説明

アゾキシストロビン誘導体、アゾキシストロビンに対する抗体またはそのフラグメント、ならびにそれらの抗体またはフラグメントを用いた測定キットおよび測定方法

【課題】 農産物または加工品などの試料中に残留する、殺菌剤のアゾキシストロビンの量を測定する手段を提供すること。
【解決手段】 アゾキシストロビン誘導体と高分子化合物との複合体を免疫原として用い、アゾキシストロビンに特異的な抗体を得る。このような抗体を用いたアゾキシストロビンの測定方法および測定用キットの調製を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾキシストロビンに対する抗体を誘起し得るアゾキシストロビン誘導体、およびアゾキシストロビンに対する抗体またはそのフラグメントに関する。さらに本発明は、このような抗体またはそのフラグメントを用いた、アゾキシストロビンの測定キット、ならびに測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アゾキシストロビン(メチル=(E)-2-{2-[6-(2-シアノフェノキシ)ピリミジン-4-イルオキシ]フェニル}-3-メトキシアクリレート)は、メトキシアクリレート骨格を有する殺菌剤であり(特許文献1および特許文献2)、米、小麦、大豆などの穀物や大根、キャベツ、白菜などの野菜を含む様々な農産物に広く農薬として使用されている。さらに、この農薬の使用は、年々拡大傾向にある。
【0003】
現在、食品の残留農薬については、基準値を新たに定めたポジティブリスト制が施行されており、全ての農薬や抗生物質・合成抗菌剤等について、加工食品を含む全ての食品が規制の対象となり、基準値を超えた食品の販売等は原則禁止されている状況である。
【0004】
このような中にあって、農産物に広く用いられているアゾキシストロビンについても、各食品別に残留農薬の基準値が規定されており、精度の高い分析を行う必要がある。
【0005】
アゾキシストロビンの検出においては、サンプルを粉砕あるいは細切後有機溶媒で抽出し、その抽出液を、濃縮した上で、NPD検出器付GCやGC/MSなどで分析する手法がある。
【0006】
しかしながら、現在行われている方法では、分析を精密に行うには熟練した技術を要し、大掛かりな測定装置や設備が必要で、それに伴う測定の様々な制約がある。
【0007】
これに対して、アゾキシストロビンに対する抗体を用いたイムノアッセイが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−264765号公報
【特許文献2】特開平5−163249号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J Agric Food Chem. 2006 Feb. 8; 54(3):688-93
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機溶媒に強く、特異性の高い、アゾキシストロビンに対する抗体を誘起しうる化合物、およびそのような化合物によって誘起される抗体またはそのフラグメントを提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、そのような抗体またはそのフラグメントを使用した、試料中のアゾキシストロビンを測定する方法、およびそのような測定に用いることができる測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、微量のアゾキシストロビンを正確に検出し測定できるような方法を提供すべく鋭意研究を行った結果、有機溶媒に強く、アゾキシストロビンに対する特異性の高い抗体を誘起し得る化合物、そのような化合物によって誘起される抗体またはそのフラグメント、それらを用いた測定方法または測定キット等を見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、下記式(1):
【化1】

(式中、Rは、シアノ基またはメチル基を表し、nは、0から10までのいずれかの整数を表す)で表わされる構造を有する化合物、に関する。
【0014】
本発明はまた、上記化合物をハプテンとし、該ハプテンと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより得られる、アゾキシストロビンに対する抗体またはそのフラグメント、に関する。
【0015】
上記抗体は、モノクローナル抗体であり得る。
【0016】
本発明はまた、上記抗体を産生するハイブリドーマ、に関する。
【0017】
上記ハイブリドーマは、AZS11A-10F-9Hであり得る。
【0018】
本発明はまた、上記抗体またはそのフラグメントを含んでなるアゾキシストロビンの測定キット、に関する。
【0019】
