アゾ−ホウ素錯体化合物およびその製造方法
【課題】可視光領域での特に優れた光吸収特性と近赤外領域での良好な発光特性を示し、高分子樹脂に分散させることも容易であり、耐光性や耐熱性等に優れ、且つ簡便に製造できるアゾ−ホウ素錯体化合物、また、当該アゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法と、当該アゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できるヒドラゾン化合物を提供する。
【解決手段】アゾ−ホウ素錯体化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
[式中、Xはアリール基等を示し;R1はハロゲン原子等を示し;R2〜R5は隣接する炭素原子と共に環状構造を形成するか或いは水素原子を示し;R6とR7はC1-12アルキル基等を示す]
【解決手段】アゾ−ホウ素錯体化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
[式中、Xはアリール基等を示し;R1はハロゲン原子等を示し;R2〜R5は隣接する炭素原子と共に環状構造を形成するか或いは水素原子を示し;R6とR7はC1-12アルキル基等を示す]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ−ホウ素錯体化合物、その製造方法、およびアゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できるヒドラゾン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度にπ共役した縮合多環系有機化合物には、分子内での回転運動等により費やされるエネルギーが少ないので、吸収した光エネルギーにより励起し、次いで吸収したエネルギーを蛍光として放出するものがある。この様な発光性有機化合物は、蛍光色素として用いられる。
【0003】
かかる蛍光色素の用途としては、例えば塗料やインクに配合したり或いは高分子樹脂や繊維を着色する染料や顔料が考えられる。
【0004】
本発明者らは、固体発光性蛍光色素の合成中間体として利用でき、且つ安定性に優れ、色素、顔料あるいは染料にも利用可能なものとして下記化合物等を開発し、既に特許出願している(特許文献1および2)。また、さらに研究を進め、優れた蛍光特性を有する化合物を開発している(特許文献3〜5)。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263178号公報
【特許文献2】国際公開第2004/072053号パンフレット
【特許文献3】特開2007−211185号公報
【特許文献4】特開2008−195749号公報
【特許文献5】特開2009−209138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、蛍光発光性を有する化合物としては、既に種々の化合物が開発されている。しかし、より優れた特性を有する蛍光性有機化合物は常に求められている。例えば、特定波長光に対する強い光吸収特性を有し且つ高い蛍光量子収率を示す化合物であれば、蛍光との差により優れた波長変換特性が得られる。また、実用のためには耐光性が重要であるし、工業的に大量合成するためには簡便に製造できることも重要である。
【0008】
そこで本発明が解決すべき課題は、可視光領域での特に優れた光吸収特性と近赤外領域での良好な発光特性を示し、高分子樹脂に分散させることも容易であり、耐光性に優れ、且つ簡便に製造できるアゾ−ホウ素錯体化合物を提供することにある。また、本発明は、当該アゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法と、当該アゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できるヒドラゾン化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らが既に開発していた固体発光性蛍光色素の合成中間体から誘導されたヒドラゾン化合物を、さらにホウ素錯体化することにより得られるアゾ−ホウ素錯体化合物は、簡便に製造できる上に強い光吸収特性と蛍光特性に加え、優れた耐光性や耐熱性等を示すことを見出して、本発明を完成した。
【0010】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0011】
【化2】
【0012】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R1は、C1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示すか、或いは、一方のR1は、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1は、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【0013】
本発明において、「アリール基」は芳香族炭化水素基を意味する。例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等であり、好ましくはC6-10アリール基、より好ましくはフェニル基である。
【0014】
「ヘテロアリール基」は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環、6員環または縮合環を有する芳香族ヘテロシクリル基を意味する。「ヘテロアリール基」としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、フリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾール基等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基等の6員環ヘテロアリール基;インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、キノリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基などの縮合ヘテロアリール基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を含むヘテロアリールであり、より好ましくはベンゾチアゾリル基である。
【0015】
「C1-12アルキル基」とは、炭素数が1〜12の直鎖状または分枝鎖状の1価脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノナニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等である。R6〜R7としては、C2-12アルキル基が好ましく、C2-10アルキル基がより好ましく、特にn−C2-8アルキル基が好ましい。その他の場合では、C1-6アルキル基が好ましく、C1-4アルキル基がより好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がより好ましい。
【0016】
「アリールエテニル基」は、上記アリール基に置換された−CH=CH−基を示し、トランス型であってもシス型であってもよいが、安定性の点からトランス型のものが好ましい。また、「アリールエチニル基」は、上記アリール基に置換された−C≡C−基を示す。
【0017】
「C1-12アルコキシ基」は、C1-12アルキルオキシ基を意味し、C1-6アルコキシ基が好ましく、C1-4アルコキシ基がより好ましく、C1-2アルコキシ基がより好ましく、メトキシ基がより好ましい。また、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物において、2つのR1がアルコキシ基である場合には、炭化水素基同士が結合してホウ素原子と共に環状構造を形成していてもよい。
【0018】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができ、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0019】
「モノ(C1-12アルキル)アミノ基」は、1つの上記C1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはモノC1-6アルキルアミノ基であり、より好ましくはモノC1-4アルキルアミノ基であり、さらに好ましくはモノC1-2アルキルアミノ基である。
【0020】
「ジ(C1-12アルキル)アミノ基」は、2つの上記C1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味する。当該基において、2つのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ジC1-12アルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、エチルプロピルアミノ基、ブチルエチルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはジ(C1-6アルキル)アミノ基であり、より好ましくはジ(C1-4アルキル)アミノ基であり、さらに好ましくはジ(C1-2アルキル)アミノ基である。
【0021】
本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物(I)としては、一方のR1が、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1が、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す化合物、および、下記式(I1)〜(I3)で表される化合物が好適である。
【0022】
【化3】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【0023】
本発明に係る上記アゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法は、ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる下記工程を含むことを特徴とする。
【0024】
【化4】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【0025】
上記アゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できる、本発明に係るヒドラゾン化合物は、上記式(II)で表されるものである。
【0026】
なお、ヒドラゾン化合物(II)は、下記のとおりアゾ化合物の互変異性体であり、当該アゾ化合物はヒドラゾン化合物(II)と等価なものであって、本発明範囲に含まれるものとする。
【0027】
【化5】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、可視光領域で非常に強い光吸収特性を有し、且つ近赤外領域での良好な発光特性を示す上に、高分子樹脂に分散させることも容易であり、耐光性や耐熱性等にも優れるので、優れた蛍光色素として用いることが可能である。また、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、簡便に製造できる。よって本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収スペクトルを示す図である。
【図4】図4は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図8】図8は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図9】図9は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムの吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルと、その蛍光フィルムを太陽光に暴露した場合における吸収強度と蛍光強度の経時的変化を示す図である。(1)は吸収スペクトルを示し、(2)は蛍光スペクトルを示し、(3)は吸収強度と蛍光強度の保持率の経時的変化を示す。
【図10】図10は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図11】図11は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物(I)は、下記式のとおりヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させることにより製造することができる。
【0031】
【化6】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【0032】
上記工程では、溶媒中、好適には触媒である塩基の存在下、ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる。原料化合物であるヒドラゾン化合物(II)は、後述するとおり合成することができる。また、ホウ素化合物は、市販のものを使用すればよい。
【0033】
使用できる溶媒は、ヒドラゾン化合物(II)に対して適度な溶解性を示すものであれば特に制限されない。例えば、ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒などを用いることができる。
【0034】
ホウ素化合物としては、三フッ化ホウ素、ホウ酸トリエチル、トリエチルボラン、ジメシチルフルオロボランなどを用いることができる。なお、上記ホウ素化合物として、R9がR1と同一か或いはR1よりも脱離し易いものを用いることにより、アゾ−ホウ素錯体化合物とすることができる。
【0035】
触媒である塩基は、ヒドラゾン化合物のホウ素錯体化反応を促進するために用いる。かかる塩基としては、上記溶媒への溶解性が高いことから、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの有機アミンが好適である。
【0036】
ヒドラゾン化合物(II)とホウ素化合物は、ほぼ等モル用いてもよいが、一方が入手し難いような場合には、反応を促進するために他方を過剰に用いてもよい。通常、ヒドラゾン化合物(II)に対して、ホウ素化合物を2倍モル以上、20倍モル以下程度用い、より好ましくは3倍モル以上、10倍モル以下程度用いる。
【0037】
触媒である塩基の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、ヒドラゾン化合物(II)に対して1倍モル以上、10倍モル倍以下程度とすることができ、より好ましくは2倍モル以上、5倍モル以下程度とすることができる。
【0038】
具体的な反応条件としては、特に制限されないが、先ずヒドラゾン化合物(II)を溶媒に十分に溶解させ、塩基を加えた後、ホウ素化合物を加えて攪拌することが好ましい。反応温度は適宜調整すればよいが、例えば10℃以上、50℃以下程度とすることができ、常温で反応させることもできる。反応時間も特に制限されず、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)などでヒドラゾン化合物(II)の消失が確認できるまでとすればよいが、通常は10時間以上、5日間程度とすることができる。
【0039】
反応終了後は、当業者公知の方法によりアゾ−ホウ素錯体化合物(I)を精製すればよい。例えば、反応混合液に水を注いで反応を停止させた後、有機層を水などで洗浄し、減圧濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィーなどで精製すればよい。
