アセナピンを含有する注射可能な配合物およびそれを用いた処置方法
本発明は、アセナピンヘミパモエートの懸濁された粒子を含む配合物を提供し、この配合物が、配合物のIM注射によって提供されるデポを介して投与されることができ、デポが粒径依存放出割合を示さない。本発明はまた、これを用いた処置方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アセナピンのデポ投与に好適なアセナピンヘミパモエートを含む新規な配合物およびそれを用いた処置方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
この項目または本願のいずれかの項目におけるいずれかの刊行物の同定は、こうした刊行物が本発明に対する先行技術であることの容認するものでない。
【0003】
米国特許第4,145,434号(’434特許)は、その実施例IVにおいて、式Iの化合物の構造を有するトランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ−[2,3;6,7]オキセピノ−[4,5c]ピロール(アセナピンとしても既知、Merck Index monograph no.832を参照のこと)の調製を記載している。
【化1】
【0004】
式I
式Iの化合物は、中枢神経系障害(CNS障害)に苦しむ患者の処置に活性を有することが知られている。’434特許の第1欄45〜50行に記載されるように、式Iの化合物と同様の化合物は、一般に、顕著なCNS抑制剤活性を示し、緊張、刺激および不安状態の処置、ならびに精神病および統合失調症状態の処置に使用でき、同様に優れた抗ヒスタミンおよび抗セロトニン活性を示す。国際出願番号PCT/EP95/00765として1995年3月9日に出願された米国特許第5,763,476号(’476特許)の第1欄43〜46行に記載されるように、アセナピンマレイン酸塩の舌下または頬側投与は、精神障害を含む疾患、例えば緊張、刺激、不安、精神病および統合失調症の処置または管理に使用するのに有用である。上述の出願および特許のそれぞれは、それら全体が本明細書に完全に記載されるように、参考として組み込まれる。双極性障害および関連する症状をアセナピンの投与により処置することが、米国特許出願公開第2006/0084692号の下で2006年4月20日に公開された米国特許出願に記載されており、この出願は、その全体が本明細書に完全に記載されるように参考として組み込まれる。
【0005】
アセナピンまたはそれらの塩を含む配合物が投与されるべき患者へ舌下投与されることは、多くのCNS疾患の処置に有効であるが、患者におけるアセナピンの許容可能な治療レベルを維持するために少なくとも規則的な毎日の投与が必要である。
【0006】
有効なアセナピン治療を行う際に克服すべき深刻な問題の1つは、特に薬剤が自己投与される場合、およびより詳細には薬剤が毎日または毎日数回投与されなければならない場合に、投薬コンプライアンスの欠如がある。従って、このコンプライアンスの問題に対処する際に、持続された期間にわたって患者に治療的に有効な血漿レベルを与える形態にて患者に対する臨床設定で薬剤が投与されることが好ましく、こうして自己投与に関連するコンプライアンスの問題が排除される。この処置モダリティによりまた、所与の期間において投薬処置が少なくて済む。
【0007】
活性化合物の治療的に有効な血漿レベルを維持しながら、薬剤の投与間隔の時間を長くする努力において、一部の作業者は、一部のCNS活性剤を、活性医薬剤(API)を含有する組成物のデポ(デポ投与)の筋肉内注射により投与し、経時的に治療化合物を全身に放出することを試みた。報告されているこうした剤形の1つの例は、アセナピンに関連しない異型の抗精神病性化合物であるオランザピンのパモエート塩に関する。オランザピンパモエートは、米国特許第6,169,084号および同第7,303,764号に、IM投与に使用するために記載されている。この塩を含有する組成物のデポ投与は、Eli Lillyによる臨床トライアルにて試験された(例えば、「clinicaltrials.gov」にて米国立衛生研究所のウェブサイトに列挙されている臨床トライアルNCT00320489を参照のこと)。これらのトライアルにおいて、液体中に懸濁された活性医薬剤(API)としてオランザピンパモエートの粒子を含む配合物のデポは、筋肉内注射(デポ投与)により投与された。最初に、これらのトライアルの結果に基づいて、FDAは、配合物の投与に関連する極度の鎮静作用および可逆的な昏睡というトライアル中の事象を挙げて販売のための配合物の認可を見送った。これらの有害事象の原因は検証されなかったが、注射されたデポにおける懸濁したAPIの予測できない迅速な溶解および付随する溶解した材料の迅速な全身性吸収に関連していると考えられる。後に、FDAは、患者が厳格なモニタリング条件を受けるデポ注射に関してこの配合物を認可した。従って、この配合物の使用に関連する危険性は残っている。この例が例示するように、デポ配合物で使用するのに明らかに好適な特徴を有する塩、例えばパモエート塩を与えることは、必ずしもそれ自体が、望ましくない複雑性がないデポ投与用の配合物を与えるわけではない。
【0008】
粒子懸濁液を含む薬剤のデポ投与において、懸濁されたAPIの粒径および粒径分布は、注射されたデポから薬物を放出する際の因子であることが観察された。この点は、The Journal of Pharmaceutical Sciences,(Nov.1971)Vol.60,No.11,pp.1733−1736にて報告されているMillerおよびFincherの試験によって例示される。それらの試験において、MillerおよびFincherは、分類されたフェノバルビトール粒子の異なる画分の懸濁液の犬へのIM注射後のフェノバルビトールの血漿レベルを観察した。従って、Millerらは、クールター計数機を用いて決定される場合に6.63ミクロン、10.68ミクロン、17.16ミクロンまたは29.96ミクロンのいずれかの中間粒子直径を有する粒子画分から別々の懸濁液を調製した。図1に示されるように、これらの懸濁液のデポ注射後のMillerらによって観察されたフェノバルビトールの血漿濃度は、懸濁液を調製するために使用されたフェノバルビトール粒子画分の中間粒子直径に反比例する軌跡を描いた。これは、懸濁液中のAPIの等価な重量パーセンテージについて、より小さい中間粒径を有する粒子を用いて行われた懸濁液中のAPIの等量の注射が、より大きい中間粒径を有する粒子画分から調製された懸濁液よりも注射後の短時間でより高いCmaxを与えたと言える。
【0009】
前述のことから、デポ投与に好適な配合物を与える試みは、許容可能な溶解度および融点特性を有する薬物の塩形態を単に同定することによっては対処できない問題を暗示していることがわかる。上述したように、デポ配合物は、上述の粒径および他の因子のために、予測できない放出プロファイルの影響を受ける。
【0010】
デポ投与に使用するのに好適な配合物の提供における、特に延長された放出特性を有するデポ配合物の提供における成功を妨害し得る問題の別の態様は、配合物に使用される活性医薬成分(API)の安定性である。配合物の不安定性は、配合物が使用される生理学的環境に供される場合に配合物の有効性に有害な影響、同様に長期間または周囲条件の下で配合物を貯蔵する能力に有害な影響を与え得る。例えばAPIが結晶形態である場合、結晶化度の喪失または結晶性モルホロジーにおける変化が、こうした配合物を用いて投与されるデポ注射からの放出割合に重大な影響を与えることが観察された。
【0011】
その全体が本明細書に完全に記載されるように参考として組み込まれる1993年11月10日に公開された欧州特許出願公開第0569096号(’096公開)に記載されるように、トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ−[2,3;6,7]オキセピノ−[4,5c]ピロール(アセナピン、式Iの化合物)のパモエート塩が既知であり、1:1パモエート塩(共に反応する等モル量のパモ酸およびアセナピン遊離塩基を含む)および2:1ヘミパモエート塩(共に反応する2:1モル比のアセナピンおよびパモ酸を含む)を含む。公開された国際公開第98/54186号(1998年12月3日公開、出願人Akzo−Nobel)は、’096公開に記載されるアセナピンヘミパモエート塩(「形態Iヘミパモエート塩」とも称される)を、約167℃〜約168℃の融点を有する非晶質および結晶性材料の混合物を含むものとして特徴付けている。
【0012】
アセナピンの芳香族酸塩を含有する種々のデポ配合物を記載する2つの上述された刊行物は、そこに記述されたヘミパモエートがデポ配合物に使用するのに好適であることは示されていない。パモ酸のアセナピン塩(パモエートおよびヘミパモエート形態I)を与えることは、これまで、デポ投与を目的とする配合物に使用するのに、特に配合物のIM注射によって与えられるデポから延長した放出投与を与える際に使用するのに、十分な安定性および好適な溶解特徴を有するアセナピンの形態を与えることにはならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,145,434
【特許文献2】国際出願番号PCT/EP95/00765
【特許文献3】米国特許第5,763,476号
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0084692号
【特許文献5】米国特許第6,169,084号
【特許文献6】米国特許第7,303,764号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0569096号
【特許文献8】国際公開第98/54186号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】The Journal of Pharmaceutical Sciences,(Nov.1971)Vol.60,No.11,pp.1733−1736
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の観点から、必要なものは、アセナピンのデポ投与、特に長期間、例えば少なくとも約2週間以上の期間にわたってアセナピンの治療的血漿レベルを与えるデポの投与に好適なアセナピン含有配合物である。さらに、必要なものは、デポ投与に適合された配合物を利用してアセナピンによる処置に耐えられる疾患の処置方法である。これらおよび他の目的および/または利点は、1つの態様が水性懸濁媒体中に懸濁されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態II(本明細書に規定される)の粒子を含む医薬配合物である本発明によって与えられ、ここでアセナピンヘミパモエートの粒子は、少なくとも約5mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLの濃度にて配合物に存在し、より好ましくは濃度は、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであり、より好ましくは濃度は、少なくとも約100mgのアセナピンヘミパモエート配合物/mL超過である。一部の実施形態において、濃度について、少なくとも約200mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであるのが好ましい。一部の実施形態において、約50mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであることが好ましい。一部の実施形態において、濃度は100mg超過のアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであるのが好ましく、より好ましくは濃度は約200mgアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLである。
【0016】
一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を用いて本発明の配合物を調製するのが好ましく、この粒子は、レーザー回折法によって決定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する。一部の実施形態において、沈澱した結晶性材料を微粉末化することによってアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を与えるのが好ましい。一部の実施形態において、制御された結晶化条件下で結晶を沈殿させることによって、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を提供するのが好ましい。一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの分類されていない粒子の結晶形態IIを使用するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合物に組み込む前に約0.3ミクロンより小さい粒子を除去するために、アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを分類するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合物に組み込む前に約200ミクロンより大きい粒子を除去するために、アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを分類するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合に組み込む前に、約0.3ミクロンより小さい粒子および約200ミクロンより大きい粒子両方を除去するために、粒子画分を分類するのが好ましい。
【0017】
一部の実施形態において、好ましくは配合物中に使用される水性懸濁媒体は緩衝剤を含む。懸濁媒体として緩衝剤を使用する実施形態において、好ましくは緩衝剤はリン酸塩緩衝剤である。緩衝剤を使用する実施形態において、好ましくは緩衝剤は、生理学的に適合性のpHを有し、より好ましくは緩衝剤は、約pH4〜約pH8のpHを有し、より好ましくは緩衝剤は約pH7のpHを有する。一部の実施形態において、約0.5mM〜約100mMの緩衝強度を有する緩衝剤を使用するのが好ましい。
【0018】
一部の実施形態において、場合により、配合物はまた、配合物中の固形分を分散する、または貯蔵および沈降が生じた後の配合物中の固形分を再分散するのを助けるための分散剤として作用し得る界面活性剤を含む。分散剤を使用する一部の実施形態において、分散剤として中鎖長のポリエチレングリコール、例えばマクロゴール3400を使用するのが好ましい。
【0019】
別の態様において、本発明は、患者の処置に本発明の配合物を使用する方法を提供し、この方法は、少なくとも約2週間、好ましくは約2〜約4週間の期間にわたってアセナピンの治療的血漿濃度を維持するデポを与えるのに十分な体積の配合物の筋肉内注射(IM)によってアセナピン治療に必要な患者にある量の配合物を投与する工程を含む。一部の患者集団において、それによって6週間までまたはさらに8週間までの期間、アセナピンの治療的血漿濃度を患者に提供するのに十分なデポ体積を投与するのが望ましい。
【0020】
一部の実施形態において、治療的血漿濃度を長期間にわたって与えるために、所望の体積のデポを得るために複数のデポを形成するように複数部位に同時注射投与するのが好ましい。一部の実施形態において、アセナピンの治療的血漿濃度の最大の所望維持期間を達成するために約280mgまでのアセナピンの遊離塩基の等価物を含有するデポ体積(1つまたは複数のデポ)を与える量の配合物を注射するのが好ましい。一部の実施形態において、約14mgのアセナピン遊離塩基から約280mgのアセナピン遊離塩基に等価な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの量、より好ましくは約140mgまでのアセナピン遊離塩基に等価な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含むデポ体積を含有する体積の配合物を注射するのが好ましい。
【0021】
場合により、注射はアセナピンの治療的に有効な血漿濃度を維持するために必要に応じて繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも2週間の期間、治療的血漿レベルのアセナピンを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうして注射はおよそ2週間毎に繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも3週間の期間アセナピンの治療的血漿レベルを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうした注射は約3週間毎に繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも4週間の期間にわたってアセナピンの治療的血漿レベルを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうした注射は約4週間毎に繰り返される。注射の体積は、配合物が複数の同時注射によって形成された複数のデポで投与される場合、投与されたデポのすべての総体積に存在するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度に依存する。従って、一部の実施形態において、2週間、3週間、または4週間またはそれより長い持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約4週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約8週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約12週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、CNS疾患、例えば統合失調症または双極性障害を処置するための方法を提供する。一部の実施形態において、この方法は、IM注射によって2週、3週、または4週間隔で本発明の配合物を投与することを含み、ここで、投与される配合物の量は、選択された期間にわたって治療的に有効な血漿濃度のアセナピンを提供するのに十分な体積のデポを提供する。一部の実施形態において、当量から約280mgまでのアセナピン遊離塩基の等価物を含む体積を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約140mgのアセナピン遊離塩基までの等価物を含むデポ体積を投与するのが好ましい。
