説明

アセテート繊維束の製造方法、及びこれより得られるアセテート繊維束

【課題】溶剤含有率が極めて低いアセテート繊維束を生産効率よく得ることができるアセテート繊維束の製造方法、及びこれより得られるアセテート繊維束を提供する。
【解決手段】以下に示す工程を有するアセテート繊維束の製造方法により、溶剤含有率が0.10質量%未満であるアセテート繊維束が得られる。原液調製工程:原料ポリマーを溶剤に溶解させて原液を調製する。紡糸工程:前記原液をノズルから吐出させ、加熱雰囲気下で溶剤を揮発させて原繊維束を得る。水分・捲縮付与工程:前記原繊維束に水分を付与した後、捲縮を付与して、水分率が23〜50質量%の原繊維束を得る。前乾燥工程:水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束を前記溶剤の沸点以上、85℃以下の温度で乾燥する。後乾燥工程:前乾燥工程を経た原繊維束を所望の水分率になるまでさらに乾燥し、アセテート繊維束を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセテート繊維束の製造方法、及びこれより得られるアセテート繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アセテート繊維束を製造する工程では乾式紡糸法が用いられる。このときの紡糸速度は、通常、300m/分以上である。このため、アセテート繊維束の製造過程において、各工程での操作を短時間で完了させる場合が多い。
【0003】
アセテート繊維束は、主にタバコフィルターに用いられる。アセテート繊維束の製造は、まず、原料ポリマーであるセルロースアセテートを、溶剤であるアセトンに溶解してなる原液をギアポンプで押し出し、ノズルから加熱雰囲気下の紡糸筒内に吐出し、溶剤を速やかに揮散させ、原繊維束とする。この間の工程は、1秒以内の極めて短時間で行われる。
【0004】
このとき、1個の吐出孔から吐出される単繊維は、他の単繊維と合わされ、単繊維繊度が0.8〜10dtex、総本数が100〜1500本の範囲で原繊維束とされる。
次に、原繊維束はエマルジョンオイルが付与され、オイル分率およそ1質量%、水分率およそ25質量%の原繊維束とされる。さらに該原繊維束は、5〜40本収束され、総繊度が10000〜50000dtexの繊維トウとされる。該繊維トウは、捲縮機で捲縮が付与された後、水分及び溶剤除去のための乾燥工程に導かれる。ここで、エマルジョンオイルの付与から乾燥工程に至るまでについても、1秒にも満たない短時間で行われる。
【0005】
その後、繊維トウは、所望される水分率になるまで乾燥工程で数分間かけて水分及び溶剤が除去され、アセテート繊維束が得られる。得られたアセテート繊維束は梱包工程に誘導され、数時間かけて梱包容器が満たされるまで振込まれる。
上述した製造過程において、吐出から捲縮付与までの所要時間は2秒未満である。また、梱包工程以前で唯一、所要時間の長い乾燥工程においても、乾燥時間は一般的に生産効率を考慮して10分以下とされる。
【0006】
この連続的に各工程を経るアセテート繊維束の製造において、アセトン等の溶剤はノズルから吐出される瞬間までは200〜300質量%(対固形分)の割合で存在することから、乾燥終了時における繊維トウ(アセテート繊維束)の溶剤含有率を0.10質量%未満にすることは容易ではなかった。
特許文献1には、固形多糖類の残水親和性有機溶剤の除去方法において、固形多糖類を加湿した空気で処理し、残水親和性有機溶剤を低減し、その後数時間かけて乾燥する方法が開示されている。
また、特許文献2には、アセテート繊維束の製造方法において、原繊維束を複数本収束した繊維トウにエマルジョンオイルを付与して、繊維トウの水分率を高める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−318001号公報
【特許文献2】特開2006−144176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、無切断で数十万メートルの長さのアセテート繊維束を生産する製造ラインに適用することが困難であった。さらに前述したエマルジョンオイルを付与することで、高い水分率となった原繊維束を、加湿した空気で処理することでさらに水分率を高めるのは困難であった。
また、特許文献2に記載の方法には、乾燥条件が限定されておらず、溶剤含有率の低いアセテート繊維束を安定して得ることは困難であった。
【0009】
ところで、特にアセテート繊維束は、タバコフィルターに用いられ、人が口にすることが多い。そのため、人体への影響を考慮すると、溶剤含有率の低いアセテート繊維束や、それを使用した製品を提供することは極めて重要なことである。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、溶剤含有率が極めて低いアセテート繊維束を生産効率よく得ることができるアセテート繊維束の製造方法、及びこれより得られるアセテート繊維束を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のアセテート繊維束の製造方法は、以下に示す工程を有することを特徴とする。
