説明

アズキ由来抗アレルギー剤及びこれを含有する食品

【課題】アズキの未利用な有効成分に着目し、新規かつ既存の抗アレルギー薬よりも高い薬効を備えたアズキ由来抗アレルギー剤、及びこれを含有する食品を提供する。
【解決手段】アズキを熱湯で煮沸し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤に10%〜40%エタノール水溶液を添加し、抽出物を溶出したことを特徴とするアズキ由来抗アレルギー剤であり、I型アレルギー反応に対する活性を呈する。また、当該アズキ由来抗アレルギー剤を食品に添加したこと特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズキ由来抗アレルギー剤及びこれを含有する食品に関し、特に、アズキの熱水抽出物に由来する抗アレルギー剤であり、当該抗アレルギー剤を添加した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患の代表的な症状は、スギやヒノキ等の花粉に起因するアレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー等である。現状、これらの治療、症状改善においては、抗ヒスタミン薬等のメディエーター遊離抑制剤、抗トロンボキサン薬(TXA2拮抗剤、トロンボキサンA2受容体拮抗剤)、ロイコトリエン拮抗剤(RTs拮抗剤)、Th2サイトカイン阻害剤等が処方されている。前記の医薬品は症状改善に一定の効果を上げるものの、全身の倦怠感を引き起こす等の副作用も存在する。
【0003】
そこで、近年、天然物由来成分をアレルギー疾患の症状改善に役立てようとする試みが数多く報告されている。例えば、甜茶(Rubus suavissims S.Lee)の抽出物を成分とする抗アレルギー剤(特許文献1、2等)がある。他に、杉(Cryptomeria japonica D.Don)の葉の抽出物(特許文献3)、「べにふうき」や「べにふじ」等の緑茶葉から抽出したカテキン類の抗アレルギー剤(特許文献4等)がある。これらの天然物を日常生活において積極的に摂取して比較的副作用を抑えながら、アレルギー反応の抑制、軽減に役立てようとする試みである。
【0004】
前述の経緯とは別に、発明者は、以前からアズキに着目して各種の研究を行ってきた。アズキ(小豆:Vigna angularis)は、主に煮沸(炊きあげ)による加熱により軟らかく加工され、赤飯等の料理の食材、あるいは、砂糖が加えられ「小倉あん」等の製菓用食材に加工される。アズキの加工に際し、アズキの煮汁が大量に生じる。アズキの煮汁には、ポリフェノール類、サポニン類、アントシアニン類、さらには糖分子と結合した配糖体等も含有されていることが知られている。しかし、現状、利用されることなくそのまま廃棄されることが多い。
【0005】
アズキの煮汁に着目し、この中に含まれる生理活性成分についての有効活用として、以下の研究が報告されている。例えば、アズキの煮汁から得られる配糖体については、抗腫瘍活性が報告されている(特許文献5、非特許文献1、2等参照)。また、アズキの煮汁のアルコール抽出物の生理作用については、血糖降下活性、細胞接着阻害、高脂血症予防等の効果が報告されている(非特許文献3、4、5、6等参照)。
【0006】
そして、アズキに含まれる成分に関して抗アレルギーの生理活性効果について鋭意研究を重ねた発明者は、アレルギー疾患にもアズキに含まれる成分が有用である知見を得るに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2700958号公報
【特許文献2】特開2003−169631号公報
【特許文献3】特開2007−254322号公報
【特許文献4】特許第4272691号公報
【特許文献5】特開2003−63967号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】伊藤智広他、日本食品科学工学誌 第49巻,第5号,p.339−344(2002年5月)
【非特許文献2】伊藤智広他、日本栄養・食料学会誌 第58巻,第5号,p.281−287(2005年)
【非特許文献3】T.Itoh et al., Biosci.Biotechnol.Biochem.,68(12),2421−2426(2004)
【非特許文献4】T.Itoh et al., Biosci.Biotechnol.Biochem.,69(3),448−454(2005)
【非特許文献5】T.Itoh et al., Nutrition, 25,134−141(2009)
【非特許文献6】T.Itoh et al., Nutrition, 25,318−321(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、アズキの未利用な有効成分に着目し、新規かつ既存の抗アレルギー薬よりも高い薬効を備えたアズキ由来抗アレルギー剤、及びこれを含有する食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、アズキを熱湯で煮沸し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加し、抽出物を溶出したことを特徴とするアズキ由来抗アレルギー剤に係る。
【0011】
請求項2の発明は、前記エタノール水溶液が、10%〜40%エタノール水溶液である請求項1に記載のアズキ由来抗アレルギー剤に係る。
【0012】
請求項3の発明は、前記抽出物が、I型アレルギー反応に対する活性を呈する請求項1または2に記載のアズキ由来抗アレルギー剤に係る。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来抗アレルギー剤を食品に添加したことを特徴とするアズキ由来抗アレルギー剤含有食品に係る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係るアズキ由来抗アレルギー剤によると、アズキを熱湯で煮沸することで生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加し、抽出物を溶出したため、これまで廃棄されていたアズキの未利用な有効成分に着目し、新規のアズキ由来抗アレルギー剤を得ることができた。