【0023】
本発明の他の態様および利点は、図面および次の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明は、以下の詳細な説明および添付の図面により完全に記載される:
【図1】Miller et al.,J.Pharm.Sci,Nov.1971,Vol.60,No.11,pp17333−1736から出典され、種々の粒径のフェノバルビタールを有する懸濁液のデポ投与から得られる犬でのフェノバルビタールの血漿レベルの先行技術試験の結果を例示する(上記の背景の項目を参照のこと)。
【図2a】30℃でpH7のリン酸塩緩衝剤中での貯蔵前および貯蔵後に、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iのサンプルにて得られたDSCデータを示す。
【図2b】アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iのサンプルにて得られた粉末X−線回折(XRPD)を示す。
【図3a】30℃にてpH7のリン酸塩緩衝剤中での貯蔵前および貯蔵後にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのサンプルにて得られるDSCデータを示す。
【図3b】アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのサンプルにて得られた粉末X線回折(XRPD)データを示す。
【図4】3.5ミクロン、12ミクロン、または28ミクロンのレーザー回折法d50−値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの懸濁液のデポ投与後に得られた血漿レベルを例示する。
【図5】3.5ミクロン、12ミクロン、または28ミクロンのd50−値(レーザー回折法によって測定される)を有する分類された粒子画分における粒径分布を図示する。
【図6】アセナピンヘミパモエート粒子の結晶形態IIのインビトロ溶解挙動を試験するために使用される溶解システムを図示する。
【図7a】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7b】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7c】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7d】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7e】図7a〜7dにおけるデータを与える際に使用される画分の粒径分布を例示する。
【図8a】種々の試験条件下で緩衝溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIおよびアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの同様の粒径および粒径分布を有する粒子の溶解割合の比較を例示する。
【図8b】種々の試験条件下で緩衝溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIおよびアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの同様の粒径および粒径分布を有する粒子の溶解割合の比較を例示する。
【図9a】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9b】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9c】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9d】図9a〜9cにおいてデータを与える際に使用される粒子画分における粒径分布を例示する。
【図10】20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IおよびIIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度の比較を例示する。
【図11】20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1.0mLのデポを用いた患者のIM注射後に観察される中間血漿濃度を例示する。
【図12】規則的な間隔にて本発明の配合物を含むデポ注射を投与する際に予測される血漿濃度レベルのシミュレーションを例示する。
【図13】1重量%のレベルで配合物に存在する3.5ミクロン、12ミクロン、および27ミクロンのd50値を有する形態IIのアセナピンヘミパモエート粒子画分を含む本発明の配合物を含むデポを用いて注射された試験動物において観察される血漿レベルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の配合物は、水性懸濁液媒体中に懸濁した活性医薬成分(API)としてアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を含み、ここで、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度は、より詳細に本明細書で記載される特定範囲内に維持される。
【0026】
本明細書で使用される場合、粒径および粒子分布測定が数値によって記載される場合、数値を記載する際に暗示されることは、測定値が異なる測定技術間、異なるサンプル調製技術間、および所与の一部の装置の異なる操作人によって得られた測定値間で比較する場合、所与のサンプルに関して体験する通常の変動を考慮した測定の精密さを反映することを理解されたい。従って、粒径および粒径分布測定において当業者によって理解されるように、記述された値は、絶対的な数値精密性を反映するのではなく、特定の中間粒径および粒径分布を有する所与のサンプルを測定する場合に典型的に観察される値の通常の範囲内である粒径および粒径分布値を示し、粒径および粒径分布を測定する際に当業者によって所与の測定技術を用いて得ることができる一般に認識される精密性および正確性を考慮する。従って、d−値の点で粒子の集合体を記載する本明細書に記述される値は使用される測定技術(その詳細を本明細書に記載する)から通常得られる正確性および精密性を反映し、粒子測定の当業者によって理解されるよりも大きな正確性または精密性を暗示することを目的としないことを理解されたい。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートは、結晶形態II(「アセナピンヘミパモエートの結晶形態II」と本明細書では記載される)で提供されることができ、これは、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された形態(非晶質および結晶形態I)とは異なり、驚くべきことに、デポ投与に好適な配合物を調製するのに有用であることを見出した。図3aに例示されるように、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは安定であり、DSC分析によって決定される約218℃の融点を有し、図3bを参照すれば、それがアセナピンヘミパモエート塩の以前に報告された形態のいずれかとは全く異なるアセナピンヘミパモエートの結晶変態であることを示す粉末X線回折(XRPD)データを与える。例えば、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態IのものであるXRPDの図2bの比較により、図3bのXRPDとは容易に区別される。これらの決定の手順および結果は、本明細書において以下により完全に考察される。アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは、pH7での水性リン酸塩緩衝液中で、約3マイクログラム/mLの溶解度を有する。
【0028】
公開された国際公開第98/54186号および公開された欧州特許出願公開第0569096号(文献中の実施例IIを参照のこと)に以前に報告されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iは、図2bに示されるXPRDスペクトルを生じ、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのXRPD(図3b)と比較した場合、その差異は容易に明らかである。図2a(底部トレース)は、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態IのDSC分析を示し、約162℃〜約172℃の範囲で約167℃の融点を有することを示す(大きな吸熱事象の重心)。pH7に維持された水性リン酸塩緩衝剤中でのアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの溶解度は、約12.6マイクログラム/mLであり、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの場合のおおよそ4倍である。
【0029】
図8aを参照すると、驚くべきことに、水性溶解媒体中に懸濁されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子(下方トレース)は、以前に報告されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態I(図8a、上方トレース)の等価な粒径画分よりも相当遅く溶解する。さらに、pH7でのリン酸塩緩衝剤中に懸濁され、30℃および40℃で貯蔵されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの粒子は、DSCによって観察された融点に基づいて、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iから、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIへ転化されることを見出した。図2aを参照すれば、形態Iから形態IIへの転化を、貯蔵された懸濁液のアリコートを周期的に採取し、ろ過によって懸濁された固形分を単離し、単離された固形分を室温で乾燥することによって観察した。DSC分析は、10mgの固形分サンプルおよび25℃〜250℃まで10℃/分の割合にて加熱されるようにプログラムされたMettterDSC822eを用いて単離された乾燥固形分について行った。この試験の結果は、図2aに示される結果と共に示される。これらのデータは、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iはアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIに徐々に転化されることを明らかに示している。異なるように記載されない限り、図2aに示されるDSCデータを提供するために記載される方法は、本明細書に示されるDSCデータのすべてを得る際に使用された。
【0030】
驚くべきことに、この安定性試験が存在するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIだけから出発して繰り返される場合に、緩衝剤溶液中での粒子の貯蔵された懸濁液から回収した固形分のDSC分析の結果は、これらの条件下(30℃および40℃にて貯蔵)、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが、長期間貯蔵される場合、いずれかの他の結晶形態に分解も転化もされないことを示す。
【0031】
まとめると、前述したことすべてが、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態Iが、デポ配合物中に使用するのには不向きであることを示す。その溶解度、その結晶形態の容易な転化およびその溶解特性に基づいて、アセナピンの治療レベルの持続放出を与えるために、デポを投与するための配合物に使用するのには特に不向きである。さらに、前述のことは、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが全く異なり、予測できない結晶モルホロジー、安定性特性、溶解度特性および溶解特性を有することが示され、これが驚くべきことに、デポ投与のための配合物を調製する際に使用するのによく適合する。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む懸濁液は、デポ投与に好適な配合物を提供し得ることを見出した。本発明によれば、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは、所望でない副作用、例えばオランザピンについて上述されたものを有さずに、治療レベルのアセナピンの持続された放出を与えるデポ投与に好適な配合物を提供できる。
【0033】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが、アセナピンマレエートのエタノール溶液のアリコートをパモ酸二ナトリウム塩のエタノール溶液に導入し、混合物を徐々に冷却することによって調製できることを見出した(以下に続く実施例において本明細書でさらに詳細に記載されるプロセス)。本発明者らはまた、この結晶化プロセスは小さいスケールにて行われ、「シード」を提供し、それを使用してより大きなスケールにて調製物を「シード化」できることを見出した。従って、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードがこの方法によって得られたら、それらは、大規模プロセスにおいて、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの大きいバッチを沈殿させるための「シード」として使用できる。
【0034】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粉末X線回折スペクトルは、図3bに示される。図3bのスペクトルは、回折角度(2θ)に現れる5つの最も大きな回折ピークを含有し、対応して、以下の表Iに示される計算された「格子面間隔」を含有する。
【表1】
【0035】
図3aを参照して、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの微粉末化されたサンプルは、上述の手順に従ってMettlerDSC822eにて示差走査熱量測定(DSC)によって特徴付けられ、約218℃の融点を有することが認められた。融点は、加熱範囲内で観察される吸熱事象にて重心として採用した。これらの条件下で観察される吸熱事象の範囲は213〜223℃であった。
【0036】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを調製する際に使用するのに好適なアセナピンマレエートは、好都合なことには公開された国際公開第2006/106136号(例えば、この文献中のスキームIIおよびIVおよび実施例7を参照のこと)、国際公開第2008/003460号(例えば、この文献中の実施例1および7を参照のこと)、または国際公開第2009/087058号のいずれかに記載される手順に従うことによって調製されてもよい。これらの公開のそれぞれは、本明細書に完全に記載されるように具体的に参照として組み込まれる。
【0037】
前述によれば、本発明の配合物は、デポ(デポ投与)としてアセナピン治療が必要な患者に投与できる形態にてアセナピンを提供する。以下に示されるように、実施例4において、好ましくは筋肉内(IM)注射によって十分な体積で投与される場合、本発明の配合物を含むデポ投与は、場合によりデポ注射を用いて観察される「バースト放出」を生じることなく、患者に持続された血漿レベルのアセナピンを提供することが予測される。従って、本発明の配合物のデポ投与は、デポからの不適当な放出なしで、延長された期間にわたって治療的血漿レベルのアセナピンを提供するのに十分な量の配合物を用いて行われることができる。
【0038】
さらに、図12を参照して、規則的な間隔で十分な体積のデポとして投与される場合、本発明の配合物は、延長された期間、例えば2週間、3週間または4週間にわたって投与される被験者において治療的アセナピン血漿レベルを提供することを見出した。一部の実施形態において、一部の患者集団に関して、配合物の十分なデポ体積の投与は、治療アセナピン血漿レベルを8週まで提供するのに十分な量の配合物を用いて達成され得る。
【0039】
一部の実施形態において、デポ充填用量を利用して、続いて維持のために少量のデポ体積を利用するのが有用である。例えば、一部の実施形態において、約210mgまでのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む量の配合物の充填用量を投与するのが好ましく、これは約8週までの期間、治療的アセナピン血漿レベルを提供するのに十分であり、続いて約140mgまでのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む量で維持デポを周期投与し、これは約8週までの追加の期間にわたって治療的アセナピン血漿レベルを提供するのに十分である。一部の実施形態において、200mg/mLのアセナピンを含む本発明の配合物を利用して、例えば1mLのデポ体積または1.5mLのデポ体積を含む充填用量を供給し、より少ない体積、例えば0.75mLのデポ体積または0.5mLのデポ体積を含む維持用量をその後間隔を置いて投与するのが好ましい。この投与スケジュールを継続することによって、連続治療が患者に提供できることが理解される。この投与は、図12に例示され、患者に見られる応答および試験動物被験体における繰り返し投与に基づくこうした投薬レジームに従って、本発明の配合物を受容する患者が体験し得る血漿レベルのシミュレーションを与える。上述のように、治療的アセナピン血漿レベルの提供が、特定のCNS疾患、例えば統合失調症の処置または管理に有用である。
