説明

アスベスト廃棄物の溶融前処理方法及び該装置

【課題】アスベストの飛散を完全に防止でき安全性が高く、且つ装置のメンテナンスを容易としたアスベスト廃棄物の溶融前処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】アスベスト廃棄物50を溶融処理する溶融炉の前段側に設けられ、該アスベスト廃棄物50を破砕する一次破砕ローラ6、二次破砕ローラ7を備え、これらの破砕ローラ6、7が鉛直方向に延設されたケーシング4内に配置され、該ケーシング4上部には廃棄物投入シュート2が、ケーシング下端8には破砕物排出口が設けられており、ケーシング内は前記ケーシング下端を水槽9内に浸漬して水封することにより閉鎖空間が形成されるとともに該閉鎖空間が負圧状態に維持される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト廃棄物を溶融処理する前に破砕を含む前処理を行う技術に関し、特にアスベストの飛散を防止でき、また系外へ有害なアスベストが排出されることがなく安全性の高い処理を可能としたアスベスト廃棄物の溶融前処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は天然の繊維性鉱物で、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの優れた特性を有しており、従来は建築物の保護材や種々の保温材などとして広範囲で使用されていたが、現在は発ガン性等の人体の健康に対する影響が指摘され、アスベストの使用、生産は規制されている。そこで、近年は大量に使用されてきたアスベスト材の廃棄処理が問題となっている。
アスベストは非常に微細な繊維であり、飛散したアスベストの粉塵を人が吸引すると疾病を引き起こす惧れがあるため、現在アスベスト廃棄物は特別管理産業廃棄物に指定され、アスベスト廃棄物の処理に際しては、所要の措置を講じる必要がある。
【0003】
従来の代表的なアスベスト廃棄物の処理方法としては、特別管理産業廃棄物としてセメント固化若しくは密閉梱包した後に最終処分場に埋め立てる方法、溶融により分解無害化する方法が挙げられる。最終処分場に埋め立てる場合には埋立地の枯渇化、管理体制による費用増大等の問題から埋立処理には限界がある。一方、溶融による中間処理を行い、分解無害化されたアスベスト廃棄物は、通常の産業廃棄物として取り扱うことができるようになる。一般的に溶融処理は、アスベスト廃棄物を1500℃以上の炉内で溶融した後固化するもので、これによりセメント固化する場合に比べて極めて容積を小さくすることができる。
【0004】
アスベスト廃棄物としては、スレート材等の建築廃材、保温材或いは断熱材等の各種工業製品などがあり、これらは形状、大きさが不均一であるため溶融処理に適した大きさに破砕しなければならない。しかし、アスベスト廃棄物を破砕する際にはアスベスト繊維が飛散する惧れがある。例えばスレート材は非飛散性であるため、そのままの状態で運搬することが可能であるが、破砕する際には固定化されていた微細な繊維が飛散することが考えられる。従って、アスベスト廃棄物の破砕において飛散を防止するようにした各種技術が提案されている。
特許文献1(特開昭63−282181号公報)では、解体現場で液状水ガラスを塗布してアスベストの飛散を防止する方法が開示されている。また、特許文献2(特開2000−79380号公報)には、廃アスベスト材を破砕機で細かくし接着剤と混練してペレット化してから溶融炉に投入する技術が開示されている。さらに、特許文献3(特開平4−18974号公報)には、負圧密閉空間内に液状噴霧域を形成し、噴霧下で石綿セメント管を破砕機で破砕する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−282181号公報
【特許文献2】特開2000−79380号公報
