説明

アスベスト無害処理中和濾液の利用方法

【課題】アスベスト含有廃材無害化処理した処理液の中和処理後の濾液の排水処理費用を低減し、更に、該中和濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理に再利用することができるとともにセメント原料としても利用することができる、アスベスト無害処理中和濾液の利用方法を提供する。
【解決手段】アスベスト含有廃材を塩酸およびフッ素を含む化合物を含む処理溶液で該廃材中のアスベストを無害化処理し、得られた処理廃液に消石灰を添加することで該処理液を中和し、生じた沈殿物を濾過して得られた中和濾液に硫酸を添加して濾過し、得られた固形分をセメント原料として再利用するとともに、濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液として再利用する、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの無害化処理中和濾液の利用方法に関し、特に、アスベストを含有する廃材を無害化した処理液を中和処理して得られた中和濾液を、セメント原料やアスベストの無害化処理に再利用する、アスベスト無害化処理中和濾液の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト材料は長期間にわたって強度低下が起きないことから、様々な分野で広く使用されてきており、スレート板、水道管、耐火被覆材、ブレーキパッド、ガスケット、保温板、ロープ、パッキング、アセチレンボンベの充填材として多くの部材に使用されてきた。
【0003】
特に従来のセメント系ボード等は、耐火性、遮音性及び保温性等に優れていることから、耐火性被覆材等として、吹き付け施工品、天井、壁材等に多く用いられてきたが、かかる従来のセメント系ボードの多くにはアスベストが含有されていた。
しかし、アスベストは、石綿肺、肺癌、悪性中皮腫など多くの健康阻害の要因となることが近年明らかとなり、使用が禁止されており、早急に廃棄・無害化処理をしなければならない状況となっている。
【0004】
これまでのアスベスト含有廃材は、一般廃棄物として取り扱われ、現在は産業廃棄物として廃棄処分されているが、アスベストの飛散や放散が問題となっており、十分な安全対策が求められている。
【0005】
また、耐火被覆材や崩壊した天井板などアスベストを含有するセメント系ボード等の建材を用いた建造物の解体等がピークを迎えているが、アスベストの暴露とそのアスベストの飛散、放散の問題が深刻化している。
【0006】
かかるアスベスト(石綿)は天然に産する鉱物繊維で、蛇紋岩系のクリソタイル(3MgO・2SiO・2HO)、角閃石系のアモサイト((Mg,Fe)Si22(OH))、クロシドライト(NaFe2+Fe3+Si22(OH))、アンソフィライト(MgSi22(OH))、トレモライト(CaMgSi22(OH))、アクチノライト(Ca(Mg,Fe)Si22(OH))が挙げられる。
かかる蛇紋岩系のクリソタイルは、加熱すると約700℃で脱水、変態し、約900℃で無害なフォレストライト(2MgO・SiO)になることが知られているが、実際には、容易に無害化することは困難であり、従ってその有効利用も十分に図られていない。
【0007】
かかるアスベストの有害性は、その繊維質に由来するものであるので、繊維質の改質、融解により無害化する方法として、以下の方法が提案されている。
特開2008−246445号公報(特許文献1)には、アスベストを含有する廃材を酸で溶解して無害化するアスベストの無害化処理方法において、カルシウムまたはマグネシウムと反応して水溶性塩を生成する第1の酸により、アスベストを含有する廃材を溶解する第1工程、第1工程の処理液に、カルシウムまたはマグネシウムと反応して水不溶性塩を生成する第2の酸を接触させて、水不溶性塩を析出させる第2工程、及び第2工程の処理液を固液分離する第3工程とを有することを特徴とするアスベストの無害化処理方法が開示されている。
【0008】
また、特開2009−029660号公報(特許文献2)には、フッ素を含む化合物と鉱酸とを含む処理水溶液を用いてアスベスト含有廃材を無害化処理した後の溶液をアルカリで中和し、生じた沈殿物をカルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカの製造時の原料として配合することを特徴とする、セメントクリンカの製造方法が開示されている。
【0009】
更に、特開2008−273748号公報(特許文献3)には、アスベスト及びカルシウムを含有する廃材に硫酸を含浸させて、前記廃材に含有されるアスベストを非アスベスト化するとともに、含有されるカルシウムを硫酸と反応させて石膏を生成させた無害化処理物を、セメント製造時の石膏源として配合することを特徴とする、セメントの製造方法が開示されている。