【0040】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを用いて調製される配合物は、この配合物中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度が本発明に従って維持されており、配合物が調製されるアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのアリコート中に存在する粒径および粒子分布に独立した血漿レベルを与えるような配合物の被験者へのデポ投与を可能にすることを見出した。
【0041】
図4を参照すると、本発明の2つの配合物(一方は3.5ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて調製され、10重量%の微粒子が0.8ミクロン未満の直径(0.8ミクロンのd10値)を有するものであり、他方は28ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて調製され、1ミクロン未満の粒子重量%がほぼ無視できるもの(11ミクロンのd10値)である)のデポ投与では、実験動物被験体のうちアセナピンの血漿濃度中に大きな差異を示さなかった(本明細書の実施例3に詳細が報告されている)。この試験は、デポ投与後に複数週の観察にわたって行われた。従って、これらのデータは、本発明の配合物が、配合物中に存在する粒径または粒径分布に依存しないPKパラメータを有するアセナピンの延長されたインビボ放出を与えることを示す。
【0042】
本発明の配合物中での使用に関して、粒子を狭い粒子画分に分類する必要はないが、レーザー回折法によって決定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子画分を用いて本発明の配合物を調製するのが好ましい。一部の実施形態において、微粉末化されたアセナピンヘミパモエート形態IIを用いて所望の粒径範囲内のd50値を有する粒子を与えることが好ましい。必要ではないが、一部の実施形態において、組成物に使用されるアセナピン粒子を実質的に約0.3ミクロンより小さい粒子を除去するために分類するのが好ましい。必要ではないが、一部の実施形態において、約200ミクロンを超える粒子を実質的に除去するために組成物中に使用される粒子を分類するのが好ましい。しかし、図4を参照すると、本発明者らは、驚くべきことに、10重量%でも微粒子(1ミクロン未満のd10値を有する粒子画分、例えば表1のサンプル1)の存在は、配合物のデポが注射によって投与された実験動物被験体にて観察される血漿レベルに影響を与えないことを見出した。この試験の詳細は、以下の実施例3により詳細に説明される。
【0043】
好ましくは、本発明の配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを少なくとも約10mg/配合物mLの濃度で与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。図13を参照すれば、1.0mLのデポ体積にて試験動物に注射される場合、3.5、12、および27ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて別々に調製されたアセナピンヘミパモエートの形態IIを1重量%含む本発明の配合物は、すべての配合物に関して実質的に同じ血漿プロファイルを生じることがわかるが、このプロファイルは、より低濃度が使用される場合に、生じる血漿レベルが使用される粒径に対応して区別されることを示唆している。一部の実施形態において、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与える量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを使用するのが好ましく、より好ましくは配合物は、少なくとも約100mg超過のアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与える量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。一部の実施形態において、少なくとも約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましい。一部の実施形態において、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましい。一部の実施形態において、約100mg過剰のアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましく、より好ましくは配合物は、約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgの結晶形態のアセナピンヘミパモエート/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。一部の実施形態において、約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLである配合物を使用するのが特に好ましい。
【0044】
本発明の配合物は、水性懸濁媒体中に懸濁したアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を含む。水性懸濁媒体は、滅菌水単独であることができ、好ましくは水性懸濁媒体は緩衝剤を含む。一部の実施形態において、配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II、緩衝剤および分散剤、および場合により懸濁液の安定性または注射可能な配合物としての有用性に寄与する1つ以上の追加の賦形剤を含むことが好ましい。
【0045】
一部の実施形態において、本発明の配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子形態と、水性懸濁媒体とを、均質混合物が得られるまで混合またはブレンドしながら組み合わせることによって調製するのが好ましい。水性懸濁媒体中にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを分散させる方法は重要ではなく、液体中に懸濁した固形分の均質混合物を得るいずれかの好適な手段を使用できることを理解されたい。
【0046】
一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、所望のpHおよび緩衝強度に緩衝剤を調製し、次いで撹拌しながら所望量の粒子状アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを添加するのが好ましい。一部の実施形態において、水性懸濁媒体がさらに懸濁剤を含む場合、緩衝剤を調製し、所望量の懸濁剤を添加し、次いで所望量のアセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを添加するのが好ましい。添加の順序は重要ではないが、分散剤を利用する一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II粒子を懸濁媒体に添加する前に分散剤、例えば緩衝剤を懸濁媒体に添加するのが好ましい。
【0047】
一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、好ましくは緩衝剤溶液は、生理学的に適合性のpH、より好ましくは約pH5〜約pH9のpHを与え、より好ましくは緩衝剤は約pH7のpHを与える。一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、水性懸濁媒体として水性リン酸塩緩衝剤溶液を使用するのが好ましい。他の緩衝剤材料、例えばクエン酸塩または炭酸塩緩衝剤が使用でき、これは本発明の範囲内であると理解される。また、以下で例示されるが、特定の様式にて調製されるリン酸塩緩衝剤を用いて、緩衝剤溶液を提供する他の手段を使用して、本発明の配合物を調製する際に使用するのに好適な水性懸濁媒体を提供できることが理解される。
【0048】
一部の実施形態において、調製される緩衝剤の各mLに関して、約60mgまでのポリエチレングリコール、好ましくは約5mgのポリエチレングリコール〜約60mgのポリエチレングリコール、より好ましくは約5mgのポリエチレングリコール〜約30mgのポリエチレングリコール;最終緩衝剤溶液中で約2mM〜約50mMのリン酸塩部分濃度、好ましくは約10mMのリン酸塩部分濃度を与える量のリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムを組み合わせることによって、緩衝剤を調製するのが好ましく、ここで、リン酸水素二ナトリウム種およびリン酸二水素ナトリウム種のそれぞれの比が、最終緩衝剤溶液のpH;および約0.13Mまでの濃度の塩化ナトリウムを与えるのに十分な塩化ナトリウム量に依存する。
【0049】
上述のように、一部の実施形態において、本発明の配合物は、本発明の配合物を調製する際に使用される懸濁媒体中にアセナピンヘミパモエート形態II粒子の分散を助ける分散剤として作用する能力を有する1つ以上の界面活性剤を含む。こうした実施形態において、分散剤はまた、分散後の配合物を安定化するのに役立ち、一部の粒子沈降が配合物の貯蔵後に生じる場合には粒子の再分散を改善できる。親水性ポリマー、例えばカルボキシメチルセルロースポリマーおよびポリエチレングリコールポリマーは、本発明の配合物中の分散剤として使用するのに好適な界面活性剤である。好適なポリエチレングリコールポリマーの例は、中程度重量のポリエチレングリコールポリマー、例えばマクロゴール、例えばマクロゴール3400、マクロゴール4000、およびマクロゴール6000、好ましくはマクロゴール3400が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
前述のことに従って、少なくとも約100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLを含む好適量の本発明の配合物を、好適な体積のデポとしてヒトに投与することにより、アセナピンの約1ng/mL〜約8ng/mL、好ましくは約1ng/mL〜約3ng/mLのアセナピンの一定の治療的血漿レベルを与えるアセナピンの持続放出が観察されることが予測される。一部の実施形態において、約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、より好ましくは100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、より好ましくは少なくとも約200mgの形態IIのアセナピンヘミパモエートの等価物を含有する配合物の量を提供すること好ましい。一部の実施形態において、約50mg、より好ましくは100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを与える量、好ましくは約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを与える量にて、上腕の三角筋への注射により配合物を投与することによってデポを提供するのが好ましい。一部の実施形態において、約100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、好ましくは200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む配合物の量を殿筋に注射することによって、または外側広筋に注射することによってデポを投与するのが好ましい。
【実施例】
【0051】
次の実施例において、特に記述のない限り、すべての試薬は商業品のUSP等級物品である。
【0052】
実施例1:アセナピンヘミパモエートおよびそれらからのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの調製
アゼナピンヘミパモエートの結晶形態IIを調製する際に使用するためのアセナピンマレエートを、公開された国際公開第2008/003460号(この文献の実施例1および6を参照のこと)に記載されるプロセスに従って調製した。
【0053】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードは、パモ酸二ナトリウムのエタノール溶液にアセナピンマレエートのエタノール溶液のアリコートを滴定し、そこからアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを結晶化することによって調製した。従って、公開された国際公開第08/003460号に記載されるように調製された201グラムのアセナピンマレエートを、75℃にて3.0LのUSP等級エタノール中に溶解した。パモ酸二ナトリウム(108.7g、受領したまま使用されたUSP等級)を、75℃にて13.5Lのエタノール(USP等級)に溶解した。アセナピンマレエート溶液のアリコートを、混合物を75℃に維持しながら、パモ酸二ナトリウムの溶液に添加した。アセナピンマレエート溶液のすべてを添加した後、混合物を継続して撹拌しながら室温まで徐々に冷却した。形成された結晶をろ過により回収し、エタノール(4L、周囲温度)で洗浄し、ハウスバキュームで45℃にて乾燥させた。こうして与えられたアセナピンヘミパモエート(210グラム、87%)をXPRD(図3b)およびDSC(本明細書に記載されるDSC手順を用いて融点223℃)により試験し、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIであることを決定した。
【0054】
多量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを、アセナピンマレエート溶液を上記で調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードを用いてシード化し、次いでシード化された溶液を次の手順に従ってパモ酸溶液で処理することによって調製した。
【0055】
エタノール/水溶媒は、撹拌装置を備えた容器に、58LのUSP等級エタノールおよび3.2Lの精製水を合わせることによって調製した。溶媒を約70℃に加熱した。この溶媒に、先行して調製された(上記で記載された)2703gのアセナピンマレエートを添加し、混合物を撹拌し、固形分が溶解するまで混合物の温度を約70℃に維持した。アセナピンマレエート溶液を、上記で記載された手順に従って調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシートでシード化し、撹拌を継続しながら、28Lの水中に溶解した1486gのパモ酸溶液を、約1時間にわたって添加し、撹拌を継続しながら、混合物の温度を70℃に維持した。混合物をさらに1時間70℃で撹拌し、その間にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの結晶を形成させた。1時間の撹拌後、熱源を取り除き、バッチを撹拌しながら冷却させることによって、混合物を周囲温度(約20℃)に冷却した。撹拌をさらに16時間継続した。16時間後、沈殿した結晶をろ過によって回収し、周囲温度にて水で洗浄し、ハウスバキュームで45℃にて乾燥させた。製造された結晶性材料の同一性および純度を、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIについて、DSCによって(これが223℃でシャープな吸熱を示す)、およびXRPDによって(参照スペクトルと一致するスペクトルを生じる(図3b))確認した。
【0056】
実施例2:アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む注射可能な組成物の調製
リン酸塩緩衝剤は、機械的撹拌装置を備えた容器に、1000gの滅菌水、30gのマクロゴール3400、1.18gのリン酸水素二ナトリウム、0.47gのリン酸二水素ナトリウム、および7.6gの塩化ナトリウムを入れることによって調製した。容器を、溶解が完了するまで周囲温度(約20℃)にて1時間撹拌した。内容物のすべてが溶解した後、緩衝剤のpHを、1Mの水性リン酸および1Mの水性水酸化ナトリウムのアリコートを必要により、緩衝剤がpH7.0に到達するまで添加することによって調節した(緩衝剤のアリコートが取り出され、各アリコートの添加後に標準の実験室用pHメーターを用いて試験された)。
【0057】
上記実施例1にて調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのアリコートを微粉末化し、Malvern粒径測定器を用いてレーザー回折法により決定される場合に種々のd50値を有する画分に分類した。回折法は、20mgの測定されるべきアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIサンプルを、0.05重量%Tween80水溶液を含む1mLの分散媒体に添加し、アセナピンヘミパモエートで飽和された0.05重量%Tween80水溶液を含有する好適な量の分散液を装置の測定容器に添加することによって調製されたサンプルにて行った。製造元の操作説明書に従って測定を行った。
【0058】
この方法を用いて、次の特徴を、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIサンプルを微粉末化することによって得られた3つの異なる粒子画分に対して測定した(表II)。
【表2】