【0040】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)の前駆体化合物であるヒドラゾン化合物(II)は、下記スキームにより合成することができる。
【0041】
【化7】
【0042】
上記スキームでは、オルトキノン化合物にヒドラジン化合物を反応させ、本発明に係るヒドラゾン化合物(II)を合成する。なお、当該スキームでは、ヒドラジン化合物が他方のカルボニル基に反応して副生成物が生じ得る。しかし本発明者らによる実験的知見によれば、おそらくカルボニル基の反応性の相違から本発明に係るヒドラゾン化合物(II)の方が優勢に生成し、副生成物の生成量は微量である。その上、副生成物は次工程でアゾ−ホウ素錯体に誘導し難く、目的化合物であるアゾ−ホウ素錯体化合物(I)から容易に分離することができる。
【0043】
原料化合物であるオルトキノン化合物は、特開2004−263178号公報や国際公開第2004/072053号パンフレットなどに記載の方法と同様に、下記合成スキームで製造することができる。ヒドラジン化合物は、比較的シンプルな構造を有することから、市販されている場合は市販品を使用すればよいし、或いは市販化合物から合成することが可能である。なお、ヒドラジン化合物は、塩酸塩などの塩であってもよい。
【0044】
上記合成スキームでは、溶媒にオルトキノン化合物とヒドラジン化合物を添加すればよく、少量の酸を添加することにより、反応を促進することができる。なお、かかる酸の添加の代わりに、ヒドラジン化合物と酸との塩を用いてもよい。
【0045】
使用する溶媒は、オルトキノン化合物とヒドラジン化合物に対して適度な溶解性を示し、且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されない。例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド;およびこれらと水との混合溶媒を挙げることができる。混合溶媒の比率は、オルトキノン化合物とヒドラジン化合物に対する溶解性などを考慮して適宜調整すればよい。
【0046】
上記合成スキームでは、溶媒中にオルトキノン化合物とヒドラジン化合物に加えて少量の酸を添加すれば、反応は容易に進行する。
【0047】
オルトキノン化合物とヒドラジン化合物は、ほぼ等モル用いてもよいが、一方が入手し難いような場合には、反応を促進するために他方を過剰に用いてもよい。通常、オルトキノン化合物に対して、ヒドラジン化合物を1.5倍モル以上、10倍モル以下程度用い、より好ましくは2倍モル以上、5倍モル以下程度用いる。
【0048】
反応温度は適宜調整すればよいが、例えば、30℃以上、80℃以下程度とすることができる。また、反応時間も特に制限されず、予備実験で決定したり、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで一方の原料化合物であるオルトキノン化合物の消失が確認できたり、或いは反応の進行が確認できなくなるまでとすればよいが、通常は1時間以上、24時間以下程度とすることができる。
【0049】
反応終了後は、当業者公知の方法によりヒドラゾン化合物(II)を精製してもよいし、精製しないまま次の工程に進み、アゾ−ホウ素錯体化合物(I)に誘導した上で精製してもよい。なお、溶媒として水を含む混合溶媒など極性の高いものを用いる場合、生成するヒドラゾン化合物(II)が析出してくることがある。そのような場合には、反応液を十分に放冷または冷却した後、析出した結晶を濾別し、洗浄した上で次工程の原料化合物として用いてもよい。
【0050】
上記オルトキノン化合物は、下記合成スキームにより製造することができる。なお、下記合成スキームでは、フラン環またはピラン環を有するオルトキノン化合物を合成する場合を代表的に示しているが、その他の化合物も同様に合成できる。
【0051】
【化8】
【0052】
上記合成スキームでは、先ず、触媒の存在下、キノン化合物とアニリン化合物をカップリングし、さらに環化反応によりフラン環またはピラン環を形成してオルトキノン化合物を製造する。
【0053】
原料化合物であるキノン化合物とアニリン化合物は、比較的シンプルな構造を有することから、市販のものを用いるか、市販化合物から当業者公知の方法により合成して用いればよい。なお、上記合成スキームにおいて、上記キノン化合物(1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸ナトリウム)に代えて、1,2−ナフトキノンを用いて同様の反応を行うことも可能である。
【0054】
キノン化合物とアニリン化合物とをカップリングするための触媒は、特に制限はないが、例えば、塩化銅、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸亜鉛などの金属塩を用いることができる。また、溶媒は、原料化合物を適度に溶解でき且つ反応を阻害するものでなければ特にその種類は問わないが、例えば、酢酸や酢酸水溶液、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒を用いることができる。
【0055】
本反応の反応温度は適宜調節すればよいが、例えば室温から100℃程度とすればよい。反応時間も特に制限されず、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで原料化合物の消費を確認できるまでとすればよいが、通常は2時間〜10日間程度とする。
【0056】
反応終了後は、当業者公知の方法により精製すればよい。例えば、反応混合液を水へ注ぎ、生じた析出物を濾別して水等で洗浄した後、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで精製する。
【0057】
上記合成スキームの次の反応では、触媒の存在下、最初の反応で得られた化合物を溶媒中で閉環反応に付してオルトキノン化合物にする。
【0058】
当該反応で用いる触媒は、複素環有機化合物の閉環反応で用いられているものであれば特に制限はないが、例えば、酢酸銅などの銅系触媒を用いることができる。また、溶媒は、原料化合物を適度に溶解でき且つ反応を阻害するものでなければ特にその種類は問わないが、例えば、ニトロメタン、酢酸や酢酸水溶液、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒を用いることができる。
【0059】
本反応の反応温度は適宜調節すればよいが、例えば50〜150℃程度とすればよい。反応時間も特に制限されず、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで原料化合物の消費を確認できるまでとすればよいが、通常は6〜24時間程度とする。
【0060】
反応終了後は、当業者公知の方法により精製すればよい。例えば、反応混合液を水へ注いだ後、析出した目的化合物をさらにカラムクロマトグラフィーなどにより精製する。
【0061】
上記各反応において、アミノ基などの活性基があるような場合には、当業者公知の方法により適切な保護基で保護した上で反応を行い、適宜脱保護してもよい。
【0062】
以上のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)は容易に合成できる。また、優れた光吸収特性と蛍光特性を示し、特に極めて強い光吸収特性を有し、近赤外領域波長の光を発する。さらに、比較的脂溶性が高いことから、高分子へ容易に分散させることができ、蛍光フィルムなどの成形体とすることが可能である。
【0063】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)を混合分散するための樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の汎用樹脂;ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチック;ポリ乳酸等の生分解プラスチックなどを挙げることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
実施例1
【0066】
【化9】
【0067】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置(東京理科器械社製,PPV−3000)用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−ニトロフェニルヒドラジン塩酸塩(202mg,1.06×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:106mg,収率:39.1%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:24mg,収率:8.7%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.96(1H,s),1.01(6H,t,J=7.32),1.38-1.47(4H,m),1.63-1.70(4H,m),3.40(4H,t,J=7.68),6.76(1H,d,J=2.18),6.82(1H,dd,J=2.18,J=8.92),7.50-7.52(2H,m),7.56(2H,d,J=9.16),7.99(1H,d),8.12-8.14(1H,m),8.26(2H,d,J=9.16),8.41-8.43(1H,m)
元素分析(C30H30N4O4) C:70.44%,H:5.98%,N:10.91%(実測値),C:70.57%,H:5.92%,N:10.97%(理論値)
【0068】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(178mg,1.76×10-3mol)を加えてから、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(333mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から30時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:117mg,収率:53.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.44),1.40-1.49(4H,m),1.66-1.74(4H,m),3.47(4H,t,J=7.80),6.76(1H,d,J=2.20),6.92(1H,dd,J=2.20,J=9.28),7.67-7.75(2H,m),8.15(1H,d,J=9.28),8.20(2H,d,J=9.00),8.34-8.40(3H,m),8.68(1H,d,J=8.28)
【0069】
実施例2
【0070】
【化10】
【0071】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−シアノフェニルヒドラジン塩酸塩(181mg,1.06×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:82mg,収率:31.4%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:8mg,収率:3.1%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.94(1H,s),1.01(6H,t,J=7.32),1.37-1.47(4H,m),1.62-1.70(4H,m),3.40(4H,t,J=7.80),6.77(1H,d,J=2.32),6.83(1H,dd,J=2.32,J=8.92),7.49-7.51(2H,m),7.59(2H,d,J=8.78),7.67(2H,d,J=8.78),8.02(1H,d,J=8.92),8.14-8.16(1H,m),8.42-8.45(1H,m)
元素分析(C31H30N4O2) C:75.78%,H:6.22%,N:11.47%(実測値),C:75.89%,H:6.16%,N:11.42%(理論値)
【0072】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,4.08×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(103mg,1.02×10-3mol)を加えてから、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(346mg,2.45×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から3日後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:123mg,収率:55.9%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.34),1.39-1.48(4H,m),1.65-1.73(4H,m),3.45(4H,t,J=7.82),6.76(1H,d,J=1.96),6.90(1H,dd,J=1.96,J=9.28),7.65-7.73(2H,m),7.77(2H,d,J=8.54),8.13(1H,d,J=9.28),8.16(2H,d,J=8.54),8.37(1H,d,J=7.45),8.65(1H,dd,J=1.22,J=7.45)
【0073】
実施例3
【0074】
【化11】
【0075】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)と4−ヒドラジノ安息香酸(324mg,2.13×10-3mol)を加えた後、メタノール:水:ジメチルスルホキシド=3:2:1の混合溶媒(30mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:75.7mg,収率:27.8%)を得た。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、次のブチルエステル化反応を行った。
【0076】
上記赤茶色粉末状結晶(320mg,6.28×10-4mol)、1−ヨードブタン(399mg,3.76×10-3mol)および炭酸ナトリウム(462mg,2.51×10-4mol)を100mL二口ナスフラスコに入れ、さらにジメチルホルムアミド(15mL)を加えて溶解し、100℃で1.5時間反応させた。反応終了後、撹拌しながら室温で放冷した。次いで、水とジクロロメタンを加えた。反応溶液のpHを5%塩酸水溶液で7に調整した後、ジクロロメタン層を分離して水洗した。ジクロロメタン層を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、赤茶色粉末結晶を得た。得られた赤茶色粉末結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:203mg,収率:57.2%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:25mg,収率:7.0%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.82(1H,s),1.00(9H,t,J=7.44),1.37-1.46(4H,m),1.46-1.53(2H,m),1.62-1.70(4H,m),1.74-1.81(2H,m),3.40(4H,t,J=7.68),4.34(2H,t,J=6.60),6.79(1H,d,J=2.08),6.83(1H,dd,J=2.08,J=9.03),7.48-7.53(2H,m),7.61(2H,d,J=8.56),8.03(1H,d,J=9.03),8.11(2H,d,J=8.56),8.16-8.19(1H,m),8.49-8.52(1H,m)
元素分析(C35H39N3O4) C:74.27%,H:6.77%,N:7.27%(実測値),C:74.31%,H:6.95%,N:7.43%(理論値)