本発明は、さらに上記抗体またはそのフラグメントを測定対象に接触させる工程を含む、測定対象中のアゾキシストロビンの測定方法、に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗体またはそのフラグメントは、アゾキシストロビンに特異的な結合能を有し、各種試料中に含まれるアゾキシストロビンの測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アゾキシストロビン抗体[AZS1]を用いた直接競合阻害ELISA法におけるアゾキシストロビンおよび(E)−メトミノストロビンに対する阻害曲線を示す(吸光度)。
【図2】アゾキシストロビン抗体[AZS1]を用いた直接競合阻害ELISA法におけるアゾキシストロビンおよび(E)−メトミノストロビンに対する阻害曲線を示す(農薬添加区/無添加区)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書でいう「アゾキシストロビン」とは、メトキシアクリレート骨格を有する殺菌剤であり、下記の式
【化2】

で表される化合物である。
【0023】
本発明の対象となる、アゾキシストロビンの誘導体は、
【化3】

(式中、Rは、シアノ基またはメチル基を表し、nは、0から10までのいずれかの整数を表す)で表される構造を有する。
【0024】
このうち、限定はされないが、
【化4】

で表される構造を有する化合物が好ましい例として挙げられる。
【0025】
上記化合物群は、アゾキシストロビンのハプテン(以下、「アゾキシストロビンハプテン」という)として好適に用いることができる。
【0026】
すなわち、上記ハプテン化合物は、アゾキシストロビンの骨格を有し、かつカルボキシル基を有する。ハプテン中のカルボキシル基は、高分子化合物との複合体を形成する際の共有結合に供され、得られた複合体は、アゾキシストロビンに特異的な抗体を誘起するのに好都合に用いられ得る。
【0027】
特に、シアノフェニル骨格にリンカーを結合することで、有機溶媒に強く、農薬規制値から見て非常に好都合の特異性を有する、アゾキシストロビンに対する抗体を誘起しうる化合物を得ることが可能となった。このような化合物を用いた抗体を用いることで作物中のアゾキシストロビンの検出において、サンプルを粉砕あるいは細切後有機溶媒で抽出した後に、適切な検出範囲に合わせるための再度の希釈を減らすことが可能となり、分析作業の工数低減および希釈に伴う誤差低減が可能となる。結果として測定操作による誤差が小さくなり、再現性および正確性の向上にもつながる。
【0028】
前記アゾキシストロビンハプテンの製造は、様々な合成方法により行なうことができ、特に限定されるものではない。たとえば、下記反応式の通り、市販されている2−メチル−4−ヨードフェノール 1を出発原料として、メチルアクリレートを、パラジウム触媒および塩基の存在下において、反応時間10〜30時間、反応温度60℃〜90℃反応させ、さらにパラジウム触媒とアルコ-ルの存在下、H気流下にて、反応時間10〜30時間、反応温度10℃〜40℃で反応させることによって、化合物3を得る。ここで、反応で用いられる塩基は、特に限定されないが、K2CO3あるいはNaCOが好ましく用いられる。また、パラジウム触媒として、Pd(PPh3)4やPd/Cなどが用いられる。
【化5】

ここで、出発原料1においてメチル基をシアノ基にすることで、最終的に得られる化合物のRがシアノ基となる。さらにメチルアクリレートを別の化合物とすることで同様の方法により、最終的に得られる化合物におけるカルボキシルエチル部分の長さを変えることが可能である。
一方、下記反応式のように、化合物8を得る。
【化6】

ここでは、まず、市販の2−ヒドロキシフェニル酢酸とメタノールとを酸の存在下で反応させて、エステルを形成させる。この時の反応温度は室温から溶媒の沸点の範囲で、反応時間は1時間〜30時間程度である。その後、ヒドロキシル基を保護基にて保護し、ついで、蟻酸メチルとNaH処理により、アクリル酸誘導体化する。ここでの反応温度は室温から溶媒の沸点の範囲で、反応時間は1時間〜30時間程度である。脱保護後、4,6-ジクロロピリミジンとのカップリング反応により、化合物8を得る。
【0029】
本発明のアゾキシストロビンハプテンは、このようにして得られる化合物3と化合物8とを、塩基の存在下において、カップリングすることによって得ることができる。塩基の種類は特に限定はされず、K2CO3あるいはNaCOなどが好ましく用いられる。この方法では、各工程において高収率で化合物を得ることができる。前記反応式において、それぞれの原料化合物および反応させる化合物はいずれも市販されており、入手が容易な化合物である。さらに溶媒や触媒などは等価物に適宜変更することが可能である。
【0030】
また、前記各工程における詳細な合成方法は、実施例1に記載する。
【0031】
前記アゾキシストロビンハプテンは、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等の高分子化合物(タンパク質)との複合体を形成させた後、免疫原として用いる。
【0032】
複合体の形成方法は、公知の方法により行なうことができ、特に限定されるものではない。たとえば、混合酸無水物法または活性エステル法等により前記アゾキシストロビンハプテンのカルボキシル基と前記高分子化合物の官能基(たとえば、アミノ基等)とを反応させて、複合体を形成することができる。