【特許文献3】特開平4−18974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される方法では、アスベストを水ガラスで覆っても破砕の際には破断面からアスベストが飛散してしまうため、破砕機を含む処理空間を隔離しなければならない。また、特許文献2に記載される方法では、廃アスベストを破砕機で細かくする際にアスベストが飛散してしまう。特許文献3に記載される方法では、破砕機を覆う外郭体が必要であるため装置が大きくなってしまい、またメンテナンス時に外郭体内に作業員が入れないためメンテナンスが困難であるという問題があった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、アスベストの飛散を完全に防止でき安全性が高く、且つ装置のメンテナンスを容易としたアスベスト廃棄物の溶融前処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、アスベスト廃棄物を溶融処理する溶融炉の前段側に設けられ、該アスベスト廃棄物を破砕する破砕手段を備えたアスベスト廃棄物の溶融前処理装置において、
前記破砕手段が鉛直方向に延設されたケーシング内に配置され、該ケーシング上部には廃棄物投入シュートが、ケーシング下端には破砕物排出口が設けられており、
前記ケーシング内は前記ケーシング下端を水封することにより閉鎖空間が形成されるとともに該閉鎖空間が負圧状態に維持されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ケーシング内に閉鎖空間を形成し、該閉鎖空間を負圧状態として破砕する構成としたため、ケーシング外へのアスベストの飛散を完全に防止することができる。閉鎖空間は破砕物排出口側を水封により遮断しているため、破砕物を排出する際に空気が侵入することを防げる。また、ケーシング内の閉鎖空間のみにアスベストの飛散を留めているため、前処理装置が設置される作業室環境は安全となり、作業員の出入りが自由となるため装置のメンテナンスが容易となる。尚、本構成によれば、作業室環境におけるアスベスト濃度を大気中アスベスト敷地境界基準値である10本/L以下に抑えることができる。ここで、該基準値は、空気1L中のアスベスト繊維の本数を示す。
【0009】
また、前記破砕手段と前記ケーシング上方空間を遮断する複数段階の開閉手段が設けられ、前記破砕手段は、該破砕手段の直上に位置する前記開閉手段の開閉タイミングに合わせて駆動することを特徴とする。
このように、開閉手段を設けることにより、アスベストの飛散が生じやすい破砕手段周辺を確実に隔離することができ、アスベストの飛散を完全に防止することが可能となる。
【0010】
さらに、前記廃棄物投入シュート内に積層されたアスベスト廃棄物によりケーシング内外雰囲気を遮断するマテリアルシールが形成されていることを特徴とする。
このように、廃棄物投入シュートにマテリアルシールを形成することにより、ケーシング内雰囲気と外部が通気することを防ぎ、アスベストが外部へ放出されることを防止できる。
【0011】
また、前記溶融前処理装置が備える可動部位の直下に水散布手段が設けられていることを特徴とする。
本発明は、例えば開閉手段や破砕手段のようなアスベストが飛散し易い可動部位に水を散布することにより微粒子を落下させ、ケーシング内においてもアスベストの飛散を抑制することができる。
【0012】
さらに、前記閉鎖空間を負圧状態に維持するための吸引手段が設けられ、該吸引手段により排出される吸引排ガスを、前記溶融炉に併設された排ガス処理設備の集塵装置より上流側に導入するとともに、該集塵装置にて回収された飛灰の少なくとも一部を前記溶融炉に導入することを特徴とする。
このように、溶融炉の排ガス処理設備にて前処理装置からの吸引排ガスを処理することにより、新たに排ガス処理設備を設置する必要がなくなる。また、高温の溶融排ガスが、吸引排ガスと合流することにより冷却されるため、排ガス処理設備に減温塔を設置しないようにすることも可能となる。また、集塵装置にて回収された飛灰はアスベストを含む可能性があるため、溶融路に導入することにより安全に処理できる。
【0013】
