軟化層302を形成したら(軟化層形成工程)、直ぐにレーン300Aのグースアスファルト14の下面と鋼板12の間にリッパー288を挿入する。なお、リッパー288は、鋼板12上面付近の軟化層302に挿入するようにしてもよい。
【0328】
次に、図22(B)に示すように、アクチュエータ296を伸長して挟持部材290を閉じて、リッパー288と挟持部材290とでアスファルト舗装体22を上下面で挟み込む。このとき、押し当て部材304の楔状の先端部がアスファルト舗装体22の所定長さの位置で第1の切目258と交わるように、アスファルト舗装体22にあてがわれる。
【0329】
次に、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を保持した状態で、押し当て部材304の楔状の先端部を支点にしてアスファルト舗装体22を折るように上下挟持装置292を持ち上げる。これにより、図22(C)に示すように、アスファルト舗装体22を分断して、アスファルト塊256として取り出す(取出工程)。
【0330】
アスファルト塊256には、挟持部材290の先端に設けられた押し当て部材304により、所定の位置に折り目が入れられる。よって、取り出されるアスファルト塊256は板状の矩形ブロックになる。
【0331】
次に、図22(D)に示すように、アスファルト塊256をさらに上方へ持上げて、走行台車264の上方に設けられたベルトコンベヤー280Bの上に降ろす(移動工程)。
【0332】
このようにして、第6の実施形態は、第5の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0333】
また、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を挟み込んで、このアスファルト舗装体22を折るように持ち上げることにより、簡単な装置及び方法で、アスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させて分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊256を取り出すことができる。
【0334】
また、アスファルト舗装体22に第2の切目を入れる作業が不要になる。これにより、切目を入れる作業によって鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0335】
また、アスファルト舗装体22の下層は、形成された軟化層により強度が弱くなっているので、容易に折ることができる。
【0336】
なお、第6の実施形態では、押し当て部材304として楔状の断面形状を有する鉄製の部材を用いた例を示したが、アスファルト舗装体22に折り目が付けられる硬さと形状を有していればよい。また、アスファルト舗装体22の所定の位置において、分断するアスファルト舗装体22の道路幅方向の全てに渡って押し当て部材を押し当てずに、アスファルト舗装体22の道路幅方向に渡って押し当て部材が部分的に当たる形状にしてもよい。
【0337】
また、第5、6の実施形態で示した、アスファルト舗装体22に入れる第1の切目258や第2の切目は、図23に示すように、外側に向って徐々に直径が小さくなるように重ね合わせた複数のカッティングブレード306A、306B、306Cによって入れてもよい。このようにすれば、楔状の切目を入れることができ、切目を形成し易く、アスファルト舗装体22の分断も容易になる(アスファルト舗装体22を上方に持ち上げて分断し易い、又は手前に引っ張って分断し易い)。
【0338】
また、第6の実施形態では、押し当て部材304の楔状の先端部を支点にしてアスファルト舗装体22を折る例を示したが、図24に示すように、押し当て部材304を用いずに、アスファルト舗装体22の所定長さの位置で第1の切目258と交わるように、第2の切目を入れて、アスファルト舗装体22を折ってもよい。これにより、より容易にアスファルト舗装体22を折ることができる。
【0339】
第2の切目の深さは、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物までの深さとできるだけ近く、かつ、これらに達しない深さになるようにする。第2の切目の深さは、アスファルト舗装体22の厚さの半分よりも深くした方が、アスファルト舗装体22がより折り易くなるので好ましい。
【0340】
図24には、図23に示した方法で楔状の第2の切目318を形成した後に、上下挟持装置292によってアスファルト舗装体22を挟み込んで、このアスファルト舗装体22を折るように持ち上げることにより、アスファルト舗装体22を分断している状況が示されている。
【0341】
このようにすれば、簡単な装置及び方法で、アスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させて分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊256を取り出すことができる。
【0342】
また、アスファルト舗装体22に入れる第2の切目は、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物に達しない深さまでしか入れられていないので、鋼板12又は鋼板12上に設けられた付属物が傷つくのを防ぐことができる。
【0343】
また、第5、6の実施形態では、保持手段として上下挟持装置292を用いた例を示したが、図25、26に示す吸引装置308、把持装置310を保持手段として用いてもよい。