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「d50」は、サンプル重量の半分がd50よりも小さい粒子を含み、サンプル重量の半分が、d50よりも大きい粒子を含むような粒径を示す値を意味する。同様の様式にて、d10は、サンプル中の粒子の10%がd10より小さいような粒径を示す値であり、d90は、サンプル中の粒子の90%がd90より小さいような値である。従って、相対的なd50値によって反映されるように、サンプル1は、相対的に小さい粒子を含み、サンプル2は、中程度のサイズの粒子を含み、サンプル3は、大きい粒子を含む。表1に記載される粒子画分は、サンプル1(d50=3.5ミクロン)、サンプル2(d50=12ミクロン)、およびサンプル3(d50=28ミクロン)としてさらに本明細書で称される。図5はさらに、これらのサンプルに見出される粒径および粒径分布を例示する。
【0060】
機械的撹拌器を備えた3つの容器のそれぞれに、上記で調製された緩衝剤の4800mgのアリコートを入れた。粒子サンプル1、2および3のそれぞれの1200mgのアリコートを計量した。緩衝剤溶液を含有する容器それぞれに、撹拌しながら、これら1200mgのアリコートの1つを添加し、特徴付けられた粒子画分のそれぞれから製造された本発明の配合物を与え、その配合物のそれぞれは、215mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を有していた。
【0061】
実施例3:ラビットを用いるアセナピンヘミパモエート組成物のデポ投与のインビボ試験
実施例2で調製された配合物のそれぞれを、デポ注射として一連の実験動物被験体(ニュージーランドホワイトラビット)に投与した。選択された配合物の1mL体積のデポを、被験体の左肢に投与した。注射後の時間間隔において、血液サンプルを0.03mLの0.2MのEDTA中に被験体の耳動脈から回収した。サンプルを、注射後1、3、および6時間後に、次いで1、2、3および6日後、次いで10、13、17、20、24および25日目に回収した。回収したら、血液サンプルを室温で2分間遠心分離した(125,000N/kg)。こうして得られた血漿サンプルを、内部標準を添加した後LC/MSによって分析した。アセナピンおよび内部標準は、固相抽出によってサンプルから単離した。抽出された構成成分は、公開された方法論に従って液体クロマトグラフィによって分離したが、溶出は、アセナピン含有量を決定するためにマルチ反応モニタリングモードにて電子噴霧イオン化を使用するトリプル四重極質量分析計にて行った。この試験の結果を図4に示すが、これは、実験動物被験体にて観察されるアセナピンの血漿レベルが、試験された各配合物を調製する際に使用された粒子画分のd50値によって指定された試験配合物それぞれについてほぼ同じであることを示す。試験された各配合物を調製する際に使用された粒子画分は、図5に示されるように、異なるd50値および異なる粒径分布を与えた。従って、これらのデータは、本発明の配合物のデポによって提供されるアセナピンの放出割合が、配合物を調製するために使用された中間粒径または粒径分布に独立することを示す。これらの試験は、本発明の組成物が、投与される患者にアセナピンの有害な放出を行わずに、アセナピンの許容可能な治療レベルを提供するために使用できることも示している。
【0062】
図5から、サンプル1の粒子画分から調製された配合物は、10重量%の微粒子(サンプル1の場合は1ミクロン未満の粒子、d10は0.8ミクロンであると測定された)を含有していた。しかし、図4に示される情報は、本発明の配合物のデポ投与は、こうした微粒子充填があっても、粒径依存の放出プロファイルを生じないことを例証している。
【0063】
図9a〜9cを参照すると、追加の試験は、上述の方法論を用いてニュージーランドホワイトラビットを用いて行われた。従って、試験被験体は、(i)1.5ミクロン、20ミクロン、または40ミクロンの中間粒径および20重量%の濃度(図9a);(ii)1.5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、または40ミクロンの中間粒径および5重量%の濃度(図9b);および(iii)0.25ミクロン、3.5ミクロン、5ミクロン、12ミクロン、および28ミクロンの中間粒径、および20重量%の濃度(図9c)を有する粒子状APIを用いて上述のように調製されたアセナピンヘミパモエートの懸濁液を含むデポを提供するためにIM注射が投与された。
【0064】
図9aから9dを参照すると、これらのデータは、20重量%の濃度にて、1ミクロン未満の粒子を約10体積%未満有し、28ミクロン以下のd50値を有するAPI粒子画分を含む本発明の配合物は、使用された粒子画分のd50値に関わらず、アセナピンの一貫した血漿濃度を提供する放出プロファイルを生じることを示す。これらのデータはまた、5重量%の濃度にて、1ミクロン未満の粒子を約10体積%未満有し、1.5ミクロンを超え、約40ミクロン未満のd50値を示すAPI粒子画分を含む本発明の配合物は、試験された配合物の範囲にわたって一貫した放出プロファイルを与え、アセナピンの治療レベルと一致したアセナピンの持続血漿濃度を生じることを示す。
【0065】
図9cおよび9aからわかるように、小さいd50値(例えば0.25ミクロン、9c)を生じる、または大きな「微粒子」含有量(1ミクロン未満の粒径(例えば1.5ミクロン、9a)を有する粒子10体積%以上)を有する粒子画分は、注射時に「バースティング効果」(「バースト放出」とも称される)を示す傾向にあり、従って、アセナピンのデポ投与のための配合物として使用するのに不向きである。
【0066】
追加の動物試験において、図10を参照すると、上述の同じ手順を用いて、20重量%のアセナピンヘミパモエートの形態I(20ミクロンの中間粒径)および形態II(中間粒径16ミクロン)を含む懸濁液を調製した。各懸濁液のアリコートは、上述の同じ手順を用いてニュージーランドホワイトラビットに1mLのIM注射として投与した。アセナピンの血漿レベルは、上述の手順を用いて決定した。図10からわかるように、これは、アセナピンヘミパモエートの形態Iが、アセナピンヘミパモエートの形態IIを含むデポによって与えられる血漿レベルと比較して、所望でない「バースト放出」、例えば投与後最初の1週間にて高い初期血漿レベルを示すという点で、アセナピンの制御された放出を提供するために使用するのに不向きである。従って、この様式でアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iから調製された配合物は、デポ投与に使用するのには不向きである。
【0067】
実施例4:アセナピンヘミパモエート組成物の患者へのデポ投与のインビボ試験
安定した慢性統合失調症と診断されたヒトの患者にて本発明の配合物を試験した。上述の同じ手順を用いて、20重量%のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む懸濁液を調製した。懸濁液を調製するために使用された形態IIの粒子画分は、3ミクロンのd10値、27ミクロンのd90値、および10ミクロンのd50値を生じた。1.0mL体積の懸濁液の注射を、皮膚に対して90°の角度にて三角筋の最も厚い部分に針を挿入し、続いて5〜10秒吸引し、続いて10秒間隔にわたってデポの注射を行うことによって上腕の三角筋に投与した。デポによって与えられたアセナピンの血漿濃度は、上述の手順を用いて観察された。この試験の結果は、組成物が約4週間にわたってアセナピンの制御された放出を与えることができることを示す図11に示される。
【0068】
デポを与えるために使用される注射体積を変化させることによって、異なる血漿レベルが得られ得ることが観察される。
【0069】
実施例5:アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの選択された粒子画分の溶解のインビトロ試験
上記表IIにて報告された場合のそれぞれに匹敵する粒子画分の溶解挙動のインビトロ試験は、USPパドル撹拌溶解装置(図6を参照のこと)にて行った。これらの試験を行うために、それぞれ3.5ミクロン、7ミクロン、および20ミクロンのd50値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子画分(図7eを参照のこと)を得て、装置の溶解容器の1つに入れた。粒子のアリコートで溶解容器を充填する前に、容器のそれぞれを、1Lのリン酸塩緩衝化された生理食塩水(10mM、pH7.0に調節)で満たし、固定されたサンプルパスを規定するその先端にて鏡および光学配置を含有したプローブを取り付けた。各プローブは、光学的に中央光源と、調査中に溶解が進行する度に溶液中のアセナピン濃度をリアルタイムで光測定モニタリングを可能にする検出器とに連結させた。このシステムを用いて、調査人は、標準条件下での溶解割合を経時的に観察可能で、選択された変数(温度、パドル速度、pH)を溶解装置にて変更する度に、種々の粒子画分の溶解挙動を比較できた。
【0070】
粒子画分は、3重量%マクロゴール3400、0.118重量%のリン酸水素二ナトリウム、0.047重量%のリン酸二水素ナトリウムおよび0.76重量%の塩化ナトリウムを含む1mLの水溶液にサンプル(20mg)を分散させることによって装置にて使用するために調製した。それぞれの決定は、装置を所望の溶解条件(温度、パドル速度、溶解媒体のpH)に調節し、50マイクロリットルの選択されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態II分散液(1mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIに等価)を所望の溶解媒体で満たされた溶解容器に注入することによって行った。溶解媒体中のアセナピンヘミパモエート濃度は、溶解過程の間、上記で記載されたプローブシステムを用いて光学的に観察した。これらの調査の結果は、図7aから7dに報告し、それらの図において種々の試験条件下、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II懸濁液の種々の画分の溶解挙動を例示する。図7cからわかるように(3.5ミクロンまたは20ミクロンのいずれかのd50値を有する粒子画分の懸濁液の溶解挙動を観察している)、溶解媒体pHの変動(pH6〜pH8)は、所与の粒子画分の溶解割合をあまり変動しない、すなわち3.5ミクロンの画分も20ミクロンの画分も、溶解媒体のpHにおける変動によってそれらの溶解割合を明らかには変化させない。同じ様式において、図7dを参照すると、所与の粒子画分について観察された溶解挙動はまた、装置のパドル速度(50rpm〜150rpm)における変動に対して妥当な程度に非感受性である。さらに、図7bを参照すると、所与の粒子画分について観察される溶解挙動は、溶解媒体の温度における変動(35℃〜39℃)に対して妥当な程度に非感受性である。しかし、図7aを参照すると、種々の粒子画分の溶解割合が同じ条件下で同等である場合に、粒子溶解割合が、試験された粒子画分のd値によって大きく影響を受けることが観察された。これらの結果は、キャリア中に分類されていない粒子画分を懸濁させることによって調製されたアセナピンヘミパモエートのデポ投与は、小さい粒子のより速い溶解割合のために、大きな粒子のより遅い溶解割合に比べて、デポからのアセナピンの非線形放出が生じ得ることを示している。
【0071】
上述のインビトロ試験方法論は、結晶性のアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iヘミパモエート(沈殿として)および結晶形態IIのアセナピンヘミパルモエートヘミパモエート(沈殿として)の溶解を比較するために使用した。従って、19ミクロンのd50値、41ミクロンのd90値および3ミクロンのd10値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの20mg粒子画分を、2mLのポリソルベート80溶液中に分散させた。100マイクロリットルの分散液のアリコートを、上述のパドル撹拌装置において含有された溶解媒体に導入した。これらの試験に関して、装置の溶解容器は、1Lのリン酸塩緩衝化生理食塩水(10mM、pH7.0に調節)で満たされた。溶解媒体の温度は、37℃に維持され、装置のパドル速度は100RPMに設定した。アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iサンプルの溶解結果を、図8aの上方トレースに示す。
【0072】
比較のために、上述のように、1mLのポリソルベート80溶液に分散させた16ミクロンのd50値、50ミクロンのd90値、および2ミクロンのd10値を有する100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II粒子画分を含む分散液の100マイクロリットルのサンプルを、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iを含有するサンプルを試験するために使用した同じ条件および溶解媒体下で試験した。この試験の結果を図8aの下方トレースに示す。図8aに示された結果は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iについて観察された溶解割合が、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIについて観察されたものと比較して、同じ条件下で顕著に高いことを示す。これらの結果は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iを含む配合物が、デポ投与に不向きであることを例証している。図8bは、上述の試験に使用された粒子画分に特徴的な分類を示す。
【0073】
本発明の上述の説明は、例示を意図するものであり、限定ではない。本明細書の実施形態において種々の変化または変更が、当業者によって生じ得る。これらの変化は、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、行うことができる。
【技術分野】
【0001】
本願は、アセナピンのデポ投与に好適なアセナピンヘミパモエートを含む新規な配合物およびそれを用いた処置方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
この項目または本願のいずれかの項目におけるいずれかの刊行物の同定は、こうした刊行物が本発明に対する先行技術であることの容認するものでない。
【0003】
米国特許第4,145,434号(’434特許)は、その実施例IVにおいて、式Iの化合物の構造を有するトランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ−[2,3;6,7]オキセピノ−[4,5c]ピロール(アセナピンとしても既知、Merck Index monograph no.832を参照のこと)の調製を記載している。
【化1】
【0004】
式I
式Iの化合物は、中枢神経系障害(CNS障害)に苦しむ患者の処置に活性を有することが知られている。’434特許の第1欄45〜50行に記載されるように、式Iの化合物と同様の化合物は、一般に、顕著なCNS抑制剤活性を示し、緊張、刺激および不安状態の処置、ならびに精神病および統合失調症状態の処置に使用でき、同様に優れた抗ヒスタミンおよび抗セロトニン活性を示す。国際出願番号PCT/EP95/00765として1995年3月9日に出願された米国特許第5,763,476号(’476特許)の第1欄43〜46行に記載されるように、アセナピンマレイン酸塩の舌下または頬側投与は、精神障害を含む疾患、例えば緊張、刺激、不安、精神病および統合失調症の処置または管理に使用するのに有用である。上述の出願および特許のそれぞれは、それら全体が本明細書に完全に記載されるように、参考として組み込まれる。双極性障害および関連する症状をアセナピンの投与により処置することが、米国特許出願公開第2006/0084692号の下で2006年4月20日に公開された米国特許出願に記載されており、この出願は、その全体が本明細書に完全に記載されるように参考として組み込まれる。
【0005】
アセナピンまたはそれらの塩を含む配合物が投与されるべき患者へ舌下投与されることは、多くのCNS疾患の処置に有効であるが、患者におけるアセナピンの許容可能な治療レベルを維持するために少なくとも規則的な毎日の投与が必要である。
【0006】
有効なアセナピン治療を行う際に克服すべき深刻な問題の1つは、特に薬剤が自己投与される場合、およびより詳細には薬剤が毎日または毎日数回投与されなければならない場合に、投薬コンプライアンスの欠如がある。従って、このコンプライアンスの問題に対処する際に、持続された期間にわたって患者に治療的に有効な血漿レベルを与える形態にて患者に対する臨床設定で薬剤が投与されることが好ましく、こうして自己投与に関連するコンプライアンスの問題が排除される。この処置モダリティによりまた、所与の期間において投薬処置が少なくて済む。
【0007】
活性化合物の治療的に有効な血漿レベルを維持しながら、薬剤の投与間隔の時間を長くする努力において、一部の作業者は、一部のCNS活性剤を、活性医薬剤(API)を含有する組成物のデポ(デポ投与)の筋肉内注射により投与し、経時的に治療化合物を全身に放出することを試みた。報告されているこうした剤形の1つの例は、アセナピンに関連しない異型の抗精神病性化合物であるオランザピンのパモエート塩に関する。オランザピンパモエートは、米国特許第6,169,084号および同第7,303,764号に、IM投与に使用するために記載されている。この塩を含有する組成物のデポ投与は、Eli Lillyによる臨床トライアルにて試験された(例えば、「clinicaltrials.gov」にて米国立衛生研究所のウェブサイトに列挙されている臨床トライアルNCT00320489を参照のこと)。これらのトライアルにおいて、液体中に懸濁された活性医薬剤(API)としてオランザピンパモエートの粒子を含む配合物のデポは、筋肉内注射(デポ投与)により投与された。最初に、これらのトライアルの結果に基づいて、FDAは、配合物の投与に関連する極度の鎮静作用および可逆的な昏睡というトライアル中の事象を挙げて販売のための配合物の認可を見送った。これらの有害事象の原因は検証されなかったが、注射されたデポにおける懸濁したAPIの予測できない迅速な溶解および付随する溶解した材料の迅速な全身性吸収に関連していると考えられる。後に、FDAは、患者が厳格なモニタリング条件を受けるデポ注射に関してこの配合物を認可した。従って、この配合物の使用に関連する危険性は残っている。この例が例示するように、デポ配合物で使用するのに明らかに好適な特徴を有する塩、例えばパモエート塩を与えることは、必ずしもそれ自体が、望ましくない複雑性がないデポ投与用の配合物を与えるわけではない。