【0010】
しかし、上記従来のアスベスト含有廃材の無害化方法では、アスベスト含有廃棄物の処理から得られた中和処理後の中和濾液を十分に利用するものではなく、特に中和処理液を濾過した後の濾液には中和処理では除けないカルシウム、塩素、フッ素等のイオンが含まれているため、該濾液には十分な排水処理が要され、従って、該排水処理には十分な設備と高額な費用が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−246445号公報
【特許文献2】特開2009−029660号公報
【特許文献3】特開2008−273748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点を解消し、アスベスト含有廃材を無害化処理した処理液の中和処理後の濾液の排水処理費用を低減し、更に、該中和濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理に再利用することができるとともに、セメント原料としても利用することができる、アスベスト無害化処理中和濾液の利用方法を提供することである。
特に、本発明の目的は、該中和処理による濾液から得られた固形分を、セメント用の石膏原料に再利用するとともに、濾液を精製してアスベスト含有廃材を無害化処理するための酸として利用することができる、アスベスト無害化処理中和濾液の利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法は、アスベスト含有廃材を塩酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理溶液で該廃材中のアスベストを無害化処理し、得られた処理溶液に消石灰を添加することで該処理溶液を中和し、生じた沈殿物を濾過して得られた中和濾液に硫酸を添加して固形分を析出させて更に濾過し、得られた析出物をセメント原料として再利用するとともに、濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液として再利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。
【0014】
好適には、上記本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和濾液に硫酸を添加して濾過後に得られた濾液を蒸留することにより、該濾液に含まれる塩酸を精製し、該精製塩酸をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液の塩酸として利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。
【0015】
また好適には、上記本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和濾液に硫酸を添加して析出させた固形分をセメント製造用の石膏原料として利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。
【0016】
更に好適には、上記本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和処理後に生じた前記沈殿物を、セメントクリンカの製造に用いることを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法により、アスベスト含有廃材を無害化処理した処理溶液の中和処理後に得られる中和濾液の有効な再利用を図ることができる。
特に従来は、アスベスト含有廃材の無害化処理溶液を中和処理した後の中和濾液に塩化カルシウム等の塩が含まれていたため、排水処理に多大な時間と費用がかかっていたが、該中和濾液を更に硫酸処理することで、該中和濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理に再利用することができるとともに、セメント原料としても利用することができ、従って排水処理費用を低減することが可能となる。
更には、中和処理により得られた沈殿物も、セメントクリンカ用の原料に再利用することが可能となる。
このように、本発明においては、アスベスト含有廃材を無害化処理した後の中和処理濾液の再資源化が図られ、また無害化廃液処理のコストを低減させることができる。
【0018】
更に、かかるアスベスト含有廃材を無害化処理した処理廃液を中和した後の沈殿物には、例えば、蛍石(CaF)、ボーキサイト(Al)や、酸化鉄原料、ケイ石の原料代替物が含まれるので、セメント原料、特にカルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカの原料として利用することができるため、セメントの製造コストの低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法の一例を模式的に表したフローチャート図である。