原液調製工程:原料ポリマーを溶剤に溶解させて原液を調製する。
紡糸工程:前記原液をノズルから吐出させ、加熱雰囲気下で溶剤を揮発させて原繊維束を得る。
水分・捲縮付与工程:前記原繊維束に水分を付与した後、捲縮を付与して、水分率が23〜50質量%の原繊維束を得る。
前乾燥工程:水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束を前記溶剤の沸点以上、85℃以下の温度で乾燥する。
後乾燥工程:前乾燥工程を経た原繊維束を所望の水分率になるまでさらに乾燥し、アセテート繊維束を得る。
【0012】
また、前記原料ポリマーがセルロースジアセテートであり、前記溶剤がアセトンであることが好ましい。
さらに、前記前乾燥工程の乾燥時間が0.5〜2.0分であり、前乾燥工程および後乾燥工程の総乾燥時間が5.0分以下であることが好ましい。
また、本発明のアセテート繊維束は、本発明のアセテート繊維束の製造方法により得られた、溶剤含有率が0.10質量%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアセテート繊維束の製造方法によれば、溶剤含有率が極めて低いアセテート繊維束を生産効率よく得ることができる。
また、本発明のアセテート繊維束は、溶剤含有率が極めて低い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアセテート繊維束の製造方法に用いるアセテート繊維束の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】第2エマルジョンオイル付与手段の一例を示す模式図である。
【図3】図2におけるオイリングガイドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
図1は、本発明に用いるアセテート繊維束の製造装置の一例を示す概略構成図である。この例のアセテート繊維束の製造装置1は、原液を押し出すギアポンプ11と、紡糸筒12内に設けられたノズル13と、ノズル13の吐出孔から吐出した単繊維等を引っ張るフィードローラー14と、単繊維が複数本合わさってなる原繊維束15に、エマルジョンオイルを付与する第1エマルジョンオイル付与手段16と、原繊維束15が複数本収束してなる繊維トウ17に、エマルジョンオイルを付与する第2エマルジョンオイル付与手段18と、繊維トウ17に捲縮を付与する捲縮付与手段19と、繊維トウ17を乾燥する乾燥手段20とを具備して概略構成されている。
ノズルの設置数は特に限定されず、アセテート繊維束の用途に応じて総繊度等が所望の値になるように適宜設定すればよい。また、図1では1つの紡糸筒12内に1つのノズル13が設けられているが、本発明はこれに限定されず、例えば設置される全てのノズルを1つの紡糸筒内に設けてもよい。
【0016】
ギアポンプ11としては、アセテート繊維束を製造する装置に用いられるポンプを使用することができる。
紡糸筒12は、ノズル13の吐出孔から吐出した単繊維を加熱雰囲気下に保持するものである。
ノズル13としては、公知のノズルを使用することができるが、例えば吐出孔を100〜1500個有するノズルが好ましい。
フィードローラー14としては、公知のローラーを使用することができる。
第1エマルジョンオイル付与手段16及び第2エマルジョンオイル付与手段18としては、例えばガイド供給方式、回転ロール式等の構造を有するものが挙げられる。第1エマルジョンオイル付与手段16及び第2エマルジョンオイル付与手段18は、同じ構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
捲縮付与手段19は、一対のローラーを備える。ローラーとしては、繊維トウに捲縮を付与できるものであれば特に制限されない。
乾燥手段20は、前乾燥機20aと後乾燥機20bに分かれている。各乾燥機としては特に制限されないが、後乾燥機20bには乾燥温度を容易に管理できる点で、近赤外線分光光度計及びコンピューター(いずれも図示略)が接続されているのが好ましい。
【0017】
以下、本発明のアセテート繊維束の製造方法の一例について、図1を用いて具体的に説明する。
本発明のアセテート繊維束の製造方法は、原液調製工程と、紡糸工程と、水分・捲縮付与工程と、前乾燥工程と、後乾燥工程とを有する。
【0018】
<原液調製工程>
原液調製工程は、原料ポリマーを溶剤に溶解させて原液を調製する工程である。
原液は、原料ポリマーに対し、溶剤の割合が200〜300質量%になるように調製されるのが好ましい。
原料ポリマーとしては、例えばフレーク状のセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースジアセテートとセルローストリアセテートの混合物などが挙げられる。
【0019】
一方、溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、塩化メチレン、メタノール及びそれらの混合溶剤が挙げられる。溶剤は、原料ポリマーの種類に応じて適宜選択して用いればよい。例えば原料ポリマーとしてセルロースジアセテートを用いる場合、溶解性及びコストの面からアセトンが好適である。