【0344】
図25に示す吸引装置308は、第2の切目320が入れられたアスファルト舗装体22の上面を吸引してアスファルト舗装体22を保持する。そして、吸引装置308を上方へ移動させることによりアスファルト舗装体22を上方へ持ち上げてアスファルト舗装体22を分断させてアスファルト塊256として取り出す。
【0345】
これにより、挟持装置よりも短い時間でアスファルト舗装体22を保持することができる。よって、施工スピードが上がる。
【0346】
図26に示す把持装置310は、第2の切目320が入れられたアスファルト舗装体22の表面を把持装置310に設けられた爪部材314で掴む。そして、把持装置310を上方へ移動させることによりアスファルト舗装体22を上方へ持ち上げてアスファルト舗装体22を分断させてアスファルト塊256として取り出す。
【0347】
これにより、挟持装置よりも短い時間でアスファルト舗装体を保持することができる。よって、施工スピードが上がる。
【0348】
また、第5の実施形態や図24に示したように、アスファルト舗装体22に第2の切目が入れられる場合には、図27に示す側方挟持装置312を保持手段として用いてもよい。
【0349】
図27に示す側方挟持装置312は、第2の切目320が入れられたアスファルト舗装体22の両側面方向から挟持爪316で挟み込む。そして、把持装置310を上方へ移動させることによりアスファルト舗装体22を上方へ持ち上げてアスファルト舗装体22を分断させてアスファルト塊256として取り出す。
【0350】
第5、6の実施形態では、取り出すアスファルト塊256は矩形ブロックなので、側方挟持装置312によってアスファルト塊を両側面方向から挟み込む場合においても、確実に挟み込むことができる。
【0351】
図25〜27の第2の切目320は、第5の実施形態で示した上下挟持装置292の挟持部材290先端に設けられた切刃298や、図21、23で示した切目装置260と同様の方法を用いて入れればよい。
【0352】
図25〜27には、アスファルト舗装体22に第2の切目320が入れられた状態で、吸引装置308、把持装置310、又は側方挟持装置312によって保持されたアスファルト舗装体22を上方へ持ち上げてアスファルト舗装体22を分断させる例が示されているが、吸引装置308、把持装置310、又は側方挟持装置312によって保持されたアスファルト舗装体22を手前に引っ張ったり、又は折ることによって第5、6の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。吸引装置308、把持装置310、又は側方挟持装置312を用いる場合には、アスファルト舗装体22を分断させるときにアスファルト舗装体22(軟化層302)の下面を溶融させた方が好ましい。
【0353】
また、第5、6の実施形態では、アスファルト舗装体22上に道路幅方向に連結した2台のコイルユニット32を載せた例を示したが、2台以上のコイルユニットを連結させてもよいし、分断するアスファルト舗装体22の全てを1台のコイルユニットで覆うようにしてもよいし、分断するアスファルト舗装体22よりも道路幅方向の長さの小さい1台のコイルユニットを道路幅方向に往復移動させて使用してもよい。
【0354】
また、電磁誘導コイル36の仕様(コイル芯線の断面径、コイルの直径、コイルの巻数等)、形状、配置、及び数等は、鋼板12上面から電磁誘導コイル36下面までの距離やアスファルト舗装体22に軟化層302を形成するために必要な加熱性能等に応じて適宜決めればよい。
【0355】
また、コイルユニット32による鋼板12の加熱は、第5、6の実施形態のように、断続的に行ってもよいし、コイルユニット32を進行方向252に移動させながら連続的に鋼板12を加熱してもよい。
【0356】
コイルユニット32を進行方向に移動させながら連続的に加熱する場合には、前方の第1の組の電磁誘導コイル36によって十分に加熱できなかった鋼板12の部分は、その後、後方の第2の組の電磁誘導コイル36によって加熱されるので、鋼板12の全面を均等に加熱することができる。
【0357】
第1〜6の実施形態で示したコイルユニット32は、第1の組の電磁誘導コイル36を2つ、第2の組の電磁誘導コイル36を3つとしたが、第1の組の複数の電磁誘導コイル36の各々の中心が第2の組の隣接する電磁誘導コイル36の中心間に位置するように偏倚させて、第1の組と第2の組とをフレーム部材34に配置していれば、電磁誘導コイル36をいくつ配置してもよく、第1〜6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0358】
第1の組の電磁誘導コイルを2つ以上とし、第2の組の電磁誘導コイルを第1の組の電磁誘導コイルよりも1つ多い電磁誘導コイルとするのが好ましい。
【0359】
また、第5、6の実施形態では、搬送車両としてダンプトラック254を用いた例を示したが、アスファルト塊256を積載して移送できる車両等であればよい。また、アスファルト舗装体22を取り出した位置Rの前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所にアスファルト塊256を移送してもよい。
【0360】
また、第5、6の実施形態では、移送装置としてベルトコンベヤー280A、280Bを用いた例を示したが、取り出したアスファルト塊256をダンプトラック254の荷台に移送できるものであればよい。また、移送装置を用いずに、取り出したアスファルト塊256をバックホー64付近に仮置きして、別途撤去するようにしてもよい。
