説明

アセトニトリル製造方法及び装置

【課題】アセトニトリル水溶液から、水の含有量の少ない高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法及び装置を提供する。
【解決手段】アセトニトリル水溶液をその内部に収容する容器と、容器中の溶液を蒸発させて蒸気を生成するために、アセトニトリル水溶液の温度を、アセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度に調節することによって、アセトニトリル溶液からアセトニトリルを含む蒸気を生成し、その蒸気を凝縮させて液体に変換し、アセトニトリル溶液を回収する蒸発凝縮分離工程と、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度まで冷却して水を分離した後に常温まで加熱してアセトニトリル溶液を得る冷却分離工程と、脱水吸着材に接触させる吸着工程の一部または全部を含む、アセトニトリル水溶液から高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を製造する方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトニトリル水溶液又は含水率の高いアセトニトリル溶液から、含水率の小さい高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法及び装置に関し、特に、使用され回収されたアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から、高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトニトリル(分子式: CHCN;記号:AN、MeCN)は、可燃性の有機溶媒の一種であり、約82℃の沸点及び約13℃の引火点を持つ。水と任意の割合で混合するが、アセトニトリルと水の混合物は、大気圧下で76℃において16重量パーセントの含水率で共沸する、共沸混合物である。アセトニトリルは、化学反応用の溶媒、特に医薬中間体の合成や精製の溶媒としてや、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法での移動層溶媒などに用いられてきた。さらに近年は、DNA合成、製造溶媒、有機EL材料合成用触媒、電子部品の洗浄溶剤としても用いられるようになっており、これらの用途のために、高純度且つ含水率の低い高濃度のアセトニトリル溶液を提供することが要求されている。
【0003】
アセトニトリル溶液は、使用目的によって幾つかの等級に区分されている。すなわち、未精製アセトニトリル溶液又は粗製アセトニトリル溶液、低等級アセトニトリル溶液、工業等級アセトニトリル溶液、高速液体クロマトグラフ(HPLC)等級アセトニトリル溶液、DNA合成等級アセトニトリル溶液、及び超高純度アセトニトリル溶液が市場では使用されている。
【0004】
未精製アセトニトリル溶液は、プラスチック原料の生産の際の副生成物として得られるアセトニトリル溶液である。一例として、アンモニアおよび酸素を用いるプロピレンの触媒的アンモ酸化(ソハイオ法)によるアクリロニトリルの製造の際に得られるアセトニトリル溶液が知られている。未精製アセトニトリル溶液は、一般に、最高50重量パーセントのアセトニトリルと最高50重量パーセントの水を含んでいる。
【0005】
低等級アセトニトリル溶液には、HPLC法での使用済み廃液、DNA合成過程での使用済み廃液、プラスチック原料の生産の際の副生成物を含む。低等級アセトニトリル溶液は、35重量パーセントから85重量パーセントのアセトニトリル及び約40重量パーセント未満の水を含んでいる。
【0006】
工業等級アセトニトリル溶液は、少なくとも99.75重量パーセントのアセトニトリル及び約500ppmの水を含んでおり、例えば、ガスクロマトグラフ法などで使用される。
【0007】
HPLC等級アセトニトリル溶液は、少なくとも99.8重量パーセントのアセトニトリルを含み、100ppmを超える水を含んでいてよい。さらに、HPLC等級アセトニトリル溶液は、UV吸収のカットオフ波長が190nmより小さいという非常に高純度のアセトニトリルから形成されている。
【0008】
DNA合成等級アセトニトリル溶液は、少なくとも99.9重量パーセントのアセトニトリル及び約50ppm以下の水を含み、超高純度アセトニトリル溶液は少なくとも99.99重量パーセントのアセトニトリル及び約20ppm以下の水を含む。
【0009】
現在、未精製アセトニトリル溶液、又は工業等級以上のアセトニトリル溶液から含水率の小さい高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法は既に幾つか知られている。
【0010】
未精製アセトニトリル溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法には、共沸蒸留や抽出蒸留を用いたものが知られている。例えば、未精製アセトニトリル溶液からHPLC法でも使用可能なHPLC等級アセトニトリル溶液を製造する方法には、環流条件下で、加圧蒸留及び減圧蒸留を含む複数の蒸留工程を含む方法などが知られている。しかし、未精製アセトニトリル溶液の生産量はプラスチック原料の生産計画の影響を受けやすく、よってこの方法では、プラスチック原料の生産量が極端に減量された場合、アセトニトリルの生産量が減り、アセトニトリルが不足する恐れがある。
【0011】
また、工業等級以上のアセトニトリル溶液から含水率の小さい高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法には、有機不純物を吸収剤を用いて除去する方法、水を吸収剤を用いて除去する方法等が含まれる。この方法は、一般に、含水率の小さいアセトニトリル溶液から出発する時のみ有効である。
【0012】
よって、低等級アセトニトリル溶液から、HPLC等級アセトニトリル溶液、DNA合成等級アセトニトリル溶液、又は超高純度アセトニトリル溶液を含む高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法は、幾つか提案されているが、十分に確立された方法は知られていない。
【0013】
アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法を開発するときの困難さは、アセトニトリルと水の混合物は、大気圧下では76℃において16重量パーセントの含水率(即ち、アセトニトリルを84重量パーセント含む)で共沸する共沸混合物であるという事実に由来する。つまり、アセトニトリルと水の混合物は共沸混合物であるため、HPLC等級アセトニトリル溶液等の高濃度アセトニトリル溶液を得ることは難しい。
【0014】
蒸留法を適用する前にアセトニトリル溶液の含水率を16重量パーセントより小さくしておくと、蒸留工程で水1パーセントに対して、アセトニトリル5.25重量パーセントが失われるので、水が全て蒸発した後に、含水率が非常に小さい高濃度アセトニトリル溶液を得ることができる。
【0015】
このため、蒸留と浸透気化法を組み合わせることによって、アセトニトリル溶液の含水率を16重量パーセントより小さいアセトニトリル溶液を準備し、低等級アセトニトリル溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法が提案されている。浸透気化法は、膜によって液体から気体に変化させて透過分離する方法で、混合物が共沸する成分から構成されていても、それらの間で膜透過係数に差があれば、互いに分離することが可能である(特許文献1参照)。
【0016】
また、蒸留と浸透気化法を組み合わせる代わりに、圧力スウィング蒸留を用いる方法も提案されている。この方法では、アセトニトリルと水の共沸混合物及び低沸点不純物を、高沸点不純物から分離するために大気圧以下の圧力下で蒸留し、次に、アセトニトリルを水及び低沸点不純物から分離するために、大気圧下で蒸留する。
大気圧より低い圧力下では、共沸点でのアセトニトリルの重量パーセントは上昇し、例えば、300mmHgでの共沸点は51℃であり、アセトニトリル89.5重量パーセントで共沸し、150mmHgでの共沸点は34℃であり、アセトニトリル93重量パーセントで共沸する。よって、大気圧下で蒸留されるアセトニトリル溶液中のアセトニトリルの重量パーセントを、84重量パーセントより大きくすることが可能である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開WO2005/044783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、蒸留を用いる方法では、アセトニトリルと水の混合物は共沸混合物であるため、HPLC等級以上のアセトニトリル溶液を得ることは難しかった。
【0019】