なお、以下の工程においては、原料ポリマーとしてセルロースジアセテート、溶剤としてアセトンを用いた例を中心として説明する。
【0020】
<紡糸工程>
紡糸工程は、原液調製工程にて調製された原液を紡糸して原繊維束15を得る工程である。
セルロースジアセテートがアセトンに溶解した原液は、ギアポンプ11でノズル13へと供給される。ノズル13に供給された原液は、ノズル13の吐出孔から紡糸筒12に吐出され複数の単繊維となると共に、紡糸筒12内の加熱雰囲気下でアセトンが揮発する。
紡糸筒12内は、60〜80℃に保持されていることが好ましい。紡糸筒12内の温度が60℃未満であると、アセトンの揮発が不十分となる。一方、紡糸筒12内の温度が80℃を越えても、アセトンのさらなる揮発は望めない。
【0021】
複数の単繊維は、フィードローラー14で引っ張られながら合わさり、原繊維束15となる。
紡糸筒12を通過した原繊維束15のアセトン含有率は、単繊維繊度によって異なるが、概ね5〜20質量%である。なお、上述したように、原液および原繊維束の紡糸筒12を通過する時間は極めて短時間であるため、例えば紡糸筒12内の温度を100℃に保持しても、アセトン含有率を上記下限値よりもさらに低減することは困難である。
【0022】
<水分・捲縮付与工程>
水分・捲縮付与工程は、原繊維束15に水分を付与した後、捲縮を付与して、水分率が23〜50質量%の原繊維束を得る工程である。
原繊維束15には、平滑性を持たせるためにエマルジョンオイルが付与されるが、この際、水を分散剤としたエマルジョンオイルを用いることで、原繊維束15に水分を付与することができる。
エマルジョンオイルのオイル成分としては、例えば流動パラフィンなどの鉱物油、ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ油脂肪酸エステルやソルビタンモノラウレートなどの界面活性剤が挙げられる。これらオイル成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エマルジョンオイル100質量%中の水の割合は、93〜97質量%が好ましい。水の割合が93質量%以上であれば、水分を付与した後の原繊維束に安定して捲縮を付与することができる。一方、水の割合が97質量%以下であれば、原繊維束に十分なオイル成分を付与することができ、平滑性に優れ工程通過性が安定したアセテート繊維束を得ることができる。
【0023】
原繊維束15への水分の付与は、第1エマルジョンオイル付与手段16にて原繊維束15にエマルジョンオイルを付与することで行ってもよいし、第2エマルジョンオイル付与手段18にて複数の原繊維束15が集束してなる繊維トウ17にエマルジョンオイルを付与することで行ってもよい。また、第1エマルジョンオイル付与手段16及び第2エマルジョンオイル付与手段18の両方にて行ってもよい。
【0024】
第1エマルジョンオイル付与手段16及び/または第2エマルジョンオイル付与手段18にて原繊維束に水分を付与する方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
ガイド供給方式の構造を有する場合、ギアポンプと配管が接続されたガイド(オイリングガイド)に、ギアポンプから配管を経てエマルジョンオイルを供給し、該エマルジョンオイルで濡れたオイリングガイドの表面に、走行している原繊維束を接触させてエマルジョンオイルを付与する。
回転ロール式の構造を有する場合、エマルジョンオイルで濡れた回転中のロールの表面に、走行している原繊維束を接触させてエマルジョンオイルを付与する。
【0025】
ここで、図2を参照し、第2エマルジョンオイル付与手段18にて繊維トウ17に水分を付与する方法の一例について、具体的に説明する。
図2は、ガイド供給方式の構造を有する第2エマルジョンオイル付与手段18の一例を示す模式図である。この例の第2エマルジョンオイル付与手段18は、走行する繊維トウ17にエマルジョンオイルを付与するオイリングガイド18aと、該オイリングガイド18aに一定量のエマルジョンオイルを連続して供給するギアポンプ18bと、オイリングガイド18aとギアポンプ18bとを接続する配管18cとを備えている。
図2に示す第2エマルジョンオイル付与手段18は、走行する繊維トウ17の上側と下側に、オイリングガイド18aが任意の間隔をおいて1つずつ設けられている。
【0026】
図3に示すように、オイリングガイド18aは、走行する繊維トウを案内するガイド本体181を有する。ガイド本体181は、繊維トウの幅方向に細長い中空円筒部材からなり、その周面上を繊維トウが通過する。
ガイド本体181の軸線方向の両側部には、外側に向かってテーパー状に広がる両側一対の鍔部182,182が設けられている。鍔部182のガイド本体181と接する内側端面183は、その直径がガイド本体181の直径よりも大きい。そのため、ガイド本体181と鍔部182の境界は段差状なっており、走行する繊維トウ17のトウ幅を一定の幅寸法以内に規制できる。内側端面183間の距離Lは、通常、3〜30mmに設定される。
【0027】