【0361】
また、第5、6の実施形態では、バックホー64のアーム62の先端に、保持手段としての上下挟持装置292、吸引装置308、把持装置310、又は側方挟持装置312を設けた例を示したが、これに限らず、保持手段が取付けられて、旋回するアームを備えた装置であればよい。
【0362】
また、第5の実施形態では、第1の切目258を入れた後にアスファルト舗装体22に軟化層302を形成し、その後に第2の切目を入れる例を示したが、これらの順序を違えてもよい。例えば、第1の切目258を入れた後に第2の切目を入れて、その後にアスファルト舗装体22に軟化層302を形成してもよいし、アスファルト舗装体22に軟化層302を形成した後に第1の切目258を入れて、その後に第2の切目を入れてもよい。
【0363】
また、第5、6の実施形態で示したリッパー288の爪部材68において、この上面に剥離層としてのテフロン(登録商標)70をコーティングしたが、剥離層は軟化したアスファルト舗装体22の下面が爪部材68の上面に貼り付かないものであればよい。爪部材68の上面に軟化したアスファルト舗装体22が貼り付く心配がない場合には、爪部材68の上面に剥離層を形成しなくてもよい。
【0364】
爪部材の上面に軟化したアスファルト舗装体22が付着する心配がある場合には、テフロン(登録商標)70のコーティング以外に、軽油、ネッパラン(登録商標)等の油を爪部材68の上面に塗布したり、砂等を爪部材68の上面に撒いてもよい。また、第2の実施形態のように、分離手段となるヒーター78をベース部材66に内臓したり、爪部材68の上面にピエゾ素子等を設けてもよい。
【0365】
また、リッパー288を楔状としたが、少なくともリッパー288の先端部が鋭利になっていればよい。
【0366】
グースアスファルト14の下面と鋼板12との間へリッパー288を容易に挿入するために、爪部材68の先端部分を振動させてもよい。上下方向に振動させると、鋼板を痛めたり、騒音を発生させたりすることが危惧されるので、前後方向に振動させることが好ましい。
【0367】
また、第5、6の実施形態では、リッパー288及び挟持部材290の道路幅方向の幅を、アスファルト塊幅Sよりも小さくしたが、可変式であることが好ましい。
【0368】
リッパー288を櫛状にすれば、アスファルト舗装体22に形成された軟化層302をリッパー288にさらに貼付き難くすることができる。
【0369】
また、第5、6の実施形態で示したような切目装置、軟化層形成装置、取出装置、及び移送装置を1つの移動体に搭載したアスファルト舗装体撤去装置(不図示)を構築すれば、各装置(切目装置、軟化層形成装置、取出装置、及び移送装置)の設置及び撤去の作業を迅速に行うことが可能なので、機動性を発揮することができる。
【0370】
以上、本発明の第1〜6の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜6の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0371】
(実施例)
【0372】
図28、29は、図30に示すアスファルト舗装体(試験体326)の加熱実験の結果である。
【0373】
図30の側面図に示すように、試験体326は、厚さ12mmの鋼板322上に設けられた厚さ38mmの基層アスファルト324と、この基層アスファルト324上に設けられた厚さ38mmの表層アスファルト328によって構成されている。すなわち、アスファルト舗装体の厚さは76mm(=38mm×2)となっている。
【0374】
基層アスファルト324及び表層アスファルト328には、軟化点が67.5°Cである、改質アスファルトを用いた加熱アスファルト混合物(以降、加熱アスファルト混合物と記載する)を用いている。
【0375】
鋼板322の平面寸法は、90cm×180cmであり、鋼板322の上面全てを覆うように基層アスファルト324が設けられ、また、基層アスファルト324の上面全てを覆うように表層アスファルト328が設けられている。すなわち、基層アスファルト324及び表層アスファルト328の平面寸法も90cm×180cmとなっている。
【0376】
平面視にて、表層アスファルト328上面の略中央には、電磁誘導により鋼板322を加熱する電磁誘導コイル330が置かれている。電磁誘導コイル330は、高周波電流213HFA、電力14.0kw、出力70%の加熱特性を有する。
【0377】
電磁誘導コイル330の略中心の下方に位置する基層アスファルト324及び表層アスファルト328中には、温度センサーとしての5つの熱電対332、334、336、338、340が鋼板322上面から上方に向って順に設けられ、これによって熱電対が設置されている各地点の温度が計測される。
【0378】
熱電対332は鋼板322の上面に設けられており、また、鋼板322上面から熱電対334、336、338、340までの距離は、それぞれ9.5mm、19mm、38mm、76mmとなっている。すなわち、熱電対338は基層アスファルト324の上面に設けられ、熱電対340は表層アスファルト328の上面に設けられている。
【0379】
図28(A)〜(D)、図29(E)〜(I)には、熱電対332、334、336、338、340によって計測された、基層アスファルト324及び表層アスファルト328の深さ(縦軸)に対する温度(横軸)が示されている。
【0380】