【図2】本発明における中和濾液から得られた石膏を利用する、セメント仕上げ工程を概略的に示す工程図である。
【図3】本発明における中和処理から得られた沈殿物を利用したセメントクリンカ(焼結体)を製造する概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法について、以下に詳細に説明する。
本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法は、アスベスト含有廃材を塩酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理溶液で該廃材中のアスベストを無害化処理し、得られた処理溶液に消石灰を添加することで該処理溶液を中和し、生じた沈殿物を濾過して得られた中和濾液に硫酸を添加して固形分を析出させて更に濾過し、得られた析出物をセメント原料として再利用するとともに、濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液として再利用する、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法である。
【0021】
図1は、本発明のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法の一例を模式的に表したフローチャート図である。
本発明において無害化処理の対象となるアスベストを含有する廃材としては、アスベスト自体だけでなく、アスベスト含有スレート板、アスベスト含有吹付け廃材等の、建材に用いられているアスベストを含有する廃材であれば、すべて対象とすることができ、特に、今後、多量の排出が予想され、アスベストの飛散・放散が特に問題となるアスベスト含有吹き付け施工品を解体して生じる廃材も有効に利用することができる。
また例えば、回収されたアスベスト含有スレート板には、パルプ繊維等の有機物の添加物も含まれているが、本発明の酸処理後に残渣をろ別することにより容易に分離することができる。
【0022】
また、該廃材中には、カルシウムそのもののみならず、カルシウム源として機能する酸化カルシウム、水酸化カルシウム、エーライト、ビーライト、カルシウムアルミネート、フェライト等セメントに含まれる鉱物、あるいはこれらの水和物等の化合物のセメント成分が含まれる。
【0023】
まず、本発明において、アスベスト含有廃材は、まず塩酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理水溶液で、含まれるアスベストを無害化処理する。
塩酸はアスベスト含有廃材中に含まれている高pHのセメント系バインダーを溶解することができる点から好適に用いることができる。
【0024】
かかる塩酸の濃度は現場の状況に応じて適宜設定でき特に限定されないが、アスベストの非アスベスト化への反応が生じる条件であれば特に限定されず、濃度が高いほうが短時間でまた多量に処理することができる。好適には、得られる処理水溶液のpHが1以下となるように配合されることが望ましい。
これは、得られる処理水溶液のpHが1以下であると、アスベスト含有廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解することが、より短時間で可能となるからである。
また、かかる処理水溶液を用いてアスベスト含有廃材中のアスベストの無害化処理を実施している間、すなわち、該処理水溶液とアスベスト含有廃材とを浸漬等により接触させている間も、かかる処理液のpHは常時1以下に保持されることが、廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解させる時間を短縮させる点から好ましく、このことは、かかる該処理水溶液中に含有される塩酸をアスベスト含有廃材の無害化処理中に必要に応じて添加することによって保持することができる。
【0025】
上記処理水溶液に含まれるフッ素を含む化合物としては、水に可溶性の化合物であれば特に限定されず、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニアのテトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩、フッ化物塩、及びフッ化水素酸よりなる群より選ばれた少なくとも1種の水に可溶性のフッ素を含む化合物が挙げられる。好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニアのフッ化物塩、及びフッ化水素酸よりなる群より選ばれた少なくとも1種の水に可溶性のフッ素を含む化合物が挙げられる。