【0015】
請求項2の発明に係るアズキ由来抗アレルギー剤によると、請求項1の発明において、前記エタノール水溶液が、10%〜40%エタノール水溶液であるため、既存の抗アレルギー薬よりも高い薬効を備えたアズキ由来抗アレルギー剤を得ることができた。
【0016】
請求項3の発明に係るアズキ由来抗アレルギー剤によると、請求項1または2の発明において、前記抽出物が、I型アレルギー反応に対する活性を呈するため、I型アレルギーの症状改善に貢献できる。
【0017】
請求項4の発明に係るアズキ由来抗アレルギー剤含有食品によると、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来抗アレルギー剤を食品に添加したため、日常的な食事から抗アレルギー剤を摂取することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のアズキ由来抗アレルギー剤を得る概略工程図である。
【図2】細胞内シグナル伝達モデルの模式図である。
【図3】4種類のアズキ煮汁由来抽出物の脱顆粒反応抑制率のグラフである。
【図4】アズキ煮汁由来抽出物、甜茶抽出物、及びクロモグリク酸ナトリウムの脱顆粒反応抑制率のグラフである。
【図5】アズキ由来抽出物に関する細胞内カルシウムイオン濃度のグラフである。
【図6】クロモグリク酸ナトリウムに関する細胞内カルシウムイオン濃度のグラフである。
【図7】アズキ由来抽出物添加後の細胞内ROS産生のグラフである。
【図8】DPI添加後の細胞内ROS産生のグラフである。
【図9】細胞膜画分及び細胞質画分のタンパク質のウエスタンブロットの比較写真である。
【図10】抗酸化活性を示したグラフである。
【図11】抗原刺激の有無とアズキ由来抽出物添加の各リン酸化タンパク質の第1検出泳動写真である。
【図12】抗原刺激の有無とアズキ由来抽出物添加の各リン酸化タンパク質の第2検出泳動写真である。
【図13】陰性対照、陽性対照、及びアズキの煮汁粉末を投与してPCA反応を行ったマウスの剥離皮膚の写真である。
【図14】アズキ由来抽出物及び甜茶抽出物を投与してPCA反応を行ったマウスの剥離皮膚の写真である。
【図15】図13及び図14のマウスにおける血管透過亢進抑制作用を数値化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアズキ由来抗アレルギー剤について、図1の概略工程図を用い、これを得る過程を説明する。はじめに、アズキ(小豆:Vigna angularis)は、蒸煮釜等において90℃〜95℃の熱湯中で、20分〜60分間煮沸(炊きあげ)される。当該加熱後、アズキと湯(煮汁)は分離される。アズキについては砂糖等が添加され小倉あんに加工される。
【0020】
アズキを煮沸した際に生じる煮汁は室温に冷まされ、煮汁は上清(supernatant)と沈殿物(precipitate)に分けられる。煮汁の分離には、フィルター濾過の他、後述の実施例の条件による遠心分離も用いられる。
【0021】
煮汁の上清中には、各種の熱水可溶性成分が含まれている。そこで、上清内の成分の濃縮と溶出分離のため、上清はいったん合成吸着剤に吸着される。合成吸着剤は適宜の樹脂製カラム、樹脂ビーズ等である。後記の実施例では、スチレン−ジビニルベンゼン系樹脂からなる細孔を備えた粒径0.25mm以上のビーズを用いた。
【0022】
上清中の各種成分を吸着している合成吸着剤に対してエタノールの水溶液が添加、送通される。そして、合成吸着剤に吸着されているアズキの抽出物は溶出される。このように、アズキの煮沸、上清分離、吸着、溶出の過程を経ることにより得られる成分が、本発明に規定するアズキ由来抗アレルギー剤である。エタノール水溶液中に存在する溶出分の有無は、所定の波長(280nm)の吸光度を確認することにより容易に把握することができる。
【0023】
エタノール水溶液は、全量水の状態から徐々にエタノール濃度が連続的に高められる濃度勾配(グラジエント)の溶液(v/v%)として調製され、前記の抽出物の溶出に供される。実施例において、エタノール水溶液の濃度(v/v%)は、当初の0%から、10%ないし40%濃度の溶液、40%ないし60%濃度の溶液、60%ないし80%濃度の溶液の4種類としている。濃度勾配を形成する精度上、概ね前記の濃度域毎に分けられる。なお、合成吸着剤を乾燥させると分離能が変動してしまうため、濃度の切り替えの際に必要量の水が送通される。
【0024】
各エタノール水溶液濃度の溶出の画分(フラクション)から水分等を蒸発、乾燥することにより、エタノール水溶液の濃度毎に振り分けた抽出物を得ることができる。この抽出物がアズキ由来抗アレルギー剤である。前記の4種類のエタノール水溶液の濃度域にあっては、一様に抗アレルギー性を発現する。その中においても、10%ないし40%の濃度域のエタノール水溶液の抗アレルギー性の発現が顕著である。抽出物はアズキの煮汁由来の成分であるため、配糖体、色素成分、各種カテキン類等のポリフェノール成分が含まれていると想定される。従って、本発明のアズキ由来抗アレルギー剤とは、前記の配糖体等の成分をはじめ、複数の成分を含む混合物であると考えられる。
【0025】
本発明のアズキ由来抗アレルギー剤とは、アレルギー症状の治療、緩和に有用と考えられる薬効成分である。加えて、日常生活の質(QOL:Quality of Life)の改善に効果を発揮するとされる薬効成分である。薬剤として用いる場合、経口投与の剤型は錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤等の適宜である。また、注射薬、点滴薬、スプレー薬、点鼻薬、点眼薬等とすることもできる。列記の薬剤においては、アズキ由来抗アレルギー剤を単独としても他の薬剤を加え併用しても良い。
