説明

アスベストの迅速判別方法

【課題】保温材、スレート板、吹付け耐火材などの材料に含まれる繊維状物質が、アスベストであるか、否かを、迅速かつ簡易に定性分析することが可能なアスベストの迅速判別方法を提供すること。
【解決手段】繊維状物質を含む材料から採取した試料を高温(800〜1250℃)で加熱し、顕微鏡観察により認められる繊維状物質の有無により、繊維状物質にアスベストが含まれているか、否かを判別することを特徴とするアスベストの迅速判別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状物質または、保温材、スレート板、吹付け耐火材などの材料に含まれる繊維状物質が、アスベストであるか否かを、迅速かつ簡易に定性分析することが可能なアスベストの迅速判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各所でアスベストが問題となっているが、その定められた分析方法、例えば石綿障害予防規則第3条第2項に規定される分析方法は、位相差顕微鏡による分散染色分析とX線回折による定性および定量分析を組み合せたもので、時間を要し、かつ高価である。
【0003】
そこで、公衆安全の観点からも現場で迅速、かつ安価にアスベストと類似繊維状物質(スラグウール、ガラスウール、ロックウールなど)を判別できる方法が求められていた。
【0004】
アスベストとしては、蛇紋岩系のクリソタイル(白石綿)〔MgSi10(OH)〕、角閃石系のアモサイト(茶石綿)〔(Fe,Mg)Si22(OH)〕、クロシドライト(青石綿)〔Na(Fe,Mg)FeSi22(OH,F)〕の他、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトが知られている。これらの中で、クリソライト、アモサイト、クロシドライトの3種が工業的に使用されている。
【0005】
アスベストの簡易分析方法に関しては、既に幾つかの手法が考案されている。例えば、アスベストに含まれる鉄分に着目し、繊維を溶解してその鉄との反応で発色する試薬を用いる方法があるが、アスベストの種類によっては判別できず、かつ鉄分を含むスラグウールなどは誤判定をする場合があり、また劇薬を使用する場合があるなどの問題点がある。他に、偏光顕微鏡を用いる方法(特許文献1)や分散染色法を用いる方法(特許文献2)などもあるが、現場での判別に不向きな高価な機器の使用や、人間の色別観察によるため精度と熟練度の問題がある。
【0006】
そのため、高価な機器や劇薬などを用いず、また人間の熟練度などを要しない、迅速な判別手法の開発が課題であった。
【特許文献1】特開平9−127102号公報
【特許文献2】特開平7−181268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アスベストを迅速かつ簡易に定性分析することが可能なアスベストの迅速判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、アスベストと類似繊維状物質の溶融特性の相違に着目し、類似繊維状物質が溶融する温度以上の高温で繊維状物質を加熱した後の繊維状物質の有無を、顕微鏡を用いて確認することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の通りである。
(1)繊維状物質を含む材料から採取した試料を高温で加熱し、顕微鏡観察により認められる繊維状物質の有無により、材料中にアスベストが含まれているか、否かを判別することを特徴とするアスベストの迅速判別方法、
(2)加熱温度が800℃〜1100℃の範囲であることを特徴とする前記(1)に記載のアスベストの迅速判別方法、
(3)加熱温度が1100〜1250℃の範囲であることを特徴とする前記(1)に記載のアスベストの迅速判別方法、
(4)繊維状物質を含む材料から採取した試料を、連続もしくは断続的に昇温しながら高温で加熱し、そのときの試料の状態を顕微鏡で観察し、顕微鏡観察により認められる繊維状物質の有無により、材料中にアスベストが含まれているか、否かを判別することを特徴とする前記(1)に記載のアスベストの迅速判別方法、
(5)繊維状物質を含む材料から採取した試料を、室温〜1250℃の範囲で、連続もしくは断続的に昇温しながら加熱することを特徴とする前記(4)に記載のアスベストの迅速判別方法、
(6)繊維状物質を含む材料から採取した試料を、無機酸又は有機酸で前処理した後、高温で加熱することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のアスベストの迅速判別方法、