【0077】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(100mg,1.76×10-4mol)を100mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(20mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(44.5mg,4.40×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(149mg,1.05×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から13時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:74.2mg,収率:68.7%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.01(9H,t,J=7.32),1.38-1.47(4H,m),1.48-1.54(2H,m),1.64-1.71(4H,m),1.76-1.83(2H,m),3.43(4H,t,J=7.80),4.37(2H,t,J=6.60),6.76(1H,d,J=1.63),6.87(1H,dd,J=1.63,J=9.14),7.64-7.71(2H,m),8.11-8.14(3H,m),8.17(2H,d,J=9.04),8.37(1H,d,J=7.82),8.68(1H,d,J=7.80)
【0078】
実施例4
【0079】
【化12】
【0080】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−ニトロフェニルヒドラジン塩酸塩(404mg,2.13×10-3mol)を入れ、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から3時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:252mg,収率:92.6%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(極微量)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.68(1H,s),1.01(6H,m),1.37-1.46(4H,m),1.61-1.69(4H,m),3.38(4H,t),6.40(1H,d,J=2.68),6.63-6.66(1H,m),6.66(1H,s),7.20(1H,dd,J=0.97,J=8.05),7.52-7.57(3H,m),7.76(1H,d,J=9.28),8.14(1H,dd,J=0.97,J=8.05),8.27(2H,d,J=9.28)
元素分析(C30H30N4O4) C:70.60%,H:5.85%,N:11.06%(実測値),C:70.57%,H:5.92%,N:10.97%(理論値)
【0081】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(47.6mg,4.70×10-4mol)を加え、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(166mg,1.17×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。一晩撹拌した後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジククロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:174mg,収率:79.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.39-1.49(4H,m),1.64-1.72(4H,m),3.44(4H,t,J=7.80),6.47(1H,d,J=2.44),6.77(1H,dd,J=2.44,J=9.28),6.99(1H,s),7.31(1H,d,J=7.97),7.73(1H,t,J=7.97),7.83(1H,d,J=9.28),8.09(2H,d,J=9.16),8.24(1H,d,J=7.97),8.30(2H,d,J=9.16)
【0082】
実施例5
【0083】
【化13】
【0084】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−シアノフェニルヒドラジン塩酸塩(361mg,2.13×10-3mol)を加えた後、メタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加えて、50℃で撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から3時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:235mg,収率:90.0%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(極微量)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.76(1H,s),1.00(6H,t,J=7.32),1.37-1.46(4H,m),1.61-1.68(4H,m),3.37(4H,t,J=7.69),6.37(1H,d,J=2.44),6.60-6.63(1H,m),6.64(1H,s),7.15(1H,d,J=7.80),7.49-7.53(3H,m),7.63(2H,d,J=8.76),7.72(1H,d,J=9.24),8.08(1H,d,J=7.80)
元素分析(C31H30N4O2) C:75.89%,H:6.04%,N:11.29%(実測値),C:75.89%,H:6.16%,N:11.42%(理論値)
【0085】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,4.08×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(103mg,1.02×10-3mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(346mg,2.45×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から15時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:192mg,収率:87.3%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.39-1.48(4H,m),1.63-1.71(4H,m),3.42(4H,t,J=7.82),6.44(1H,d,J=2.50),6.73(1H,dd,J=2.50,J=9.46),6.96(1H,s),7.26-7.27(1H,m),7.67-7.72(3H,m),7.79(1H,d,J=9.46),8.06(2H,d,J=8.76),8.19(1H,d,J=8.08)
【0086】
実施例6
【0087】
【化14】
【0088】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と4−ヒドラジノ安息香酸(809mg,5.32×10-3mol)を加えた後、メタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から6時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:599mg,収率:88.3%)を得た。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、次のブチルエステル化反応を行った。
【0089】
上記赤茶色粉末状結晶(500mg,9.81×10-4mol)、1−ヨードブタン(623mg,5.88×10-3mol)および炭酸ナトリウム(721mg,3.92×10-3mol)を200mL二口ナスフラスコに入れ、さらにジメチルホルムアミド(25mL)を加えて溶解し、100℃に加熱して4時間反応させた。反応終了後、反応溶液を室温で撹拌して放冷した。反応溶液を水に加えたところ、結晶が析出した。析出した結晶を濾別し、濾液に水とジクロロメタンを加え、そのpHを5%塩酸水溶液で7に調整した後、ジクロロメタン層を水洗した。ジクロロメタン層を減圧濃縮し、得られた残渣と濾別した結晶を合わせ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、赤茶色粉末結晶を得た。得られた赤茶色粉末結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:428mg,収率:77.1%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:17mg,収率:3.1%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.68(1H,s),1.00(9H,t,J=7.44),1.36-1.43(4H,m),1.47-1.53(2H,m),1.60-1.67(4H,m),1.73-1.80(2H,m),3.35(4H,t,J=7.82),4.32(2H,t,J=6.72),6.36(1H,d,J=2.44),6.60(1H,dd,J=2.44,J=9.28),6.66(1H,s),7.13(1H,dd,J=0.85,J=8.05),7.49-7.55(3H,m),7.73(1H,d,J=9.28),8.07(2H,d,J=8.76),8.11(1H,dd,J=0.85,J=8.05)
元素分析(C35H39N3O4) C:74.37%,H:6.85%,N:7.26%(実測値),C:74.31%,H:6.95%,N:7.43%(理論値)
【0090】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.54×10-4mol)を200mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(40mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(89.5mg,8.85×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(301mg,2.12×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から68時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:189mg,収率:87.1%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=0.99-1.03(9H,m),1.37-1.46(4H,m),1.47-1.53(2H,m),1.61-1.69(4H,m),1.75-1.82(2H,m),3.39(4H,t,J=7.70),4.35(2H,t,J=6.60),6.41(1H,d,J=2.44),6.69(1H,dd,J=2.44,J=9.38),6.95(1H,s),7.22(1H,dd,J=0.74,J=8.01),7.66(1H,t,J=8.01),7.76(1H,d,J=9.38),8.04(2H,d,J=8.66),8.12(2H,d,J=8.66),8.19(1H,d,J=8.01)
【0091】
実施例7
【0092】
【化15】
【0093】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10−4mol)と2−ヒドラジノ安息香酸塩酸塩(402mg,2.13×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水:ジメチルスルホキシド=3:4:4の混合溶媒(55mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から13時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:96mg,収率:35.3%)。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、ホウ素錯体化を行った。
【0094】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた赤茶色粉末状結晶(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(70mL)を加えた。さらにトリエチルアミン(137mg,1.37×10-3mol)を加えてヒドラゾン化合物を完全に溶解させてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(334mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から3日間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:62.2mg,収率:29.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.03(6H,t,J=7.46),1.40-1.49(4H,m),1.66-1.74(4H,m),3.47(4H,t),6.78(1H,d,J=2.20),6.90(1H,dd,J=2.20,J=9.16),7.48(1H,t,J=7.44),7.66-7.78(3H,m),8.13(1H,d,J=9.16),8.30-8.33(2H,m),8.39(1H,d,J=7.70),8.75(1H,d,J=7.70)
【0095】
実施例8
【0096】
【化16】
【0097】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と2−ヒドラジノ安息香酸塩酸塩(1.00g,5.32×10-3mol)を加え、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)を加え、45℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:593mg,収率:87.5%)。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、ホウ素錯体化を行った。
【0098】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた赤茶色粉末状結晶(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(70mL)を加えた。次いで、トリエチルアミン(95.2mg,9.41×10-4mol)を加えて赤茶色粉末状結晶を完全に溶解させてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(334mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から1日間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:195mg,収率:92.9%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.38-1.48(4H,m),1.63-1.71(4H,m),3.41(4H,t,J=7.80),6.41(1H,d,J=2.32),6.71(1H,dd,J=2.32,J=9.38),7.00(1H,s),7.24-7.26(1H,m),7.37(1H,t,J=7.56),7.65-7.70(2H,m),7.77(1H,d,J=9.38),8.17(1H,d,J=8.28),8.23(1H,d,J=7.92),8.26(1H,dd,J=1.20,J=7.92)