また、従来技術のように、蒸留を用いる方法では、飛沫同伴が生じる可能性があり、高純度のアセトニトリル溶液を得ることが困難であった。飛沫同伴とは、沸騰の際、気泡が破裂して生成される飛沫が蒸気に混入する現象であり、例えば、飛沫を含む蒸気を凝縮させて得られるアセトニトリル溶液は、HPLC法による分析には使えないという問題があった。
【0020】
また、上記のように、アセトニトリルを84重量パーセント以上含むアセトニトリルと水の共沸混合物を準備した上で、この共沸混合物を蒸留して得られる残りとして高濃度アセトニトリル溶液を得る方法では、最終的に得られる高濃度アセトニトリル溶液の量は、必然的に少なくならざるを得ず、工業目的には使いづらいという問題があった。
【0021】
また、上述のようにアセトニトリルは可燃性で、約13℃という引火点を持つ。蒸留するためにアセトニトリルと水の混合物を共沸点である76℃まで加熱するためには、それ以上の高温に熱せられた熱源が混合物の近くに必要であり、蒸留の工程に危険が伴っていた。
【0022】
また、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から水の含有量の少ない、例えば、低等級アセトニトリル溶液から、HPLC等級アセトニトリル溶液のような高濃度アセトニトリル溶液を効率良く、さらに好ましくは同時に環境に配慮しながら製造する装置はなかった。
【0023】
本発明の目的は、上記の従来装置又は方法の欠点を解決し、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から、水の含有量の少ない高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明に従うアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液(以下「アセトニトリル原液」という)から高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法の一つの実施形態によれば、アセトニトリル原液の温度を、アセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度に調節することによって、アセトニトリル原液からアセトニトリル含む蒸気を生成し、その蒸気を凝縮させて第1の高濃度アセトニトリル溶液を回収する蒸発凝縮分離工程を含むことを特徴とする。
【0025】
ここで、「アセトニトリル水溶液」とは、少なくとも液体のアセトニトリルと水を含む液体で、水を50重量パーセント以上含むものを指す。
「アセトニトリル溶液」とは、少なくとも液体のアセトニトリルと水を含む液体で、アセトニトリルを50重量パーセント以上含む。HPLC等級のアセトニトリル溶液は、アセトニトリルを99.8重量パーセント以上含むアセトニトリル溶液である。「含水アセトニトリル溶液」と呼ぶこともある。
【0026】
「高濃度アセトニトリル溶液」とは、もともと用意されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度より高いアセトニトリル濃度を有するアセトニトリル溶液であり、好ましくは、HPLC等級以上のアセトニトリル溶液を含む。また、特に断らないが、「高濃度アセトニトリル溶液」というタームは、もともと用意されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度及びアセトニトリル純度より高いアセトニトリル濃度及びアセトニトリル純度を有する高濃度且つ高純度アセトニトリル溶液を含意している。
【0027】
また、アセトニトリル原液は、溶液、懸濁液及び乳化液等のような均一物質系でも、不均一物質系の状態にあってもよい。具体的には、液状媒体を、抽出剤、洗浄剤、溶出剤、展開剤、吸収剤等として用いた後の状態を挙げることができる。例えば、生薬等の抽出・分離・精製、カラムクロマトグラフィーでの溶出、高速液体クロマトグラフ(HPLC)の展開溶液又は装置の洗浄等に用いたアセトニトリル溶液の再生処理等が挙げられる。
【0028】
また、アセトニトリル原液は低等級アセトニトリル溶液のように、HPLC法での使用済み廃液、DNA合成過程での使用済み廃液、プラスチック原料の生産の際の副生成物を含み得る。
【0029】
アセトニトリル原液を飛沫同伴を起こすことなく蒸発させて、蒸気を生成するためには、アセトニトリル原液の温度は低い方が好ましい。
一方、アセトニトリル原液の温度が高い方が、蒸気が生成される速度が大きくなるので、蒸気を冷却して得られる液体の量が大きくなる。
よって、蒸気を冷却して得られる第1の高濃度アセトニトリル溶液において得たいアセトニトリルの濃度によってアセトニトリル原液の加熱温度を変えるのが好ましい。また、このアセトニトリル原液の加熱温度の調整は自動的に行うことが好ましい。
【0030】
「蒸気を凝縮させる」とは、蒸気を冷却して凝縮し液体に変換するプロセスであれば良い。例えば、内部を通過する蒸気のフラックスを液体に変換する冷却コンデンサを用いて実行することが可能である。
【0031】
本実施形態によれば、アセトニトリル原液からアセトニトリルを蒸発させるために、アセトニトリル原液の温度をアセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度に調節するので、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液を沸騰させることなく、アセトニトリルの濃度が高い蒸気を得ることができる。よって、アセトニトリルと水は共沸せず、蒸気を凝縮することによって第1の高濃度アセトニトリル溶液を効率良く且つ安全に製造することができる。
【0032】
また、アセトニトリル原液の温度をアセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度で蒸発させるので、特に本実施形態を含水率が高いアセトニトリル水溶液に適用する場合にも、飛沫同伴が生じることはない。また、この工程で、アセトニトリル原液に含まれる、共沸混合物の共沸点より沸点が高い不純物を分離できるので、高純度且つ高濃度のHPLC等級以上の第1の高濃度アセトニトリル溶液を製造することができる。また、同時に、アセトニトリル溶液の製造を安全に行うことができる。
【0033】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、蒸発凝縮分離工程において、常圧下又は減圧下で、アセトニトリル原液からアセトニトリルを含む蒸気を生成することを特徴とする。
【0034】
一般に、アセトニトリル原液の環境圧力を低くすると、共沸点は低くなり、それと共にアセトニトリルの重量パーセントは大きくなる。共沸現象が生じる理由は、アセトニトリルを含む水溶液中でのアセトニトリル分子と水分子の相互作用が相対的に強いことを意味しているので、容器内の圧力を調整してアセトニトリル原液の環境圧力を低くすれば、アセトニトリル原液を蒸発させて蒸気を冷却させて得られる液体のアセトニトリル濃度は高くなる。
【0035】
従って、本実施形態に従えば、使用され回収されたアセトニトリル原液から第1の高濃度アセトニトリル溶液をより効率良く製造することができる。
【0036】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、蒸発凝縮分離工程は閉鎖系又は閉鎖循環系で行われることを特徴とする。
【0037】
このような方法では蒸発凝縮分離工程は閉鎖系又は閉鎖循環系内で行われる。一般に、閉鎖系又は閉鎖循環系の圧力は、そうでない場合に比べて、容易に調節することができる。また、このような方法では、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体に含まれるアセトニトリルが廃棄されることがない。従って、外部にアセトニトリルが放散される恐れがなくなり環境的に安全であることに加え、閉鎖循環系の場合には、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気の凝縮が不十分である場合にも、蒸気が還流することで高い回収率を維持することが可能となる。
【0038】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、蒸発凝縮分離工程において、気体をアセトニトリル原液に強制的に接触させることによってアセトニトリルを含む蒸気を生成することを特徴としている。
【0039】
ここで、「気体」とは、アセトニトリル原液に対して不活性の気体であれば、特に制限されない。より好ましくは、蒸気を凝縮させてアセトニトリル溶液に変換しても、気体状態を保つものである。具体的には、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等を挙げることができるが、コスト面から空気が好ましい。しかし、後述のように、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体を含んでいてもよい。
【0040】