図28(A)〜(D)、図29(E)〜(I)の点332A、334A、336A、338A、340Aは、熱電対332、334、336、338、340によって計測された値にそれぞれ対応している。
【0381】
また、図28(A)〜(D)は、電磁誘導コイル330の加熱開始から、それぞれ15(s)、30(s)、60(s)、90(s)経ったときの値であり、図29(E)〜(I)は、電磁誘導コイル330の加熱開始から、それぞれ120(s)、150(s)、210(s)、270(s)、360(s)経ったときの値である。
【0382】
実験では、電磁誘導コイル330の加熱開始から210(s)経過した図29(G)のときに、鋼板322と接する5mm程度の溶融層が基層アスファルト324に形成されていることを確認した。また、このとき溶融層上面から上方へ5mm程度の厚さ(表層アスファルト328上面から66mmの深さ)まで基層アスファルト324が軟化している状態を確認した。すなわち、鋼板322に接する厚さ10mm程度の軟化層が基層アスファルト324に形成され、この軟化層の下面の厚さ5mm程度が溶融していることを確認した。
【0383】
よって、アスファルト舗装体の厚さは76mmなので、図29(G)では、アスファルト舗装体の厚さの約1/8(=10mm/76mm)が軟化層になっており、残りの約7/8が固化状態になっている。
【0384】
また、更に加熱を続けた図29(H)、(I)では、温度が55°Cになっている位置が、加熱時間と共に浅くなっている。すなわち、軟化層の厚さが10mm以上になる。
【0385】
また、楔状の部材をこの軟化層に人力で挿入できることを確認した。これにより、この軟化層は、第1〜第6の実施形態で示した方法を用いた場合において、十分にアスファルト舗装体を鋼板から剥離させることが可能な柔らかさであることがわかった。このように、軟化点(67.5°C)以下の温度でも、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させることが可能な柔らかさの軟化層を形成することができる。
【0386】
よって、試験体326の加熱実験により、電磁誘導コイル330で鋼板322を電磁誘導加熱することによって、アスファルト舗装体(基層アスファルト324)に、鋼板322と接する軟化層及び溶融層が形成されることがわかった。
【0387】
また、図29(G)に示すように、鋼板322上面から10mm程度上方の位置(=表層アスファルト328上面から深さ66mmの位置)の温度は約55°Cであるので、アスファルトの温度を55°C以上にすれば、アスファルト舗装体22を鋼板12から剥離させるのに適した粘度であり、かつ10mm程度以上の厚さの軟化層302をアスファルト舗装体22に形成することができる。
【0388】
また、図28、29からわかるように、電磁誘導コイル330による加熱時間の経過に伴って、鋼板322上面の温度も上昇する。
【0389】
また、図29(G)〜(I)からわかるように、鋼板322を210(s)以上加熱し、基層アスファルト324の下面(熱電対332の位置)が80°C以上の高温に達したときにおいても、アスファルト舗装体(表層アスファルト328)上面から60mm程度の深さまでは温度が55°C以下となるので、アスファルト舗装体(表層アスファルト328)上面から60mm程度の深さまでは軟化しない。
【0390】
すなわち、軟化層は、鋼板12上面から上方へ16mm(=76mm−60mm)程度以下までにしか形成されないので、アスファルト舗装体(基層アスファルト324及び表層アスファルト328)の大部分は固化状態になっている。よって、アスファルト舗装体を分断し、板状の矩形ブロックとしてアスファルト塊を取り出すことが可能となる。
【0391】
なお、本実施例では、基層アスファルト324及び表層アスファルト328に、軟化点が67.5°Cである加熱アスファルト混合物を用いたが、基層アスファルト324をグースアスファルトを用いた硬質アスファルト混合物(以降、硬質アスファルト混合物と記載する)とし、表層アスファルト328を加熱アスファルト混合物とした場合においても、熱の伝わり方の傾向は同様である。
【0392】
また、図29(G)〜(I)からわかるように、電磁誘導コイル330による加熱を210(s)以上行えば、鋼板322上面から上方へ10mm程度の位置(熱電対334)の温度は55°C以上になる。これにより、電磁誘導コイル330による加熱を210(s)以上行えばアスファルト舗装体に軟化層が形成することができる。
【0393】
ここで、一般的な道路用アスファルトである、加熱アスファルト混合物や硬質アスファルト混合物において、加熱アスファルト混合物の軟化点は55°C以上75°C以下であり、硬質アスファルト混合物の軟化点は50°C以上65°C以下である。
【0394】
よって、アスファルト舗装体に形成する軟化層の温度が55°C以上になるように、電磁誘導コイルに供給する高周波電力を調整すれば、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させるのに適した粘度の軟化層をアスファルト舗装体に形成することができる。
【0395】
また、軟化層の厚さを10mm以上とすれば、アスファルト舗装体の取出作業が行い易くなるので、軟化層の厚さを10mm以上とし、この軟化層の温度を55°C以上とするのが好ましい。
【0396】