【0099】
実施例9
【0100】
【化17】
【0101】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と2−ヒドラジノベンゾチアゾール(439mg,2.66×10-3mol)を加え、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から11時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た(収量:671mg,収率:97.3%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.77(1H,s),0.99(6H,t,J=7.46),1.34-1.43(4H,m),1.57-1.64(4H,m),3.29(4H,t,J=7.80),6.31(1H,d,J=2.50),6.58(1H,dd,J=2.50,J=9.20),6.61(1H,s),7.15(1H,d,J=8.05),7.24(1H,m),7.39(1H,dt,J=0.96,J=7.56),7.50(1H,t,J=8.05),7.66(1H,d,J=9.20),7.74(1H,d,J=7.76),7.78(1H,d,J=8.05)8.03(1H,d,J=7.76)
【0102】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた黒茶色粉末状結晶(200mg,3.81×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えた。次いで、トリエチルアミン(96.4mg,9.53×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(325mg,2.29×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から20時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:168mg,収率:77.0%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.01(6H,t,J=7.34),1.38-1.47(4H,m),1.63-1.70(4H,m),3.41(4H,t,J=7.92),6.47(1H,d,J=2.50),6.78(1H,dd,J=2.50,J=9.57),6.96(1H,s),7.29-7.34(2H,m),7.41(1H,dt,J=1.36,J=7.70),7.73(1H,t,J=8.10),7.76(1H,d,J=7.70),7.82(1H,d,J=9.57),8.05(1H,d,J=8.10),8.22(1H,d,J=7.70)
【0103】
試験例1 溶液状態での光吸収特性と蛍光特性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収特性と蛍光特性を測定した。具体的には、アゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体をジクロロメタンに溶解し、光吸収特性測定用に2.5×10-5M、蛍光特性測定用に2.5×10-6Mの溶液を調製し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製,製品名:V−670)と近赤外分光蛍光光度計(日本分光製,製品名:FP−6600)を使用して、光吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。また、絶対量子収率の測定では、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス製,製品名:C9920−12)とマルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス製、製品名:PMA−12)を使用した。結果を表1に示す。また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)とその前駆体の光吸収スペクトルを図1に、その蛍光スペクトルを図2に、また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)とその前駆体の光吸収スペクトルを図3に、その蛍光スペクトルを図4に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
上記結果のとおり、ヒドラゾン化合物をホウ素錯体化することにより、光吸収特性と蛍光特性が顕著に向上し、強い近赤外領域光を放出できるようになることが実証された。その理由としては、ホウ素錯体化によりヒドラゾン化合物の互変異性を固定することができると共に、アゾ基に結合している縮合多環部分の自由回転も固定されるので、エネルギーの吸収効率や発光効率が極めて高くなることが考えられる。特に、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、約80,000以上という非常に大きな分子吸光係数を示し、吸収光に対する蛍光の割合(量子収率)も大きいので、放出される近赤外光が非常にシャープであり、優れた蛍光色素であることが分かった。
【0106】
試験例2 フィルム状態での光吸収特性と蛍光特性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムを作製し、その光吸収特性と蛍光特性を測定した。
【0107】
先ず、各アゾ−ホウ素錯体化合物(1mg)とポリスチレン(PSジャパン社製,2.0g)をジクロロメタン(10mL)に溶解した。当該溶液(0.6mL)を24mm×32mmのカバーガラス上に塗布して乾燥させることにより、色素濃度0.05質量%、膜厚約100μmの蛍光フィルムを作製した。
【0108】
上記蛍光フィルムを、半径0.7cmの穴を開けた3cm×8cmのプラスチック製測定用セルに貼付け、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製,製品名:V−670)を用い、室温で光吸収特性を測定した。また、同様の測定用試料を用い、近赤外分光蛍光光度計(日本分光社製,製品名:FP−6600)により蛍光特性を測定した。また、絶対量子収率の測定では、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス製,製品名:C9920−12)とマルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス製、製品名:PMA−12)を使用した。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
上記結果のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は樹脂に分散させて蛍光フィルムとすることができ、また、得られた蛍光フィルムはアゾ−ホウ素錯体化合物単独の場合と同様に、優れた光吸収特性と蛍光特性を有することが明らかとなった。
【0111】
試験例3 耐候性試験1
キセノン促進耐候試験機を用い、温度45℃で、上記試験例2で作製した試料に波長340nm、照度0.51W/m2の光を照射し、2時間ごとに吸収極大波長強度と蛍光極大波長強度を測定した。具体的には、キセノン光照射に伴う、蛍光フィルムの吸収極大波長における吸収強度と蛍光極大波長における蛍光強度の経時変化をそれぞれ測定し、吸収強度の保持率[(キセノン光照射後の吸収強度/キセノン光照射前の吸収強度)×100]と、蛍光強度の保持率[(キセノン光照射後の蛍光強度/キセノン光照射前の蛍光強度)×100]を算出した。アゾ−ホウ素錯体化合物(I3)の吸収強度と蛍光強度の保持率の経時変化を図5と図6に示す。また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I2)の吸収強度と蛍光強度の保持率の経時的変化を図7と図8に示す。
【0112】
図5〜8のとおり、前駆体であるヒドラゾン化合物は、強力な光照射により特に光吸収特性が経時的に低下していき、10時間後には吸収光強度が半分以下にまで低下する場合もある。
【0113】
一方、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、強力なキセノン光照射にもかかわらず、光吸収特性、蛍光特性共にわずかに低下するのみであり、10時間後でも90%以上維持されていた。
【0114】
以上の結果のとおり、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に優れることが証明された。
【0115】
試験例4 耐候性試験2
上記実施例1(2)のアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムを貼り付けた上記試験例2の試料を屋外に10時から18時まで放置して太陽光に暴露し、100日目まで10日間ごとに吸収極大波長強度と蛍光極大波長強度を測定した。試験は6月から12月にかけて実施し、試料を屋外に放置するのは晴れの日に限定した。即ち、試験日数は、試験に要した日数ではなく、試料を屋外に放置した合計日数である。また、途中から日が陰ってきた場合には、試料を屋内に入れた。太陽光に暴露する前の吸収スペクトルの測定結果を図9(1)に、蛍光スペクトルの測定結果を図9(2)に、吸収極大波長および蛍光極大波長における吸収および蛍光の強度の保持率の経時変化を図9(3)に示す。
【0116】
図9に示す結果のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、長期間にわたる太陽光照射により光吸収強度が経時的に低下する傾向があるものの、蛍光強度は全く低下しないことが示された。よって本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に優れ、屋外の使用にも耐え得ることが明らかとなった。
【0117】
試験例5 耐候性試験3
上記試験例2と同様にして、上記実施例4〜6および実施例8のアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)を含む蛍光フィルムを作製し、さらに測定用試料を作製した。得られた測定用試料を用い、光照射時間を200時間という長時間に変更した以外は上記試験例3と同様にして、キセノン光を照射し、10時間ごとに吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。蛍光フィルムの吸収極大波長における吸収強度と蛍光極大波長における蛍光強度の経時変化をそれぞれ測定し、吸収強度の保持率[(キセノン光照射後の吸収強度/キセノン光照射前の吸収強度)×100]の経時的変化を図10に、蛍光強度の保持率[(キセノン光照射後の蛍光強度/キセノン光照射前の蛍光強度)×100]の経時的変化を図11に示す。
【0118】
図10〜11のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、強力なキセノン光を200時間にわたって照射した場合であっても、吸収強度は44%程度まで低下するものがあったが、蛍光強度は全く低下せず維持されていた。以上の結果のとおり、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に極めて優れることが証明された。
【0119】
試験例6 耐熱性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体であるヒドラゾン化合物の耐熱性を、各化合物の融点測定をかねて、理学示差熱分析装置(リガク社製,TG-DTA Thermo Plus 2)を用いた熱分析(TG−DTA)により評価した。実施例1〜8のアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体の測定結果を、表3にまとめて示す。なお、表中、「−」は未測定であることを示し、「none」は融点を示すことなく分解したことを示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表3のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体であるヒドラゾン化合物は、いずれも約300℃まで分解せず、また、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物の中には明確な融点を示さないものがあるなど、優れた耐熱性を有することが明らかにされた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ−ホウ素錯体化合物、その製造方法、およびアゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できるヒドラゾン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度にπ共役した縮合多環系有機化合物には、分子内での回転運動等により費やされるエネルギーが少ないので、吸収した光エネルギーにより励起し、次いで吸収したエネルギーを蛍光として放出するものがある。この様な発光性有機化合物は、蛍光色素として用いられる。
【0003】
かかる蛍光色素の用途としては、例えば塗料やインクに配合したり或いは高分子樹脂や繊維を着色する染料や顔料が考えられる。
【0004】
本発明者らは、固体発光性蛍光色素の合成中間体として利用でき、且つ安定性に優れ、色素、顔料あるいは染料にも利用可能なものとして下記化合物等を開発し、既に特許出願している(特許文献1および2)。また、さらに研究を進め、優れた蛍光特性を有する化合物を開発している(特許文献3〜5)。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263178号公報
【特許文献2】国際公開第2004/072053号パンフレット
【特許文献3】特開2007−211185号公報
【特許文献4】特開2008−195749号公報
【特許文献5】特開2009−209138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、蛍光発光性を有する化合物としては、既に種々の化合物が開発されている。しかし、より優れた特性を有する蛍光性有機化合物は常に求められている。例えば、特定波長光に対する強い光吸収特性を有し且つ高い蛍光量子収率を示す化合物であれば、蛍光との差により優れた波長変換特性が得られる。また、実用のためには耐光性が重要であるし、工業的に大量合成するためには簡便に製造できることも重要である。
【0008】
そこで本発明が解決すべき課題は、可視光領域での特に優れた光吸収特性と近赤外領域での良好な発光特性を示し、高分子樹脂に分散させることも容易であり、耐光性に優れ、且つ簡便に製造できるアゾ−ホウ素錯体化合物を提供することにある。また、本発明は、当該アゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法と、当該アゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できるヒドラゾン化合物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らが既に開発していた固体発光性蛍光色素の合成中間体から誘導されたヒドラゾン化合物を、さらにホウ素錯体化することにより得られるアゾ−ホウ素錯体化合物は、簡便に製造できる上に強い光吸収特性と蛍光特性に加え、優れた耐光性や耐熱性等を示すことを見出して、本発明を完成した。
【0010】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0011】
【化2】