当該フッ化物塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニアのフッ化物、二フッ化物、これらの混合物が挙げられる。
特に好適に使用できるフッ化物は、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸である。
【0026】
かかるフッ素を含む化合物を処理水溶液中に含有させることにより、アスベストのSiO骨格を破壊することができる。
かかるフッ素を含む化合物の添加量は、フッ素を含む化合物がイオン源全て解離したと仮定した場合の処理水溶液中のフッ化物イオン濃度が1.5〜20質量%、特に好適には2.5〜10となるように添加される。
このような範囲でフッ素を含む化合物を添加することで、より効率的にアスベストのSiO骨格を溶解することができるという作用機能を有することができる。
【0027】
上記処理水溶液を用いて、アスベスト含有廃材と該処理水溶液とを接触させることにより、具体的には、アスベスト含有廃材を処理水溶液に浸漬させて静置または撹拌することで、アスベスト含有廃材中のアスベストと該処理水溶液とを有効に接触させることができ、アスベストの無害化を図ることができる。
【0028】
その際には前記したように、処理水溶液のpHは1以下を保持することが好ましく、その保持方法としては、該処理水溶液中に含有される塩酸を、前記無害化処理中に適宜添加することで、pHを1以下に保持する方法等が例示できる。
【0029】
本発明におけるアスベスト無害化処理におけるアスベスト含有廃材に対する処理水溶液の配合割合は、アスベスト含有廃材中に含有されるアスベスト量やセメント系バインダー量により任意に設定することができるが、好ましくは質量比で0.5〜100、更に好ましくは1〜20であると望ましい。
質量比が前記範囲内であると、塩酸とセメント系バインダーとの反応による水溶液のpHの上昇を更に抑制でき、更なる短時間処理が可能となって処理効率が向上し、また、無害化処理後の廃液処理のコストを、より安価に抑制することができる。
【0030】
このように、好ましくは、pH1以下で特定のフッ素イオン濃度範囲を有する処理水溶液を用いることで、任意の形態のアスベスト含有廃材を、アスベスト粉塵等の飛散や放散を有効に防止して、より完全にかつ上記厚生労働省規定の0.1質量%以下に、短時間で容易に無害化処理することができる。
【0031】
アスベスト含有廃材を塩酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理溶液に十分に浸漬されることで、アスベストは非アスベスト化されて無害化処理される。従って、取り扱いが容易となった無害化処理物とすることができる。
ここで、非アスベスト化とは、アスベストと酸とが反応して、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト等の針状結晶がそれ以外の物質に転化した状態を表すものであり、このような状態であることで、人体に対して、無害となる。
【0032】
また、アスベスト含有廃材の上記酸処理を行う上で、当該廃材を、密閉状態で破砕・粉砕処理し、酸処理することが好ましい。
ここで、密閉状態とは、アスベストが作業環境中の自由な大気(密閉空間内の大気を除く)と直接接触していない状態をいい、例えば、ケースにより密閉可能な破砕・粉砕機、破砕・粉砕機から酸処理容器へのケースにより密閉可能な移送手段、またはケースにより密閉可能な酸処理容器を用いて実現される状態、あるいは、好適には、アスベスト含有廃材を上記酸処理する酸に浸漬させた状態等が挙げられる。
このように、アスベスト含有廃材を破砕・粉砕することで、上記酸処理によりアスベストを非アスベスト化して無害化処理物とすることが容易にでき、また該無害化時間も短時間で実施することが可能となる。
【0033】
特に、アスベスト含有廃材を酸処理する酸に浸漬して破砕・粉砕処理する場合には、アスベストが飛散・放散しないように破砕・粉砕する工程と、アスベスト及びカルシウム含有廃材を非アスベスト化して無害化処理物とする酸処理工程とを好適に同時に行うことができる。
また、アスベスト含有廃材が、少なくとも酸による湿潤状態となれば足りるので、破砕・粉砕を、上記したようにアスベスト含有廃材が酸に浸漬した状態のままで実施しても、あるいは、アスベスト含有廃材を酸に浸漬して湿潤状態となれば、酸から取り出して破砕・粉砕を実施してもよい。
【0034】
また、アスベスト含有廃材を密閉状態で破砕・粉砕する他の方法として、ケースにより密閉可能な破砕・粉砕機、破砕・粉砕機から酸処理容器へのケースにより密閉可能な移送手段、またはケースにより密閉可能な酸処理容器を用いる方法がある。