【0026】
ここで、アレルギーと症状について、その種類に応じて簡単に説明する。一般的にアレルギーは以下のI型からIV型に分類される。
【0027】
[I型アレルギー(即時型)]
IL−4等のシグナルによりB細胞から分泌されるIgE(免疫グロブリンE)は、マスト細胞や好塩基球細胞の表面の受容体FcεRIに結合する。IgEに各種のアレルゲン(抗原)が結合すると、マスト細胞や好塩基球細胞からヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン等のケミカルメディエーターが分泌される。前記の各種ケミカルメディエーターにより、血管拡張によるむくみや鼻炎、気管支収縮による喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎等の症状を引き起こす。食物アレルギー、アナフィラキシーショックの症状もI型アレルギーに含まれる。
【0028】
[II型アレルギー(細胞傷害型)]
自己の細胞が抗原として認識されることにより、この細胞に対するIgG、IgM等の抗体が産生される。自己の細胞同士で抗原抗体反応の攻撃が起きてしまう反応である。症状として、自己免疫性溶液性貧血、橋本病、バセドウ病等がある。
【0029】
[III型アレルギー(アルサス型)]
可溶性抗原とIgGとの反応により免疫複合体が形成される。この免疫複合体による組織傷害に起因した反応である。症状として、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス等がある。
【0030】
[IV型アレルギー(遅延型)]
Th1細胞、Th2細胞の活性化によりIL−1、IFN−γ、IL−5等のサイトカインが産性され、マクロファージ、好中球、NK細胞により異物が処理される際の反応がある。症状として、アトピー性皮膚炎、ツベルクリン反応等がある。特に、I型アレルギーが進行した後のアトピー性皮膚炎の場合、炎症を悪化させやすい。
【0031】
本発明のアズキ由来抗アレルギー剤は、上記のアレルギー反応の抑制に効果を発揮すると考えられる。とりわけ、後記の実施例に開示する細胞内の作用機序から理解できるように、I型アレルギー反応を抑制する効果が高いと推察される。I型アレルギーは緊急性を要する重篤な症状を発症する他、喘息、鼻水、くしゃみ等の日常生活における不快感の原因となる症状も多い。そこで、日常的に抗アレルギー剤を摂取することにより、常時マスト細胞や好塩基球細胞等に感作して症状を緩和することができれば、生活の質の向上、生活習慣に起因する疾病の改善に大きく貢献する。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤は、天然物であり、古くから食用されているアズキに由来する抽出物である。そのことから、本発明のアズキ由来抗アレルギー剤は食品と馴染み良い。よって、新たにアズキ由来抗アレルギー剤を添加したアズキ由来抗アレルギー剤含有食品を作ることができる。
【0033】
アズキ由来抗アレルギー剤(アズキ煮汁抽出物)を添加可能な食品は、具体的に、水ようかん、ようかん、小倉あん、どら焼き、アズキのムース、アイスクリーム、飴(キャンデー)、キャラメル、カスタードプディング、コーヒーゼリー、グミ、ババロア、マシュマロ、カステラ、ホットケーキ、クッキー、フルーツジュース、炭酸飲料等がある。さらにはサプリメントとなる錠剤等も挙げられる。
【0034】
列記のアズキ由来抗アレルギー剤含有食品を製造するに際し、アズキ由来抗アレルギー剤の含有量は、当該食品自体の味覚及び添加後の味の変化、他の添加成分、1回当たりの喫食量、喫食頻度、季節性、販売形態、さらに年齢、性別、職種を加味した需要者層等を総合的に考慮して規定される。食品に添加するアズキ由来抗アレルギー剤の量は自由であり、例えば0.01重量%ないし100重量%(つまり、全量アズキ由来抗アレルギー剤とする食品)、1重量%ないし80重量%としても良い。
【実施例】
【0035】
発明者らは、次述の手法、手順に従い、アズキよりアズキ由来抗アレルギー剤を抽出した。そして、抗アレルギー剤の細胞内における作用機序の確認、並びに生体における発現を確認した。
【0036】
[アズキ煮汁由来の抽出物の調製]
原料となるアズキに北海道十勝産の小豆を用いた。開放型の蒸煮釜にアズキを投入し、水から加熱して45分間煮沸した。煮上がって軟らかくなったアズキとその煮汁と分けた。煮汁を室温付近(約20℃)になるまで冷ました後、16500×g(9000rpm)、10分間の遠心分離をした。遠心分離より得た上清1kgに芳香族系合成吸着剤(三菱化学株式会社製 逆相吸着剤「DIAION HP−20」)300gを加えて4℃で12時間攪拌した。合成吸着剤とそれ以外の液に分けた後、合成吸着剤を蒸留水により洗浄し、さらに40%エタノール水溶液(v/v)により数回溶出を行った。
【0037】
前記の洗浄、溶出した合成吸着剤をカラム(内径5mm×全長300mm)に充填した。当該合成吸着剤充填カラムを複数本用意した。合成吸着剤充填カラムに対し、はじめは蒸留水のみを送通し、次第にエタノールの割合を高めながら溶液を調製して送通した。本実施例では、当初の蒸留水のみの溶出から、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液、60%ないし80%濃度のエタノール水溶液とする4種類の濃度による溶出を行った。溶出に供したエタノールは濃度勾配(グラジエント)を伴う。このため、濃度を切り替えるに際し濃度に幅が不可避的に生じる。そこで、上記のとおり濃度域を持った溶出条件とした。
【0038】