【0033】
本発明は、前記ハプテンと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより得られるアゾキシストロビンに対する抗体を提供する。
【0034】
本発明でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が包含され、FabフラグメントやF(ab’)フラグメントなどのように抗原結合性を有する抗体の一部も包含される。これら抗体の中でも、モノクローナル抗体が好ましい。
【0035】
前記抗体の製造方法は、公知であり、本発明の抗体も常法にしたがって製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology,Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法にしたがって前記アゾキシストロビンハプテンと高分子化合物との複合体を形成させた後、当該複合体を家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法にしたがって得ることが可能である。
【0036】
一方、モノクローナル抗体の場合には、前記複合体を常法にしたがってマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養することにより得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley and Sons.Section 11.4〜11.11)。
【0037】
このようにして得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを一定の条件下にて培養し、抗体価を測定しながら、所望の性質を有する抗体をスクリーニングする。
【0038】
モノクローナル抗体の分離精製は、免疫グロブリンの分離精製法等に従って行われる。すなわち、例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAEなど)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法などが含まれ、単独であるいは適宜組み合わせて行い得る。
【0039】
また、本発明においては、アゾキシストロビンに特異的に結合する抗体またはそのフラグメントを用いて、アゾキシストロビンを簡便に検出することができ、アゾキシストロビンの測定方法に好適に使用することができる。さらに、アゾキシストロビンに特異的に結合するモノクローナル抗体を、測定法に応じて、標識された二次抗体もしくは標識されたアゾキシストロビンのハプテン化合物、緩衝液、検出試薬および/またはアゾキシストロビンの標準溶液等を含むキットに含めることもできる。好ましいキットは、ELISA法やその他の標識を用いた測定法に用いられうるものであり、直接競合阻害ELISA法を用いる場合、固相化されたアゾキシストロビンに対する抗体、抗体を保持する担体、酵素、金コロイド、その他の手段で標識された抗原および検出試薬などを含む。
【0040】
アゾキシストロビンの測定方法としては、通常の抗原−抗体反応を利用する方法であれば特に制限されず、放射性同位元素免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光もしくは発光検出法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法等(Meth. Enzymol., 92, 147-523 (1983), Antibodies Vol. II IRL Press Oxford (1989))が挙げられる。標識の手段としては、酵素、金コロイド、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質などがある。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。これらのうち、特に感度や簡便性等の点から、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素を用いるELISA、あるいは金コロイドを用いたイムノクロマトが好ましい。
【0041】
代表的なELISAによる検出法は、間接競合阻害ELISAまたは直接競合阻害ELISAなどが挙げられる。例えば以下に述べるような本発明のモノクローナル抗体を用いた直接競合阻害ELISAによってアゾキシストロビンの検出を行うことができる。
【0042】
(1)本発明のモノクローナル抗体を、担体に固相化する。用いる担体は、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗体を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗体の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0043】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗体が吸着していない固相表面部分を、抗体と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0044】