【0012】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R1は、C1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示すか、或いは、一方のR1は、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1は、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【0013】
本発明において、「アリール基」は芳香族炭化水素基を意味する。例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等であり、好ましくはC6-10アリール基、より好ましくはフェニル基である。
【0014】
「ヘテロアリール基」は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環、6員環または縮合環を有する芳香族ヘテロシクリル基を意味する。「ヘテロアリール基」としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、フリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾール基等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基等の6員環ヘテロアリール基;インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、キノリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基などの縮合ヘテロアリール基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を含むヘテロアリールであり、より好ましくはベンゾチアゾリル基である。
【0015】
「C1-12アルキル基」とは、炭素数が1〜12の直鎖状または分枝鎖状の1価脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノナニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等である。R6〜R7としては、C2-12アルキル基が好ましく、C2-10アルキル基がより好ましく、特にn−C2-8アルキル基が好ましい。その他の場合では、C1-6アルキル基が好ましく、C1-4アルキル基がより好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がより好ましい。
【0016】
「アリールエテニル基」は、上記アリール基に置換された−CH=CH−基を示し、トランス型であってもシス型であってもよいが、安定性の点からトランス型のものが好ましい。また、「アリールエチニル基」は、上記アリール基に置換された−C≡C−基を示す。
【0017】
「C1-12アルコキシ基」は、C1-12アルキルオキシ基を意味し、C1-6アルコキシ基が好ましく、C1-4アルコキシ基がより好ましく、C1-2アルコキシ基がより好ましく、メトキシ基がより好ましい。また、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物において、2つのR1がアルコキシ基である場合には、炭化水素基同士が結合してホウ素原子と共に環状構造を形成していてもよい。
【0018】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができ、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0019】
「モノ(C1-12アルキル)アミノ基」は、1つの上記C1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはモノC1-6アルキルアミノ基であり、より好ましくはモノC1-4アルキルアミノ基であり、さらに好ましくはモノC1-2アルキルアミノ基である。
【0020】
「ジ(C1-12アルキル)アミノ基」は、2つの上記C1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味する。当該基において、2つのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ジC1-12アルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、エチルプロピルアミノ基、ブチルエチルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはジ(C1-6アルキル)アミノ基であり、より好ましくはジ(C1-4アルキル)アミノ基であり、さらに好ましくはジ(C1-2アルキル)アミノ基である。
【0021】
本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物(I)としては、一方のR1が、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1が、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す化合物、および、下記式(I1)〜(I3)で表される化合物が好適である。
【0022】
【化3】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【0023】
本発明に係る上記アゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法は、ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる下記工程を含むことを特徴とする。
【0024】
【化4】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【0025】
上記アゾ−ホウ素錯体化合物を製造するための前駆体として使用できる、本発明に係るヒドラゾン化合物は、上記式(II)で表されるものである。
【0026】
なお、ヒドラゾン化合物(II)は、下記のとおりアゾ化合物の互変異性体であり、当該アゾ化合物はヒドラゾン化合物(II)と等価なものであって、本発明範囲に含まれるものとする。
【0027】
【化5】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、可視光領域で非常に強い光吸収特性を有し、且つ近赤外領域での良好な発光特性を示す上に、高分子樹脂に分散させることも容易であり、耐光性や耐熱性等にも優れるので、優れた蛍光色素として用いることが可能である。また、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、簡便に製造できる。よって本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収スペクトルを示す図である。
【図4】図4は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の蛍光スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I3)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図8】図8は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)と、その前駆体であるヒドラゾン化合物を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図9】図9は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムの吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルと、その蛍光フィルムを太陽光に暴露した場合における吸収強度と蛍光強度の経時的変化を示す図である。(1)は吸収スペクトルを示し、(2)は蛍光スペクトルを示し、(3)は吸収強度と蛍光強度の保持率の経時的変化を示す。
【図10】図10は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における吸収強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【図11】図11は、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)を含む蛍光フィルムに強力なキセノン光を照射した場合における蛍光強度の保持率の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物(I)は、下記式のとおりヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させることにより製造することができる。
【0031】
【化6】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【0032】
上記工程では、溶媒中、好適には触媒である塩基の存在下、ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる。原料化合物であるヒドラゾン化合物(II)は、後述するとおり合成することができる。また、ホウ素化合物は、市販のものを使用すればよい。
【0033】
使用できる溶媒は、ヒドラゾン化合物(II)に対して適度な溶解性を示すものであれば特に制限されない。例えば、ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒などを用いることができる。
【0034】
ホウ素化合物としては、三フッ化ホウ素、ホウ酸トリエチル、トリエチルボラン、ジメシチルフルオロボランなどを用いることができる。なお、上記ホウ素化合物として、R9がR1と同一か或いはR1よりも脱離し易いものを用いることにより、アゾ−ホウ素錯体化合物とすることができる。
【0035】
触媒である塩基は、ヒドラゾン化合物のホウ素錯体化反応を促進するために用いる。かかる塩基としては、上記溶媒への溶解性が高いことから、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの有機アミンが好適である。
【0036】
ヒドラゾン化合物(II)とホウ素化合物は、ほぼ等モル用いてもよいが、一方が入手し難いような場合には、反応を促進するために他方を過剰に用いてもよい。通常、ヒドラゾン化合物(II)に対して、ホウ素化合物を2倍モル以上、20倍モル以下程度用い、より好ましくは3倍モル以上、10倍モル以下程度用いる。
【0037】
触媒である塩基の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、ヒドラゾン化合物(II)に対して1倍モル以上、10倍モル倍以下程度とすることができ、より好ましくは2倍モル以上、5倍モル以下程度とすることができる。
【0038】
具体的な反応条件としては、特に制限されないが、先ずヒドラゾン化合物(II)を溶媒に十分に溶解させ、塩基を加えた後、ホウ素化合物を加えて攪拌することが好ましい。反応温度は適宜調整すればよいが、例えば10℃以上、50℃以下程度とすることができ、常温で反応させることもできる。反応時間も特に制限されず、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)などでヒドラゾン化合物(II)の消失が確認できるまでとすればよいが、通常は10時間以上、5日間程度とすることができる。
【0039】
反応終了後は、当業者公知の方法によりアゾ−ホウ素錯体化合物(I)を精製すればよい。例えば、反応混合液に水を注いで反応を停止させた後、有機層を水などで洗浄し、減圧濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィーなどで精製すればよい。
【0040】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)の前駆体化合物であるヒドラゾン化合物(II)は、下記スキームにより合成することができる。
【0041】
【化7】
【0042】
上記スキームでは、オルトキノン化合物にヒドラジン化合物を反応させ、本発明に係るヒドラゾン化合物(II)を合成する。なお、当該スキームでは、ヒドラジン化合物が他方のカルボニル基に反応して副生成物が生じ得る。しかし本発明者らによる実験的知見によれば、おそらくカルボニル基の反応性の相違から本発明に係るヒドラゾン化合物(II)の方が優勢に生成し、副生成物の生成量は微量である。その上、副生成物は次工程でアゾ−ホウ素錯体に誘導し難く、目的化合物であるアゾ−ホウ素錯体化合物(I)から容易に分離することができる。
【0043】
原料化合物であるオルトキノン化合物は、特開2004−263178号公報や国際公開第2004/072053号パンフレットなどに記載の方法と同様に、下記合成スキームで製造することができる。ヒドラジン化合物は、比較的シンプルな構造を有することから、市販されている場合は市販品を使用すればよいし、或いは市販化合物から合成することが可能である。なお、ヒドラジン化合物は、塩酸塩などの塩であってもよい。
【0044】
上記合成スキームでは、溶媒にオルトキノン化合物とヒドラジン化合物を添加すればよく、少量の酸を添加することにより、反応を促進することができる。なお、かかる酸の添加の代わりに、ヒドラジン化合物と酸との塩を用いてもよい。
【0045】
使用する溶媒は、オルトキノン化合物とヒドラジン化合物に対して適度な溶解性を示し、且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されない。例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド;およびこれらと水との混合溶媒を挙げることができる。混合溶媒の比率は、オルトキノン化合物とヒドラジン化合物に対する溶解性などを考慮して適宜調整すればよい。
【0046】
上記合成スキームでは、溶媒中にオルトキノン化合物とヒドラジン化合物に加えて少量の酸を添加すれば、反応は容易に進行する。
【0047】
オルトキノン化合物とヒドラジン化合物は、ほぼ等モル用いてもよいが、一方が入手し難いような場合には、反応を促進するために他方を過剰に用いてもよい。通常、オルトキノン化合物に対して、ヒドラジン化合物を1.5倍モル以上、10倍モル以下程度用い、より好ましくは2倍モル以上、5倍モル以下程度用いる。
【0048】
反応温度は適宜調整すればよいが、例えば、30℃以上、80℃以下程度とすることができる。また、反応時間も特に制限されず、予備実験で決定したり、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで一方の原料化合物であるオルトキノン化合物の消失が確認できたり、或いは反応の進行が確認できなくなるまでとすればよいが、通常は1時間以上、24時間以下程度とすることができる。
【0049】
反応終了後は、当業者公知の方法によりヒドラゾン化合物(II)を精製してもよいし、精製しないまま次の工程に進み、アゾ−ホウ素錯体化合物(I)に誘導した上で精製してもよい。なお、溶媒として水を含む混合溶媒など極性の高いものを用いる場合、生成するヒドラゾン化合物(II)が析出してくることがある。そのような場合には、反応液を十分に放冷または冷却した後、析出した結晶を濾別し、洗浄した上で次工程の原料化合物として用いてもよい。
【0050】
上記オルトキノン化合物は、下記合成スキームにより製造することができる。なお、下記合成スキームでは、フラン環またはピラン環を有するオルトキノン化合物を合成する場合を代表的に示しているが、その他の化合物も同様に合成できる。
【0051】
【化8】
【0052】
上記合成スキームでは、先ず、触媒の存在下、キノン化合物とアニリン化合物をカップリングし、さらに環化反応によりフラン環またはピラン環を形成してオルトキノン化合物を製造する。