当該方法として、破砕・粉砕機、移送手段及び酸処理容器を配置し、これら各装置を一つの密閉されたケースで覆う方法や、破砕・粉砕機、移送手段及び酸処理容器それぞれを密閉可能な仕様として各装置をシールを施して接続する方法等が挙げられる。
【0035】
アスベスト含有廃材を破砕・粉砕できる手段としては、公知の建材廃材を破砕・粉砕する手段を用いることができる。
特に、個々の装置が密閉可能な仕様のものとしては、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ボールミル、たて型ミル、タワーミル等が挙げられる。
これにより、例えばスレート板等の寸法の大きいアスベスト含有廃材を完全に容易に上記酸により非アスベスト化できることとなる。
【0036】
次いで、アスベスト含有廃材を無害化処理した後の処理溶液に、消石灰を添加して中和処理を行い、沈殿物と中和濾液との固液分離ろ過を行う。
具体的には、アスベスト含有廃材を上記無害化処理水溶液に浸漬等させて、不溶分(パルプ繊維等)を濾過して、濾液に消石灰を添加して中和処理し、生成した沈殿物を濾過、脱水して沈殿物ケーキを得ても良いし、アスベスト含有廃材を上記無害化処理溶液に浸漬等させて、不溶分(パルプ繊維等)を濾過することなく、消石灰を添加して中和処理し、その後濾過、脱水して沈殿物ケーキを得ても良い。
沈殿物ケーキにはフッ化カルシウム(CaF)、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、珪酸化合物等の沈殿物が生成され、これらの沈殿物を含むケーキを、セメント用原料、特に、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカ、速硬性を所望するセメントに用いるセメントクリンカの製造時の原料として配合することができる。
【0037】
カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントとしては、例えば、超速硬セメントが例示できる。
ジェットセメントのような速硬性を所望するセメントである、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントを製造する際には、通常のポルトランドセメントに使用する原料のほかに蛍石(CaF)、ボーキサイト(Al)を原料として使用し、セメント中に含まれる速硬性成分であるカルシウムフルオロアルミネート11CaO・7Al・CaFを生成させる必要があるため、中和によって生成する上記沈殿物を濾過、脱水したケーキを、セメント原料、好適には上記セメントクリンカの原料として供することができるのである。
【0038】
次いで、上記沈殿物、好適には上記沈殿物ケーキを原料として用いて、セメント、例えば特に、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカを製造する。
図3は、本発明における中和処理により得られた沈殿物を利用したセメントクリンカ(焼結体)を製造する概略を示す工程図である。
かかるセメントクリンカを製造する工程としては、原料工程、焼成工程、仕上げ工程に大別される。
更に、原料工程は、原料受け入れ工程、粉砕・分級工程に大別される。
原料受け入れ工程では、まず、場外から運搬されてくるセメントクリンカ焼成用の原料、即ち石灰石を主体とし、ここに、上記沈殿物や、蛍石(CaF)、ボーキサイト(Al)、粘土等を受け入れホッパ9にて分別して受け入れる。
当該原料が大塊である場合には、受け入れホッパ9の下流に破砕機(図示せず)が設けられ、所定の粒径に破砕された後、輸送機により各原料が原料貯蔵庫10に貯蔵される。
【0039】
続く原料工程での粉砕・分級工程では、原料貯蔵庫10の原料を「原料粉砕機」(原料ミル)で混合粉砕し、「分級機」で分級して、安定した粉体原料が調製される。
かかる原料粉砕機は現在、乾燥、粉砕、粗粉と微粉との分級の3つの機能を合わせもつ「たて型ミル」11が多く用いられている。
そして、得られた粉体原料を、例えば、ブレンディングサイロ12で均一に混合した後、原料ストレージサイロ13に導入する。
本発明においては、上記沈殿物は、他の原料と同様に、受け入れホッパ9に導入されて原料として別途貯蔵されて、上記粉砕機11に導入されても、あるいは特に貯蔵されることなく粉砕機11に直接導入されてもよく、またはこの原料工程では導入されなくてもよい。
また、必要に応じて、上記沈殿物は混合粉砕の前に乾燥工程に供することが望ましい。
【0040】
次いで前記原料工程を経て調製された粉体原料は、焼成工程を経ることとなる。
かかる焼成工程は、粉体原料が所定の温度になるまで加熱され、セメントとしての水硬特性を呈するように、焼成される工程である。
かかる焼成工程は、セメントキルン供給工程、焼成工程、冷却工程に大別される。