また、加熱アスファルト混合物の場合において、軟化層の温度が55°C以上になるように電磁誘導コイルに供給する高周波電力を調整すれば、アスファルト舗装体を鋼板から剥離させるのに適した粘度の軟化層をアスファルト舗装体に形成することができることについては、試験体326の加熱実験によっても検証されている。
【0397】
また、加熱アスファルト混合物は80°Cで溶融することが試験体326の加熱実験によって確認された。加熱アスファルト混合物の温度−粘度特性から、80°Cの温度における粘度を求めると137P(ポアズ)となる。そして、硬質アスファルト混合物の温度−粘度特性から、137P(ポアズ)の粘度になる温度を求めると96°Cとなる。すなわち、硬質アスファルト混合物の場合は、96°Cで溶融することになる。
【0398】
よって、アスファルト舗装体22に形成する軟化層の温度が、加熱アスファルト混合物では80°C以上、硬質アスファルト混合物では96°C以上になるように、電磁誘導コイル36に供給する高周波電力を調整すれば、軟化層の下面に溶融層を形成することができるので、アスファルト舗装体22を鋼板12からより剥離させ易くなるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0399】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るコイルユニットを示す断面図及び平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るコイルユニットの板材を示す平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るリッパーを示す側面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順を示す説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法の施工手順を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るリッパーを示す側面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係るアスファルト舗装体の剥離方法を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態に係るリッパーを示す説明図である。
【図13】従来のアスファルト路面の剥離方法を示す概要図である。
【図14】従来の加熱剥離装置を示す概要図である。
【図15】従来の誘導加熱装置を示す概要図である。
【図16】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去システムを示す説明図である。
【図17】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去システムの施工手順を示す説明図である。
【図18】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体に第1の切目を入れる方法の説明図である。
【図19】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法の施工手順を示す説明図である。
【図20】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法を示す説明図である。
【図21】本発明の第5の実施形態に係るアスファルト舗装体に第2の切目を入れる方法の説明図である。
【図22】本発明の第6の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法の施工手順を示す説明図である。
【図23】本発明の実施形態に係るアスファルト舗装体に第2の切目を入れる方法の説明図である。
【図24】本発明の第6の実施形態に係るアスファルト舗装体撤去方法を示す説明図である。
【図25】本発明の実施形態に係るアスファルト舗装体の保持手段を示す説明図である。
【図26】本発明の実施形態に係るアスファルト舗装体の保持手段を示す説明図である。
【図27】本発明の実施形態に係るアスファルト舗装体の保持手段を示す説明図である。
【図28】本発明の実施形態に係る実施例における、アスファルト舗装体の深さに対する温度を示す線図である。
【図29】本発明の実施形態に係る実施例における、アスファルト舗装体の深さに対する温度を示す線図である。
【図30】本発明の実施形態に係る実施例における試験体の側面図である。
【符号の説明】
【0400】
12 鋼板
22 アスファルト舗装体
32 コイルユニット(電磁誘導コイルユニット)
36 電磁誘導コイル
60 リッパー(剥離部材)
64 バックホー(取出装置)
70 テフロン(登録商標)(フッ素樹脂、剥離層)
72 切目
74 溶融層(溶融した層)
76 リッパー(剥離部材)
78 ヒーター(加熱手段、分離手段)
82 リッパー(剥離部材)
90 テフロン(登録商標)(フッ素樹脂、剥離層)
126 リッパー(剥離部材)
130 リッパー(剥離部材)
250 アスファルト舗装体撤去システム
252 進行方向
256 アスファルト塊
258 第1の切目
260 切目装置(第1の切目装置、第2の切目装置)
274 計測装置
276 添接板(付属物)
278 ボルト(付属物)
280A、280B ベルトコンベヤー(移送装置)
290 挟持部材(第2の切目装置)
292 上下挟持装置(保持手段、取出装置)
296 アクチュエータ(第2の切目装置)