ガイド本体181の周面には、エマルジョンオイルが吐出するスリット状の油剤付与開口184が、軸線方向に沿って形成されている。油剤付与開口184のスリット長Wは、繊維トウの全幅以上であることが好ましく、通常、3〜30mm程度に設定される。一方、油剤付与開口184の幅Tについては特に限定されないが、0.2〜2.0mm程度に設定されるのが好ましい。
【0028】
さらに、ガイド本体181の軸線方向の一側部には、図2に示す配管18cを介してギアポンプ18bに接続する接続部185が形成されている。該接続部185は、内部に空洞部を有する円筒状部材からなり、油剤付与開口184に連通している。図2に示すギアポンプ18bは一般的な圧油供給源(図示略)に接続されており、一定量のエマルジョンオイルを供給できる。ギアポンプ18bから供給されたエマルジョンオイルは、配管18c、接続部185を通り、ガイド本体181の油剤付与開口184から吐出して繊維トウの長さ方向や全幅にわたって付与される。
【0029】
図2に示す第2エマルジョンオイル付与手段18は、走行する繊維トウ17の上側と下側に、それぞれオイリングガイド18aが設けられているので、繊維トウ17の表面と裏面の両方にエマルジョンオイルを付与できる。
なお、オイリングガイド18aは、繊維トウ17の上側と下側のいずれか一方のみに設けてもよいが、エマルジョンオイルを繊維トウ17により均一に付与するには、図2に示すように繊維トウ17の上側と下側の両方に設けるのが好ましい。
【0030】
配管18cとしては、可撓性をもつプラスチック製パイプやチューブ等が使用できる。
オイリングガイド18aは、配管18cを介してギアポンプ18bから離れた場所に設けることができる。このため、オイリングガイド18aやギアポンプ18bの設置位置の自由度が大きくなる。
【0031】
図2に示す第2エマルジョンオイル付与手段18では、オイリングガイド18aの油剤付与開口からエマルジョンオイルを吐出させ、繊維トウ17に一定量のエマルジョンオイルを連続して付与するにあたり、以下のようにすることが有効である。
すなわち、エマルジョンオイルが油剤付与開口から垂れ落ちることがないように繊維トウ17を油剤付与開口に近接させる。そして、オイリングガイド18aの繊維トウ17との接触面に形成する油膜に、繊維トウ17を接触させながら走行させる。
油剤付与開口に近接して繊維トウ17を連続的に走行させる際、ギアポンプ18bを介して一定量のエマルジョンオイルをオイリングガイド18aの油剤付与開口から連続して吐出させ、繊維トウ17に付与することにより、エマルジョンオイルの付着量を安定させることができるとともに、エマルジョンオイルの付着効率、エマルジョンオイルの付着均一性を顕著に向上させることができる。
【0032】
また、定量性を確保しつつ、連続的で、かつ均一的にエマルジョンオイルを繊維トウに付与するには、オイリングガイド18aをギアポンプ18bの設置位置よりも高くなるように設置するのが好ましい。これにより、オイリングガイド18aとギアポンプ18bとを接続する配管18cが上向きの傾斜勾配を有するようになるため、配管18c内にオイリングガイド18aとギアポンプ18bの高低差に基づく内圧を発生させることができる。その結果、比較的低粘度であり、水と同様に顕著な表面張力を有するエマルジョンオイルをより定量的にオイリングガイド18aに供給できる。
【0033】
なお、第1エマルジョンオイル付与手段16にて原繊維束15に水分を付与する場合についても、例えば上述した第2エマルジョンオイル付与手段18にて水分を付与する方法と同様にして行うことができる。
【0034】
このようにエマルジョンオイルを付与することで水分が付与された原繊維束は、捲縮付与手段19にて捲縮が付与される。
具体的には、第2エマルジョンオイル付与手段18にてエマルジョンオイルが付与された繊維トウ17を、捲縮付与手段19の一対のロールの間を通過させることで、原繊維束に捲縮を付与する。
捲縮付与の程度は特に制限されず、得られるアセテート繊維束の用途に応じて適宜設定される。
【0035】
上述したように、水分・捲縮付与工程では、原繊維束に水分を付与した後、捲縮を付与して水分率が23〜50質量%の原繊維束を得る。原繊維束に水分を付与することで、後述する前乾燥工程において原繊維束中に残存するアセトンを十分に揮発させることができ、アセトン含有率を著しく低減できる。かかるアセトン含有率の低減効果は、以下のように推測される。
原液から紡糸された単繊維には、繊維が形成される際にできた比較的高密度のスキン層が存在する。このスキン層よりも内部に浸透したアセトンは、乾燥工程での熱だけではスキン層を通過して繊維表面まで拡散されにくく、アセトンが揮発しにくい。原繊維束15に水分を付与すると、該水分がアセトンの拡散媒体となり、アセトンの繊維表面への拡散が促進され、前乾燥工程において十分にアセトンが揮発し、アセトン含有率を低減できる。
【0036】
