説明

アセトアルデヒドの除去方法

【課題】 本発明は、第VIII族金属カルボニル化触媒とハロゲン化アルキルと有限量の水の存在下、メタノール及び/又はその反応性誘導体と一酸化炭素とを反応させる酢酸の製造プロセスにおいて、ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含むガスから、アセトアルデヒドを除去することを課題とする。
【解決手段】 ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含むガスを、水性溶媒と接触させることで、アセトアルデヒドを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含むガスから、アセトアルデヒドを除去する方法に関する。また、第VIII族金属カルボニル化触媒とハロゲン化アルキルと有限量の水の存在下、メタノール及び/又はその反応性誘導体と一酸化炭素とを反応させる酢酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第VIII族金属カルボニル化触媒の存在下における、アルコール及び/又はその反応性誘導体のカルボニル化方法は既に知られており、酢酸などの有機カルボン酸を工業的に製造するための優れた方法である。しかしながら、酢酸を製造する際には、アセトアルデヒドやアセトアルデヒド由来の不純物、例えば、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、さらにはこれらのアルドール縮合生成物や、ヨウ化物イオンと反応したヨウ化ブチル,ヨウ化ヘキシルなども同時に生成することが知られている。これら不純物の一部は、酢酸に近い沸点を有するため、蒸留のような通常の分離プロセスで除去することが困難である。特に精製された酢酸中に微量残存している還元性不純物は、過マンガン酸カリウム試験と呼ばれる酢酸の品質試験で検出され、品質の悪化につながっている。
【0003】
製品酢酸中のカルボニル不純物は、カルボニル化反応中に副生されるアセトアルデヒドに起因していると考えられている。したがって、カルボニル化反応器中のアセトアルデヒド濃度を低減させれば、カルボニル不純物の生成を抑制することができ、その結果として、高純度の酢酸を得ることができる。カルボニル化反応中に副生されたアセトアルデヒドの多くは精製工程の蒸留において、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水とともに留出液として得られ、カルボニル化反応器へ再循環される。その際、その再循環液中からアセトアルデヒドを除去することでカルボニル化反応器中のアセトアルデヒド濃度を低く抑える技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、アセトアルデヒドはその高い揮発性のためにカルボニル化反応器のオフガスや精製工程のオフガス中にも多く存在している。従来の方法では、このオフガスが通常ヨウ化メチルや酢酸メチルを回収する目的で回収工程へと導入され、その工程でアセトアルデヒドもヨウ化メチル、酢酸メチルと同様に回収されてしまうために、結果として、アセトアルデヒドがプロセス系内に再循環されることとなる。したがって、このオフガス中のアセトアルデヒドを除去することができれば、再循環流中のアセトアルデヒド濃度を低く制御することが可能となり、前記の技術(特許文献1)との併用でさらなる不純物低減効果がある。あるいは前記の技術に代わる技術として期待される。また、前記の技術(特許文献1)ではアセトアルデヒドを除去するために蒸留塔を設置する必要があるが、酢酸を製造する反応器や蒸留塔などの一般的な設備と比較してアセトアルデヒドを除去する蒸留塔は非常にスケールの小さいものとなることから、小規模プラントにおいてはアセトアルデヒドを除去する蒸留塔を設計することが困難である。特にこのような小規模プラントでは、本発明の技術がアセトアルデヒド除去のために使われることが期待される。

【特許文献1】特開平8−67650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アセトアルデヒドを選択的に除去することによって、酢酸中の不純物であるカルボニル化合物あるいは有機ヨウ化物を減少させ、高純度の酢酸を製造する方法を提供することを課題とする。さらに詳しくは、カルボニル化反応中に副生したアセトアルデヒドを、反応器または精製工程のオフガスから除去することでプロセス系内のアセトアルデヒド濃度を低減し、而して酢酸中の不純物を低減し、高純度の酢酸を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、酢酸中の不純物の大部分がカルボニル化反応中に副生するアセトアルデヒドに起因するものであること、また、これら不純物が主に反応器で生成すること、さらにアセトアルデヒドの沸点がメタノール、酢酸メチル、水、酢酸などと比較して著しく低いことに着目した。カルボニル化反応中に副生したアセトアルデヒドは、反応器のオフガス、またはフラッシャーで分離された高揮発性相を蒸留する際のオフガスに多く含まれる。このオフガスを水性溶媒と接触させることで、ガス中のアセトアルデヒドを選択的に吸収・除去できることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アセトアルデヒドと、ヨウ化メチル、酢酸メチルを含むオフガスを、水を始めとする水性溶媒と接触させることで、アセトアルデヒドを除去することができる。