「強制的に接触」とは、気体をポンプによって気流に変え、この気流をアセトニトリル原液の液面に吹きつけるか、アセトニトリル原液中に気体をバブリングするなどして、気液接触を機械的且つ人為的に行うことである。気体をアセトニトリル原液に強制的に接触させることによって、液体と気体の界面に形成される境膜部を吹き飛ばし、常時境膜部を更新させ、蒸気の生成を促進することができる。
【0041】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液に強制的に接触させる気体は、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体を含むことを特徴とする。
【0042】
「蒸気を凝縮させることにより分離された気体」とは、蒸気を凝縮させるプロセスで、凝縮せずに残った蒸気である。アセトニトリル原液が気化して得られた蒸気は凝縮させると、理想的にはアセトニトリルは凝縮されて液体となるため、蒸気を凝縮させることにより分離された気体はアセトニトリルを含んでいないが、蒸気を凝縮させる手段の性能によっては、アセトニトリルを含むことがあり得る。
【0043】
水溶液に強制的に接触される気体がアセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体であるためには、蒸発凝縮分離工程を複数用意して、ある蒸発凝縮分離工程で生成された蒸気を別の蒸発凝縮分離工程で用いることも可能であるが、蒸発凝縮分離工程が閉鎖系内で行われることが好ましい。この閉鎖系は環流条件を満たす閉鎖循環系であることが好ましい。
【0044】
この場合、回収率は閉鎖系内の圧力が高い場合の方が低いが、蒸気を冷却して得られる液体中のアセトニトリル濃度は、圧力が高い場合の方が高い。閉鎖系内の減圧度を適切な値とすることによって、回収率とアセトニトリル濃度の両方を改善することができる。
【0045】
また、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体では、アセトニトリルの分圧が非常に小さい。よって、この気体を吹付手段に用い、アセトニトリルを含む水溶液に強制的に接触させた時に、アセトニトリルを気化させやすい。
【0046】
蒸発凝縮分離工程は、繰り返し複数回行ってもよい。蒸発凝縮分離工程を複数回行うことによって、回収率を改善することができる。
【0047】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液又は第1の高濃度アセトニトリル溶液を、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度まで冷却して水を分離した後に常温まで加熱して第2の高濃度アセトニトリル溶液を得る冷却分離工程を含むことを特徴とする。
【0048】
好ましくは、冷却分離工程は、例えば−35℃以下に冷却された空間に蒸発凝縮分離工程で得られたアセトニトリル溶液を噴霧させる工程と、アセトニトリル溶液中の水が凝固して得られた氷を常温以上に加熱溶融させる工程と、を含んでいる。
【0049】
水の凝固点は0℃であり、アセトニトリルの凝固点は−45.7℃である。よって、アセトニトリル水溶液若しくはアセトニトリル溶液又は蒸発凝縮分離工程で得られた液体を、0℃より低く−45.7℃以上の温度に冷却することによって、水のみが凝固して氷となり、アセトニトリルは液体にとどまるので、凝縮手段で製造された液体から水を分離することができる。
【0050】
また、アセトニトリル原液又は第1の高濃度アセトニトリル溶液にアセトニトリルの凝固点より高い凝固点を有する不純物が含まれている場合には、これらの不純物をアセトニトリル溶液から分離することができる。
【0051】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液、第1の高濃度アセトニトリル溶液、又は第2の高濃度アセトニトリル溶液を脱水吸着材に接触させて第3の高濃度アセトニトリル溶液を得る吸着工程を含むことを特徴とする。
【0052】
この吸着工程によって、高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を得ることができる。この高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液は、HPLC等級以上のアセトニトリル溶液であり得る。
【0053】
吸着工程をモレキュラー・シーブ等の脱水吸着材を使用して行ったときには、脱水吸着材を通過させる液体を、凝縮器で製造されたアセトニトリル溶液又は冷却器を通過したアセトニトリル溶液とすることで、脱水吸着材の消費を減らすことができる。
【0054】
また、吸着工程を脱水吸着材のみならず、有機不純物を除去するための吸収剤を使用して行うことができる。この場合には、アセトニトリル溶液中の有機不純物を除去することがでる。
【0055】
本発明に従う方法の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液のアセトニトリル濃度を決定し、その結果によって、蒸発凝縮分離工程、冷却分離工程又は吸着工程の実施の可否、並びに実施する場合のパラメータ及び実施回数を決定することを特徴とする。
【0056】
ここで「パラメータ」とは、例えば、蒸発凝縮分離工程においては、アセトニトリル原液の環境温度、環境圧力、気体が水溶液に強制的に接触されるときの圧力、蒸気を液体に変換させる凝縮温度など、冷却分離工程においては、アセトニトリル溶液を冷却する温度など、吸着工程においては、脱水吸着材にアセトニトリル溶液を接触させる際の流速などを例示することができる。
【0057】
また、アセトニトリル原液のアセトニトリル濃度を決定する方法としては、例えば、比重を測定し、測定された比重から求める方法を例示することができる。
【0058】
このような方法によれば、自動的に最適化された方法で、アセトニトリル原液から高濃度アセトニトリル溶液を製造することができる。
【0059】
また、上記目的を達成するために、本発明に従うアセトニトリル原液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する装置の一つの実施形態によれば、アセトニトリル原液をその内部に収容する容器と、アセトニトリル原液を蒸発させて蒸気を生成するために、アセトニトリル原液の温度を、アセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点よりより低い温度に設定する温度調節手段と、容器から移送された蒸気を冷却して凝縮して第1の高濃度アセトニトリル溶液を得る凝縮手段と、を有する第一処理手段を含むことを特徴とする。
【0060】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、第一処理手段が、容器内の圧力を調整してアセトニトリル原液の環境圧力を、常圧以下に設定する圧力調節手段を含むことを特徴とする。
【0061】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、第一処理手段が、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体を容器に移送する移送手段を含むことを特徴とする。
【0062】
このような装置では、容器内の圧力を調整するために、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液をその内部に収容する容器と凝縮手段で閉鎖循環系を形成することができる。
【0063】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、第一処理手段が、アセトニトリル原液を蒸発させるために、気体をアセトニトリル原液に強制的に接触させる気体接触手段を含むことを特徴とする。
【0064】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、第一処理手段において、気体接触手段に使用される気体に、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体が含まれることを特徴とする。
【0065】
ここで、「蒸気を凝縮させることにより分離された気体」とは、蒸気を凝縮させるプロセスで、凝縮せずに残った蒸気であるから、即ち、凝縮手段を通過させた蒸気である。
【0066】
従って、本発明に従う装置の実施形態において、容器、温度調節手段、及び凝縮手段を含む第一処理手段の構成要素によって、蒸発凝縮分離工程を行うことができる。
【0067】
この第一処理手段による蒸発凝縮分離工程は、繰り返し複数回行ってもよい。この蒸発凝縮分離工程を複数回行うことによって、回収率を改善することができる。