さらにまた、前記閉鎖空間を負圧状態に維持するための吸引手段が設けられ、該吸引手段により排出される吸引排ガスを、前記溶融前処理装置に併設された集塵装置に導入するとともに、該集塵装置にて回収された塵埃の少なくとも一部を前記溶融炉に導入することを特徴とする。
本発明では、プラズマ溶融炉の排ガス処理設備とは別に、前処理装置の排ガス処理設備を別系統で設けることにより、前処理装置にて発生した排ガス量に合わせて排ガス処理設備を稼動することができ、設備の運転が容易となる。また、吸引排ガスの集塵装置は低温の吸引排ガスを処理する設計とすればよく、耐熱性の高いろ布を使用する必要がなく、低コスト化できる。また、集塵装置にて回収された塵埃はアスベストを含む可能性があるため、溶融炉に導入することにより安全に処理できる。
【0014】
また、アスベスト廃棄物の溶融処理前に、主として該アスベスト廃棄物の破砕からなる前処理を行うアスベスト廃棄物の溶融前処理方法において、
前記アスベスト廃棄物を、水封により形成された閉鎖空間にて負圧状態下で破砕することを特徴とする。
さらに、前記閉鎖空間から吸引された吸引排ガスを、前記溶融処理からの溶融排ガスを処理する排ガス処理の集塵工程より前に導入して溶融排ガスと共に処理するとともに、該集塵工程にて回収された飛灰の少なくとも一部を前記溶融処理に導入することを特徴とする。
さらにまた、前記閉鎖空間から吸引された吸引排ガスを、前記溶融処理からの溶融排ガスとは別に集塵するとともに、該集塵にて回収された塵埃の少なくとも一部を前記溶融処理に導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上記載のごとく本発明によれば、負圧状態の閉鎖空間内でアスベスト廃棄物を破砕する構成としたため、アスベストの飛散を完全に防止することができる。また、ケーシング内の閉鎖空間のみにアスベストの飛散を留めているため、作業室環境が安全となり装置のメンテナンスが容易となる。さらに、開閉手段、水散布手段を設けることにより、ケーシング内においてもアスベストの飛散を抑制することができるため、更なる安全性が確保される。
【0016】
さらに、前処理装置からの吸引排ガスを溶融排ガスの処理設備にて処理する構成とすることにより、新たに排ガス処理設備を設ける必要がなく、また溶融排ガスが冷却されるため排ガス処理設備にて減温塔を設けない構成とすることもできる。
また、前処理装置からの吸引排ガスを、溶融排ガスの処理設備とは別の排ガス処理設備にて処理する構成とすることにより設備の運転が容易となるとともに、低い温度に対応した装置設計とすることができ、低コスト化が可能となる。
さらに、集塵装置にて回収された飛灰はアスベストを含む可能性があるため、溶融炉に導入することにより安全に処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の実施例に係るアスベスト廃棄物の前処理装置の概略構成図、図2は図1に示した前処理装置を備えた処理システムの全体構成図、図3は図2とは別の処理システムの全体構成図である。
【0018】
図1に示されるように、本実施例に係るアスベスト廃棄物の前処理装置1は、破砕を主とする前処理を行う装置であり、溶融炉の前段側に設けられる。処理対象とされるアスベスト廃棄物50は、少なくともアスベストを含む廃棄物であり、例えばスレート材等の建築廃材、保温材或いは断熱材等の各種工業製品などが挙げられる。
前処理装置1は、鉛直方向に延設されたケーシング4を有し、該ケーシング4の上方にはアスベスト廃棄物50を投入する投入シュート2が設けられている。
投入シュート2の下端には押し込み機構が備えられ、該押し込み機構は不図示の駆動装置により前後方向に駆動するプッシャ3から構成される。プッシャ3は連続的若しくは間欠的に駆動して投入シュート2内のアスベスト廃棄物50をケーシング4内に所定量ずつ押し込むようになっている。アスベスト廃棄物50の供給量は、押し込み機構により調整可能である。投入シュート2内にはアスベスト廃棄物50が積層され、ケーシング4内外雰囲気を遮断するマテリアルシールが形成される。
【0019】