水分・捲縮付与工程において、原繊維束の水分率を23〜50質量%にするには、第1エマルジョンオイル付与手段16や、第2エマルジョンオイル付与手段18の設定条件を調節すればよい。例えば第1エマルジョンオイル付与手段16、第2エマルジョンオイル付与手段18のオイル付与手段が、図2に示すようなガイド供給方式の構造を有するときは、ギアポンプ18bの回転数を調節することで水分率を制御できる。具体的には、ギアポンプ18bの回転数を増やすと、水分率は高くなる傾向にある。また、これらのオイル付与手段が回転ロール式の構造を有するときは、ロールの回転数を調節することで水分率を制御できる。具体的には、ロールの回転数を増やすと、水分率は高くなる傾向にある。
原繊維束の水分率は、下記に示す方法により求めた水分率の測定結果に基づいてギアポンプやロールの回転数を調節することにより管理される。
【0037】
水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束の水分率は、23〜50質量%になる。水分率が23質量%以上であれば、アセトン含有率の低減効果が十分に得られる。一方、水分率が50質量%を越えても、アセトン含有率のより顕著な低減効果は得られにくい。
また、水分・捲縮付与工程では、原繊維束の水分率を23〜32質量%にすることが好ましい。水分率が32質量%以下であれば、第1エマルジョンオイル付与手段16や、第2エマルジョンオイル付与手段18への負荷が抑制される。具体的には、図2に示すようなガイド供給方式の構造を有する場合、過剰な負荷がかかりにくい範囲内でギアポンプ18bの回転数が設定可能である。また、回転ロール式の構造を有する場合は、過剰な負荷がかかりにくい範囲内でロールの回転数が設定可能である。
【0038】
水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束の水分率は、前乾燥工程に供給される前の繊維トウ17を用い、揮発分含有率及びアセトン含有率をそれぞれ以下のようにして測定し、下記式(1)に従い求めることができる。
水分率(質量%)=揮発分含有率−アセトン含有率 ・・・(1)
【0039】
(揮発分含有率の測定)
捲縮が付与された繊維トウを前乾燥工程に供給される前に切断し、300mLの試料瓶に、10m程度素早く詰め込む。繊維トウで試料瓶が満たされた後、試料瓶の蓋を閉じて密閉する。下記式(2)に従い揮発分含有率を測定する。
揮発分含有率(質量%)=100×(A−B−C)/C ・・・(2)
ここで、A(g)は繊維トウで満たされた試料瓶の質量であり、B(g)は空の試料瓶の質量であり、C(g)は試料瓶に詰め込んだ繊維トウを、通風乾燥機を用いて110℃で45分間乾燥した後の質量である。
【0040】
(アセトン含有率の測定)
揮発分含有率の測定と同様にして試料瓶に繊維トウを詰め込み、蓋を閉じて密閉する。試料瓶に詰め込んだ繊維トウを3〜4g採取して、200mLの蒸留水が入った共栓付き三角フラスコに入れ、栓をする。温度24℃の条件下で超音波洗浄機を用い30分間超音波処理して繊維トウに含まれていたアセトンを蒸留水に抽出させる。抽出液を採取し、ガスクロマトグラフを用いてアセトン含有率を求める。
【0041】
<乾燥工程>
水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束は、繊維トウの形態で乾燥手段20に導かれ、以下の前乾燥工程及び後乾燥工程により乾燥され、アセテート繊維束21が得られる。
前乾燥工程では、特定の乾燥温度に設定された乾燥手段20の前乾燥機20aにより繊維トウ17を乾燥する。
一方、後乾燥工程では、特定の乾燥温度に設定された乾燥手段20の後乾燥機20bにより繊維トウ17をさらに乾燥する。
【0042】
(前乾燥工程)
前乾燥工程は、水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束をアセトン(溶剤)の沸点以上、85℃以下の温度で乾燥する工程である。なお、溶剤としてアセトンを用いる場合、乾燥温度の下限値(すなわちアセトンの沸点)は56.5℃である。
乾燥温度がアセトンの沸点未満であると、アセトンを十分に揮発することが困難となり、アセテート繊維束のアセトン含有率が低減されにくくなる。一方、乾燥温度が85℃を超えると、水分の揮発が進行しやすくなり、上述したアセトン含有率の低減効果が得られにくくなる。すなわち、原繊維束に付与された水分はアセトンの拡散媒体の役割を果たすので、単繊維のスキン層の内側に浸透したアセトンの繊維表面への拡散が促進される。しかし、前乾燥工程において水分の揮発が進行するとアセトンの拡散が十分に促進されにくくなる。その結果、アセトンが十分に揮発されず、得られるアセテート繊維束のアセトン含有率が低減されにくくなる。
【0043】
前乾燥工程は、繊維トウ中のアセトンが揮発しやすく、水分が揮発しにくい条件で繊維トウを乾燥するので、繊維トウ(すなわち、原繊維束)中のアセトンを選択的に揮発させることができる。
前乾燥工程での乾燥温度は、上記範囲内であれば、一定であってもよいし、複数の温度に設定してもよいし、温度勾配をつけてもよい。
前乾燥工程での乾燥時間は、0.5〜2.0分が好ましい。乾燥時間が上記範囲内であれば、アセトンを十分に揮発でき、かつ良好な生産性も確保できる。
【0044】
(後乾燥工程)
後乾燥工程は、前乾燥工程を経た原繊維束を所望の水分率になるまでさらに乾燥する工程である。