(3)各種濃度のアゾキシストロビンを含む試料に、アゾキシストロビンのハプテン化合物と酵素を結合させた酵素結合ハプテンを加えた混合物を調製する。酵素結合ハプテンの調製は、アゾキシストロビンのハプテン化合物を酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。
【0045】
(4)工程(3)の混合物を工程(2)で得られた抗体固相化担体と反応させる。アゾキシストロビンと酵素結合ハプテンとの競合阻害反応により、これらと固相化担体との複合体が生成する。反応は例えば、約25℃で約1時間行う。アゾキシストロビンは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することができる。前記有機溶媒としては、アゾキシストロビンを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられる。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合ハプテンを除去する。固相化抗体−酵素結合ハプテン複合体の量を検出することにより、予め作成した検量線から試料中のアゾキシストロビンの量を決定する。
【0046】
(5)担体に結合した標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を検出することによって検量線からアゾキシストロビンの量を算出することができる。標識酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素と、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンまたはo−フェニレンジアミンを含む発色基質溶液を使用することができる。通常、発色基質溶液を加えて室温で約10分程度反応させた後、硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を検出する。o−フェニレンジアミンを使用する場合、492nmの吸光度を検出する。なお、バックグランド値を補正するため、630nmの吸光度も同時に検出することが望ましい。
【0047】
標識酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、NaOH溶液を加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を検出する方法があげられる。
【0048】
アゾキシストロビンを添加しない反応溶液の吸光度に対して、アゾキシストロビンを添加して抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のアゾキシストロビンを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のアゾキシストロビンの濃度を算出することができる。
【0049】
別の態様としてアゾキシストロビンの検出は以下のような手順により間接競合阻害ELISAによって行うことができる。
(1)抗原を担体に固相化する。
用いる担体は、通常のELISAに用いる担体であれば特に制限されないが、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗原を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗原の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0050】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗原が吸着していない固相表面部分を、抗原と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0051】
(3)前記(1)および(2)で処理された固相表面にアゾキシストロビンを含む試料および本発明のモノクローナル抗体溶液を加え、該抗体を前記固相化抗原およびアゾキシストロビンに競合的に反応させて、固相化抗原−抗体複合体およびアゾキシストロビンに対する抗体複合体を生成させる。反応は、通常室温、1時間程度で行うことができる。アゾキシストロビンは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することが必要である。前記有機溶媒としては、アゾキシストロビンを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられる。
【0052】
(4)固相化抗原−抗体複合体の量は、酵素標識した二次抗体(例えば、マウス抗体を認識する抗体)を添加して検出することができる。例えばアゾキシストロビンに対する抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ等)した抗マウス−ヤギ抗体を用いて、担体に結合したアゾキシストロビンに対する抗体と反応させるのが望ましい。反応は、前記(3)と同様の条件下で行えばよい。反応後、緩衝液で洗浄する。