【0008】
粒子懸濁液を含む薬剤のデポ投与において、懸濁されたAPIの粒径および粒径分布は、注射されたデポから薬物を放出する際の因子であることが観察された。この点は、The Journal of Pharmaceutical Sciences,(Nov.1971)Vol.60,No.11,pp.1733−1736にて報告されているMillerおよびFincherの試験によって例示される。それらの試験において、MillerおよびFincherは、分類されたフェノバルビトール粒子の異なる画分の懸濁液の犬へのIM注射後のフェノバルビトールの血漿レベルを観察した。従って、Millerらは、クールター計数機を用いて決定される場合に6.63ミクロン、10.68ミクロン、17.16ミクロンまたは29.96ミクロンのいずれかの中間粒子直径を有する粒子画分から別々の懸濁液を調製した。図1に示されるように、これらの懸濁液のデポ注射後のMillerらによって観察されたフェノバルビトールの血漿濃度は、懸濁液を調製するために使用されたフェノバルビトール粒子画分の中間粒子直径に反比例する軌跡を描いた。これは、懸濁液中のAPIの等価な重量パーセンテージについて、より小さい中間粒径を有する粒子を用いて行われた懸濁液中のAPIの等量の注射が、より大きい中間粒径を有する粒子画分から調製された懸濁液よりも注射後の短時間でより高いCmaxを与えたと言える。
【0009】
前述のことから、デポ投与に好適な配合物を与える試みは、許容可能な溶解度および融点特性を有する薬物の塩形態を単に同定することによっては対処できない問題を暗示していることがわかる。上述したように、デポ配合物は、上述の粒径および他の因子のために、予測できない放出プロファイルの影響を受ける。
【0010】
デポ投与に使用するのに好適な配合物の提供における、特に延長された放出特性を有するデポ配合物の提供における成功を妨害し得る問題の別の態様は、配合物に使用される活性医薬成分(API)の安定性である。配合物の不安定性は、配合物が使用される生理学的環境に供される場合に配合物の有効性に有害な影響、同様に長期間または周囲条件の下で配合物を貯蔵する能力に有害な影響を与え得る。例えばAPIが結晶形態である場合、結晶化度の喪失または結晶性モルホロジーにおける変化が、こうした配合物を用いて投与されるデポ注射からの放出割合に重大な影響を与えることが観察された。
【0011】
その全体が本明細書に完全に記載されるように参考として組み込まれる1993年11月10日に公開された欧州特許出願公開第0569096号(’096公開)に記載されるように、トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ−[2,3;6,7]オキセピノ−[4,5c]ピロール(アセナピン、式Iの化合物)のパモエート塩が既知であり、1:1パモエート塩(共に反応する等モル量のパモ酸およびアセナピン遊離塩基を含む)および2:1ヘミパモエート塩(共に反応する2:1モル比のアセナピンおよびパモ酸を含む)を含む。公開された国際公開第98/54186号(1998年12月3日公開、出願人Akzo−Nobel)は、’096公開に記載されるアセナピンヘミパモエート塩(「形態Iヘミパモエート塩」とも称される)を、約167℃〜約168℃の融点を有する非晶質および結晶性材料の混合物を含むものとして特徴付けている。
【0012】
アセナピンの芳香族酸塩を含有する種々のデポ配合物を記載する2つの上述された刊行物は、そこに記述されたヘミパモエートがデポ配合物に使用するのに好適であることは示されていない。パモ酸のアセナピン塩(パモエートおよびヘミパモエート形態I)を与えることは、これまで、デポ投与を目的とする配合物に使用するのに、特に配合物のIM注射によって与えられるデポから延長した放出投与を与える際に使用するのに、十分な安定性および好適な溶解特徴を有するアセナピンの形態を与えることにはならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,145,434
【特許文献2】国際出願番号PCT/EP95/00765
【特許文献3】米国特許第5,763,476号
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0084692号
【特許文献5】米国特許第6,169,084号
【特許文献6】米国特許第7,303,764号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0569096号
【特許文献8】国際公開第98/54186号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】The Journal of Pharmaceutical Sciences,(Nov.1971)Vol.60,No.11,pp.1733−1736
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の観点から、必要なものは、アセナピンのデポ投与、特に長期間、例えば少なくとも約2週間以上の期間にわたってアセナピンの治療的血漿レベルを与えるデポの投与に好適なアセナピン含有配合物である。さらに、必要なものは、デポ投与に適合された配合物を利用してアセナピンによる処置に耐えられる疾患の処置方法である。これらおよび他の目的および/または利点は、1つの態様が水性懸濁媒体中に懸濁されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態II(本明細書に規定される)の粒子を含む医薬配合物である本発明によって与えられ、ここでアセナピンヘミパモエートの粒子は、少なくとも約5mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLの濃度にて配合物に存在し、より好ましくは濃度は、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであり、より好ましくは濃度は、少なくとも約100mgのアセナピンヘミパモエート配合物/mL超過である。一部の実施形態において、濃度について、少なくとも約200mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであるのが好ましい。一部の実施形態において、約50mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであることが好ましい。一部の実施形態において、濃度は100mg超過のアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLであるのが好ましく、より好ましくは濃度は約200mgアセナピンヘミパモエート/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエート/配合物mLである。
【0016】
一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を用いて本発明の配合物を調製するのが好ましく、この粒子は、レーザー回折法によって決定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する。一部の実施形態において、沈澱した結晶性材料を微粉末化することによってアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を与えるのが好ましい。一部の実施形態において、制御された結晶化条件下で結晶を沈殿させることによって、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を提供するのが好ましい。一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの分類されていない粒子の結晶形態IIを使用するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合物に組み込む前に約0.3ミクロンより小さい粒子を除去するために、アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを分類するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合物に組み込む前に約200ミクロンより大きい粒子を除去するために、アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを分類するのが好ましい。一部の実施形態において、本発明の配合に組み込む前に、約0.3ミクロンより小さい粒子および約200ミクロンより大きい粒子両方を除去するために、粒子画分を分類するのが好ましい。
【0017】
一部の実施形態において、好ましくは配合物中に使用される水性懸濁媒体は緩衝剤を含む。懸濁媒体として緩衝剤を使用する実施形態において、好ましくは緩衝剤はリン酸塩緩衝剤である。緩衝剤を使用する実施形態において、好ましくは緩衝剤は、生理学的に適合性のpHを有し、より好ましくは緩衝剤は、約pH4〜約pH8のpHを有し、より好ましくは緩衝剤は約pH7のpHを有する。一部の実施形態において、約0.5mM〜約100mMの緩衝強度を有する緩衝剤を使用するのが好ましい。
【0018】
一部の実施形態において、場合により、配合物はまた、配合物中の固形分を分散する、または貯蔵および沈降が生じた後の配合物中の固形分を再分散するのを助けるための分散剤として作用し得る界面活性剤を含む。分散剤を使用する一部の実施形態において、分散剤として中鎖長のポリエチレングリコール、例えばマクロゴール3400を使用するのが好ましい。
【0019】
別の態様において、本発明は、患者の処置に本発明の配合物を使用する方法を提供し、この方法は、少なくとも約2週間、好ましくは約2〜約4週間の期間にわたってアセナピンの治療的血漿濃度を維持するデポを与えるのに十分な体積の配合物の筋肉内注射(IM)によってアセナピン治療に必要な患者にある量の配合物を投与する工程を含む。一部の患者集団において、それによって6週間までまたはさらに8週間までの期間、アセナピンの治療的血漿濃度を患者に提供するのに十分なデポ体積を投与するのが望ましい。
【0020】
一部の実施形態において、治療的血漿濃度を長期間にわたって与えるために、所望の体積のデポを得るために複数のデポを形成するように複数部位に同時注射投与するのが好ましい。一部の実施形態において、アセナピンの治療的血漿濃度の最大の所望維持期間を達成するために約280mgまでのアセナピンの遊離塩基の等価物を含有するデポ体積(1つまたは複数のデポ)を与える量の配合物を注射するのが好ましい。一部の実施形態において、約14mgのアセナピン遊離塩基から約280mgのアセナピン遊離塩基に等価な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの量、より好ましくは約140mgまでのアセナピン遊離塩基に等価な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含むデポ体積を含有する体積の配合物を注射するのが好ましい。
【0021】
場合により、注射はアセナピンの治療的に有効な血漿濃度を維持するために必要に応じて繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも2週間の期間、治療的血漿レベルのアセナピンを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうして注射はおよそ2週間毎に繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも3週間の期間アセナピンの治療的血漿レベルを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうした注射は約3週間毎に繰り返される。一部の実施形態において、少なくとも4週間の期間にわたってアセナピンの治療的血漿レベルを生じる量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを提供するのに十分な体積の配合物を注射するのが好ましく、こうした注射は約4週間毎に繰り返される。注射の体積は、配合物が複数の同時注射によって形成された複数のデポで投与される場合、投与されたデポのすべての総体積に存在するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度に依存する。従って、一部の実施形態において、2週間、3週間、または4週間またはそれより長い持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約4週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約8週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約12週までの持続した治療的血漿レベルのアセナピンを提供する体積の配合物を投与するのが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、CNS疾患、例えば統合失調症または双極性障害を処置するための方法を提供する。一部の実施形態において、この方法は、IM注射によって2週、3週、または4週間隔で本発明の配合物を投与することを含み、ここで、投与される配合物の量は、選択された期間にわたって治療的に有効な血漿濃度のアセナピンを提供するのに十分な体積のデポを提供する。一部の実施形態において、当量から約280mgまでのアセナピン遊離塩基の等価物を含む体積を投与するのが好ましい。一部の実施形態において、約140mgのアセナピン遊離塩基までの等価物を含むデポ体積を投与するのが好ましい。
【0023】
本発明の他の態様および利点は、図面および次の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明は、以下の詳細な説明および添付の図面により完全に記載される:
【図1】Miller et al.,J.Pharm.Sci,Nov.1971,Vol.60,No.11,pp17333−1736から出典され、種々の粒径のフェノバルビタールを有する懸濁液のデポ投与から得られる犬でのフェノバルビタールの血漿レベルの先行技術試験の結果を例示する(上記の背景の項目を参照のこと)。
【図2a】30℃でpH7のリン酸塩緩衝剤中での貯蔵前および貯蔵後に、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iのサンプルにて得られたDSCデータを示す。
【図2b】アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iのサンプルにて得られた粉末X−線回折(XRPD)を示す。
【図3a】30℃にてpH7のリン酸塩緩衝剤中での貯蔵前および貯蔵後にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのサンプルにて得られるDSCデータを示す。
【図3b】アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのサンプルにて得られた粉末X線回折(XRPD)データを示す。
【図4】3.5ミクロン、12ミクロン、または28ミクロンのレーザー回折法d50−値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの懸濁液のデポ投与後に得られた血漿レベルを例示する。
【図5】3.5ミクロン、12ミクロン、または28ミクロンのd50−値(レーザー回折法によって測定される)を有する分類された粒子画分における粒径分布を図示する。
【図6】アセナピンヘミパモエート粒子の結晶形態IIのインビトロ溶解挙動を試験するために使用される溶解システムを図示する。
【図7a】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7b】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7c】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7d】種々の試験条件下での緩衝剤溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の溶解割合を例示する。
【図7e】図7a〜7dにおけるデータを与える際に使用される画分の粒径分布を例示する。
【図8a】種々の試験条件下で緩衝溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIおよびアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの同様の粒径および粒径分布を有する粒子の溶解割合の比較を例示する。
【図8b】種々の試験条件下で緩衝溶液中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIおよびアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの同様の粒径および粒径分布を有する粒子の溶解割合の比較を例示する。
【図9a】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9b】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9c】5重量%または20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度を例示する。
【図9d】図9a〜9cにおいてデータを与える際に使用される粒子画分における粒径分布を例示する。
【図10】20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IおよびIIを含む1mLのデポを用いたニュージーランドホワイトラビットのIM注射後に観察される血漿濃度の比較を例示する。