298 切刃(第2の切目装置)
302 軟化層
304 押当て部材
308 吸引装置(保持手段、取出装置)
310 把持装置(保持手段、取出装置)
312 側方挟持装置(保持手段、取出装置)
314 爪部材
318 第2の切目
320 第2の切目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去方法であって、
前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成工程と、
形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出工程と、
前記取出工程によって取り出された前記アスファルト塊を移動させる移動工程と、
を含むことを特徴とするアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項2】
前記軟化層の温度を、55°C以上とすることを特徴とする、請求項1に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項3】
前記アスファルト舗装体に、該アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの1つ又は複数の第1の切目を入れる第1の切目工程をさらに含み、
前記アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項4】
前記アスファルト舗装体に、前記1つ又は複数の第1の切目と交わる、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの複数の第2の切目を入れる第2の切目工程をさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項5】
前記取出工程は、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して上方に持ち上げる又は手前に引くことによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項6】
前記取出工程は、前記アスファルト舗装体に、前記第1の切目と交わるように押当て部材をあてがい、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して折ることによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴とする、請求項3に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項7】
前記取出工程は、前記アスファルト舗装体を保持手段で保持して折ることによって、前記アスファルト舗装体を分断して前記アスファルト塊として取り出す工程であることを特徴とする、請求項4に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項8】
前記保持手段は、前記鋼板と前記軟化層との間、又は前記軟化層に挿入する剥離部材を備えて、前記アスファルト舗装体を上下方向から挟み込む上下挟持装置であることを特徴とする、請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項9】
前記保持手段は、前記アスファルト舗装体を吸引して保持する吸引装置であることを特徴とする、請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項10】
前記保持手段は、前記第2の切目が入れられた前記アスファルト舗装体を両側面方向から挟み込む側方挟持装置であることを特徴とする、請求項5又は請求項7に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項11】
前記保持手段は、前記アスファルト舗装体の表面を爪部材で掴む把持装置であることを特徴とする、請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項12】
前記アスファルト舗装体の厚みを計測する計測工程をさらに含み、
前記第1の切目及び前記第2の切目の少なくとも1つは、前記計測工程によって計測された前記アスファルト舗装体の厚みに基づいて、該アスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられることを特徴とする、請求項3〜請求項11のいずれか1項に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項13】
前記取出工程において取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載のアスファルト舗装体撤去方法。
【請求項14】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去システムであって、
前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成装置と、
形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出装置と、
前記取出装置によって取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送装置と、
を備えることを特徴とするアスファルト舗装体撤去システム。