【0068】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、第1の高濃度アセトニトリル溶液を、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度まで冷却して水を分離した後に常温まで加熱して第2の高濃度アセトニトリル溶液を得る冷却手段を有する第二処理手段を含むことを特徴とする。
【0069】
本発明に従う装置の実施形態において、第二処理手段によって、冷却分離工程を行うことができる。
【0070】
冷却手段は、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度に冷却された空間に蒸発凝縮分離工程で得られたアセトニトリル溶液を噴霧させる手段と、冷却されたアセトニトリル溶液及びアセトニトリル溶液中の水が凝固して得られた氷を常温以上に加熱溶融させる工程と、を含んでいる。
【0071】
本発明に従う装置の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液、第1の高濃度アセトニトリル溶液、又は第2の高濃度アセトニトリル溶液を脱水吸着材に接触させて第3の高濃度アセトニトリル溶液を得る脱水吸着手段を有する第三処理手段を含むことを特徴とする。
【0072】
脱水吸着手段を活性アルミナ、活性ボーキサイト、活性炭、モレキュラー・シーブ、ケイ藻土などの脱水吸着材で形成したときには、脱水吸着材を通過させる液体を、凝縮器で製造された液体又は冷却器を通過した液体とすることで、脱水吸着材の消費を減らすことができる。
【0073】
本発明に従う装置の実施形態において、第三処理手段で、吸着工程を行うことができる。
【0074】
本発明に従う装置は、第一処理手段、第二処理手段、及び第三処理手段を含むことが好ましい。このような装置によれば、蒸留を用いないので、飛沫同伴の発生を防ぐことができ、希薄なアセトニトリル水溶液から、水分を段階的に取り除き、HPLC等級以上のアセトニトリル溶液を製造することができる。また、例えば、HPLC法による分析で使用されたアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造することができるので、環境に配慮して、アセトニトリル溶液を再利用することができる。さらに、三種類の異なる処理手段が、システムとして自動運転及び大型化が可能であるので、これまで使用後廃棄処分されていたアセトニトリル溶液を効率良く回収・精製・再利用を達成できる。もちろん、本発明に従う装置は、第一処理手段、第二処理手段、及び第三処理手段の全てを備えている必要はない。また、ある処理手段を複数備えていても良い。例えば、第一処理手段を複数回反復させてもよいし、第一処理手段と第二処理手段を組み合わせて、自動的に反復させてもよい。
【0075】
また、本発明に従う装置の別の実施形態によれば、アセトニトリル原液のアセトニトリル濃度を決定する1つ以上の濃度決定手段と、濃度決定手段によって決定されたアセトニトリル濃度に基づいて、蒸発凝縮分離工程、冷却分離工程又は吸着工程の実施の可否、並びに実施する場合のパラメータ及び実施回数を決定する制御手段とを含むことを特徴とする。
【0076】
このような装置によれば、自動的に最適化された方法で、アセトニトリルを含む水溶液からアセトニトリル溶液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に従う高濃度アセトニトリル製造装置の概略図である。
【図2】図1に示した制御器のブロック図である。
【図3】本発明に従う高濃度アセトニトリル製造方法におけるフローチャートを示す図である。
【図4】本発明に従う高濃度アセトニトリル製造装置及び方法を用いてアセトニトリルを含む水溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造するに当たっての、製造されるアセトニトリルの濃度及び回収率に対する温浴バス温度の影響を示す図である。
【図5】本発明に従う高濃度アセトニトリル製造装置及び方法を用いてアセトニトリルを含む水溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造するに当たっての、製造されるアセトニトリルの濃度及び回収率に対する閉鎖系の圧力の影響を示す図である。
【図6】本発明に従う高濃度アセトニトリル製造装置及び方法を用いてアセトニトリルを含む水溶液から高濃度アセトニトリル溶液を製造するに当たっての、製造されるアセトニトリルの濃度及び回収率に対する、原液であるアセトニトリルを含む水溶液中のアセトニトリルの濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
図1乃至5を参照しながら、本発明に従うアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液(以下「アセトニトリル原液」という」から高濃度アセトニトリル溶液を製造する装置及び方法の実施形態について説明する。
【0079】
(実施形態の一般的説明)
図1及び2を参照しながら、本実施形態に従う高濃度アセトニトリル製造装置10について説明する。図1は、本発明に従う高濃度アセトニトリル製造装置のブロック図である。図2は、図1に示した制御器のブロック図である。
【0080】
高濃度アセトニトリル製造装置10は、第一処理手段として、アセトニトリル原液を収容する容器102、温度調節手段を構成する加温部106、凝縮手段を構成する冷却コンデンサ110、圧力調節手段を構成するデュアルポンプ132、気体接触手段を構成する移送手段として機能するポンプ112及び導管122、117、並びに受器128を含んでいる。
【0081】
また、高濃度アセトニトリル製造装置10は、第二処理手段として、水氷結除去装置216、及び受器222、224を含んでいる。
【0082】
また、高濃度アセトニトリル製造装置10は、第三処理手段として、吸着塔310を含んでいる。
【0083】
従って、本実施形態では、
(i)容器に収納されたアセトニトリル原液を蒸発させて蒸気を生成するために、アセトニトリル原液の温度を、好ましくは50℃以下に設定する温度調節手段106と、容器から移送された蒸気を冷却して凝縮し液体に変換してアセトニトリル溶液を得る凝縮手段110と、容器内の圧力を調整してアセトニトリル原液の環境圧力を常圧以下に設定する圧力調節手段132と、アセトニトリル原液を蒸発させるために、気体をアセトニトリル原液に強制的に接触させる気体接触手段112、122、117と、を含む第一処理手段と、
(ii)凝縮手段で得られたアセトニトリル溶液を、好ましくは−35℃以下に冷却した空間に噴霧しアセトニトリル溶液中の水を凝固させて水を分離した後に常温まで加熱してアセトニトリル溶液を得る冷却手段216を含む第二処理手段と、
(iii)第二処理手段で得られたアセトニトリル溶液中の微量の水分を、その内部を通過させることによって取り除いて高濃度アセトニトリル溶液を得る吸着剤が詰まったカラム状の吸着塔310を含む第三処理手段と、
を含むアセトニトリル原液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する装置及びこの装置を用いて高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法が提供される。
【0084】
(第一処理手段)
アセトニトリル回収精製装置10では、容器102の内部空間と、容器102内で蒸発した蒸気を通す導管120と、導管120から供給される蒸気を凝縮する冷却コンデンサ110と、冷却コンデンサ110から排出される気体が通過するダイヤフラムポンプ112を含む導管122と、ダイヤフラムポンプ112で出力された気体を容器102の内部空間へ戻す導管117で閉鎖循環系を構成する。つまり、容器102の内部空間と冷却コンデンサ110の入口は導管120によって接続され、冷却コンデンサ110の出口は、移送手段を構成するポンプ112を備える導管122介して容器102の内部空間に接続される。
【0085】
アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液を収容する容器102は、容器104に収容された液体に浸されている。容器104中の液体は、容器102及び容器102中のアセトニトリルを含む水溶液に対して浴(バス)の働きをする。容器104中の液体の温度は、加温部106によって調節される。
【0086】
容器104中の液体の温度は温度計116によって測定される。温度計116は、図示されていないが、制御器に電気的に接続され、容器104中の液体の温度に関する情報を制御器500に送る。制御器500に送られた情報は、加温器106の制御に用いられる。制御器500については、後に詳述する。
【0087】
加温部106は制御器500に電気的に接続されており、制御器からの電気信号によって動作させることができる。
【0088】
容器102に収容されたアセトニトリル原液の濃度は、濃度センサ118によって測定される。濃度センサ118としては、アセトニトリルを含む水溶液中のアセトニトリル濃度を決定できるものであれば、どのようなタイプのものでも構わないが、比重を測定し測定された比重から濃度を決定する方式のものを例示することができる。