蒸留水のみの溶出、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液、及び60%ないし80%濃度のエタノール水溶液から得た画分(フラクション)のそれぞれについて、ロータリーエバポレーター(柴田科学株式会社製)を用い、画分中の水分等を蒸発、乾固した。こうして、溶出条件の異なる4種類のアズキ煮汁由来の抽出物を得た。以降の明細書、図面において、蒸留水のみの溶出から得た抽出物を「WEx」、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.40」、40%ないし60%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.60」、及び60%ないし80%濃度のエタノール水溶液の溶出から得た抽出物を「EtEx.80」として表記する。
【0039】
[細胞内機序の検証]
4種類の異なるアズキ煮汁由来の抽出物を調製した発明者は、細胞内における抗アレルギー性能の発現の有無、細胞内の作用部位を明らかにすることにより、アズキ煮汁由来の抽出物の薬効性を確認した。以下、検証実験を順に述べる。
【0040】
〈1.脱顆粒反応抑制作用〉
溶出条件の異なる4種類のアズキ煮汁由来の抽出物について、脱顆粒反応抑制作用を抗アレルギー性能の指標として測定した。併せて、既存の抗アレルギー作用を発揮する薬剤等との比較も試みた。脱顆粒反応抑制作用は、図2に開示の好塩基球細胞等の細胞内シグナル伝達モデルの模式図における脱顆粒(degranulation)に伴い、ケミカルメディエーター(chemical mediator)となるβ−ヘキソサミニダーゼ(β−hexosaminidase)の分泌抑制効果を指標として用いた。
【0041】
ラット好塩基球細胞RBL−2H3を5.0×105cells/mLの濃度で10%FBS添加のMEM培地に懸濁した。同培地にマウスモノクローナル抗ジニトロフェニル基IgE抗体(抗DNP−IgE抗体)を200ng/mLの濃度で添加し、24時間、前記のラット細胞を抗体で感作した。培養終了後、培地を吸引除去してシラガニアン緩衝液により2回洗浄し、同緩衝液160μLに置換した。
【0042】
添加用の薬液の調製に際し、はじめに、4種類のアズキ煮汁由来の抽出物であるWEx、EtEx.40、EtEx.60、及びEtEx.80と、比較として甜茶抽出物(以降、Rubus ext.と称する。)をそれぞれジメチルスルホキシド(以降、DMSOと称する。)に溶解した。各抽出物を溶解したDMSOの最終濃度を0.1%以下とするまでシラガニアン緩衝液で希釈した。陽性対照としてDMSOのみをシラガニアン緩衝液で希釈した。また、抗アレルギー薬として用いる薬剤として、医薬品名「インタール」、分子名「クロモグリク酸ナトリウム:disodium cromoglycate」(以降、Dscgと称する。)を用い、このDscgもDMSOに溶解し、抽出物の場合と同様にシラガニアン緩衝液で希釈した。
【0043】
緩衝液による希釈を経た各濃度のアズキ煮汁由来の抽出物、甜茶抽出物、陽性対照、Dscgの薬液20μLずつを抗体感作後のラット細胞の培養液に添加し、37℃で30分間培養した。続いてジニトロフェニル化ウシ血清アルブミン(DNP−BSA)を20μL添加し、37℃で30分間抗原刺激を行った。その後、氷冷下、10分間静置し反応を止めた。各培地より上清を10μLずつ分取するとともに96穴のプレートに移し替えた。プレートの各ウェルにp−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミド(p−NAG)溶液を50μLずつ添加し、37℃で1時間発色させた。反応終了後、反応停止液を200μL添加し、マイクロプレートリーダーにより405nmにおける吸光度“A”を測定した。
【0044】
前出の陽性対照も同様に処理し、吸光度“B”を求めた。また、前記のDNP−BSAの代わりにシラガニアン緩衝液のみの添加とした抗原刺激がない陰性対照の吸光度“C”も求めた。各吸光度に基づいて下記の式(i)によりβ−ヘキソサミニダーゼの遊離抑制率(Pi)(単位:%)を求めた。
【0045】
【数1】

【0046】
さらに、試料によるβ−ヘキソサミニダーゼの直接的な阻害活性を算出した。そこで、ラット好塩基球細胞RBL−2H3より調製したβ−ヘキソサミニダーゼ酵素液と、脱顆粒反応測定の際に使用した試料溶液から、下記の式(ii)により酵素直接阻害活性率(Qi)(単位:%)を求めた。試料処理による吸光度は“D”、陽性対照の吸光度は“E”である。両式(i)及び(ii)より求めた酵素直接阻害活性率(Ei)と遊離抑制率(Fi)より、式(iii)に従い脱顆粒反応抑制率(Ri)(単位:%)を求めた。
【0047】
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
図3のグラフは、4種類のアズキ煮汁由来の抽出物であるWEx、EtEx.40、EtEx.60、及びEtEx.80に関する脱顆粒反応抑制率(%)の結果である。同グラフ中の単位の50μg/mL及び100μg/mLは、実験に供した培地中の濃度である。この結果より、いずれの溶出条件においても、脱顆粒反応の抑制が明らかとなった。また、反応活性は濃度依存的である。この中においても、EtEx.40、つまり、10%ないし40%濃度のエタノール水溶液の溶出から得たアズキ煮汁由来の抽出物が最も高い活性を有していることが明らかとなった。
【0050】
図4のグラフは、アズキ煮汁由来抽出物のEtEx.40と、甜茶抽出物(Rubus ext.)及びクロモグリク酸ナトリウム(Dscg)の脱顆粒反応抑制率(%)の比較結果である。同グラフ中の単位の50μg/mL及び100μg/mLは、実験に供した培地中の濃度である。この結果は、アズキ由来抽出物(EtEx.40)の抑制効果が既存の天然物抽出物や医薬品よりも優れていることを示す。
【0051】
〈2.細胞内カルシウムイオン濃度の変動〉