後乾燥工程での乾燥温度は、所望の水分率になるまで水分を揮発させることができれば特に制限されないが、例えば80〜120℃程度の温度に設定される。
後乾燥工程での乾燥温度は、上記範囲内であれば、一定であってもよいし、複数の温度に設定してもよいし、温度勾配をつけてもよい。
後乾燥工程での乾燥時間は、生産性の観点から、前乾燥工程での乾燥時間と後乾燥工程での乾燥時間を合計した総乾燥時間が5.0分以下になるように、設定するのが好ましい。
【0045】
なお、後乾燥工程での乾燥温度は、後乾燥機に近赤外線分光光度計及びコンピューター(いずれも図示略)を接続すれば、容易に管理できる。具体的には、乾燥手段20を通過したアセテート繊維束21に近赤外線分光光度計により近赤外線を照射し、アセテート繊維束21の水分率を測定する。この測定値からコンピューターを用いて熱量を算出し、該熱量により乾燥温度を自動で制御する。このような管理方法により、生産速度や生産品種が変更されても、所望の水分率のアセテート繊維束21を安定して製造できる。
【0046】
アセテート繊維束21の水分率は、該アセテート繊維束21の用途や、アセテート繊維束21を使用する製品によって決定されるため、一概には決められないが、通常、4.5〜7.5質量%、または5.0〜8.0質量%の水分率になるように後乾燥工程にて繊維トウ17を乾燥する。
なお、アセテート繊維束21の水分率は、上述したように近赤外線を照射することで測定できる。
【0047】
このようにして得られたアセテート繊維束21は、溶剤含有率が極めて低い。具体的には溶剤含有率を0.10質量%未満に低減することができる。
アセテート繊維束21の溶剤含有率は、以下のようにして求めることができる。
すなわち、後乾燥工程にて乾燥された繊維トウ(アセテート繊維束)を切断し、300mLの試料瓶に、10m程度素早く詰め込む。アセテート繊維束で試料瓶が満たされた後、試料瓶の蓋を閉じて密閉する。試料瓶に詰め込んだアセテート繊維束を3〜4g採取して、200mLの蒸留水が入った共栓付き三角フラスコに入れ、栓をする。温度24℃の条件下で超音波洗浄機を用い30分間超音波処理してアセテート繊維束に含まれていたアセトンを蒸留水に抽出させる。抽出液を採取し、ガスクロマトグラフを用いてアセトン含有率を測定する。
【0048】
なお、得られたアセテート繊維束21は、梱包工程に誘導され、数時間かけて梱包容器(図示略)等に、該容器が満たされるまで振込まれる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、前乾燥工程前の原繊維束の水分率が23〜50質量%になっているので、付与された水分が溶剤の拡散媒体の役割を果たす。すなわち、単繊維の内部にまで浸透した溶剤が繊維表面に拡散されやすくなり、前乾燥工程にて十分に溶剤が揮発し、溶剤含有率が極めて低いアセテート繊維束を製造できる。なお、付与された水分は前乾燥工程では揮発しにくいので、水分による溶剤の拡散効果が低下しにくい。
また、本発明は上述した工程を連続して行うことができるので、アセテート繊維束の生産効率に優れる。
【0050】
なお、本発明のアセテート繊維束の製造方法は、上述した方法に限定されない。例えば原繊維束に水分を付与する方法として、水や水蒸気を直接付与する方法を用いてもよい。
水を直接付与する場合、その付与方法としては特に制限されないが、例えば水で濡れた回転中のロールの表面に、走行している原繊維束を接触させて水を付与する方法が挙げられる。また、図2に示すオイリングガイド18aの代わりに同様の構造の水付与ガイドを備え、該水付与ガイドにギアポンプと配管が接続されている装置を用い、ギアポンプから配管を経て水付与ガイドに水を供給し、該水で濡れた水付与ガイドの表面に、走行している原繊維束を接触させて水を付与してもよい。
一方、水蒸気を直接付与する場合、その付与方法としては特に限定されないが、例えば水蒸気を噴射するノズルを有する装置を用い、走行している原繊維束に水蒸気を噴射して付与する方法が挙げられる。
【0051】
原繊維束に水や水蒸気を直接付与する場合、そのタイミングは原繊維束に捲縮を付与する前であれば特に限定されない。例えば図1に示す第1エマルジョンオイル付与手段16にて原繊維束15にエマルジョンオイルを付与する場合、該エマルジョンオイルを付与する前でも後でもよい。また、第2エマルジョンオイル付与手段18にて繊維トウ17にエマルジョンオイルを付与する場合、該エマルジョンオイルを付与する前でも後でもよい。また、原繊維束15と繊維トウ17の両方に水や水蒸気を直接付与してもよい。
ただし、アセテート繊維束の製造装置を簡略化・小型化できる観点では、水を分散剤としたエマルジョンオイルを用いることで、原繊維束に水分を付与する方法が好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において測定した水分率および溶剤含有率の測定方法は、次の通りである。
【0053】
<水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束の水分率の測定>