特に、前記のオフガスを水と接触させた場合には、水相に選択的にアセトアルデヒドが吸収され、ヨウ化メチル、酢酸メチルは水相にはほとんど吸収されないため、効率的にアセトアルデヒドを除去することができる。また、以上のような方法によりアセトアルデヒドを除去することは、アセトアルデヒドに由来する不純物の少ない、高純度酢酸の製造につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のアセトアルデヒドの除去方法は、アセトアルデヒドを含むガス全てに適用できる。本発明のアセトアルデヒド除去方法において使用できる吸収液は、水を始めとする水性溶媒であり、特に好ましくは水である。水はイオン交換水など一般に工業的に用いられるものでよい。また、プロセス内にある水を利用してもよい。水以外の水性溶媒としては水溶液及び一般的に知られている水溶性あるいは親水性の溶媒が利用できる。
【0009】
まず前記メタノールおよび/またはその反応性誘導体のカルボニル化による酢酸の製造方法、及び触媒溶液について説明する。メタノールおよび/またはその反応性誘導体の酢酸へのカルボニル化反応に使用される触媒としては、第VIII族金属成分とハロゲン化物助触媒が好適に用いられる。第VIII族金属成分としてはロジウム、イリジウム、パラジウム、ルテニウム等が挙げられるが、好ましくはロジウム、イリジウム、中でもロジウムが好ましく用いられる。一般にロジウム成分はロジウムの配位化合物の形で存在し、例えば、[Rh(CO)2Cl]2、Li[Rh(CO)2I2]、[Rh(CO)2I]2、[Rh(COD)Cl]2(CODとは、シクロオクタジエンを意味する。)等や、また、RhCl3、RhCl3・3H2O、RhBr3、RhI3、酢酸ロジウム(II)、ジカルボニルアセチルアセトナトロジウム、RhCl(CO)(PPh3)2などの形で用いられる。ロジウム成分を用いた場合、反応液中のロジウム化合物の濃度は、ロジウム濃度で、50〜5000ppm、好ましくは200〜2500ppm、さらに好ましくは400〜1500ppmの範囲である。
【0010】
次に、ハロゲン化物助触媒としては有機ハロゲン化物、すなわちアルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリールハロゲン化物が使用できる。ハロゲン化物助触媒は供給アルコールのアルキル基に対応するアルキルハロゲン化物が好ましく、例えばメタノールの酢酸へのカルボニル化反応のハロゲン化物助触媒はメチルハロゲン化物、中でもヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチルが好ましいが、特にヨウ化メチルが好ましく用いられる。反応液中のアルキルハロゲン化物の濃度は、1〜20wt%、好ましくは2〜16wt%、より好ましくは5〜16wt%である。
【0011】
触媒の安定化と副反応抑制等を目的として、特に低水分下(例えば、水濃度が約0.1〜約10wt%)においてヨウ化物塩が好ましく用いられる。ヨウ化物塩は反応液中でヨウ素イオンを発生するものであればいかなるものであってもよく、例を挙げるならば、LiI、NaI、KI、RbI、CsIのようなアルカリ金属ヨウ化物塩、BeI2、MgI2、CaI2等のアルカリ土類金属ヨウ化物塩、BI3、AlI3等のアルミニウム金属ヨウ化物塩等がある。また金属ヨウ化物塩以外に有機ヨウ化物塩でもよく、例えば四級ホスホニウムヨウ化物塩(トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのヨウ化メチル付加物又はヨウ化水素付加物等)、四級アンモニウムヨウ化物塩(三級アミン、ピリジン類、イミダゾール類、イミド類などのヨウ化メチル付加物又はヨウ化水素付加物等)等が挙げられる。特にLiIなどのアルカリ金属ヨウ化物塩が好ましい。ヨウ化物塩の使用量は、反応液中のヨウ化物イオンが0.01〜35wt%であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜20wt%となる量がよい。
【0012】
メタノールの反応性誘導体としては、酢酸メチルのようなエステル類、ジメチルエーテルのようなエーテル類が挙げられる。
【0013】
反応液中の酢酸メチル濃度は0.1〜30wt%以下、好ましくは1〜20wt%である。反応液中の水分濃度は有限量であって15wt%以下、好ましくは10wt%以下、さらに好ましくは0.1〜5wt%であり、残りの主成分は、生成物であり反応溶媒でもある酢酸である。カルボニル化反応の典型的な温度は約150〜250℃、好ましくは約180〜220℃の範囲である。反応器中の一酸化炭素分圧は広範囲に変動し得るが、典型的には約2〜30気圧、好ましくは4〜20気圧である。また、水素分圧も広範囲に変動し得るが、2気圧以下、好ましくは1気圧以下に制御することが好適である。全反応器圧は、副生物の分圧と含まれる液体の蒸気圧のために約15〜40気圧の範囲内が好ましい。また、反応は連続反応でもバッチ反応でもよいが、好ましくは連続反応で実施される。上記反応条件下で得られた液体生成物は反応器から取り出され、フラッシャーに導入され、主に、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水からなる高揮発性成分と、主に触媒、ヨウ化物塩、酢酸からなる低揮発性成分とに分離され、高揮発性成分はフラッシャー頂部から取り出され、ヨウ化メチル・酢酸スプリッタ−カラムを含むさらなる精製工程に送られる。低揮発性成分はフラッシャー底部から取り出され、反応器に戻される。