(7)繊維状物質を含む材料が、保温材、スレート板または吹付け耐火材であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のアスベストの迅速判別方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の判別方法によれば、アスベストは結晶質の繊維状物質であるのに対し、ガラスウール、スラグウール、ロックウールなどの類似繊維状物質は非晶質であるため、両者の高温での溶融特性の違いを利用し、加熱後の繊維状物質の有無を顕微鏡観察することにより、アスベストが存在するか否かを迅速かつ簡易に判別することができる。また、繊維状物質にセメントなどが付着している場合は、無機酸または有機酸で前処理することにより、判別がより容易になる。よって、本発明によれば、20分程度(含む前処理)で繊維状物質がアスベストであるか否かを、誰でも判別することができる。
【0011】
また、試料を昇温しながら高温で加熱し、そのときの試料の状態を顕微鏡で観察することにより、顕微鏡観察と画像処理装置などを組み合せた自動判別システムを構築することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明のアスベストの迅速判別方法のフローシートを示した。本発明の迅速判別方法では、繊維状物質を含む材料から採取した試料の加熱温度は、800℃以上であることが好ましく、より好ましくは800℃〜1100℃の範囲である。加熱温度が800℃未満では、類似繊維状物質(スラグウール、ガラスウールなど)が一部加熱溶融しないことがあり、一方、加熱温度が1100℃を超えると、アスベストの繊維形状が保持されなくなることがあるため、アスベストの判別性が悪くなる。
【0013】
アスベストは種類によって異なるが1193℃〜1521℃の融点を有している。他の類似繊維状物質との融点の相違から、800℃以上で加熱すれば、スラグウール(耐熱温度600℃)やガラスウール(耐熱温度300℃)が溶融し、繊維形状を保持することができなくなる。800℃ではスラグウールが一部溶融しないことがあることを考慮すれば、加熱温度は850℃以上が好ましく、最も好ましいのは900℃以上である。また、1100℃以下で加熱すれば、クリソタイル(融点:1521℃)やアモサイト(融点:1399℃)は繊維形状を保持することができるが、融点の低いクロシドライト(融点:1193℃)は複数本の繊維が融着して1本の太い繊維になることを考慮すると、加熱温度は1050℃以下が好ましく、最も好ましいのは1000℃以下である。よって、試料を800〜1100℃の温度範囲で加熱すれば、クリソタイルやアモサイトと、スラグウールやガラスウールとを、簡単に判別することできる。
【0014】
上記のように試料を800〜1100℃の範囲で加熱した場合、アスベストの中では融点の低いクロシドライト(融点:1193℃)や、類似繊維状物質の中では溶融温度の高いロックウール(溶融温度:1200〜1250℃)が存在した場合は、これらを判別することが難しい。このような場合は、ロックウールなどが繊維状の形態を保持することができなくなる温度、好ましくは1100以上で加熱すればよく、加熱温度はより好ましくは1100℃〜1250℃の範囲である。加熱温度が1100℃以上、1250℃以下であれば、クロシドライトは一部溶融することはあっても繊維状を保持しているのに対し、ロックウールは熱収縮または完全溶融するので、両者の形態の違いを利用して判別することができる。
【0015】
以上のように、繊維状物質を含む材料から採取した試料を800〜1100℃で加熱し、繊維状物質が無ければ非アスベストであることを、迅速に判別することができる。また、繊維状物質が存在した場合は、1100〜1250℃で加熱した後の繊維状物質の有無により、繊維状物質が無ければ非アスベストであることを、迅速に判別することができる。
【0016】
本発明の判別方法では、加熱方法は特に限定されない。例えば、適量の試料をセラミック製、白金製などの耐熱性容器にとり、容器ごと石炭成分分析用の小型電気炉やマッフル炉などの適当な加熱炉に入れ、所定の温度で加熱する方法などが挙げられる。加熱時間も特に限定されないが、現場での迅速な判別を考慮すると10分間程度が好ましい。また、試料を、室温〜1250℃の範囲で、連続的又は断続的に昇温しながら加熱し、そのときの試料の状態を顕微鏡で観察する方法を採用することもできる。
【0017】
繊維状物質の有無の観察方法は特に限定されるもではなく、通常、光学顕微鏡を用いて観察する方法で行えば良い。顕微鏡と画像処理装置とを組み合せることもできる。
【0018】
本発明の判別方法によれば、アスベストおよび類似繊維状物質が単体である場合や、容易に単体に近い形で回収できる場合、及びセメントが混合されているような場合でも、上記の方法で容易に判別することができる。
【0019】