水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束の水分率は、前乾燥工程に供給される前の繊維トウを用い、揮発分含有率及びアセトン含有率をそれぞれ以下のようにして測定し、下記式(1)に従って求めた。
水分率(質量%)=揮発分含有率−アセトン含有率 ・・・(1)
【0054】
(揮発分含有率の測定)
アセテート繊維束の製造過程において、水分・捲縮付与工程にて捲縮が付与された後の繊維トウを切断し、ポリエチレン製の試料瓶(容量300mL)に、切断端から素早く詰め込んだ。繊維トウで試料瓶が満たされた時点で(繊維トウ10m程度分)、水分・捲縮付与工程から試料瓶に供給される繊維トウを切断し、試料瓶の蓋を閉じて密閉した。そして、下記式(2)に従い揮発分含有率を求めた。
揮発分含有率(質量%)=100×(A−B−C)/C ・・・(2)
ここで、A(g)は繊維トウで満たされた試料瓶の質量であり、B(g)は空の試料瓶の質量であり、C(g)は試料瓶に詰め込んだ繊維トウを、通風乾燥機を用いて110℃で45分間乾燥した後の質量である。
【0055】
(アセトン含有率の測定)
揮発分含有率の測定と同様にして試料瓶に繊維トウを詰め込み、蓋を閉じて密閉した。試料瓶に詰め込んだ繊維トウを3〜4g採取して、200mLの蒸留水が入った共栓付き三角フラスコに入れ、栓をした。温度24℃の条件下で超音波洗浄機を用い30分間超音波処理して繊維トウに含まれていたアセトンを蒸留水に抽出させた。抽出液を2μL採取し、ガスクロマトグラフ(日立製作所株式会社製、水素炎イオン化検出器)に注入し、アセトン含有率を測定した。ガスクロマトグラフによる測定条件を以下に示す。
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)、
カラム:充填剤として、Chromosorb102(粒経60〜80メッシュ)が充填された、ステンレス製カラム(内径3mmφ×2m)、
オーブン温度:150℃、
注入口温度:150℃。
【0056】
<アセテート繊維束の溶剤含有率の測定>
アセテート繊維束の製造過程において、後乾燥工程にて乾燥され、梱包工程に供給される際の繊維トウ(アセテート繊維束)を切断し、ポリエチレン製の試料瓶(容量300mL)に、切断端から素早く詰め込んだ。アセテート繊維束で試料瓶が満たされた時点で(アセテート繊維束10m程度分)、後乾燥工程から試料瓶に供給されるアセテート繊維束を切断し、試料瓶の蓋を閉じて密閉した。
試料瓶に詰め込んだアセテート繊維束を3〜4g採取して、水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束の水分率の測定における、アセトン含有率の測定と同様にしてアセテート繊維束に含まれていた溶剤(アセトン)を蒸留水に抽出させ、抽出液を採取し、ガスクロマトグラフを用いて溶剤含有率を測定した。
【0057】
<実施例1−1>
図1に示すアセテート繊維束の製造装置1を用い、以下のようにしてアセテート繊維束を製造した。
まず、平均酢化度55.5%のセルロースジアセテートをアセトンに溶解し、セルロースジアセテートの濃度29.3質量%の原液を調製した。この原液を用い、吐出孔を250個有するノズル13を用いて乾式紡糸して原繊維束15とした。引き続き、第1エマルジョンオイル付与手段16を用いて、下記組成のエマルジョンオイルを原繊維束15に対して15質量%付与した。次いで、フィードローラー14を用いて引取速度450m/分で引き取り、原繊維束15を11本集束して、総繊度が17300dtex、単繊維数が2750本の繊維トウ17とした。次いで、第2エマルジョンオイル付与手段18を用いて、下記組成のエマルジョンオイルを、繊維トウ17に付与速度20mL/分で付与した。引き続き、捲縮付与手段19を用いて繊維トウに捲縮を付与した。捲縮が付与された後の繊維トウの水分率は、23.4質量%であった。
次いで、乾燥手段20を用いて、捲縮が付与された後の繊維トウ17を前乾燥工程及び後乾燥工程の順で乾燥し、アセテート繊維束21を得た。前乾燥工程では、乾燥温度を59℃、乾燥時間を1.5分に設定した。一方、後乾燥工程では、乾燥時間を1.5分に設定した。また、後乾燥工程での乾燥温度は、近赤外線分光光度計(図示略)を用い、後乾燥工程後の繊維トウ(アセテート繊維束21)の水分率が4.5〜7.5質量%になるように自動制御した。
このようにして得られたアセテート繊維束の溶剤含有率(アセトン含有率)を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(エマルジョンオイルの組成)
・鉱物油(流動パラフィン)と、界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ油脂肪酸エステル及びソルビタンモノラウレート)を含む混合オイル:4.5質量%。
・水:95.5質量%。
【0059】
<実施例1−2〜1−6>
前乾燥工程での乾燥温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1−1と同様にしてアセテート繊維束を製造し、得られたアセテート繊維束のアセトン含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