【0089】
濃度センサ118は、図示されていないが、制御器500に電気的に接続されており、濃度センサ118で決定されたアセトニトリル濃度の情報は、制御器500に送られ、加温器106や、後述する排気ポンプ132の制御に用いられる。
【0090】
容器102に収容されたアセトニトリル原液を、飛沫同伴を起こすことなく蒸発させて蒸気を生成するためには、アセトニトリル原液の温度は低い方が好ましい。より好適には20乃至40℃が好ましい。例えば、30℃において蒸発させ蒸気を生成させると、その蒸気を冷却して得られる液体は、アセトニトリルの濃度が82.3重量パーセントのアセトニトリル溶液となる。しかし、50℃において蒸発させ蒸気を生成させると、その蒸気を冷却して得られるアセトニトリル溶液中のアセトニトリル濃度は63.9重量パーセントまで低下する。
【0091】
一方、容器102内に収容された溶液の温度が高い方が、蒸気が生成される速度が大きくなるので、蒸気を冷却して得られる液体の量が大きくなる。
【0092】
よって、加温部106の動作は、濃度センサ116によって決定される容器102に収容された溶液のアセトニトリル濃度によって決定されることが好ましい。例えば、蒸気を冷却して得られる含水アセトニトリル溶液が75乃至85重量パーセント程度のアセトニトリル濃度となるためには、蒸気を生成するためにアセトニトリルを含む水溶液の温度を10乃至40℃とするのが好ましい。また、蒸気を冷却して得られる含水アセトニトリル溶液が40乃至60重量パーセント程度のアセトニトリル濃度となるためには、水溶液の温度を45乃至65℃とするのが好ましい。もちろん、加温部106の動作と連動して、排気ポンプ132を動作させ、効率良く蒸発を行うことも可能である。
【0093】
閉鎖循環系の一部には排気ポンプ132が備えられている。本実施形態では、排気ポンプ132は、冷却コンデンサ110に繋がる導管122から分岐させた導管に接続されている。この排気ポンプ132によって、閉鎖循環系内の圧力を制御することができる。この圧力は、容器102内に収容された溶液の環境圧力を決定する。
【0094】
排気ポンプ132は制御器500に電気的に接続されており、制御器500からの電気的信号によって動作させることができる。排気ポンプ132を動作させることによって、任意の圧力下で容器102に収容されたアセトニトリルを含む水溶液を蒸発させることができる。また、蒸発処理時間を短くするために、排気ポンプ132を間欠的に動作させ、閉鎖循環系内の圧力を時間的に変動させることもできる。
【0095】
容器104に収容された液体の温度はバス温とも呼ばれ、水とアセトニトリルの共沸混合物の沸点、つまり共沸点より低く設定することが望ましく、好ましくは、大気圧下では、水とアセトニトリルの共沸混合物の沸点より5〜20℃低く保つとよい。アセトニトリルの沸点は約76℃なので、容器102内の溶液の温度は、約56〜71℃が好ましい。このようにバス温を設定することによって、アセトニトリルを含む水溶液の温度もほぼ、バス温と等しくなり、アセトニトリルを含む水溶液は沸騰せずに、アセトニトリルを含む水溶液からアセトニトリル含み且つ飛沫を含まない蒸気が生成される。
【0096】
容器102の内部で生成された蒸気は、導管120を通って冷却コンデンサ110に供給される。冷却コンデンサの内部に導かれた蒸気は、10〜−45℃、好ましくは−10〜−30℃の温度で冷却、凝縮されアセトニトリル溶液が製造される。
【0097】
冷却コンデンサ110は、導管108を介して受器128及び130に接続されており、具体的には、バルブ124を介して受器128に、バルブ126を介して受器130に接続されている。
【0098】
また、冷却コンデンサ110は制御器500に電気的に接続されており、制御器からの電気信号によって動作させることができる。
【0099】
冷却コンデンサ110で生成されたアセトニトリル溶液は、受器128又は130に溜められる。受器128及び130は、アセトニトリル回収精製装置10の連続運転において、交互に使用される。
【0100】
導管122は導管117に接続され、導管117の先端は容器102の内部に配置されている。導管117の先端は、容器102に収容されている水溶液の液面より高い位置に配置されていても良いし、水溶液中に位置していてもよい。
【0101】
しかし、アセトニトリル水溶液に気体を強制的に接触させる際には、気体吹付部として、密閉した箱に複数の試験管を用意し、これらの試験管に溶媒を溜めて気体を吹きつける形式のものでもよく、特に、吹きつけ形態の制約はなく、有機溶媒に強制的に気体を接触させることができるものであればよい。
【0102】
気体循環用に用いるポンプ112は、耐薬品性を備えたポンプであればよく、内部がフッ素樹脂製のダイヤフラムポンプが好ましい。蒸気ミストが発生しない条件下でダイヤフラムポンプ112を使用することにより、循環システム系で緩やかに気体を循環させることができる。また、ダイヤフラムポンプ112の気体移動能力は、1分間に容器102及び冷却コンデンサ110の全内容積の0.1〜10倍の範囲の容積の気体を循環させる能力が必要であるが、好ましくは、1分間に0.3〜3倍の範囲の容積の気体を循環させる能力のあるダイヤフラムポンプを使用する。例えば、容器102及び冷却コンデンサ110の内容積の総和が3〜4Lであるならば、排気量が1〜15L/minの排気能力のあるフッ素樹脂製のダイヤフラムポンプを使用できるが、好ましくは、排気量が3〜8L/minのダイヤフラムポンプを使用するとよい。
【0103】
容器102は例えば丸底フラスコであり、その軸回りに回転するように構成されている。このように容器102を構成することによって、容器102の温度を均一化させることができ、容器102に収容された水溶液をむらのない一定の条件で蒸発させることができる。
【0104】
回転式容器102に収容されたアセトニトリルを含む水溶液の温度調節は、容器104に入れられた液体の温度を加温部106によって調節することによって行われる。加熱されて沸騰せずに、蒸発して生成された蒸気は、導管120を通って、冷却コンデンサ110に導かれる。容器102と導管120の間には、回転部114が備えられている。冷却コンデンサ110で凝縮され生成されたアセトニトリル溶液は、受器128又は130に溜まる。受器128又は130は、ガラス製の丸底フラスコであってよい。
【0105】
容器102に収容するアセトニトリル原液、特にアセトニトリルを含む水溶液として、高速液体クロマトグラフ(HPLC)に用いたアセトニトリル溶液を用いると、この溶液は高純度のアセトニトリルを含む水溶液又は含水アセトニトリル溶液であり得る。この溶液を、水とアセトニトリルの共沸混合物の沸点より低い温度で蒸発させることによって、仮に溶液が水とアセトニトリルの共沸混合物の沸点より高い沸点を有する不純物を含んでいても分離することができる。また、飛沫同伴が生じないので、溶液を蒸発させて得られた蒸気を冷却コンデンサ110で凝縮して受器128及び130に得られるアセトニトリル溶液は高純度のものになり得る。
【0106】
蒸気を液体に変換させる凝縮温度は、蒸気が液体になる温度であればどのような値でも構わないが、アセトニトリルを含む水溶液を蒸発させて生成される蒸気の場合、10〜−45℃が好ましく、−10〜−30℃がより好ましい。
【0107】
一方、アセトニトリルを含む水溶液を蒸発させて生成された蒸気を冷却コンデンサ110で凝縮させることにより分離された気体は、冷却コンデンサ110を通過する。この分離された気体は、本質的にアセトニトリルを含んでいない気体であるが、冷却コンデンサ110の性能によっては、アセトニトリルを含むことがあり得る。冷却コンデンサ110を通過した分離された気体は、途中ポンプ112により吐出されながら、導管122及び117を通り、導管117の先端から容器102に収納されているアセトニトリル原液に強制的に接触する。
【0108】
気体を容器102に収容されている溶液に強制的に接触する際には、ポンプ112で気流とされた気体をアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液の液面に吹きつけてもよいし、容器102に収容されている溶液中にバブリングさせてもよい。例えばバブリングの場合、容器102に収納されている溶液の液面下の内側を下から上へ上昇する向流的な気泡の流れを発生させる。このように気液接触を機械的且つ人為的に行うことにより、溶液と気体の界面に形成される境膜部に強制的に気流を接触させて吹き飛ばすことで蒸発を促進させることができる。
【0109】
受器128及び130の内部空間に収容されたアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度は、それぞれ濃度センサ202及び204によって測定される。濃度センサ202及び204は、図示されていないが、制御器500に電気的に接続されており、検出されたアセトニトリル濃度の情報は、制御器500に送られる。受器128及び130の内部空間に収容されたアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度によっては、受器128及び130内のアセトニトリル溶液は再び容器102内に戻されてもよい。