【図11】20重量%のアセナピンヘミパモエート形態IIを含む1.0mLのデポを用いた患者のIM注射後に観察される中間血漿濃度を例示する。
【図12】規則的な間隔にて本発明の配合物を含むデポ注射を投与する際に予測される血漿濃度レベルのシミュレーションを例示する。
【図13】1重量%のレベルで配合物に存在する3.5ミクロン、12ミクロン、および27ミクロンのd50値を有する形態IIのアセナピンヘミパモエート粒子画分を含む本発明の配合物を含むデポを用いて注射された試験動物において観察される血漿レベルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の配合物は、水性懸濁液媒体中に懸濁した活性医薬成分(API)としてアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を含み、ここで、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度は、より詳細に本明細書で記載される特定範囲内に維持される。
【0026】
本明細書で使用される場合、粒径および粒子分布測定が数値によって記載される場合、数値を記載する際に暗示されることは、測定値が異なる測定技術間、異なるサンプル調製技術間、および所与の一部の装置の異なる操作人によって得られた測定値間で比較する場合、所与のサンプルに関して体験する通常の変動を考慮した測定の精密さを反映することを理解されたい。従って、粒径および粒径分布測定において当業者によって理解されるように、記述された値は、絶対的な数値精密性を反映するのではなく、特定の中間粒径および粒径分布を有する所与のサンプルを測定する場合に典型的に観察される値の通常の範囲内である粒径および粒径分布値を示し、粒径および粒径分布を測定する際に当業者によって所与の測定技術を用いて得ることができる一般に認識される精密性および正確性を考慮する。従って、d−値の点で粒子の集合体を記載する本明細書に記述される値は使用される測定技術(その詳細を本明細書に記載する)から通常得られる正確性および精密性を反映し、粒子測定の当業者によって理解されるよりも大きな正確性または精密性を暗示することを目的としないことを理解されたい。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートは、結晶形態II(「アセナピンヘミパモエートの結晶形態II」と本明細書では記載される)で提供されることができ、これは、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された形態(非晶質および結晶形態I)とは異なり、驚くべきことに、デポ投与に好適な配合物を調製するのに有用であることを見出した。図3aに例示されるように、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは安定であり、DSC分析によって決定される約218℃の融点を有し、図3bを参照すれば、それがアセナピンヘミパモエート塩の以前に報告された形態のいずれかとは全く異なるアセナピンヘミパモエートの結晶変態であることを示す粉末X線回折(XRPD)データを与える。例えば、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態IのものであるXRPDの図2bの比較により、図3bのXRPDとは容易に区別される。これらの決定の手順および結果は、本明細書において以下により完全に考察される。アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは、pH7での水性リン酸塩緩衝液中で、約3マイクログラム/mLの溶解度を有する。
【0028】
公開された国際公開第98/54186号および公開された欧州特許出願公開第0569096号(文献中の実施例IIを参照のこと)に以前に報告されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iは、図2bに示されるXPRDスペクトルを生じ、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのXRPD(図3b)と比較した場合、その差異は容易に明らかである。図2a(底部トレース)は、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態IのDSC分析を示し、約162℃〜約172℃の範囲で約167℃の融点を有することを示す(大きな吸熱事象の重心)。pH7に維持された水性リン酸塩緩衝剤中でのアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの溶解度は、約12.6マイクログラム/mLであり、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの場合のおおよそ4倍である。
【0029】
図8aを参照すると、驚くべきことに、水性溶解媒体中に懸濁されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子(下方トレース)は、以前に報告されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態I(図8a、上方トレース)の等価な粒径画分よりも相当遅く溶解する。さらに、pH7でのリン酸塩緩衝剤中に懸濁され、30℃および40℃で貯蔵されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの粒子は、DSCによって観察された融点に基づいて、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iから、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIへ転化されることを見出した。図2aを参照すれば、形態Iから形態IIへの転化を、貯蔵された懸濁液のアリコートを周期的に採取し、ろ過によって懸濁された固形分を単離し、単離された固形分を室温で乾燥することによって観察した。DSC分析は、10mgの固形分サンプルおよび25℃〜250℃まで10℃/分の割合にて加熱されるようにプログラムされたMettterDSC822eを用いて単離された乾燥固形分について行った。この試験の結果は、図2aに示される結果と共に示される。これらのデータは、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iはアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIに徐々に転化されることを明らかに示している。異なるように記載されない限り、図2aに示されるDSCデータを提供するために記載される方法は、本明細書に示されるDSCデータのすべてを得る際に使用された。
【0030】
驚くべきことに、この安定性試験が存在するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIだけから出発して繰り返される場合に、緩衝剤溶液中での粒子の貯蔵された懸濁液から回収した固形分のDSC分析の結果は、これらの条件下(30℃および40℃にて貯蔵)、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが、長期間貯蔵される場合、いずれかの他の結晶形態に分解も転化もされないことを示す。
【0031】
まとめると、前述したことすべてが、アセナピンヘミパモエートの以前に報告された結晶形態Iが、デポ配合物中に使用するのには不向きであることを示す。その溶解度、その結晶形態の容易な転化およびその溶解特性に基づいて、アセナピンの治療レベルの持続放出を与えるために、デポを投与するための配合物に使用するのには特に不向きである。さらに、前述のことは、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが全く異なり、予測できない結晶モルホロジー、安定性特性、溶解度特性および溶解特性を有することが示され、これが驚くべきことに、デポ投与のための配合物を調製する際に使用するのによく適合する。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む懸濁液は、デポ投与に好適な配合物を提供し得ることを見出した。本発明によれば、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIは、所望でない副作用、例えばオランザピンについて上述されたものを有さずに、治療レベルのアセナピンの持続された放出を与えるデポ投与に好適な配合物を提供できる。
【0033】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIが、アセナピンマレエートのエタノール溶液のアリコートをパモ酸二ナトリウム塩のエタノール溶液に導入し、混合物を徐々に冷却することによって調製できることを見出した(以下に続く実施例において本明細書でさらに詳細に記載されるプロセス)。本発明者らはまた、この結晶化プロセスは小さいスケールにて行われ、「シード」を提供し、それを使用してより大きなスケールにて調製物を「シード化」できることを見出した。従って、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードがこの方法によって得られたら、それらは、大規模プロセスにおいて、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの大きいバッチを沈殿させるための「シード」として使用できる。
【0034】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粉末X線回折スペクトルは、図3bに示される。図3bのスペクトルは、回折角度(2θ)に現れる5つの最も大きな回折ピークを含有し、対応して、以下の表Iに示される計算された「格子面間隔」を含有する。
【表1】
【0035】
図3aを参照して、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの微粉末化されたサンプルは、上述の手順に従ってMettlerDSC822eにて示差走査熱量測定(DSC)によって特徴付けられ、約218℃の融点を有することが認められた。融点は、加熱範囲内で観察される吸熱事象にて重心として採用した。これらの条件下で観察される吸熱事象の範囲は213〜223℃であった。
【0036】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを調製する際に使用するのに好適なアセナピンマレエートは、好都合なことには公開された国際公開第2006/106136号(例えば、この文献中のスキームIIおよびIVおよび実施例7を参照のこと)、国際公開第2008/003460号(例えば、この文献中の実施例1および7を参照のこと)、または国際公開第2009/087058号のいずれかに記載される手順に従うことによって調製されてもよい。これらの公開のそれぞれは、本明細書に完全に記載されるように具体的に参照として組み込まれる。
【0037】
前述によれば、本発明の配合物は、デポ(デポ投与)としてアセナピン治療が必要な患者に投与できる形態にてアセナピンを提供する。以下に示されるように、実施例4において、好ましくは筋肉内(IM)注射によって十分な体積で投与される場合、本発明の配合物を含むデポ投与は、場合によりデポ注射を用いて観察される「バースト放出」を生じることなく、患者に持続された血漿レベルのアセナピンを提供することが予測される。従って、本発明の配合物のデポ投与は、デポからの不適当な放出なしで、延長された期間にわたって治療的血漿レベルのアセナピンを提供するのに十分な量の配合物を用いて行われることができる。
【0038】
さらに、図12を参照して、規則的な間隔で十分な体積のデポとして投与される場合、本発明の配合物は、延長された期間、例えば2週間、3週間または4週間にわたって投与される被験者において治療的アセナピン血漿レベルを提供することを見出した。一部の実施形態において、一部の患者集団に関して、配合物の十分なデポ体積の投与は、治療アセナピン血漿レベルを8週まで提供するのに十分な量の配合物を用いて達成され得る。
【0039】
一部の実施形態において、デポ充填用量を利用して、続いて維持のために少量のデポ体積を利用するのが有用である。例えば、一部の実施形態において、約210mgまでのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む量の配合物の充填用量を投与するのが好ましく、これは約8週までの期間、治療的アセナピン血漿レベルを提供するのに十分であり、続いて約140mgまでのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む量で維持デポを周期投与し、これは約8週までの追加の期間にわたって治療的アセナピン血漿レベルを提供するのに十分である。一部の実施形態において、200mg/mLのアセナピンを含む本発明の配合物を利用して、例えば1mLのデポ体積または1.5mLのデポ体積を含む充填用量を供給し、より少ない体積、例えば0.75mLのデポ体積または0.5mLのデポ体積を含む維持用量をその後間隔を置いて投与するのが好ましい。この投与スケジュールを継続することによって、連続治療が患者に提供できることが理解される。この投与は、図12に例示され、患者に見られる応答および試験動物被験体における繰り返し投与に基づくこうした投薬レジームに従って、本発明の配合物を受容する患者が体験し得る血漿レベルのシミュレーションを与える。上述のように、治療的アセナピン血漿レベルの提供が、特定のCNS疾患、例えば統合失調症の処置または管理に有用である。
【0040】
本発明者らは、驚くべきことに、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを用いて調製される配合物は、この配合物中のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの濃度が本発明に従って維持されており、配合物が調製されるアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのアリコート中に存在する粒径および粒子分布に独立した血漿レベルを与えるような配合物の被験者へのデポ投与を可能にすることを見出した。
【0041】
図4を参照すると、本発明の2つの配合物(一方は3.5ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて調製され、10重量%の微粒子が0.8ミクロン未満の直径(0.8ミクロンのd10値)を有するものであり、他方は28ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて調製され、1ミクロン未満の粒子重量%がほぼ無視できるもの(11ミクロンのd10値)である)のデポ投与では、実験動物被験体のうちアセナピンの血漿濃度中に大きな差異を示さなかった(本明細書の実施例3に詳細が報告されている)。この試験は、デポ投与後に複数週の観察にわたって行われた。従って、これらのデータは、本発明の配合物が、配合物中に存在する粒径または粒径分布に依存しないPKパラメータを有するアセナピンの延長されたインビボ放出を与えることを示す。
【0042】
本発明の配合物中での使用に関して、粒子を狭い粒子画分に分類する必要はないが、レーザー回折法によって決定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子画分を用いて本発明の配合物を調製するのが好ましい。一部の実施形態において、微粉末化されたアセナピンヘミパモエート形態IIを用いて所望の粒径範囲内のd50値を有する粒子を与えることが好ましい。必要ではないが、一部の実施形態において、組成物に使用されるアセナピン粒子を実質的に約0.3ミクロンより小さい粒子を除去するために分類するのが好ましい。必要ではないが、一部の実施形態において、約200ミクロンを超える粒子を実質的に除去するために組成物中に使用される粒子を分類するのが好ましい。しかし、図4を参照すると、本発明者らは、驚くべきことに、10重量%でも微粒子(1ミクロン未満のd10値を有する粒子画分、例えば表1のサンプル1)の存在は、配合物のデポが注射によって投与された実験動物被験体にて観察される血漿レベルに影響を与えないことを見出した。この試験の詳細は、以下の実施例3により詳細に説明される。
【0043】
好ましくは、本発明の配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを少なくとも約10mg/配合物mLの濃度で与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。図13を参照すれば、1.0mLのデポ体積にて試験動物に注射される場合、3.5、12、および27ミクロンのd50値を有する粒子画分を用いて別々に調製されたアセナピンヘミパモエートの形態IIを1重量%含む本発明の配合物は、すべての配合物に関して実質的に同じ血漿プロファイルを生じることがわかるが、このプロファイルは、より低濃度が使用される場合に、生じる血漿レベルが使用される粒径に対応して区別されることを示唆している。一部の実施形態において、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与える量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを使用するのが好ましく、より好ましくは配合物は、少なくとも約100mg超過のアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与える量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。一部の実施形態において、少なくとも約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましい。一部の実施形態において、少なくとも約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましい。一部の実施形態において、約100mg過剰のアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを配合物中に含むのが好ましく、より好ましくは配合物は、約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mL〜約300mgの結晶形態のアセナピンヘミパモエート/配合物mLの濃度を与えるのに十分な量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む。一部の実施形態において、約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLである配合物を使用するのが特に好ましい。