【0053】
原料化合物であるキノン化合物とアニリン化合物は、比較的シンプルな構造を有することから、市販のものを用いるか、市販化合物から当業者公知の方法により合成して用いればよい。なお、上記合成スキームにおいて、上記キノン化合物(1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸ナトリウム)に代えて、1,2−ナフトキノンを用いて同様の反応を行うことも可能である。
【0054】
キノン化合物とアニリン化合物とをカップリングするための触媒は、特に制限はないが、例えば、塩化銅、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸亜鉛などの金属塩を用いることができる。また、溶媒は、原料化合物を適度に溶解でき且つ反応を阻害するものでなければ特にその種類は問わないが、例えば、酢酸や酢酸水溶液、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒を用いることができる。
【0055】
本反応の反応温度は適宜調節すればよいが、例えば室温から100℃程度とすればよい。反応時間も特に制限されず、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで原料化合物の消費を確認できるまでとすればよいが、通常は2時間〜10日間程度とする。
【0056】
反応終了後は、当業者公知の方法により精製すればよい。例えば、反応混合液を水へ注ぎ、生じた析出物を濾別して水等で洗浄した後、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで精製する。
【0057】
上記合成スキームの次の反応では、触媒の存在下、最初の反応で得られた化合物を溶媒中で閉環反応に付してオルトキノン化合物にする。
【0058】
当該反応で用いる触媒は、複素環有機化合物の閉環反応で用いられているものであれば特に制限はないが、例えば、酢酸銅などの銅系触媒を用いることができる。また、溶媒は、原料化合物を適度に溶解でき且つ反応を阻害するものでなければ特にその種類は問わないが、例えば、ニトロメタン、酢酸や酢酸水溶液、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒を用いることができる。
【0059】
本反応の反応温度は適宜調節すればよいが、例えば50〜150℃程度とすればよい。反応時間も特に制限されず、薄層クロマトグラフィー(TLC)などで原料化合物の消費を確認できるまでとすればよいが、通常は6〜24時間程度とする。
【0060】
反応終了後は、当業者公知の方法により精製すればよい。例えば、反応混合液を水へ注いだ後、析出した目的化合物をさらにカラムクロマトグラフィーなどにより精製する。
【0061】
上記各反応において、アミノ基などの活性基があるような場合には、当業者公知の方法により適切な保護基で保護した上で反応を行い、適宜脱保護してもよい。
【0062】
以上のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)は容易に合成できる。また、優れた光吸収特性と蛍光特性を示し、特に極めて強い光吸収特性を有し、近赤外領域波長の光を発する。さらに、比較的脂溶性が高いことから、高分子へ容易に分散させることができ、蛍光フィルムなどの成形体とすることが可能である。
【0063】
本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物(I)を混合分散するための樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の汎用樹脂;ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチック;ポリ乳酸等の生分解プラスチックなどを挙げることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
実施例1
【0066】
【化9】
【0067】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置(東京理科器械社製,PPV−3000)用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−ニトロフェニルヒドラジン塩酸塩(202mg,1.06×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:106mg,収率:39.1%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:24mg,収率:8.7%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.96(1H,s),1.01(6H,t,J=7.32),1.38-1.47(4H,m),1.63-1.70(4H,m),3.40(4H,t,J=7.68),6.76(1H,d,J=2.18),6.82(1H,dd,J=2.18,J=8.92),7.50-7.52(2H,m),7.56(2H,d,J=9.16),7.99(1H,d),8.12-8.14(1H,m),8.26(2H,d,J=9.16),8.41-8.43(1H,m)
元素分析(C30H30N4O4) C:70.44%,H:5.98%,N:10.91%(実測値),C:70.57%,H:5.92%,N:10.97%(理論値)
【0068】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(178mg,1.76×10-3mol)を加えてから、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(333mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から30時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:117mg,収率:53.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.44),1.40-1.49(4H,m),1.66-1.74(4H,m),3.47(4H,t,J=7.80),6.76(1H,d,J=2.20),6.92(1H,dd,J=2.20,J=9.28),7.67-7.75(2H,m),8.15(1H,d,J=9.28),8.20(2H,d,J=9.00),8.34-8.40(3H,m),8.68(1H,d,J=8.28)
【0069】
実施例2
【0070】
【化10】
【0071】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−シアノフェニルヒドラジン塩酸塩(181mg,1.06×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:82mg,収率:31.4%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:8mg,収率:3.1%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.94(1H,s),1.01(6H,t,J=7.32),1.37-1.47(4H,m),1.62-1.70(4H,m),3.40(4H,t,J=7.80),6.77(1H,d,J=2.32),6.83(1H,dd,J=2.32,J=8.92),7.49-7.51(2H,m),7.59(2H,d,J=8.78),7.67(2H,d,J=8.78),8.02(1H,d,J=8.92),8.14-8.16(1H,m),8.42-8.45(1H,m)
元素分析(C31H30N4O2) C:75.78%,H:6.22%,N:11.47%(実測値),C:75.89%,H:6.16%,N:11.42%(理論値)
【0072】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,4.08×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(103mg,1.02×10-3mol)を加えてから、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(346mg,2.45×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から3日後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:123mg,収率:55.9%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.34),1.39-1.48(4H,m),1.65-1.73(4H,m),3.45(4H,t,J=7.82),6.76(1H,d,J=1.96),6.90(1H,dd,J=1.96,J=9.28),7.65-7.73(2H,m),7.77(2H,d,J=8.54),8.13(1H,d,J=9.28),8.16(2H,d,J=8.54),8.37(1H,d,J=7.45),8.65(1H,dd,J=1.22,J=7.45)
【0073】
実施例3
【0074】
【化11】
【0075】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)と4−ヒドラジノ安息香酸(324mg,2.13×10-3mol)を加えた後、メタノール:水:ジメチルスルホキシド=3:2:1の混合溶媒(30mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:75.7mg,収率:27.8%)を得た。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、次のブチルエステル化反応を行った。
【0076】
上記赤茶色粉末状結晶(320mg,6.28×10-4mol)、1−ヨードブタン(399mg,3.76×10-3mol)および炭酸ナトリウム(462mg,2.51×10-4mol)を100mL二口ナスフラスコに入れ、さらにジメチルホルムアミド(15mL)を加えて溶解し、100℃で1.5時間反応させた。反応終了後、撹拌しながら室温で放冷した。次いで、水とジクロロメタンを加えた。反応溶液のpHを5%塩酸水溶液で7に調整した後、ジクロロメタン層を分離して水洗した。ジクロロメタン層を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、赤茶色粉末結晶を得た。得られた赤茶色粉末結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:203mg,収率:57.2%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:25mg,収率:7.0%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.82(1H,s),1.00(9H,t,J=7.44),1.37-1.46(4H,m),1.46-1.53(2H,m),1.62-1.70(4H,m),1.74-1.81(2H,m),3.40(4H,t,J=7.68),4.34(2H,t,J=6.60),6.79(1H,d,J=2.08),6.83(1H,dd,J=2.08,J=9.03),7.48-7.53(2H,m),7.61(2H,d,J=8.56),8.03(1H,d,J=9.03),8.11(2H,d,J=8.56),8.16-8.19(1H,m),8.49-8.52(1H,m)
元素分析(C35H39N3O4) C:74.27%,H:6.77%,N:7.27%(実測値),C:74.31%,H:6.95%,N:7.43%(理論値)
【0077】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(100mg,1.76×10-4mol)を100mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(20mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(44.5mg,4.40×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(149mg,1.05×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から13時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:74.2mg,収率:68.7%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.01(9H,t,J=7.32),1.38-1.47(4H,m),1.48-1.54(2H,m),1.64-1.71(4H,m),1.76-1.83(2H,m),3.43(4H,t,J=7.80),4.37(2H,t,J=6.60),6.76(1H,d,J=1.63),6.87(1H,dd,J=1.63,J=9.14),7.64-7.71(2H,m),8.11-8.14(3H,m),8.17(2H,d,J=9.04),8.37(1H,d,J=7.82),8.68(1H,d,J=7.80)
【0078】
実施例4
【0079】
【化12】
【0080】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−ニトロフェニルヒドラジン塩酸塩(404mg,2.13×10-3mol)を入れ、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加え、50℃で撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から3時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別した後、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:252mg,収率:92.6%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(極微量)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.68(1H,s),1.01(6H,m),1.37-1.46(4H,m),1.61-1.69(4H,m),3.38(4H,t),6.40(1H,d,J=2.68),6.63-6.66(1H,m),6.66(1H,s),7.20(1H,dd,J=0.97,J=8.05),7.52-7.57(3H,m),7.76(1H,d,J=9.28),8.14(1H,dd,J=0.97,J=8.05),8.27(2H,d,J=9.28)
元素分析(C30H30N4O4) C:70.60%,H:5.85%,N:11.06%(実測値),C:70.57%,H:5.92%,N:10.97%(理論値)
【0081】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(47.6mg,4.70×10-4mol)を加え、さらに三フッ化ホウ素エーテル錯塩(166mg,1.17×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。一晩撹拌した後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジククロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:174mg,収率:79.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.39-1.49(4H,m),1.64-1.72(4H,m),3.44(4H,t,J=7.80),6.47(1H,d,J=2.44),6.77(1H,dd,J=2.44,J=9.28),6.99(1H,s),7.31(1H,d,J=7.97),7.73(1H,t,J=7.97),7.83(1H,d,J=9.28),8.09(2H,d,J=9.16),8.24(1H,d,J=7.97),8.30(2H,d,J=9.16)