ケーシング4の下方には破砕手段である一次破砕ローラ6と二次破砕ローラ7とが所定間隔を隔てて配置される。一次破砕ローラ6と二次破砕ローラ7は鉛直方向に直列に配置され、一次破砕ローラ6の下流側に二次破砕ローラ7が設けられている。これらの破砕ローラ6、7は、対向する回転刃が協動して図中矢印方向に回転し、被破砕物を噛みこみ破砕する装置である。破砕手段はこれに限定されるものではなく、アスベスト廃棄物50を所定大きさ以下まで破砕する装置であれば何れでもよい。一次破砕ローラ6ではアスベスト廃棄物50を粗破砕し、二次破砕ローラ7では、一次破砕ローラ6で破砕された破砕片をさらに細かくなるように細破砕する。本実施例では破砕ローラを直列に2つ設けた構成としているが、一又は直列方向に2以上の複数設けた構成とすることができる。このように、破砕手段を複数設けて、多段階に分けて破砕することにより、故障を防ぎ安全性を確保できる。
【0020】
一次破砕ローラ6の上方には二重ダンパ5が設けられている。二重ダンパ5は、夫々同時開放を禁止した一対の可動ダンパ5a、5bからなる。可動ダンパはケーシング4の夫々上下方向に設けられ、不図示の駆動装置によってスライド式に開閉作動するようになっており、順次開閉することにより落下してきたアスベスト廃棄物50を下方へ送りだす構成となっている。本実施例では、前処理装置1に二重ダンパ5を設けた構成としているが、ケーシング4内空間を遮断とする手段であれば何れでもよい。また、3以上のダンパを直列に配置する構成としてもよい。アスベスト廃棄物50は、スレート材のような非飛散性の場合でも、供給時に擦れたり折れたりして飛散する惧れがあるので、二重ダンパ5を交互に開くことによりアスベストの飛散を完全に防止する。
【0021】
ケーシング4の下方には水が貯留された水槽9が設けられ、該水槽9には水封コンベア10が浸漬されている。該水封コンベア10の搬送方向側には脱水コンベア11が設けられる。水封コンベア10から出た破砕物51は、水切りされてから脱水コンベア11に乗り継ぐようになっている。このとき、脱水コンベア11はメッシュ状若しくはスリット状として、該コンベア11上でも水切りされることが好ましい。
また、脱水コンベア11上を搬送された破砕物51を脱水する脱水装置20を設けることが好ましい。該脱水装置20は、少なくとも破砕物51を水切りできる程度の機能を有し、好適には脱水、乾燥機能を有するものとする。このとき、アスベスト繊維が飛散しない範囲で脱水、乾燥を行うようにする。このように、破砕物51を脱水、乾燥することにより、溶融電力が増大することを低減する。また、乾燥装置を設ける場合には、プラズマ溶融炉21の排ガスの廃熱を用いるようにしてもよい。
【0022】
さらに、アスベスト廃棄物50の破砕物51が排出されるケーシング4の下端8は水槽9に浸漬され、少なくとも一次、二次破砕ローラ6、7が配置される部位が閉鎖空間を形成するとともに、該閉鎖空間は負圧状態に維持されるようにする。このとき、ケーシング4内の閉鎖空間から誘引ファン33により吸引を行い、負圧状態に維持している。廃棄物投入シュート2側は、上記したマテリアルシール若しくは二重ダンパ5により遮断することが好ましい。
このように、ケーシング4内に閉鎖空間を形成し、該閉鎖空間を負圧状態として破砕する構成とすることにより、ケーシング外へのアスベストの飛散を完全に防止することができる。該閉鎖空間は、破砕物排出口側であるケーシング下端を水封により遮断しているため、破砕物51を排出する際に空気が侵入することを防げる。また、ケーシング4内の閉鎖空間のみにアスベストの飛散を留めているため、前処理装置1が設置される作業室環境は安全となり、作業員の出入りが自由となるため装置のメンテナンスが容易となる。
【0023】
投入シュート15若しくはケーシング4上方には、水散布ノズル15〜18が取り付けられており、アスベスト廃棄物50に水を散布するようにしている。
水散布ノズルの取り付け位置は、少なくとも一次破砕ローラ6の直上とし、好適には可動部位の上方に取り付ける。具体的には、可動ダンパ5aの直上に取り付けた水散布ノズル16、可動ダンパ5aより下方で可動ダンパ5bの直上に取り付けた水散布ノズル17、同様に、可動ダンパ5bより下方で一次破砕ローラ6の直上に取り付けた水散布ノズル18、さらに、投入シュート15の上方に取り付けた水散布ノズル15が挙げられる。