【0110】
また、濃度センサ118で測定された容器102に収容されている溶液のアセトニトリル濃度によっては、容器102に収容されている溶液を冷却コンデンサ110を通すことなく、受器128及び130に移動させてもよい。
【0111】
(第二処理手段)
第一処理手段によって製造され、受器128及び130に溜まったアセトニトリル溶液は、高純度であるが、アセトニトリル濃度としては、概ね75重量パーセント以上である。使用目的によっては、この状態でも利用可能であるが、より高濃度のアセトニトリル溶液が必要な場合も少なくない。このような場合、第二処理手段を経由することによって、アセトニトリル濃度が概ね95重量パーセントの高純度且つ高濃度のアセトニトリル溶液を得ることができる。
【0112】
第二処理手段は、水凍結除去装置216を含んでいる。受器128及び130に溜まったアセトニトリル溶液を水凍結除去装置216に導入し、0℃より低く−45.7℃以上の温度に冷却することによって、水を分離する。その際、水は氷として取り出されるが、水凍結除去装置216は、その中を通過する冷媒を熱媒に取り換えることによって、氷を加熱して解凍する手段としても機能する。
【0113】
受器128及び130の内部空間には、それぞれ導管210及び212が接続され、導管210及び212はさらに導管214を経て水凍結除去装置216の内部空間に接続されている。導管214には、制御器500によって動作の制御が可能なポンプ232が接続されており、制御器500によってポンプ232を制御することができる。導管210及び212には、それぞれ電磁弁206及び208が備えられている。
【0114】
また、水凍結除去装置216から第一処理手段の導管107の容器102側とは反対側の端、つまり、導管122の冷却コンデンサ110とは反対側の端まで通気管236が設けられている。さらに、通気管236の途中にはポンプ232が備えられている。通気管236と導管120、108、210及び214の内部は気密に保たれ、閉鎖系を構成する。ポンプ232は、水凍結除去装置216の内部空間の圧力を制御して、通気管236、導管120、108、210及び214内部空間からなる閉鎖系内に圧力差を生じさせることができる。従って、水凍結除去装置216の内部空間の圧力を減少させ、さらに電磁弁206及び124又は電磁弁208及び126を開きポンプ236を動作させることによって、受器128又は130に溜められたアセトニトリル溶液を、水凍結除去装置216に導入することができる。電磁弁206、208、232も、図示されていないが、制御器500に電気的に接続されており、制御器500によってこれらを制御することができる。
【0115】
具体的には、電磁弁206及び124を開け、208を閉じポンプ232を作動させることによって、通気管236、導管120、108、210及び214からなる閉鎖系内部に圧力差が生じ、受器128に溜められたアセトニトリル溶液が水凍結除去装置216に導入される。また、電磁弁206を閉じ、電磁弁208及び126を開けポンプ236を作動させることによって、通気管236、導管120、108、212及び214からなる閉鎖系内部に圧力差が生じ、受器130に溜められたアセトニトリル溶液が水凍結除去装置216に導入される。
【0116】
水凍結除去装置216はさらに、導管226及び230を介して受器222に接続されている。水凍結除去装置216はさらに、導管226及び228を介して受器224に接続されている。導管228は電磁弁220を備えており、導管228内の液体の通過を制御することができる。同様に、導管230は電磁弁218を備えており、導管230内の液体の通過を制御することができる。受器222又は224は、ガラス製の丸底フラスコであってよい。
【0117】
水凍結除去装置216内で凝結しなかったアセトニトリル溶液は、電磁弁220を開き、電磁弁218を閉じることによって、受器224に導入される。水凍結除去装置216内で凝結しなかったアセトニトリル溶液が受器224に収容されると、次に電磁弁220を閉じ、電磁弁218を開き、水凍結除去装置216内で凍結した氷を常温まで加熱し解凍することで得られる溶液を、受器222に導入する。
【0118】
アセトニトリル原液又は蒸発凝縮分離工程で得られたアセトニトリル溶液が冷却される温度は、−35℃以下であることが好ましい。この場合、アセトニトリル水溶液若しくはアセトニトリル溶液又は蒸発凝縮分離工程で得られたアセトニトリル溶液から、確実に、水を分離することができる。
【0119】
濃度センサ202及び204で計測された受器128及び130内のアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度は、水凍結除去装置216の制御に用いられる。
【0120】
受器224に溜まったアセトニトリル溶液は次の第三処理工程で用いることができる。受器224には、濃度センサ302が備えられており、第二処理工程を経て得られたアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度を測定することができる。濃度センサ302は、図示されていないが、制御器500に電気的に接続されており、測定されたアセトニトリル濃度の情報は、制御器500に送られる。受器224の内部空間に収容されたアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度によっては、受器224内のアセトニトリル溶液の一部又は全部は再び容器102内に戻されてもよい。さらに、場合によっては受器128または130に戻されてもよい。
【0121】
(第三処理手段)
第二処理手段によって製造され、受器224に溜まったアセトニトリル溶液は、高純度であるが、アセトニトリル濃度としては、大凡95重量パーセント以上である。使用目的によっては、この状態でも利用可能であるが、より高濃度のアセトニトリル溶液が必要な場合もある。このような場合、第三処理手段を経由することによって、アセトニトリル濃度が99重量パーセントの高純度且つ高濃度のアセトニトリル溶液、例えば、HPLC等級以上のアセトニトリル溶液を得ることができる。
【0122】
第三処理手段は、吸着塔310を含んでいる。吸着塔310には、脱水吸着剤が充填されており、吸着塔310の内部を通過する溶液に含まれる水を除去することができる。脱水吸着剤としては、活性アルミナ、活性ボーキサイト、活性炭、モレキュラー・シーブ、ケイ藻土などを例示することができる。
【0123】
受器224の内部空間と吸着塔310は、電磁弁306を備えた導管308によって接続されている。吸着塔310は制御器500に電気的に接続されており、その動作を制御器500からの指令によって制御することができる。電磁弁306は図示されていないが、制御器500に電気的に接続されている。導管308にはポンプ312が備えられており、電磁弁220を閉め、電磁弁306を開けた状態で、ポンプ312を作動させることによって、受器224に溜まったアセトニトリル溶液は吸着塔310に導入される。
【0124】
吸着塔310はさらに導管314を介して、受器402に接続されている。吸着塔310を通過して得られるアセトニトリル溶液は、受器402に溜まる。
【0125】
受器224に溜まったアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度は、濃度センサ302によって計測される。濃度センサ302によって計測された受器224に溜まったアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度の情報は、電磁弁306及び吸着塔310の制御に用いられてよい。
【0126】
吸着塔310において脱水処理が行われたアセトニトリル溶液は導管314を介して受器402に導入される。
【0127】
吸着塔310には、脱水吸着剤のみならず、有機不純物を除去するための吸収剤が充填されていてもよい。有機不純物を除去するために用いられる吸収剤には、活性アルミナ、活性ボーキサイト、活性炭、モレキュラー・シーブ、ケイ藻土などが含まれる。
【0128】
高濃度アセトニトリル製造装置10に用いる材料は、気体及び液体に対し非透過性で耐薬品性を備えた材料であればよく、特に限定されない。材料の例として、炭素材料、ガラス・ほうろう類、ステンレス鋼、セラミックスのような無機材料;ポリエチレン、ポリプロピレン、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化エチレンプロピレン樹脂、過フッ化アルコキシ樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フラン樹脂、フッ素樹脂のような有機材料;チタン等の新金属、Pt等の貴金属、Al−Mg合金、銅合金(例えば、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金、Cu−Al合金、Cu−Ni合金)、Ni合金(例えば、Ni−Cu合金、Ni−Mo合金、Ni−Cr合金)のような金属材料;又は複合材料;或いは耐食材料で被覆された材料等が挙げられる。ガラス、フッ素樹脂、ステンレスが好ましい。