一方、吹付け耐火材、保温材、スレート板などの繊維状物質が含まれている材料から採取した試料で、セメントが混合されているような場合は、セメントの断熱性により、そのままでは繊維状物質の判別が困難になる場合がある。このような材料から採取した試料についてアスベストの有無を判別する場合は、採取した材料を、無機酸又は有機酸で前処理し、セメントやコンクリートなどの付着物を溶解除去した後、上記の加熱と顕微鏡による観察を行うことより、より円滑にアスベストの有無を判別することができる。前記の無機酸としては希塩酸、希硫酸、希硝酸などが、有機酸としては希酢酸、希蟻酸、希シュウ酸などが挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
表1に示すアスベストおよび類似繊維状物質を試料に用いて、加熱試験を実施した。加熱は小型電気炉を使用した。試料適量をセラミックボートにとり、設定温度(800〜1100℃)に加熱した電気炉内に挿入し、10分間経過後取り出して顕微鏡(倍率40倍)でその形状変化を観察した。
【0022】
【表1】

【0023】
試験の結果、アスベスト3種は1000℃で加熱しても繊維形状を保持しており、クロシドライトは特有の赤色を有していた。一方、スラグウール、ガラスウールは900℃で加熱した場合、繊維形状は確認されず、全体が溶融して塊状になった。ガラスウールは透明ガラスに近い色彩を有していた。
【0024】
(実施例2)
建築物の梁などに施工されている吹付け耐火被覆に用いられているロックウールと、アスベストとを判別する方法を試験した。建物の耐火被覆に用いられている材料から採取したロックウールを酸処理し、付着しているセメント類を除去し、繊維のみとした。セメント類を除去した後の試料が完全に溶解する温度を探索した結果、10分間の加熱では1250℃程度必要であることが判明した。またその形状は球状であった。一方、酸処理を行わず、セメント類が付着したままの状態であっても、同様に1250℃あれば完全に溶解することが確認された。
【0025】
次に、工業的に用いられてきた3種のアスベストのうち、融点の低いアモサイト及びクロシドライトについて、1250℃で10分間加熱した。その結果、アモサイトは繊維形状を保持していた。一方、クロシドライトは、溶融するが、類似繊維状物質のように球形や円形になることは無く、完全ではないが繊維形状を保持していた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のアスベストの迅速判別方法を説明するフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状物質を含む材料から採取した試料を高温で加熱し、顕微鏡観察により認められる繊維状物質の有無により、材料中にアスベストが含まれているか、否かを判別することを特徴とするアスベストの迅速判別方法。
【請求項2】
加熱温度が800℃〜1100℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のアスベストの迅速判別方法。
【請求項3】
加熱温度が1100〜1250℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のアスベストの迅速判別方法。
【請求項4】
繊維状物質を含む材料から採取した試料を、連続もしくは断続的に昇温しながら高温で加熱し、そのときの試料の状態を顕微鏡で観察し、顕微鏡観察により認められる繊維状物質の有無により、材料中にアスベストが含まれているか、否かを判別することを特徴とする請求項1に記載のアスベストの迅速判別方法。
【請求項5】
繊維状物質を含む材料から採取した試料を、室温〜1250℃の範囲で、連続もしくは断続的に昇温しながら加熱することを特徴とする請求項4に記載のアスベストの迅速判別方法。
【請求項6】
繊維状物質を含む材料から採取した試料を、無機酸又は有機酸で前処理した後、高温で加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアスベストの迅速判別方法。
【請求項7】
繊維状物質を含む材料が、保温材、スレート板または吹付け耐火材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアスベストの迅速判別方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−333505(P2007−333505A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164453(P2006−164453)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】