【0053】
(5)担体に結合した二次抗体の標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、二次抗体に結合させた酵素に反応する発色基質溶液を前述の直接競合阻害ELISA法と同様に加え、吸光度を検出することによりあらかじめ作成した検量線からアゾキシストロビンの量を算出することができる。
【0054】
前記本発明の検出方法においては、検出対象物に応じた前処理をして試料とした後、直接競合阻害ELISAの工程または間接競合阻害ELISAに供することができる。ほとんどの食品の場合、アゾキシストロビンが抽出できる全ての方法を用いることができる。アゾキシストロビンを含む食品からの抽出物は、メタノール、エタノールあるいはアセトニトリルに転溶させて緩衝液で希釈後、検出試料にする。簡便法として、メタノール、エタノールであるいはアセトニトリルで抽出し緩衝液で希釈したものをそのまま試料とすることも可能である。
【0055】
本発明の検出用キットは、このような検出方法を好適に行い得るように、本発明のモノクローナル抗体あるいはそのフラグメントの他、所望により、任意で、標識酵素、二次抗体、緩衝液、指示書等を含む。
【0056】
本発明の免疫検出法を実施する手段として、イムノクロマトグラフ法およびそれを利用することを目的にしたキットやデバイスを構築することもできる。イムノクロマトグラフ法として、例えば、競合阻害法を利用する方法であれば、アゾキシストロビンとタンパク質の結合体を特定の領域に固定した不溶性薄膜状支持体(ナイロン膜又はセルロ−ス膜など)中に、標識した本発明のモノクローナル抗体あるいはその断片と分析対象物を含む可能性のある検体溶液とを展開し、不溶性薄膜状支持体の抗体を固定した領域上で、分析対象物との免疫複合体を形成させ、標識の着色又は発色などの信号を検出し、分析対象物を測定することができる。あるいは、本発明のモノクローナル抗体あるいはその断片を特定の領域に固定した不溶性薄膜状支持体(ナイロン膜又はセルロ−ス膜など)中に、アゾキシストロビンと特異的に結合する標識第2抗体と、分析対象物を含む可能性のある検体溶液とを展開し、不溶性薄膜状支持体の抗体を固定した領域上で、分析対象物との免疫複合体を形成させ、標識の着色又は発色などの信号を検出し、分析対象物を測定することができる。なお、前記標識としては、例えば、酵素を含むタンパク質、着色ラテックス粒子、金属コロイド、又は炭素粒子を使用することができる。
【0057】
本発明のイムノクロマトグラフィー用の免疫検出用キットまたはデバイスとしては、従って、例えばELISAあるいはその他の標識を用いた態様を実現できるものであれば、いかなるものも含まれる。特に限定はされないが、例えば、分析対象物を滴下するサンプルパッド、標識した抗体を含むコンジュゲートパッド、本発明のモノクローナル抗体またはその断片を固定化したテストライン、標識抗体に特異的な抗体を固定化したコントロールラインを膜上に有するデバイスが好適である。あるいは、同様に、例えば、分析対象物を滴下するサンプルパッド、標識した本発明のモノクローナル抗体あるいはその断片を含むコンジュゲ−トパッド、アゾキシストロビンとタンパク質の結合体を固定化したテストライン、および本発明のモノクローナル抗体あるいはその断片に特異的な抗体を固定化したコントロールラインを膜上に有するデバイスが好適である。膜は、不溶性薄膜状支持体であり、ガラス繊維、ナイロン膜又はセルロ−ス膜などからなるが、限定はされず、抗体の保持および毛細管現象による検体の移動を可能にする材料であればいずれのものでも使用できる。前記標識としては、例えば、酵素を含むタンパク質、着色ラテックス粒子、金属コロイド、又は炭素粒子を使用することができる。キット又はデバイスは、さらに任意に、膜を支持するベースカード、余分な検体を吸収する吸収パッドを設けるのも好ましい。
【0058】
このようなキットあるいはデバイスを用いることにより、分析対象物中に含まれるアゾキシストロビンを簡便に迅速に測定することが可能となる。
【0059】
さらに、本発明の抗体またはそのフラグメントを担持した親和性カラムを用いてアゾキシストロビンの検出を行うこともできる。
【0060】
本発明においては、被検試料中に含まれるアゾキシストロビンの量を、固相吸着剤を用いて濃縮および/または精製することができる。このような方法は、特に限定されないが、例えば以下に説明するような方法が用いられ得る。
【0061】