【0129】
また、容器102や、受器128、130、222、224及び402は、ガラス製である場合を示したが、その他の材料、例えば上述の本発明の装置に用いる材料製の器具を用いてもよく、用いる溶媒の種類に応じて定まる稼動温度範囲や耐薬品性等を考慮した器具を用いることができる。
【0130】
次に図2を参照しながら、図1の制御器500の構造について説明する。
【0131】
制御器500は、マイクロコンピュータとして機能するように構成されている。即ち、制御器500では、中央処理装置(CPU)502、メモリ504、入出力インタフェイス(I/O IF)506を含み、これらはバス512を介して互いに接続されている。メモリには、第一処理手段の構成要素の動作の制御を司る蒸発分離工程制御プログラム506、第二処理手段の構成要素の動作の制御を司る冷却分離工程制御プログラム508、及び第三処理手段の構成要素の動作の制御を司る吸着工程制御プログラム510が記憶されている。
【0132】
入出力インタフェイス(I/O IF)506は、ポンプ112、132、232、312、電磁弁124、126、206、208、218、220、306、加温器106、冷却コンデンサ110、水凍結除去装置216、吸着塔310、濃度センサ118、202、204、302と接続されており、これらと通信することによって、濃度センサからアセトニトリル濃度に関する情報を受けたり、これらの要素の動作に必要な信号を送信したりする。
【0133】
制御器500のCPU502が蒸発分離工程制御プログラム506を処理することによって、温度計116で測定された容器102中の溶液の温度や濃度センサ118によって測定された容器102中の溶液のアセトニトリル濃度に応じて、加温器106を制御して間接的に水溶液の温度を調節したり、ポンプ132を制御して水溶液の環境圧力、即ち閉鎖循環系内の圧力を制御したり、ポンプ112を制御してアセトニトリルを含む水溶液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体を水溶液に強制的に接触させる際の流速を制御したり、冷却コンデンサ110において蒸気を冷却する温度を制御したり、電磁弁124及び126の開閉を制御したり、濃度センサ202、204で測定される受器128、130に収容されたアセトニトリル溶液の濃度に応じて、受器128、130中のアセトニトリル溶液を再び蒸発凝縮分離工程を通したりする。
【0134】
CPU502が冷却分離工程制御プログラム508を処理することによって、電磁弁206及び208の開閉のタイミングを制御したり、水凍結除去装置216の冷却、加熱動作と連動して、電磁弁218及び220の開閉を制御したりする。
【0135】
CPU502が吸着工程制御プログラム510を処理することによって、電磁弁306の開閉を制御したり、ポンプ312の動作を制御したり、濃度センサ302及び図示されていないが受器402に設けられた濃度センサで測定した受器224及び402中のアセトニトリル溶液の濃度によって、受器402中のアセトニトリルを受器224に戻したり、受器224及び402中のアセトニトリル溶液を容器102又は受器202若しくは204に戻したり、吸着塔310に含まれる脱水吸着材の劣化を監視し、劣化の度合いによっては、吸着工程の処理を中断したりする。
【0136】
よって、本実施形態に従えば、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液をその内部に収容する容器と、容器中の溶液を蒸発させて蒸気を生成するために、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液の温度を、アセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度に調節することによって、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液からアセトニトリルを含む蒸気を生成し、その蒸気を凝縮させて液体に変換し、アセトニトリル溶液を回収する蒸発凝縮分離工程と、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度まで冷却して水を分離した後にアセトニトリル溶液を得る冷却分離工程と、脱水吸着材に接触させる吸着工程の一部または全部を含む、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を製造する装置が提供される。
【0137】
次に、図3を参照しながら、本実施形態に従う高濃度アセトニトリル製造装置10における処理について説明する。以下の処理は、制御器500によって自動制御され得る。
【0138】
S100では、アセトニトリル水溶液またはアセトニトリル溶液を用意する。S100で用意されるアセトニトリル水溶液は、高速液体クロマトグラフィー分析で使用され、回収された例えば30%アセトニトリル水溶液であっても良い。
【0139】
S110では、S100で用意されたアセトニトリル原液を容器102に収容する。容器102に収容されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度を濃度センサ118によって測定する。容器102は、容器104に収容された液体に浸されており、この液体の温度は、濃度センサ118によって決定されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度に応じて、加温器106によって制御する。容器102に挿入された導管117の先端を容器内の所定の位置に固定する。導管117の先端は、アセトニトリル原液中に配置されても、アセトニトリル原液の液面から所定の高さの位置に配置されてもよい。ポンプ132を10秒稼働させたのち、これを一旦止めて、ポンプ112を稼働させると共に容器102の回転を開始する。すると、容器102中の溶液の蒸発が始まり、蒸気が生成される。蒸発によって生成された蒸気は、導管120を経て冷却コンデンサ110に到着し、ここで蒸気中の大方のアセトニトリルは凝縮、液化しアセトニトリル溶液となって受器128又は130に溜まる。冷却コンデンサ110の動作状況は、濃度センサ118によって測定されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度に依存する。一方、冷却コンデンサ110によって蒸気を凝縮させることにより分離された気体は、導管122及び117を経て、容器102中の溶液に強制的に接触される。蒸気を凝縮させることにより分離された気体が容器102中の溶液に接触するときの流速は、ポンプ112の動作状況に依存するが、ポンプの動作は濃度センサ118によって測定されたアセトニトリル原液のアセトニトリル濃度に応じて決定される。このように、S110での工程は、閉鎖循環系内で行われる。およそ30分間、ポンプ112を動作させ、本ステップは終了する。このとき、受器128及び130中のアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度を濃度センサ202及び204によって測定し、測定によって得られたアセトニトリル濃度によっては、受器128及び/又は130中のアセトニトリル溶液を容器102に戻してもよい。一方、容器102中に蒸発せずに残るのは一般に、アセトニトリル濃度が1乃至3重量パーセントのアセトニトリル水溶液であり、これらは廃棄される。
次に、S120に進む。
【0140】
S120では、受器128又は130中のアセトニトリル溶液を、電磁弁206及び208の開閉を制御し、ポンプ232を動作させることによって、水凍結除去装置216へ移動させる。水凍結除去装置216で受器128又は130中のアセトニトリル溶液を冷却する温度は、受器128又は130中のアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度に依存しても良い。水凍結除去装置216で脱水されたアセトニトリル溶液は、電磁弁220を開け、電磁弁218を閉じることによって、受器224に溜まる。アセトニトリル溶液の流出が終わった時点で、電磁弁220を閉め、電磁弁218を開けて水凍結除去装置216の氷を解凍する。解凍は、冷却時に水凍結除去装置216を流れる冷媒を熱媒に切り替えて行う。その結果、氷が解凍されて得られた溶液が留出し、受器222に溜まる。ここで得られた溶液はアセトニトリル水溶液であり得て、場合によっては容器102に戻される。受器222に溜まるアセトニトリル水溶液のアセトニトリル濃度は、例えば、60乃至70重量パーセントであり得る。