【請求項15】
前記アスファルト舗装体に、該アスファルト舗装体の幅を複数の幅に分割する、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの1つ又は複数の第1の切目を入れる第1の切目装置をさらに備え、
前記アスファルト塊は、板状の矩形ブロックとして取り出されることを特徴とする、請求項14に記載のアスファルト舗装体撤去システム。
【請求項16】
前記アスファルト舗装体に、前記1つ又は複数の第1の切目と交わる、前記鋼板又は前記鋼板上に設けられた付属物に達しない深さの複数の第2の切目を入れる第2の切目装置をさらに備えることを特徴とする、請求項15に記載のアスファルト舗装体撤去システム。
【請求項17】
前記アスファルト舗装体の厚みを計測する計測装置をさらに備え、
前記第1の切目及び前記第2の切目の少なくとも1つは、前記計測装置によって計測された前記アスファルト舗装体の厚みに基づいて、該アスファルト舗装体の厚みよりも小さい深さに入れられることを特徴とする、請求項15又は請求項16に記載のアスファルト舗装体撤去システム。
【請求項18】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去システムにおいて、前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する電磁誘導コイルユニットであって、
前記アスファルト舗装体撤去システムの進行方向側に、該進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルの第1の組と、
前記第1の組からみて前記進行方向と反対側に、前記進行方向と交わる向きに並置された複数の電磁誘導コイルの第2の組と、
前記第1の組と前記第2の組とを固定するためのフレーム部材と、
を備え、
前記第1の組と前記第2の組とを、前記第1の組の前記複数の電磁誘導コイルの各々の中心が前記第2の組の隣接する電磁誘導コイルの中心間に位置するように偏倚させて前記フレーム部材に配置することを特徴とする電磁誘導コイルユニット。
【請求項19】
前記第1の組は2つ以上の電磁誘導コイルからなり、前記第2の組は前記第1の組の電磁誘導コイルよりも1つ多い電磁誘導コイルからなることを特徴とする、請求項18に記載の電磁誘導コイルユニット。
【請求項20】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を鋼板から剥離させ、所定の大きさを有するアスファルト塊として撤去するアスファルト舗装体撤去装置であって、
前記鋼板を電磁誘導加熱することによって、下面が前記鋼板に接する軟化層を前記アスファルト舗装体に形成する軟化層形成装置と、
形成された前記軟化層を前記軟化層に接する前記鋼板から剥離させ、前記アスファルト舗装体を分断してアスファルト塊として取り出す取出装置と、
前記取出装置によって取り出された前記アスファルト塊を、該アスファルト塊を取り出した位置の前方、側方、又は後方のいずれか1箇所又は複数箇所に移送する移送装置と、
前記軟化層形成装置、前記取出装置、及び前記移送装置が搭載された移動体と、
を備えることを特徴とするアスファルト舗装体撤去装置。
【請求項21】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を剥すアスファルト舗装体の剥離方法において、
所定の幅に分割する切目を前記アスファルト舗装体に入れる分割工程と、
所定の幅に分割された前記アスファルト舗装体の上方に位置する電磁誘導コイルに高周波電力を供給することにより、前記鋼板を加熱して前記アスファルト舗装体下面を溶融する溶融工程と、
熱伝導性を有し、溶融した前記アスファルト舗装体下面の付着を阻止する剥離層が上面に形成された楔状の剥離部材を、前記アスファルト舗装体下面の溶融した層に挿入する剥離工程と、
を備えることを特徴とするアスファルト舗装体の剥離方法。
【請求項22】
前記剥離層は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項21に記載のアスファルト舗装体の剥離方法。
【請求項23】
前記剥離層は、油であることを特徴とする請求項21に記載のアスファルト舗装体の剥離方法。
【請求項24】
鋼板上に設けられたアスファルト舗装体を剥すアスファルト舗装体の剥離方法において、
所定の幅に分割する切目を前記アスファルト舗装体に入れる分割工程と、
所定の幅に分割された前記アスファルト舗装体の上方に位置する電磁誘導コイルに高周波電力を供給することにより、前記鋼板を加熱して前記アスファルト舗装体下面を溶融する溶融工程と、
熱伝導性を有する楔状の剥離部材を、前記アスファルト舗装体下面の溶融した層に挿入する剥離工程と、
前記剥離部材に設けられた分離手段により、前記剥離部材に貼付いた前記アスファルト舗装体を前記剥離部材から切離す分離工程と、
を備えることを特徴とするアスファルト舗装体の剥離方法。
【請求項25】
前記分離手段は、前記剥離部材の上面を加熱する加熱手段であることを特徴とする請求項24に記載のアスファルト舗装体の剥離方法。
【請求項26】
前記分離手段は、前記剥離部材の上面に設けられた押出手段であることを特徴とする請求項24に記載のアスファルト舗装体の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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