<比較例1−1〜1−5>
前乾燥工程での乾燥温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1−1と同様にしてアセテート繊維束を製造し、得られたアセテート繊維束のアセトン含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から明らかなように、各実施例で得られたアセテート繊維束は、アセトン含有率が0.10質量%未満であり、アセトン含有率を十分に低減することができた。
一方、各比較例で得られたアセテート繊維束は、アセトン含有率が0.10質量%以上であり、各実施例に比べてアセトンが多く残存していた。
【0063】
<実施例2−1〜2−7>
図1に示すアセテート繊維束の製造装置1、及び実施例1−1で調製した原液を用い、表2に示したように各条件を変更し、以下のようにしてアセテート繊維束を製造した。
吐出孔を250〜1075個有するノズル13を用いて乾式紡糸して原繊維束15とした。引き続き、第1エマルジョンオイル付与手段16を用いて、実施例1−1と同様のエマルジョンオイルを原繊維束15に対して15質量%付与した。次いで、フィードローラー14を用いて引取速度430〜470m/分で引き取り、原繊維束15を集束して、単繊維繊度が1.9〜7.3dtex、総繊度が17300〜44000dtex、単繊維数が2750〜23652本の繊維トウ17とした。次いで、第2エマルジョンオイル付与手段18を用いて、実施例1−1と同様のエマルジョンオイルを、表2に示す付与速度で繊維トウ17に付与した。引き続き、捲縮付与手段19を用いて繊維トウに捲縮を付与した。捲縮が付与された後の繊維トウの水分率を表2に示す。
次いで、乾燥手段20を用いて、捲縮が付与された後の繊維トウ17を前乾燥工程及び後乾燥工程の順で乾燥し、アセテート繊維束21を得た。前乾燥工程では、乾燥温度を表2に示す温度、乾燥時間を1.5分に設定した。一方、後乾燥工程では、乾燥時間を1.5分に設定した。また、後乾燥工程での乾燥温度は、近赤外線分光光度計(図示略)を用い、後乾燥工程後の繊維トウ(アセテート繊維束21)の水分率が4.5〜7.5質量%になるように自動制御した。
このようにして得られたアセテート繊維束の溶剤含有率(アセトン含有率)を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2から明らかなように、各実施例で得られたアセテート繊維束は、アセトン含有率が0.10質量%未満であり、アセトン含有率を十分に低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、溶剤含有率が0.10質量%未満であるアセテート繊維束を生産効率良く得ることができる。かかる溶剤含有率の低いアセテート繊維束は、人が口にするタバコフィルターの分野での素材として極めて有用なるものであり、また好適に使用されるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 アセテート繊維束の製造装置、
11 ギアポンプ、
12 紡糸筒、
13 ノズル、
14 フィードローラー、
15 原繊維束、
16 第1エマルジョンオイル付与手段、
17 繊維トウ、
18 第2エマルジョンオイル付与手段、
19 捲縮付与手段、
20 乾燥手段、
21 アセテート繊維束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示す工程を有するアセテート繊維束の製造方法。
原液調製工程:原料ポリマーを溶剤に溶解させて原液を調製する。
紡糸工程:前記原液をノズルから吐出させ、加熱雰囲気下で溶剤を揮発させて原繊維束を得る。
水分・捲縮付与工程:前記原繊維束に水分を付与した後、捲縮を付与して、水分率が23〜50質量%の原繊維束を得る。
前乾燥工程:水分・捲縮付与工程で得られた原繊維束を前記溶剤の沸点以上、85℃以下の温度で乾燥する。
後乾燥工程:前乾燥工程を経た原繊維束を所望の水分率になるまでさらに乾燥し、アセテート繊維束を得る。
【請求項2】
前記原料ポリマーがセルロースジアセテートであり、前記溶剤がアセトンである、請求項1に記載のアセテート繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記前乾燥工程の乾燥時間が0.5〜2.0分であり、前乾燥工程および後乾燥工程の総乾燥時間が5.0分以下である、請求項1または2に記載のアセテート繊維束の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアセテート繊維束の製造方法により得られた、溶剤含有率が0.10質量%未満である、アセテート繊維束。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−106419(P2010−106419A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205295(P2009−205295)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】