セメントキルン供給工程では、先ず粉体原料は、予熱装置(プレヒーター)14に投入されて加熱され、次いでロータリーキルン16に投入される。
【0041】
予熱装置14に投入されたセメント原料は、予熱装置14内を下降しながら800〜900℃に加熱される。
予熱装置14内におけるセメント原料の加熱は、予熱装置14内に熱風を送り込むことにより行われる。
なお、予熱装置14の多くは、下段に仮焼炉15が設けられている。
【0042】
焼成工程では、予熱装置14で加熱され、セメントロータリーキルン16に送られたセメント原料が、該ロータリーキルン16内を1分間に2〜3回転し出口方向に移動しながら約1500℃程度の高温で焼成されてセメントクリンカとなりロータリーキルン16から取り出される。
【0043】
該ロータリーキルン16内でのセメント原料の焼成は、ロータリーキルン16の窯前(焼結体が取り出される側)方向から窯尻(セメント原料が投入される側)方向に向けて、微粉炭を燃焼させてロータリーキルン16内に送り込むことにより行われ、当該ロータリーキルン8内の温度は、窯尻で約1000℃程度であり、最高温度が約1400〜1500℃であり、窯前が約1200℃程度である。
そして、ロータリーキルン16から取り出された焼結体は、冷却機17に送られる。
冷却工程では、ロータリーキルン16から取り出された焼結体は、冷却機17で強制空冷により急冷され、仕上げ工程へと送られる。
【0044】
本発明においては、上記沈殿物は、原料工程を経て予熱装置14に導入されても、ロータリーキルン16の窯前で導入されても、窯尻で導入されても、該セメントキルンで溶融処理できるのであれば、供給されるタイミングは特に問われない。
【0045】
上記したように、セメント原料とともにロータリーキルン内に投入された上記沈殿物は、ロータリーキルン内で回転しながら、例えば、1000〜1500℃で20〜60分間加熱溶融処理される。
この際、最高温度を1450℃以上とするとともに、1450℃以上の温度で加熱される時間を5分以上とするのが好適である。
かかる加熱処理により、セメントクリンカが形成される。
【0046】
またかかる溶融処理をする際に、必要に応じて、フラックスを添加することも可能である。
かかるフラックスとしては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸カルシウム、ボロナイトカルサイトなどのホウ酸化合物、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸化合物、珪酸、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどの珪酸化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸化合物、炭酸バリウム、硫酸バリウム等のバリウム化合物、フッ化水素、氷晶石、フッ化カルシウムなどのフッ素化合物等を用いることができる。
【0047】
かかるフラックス剤の添加量は、少ないと融解が遅くなる場合や不均質になる場合もあるので、上記量のフラックスを溶融処理において添加することが望ましいが、必ず添加する必要があるものではない。
かかるフラックスは、溶融時における融点を低下させる、あるいは溶融時間を短縮させるという機能を有するものである。
【0048】
一方、上記アスベスト含有廃材を無害化処理した後の処理溶液に、消石灰を添加して中和処理を行って、沈殿物と中和濾液との固液分離ろ過を実施して得られた中和濾液に硫酸を添加して、二水石膏を析出させ、更に固液分離ろ過する。
該中和濾液の主成分は塩化カルシウムであり、これに硫酸を添加することで、カルシウムと硫酸とが反応して二水石膏を析出するため、当概二水石膏をセメント原料である石膏源として使用することができる。
【0049】
セメントを製造するには、例えば上記図3に示すように、原料工程、焼成工程、仕上げ工程に大別され、焼成工程を経ることで、セメントクリンカが調製される。
次いで、セメント粉末を製造するには、セメントクリンカにセメントの硬化速度を調整する機能を有する石膏を加え、粉砕して粉末状として、セメントを調製する。
本発明においては、上記中和濾液を硫酸処理して得られた析出物である二水石膏を、仕上げ工程においてセメントクリンカと混合する石膏源としても用いることができるものである。
【0050】
図2に示すように、具体的に例えば、セメントクリンカが貯蔵されているセメントクリンカサイロ1から供給されるセメントクリンカはまず、予備粉砕機3で粉砕される。
上記中和濾液を硫酸処理して得られた析出物である二水石膏は石膏源として石膏ヤード2に貯蔵されている。
かかる予備粉砕されたセメントクリンカと、石膏ヤード2から供給される上記中和濾液を硫酸処理して得られた析出物である二水石膏をセメント粉砕機(仕上げミル)4に導入して、粉砕混合する。