【0082】
実施例5
【0083】
【化13】
【0084】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10-4mol)とp−シアノフェニルヒドラジン塩酸塩(361mg,2.13×10-3mol)を加えた後、メタノール:水=7:1の混合溶媒(40mL)を加えて、50℃で撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から3時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た。得られた黒茶色粉末状結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:235mg,収率:90.0%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(極微量)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.76(1H,s),1.00(6H,t,J=7.32),1.37-1.46(4H,m),1.61-1.68(4H,m),3.37(4H,t,J=7.69),6.37(1H,d,J=2.44),6.60-6.63(1H,m),6.64(1H,s),7.15(1H,d,J=7.80),7.49-7.53(3H,m),7.63(2H,d,J=8.76),7.72(1H,d,J=9.24),8.08(1H,d,J=7.80)
元素分析(C31H30N4O2) C:75.89%,H:6.04%,N:11.29%(実測値),C:75.89%,H:6.16%,N:11.42%(理論値)
【0085】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,4.08×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(100mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(103mg,1.02×10-3mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(346mg,2.45×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から15時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:192mg,収率:87.3%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.39-1.48(4H,m),1.63-1.71(4H,m),3.42(4H,t,J=7.82),6.44(1H,d,J=2.50),6.73(1H,dd,J=2.50,J=9.46),6.96(1H,s),7.26-7.27(1H,m),7.67-7.72(3H,m),7.79(1H,d,J=9.46),8.06(2H,d,J=8.76),8.19(1H,d,J=8.08)
【0086】
実施例6
【0087】
【化14】
【0088】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と4−ヒドラジノ安息香酸(809mg,5.32×10-3mol)を加えた後、メタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から6時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:599mg,収率:88.3%)を得た。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、次のブチルエステル化反応を行った。
【0089】
上記赤茶色粉末状結晶(500mg,9.81×10-4mol)、1−ヨードブタン(623mg,5.88×10-3mol)および炭酸ナトリウム(721mg,3.92×10-3mol)を200mL二口ナスフラスコに入れ、さらにジメチルホルムアミド(25mL)を加えて溶解し、100℃に加熱して4時間反応させた。反応終了後、反応溶液を室温で撹拌して放冷した。反応溶液を水に加えたところ、結晶が析出した。析出した結晶を濾別し、濾液に水とジクロロメタンを加え、そのpHを5%塩酸水溶液で7に調整した後、ジクロロメタン層を水洗した。ジクロロメタン層を減圧濃縮し、得られた残渣と濾別した結晶を合わせ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、赤茶色粉末結晶を得た。得られた赤茶色粉末結晶をNMRで分析したところ、目的化合物であるヒドラゾン化合物(収量:428mg,収率:77.1%)と、ヒドラジンが隣接するカルボニル基に反応した異性体(収量:17mg,収率:3.1%)であることが分かった。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.68(1H,s),1.00(9H,t,J=7.44),1.36-1.43(4H,m),1.47-1.53(2H,m),1.60-1.67(4H,m),1.73-1.80(2H,m),3.35(4H,t,J=7.82),4.32(2H,t,J=6.72),6.36(1H,d,J=2.44),6.60(1H,dd,J=2.44,J=9.28),6.66(1H,s),7.13(1H,dd,J=0.85,J=8.05),7.49-7.55(3H,m),7.73(1H,d,J=9.28),8.07(2H,d,J=8.76),8.11(1H,dd,J=0.85,J=8.05)
元素分析(C35H39N3O4) C:74.37%,H:6.85%,N:7.26%(実測値),C:74.31%,H:6.95%,N:7.43%(理論値)
【0090】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた、ヒドラゾン化合物とその異性体との混合物(200mg,3.54×10-4mol)を200mLナスフラスコに入れ、さらにジクロロメタン(40mL)を加えて完全に溶解させた。次いで、トリエチルアミン(89.5mg,8.85×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(301mg,2.12×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から68時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、ジクロロメタン層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:189mg,収率:87.1%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=0.99-1.03(9H,m),1.37-1.46(4H,m),1.47-1.53(2H,m),1.61-1.69(4H,m),1.75-1.82(2H,m),3.39(4H,t,J=7.70),4.35(2H,t,J=6.60),6.41(1H,d,J=2.44),6.69(1H,dd,J=2.44,J=9.38),6.95(1H,s),7.22(1H,dd,J=0.74,J=8.01),7.66(1H,t,J=8.01),7.76(1H,d,J=9.38),8.04(2H,d,J=8.66),8.12(2H,d,J=8.66),8.19(1H,d,J=8.01)
【0091】
実施例7
【0092】
【化15】
【0093】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10−4mol)と2−ヒドラジノ安息香酸塩酸塩(402mg,2.13×10-3mol)を加えた後、さらにメタノール:水:ジメチルスルホキシド=3:4:4の混合溶媒(55mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から13時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:96mg,収率:35.3%)。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、ホウ素錯体化を行った。
【0094】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた赤茶色粉末状結晶(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(70mL)を加えた。さらにトリエチルアミン(137mg,1.37×10-3mol)を加えてヒドラゾン化合物を完全に溶解させてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(334mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から3日間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:62.2mg,収率:29.4%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.03(6H,t,J=7.46),1.40-1.49(4H,m),1.66-1.74(4H,m),3.47(4H,t),6.78(1H,d,J=2.20),6.90(1H,dd,J=2.20,J=9.16),7.48(1H,t,J=7.44),7.66-7.78(3H,m),8.13(1H,d,J=9.16),8.30-8.33(2H,m),8.39(1H,d,J=7.70),8.75(1H,d,J=7.70)
【0095】
実施例8
【0096】
【化16】
【0097】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と2−ヒドラジノ安息香酸塩酸塩(1.00g,5.32×10-3mol)を加え、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)を加え、45℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から10時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:593mg,収率:87.5%)。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、ホウ素錯体化を行った。
【0098】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた赤茶色粉末状結晶(200mg,3.92×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(70mL)を加えた。次いで、トリエチルアミン(95.2mg,9.41×10-4mol)を加えて赤茶色粉末状結晶を完全に溶解させてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(334mg,2.35×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から1日間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:195mg,収率:92.9%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.02(6H,t,J=7.32),1.38-1.48(4H,m),1.63-1.71(4H,m),3.41(4H,t,J=7.80),6.41(1H,d,J=2.32),6.71(1H,dd,J=2.32,J=9.38),7.00(1H,s),7.24-7.26(1H,m),7.37(1H,t,J=7.56),7.65-7.70(2H,m),7.77(1H,d,J=9.38),8.17(1H,d,J=8.28),8.23(1H,d,J=7.92),8.26(1H,dd,J=1.20,J=7.92)
【0099】
実施例9
【0100】
【化17】
【0101】
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(500mg,1.33×10-3mol)と2−ヒドラジノベンゾチアゾール(439mg,2.66×10-3mol)を加え、さらにメタノール:水=7:1の混合溶媒(100mL)と5%塩酸(3mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から11時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、黒茶色粉末状結晶を得た(収量:671mg,収率:97.3%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=-3.77(1H,s),0.99(6H,t,J=7.46),1.34-1.43(4H,m),1.57-1.64(4H,m),3.29(4H,t,J=7.80),6.31(1H,d,J=2.50),6.58(1H,dd,J=2.50,J=9.20),6.61(1H,s),7.15(1H,d,J=8.05),7.24(1H,m),7.39(1H,dt,J=0.96,J=7.56),7.50(1H,t,J=8.05),7.66(1H,d,J=9.20),7.74(1H,d,J=7.76),7.78(1H,d,J=8.05)8.03(1H,d,J=7.76)
【0102】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた黒茶色粉末状結晶(200mg,3.81×10-4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(100mL)を加えた。次いで、トリエチルアミン(96.4mg,9.53×10-4mol)を加えてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(325mg,2.29×10-3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から20時間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:168mg,収率:77.0%)。
1H-NMR(CDCl3)δ=1.01(6H,t,J=7.34),1.38-1.47(4H,m),1.63-1.70(4H,m),3.41(4H,t,J=7.92),6.47(1H,d,J=2.50),6.78(1H,dd,J=2.50,J=9.57),6.96(1H,s),7.29-7.34(2H,m),7.41(1H,dt,J=1.36,J=7.70),7.73(1H,t,J=8.10),7.76(1H,d,J=7.70),7.82(1H,d,J=9.57),8.05(1H,d,J=8.10),8.22(1H,d,J=7.70)
【0103】