I型アレルギーにおける脱顆粒反応には、カルシウムイオン(Ca2+)の流入による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が関与すると考えられている。図2の模式図に示すように、活性酸素種(H22等)よりカルシウムイオンチャンネルが開き、細胞外から細胞内はカルシウムイオンが流入する経路と、IP3を介してのシグナル伝達から小胞体ERよりカルシウムイオンが放出される経路が現在知られている。そこで、発明者は、脱顆粒反応抑制効果が最も高いアズキの煮汁に由来する抽出物である「EtEx.40」に着目して、カルシウムイオンの流入に及ぼす影響を検証した。
【0052】
細胞内カルシウム濃度は、株式会社同仁化学研究所製「Calcium Kit−Fluo 3」を使用して測定した。96穴マイクロプレートにIgE感染処理のRBL−2H3細胞を播種し、各ウェルに3μMの蛍光指示薬Fluo3−AMを含むLoading緩衝液100μLを添加し、37℃で30分間かけて蛍光指示薬を取り込ませた。30分後、リン酸緩衝液(PBS(−))により2回洗浄して余分な蛍光指示薬を洗い流した。洗浄後、Recording緩衝液を80μLと、前記のDMSO及びシラガニアン緩衝液で希釈調製を経たアズキ由来抽出物のEtEx.40、または前記のDMSO及びシラガニアン緩衝液で希釈調製を経た対照薬剤のDscgのそれぞれを10μLずつ添加し、30分間処理した。
【0053】
処理後のマイクロプレートを蛍光測定用のマイクロプレートリーダーに装着し、抗原としてDNP−BSAを10μL添加して反応を開始させた。37℃を維持しながら5秒毎に、4分間の蛍光指示薬による蛍光強度を測定した。アズキ由来抽出物のEtEx.40に関する細胞内カルシウムイオン濃度の推移結果は図5であり、対照薬剤Dscgの推移結果は図6である。両グラフ中のエチレングリコールテトラアセテート(EGTA)はカルシウムイオンを捕捉するキレート剤であり、比較のために用いた。
【0054】
図5について、黒丸でプロットの折れ線のカルシウムイオン濃度は、抗原刺激(DNP−BSA投与)を伴う反応である(グラフ中、Ag(+))。白丸でプロットの折れ線は抗原刺激を伴わない反応である(グラフ中、Ag(−))。黒三角でプロットの折れ線はEGTAを添加して抗原刺激を行った反応である。自明ながらカルシウムイオンはキレートされるため、黒丸の折れ線よりも低量である。次に、黒四角でプロットの折れ線はアズキ由来抽出物のEtEx.40を添加して抗原刺激を行った反応である。EtEx.40の添加は、細胞内カルシウムイオン濃度の抑制効果を発揮する。さらに、EtEx.40は、抗原刺激がない状態、あるいはEGTA添加と比較して細胞内カルシウムイオン濃度を低位側に維持する。
【0055】
対照となる図6について、黒丸、白丸、黒三角のプロットの折れ線は図5と同様の処理を施した結果である。黒四角でプロットの折れ線はDscgを添加して抗原刺激を行った反応である。Dscgは抗原刺激があった状態よりはカルシウムイオン濃度の増加を抑制しているものの、カルシウムイオン濃度の増加阻害活性は弱いといえる。両図の結果を踏まえると、アズキ由来抽出物のEtEx.40は、細胞内カルシウムイオンの増加抑制に極めて強い活性を発現している。
【0056】
〈3.細胞内ROS産生抑制〉
生体内では、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素等の活性酸素種である「ROS」が常時産生されている。白血球、特に好中球によるROSの産生量は顕著である。ROSは殺菌、異物除去等の免疫応答の誘導等のシグナル伝達物質となることが知られている。また、ROSは前述の細胞内カルシウムイオン濃度の増加を誘導し、これに関連して脱顆粒反応を起こすと考えられている。例えば、図2の模式図に示すH22等のROSによるカルシウムイオンチャンネルの開放、カルシウムイオンの流入の経路が挙げられる。前掲「2.細胞内カルシウムイオン濃度の変動」における結果から判明した細胞内カルシウムイオンの増加抑制活性を踏まえ、ROSの濃度の測定を検討した。そこで、活性酸素種を特異的に検出するDCF蛍光指示薬を用いて抗原刺激後の細胞内のROS濃度の測定を試みた。
【0057】
膜透過性プローブである2’,7’−Dichlordihydrofluorescein−diacetate(以降、DCFH−DAと称する。)は細胞外から細胞内へ移行し、細胞質中のエステラーゼにより加水分解されて2’,7’−Dichlordihydrofluorescein(以降、DCFHと称する。)に変化する。DCFHは膜透過性を失うため細胞内に留まる。DCFHは過酸化水素(図2中、H22参照)等の細胞内活性酸素種(ROS)と反応し、酸化されて2’,7’−Dichlorofluorescein(以降、DCFと称する。)となる。DCFは蛍光を発するため、DCFH−DAを投与した細胞のDCF蛍光強度を測定することにより、細胞内の酸化状態(ROSの量)を定量化することができる。当該細胞内に抗酸化性の物質が存在すると、DCFの酸化は抑制され、蛍光強度の低減により被験物質の細胞内での抗酸化活性を評価できる。
【0058】
RBL−2H3細胞を培養し、10μMのDCFH−DA蛍光色素で30分間処理して細胞内に取り込ませた。30分後、細胞内に取り込まれなかった蛍光色素をPBS(−)により洗浄後、アズキ由来抽出物のEtEx.40、NADPHオキシダーゼ阻害剤であるdiphenyleneiodonium chloride(以降、DPIと称する。)、陽性対照、陰性対照のそれぞれについて、前述の「1.脱顆粒反応抑制作用」の処理と同様に処理した。抗原処理後、1分間隔で10分間経時的に蛍光強度を測定した。
【0059】
図7のグラフはアズキ由来抽出物のEtEx.40添加後の推移を示し、黒四角でプロットの折れ線はアズキ由来抽出物のEtEx.40を添加して抗原刺激を行った際の経時変化である。図8のグラフはDPI投与後の推移を示し、黒四角でプロットの折れ線はDPIを添加して抗原刺激を行った際の経時変化である。両グラフとも、黒丸でプロットの折れ線は、抗原刺激(DNP−BSA投与)を伴う反応である(グラフ中、Ag(+))。白丸でプロットの折れ線は抗原刺激を伴わない反応である(グラフ中、Ag(−))。