濃度センサ302によって受器224に溜まった凍結除去が済んだアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度が測定される。受器224の内部空間に収容されたアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度によっては、受器224内のアセトニトリル溶液の一部又は全部は再び容器102内に戻されてもよいし、受器128または130に戻されてもよいし、S130に送られてもよい。S130に進むタイミングは、水凍結除去装置216の動作状況等に依存して制御器500によって自動的に決定される。
【0141】
S130では、受器224のアセトニトリル溶液は、電磁弁306を開けてポンプ312を稼働させることによって、導管308を通り、吸着塔310へ移動する。吸着塔310では、脱水吸着剤によってアセトニトリル溶液中の水分が吸着され高濃度アセトニトリル溶液が得られる。吸着塔310に搭載される吸収脱水剤の状態は、制御器500によって監視されており、その状態によっては、受器224内のアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度によっては本ステップの処理を中断したり、吸着塔310に搭載される吸収脱水剤の交換の必要性を装置10のオペレータに警告を発したりしてよい。吸着塔310を通過した高濃度アセトニトリル溶液は受器402に溜まる。受器402に溜まったアセトニトリル溶液のアセトニトリル濃度を図示されていない濃度センサによって測定し、測定で得られたアセトニトリル濃度によっては、受器402に溜まったアセトニトリル溶液を容器102又は受器128、130又は224に戻しても良い。
【0142】
本実施形態によれば、アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液を蒸発させるために、常圧以下の圧力及びその沸点より低い温度という条件下で、アセトニトリルを含む水溶液を沸騰させることなく蒸発させる。よって、アセトニトリルと水の共沸混合物は共沸せず、蒸気を凝縮することによって高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を製造することができる。また、アセトニトリル溶液を高い回収率で再利用することができる。
【0143】
また、本実施形態では、もし容器102中のアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液が不純物を含んでいても、蒸発凝縮分離工程、冷却分離工程若しくは吸着工程又はこれらの二つ以上を組み合わせた工程を実施することによって、一部又は全部の不純物をアセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液から取り除くことができる。よって、高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を得ることができる。
【0144】
また、本実施形態では、高濃度アセトニトリル製造装置10の動作は、制御器500によって自動的に制御されるので、オペレータの手を煩わすことなく、高濃度且つ高純度のアセトニトリル溶液を得ることができる。
【0145】
以下、上述の高濃度アセトニトリル製造装置10によって、アセトニトリル原液から高濃度アセトニトリルを製造する実施例を説明する。
【0146】
(実施例1)
S100において高速液体クロマトグラフィー分析で使用され、回収されたアセトニトリル濃度が約30%のアセトニトリルを含む水溶液(アセトニトリル原液)500mLをフラスコ型1000mL容器102に導入する。そして図3に示したステップS110において、導管117の先端を、アセトニトリル原液の液面上3cmの高さに調節する。その上で、S110を行うことによって、受器128に77.3%アセトニトリル溶液(114g)が得られた。
【0147】
(実施例2)
実施例1に記載と同様に、S100において高速液体クロマトグラフィー分析で使用され、回収されたアセトニトリル濃度が約30%のアセトニトリルを含む水溶液(アセトニトリル原液)500mLをフラスコ型1000mL容器102に導入する。バス温を30℃に保ち、そして図3に示したステップS110において、導管117の先端を、容器102に収容されたアセトニトリル原液に浸し、容器102の底から1cmの高さに固定する。その上で、S110を行うことによって、受器128に82.3%アセトニトリル溶液(84.4g)が得られた。
【0148】
(実施例3乃至5)
実施例3乃至5実施例では、実施例2と同様にして、アセトニトリル濃度が30%のアセトニトリル水溶液(アセトニトリル原液)を、回転式容器102に収容し、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を冷却コンデンサ110に通過させ凝縮させることにより分離された気体を吹付手段によって、アセトニトリル原液に強制的に接触させることによって、蒸発を促進し、冷却コンデンサ110で凝縮させ液化したアセトニトリルを受器128で回収して、アセトニトリル原液から高濃度アセトニトリル溶液を製造する。S110において、回転式容器102の温度を調節する加温部106の温度を、それぞれ30℃、40℃、50℃としている。アセトニトリル濃度、回収率等の結果を、図4に示す。加温バス温度、即ち容器104に収容された液体の温度が30℃から50℃に温度を上昇させると、水の蒸発が盛んになり、見かけの回収率は97%に近づくが、アセトニトリル濃度は64%に低下する。
【0149】
(実施例6乃至8)
実施例2と同様にして、30%アセトニトリル水溶液を用いて、回収条件として、回転式容器102の内部の圧力、即ちアセトニトリルを含む水溶液の環境圧力を変えたときに得られる、アセトニトリル濃度、回収率等の結果を、図5に示す。すなわち、減圧度が6キロパスカル(45mmHg)のとき、回収率とアセトニトリルの濃度のいずれもが80%を越えるが、減圧度を緩めると回収率が63%と低下するが、アセトニトリルの濃度は90%に近づく。また、減圧度を高めると回収率は86%を越えるが、アセトニトリルの濃度は76%に低下する。
【0150】
(実施例9乃至12)
実施例2と同様にして、アセトニトリル水溶液の濃度を10%、30%、50%、70%にそれぞれ変えたときに、回収されるアセトニトリル溶液濃度の変化を、図6に示す。原液に含まれるアセトニトリルの割合が大きく成る程に、精製液中のアセトニトリル濃度は高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトニトリル水溶液又はアセトニトリル溶液(以下「アセトニトリル原液」という)から高濃度アセトニトリル溶液を製造する方法であって、アセトニトリル原液の温度を、アセトニトリルと水の共沸混合物の共沸点より低い温度に調節することによって、アセトニトリル原液からアセトニトリルを含む蒸気を生成し、その蒸気を凝縮させて第1の高濃度アセトニトリル溶液を回収する蒸発凝縮分離工程を含む方法。
【請求項2】
蒸発凝縮分離工程において、常圧下又は減圧下で、アセトニトリル原液からアセトニトリルを含む蒸気を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸発凝縮分離工程は閉鎖系内で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸発凝縮分離工程において、気体をアセトニトリル原液に強制的に接触させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
蒸発凝縮分離工程において、アセトニトリル原液に強制的に接触させる気体には、アセトニトリル原液を蒸発させて生成された蒸気を凝縮させることにより分離された気体が含まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、アセトニトリル原液又は第1の高濃度アセトニトリル溶液を、水の凝固点温度より低く、アセトニトリルの凝固点温度より高い温度まで冷却して水を分離した後に常温まで加熱して第2の高濃度アセトニトリル溶液を得る、冷却分離工程を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、アセトニトリル原液、第1の高濃度アセトニトリル溶液、又は第2の高濃度アセトニトリル溶液を脱水吸着材に接触させて第3の高濃度アセトニトリル溶液を得る吸着工程を含む、請求項1乃至6に記載の方法。
【請求項8】
アセトニトリル原液のアセトニトリル濃度を決定し、その結果によって、蒸発凝縮分離工程、冷却分離工程又は吸着工程の実施の可否、並びに実施する場合のパラメータ及び実施回数を決定する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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