試験例1 溶液状態での光吸収特性と蛍光特性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物と、その前駆体であるヒドラゾン化合物の光吸収特性と蛍光特性を測定した。具体的には、アゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体をジクロロメタンに溶解し、光吸収特性測定用に2.5×10-5M、蛍光特性測定用に2.5×10-6Mの溶液を調製し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製,製品名:V−670)と近赤外分光蛍光光度計(日本分光製,製品名:FP−6600)を使用して、光吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。また、絶対量子収率の測定では、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス製,製品名:C9920−12)とマルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス製、製品名:PMA−12)を使用した。結果を表1に示す。また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I3)とその前駆体の光吸収スペクトルを図1に、その蛍光スペクトルを図2に、また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I1)および(I2)とその前駆体の光吸収スペクトルを図3に、その蛍光スペクトルを図4に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
上記結果のとおり、ヒドラゾン化合物をホウ素錯体化することにより、光吸収特性と蛍光特性が顕著に向上し、強い近赤外領域光を放出できるようになることが実証された。その理由としては、ホウ素錯体化によりヒドラゾン化合物の互変異性を固定することができると共に、アゾ基に結合している縮合多環部分の自由回転も固定されるので、エネルギーの吸収効率や発光効率が極めて高くなることが考えられる。特に、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、約80,000以上という非常に大きな分子吸光係数を示し、吸収光に対する蛍光の割合(量子収率)も大きいので、放出される近赤外光が非常にシャープであり、優れた蛍光色素であることが分かった。
【0106】
試験例2 フィルム状態での光吸収特性と蛍光特性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムを作製し、その光吸収特性と蛍光特性を測定した。
【0107】
先ず、各アゾ−ホウ素錯体化合物(1mg)とポリスチレン(PSジャパン社製,2.0g)をジクロロメタン(10mL)に溶解した。当該溶液(0.6mL)を24mm×32mmのカバーガラス上に塗布して乾燥させることにより、色素濃度0.05質量%、膜厚約100μmの蛍光フィルムを作製した。
【0108】
上記蛍光フィルムを、半径0.7cmの穴を開けた3cm×8cmのプラスチック製測定用セルに貼付け、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製,製品名:V−670)を用い、室温で光吸収特性を測定した。また、同様の測定用試料を用い、近赤外分光蛍光光度計(日本分光社製,製品名:FP−6600)により蛍光特性を測定した。また、絶対量子収率の測定では、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス製,製品名:C9920−12)とマルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス製、製品名:PMA−12)を使用した。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
上記結果のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は樹脂に分散させて蛍光フィルムとすることができ、また、得られた蛍光フィルムはアゾ−ホウ素錯体化合物単独の場合と同様に、優れた光吸収特性と蛍光特性を有することが明らかとなった。
【0111】
試験例3 耐候性試験1
キセノン促進耐候試験機を用い、温度45℃で、上記試験例2で作製した試料に波長340nm、照度0.51W/m2の光を照射し、2時間ごとに吸収極大波長強度と蛍光極大波長強度を測定した。具体的には、キセノン光照射に伴う、蛍光フィルムの吸収極大波長における吸収強度と蛍光極大波長における蛍光強度の経時変化をそれぞれ測定し、吸収強度の保持率[(キセノン光照射後の吸収強度/キセノン光照射前の吸収強度)×100]と、蛍光強度の保持率[(キセノン光照射後の蛍光強度/キセノン光照射前の蛍光強度)×100]を算出した。アゾ−ホウ素錯体化合物(I3)の吸収強度と蛍光強度の保持率の経時変化を図5と図6に示す。また、アゾ−ホウ素錯体化合物(I2)の吸収強度と蛍光強度の保持率の経時的変化を図7と図8に示す。
【0112】
図5〜8のとおり、前駆体であるヒドラゾン化合物は、強力な光照射により特に光吸収特性が経時的に低下していき、10時間後には吸収光強度が半分以下にまで低下する場合もある。
【0113】
一方、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、強力なキセノン光照射にもかかわらず、光吸収特性、蛍光特性共にわずかに低下するのみであり、10時間後でも90%以上維持されていた。
【0114】
以上の結果のとおり、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に優れることが証明された。
【0115】
試験例4 耐候性試験2
上記実施例1(2)のアゾ−ホウ素錯体化合物を含む蛍光フィルムを貼り付けた上記試験例2の試料を屋外に10時から18時まで放置して太陽光に暴露し、100日目まで10日間ごとに吸収極大波長強度と蛍光極大波長強度を測定した。試験は6月から12月にかけて実施し、試料を屋外に放置するのは晴れの日に限定した。即ち、試験日数は、試験に要した日数ではなく、試料を屋外に放置した合計日数である。また、途中から日が陰ってきた場合には、試料を屋内に入れた。太陽光に暴露する前の吸収スペクトルの測定結果を図9(1)に、蛍光スペクトルの測定結果を図9(2)に、吸収極大波長および蛍光極大波長における吸収および蛍光の強度の保持率の経時変化を図9(3)に示す。
【0116】
図9に示す結果のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、長期間にわたる太陽光照射により光吸収強度が経時的に低下する傾向があるものの、蛍光強度は全く低下しないことが示された。よって本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に優れ、屋外の使用にも耐え得ることが明らかとなった。
【0117】
試験例5 耐候性試験3
上記試験例2と同様にして、上記実施例4〜6および実施例8のアゾ−ホウ素錯体化合物(I2)を含む蛍光フィルムを作製し、さらに測定用試料を作製した。得られた測定用試料を用い、光照射時間を200時間という長時間に変更した以外は上記試験例3と同様にして、キセノン光を照射し、10時間ごとに吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。蛍光フィルムの吸収極大波長における吸収強度と蛍光極大波長における蛍光強度の経時変化をそれぞれ測定し、吸収強度の保持率[(キセノン光照射後の吸収強度/キセノン光照射前の吸収強度)×100]の経時的変化を図10に、蛍光強度の保持率[(キセノン光照射後の蛍光強度/キセノン光照射前の蛍光強度)×100]の経時的変化を図11に示す。
【0118】
図10〜11のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物は、強力なキセノン光を200時間にわたって照射した場合であっても、吸収強度は44%程度まで低下するものがあったが、蛍光強度は全く低下せず維持されていた。以上の結果のとおり、本発明のアゾ−ホウ素錯体化合物は、耐候性に極めて優れることが証明された。
【0119】
試験例6 耐熱性の測定
上記で製造したアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体であるヒドラゾン化合物の耐熱性を、各化合物の融点測定をかねて、理学示差熱分析装置(リガク社製,TG-DTA Thermo Plus 2)を用いた熱分析(TG−DTA)により評価した。実施例1〜8のアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体の測定結果を、表3にまとめて示す。なお、表中、「−」は未測定であることを示し、「none」は融点を示すことなく分解したことを示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表3のとおり、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物とその前駆体であるヒドラゾン化合物は、いずれも約300℃まで分解せず、また、本発明に係るアゾ−ホウ素錯体化合物の中には明確な融点を示さないものがあるなど、優れた耐熱性を有することが明らかにされた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化1】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R1は、C1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示すか、或いは、一方のR1は、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1は、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【請求項2】
一方のR1が、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1が、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【請求項3】
下記式(I1)で表される請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化2】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項4】
下記式(I2)で表される請求項1または2に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化3】
[式中、XおよびR1およびR4〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項5】
下記式(I3)で表される請求項1または2に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化4】
[式中、XおよびR1、R2〜R3およびR6〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項6】
ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる下記工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法。
【化5】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【請求項7】
下記式(II)で表されるヒドラゾン化合物。
【化6】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【請求項1】
下記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化1】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R1は、C1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示すか、或いは、一方のR1は、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1は、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【請求項2】
一方のR1が、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR1が、独立してC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【請求項3】
下記式(I1)で表される請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化2】
[式中、XおよびR1〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項4】
下記式(I2)で表される請求項1または2に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化3】
[式中、XおよびR1およびR4〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項5】
下記式(I3)で表される請求項1または2に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物。
【化4】
[式中、XおよびR1、R2〜R3およびR6〜R7は、上記と同義を示す]
【請求項6】
ヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させる下記工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアゾ−ホウ素錯体化合物の製造方法。
【化5】
[式中、XおよびR1〜R7は上記と同義を示し、R9はC1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C1-12アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子であり、R1と同一であるか或いはR1よりも脱離し易い基を示す]
【請求項7】
下記式(II)で表されるヒドラゾン化合物。
【化6】
[式中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R2とR3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R8)−基(ここで、R8は水素原子またはC1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR4とR5は水素原子基を示すか、或いは、R4とR5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R8)−基(R8は上記と同義を示す)を形成し、且つR2とR3は水素原子基を示し;
R6とR7は、独立して水素原子基、C1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、C1-12アルキル基、モノ(C1-12アルキル)アミノ基、ジ(C1-12アルキル)アミノ基、水酸基およびC1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す]
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−162445(P2011−162445A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23479(P2010−23479)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】
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