【0060】
図示のとおり、DPIの細胞内ROS産生抑制の効果は、陽性対照と比較して明らかである。その上で、アズキ由来抽出物のEtEx.40はDPIよりもROS産生を有意に抑制することが判明した。また、陰性対照よりもROS産生を抑制することも明らかとなった。
【0061】
〈4.NADPHオキシダーゼ阻害活性〉
細胞内へのカルシウムイオンの流入を調節するカルシウムチャンネルは細胞膜に存在する。このカルシウムチャンネルは細胞内のROS(前記参照)により調節される。マスト細胞における抗原刺激後の細胞内ROS産生にNADPHオキシダーゼ(以降、NOXと称する。)が関与することが報告されている。NOXの活性化を図2の模式図を用いて簡単に説明する。はじめに、Racは細胞質に存在するサブユニットp40phox、p47phox、p67phoxと結合して四量体を形成する。次に、この四量体が細胞膜サブユニットgp91phox、p22phox側へ移行することによりROSは産生される。そこで、膜画分及び細胞質画分を調べることにより、NOXの活性をサブユニットの移行の結果として把握することができる。
【0062】
膜画分及び細胞質画分の分離に際し、Calbiochem社製のProteo Extract Subcellular Proteome Extraction kit(code353790)を用い調製した。図9は細胞膜画分及び細胞質画分のタンパク質のウエスタンブロットの写真である。左から、陰性対照となる抗原刺激なし「Ag(−)」、陽性対照となる抗原刺激あり(DNP−BSA投与)「Ag(+)」、アズキ由来抽出物のEtEx.40添加の順である。
【0063】
抗原刺激あり(Ag(+))にあっては、p40phox、p67phox、p47phox、及びRacは細胞膜側から検出できたため、膜側への移行が明らかである。これに対し、アズキ由来抽出物のEtEx.40添加では、細胞膜側からp67phox及びRacはほとんど検出されない。従って、細胞質に存在するサブユニット(p40phox、p47phox、p67phox、及びRac)の一括での膜側への移行抑制を確認することができた。
【0064】
〈5.抗酸化活性〉
細胞内ROS濃度は、添加した試料自体の抗酸化活性により低下することも推測される。そこで、試料自体の抗酸化活性を明らかにする必要がある。ラジカル発生剤として汎用される2,2−Diphenyl−1−picrylhydrazyl(以降、DPPHと称する。)におけるラジカル補足能により、in vitroで各試料のラジカル消去能を測定した。DPPHはラジカル状態で517nmの極大吸収を有する。抗酸化物質により還元されることにより、517nmの吸光度は低下する。吸光度の低下を測定することにより、試料(化合物)の抗酸化活性を測定できる。
【0065】
DPPHを50%エタノール水溶液に溶解して250μMの溶液に調製し、0.22μmのフィルターにより濾過し不溶物を除去し使用に供した。試料として、アズキ由来抽出物のEtEx.40、ビタミンC(L−ascorbic acid)、ビタミンE(α−tocopherol)、換算用にtroloxを用い、これらをそれぞれDMSOに溶解後、50%エタノールにより希釈した。96穴マイクロプレートに20μLずつ前記の試料溶液を分注した。ここにDPPH溶液を180μL添加し、室温下で20分間反応させた。反応後、517nmの吸光度を測定した。
【0066】
図10のグラフは、各濃度のアズキ由来抽出物のEtEx.40(黒丸のプロット)、ビタミンC(黒三角のプロット)、ビタミンE(黒四角のプロット)のDPPHラジカル捕捉能の結果である。アズキ由来抽出物のEtEx.40は、ビタミンC、Eの3倍以上の高い抗酸化活性を示している。これまでの知見から、アズキ由来抽出物のEtEx.40が作用する細胞内ROS産生の抑制とは、NADPHオキシダーゼ阻害活性と抗酸化活性の双方に起因すると推測される。
【0067】
〈6.リン酸化タンパク質の定量比較〉
図2の模式図から理解されるように、脱顆粒反応の上流では各種タンパク質のリン酸化が生じ、サイトカイン遺伝子の発現、アラキドン酸カスケード等の要因となっていることが明らかになりつつある。そこで、アズキ由来抽出物のEtEx.40が実際にリン酸化の抑制に作用するか否かを調べた。
【0068】
前述の「1.脱顆粒反応抑制作用」と同様に、アズキ由来抽出物のEtEx.40の処理、抗原刺激を行った細胞を用意した。細胞抽出物の調製に際し、細胞を氷冷PBS(−)により2回洗浄した。10mMのTris−塩酸緩衝液(pH7.5)、1mMのEDTA、1%のNP−40、0.1%のSodium Deoxychlorate、150mMのNaCl、0.1%のSDSを含有する緩衝液を調製し、同緩衝液により氷上で超音波ホモジェナイズした。溶解物を4℃で20000×g(14500rpm)、3分間遠心分離した。得られた上清を可溶性画分として使用した。個々の細胞抽出物について、BCA法(ビシンコニン酸法)によりタンパク質濃度を測定し、等濃度となるように希釈した。細胞溶解物をSDS−PAGEにより分離し、PVDF膜に転写した。PVDF膜を5%スキムミルクでブロッキングし、各種抗体でプローブした。次に西洋ワサビペルオキシダーゼ結合2次抗体を反応させ、ECL法(Enhanced Chemiluminescence法)を用いて発色させた。
【0069】