【0044】
本発明の配合物は、水性懸濁媒体中に懸濁したアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子を含む。水性懸濁媒体は、滅菌水単独であることができ、好ましくは水性懸濁媒体は緩衝剤を含む。一部の実施形態において、配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II、緩衝剤および分散剤、および場合により懸濁液の安定性または注射可能な配合物としての有用性に寄与する1つ以上の追加の賦形剤を含むことが好ましい。
【0045】
一部の実施形態において、本発明の配合物は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子形態と、水性懸濁媒体とを、均質混合物が得られるまで混合またはブレンドしながら組み合わせることによって調製するのが好ましい。水性懸濁媒体中にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを分散させる方法は重要ではなく、液体中に懸濁した固形分の均質混合物を得るいずれかの好適な手段を使用できることを理解されたい。
【0046】
一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、所望のpHおよび緩衝強度に緩衝剤を調製し、次いで撹拌しながら所望量の粒子状アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを添加するのが好ましい。一部の実施形態において、水性懸濁媒体がさらに懸濁剤を含む場合、緩衝剤を調製し、所望量の懸濁剤を添加し、次いで所望量のアセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIを添加するのが好ましい。添加の順序は重要ではないが、分散剤を利用する一部の実施形態において、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II粒子を懸濁媒体に添加する前に分散剤、例えば緩衝剤を懸濁媒体に添加するのが好ましい。
【0047】
一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、好ましくは緩衝剤溶液は、生理学的に適合性のpH、より好ましくは約pH5〜約pH9のpHを与え、より好ましくは緩衝剤は約pH7のpHを与える。一部の実施形態において、水性懸濁媒体が緩衝剤を含む場合、水性懸濁媒体として水性リン酸塩緩衝剤溶液を使用するのが好ましい。他の緩衝剤材料、例えばクエン酸塩または炭酸塩緩衝剤が使用でき、これは本発明の範囲内であると理解される。また、以下で例示されるが、特定の様式にて調製されるリン酸塩緩衝剤を用いて、緩衝剤溶液を提供する他の手段を使用して、本発明の配合物を調製する際に使用するのに好適な水性懸濁媒体を提供できることが理解される。
【0048】
一部の実施形態において、調製される緩衝剤の各mLに関して、約60mgまでのポリエチレングリコール、好ましくは約5mgのポリエチレングリコール〜約60mgのポリエチレングリコール、より好ましくは約5mgのポリエチレングリコール〜約30mgのポリエチレングリコール;最終緩衝剤溶液中で約2mM〜約50mMのリン酸塩部分濃度、好ましくは約10mMのリン酸塩部分濃度を与える量のリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムを組み合わせることによって、緩衝剤を調製するのが好ましく、ここで、リン酸水素二ナトリウム種およびリン酸二水素ナトリウム種のそれぞれの比が、最終緩衝剤溶液のpH;および約0.13Mまでの濃度の塩化ナトリウムを与えるのに十分な塩化ナトリウム量に依存する。
【0049】
上述のように、一部の実施形態において、本発明の配合物は、本発明の配合物を調製する際に使用される懸濁媒体中にアセナピンヘミパモエート形態II粒子の分散を助ける分散剤として作用する能力を有する1つ以上の界面活性剤を含む。こうした実施形態において、分散剤はまた、分散後の配合物を安定化するのに役立ち、一部の粒子沈降が配合物の貯蔵後に生じる場合には粒子の再分散を改善できる。親水性ポリマー、例えばカルボキシメチルセルロースポリマーおよびポリエチレングリコールポリマーは、本発明の配合物中の分散剤として使用するのに好適な界面活性剤である。好適なポリエチレングリコールポリマーの例は、中程度重量のポリエチレングリコールポリマー、例えばマクロゴール、例えばマクロゴール3400、マクロゴール4000、およびマクロゴール6000、好ましくはマクロゴール3400が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
前述のことに従って、少なくとも約100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLを含む好適量の本発明の配合物を、好適な体積のデポとしてヒトに投与することにより、アセナピンの約1ng/mL〜約8ng/mL、好ましくは約1ng/mL〜約3ng/mLのアセナピンの一定の治療的血漿レベルを与えるアセナピンの持続放出が観察されることが予測される。一部の実施形態において、約50mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、より好ましくは100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、より好ましくは少なくとも約200mgの形態IIのアセナピンヘミパモエートの等価物を含有する配合物の量を提供すること好ましい。一部の実施形態において、約50mg、より好ましくは100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを与える量、好ましくは約200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを与える量にて、上腕の三角筋への注射により配合物を投与することによってデポを提供するのが好ましい。一部の実施形態において、約100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II〜約300mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II、好ましくは200mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む配合物の量を殿筋に注射することによって、または外側広筋に注射することによってデポを投与するのが好ましい。
【実施例】
【0051】
次の実施例において、特に記述のない限り、すべての試薬は商業品のUSP等級物品である。
【0052】
実施例1:アセナピンヘミパモエートおよびそれらからのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの調製
アゼナピンヘミパモエートの結晶形態IIを調製する際に使用するためのアセナピンマレエートを、公開された国際公開第2008/003460号(この文献の実施例1および6を参照のこと)に記載されるプロセスに従って調製した。
【0053】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードは、パモ酸二ナトリウムのエタノール溶液にアセナピンマレエートのエタノール溶液のアリコートを滴定し、そこからアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを結晶化することによって調製した。従って、公開された国際公開第08/003460号に記載されるように調製された201グラムのアセナピンマレエートを、75℃にて3.0LのUSP等級エタノール中に溶解した。パモ酸二ナトリウム(108.7g、受領したまま使用されたUSP等級)を、75℃にて13.5Lのエタノール(USP等級)に溶解した。アセナピンマレエート溶液のアリコートを、混合物を75℃に維持しながら、パモ酸二ナトリウムの溶液に添加した。アセナピンマレエート溶液のすべてを添加した後、混合物を継続して撹拌しながら室温まで徐々に冷却した。形成された結晶をろ過により回収し、エタノール(4L、周囲温度)で洗浄し、ハウスバキュームで45℃にて乾燥させた。こうして与えられたアセナピンヘミパモエート(210グラム、87%)をXPRD(図3b)およびDSC(本明細書に記載されるDSC手順を用いて融点223℃)により試験し、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIであることを決定した。
【0054】
多量のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを、アセナピンマレエート溶液を上記で調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシードを用いてシード化し、次いでシード化された溶液を次の手順に従ってパモ酸溶液で処理することによって調製した。
【0055】
エタノール/水溶媒は、撹拌装置を備えた容器に、58LのUSP等級エタノールおよび3.2Lの精製水を合わせることによって調製した。溶媒を約70℃に加熱した。この溶媒に、先行して調製された(上記で記載された)2703gのアセナピンマレエートを添加し、混合物を撹拌し、固形分が溶解するまで混合物の温度を約70℃に維持した。アセナピンマレエート溶液を、上記で記載された手順に従って調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのシートでシード化し、撹拌を継続しながら、28Lの水中に溶解した1486gのパモ酸溶液を、約1時間にわたって添加し、撹拌を継続しながら、混合物の温度を70℃に維持した。混合物をさらに1時間70℃で撹拌し、その間にアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの結晶を形成させた。1時間の撹拌後、熱源を取り除き、バッチを撹拌しながら冷却させることによって、混合物を周囲温度(約20℃)に冷却した。撹拌をさらに16時間継続した。16時間後、沈殿した結晶をろ過によって回収し、周囲温度にて水で洗浄し、ハウスバキュームで45℃にて乾燥させた。製造された結晶性材料の同一性および純度を、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIについて、DSCによって(これが223℃でシャープな吸熱を示す)、およびXRPDによって(参照スペクトルと一致するスペクトルを生じる(図3b))確認した。
【0056】
実施例2:アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む注射可能な組成物の調製
リン酸塩緩衝剤は、機械的撹拌装置を備えた容器に、1000gの滅菌水、30gのマクロゴール3400、1.18gのリン酸水素二ナトリウム、0.47gのリン酸二水素ナトリウム、および7.6gの塩化ナトリウムを入れることによって調製した。容器を、溶解が完了するまで周囲温度(約20℃)にて1時間撹拌した。内容物のすべてが溶解した後、緩衝剤のpHを、1Mの水性リン酸および1Mの水性水酸化ナトリウムのアリコートを必要により、緩衝剤がpH7.0に到達するまで添加することによって調節した(緩衝剤のアリコートが取り出され、各アリコートの添加後に標準の実験室用pHメーターを用いて試験された)。
【0057】
上記実施例1にて調製されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIのアリコートを微粉末化し、Malvern粒径測定器を用いてレーザー回折法により決定される場合に種々のd50値を有する画分に分類した。回折法は、20mgの測定されるべきアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIサンプルを、0.05重量%Tween80水溶液を含む1mLの分散媒体に添加し、アセナピンヘミパモエートで飽和された0.05重量%Tween80水溶液を含有する好適な量の分散液を装置の測定容器に添加することによって調製されたサンプルにて行った。製造元の操作説明書に従って測定を行った。
【0058】
この方法を用いて、次の特徴を、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIサンプルを微粉末化することによって得られた3つの異なる粒子画分に対して測定した(表II)。
【表2】
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「d50」は、サンプル重量の半分がd50よりも小さい粒子を含み、サンプル重量の半分が、d50よりも大きい粒子を含むような粒径を示す値を意味する。同様の様式にて、d10は、サンプル中の粒子の10%がd10より小さいような粒径を示す値であり、d90は、サンプル中の粒子の90%がd90より小さいような値である。従って、相対的なd50値によって反映されるように、サンプル1は、相対的に小さい粒子を含み、サンプル2は、中程度のサイズの粒子を含み、サンプル3は、大きい粒子を含む。表1に記載される粒子画分は、サンプル1(d50=3.5ミクロン)、サンプル2(d50=12ミクロン)、およびサンプル3(d50=28ミクロン)としてさらに本明細書で称される。図5はさらに、これらのサンプルに見出される粒径および粒径分布を例示する。
【0060】
機械的撹拌器を備えた3つの容器のそれぞれに、上記で調製された緩衝剤の4800mgのアリコートを入れた。粒子サンプル1、2および3のそれぞれの1200mgのアリコートを計量した。緩衝剤溶液を含有する容器それぞれに、撹拌しながら、これら1200mgのアリコートの1つを添加し、特徴付けられた粒子画分のそれぞれから製造された本発明の配合物を与え、その配合物のそれぞれは、215mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II/配合物mLの濃度を有していた。
【0061】
実施例3:ラビットを用いるアセナピンヘミパモエート組成物のデポ投与のインビボ試験
実施例2で調製された配合物のそれぞれを、デポ注射として一連の実験動物被験体(ニュージーランドホワイトラビット)に投与した。選択された配合物の1mL体積のデポを、被験体の左肢に投与した。注射後の時間間隔において、血液サンプルを0.03mLの0.2MのEDTA中に被験体の耳動脈から回収した。サンプルを、注射後1、3、および6時間後に、次いで1、2、3および6日後、次いで10、13、17、20、24および25日目に回収した。回収したら、血液サンプルを室温で2分間遠心分離した(125,000N/kg)。こうして得られた血漿サンプルを、内部標準を添加した後LC/MSによって分析した。アセナピンおよび内部標準は、固相抽出によってサンプルから単離した。抽出された構成成分は、公開された方法論に従って液体クロマトグラフィによって分離したが、溶出は、アセナピン含有量を決定するためにマルチ反応モニタリングモードにて電子噴霧イオン化を使用するトリプル四重極質量分析計にて行った。この試験の結果を図4に示すが、これは、実験動物被験体にて観察されるアセナピンの血漿レベルが、試験された各配合物を調製する際に使用された粒子画分のd50値によって指定された試験配合物それぞれについてほぼ同じであることを示す。試験された各配合物を調製する際に使用された粒子画分は、図5に示されるように、異なるd50値および異なる粒径分布を与えた。従って、これらのデータは、本発明の配合物のデポによって提供されるアセナピンの放出割合が、配合物を調製するために使用された中間粒径または粒径分布に独立することを示す。これらの試験は、本発明の組成物が、投与される患者にアセナピンの有害な放出を行わずに、アセナピンの許容可能な治療レベルを提供するために使用できることも示している。
【0062】
図5から、サンプル1の粒子画分から調製された配合物は、10重量%の微粒子(サンプル1の場合は1ミクロン未満の粒子、d10は0.8ミクロンであると測定された)を含有していた。しかし、図4に示される情報は、本発明の配合物のデポ投与は、こうした微粒子充填があっても、粒径依存の放出プロファイルを生じないことを例証している。
【0063】
図9a〜9cを参照すると、追加の試験は、上述の方法論を用いてニュージーランドホワイトラビットを用いて行われた。従って、試験被験体は、(i)1.5ミクロン、20ミクロン、または40ミクロンの中間粒径および20重量%の濃度(図9a);(ii)1.5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、または40ミクロンの中間粒径および5重量%の濃度(図9b);および(iii)0.25ミクロン、3.5ミクロン、5ミクロン、12ミクロン、および28ミクロンの中間粒径、および20重量%の濃度(図9c)を有する粒子状APIを用いて上述のように調製されたアセナピンヘミパモエートの懸濁液を含むデポを提供するためにIM注射が投与された。
【0064】
図9aから9dを参照すると、これらのデータは、20重量%の濃度にて、1ミクロン未満の粒子を約10体積%未満有し、28ミクロン以下のd50値を有するAPI粒子画分を含む本発明の配合物は、使用された粒子画分のd50値に関わらず、アセナピンの一貫した血漿濃度を提供する放出プロファイルを生じることを示す。これらのデータはまた、5重量%の濃度にて、1ミクロン未満の粒子を約10体積%未満有し、1.5ミクロンを超え、約40ミクロン未満のd50値を示すAPI粒子画分を含む本発明の配合物は、試験された配合物の範囲にわたって一貫した放出プロファイルを与え、アセナピンの治療レベルと一致したアセナピンの持続血漿濃度を生じることを示す。