【0014】
本発明の処理を受けるオフガスは、前記工程中、反応器および精製工程から排出されるオフガスなど、アセトアルデヒドを含むガスであればどれでも適用され得るが、好適には反応器およびフラッシャー直後の蒸留工程から排出されるオフガスであり、さらに好適にはフラッシャー直後の蒸留工程から排出されるオフガスに適用される。
【0015】
なお、本方法は酢酸の製造工程のみならず、無水酢酸の製造工程においてもアセトアルデヒドを除去する方法として利用できる。
【0016】
本方法が適用されるオフガスの流量は、吸収塔内におけるガスの線速が概ね1m/秒以下、好ましくは0.1m/秒以下である。また、オフガス中のアセトアルデヒドの濃度は、概ね5重量%以下、好ましくは0.5重量%以下程度である。
【0017】
ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含む流体からアセトアルデヒドを除去する別の方法として、該流体との接触部分にシリコーンを主材質として使用している設備を利用することもできる。この場合ヨウ化メチルや酢酸メチルはシリコーン膜を透過するが、アセトアルデヒドは透過しないため両者を効率的に分離することができる。シリコーンを主材質として使用する設備には、シリコーンを主材質として用いた平膜や中空子膜等、一般的に知られている膜分離設備が含まれる。
【0018】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
200ml丸底フラスコに100mlの氷冷したアセトアルデヒドを入れ、さらに別の300ml丸底フラスコに液温を30℃に調節した150mlのヨウ化メチルを入れ、それぞれ1.5NL/hr,10.0NL/hrで窒素を通し、排出されるガスに、それぞれ窒素ガスを加えてから混合して、アセトアルデヒド濃度 500ppm,ヨウ化メチル濃度 40重量%となるように調整し80NL/hrの仕込みガスとした。この仕込みガスを内径4cm,段数10段のガラス製オルダーショウ型吸収塔の塔底より吹き込み、さらに塔頂からは0.5L/hrの流速で約10℃の水を導入した。仕込みガスおよび水の供給開始後、60分後に吸収塔から排出されるオフガス、および塔底の缶出液を分析したところ、オフガス中のアセトアルデヒド濃度は49ppm,ヨウ化メチル濃度は38重量%であり、塔底缶出液中のアセトアルデヒド濃度は180ppm,ヨウ化メチル濃度は5000ppmであった。この結果から、仕込みガス中の各成分の重量を基準として、ヨウ化メチルは97%がオフガス,3%が塔底缶出液に分配したのに対し、アセトアルデヒドは9%がオフガス,91%が塔底缶出液に分配した。
【実施例2】
【0020】
導入する水を約0.25L/hrとした以外実施例1と同様の実験を行った。その結果、オフガス中のアセトアルデヒド濃度は80ppm,ヨウ化メチル濃度は38重量%であり、塔底缶出液中のアセトアルデヒド濃度は320ppm,ヨウ化メチル濃度は5000ppmであった。この結果から、ヨウ化メチルは97%がオフガス,3%が塔底缶出液に分配したのに対し、アセトアルデヒドは15%がオフガス,85%が塔底缶出液に分配した。
【実施例3】
【0021】
ヨウ化メチル12.6重量%、アセトアルデヒド0.2重量%の他に一酸化炭素ガス,窒素ガス,水素ガスを含むガスを500NL/hrで吸収塔塔底より吹き込み、塔頂からは水を3kg/hrで流したところ、吸収塔塔頂から排出されるガス中のヨウ化メチル濃度が11.3重量%,アセトアルデヒド濃度が0.04重量%であり、重量換算で80%のアセトアルデヒドが塔底缶出液に吸収されたのに対して、ヨウ化メチルの塔底缶出液への吸収は10%であった。
【実施例4】
【0022】
仕込みガス中のヨウ化メチル濃度を13.6重量%、アセトアルデヒド濃度を0.1重量%とした以外は実施例3と同様に実験したところ、吸収塔塔頂から排出されるガス中のヨウ化メチル濃度が12.8重量%,アセトアルデヒド濃度が0.02重量%であり、重量換算で80%のアセトアルデヒドが塔底缶出液に吸収されたのに対して、ヨウ化メチルの塔底缶出液への吸収は6%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含むガスから、該ガスを水性溶媒と接触させることで、アセトアルデヒドを除去する方法。
【請求項2】
(a)第VIII族金属カルボニル化触媒とハロゲン化アルキルと有限量の水の存在下、メタノール及び/又はその反応性誘導体と一酸化炭素とを反応させる工程、(b)反応後の液をフラッシャーによりヨウ化メチルを含む高揮発性相と、触媒を含む低揮発性相とに分離する工程、及び(c)前記高揮発性相を蒸留する工程、を含む酢酸の製造プロセス中で発生する、ヨウ化メチルと酢酸メチルとアセトアルデヒドを含むガスから、該ガスを水性溶媒と接触させることで、アセトアルデヒドを除去する請求項1記載のアセトアルデヒドの除去方法。
【請求項3】
ガスと接触させる水性溶媒が水である請求項2記載のアセトアルデヒドの除去方法。
【請求項4】
請求項2または3記載のアセトアルデヒドの除去方法を含むことを特徴とする酢酸の製造方法。


【公開番号】特開2007−284404(P2007−284404A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116265(P2006−116265)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】