図11及び図12の泳動写真は、陰性対照となる抗原刺激なし「Ag(−)」、陽性対照となる抗原刺激あり(DNP−BSA投与)「Ag(+)」、アズキ由来抽出物のEtEx.40添加の順に示した各リン酸化タンパク質の検出結果である。「Lyn」と「p−Lyn」、「Syk」と「p−Syk」、「cPLA2」と「p−cPLA2」、「Akt」と「p−Akt」、そして「PLCγ1,PLCγ2」の結果から、アズキ由来抽出物のEtEx.40を添加した細胞について、主にLyn、Syk、PLCγ1,PLCγ2のリン酸化を強く抑制することが判明した。従って、アズキ由来抽出物のEtEx.40は、アレルギー反応の作用機序におけるシグナル伝達系の上流に作用しているといえる(図2参照)。
【0070】
〈7.血管透過性亢進抑制作用〉
これまで述べたin vitroの系において、発明者は、本発明のアズキ由来抽出物(EtEx.40)はアレルギー反応の抑制に有効であることを確信した。そこで、発明者は、次に述べるin vivoの系においても効果を検証することとした。PCA反応(Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction)はI型アレルギー症状のひとつである血管透過性の亢進を測定する試験法である。エバンスブルー生理食塩水、IgE−DNP、及びDNP−BSA抗原をマウスの尾静脈から投与し、DNP抗原刺激によりアレルギー反応を誘導した。1時間後、麻酔により致死させ、皮膚を剥離した。
【0071】
図13及び図14は、陰性対照〔Negative Control〕、陽性対照〔Positive Control〕、アズキの煮汁粉末〔HWEA(マウス体重当たり、500mg/kg、1000mg/kg)〕、アズキ由来抽出物〔EtEx.40(マウス体重当たり、100mg/kg、250mg/kg、500mg/kg)〕、及び甜茶抽出物〔Rubus ext.(マウス体重当たり、1000mg/kg)〕の結果である。アズキの煮汁粉末とは、アズキを熱湯で茹でた際の煮汁の乾燥物である。アズキの煮汁粉末、アズキ由来抽出物、甜茶抽出物については、抗原刺激に先立ってマウスの尾静脈から投与して剥離したマウスの皮膚写真の結果である。各投与物について、3匹のマウスを用意して実験に供した。
【0072】
図面では白黒で表現されるため、投与物毎の相違を読みとりにくくなっている。陰性対照はI型アレルギー反応の発現なしであるため、最も白い状態である。これに対し、陽性対照はI型アレルギー反応の発現状態である。アレルギー反応により毛細血管が拡張してエバンスブルーが染み出すため皮膚全体に青みを帯びる。図の写真では濃さが増す。従って、各投与物を投与した後のエバンスブルーの染み出しの程度(すなわち皮膚の濃さ)が陽性対照よりも低くなれば抗アレルギー性を発揮していることになる。結果、図示のアズキ由来抽出物EtEx.40の抗アレルギー性能が優れており、その内、250mg/kg、500mg/kgの濃度の投与物が顕著である。
【0073】
図13及び図14の染色の結果を踏まえ、剥離した皮膚より色素分を抽出し、吸光光度計により720nmの吸光度を測定した。こうして、静脈注射後のマウスにおける血管透過亢進抑制作用を数値化して評価した。その結果は図15のグラフであり、前掲の図13及び図14の写真の結果と一致した。アズキ煮汁粉末と甜茶抽出物は概ね同程度の血管透過性亢進抑制作用を示した。低濃度のアズキ由来抽出物EtEx.40もこれらと同程度の効果を示した。しかし、500mg/kg濃度のアズキ由来抽出物EtEx.40の場合、いずれの投与例よりも顕著に血管透過性亢進抑制作用を示した。
【0074】
これまでの結果並びにin vivoの系においても本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物が抗アレルギー活性を具備する知見を得た。そして、発明者は、既存品よりも高い効能を発揮すると考えられるアズキ由来の抗アレルギー剤を得ることができた。また、血管透過性亢進抑制作用の実験を踏まえ、本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物は、I型アレルギー反応を抑制する活性に優れていることも明らかにした。
【0075】
[食品への応用]
本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物は抗アレルギー剤として有効に作用すると考えられる。このため、当該アズキ由来抽出物(抗アレルギー剤)を個々の食品に配合して、実際に調理、製造した。以下に、食品・飲料の名称、そのレシピ(組成):左欄、及び配合割合(重量パーセント表記):右欄を開示する。
【0076】
〈1.水ようかん〉
寒天 0.40
水 45.35
砂糖 27.00
小倉生あん 27.00
食塩 0.10
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0077】
〈2.ようかん〉
寒天 0.65
水 24.00
砂糖 24.00
小倉生あん 48.00
水あめ 3.20
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0078】
〈3.小倉あん〉
アズキ 31.00
砂糖 35.80
食塩 0.05
水 33.00
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0079】
〈4.どら焼き〉
薄力粉 20.20
上白糖 17.00
全卵 17.50
はちみつ 2.50
重曹 0.20
水 12.45
アズキ由来抽出物 0.15
小倉あん 30.00
(合計) 100.00
【0080】
〈5.小豆のムース〉
こしあん 31.00
粉ゼラチン 1.40
生クリーム 14.20
卵白 10.50
砂糖 4.30
水 38.45
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0081】
〈6.アイスクリーム〉
卵黄 11.00
グラニュー糖 17.80
牛乳 53.20
生クリーム 17.80
バニラ香料 0.05
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0082】