得られた粉砕混合物はセパレータ5に導入され、所望の粒度範囲の粉末がポルトランドセメント7として得られる。
【0051】
また上記セパレータ5で粒度の大きいセメント粉末は、再度セメント粉砕機(仕上げミル)4に導入されて粉砕される。
必要に応じて、セパレータ5で所望の粒度範囲に調整されたセメント粉末に、フライアッシュや高炉スラグ粉末を添加して、混合機6で均一に混合して、フライアッシュセメントや高炉セメント8を調製することもできる。
【0052】
なお、例えば、普通ポルトランドセメントを製造する場合の、セメント中の石膏の配合割合は、SO換算で2〜3質量%程度である。
従って、普通ポルトランドセメントへの当概二水石膏の配合限度としてSO換算で2〜3質量%程度まで可能である。
【0053】
また、上記中和濾液との固液分離ろ過を実施して得られた中和濾液に硫酸を添加して、二水石膏を析出させ、これを更に固液分離ろ過して得られた濾液の主成分は塩酸である。
当該塩酸を主成分とする濾液をそのまま、本発明の上記アスベスト無害化処理に適用される塩酸として利用することもできるが、更に濃度を高めるため、該濾液を蒸留することにより濾液を精製して濃塩酸とし、これを上記アスベスト無害化処理に適用される塩酸として利用することが、無害化処理液のpHをp1以下に保持するために好ましい。
また、当概塩酸を主成分とする濾液には、塩酸以外の低濃度蒸留分や蒸留残分が含まれているため、これらを除去して塩酸を精製するのに蒸留手段が用いられる。
該塩酸を主成分とする濾液を蒸留して得られた濃塩酸以外の蒸留分は、排液処理されるが、塩素濃度が低く処理量も少なくなることから処理費用が低減される。
【0054】
このように、本発明のアスベスト無害処理中和濾液の利用方法は、アスベストを無害化処理することができるとともに、その過程における中和濾液を有効に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のアスベスト無害処理中和濾液の利用方法は、スレート廃材のみならず、その他の多くのアスベスト使用材料の処理にも適用することができ、また中和濾液を再利用したセメントを製造するのに適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 セメントクリンカサイロ
2 石膏ヤード
3 予備粉砕機
4 セメント粉砕機
5 セパレータ
6 混合機
7・8 セメントサイロ
9 原料受け入れホッパ
10 原料貯蔵庫
11 原料粉砕機
12 ブレンディングサイロ
13 原料ストレージサイロ
14 予熱装置(プレヒーター)
15 仮焼炉
16 セメントロータリーキルン
17 冷却機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有廃材を塩酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理溶液で該廃材中のアスベストを無害化処理し、得られた処理溶液に消石灰を添加することで該処理溶液を中和し、生じた沈殿物を濾過して得られた中和濾液に硫酸を添加して固形分を析出させて更に濾過し、得られた析出物をセメント原料として再利用するとともに、濾液をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液として再利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法。
【請求項2】
請求項1記載のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和濾液に硫酸を添加して濾過後に得られた濾液を蒸留することにより、該濾液に含まれる塩酸を精製し、該精製塩酸をアスベスト含有廃材の無害化処理溶液の塩酸として利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和濾液に硫酸を添加して析出させた固形分をセメント製造用の石膏原料として利用することを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のアスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法において、前記中和処理後に生じた前記沈殿物を、セメントクリンカの製造に用いることを特徴とする、アスベスト無害化処理中和濾液の再利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−234177(P2010−234177A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81933(P2009−81933)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】