このように、可動部位ではアスベスト廃棄物が移動する際に飛散する可能性があるため、その上方に水散布ノズルを取り付けることにより、水散布で微粒子を落下させ、確実に飛散防止を達成できる。また、投入シュート15の上方に設けることにより、装置外部へのアスベストの飛散を防止でき、安全性が向上する。
【0024】
水槽9内の水の少なくとも一部はポンプ13により引き抜かれ、HEPAフィルタ12によりろ過され、水中に含まれるアスベスト繊維等のゴミ、塵埃等を除去した後に、水散布ノズル15〜18から投入シュート2若しくはケーシング4内に散布される。散布された水は、ケーシング4内を流下して再び水槽9内に戻り、循環するようになっている。
尚、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)12とは、空気中からゴミ、塵埃などを取り除き、清浄空気にする目的で使用するエアフィルタの一種であり、空気清浄機やクリーンルームのメインフィルタとして用いられる公知のフィルタである。HEPAフィルタ12は、定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、且つ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタと規定されている。また、使用済みのHEPAフィルタ32は、プラズマ溶融炉21(図2参照)にて溶融処理するとよい。
また、排出時に破砕物51が浮遊して蓄積することを防止するために、水封高さと、二次破砕ローラ7下端までの高さを比重に応じて設定することが好ましい。例えば、ケイ酸カルシウム板は比重が0.2〜0.7であるため、少なくとも沈没高さの5倍以上に設定すれば、仕切りをくぐって排出可能である。
【0025】
前処理装置1の処理方式は、バッチ式でもよいし、連続式でもよい。
また、破砕ローラ6、7の駆動タイミングは、二重ダンパ5の開閉タイミングに合わせることが好ましい。特に好適には、一次破砕ローラ6の直上にある可動ダンパ5bの閉時に、一次破砕ローラ6を駆動して破砕を行うようにする。最もアスベストの飛散し易い一次破砕ローラ6にて破砕を行っている間は直上の可動ダンパ5bが閉じているため、ケーシング上部側へ飛散物が舞うことを防止できる。
【0026】
図2に示されるように、本実施例に係る溶融前処理装置1を備えた処理システムは、溶融前処理装置1と、前処理後の廃棄物51を脱水する脱水装置20と、脱水した廃棄物を溶融するプラズマ溶融炉21と、該プラズマ溶融炉21にて発生した排ガスを処理する排ガス処理設備と、該プラズマ溶融炉21から排出される溶融スラグの冷却、水砕に使用した水を処理する水処理設備29と、を備える。
本実施例では、アスベスト廃棄物の溶融処理を行う溶融炉としてプラズマ溶融炉1を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、プラズマ溶融炉又は電気抵抗炉等の電気式溶融炉、バーナ炉に代表される表面溶融炉等の燃焼式溶融炉などの各種溶融炉を用いることができる。
【0027】
脱水装置20にて排出された破砕物51はプラズマ溶融炉21に投入される。
プラズマ溶融炉21は、炉本体22の炉蓋から主電極23が垂下され、これに対向して炉底から炉底電極24が挿設されている。プラズマ灰溶融炉21では、これらの電極間に直流電流を通流して炉内にプラズマアークを発生させる。炉内に投入された被溶融物は、プラズマアーク熱及び電極間を流れる電流のジュール熱により溶融し、溶融スラグとして炉底に溜まる。また溶融スラグの下部には比重差により溶融メタルが形成される。プラズマ溶融炉21での溶融後は、溶融スラグをオーバーフローさせ出滓口25より流出させる。
出滓口25より排出された溶融スラグは水槽27内に流下する。高温の溶融スラグは、水槽27内に貯留された水砕水によって急冷されることにより、粒上の塊である水砕スラグ53となる。水砕スラグ53は、水砕コンベア28により移送され排出される。