〈7.キャンデー〉
水あめ 45.00
砂糖 54.75
アズキ由来抽出物 0.15
(合計) 100.00
【0083】
〈8.キャラメル〉
水あめ 34.50
砂糖 19.70
小麦粉 4.85
無糖練乳 34.60
食塩 0.20
ショートニング 5.90
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
【0084】
〈9.カスタードプディング〉
牛乳 58.90
卵 24.00
砂糖 17.00
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0085】
〈10.コーヒーゼリー〉
コーヒー(液体) 82.90
砂糖 8.30
粉ゼラチン 1.40
コーヒーリキュール 0.30
水 7.00
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0086】
〈11.グミ〉
グラニュー糖 39.00
水 51.85
ゼラチン 6.80
クエン酸 0.50
フルーツ香料 1.60
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
【0087】
〈12.ババロア〉
牛乳 47.40
生クリーム 19.00
卵黄 12.60
砂糖 19.00
ゼラチン 1.90
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0088】
〈13.マシュマロ〉
水あめ 46.30
砂糖 50.90
ゼラチン 2.70
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0089】
〈14.カステラ〉
全卵 34.30
卵黄 3.80
砂糖 34.30
はちみつ 4.80
米飴 1.90
薄力粉 18.00
水 2.80
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0090】
〈15.ホットケーキ〉
卵 19.70
砂糖 13.40
牛乳 23.40
ベーキングパウダー 1.80
薄力粉 36.00
バター 5.40
食塩 0.15
バニラ香料 0.05
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0091】
〈16.クッキー〉
マーガリン 12.20
ショートニング 12.20
砂糖 18.40
全卵 8.20
薄力粉 44.80
強力粉 4.10
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0092】
〈17.フルーツジュース〉
フルーツ果汁 50.00
果糖ブドウ糖液糖 10.00
クエン酸 0.30
フルーツ香料 0.20
水 39.25
アズキ由来抽出物 0.25
(合計) 100.00
【0093】
〈18.炭酸飲料〉
果糖ブドウ糖液糖 11.00
クエン酸 0.20
クエン酸ナトリウム 0.05
フルーツ香料 0.20
炭酸水 88.45
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0094】
〈19.錠剤〉
セルロース 30.00
ステアリン酸カルシウム 2.50
二酸化ケイ素 1.50
アズキ粉末 59.40
デンプン 6.50
アズキ由来抽出物 0.10
(合計) 100.00
【0095】
この結果から理解できるように、本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物(抗アレルギー剤)は、広汎な食品種に添加することができるため、通常の食事からの摂取が可能となる。従って、日常生活の質(QOL)の改善への効果が期待できる。なお、列記の食品、飲料は例示である。本発明のアズキ煮汁に由来の抽出物(抗アレルギー剤)の添加対象は、当然これら以外の食品、飲料、その他の薬剤にも広げることができる。また、配合割合も開示の量に限定されることはなく、必要により加減できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
アズキ煮汁に由来するエタノール水溶液の抽出物が抗アレルギー活性を有することを明らかにした。そこで、アズキ由来抗アレルギー剤を得るに至った。特に、I型のアレルギー反応の軽減に効果を発揮する抗アレルギー剤として有用である。さらに、当該抗アレルギー剤を添加した食品を作り出すことにより、日常生活から無理なく摂取することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズキを熱湯で煮沸し生じた煮汁から上清を分離し、前記上清を合成吸着剤に吸着させた後、前記吸着後の合成吸着剤にエタノール水溶液を添加し、抽出物を溶出したことを特徴とするアズキ由来抗アレルギー剤。
【請求項2】
前記エタノール水溶液が、10%〜40%エタノール水溶液である請求項1に記載のアズキ由来抗アレルギー剤。
【請求項3】
前記抽出物が、I型アレルギー反応に対する活性を呈する請求項1または2に記載のアズキ由来抗アレルギー剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアズキ由来抗アレルギー剤を食品に添加したことを特徴とするアズキ由来抗アレルギー剤含有食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−178680(P2011−178680A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42100(P2010−42100)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(390014904)井村屋グループ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】