【0065】
図9cおよび9aからわかるように、小さいd50値(例えば0.25ミクロン、9c)を生じる、または大きな「微粒子」含有量(1ミクロン未満の粒径(例えば1.5ミクロン、9a)を有する粒子10体積%以上)を有する粒子画分は、注射時に「バースティング効果」(「バースト放出」とも称される)を示す傾向にあり、従って、アセナピンのデポ投与のための配合物として使用するのに不向きである。
【0066】
追加の動物試験において、図10を参照すると、上述の同じ手順を用いて、20重量%のアセナピンヘミパモエートの形態I(20ミクロンの中間粒径)および形態II(中間粒径16ミクロン)を含む懸濁液を調製した。各懸濁液のアリコートは、上述の同じ手順を用いてニュージーランドホワイトラビットに1mLのIM注射として投与した。アセナピンの血漿レベルは、上述の手順を用いて決定した。図10からわかるように、これは、アセナピンヘミパモエートの形態Iが、アセナピンヘミパモエートの形態IIを含むデポによって与えられる血漿レベルと比較して、所望でない「バースト放出」、例えば投与後最初の1週間にて高い初期血漿レベルを示すという点で、アセナピンの制御された放出を提供するために使用するのに不向きである。従って、この様式でアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iから調製された配合物は、デポ投与に使用するのには不向きである。
【0067】
実施例4:アセナピンヘミパモエート組成物の患者へのデポ投与のインビボ試験
安定した慢性統合失調症と診断されたヒトの患者にて本発明の配合物を試験した。上述の同じ手順を用いて、20重量%のアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIを含む懸濁液を調製した。懸濁液を調製するために使用された形態IIの粒子画分は、3ミクロンのd10値、27ミクロンのd90値、および10ミクロンのd50値を生じた。1.0mL体積の懸濁液の注射を、皮膚に対して90°の角度にて三角筋の最も厚い部分に針を挿入し、続いて5〜10秒吸引し、続いて10秒間隔にわたってデポの注射を行うことによって上腕の三角筋に投与した。デポによって与えられたアセナピンの血漿濃度は、上述の手順を用いて観察された。この試験の結果は、組成物が約4週間にわたってアセナピンの制御された放出を与えることができることを示す図11に示される。
【0068】
デポを与えるために使用される注射体積を変化させることによって、異なる血漿レベルが得られ得ることが観察される。
【0069】
実施例5:アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの選択された粒子画分の溶解のインビトロ試験
上記表IIにて報告された場合のそれぞれに匹敵する粒子画分の溶解挙動のインビトロ試験は、USPパドル撹拌溶解装置(図6を参照のこと)にて行った。これらの試験を行うために、それぞれ3.5ミクロン、7ミクロン、および20ミクロンのd50値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子画分(図7eを参照のこと)を得て、装置の溶解容器の1つに入れた。粒子のアリコートで溶解容器を充填する前に、容器のそれぞれを、1Lのリン酸塩緩衝化された生理食塩水(10mM、pH7.0に調節)で満たし、固定されたサンプルパスを規定するその先端にて鏡および光学配置を含有したプローブを取り付けた。各プローブは、光学的に中央光源と、調査中に溶解が進行する度に溶液中のアセナピン濃度をリアルタイムで光測定モニタリングを可能にする検出器とに連結させた。このシステムを用いて、調査人は、標準条件下での溶解割合を経時的に観察可能で、選択された変数(温度、パドル速度、pH)を溶解装置にて変更する度に、種々の粒子画分の溶解挙動を比較できた。
【0070】
粒子画分は、3重量%マクロゴール3400、0.118重量%のリン酸水素二ナトリウム、0.047重量%のリン酸二水素ナトリウムおよび0.76重量%の塩化ナトリウムを含む1mLの水溶液にサンプル(20mg)を分散させることによって装置にて使用するために調製した。それぞれの決定は、装置を所望の溶解条件(温度、パドル速度、溶解媒体のpH)に調節し、50マイクロリットルの選択されたアセナピンヘミパモエートの結晶形態II分散液(1mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIに等価)を所望の溶解媒体で満たされた溶解容器に注入することによって行った。溶解媒体中のアセナピンヘミパモエート濃度は、溶解過程の間、上記で記載されたプローブシステムを用いて光学的に観察した。これらの調査の結果は、図7aから7dに報告し、それらの図において種々の試験条件下、アセナピンヘミパモエートの結晶形態II懸濁液の種々の画分の溶解挙動を例示する。図7cからわかるように(3.5ミクロンまたは20ミクロンのいずれかのd50値を有する粒子画分の懸濁液の溶解挙動を観察している)、溶解媒体pHの変動(pH6〜pH8)は、所与の粒子画分の溶解割合をあまり変動しない、すなわち3.5ミクロンの画分も20ミクロンの画分も、溶解媒体のpHにおける変動によってそれらの溶解割合を明らかには変化させない。同じ様式において、図7dを参照すると、所与の粒子画分について観察された溶解挙動はまた、装置のパドル速度(50rpm〜150rpm)における変動に対して妥当な程度に非感受性である。さらに、図7bを参照すると、所与の粒子画分について観察される溶解挙動は、溶解媒体の温度における変動(35℃〜39℃)に対して妥当な程度に非感受性である。しかし、図7aを参照すると、種々の粒子画分の溶解割合が同じ条件下で同等である場合に、粒子溶解割合が、試験された粒子画分のd値によって大きく影響を受けることが観察された。これらの結果は、キャリア中に分類されていない粒子画分を懸濁させることによって調製されたアセナピンヘミパモエートのデポ投与は、小さい粒子のより速い溶解割合のために、大きな粒子のより遅い溶解割合に比べて、デポからのアセナピンの非線形放出が生じ得ることを示している。
【0071】
上述のインビトロ試験方法論は、結晶性のアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iヘミパモエート(沈殿として)および結晶形態IIのアセナピンヘミパルモエートヘミパモエート(沈殿として)の溶解を比較するために使用した。従って、19ミクロンのd50値、41ミクロンのd90値および3ミクロンのd10値を有するアセナピンヘミパモエートの結晶形態Iの20mg粒子画分を、2mLのポリソルベート80溶液中に分散させた。100マイクロリットルの分散液のアリコートを、上述のパドル撹拌装置において含有された溶解媒体に導入した。これらの試験に関して、装置の溶解容器は、1Lのリン酸塩緩衝化生理食塩水(10mM、pH7.0に調節)で満たされた。溶解媒体の温度は、37℃に維持され、装置のパドル速度は100RPMに設定した。アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iサンプルの溶解結果を、図8aの上方トレースに示す。
【0072】
比較のために、上述のように、1mLのポリソルベート80溶液に分散させた16ミクロンのd50値、50ミクロンのd90値、および2ミクロンのd10値を有する100mgのアセナピンヘミパモエートの結晶形態II粒子画分を含む分散液の100マイクロリットルのサンプルを、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iを含有するサンプルを試験するために使用した同じ条件および溶解媒体下で試験した。この試験の結果を図8aの下方トレースに示す。図8aに示された結果は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iについて観察された溶解割合が、アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIについて観察されたものと比較して、同じ条件下で顕著に高いことを示す。これらの結果は、アセナピンヘミパモエートの結晶形態Iを含む配合物が、デポ投与に不向きであることを例証している。図8bは、上述の試験に使用された粒子画分に特徴的な分類を示す。
【0073】
本発明の上述の説明は、例示を意図するものであり、限定ではない。本明細書の実施形態において種々の変化または変更が、当業者によって生じ得る。これらの変化は、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIの水性懸濁液を含む医薬配合物であって、前記アセナピンヘミパモエートが、少なくとも約10mg/mL過剰の濃度でこの配合物中に存在する、当該配合物。
【請求項2】
緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記緩衝剤がリン酸塩緩衝剤である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
存在するアセナピンヘミパモエートの形態IIの濃度が、少なくとも約100mg/mL超過である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
存在するアセナピンヘミパモエートの形態IIの濃度が、少なくとも約200mg/mL超過である、請求項4に記載の配合物。
【請求項6】
前記懸濁したアセナピンヘミパモエートの粒子が、レーザー回折法によって測定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する、請求項4に記載の配合物。
【請求項7】
前記懸濁したアセナピンヘミパモエートの粒子が、レーザー回折法によって測定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する、請求項5に記載の配合物。
【請求項8】
分散剤をさらに含む、請求項4または請求項5に記載の配合物。
【請求項9】
前記分散剤がポリエチレングリコールである、請求項8に記載の配合物。
【請求項10】
約7.0のpHを有する、請求項8に記載の配合物。
【請求項11】
次を含む配合物:
(i)約100mg/mL超過〜約300mg/mLのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの分類されていない粒子であって、前記粒子が、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのレーザー回折法によるd50−値を有する粒子;
(ii)水;
(iii)存在する水mLあたり約30mgまでのポリエチレングリコール;および
(iv)緩衝剤。
【請求項12】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の水性懸濁液を含む医薬配合物であって:
(i)前記粒子が、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのレーザー回折法によるd50−値を有し;および
(ii)前記配合物中に存在するアセナピンヘミパモエートの濃度が、前記配合物のデポが治療的に有効な血漿濃度を与えるのに十分な量でIM注射によって患者に投与される場合に、観察される前記血漿濃度が粒径に依存しない程度に少なくとも十分である、配合物。
【請求項13】
アセナピンヘミパモエートの濃度が、少なくとも100mg/mLより大きい、請求項11に記載の配合物。
【請求項14】
前記緩衝剤が存在する水mLあたり約1.0mg〜約1.2mgの量でリン酸水素二ナトリウム;存在する水mLあたり約0.5mgの量でリン酸二水素ナトリウム;存在する水mLあたり約7.6mgの量で塩化ナトリウムを合わせ;前記混合物を水酸化ナトリウムおよびリン酸のアリコートで、前記混合物が約7.0のpHに到達するまで滴定することによって調製された、請求項11に記載の配合物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の前記配合物のIM注射を与えることによって調製されるデポ。
【請求項16】
2週間、3週間または4週間のいずれかの期間にわたってアセナピンの治療的に有効な血漿濃度を与える体積を含む、請求項15に記載のデポ。
【請求項17】
請求項15または16に記載のデポを患者に投与することを含む、CNS疾患を処置する方法。
【請求項18】
前記処置される疾患が、統合失調症または双極性障害である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
図3bのパターンに一致するXRPDパターンを有するアセナピンヘミパモエート塩。
【請求項20】
図3bのパターンに一致するXRPDパターンを有するアセナピンヘミパモエート塩を含むデポ投与に適合する配合物。
【請求項1】
アセナピンヘミパモエートの粒子状結晶形態IIの水性懸濁液を含む医薬配合物であって、前記アセナピンヘミパモエートが、少なくとも約10mg/mL過剰の濃度でこの配合物中に存在する、当該配合物。
【請求項2】
緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記緩衝剤がリン酸塩緩衝剤である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
存在するアセナピンヘミパモエートの形態IIの濃度が、少なくとも約100mg/mL超過である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
存在するアセナピンヘミパモエートの形態IIの濃度が、少なくとも約200mg/mL超過である、請求項4に記載の配合物。
【請求項6】
前記懸濁したアセナピンヘミパモエートの粒子が、レーザー回折法によって測定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する、請求項4に記載の配合物。
【請求項7】
前記懸濁したアセナピンヘミパモエートの粒子が、レーザー回折法によって測定される場合に、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのd50−値を有する、請求項5に記載の配合物。
【請求項8】
分散剤をさらに含む、請求項4または請求項5に記載の配合物。
【請求項9】
前記分散剤がポリエチレングリコールである、請求項8に記載の配合物。
【請求項10】
約7.0のpHを有する、請求項8に記載の配合物。
【請求項11】
次を含む配合物:
(i)約100mg/mL超過〜約300mg/mLのアセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの分類されていない粒子であって、前記粒子が、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのレーザー回折法によるd50−値を有する粒子;
(ii)水;
(iii)存在する水mLあたり約30mgまでのポリエチレングリコール;および
(iv)緩衝剤。
【請求項12】
アセナピンヘミパモエートの結晶形態IIの粒子の水性懸濁液を含む医薬配合物であって:
(i)前記粒子が、約3.5ミクロン〜約28ミクロンのレーザー回折法によるd50−値を有し;および
(ii)前記配合物中に存在するアセナピンヘミパモエートの濃度が、前記配合物のデポが治療的に有効な血漿濃度を与えるのに十分な量でIM注射によって患者に投与される場合に、観察される前記血漿濃度が粒径に依存しない程度に少なくとも十分である、配合物。
【請求項13】
アセナピンヘミパモエートの濃度が、少なくとも100mg/mLより大きい、請求項11に記載の配合物。
【請求項14】
前記緩衝剤が存在する水mLあたり約1.0mg〜約1.2mgの量でリン酸水素二ナトリウム;存在する水mLあたり約0.5mgの量でリン酸二水素ナトリウム;存在する水mLあたり約7.6mgの量で塩化ナトリウムを合わせ;前記混合物を水酸化ナトリウムおよびリン酸のアリコートで、前記混合物が約7.0のpHに到達するまで滴定することによって調製された、請求項11に記載の配合物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の前記配合物のIM注射を与えることによって調製されるデポ。
【請求項16】
2週間、3週間または4週間のいずれかの期間にわたってアセナピンの治療的に有効な血漿濃度を与える体積を含む、請求項15に記載のデポ。
【請求項17】
請求項15または16に記載のデポを患者に投与することを含む、CNS疾患を処置する方法。
【請求項18】
前記処置される疾患が、統合失調症または双極性障害である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
図3bのパターンに一致するXRPDパターンを有するアセナピンヘミパモエート塩。
【請求項20】
図3bのパターンに一致するXRPDパターンを有するアセナピンヘミパモエート塩を含むデポ投与に適合する配合物。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−530759(P2012−530759A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516732(P2012−516732)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058960
【国際公開番号】WO2010/149727
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(512059936)エム・エス・ディー・オス・ベー・フェー (24)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058960
【国際公開番号】WO2010/149727
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(512059936)エム・エス・ディー・オス・ベー・フェー (24)
【Fターム(参考)】
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