【0028】
一方、プラズマ溶融炉21の出滓口25から排出された排ガスは、該出滓口25に連結された二次燃焼室26を経て排ガス処理設備に送給される。排ガス処理設備は、減温塔30と、バグフィルタ31と、HEPAフィルタ32と、誘引ファン33と、煙突29とから構成される。
プラズマ溶融炉21から排出された排ガスは減温塔30にて冷却水の噴霧により冷却され、バグフィルタ31に送給され、該バグフィルタ31にて排ガス中の煤塵を捕集して除去する。さらに本実施例では、バグフィルタ31にて除去しきれないアスベストが残存する場合に備えて、バグフィルタ31の後段に、HEPAフィルタ32等の高性能フィルタを備えた高性能除塵装置を設けている。該除塵装置では、HEPAフィルタ32により、バグフィルタ31で捕集しきれなかった微細なアスベスト繊維を完全に除去することができる。
HEPAフィルタ32を通過した排ガスは必要に応じて不図示の湿式洗煙塔に導入され、洗浄水により排ガス中に残存するダイオキシン類、酸性成分等を除去した後、煙突34より大気放出、或いは他の排ガス処理設備へ送給される。
【0029】
さらに、本実施例では、溶融前処理装置1から吸引した排ガス52を、プラズマ溶融炉21に併設される排ガス処理設備のバグフィルタ31より上流側に導入する構成としている。好適には、誘引ファン33により減温塔30とバグフィルタ31の間の排ガス55の管路に導き、該排ガス55とともにバグフィルタ31に導入する。さらに、バグフィルタ31にて回収されたアスベスト繊維を含む飛灰56は、溶融炉21に戻し、溶融処理することが好ましい。同様に、HEPAフィルタ31にて捕集されたアスベスト繊維等のゴミ、塵埃はプラズマ溶融炉21に戻すことが好ましい。また、使用済みのHEPAフィルタ31は、プラズマ溶融炉21にて溶融処理するとよい。
このように、プラズマ溶融炉21の排ガス処理設備にて前処理装置1からの排ガ52を処理することにより、新たに排ガス処理設備を設置する必要がなく、また、プラズマ溶融炉21からの高温の排ガスが、前処理装置1からの排ガス52と合流させることにより冷却されるため、減温塔30を設置しないようにすることも可能である。
【0030】
また、図2の別の形態として、図3に示す処理システムでは、プラズマ溶融炉21の排ガス処理設備とは別に、バグフィルタ35と、HEPAフィルタ36と、誘引ファン37とからなる排ガス処理設備を設け、前処理装置1から吸引した排ガス57をこの排ガス処理設備にて処理する構成となっている。前処理装置1からの排ガス57は、誘引ファン37により吸引されてバグフィルタ35に導かれ、該バグフィルタ35にて排ガスを除塵した後、HEPAフィルタ36にてろ過して残存する微細なアスベスト繊維等を除去した後に煙突34、若しくは別に設けた煙突より大気放出される。さらに、図2の処理と同様に、バグフィルタ35及びHEPAフィルタ36にて捕集されたアスベスト繊維を含むゴミ、塵埃58は、プラズマ溶融炉21に戻して溶融処理することが好ましい。
【0031】
本構成のように、プラズマ溶融炉21の排ガス処理設備とは別に、前処理装置1の排ガス処理設備を別系統で設けることにより、前処理装置1にて発生した排ガス量に合わせて排ガス処理設備を稼動することができ、設備の運転が容易となる。また、バグフィルタ35では低温の排ガス57を処理することとなり、耐熱性の高いろ布を使用する必要がなく、低コスト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係るアスベスト廃棄物の前処理装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した前処理装置を備えた処理システムの全体構成図である。
【図3】図2とは別の処理システムの全体構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 前処理装置
4 ケーシング
5 二重ダンパ
6 一次破砕ローラ
7 二次破砕ローラ
9 水槽
10 水封コンベア
11 脱水コンベア
12 HEPAフィルタ
15〜18 水散布ノズル
20 脱水装置
21 プラズマ溶融炉
30 減温塔
31、35 バグフィルタ
32、36 HEPAフィルタ
33、37 誘引ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト廃棄物を溶融処理する溶融炉の前段側に設けられ、該アスベスト廃棄物を破砕する破砕手段を備えたアスベスト廃棄物の溶融前処理装置において、
前記破砕手段が鉛直方向に延設されたケーシング内に配置され、該ケーシング上部には廃棄物投入シュートが、ケーシング下端には破砕物排出口が設けられており、
前記ケーシング内は前記ケーシング下端を水封することにより閉鎖空間が形成されるとともに該閉鎖空間が負圧状態に維持されることを特徴とするアスベスト廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項2】
前記破砕手段と前記ケーシング上方空間を遮断する複数段階の開閉手段が設けられ、前記破砕手段は、該破砕手段の直上に位置する前記開閉手段の開閉タイミングに合わせて駆動することを特徴とする請求項1記載のアスベスト廃棄物廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項3】
前記廃棄物投入シュート内に積層されたアスベスト廃棄物によりケーシング内外雰囲気を遮断するマテリアルシールが形成されていることを特徴とする請求項1記載のアスベスト廃棄物廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項4】
前記溶融前処理装置が備える可動部位の直下に水散布手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のアスベスト廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項5】
前記閉鎖空間を負圧状態に維持するための吸引手段が設けられ、該吸引手段により排出される吸引排ガスを、前記溶融炉に併設された排ガス処理設備の集塵装置より上流側に導入するとともに、該集塵装置にて回収された飛灰の少なくとも一部を前記溶融炉に導入することを特徴とする請求項1記載のアスベスト廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項6】
前記閉鎖空間を負圧状態に維持するための吸引手段が設けられ、該吸引手段により排出される吸引排ガスを、前記溶融前処理装置に併設された集塵装置に導入するとともに、該集塵装置にて回収された塵埃の少なくとも一部を前記溶融炉に導入することを特徴とする請求項1記載のアスベスト廃棄物の溶融前処理装置。
【請求項7】
アスベスト廃棄物の溶融処理前に、主として該アスベスト廃棄物の破砕からなる前処理を行うアスベスト廃棄物の溶融前処理方法において、
前記アスベスト廃棄物を、水封により形成された閉鎖空間にて負圧状態下で破砕することを特徴とするアスベスト廃棄物の溶融前処理方法。
【請求項8】
前記閉鎖空間から吸引された吸引排ガスを、前記溶融処理からの溶融排ガスを処理する排ガス処理の集塵工程より前に導入して溶融排ガスと共に処理するとともに、該集塵工程にて回収された飛灰の少なくとも一部を前記溶融処理に導入することを特徴とする請求項7記載のアスベスト廃棄物の溶融前処理方法。
【請求項9】
前記閉鎖空間から吸引された吸引排ガスを、前記溶融処理からの溶融排ガスとは別に集塵するとともに、該集塵にて回収された塵埃の少なくとも一部を前記溶融処理に導入することを特徴とする請求項7記載のアスベスト廃棄物の溶融前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−253117(P2007−253117A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83639(P2006−83639)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】