精製された本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、例えば、ファーマシア・ファイン・ケミカルズに記載された以下の方法によって親和性マトリックス材料をつくることができる。抗体としては、モノクローナル抗体およびそれらのフラグメントも使用することができるが、特にモノクローナル抗体を好適に用いることができる。この場合、十分量のモノクローナル抗体を、NaHCO3 とNaClとを含む結合緩衝液(pH8.3)に溶解し、この抗体溶液を、例えば予めHCl中で一夜インキュベートした、臭化シアンによって活性化されたセファロース−4B(GE社)に加える。セファロースと抗体溶液とを反応させた後、この固相吸着材料を、例えば1.0Mのエタノールアミン(pH8.5)で適度な時間インキュベートすることによって、抗体が結合されたゲルの未結合部位をブロックする。固相吸着材料上に固定化されたモノクローナル抗体によって親和性マトリックスが形成され、これをアゾキシストロビンの濃縮および/または精製に用いることができる。
【0062】
好ましい固相吸着材料は活性化されたセファロース4Bゲルであるが、これに限定されない。他の様々な材料を固相材料として用いることができる。例えば他のアガロースゲル組成物、デキストラン、ガラス板を包含する炭素及びケイ素粒状製剤を挙げることができる。同様に、モノクローナル抗体をそれぞれの化学組成物上に固定化する方法もこの分野において公知であり、種々記載されている。
【0063】
本発明における液体試料中のアゾキシストロビンを検出、単離、濃縮、および精製する方法には、本発明のモノクローナル抗体あるいはそのフラグメントを固定化した親和性マトリックス材料を用いた以下の方法が例示されるが、これに限定されない。まず、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固相吸着材料上に固定化された、均一な親和性マトリックスに、被検試料中のアゾキシストロビンが結合され保持されるように、被検試料と親和性マトリックスとを接触させる。次に、夾雑物を洗浄除去する。そして、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントからアゾキシストロビンを放出させるための溶離剤を親和性マトリックスに加える。このようにして、液体試料中のアゾキシストロビンを、免疫学的に夾雑物の少ない状態で、元の試料中の濃度の数千から数万倍もの高倍率に濃縮できる。これにより、試料中に極微量しか存在しないアゾキシストロビンでも、抗体を利用しない他の濃縮方法と比較して、はるかに高倍率に濃縮することができ、しかも定量を妨害する夾雑物等の含量の少ない濃縮液を得ることができる。被検試料を溶解して親和性マトリックスと接触させるのに用いる溶剤は、アセトニトリル、エタノールまたはメタノールなどであるが、これらに限定されない。アセトニトリルまたはエタノールの場合は、1%(v/v)以上50%(v/v)以下であり、メタノールの場合は1%(v/v)以上60%(v/v)以下の濃度のものが使用できる。
【0064】
本発明のアゾキシストロビンに対するモノクローナル抗体の重要な特徴は、アゾキシストロビン抗原に対する高い結合能(親和性)を有することである。
【0065】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0066】
アゾキシストロビンハプテン合成10
【化7】

三方コック、コンデンサーを付け、撹拌子を入れた100 mL枝付きナスフラスコに、2−メチル−4−ヨードフェノール1 (340.3 mg、10.0 mmol)、K2CO3 (6910.2 mg、50.0 mmol)、Pd(PPh3)4 (11.6 mg、0.01 mmol)を加え、脱気、Ar置換を行った。そこへ無水N,N-Dimethylformamide (DMF、10 mL)を加え脱気を行った後、メチルアクリレート(2.7 mL、30 mmol)を加え、80 ℃で19時間撹拌した。TLCにより2−メチル−4−ヨードフェノール1が残っていないことを確認した後、反応温度を室温にして、吸引濾過によってK2CO3を除去し、溶媒を減圧下、留去することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン = 1:3 v/v→酢酸エチル:ヘキサン= 2:1v/v)で単離、精製し、黄色結晶の化合物2(1863.5 mg)を収率62%で得た。
2:1H-NMR (300 MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 7.61(d, J = 15.9 Hz, 1H), 7.30 (m, 2H), 6.79 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.29 (d, 16.2 Hz, 1H), 5.60 (s, 1H), 3.80 (s, 3H), 2.26 ppm (s, 3H)
13C-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 168.34, 156.36, 145.21, 131.24, 127.80, 127.12, 124.70, 115.46, 114.91, 51.83, 15.92.
【0067】
三方コックを付け、撹拌子を入れた100 mLナスフラスコに、化合物2(11567.2 mg、6.02mmol)、MeOH (10 mL)、Pd/C (640.0 mg、Pd:0.30 mmol)を加え、さらに、H2ガス置換した後、H2ガス雰囲気下、室温で20時間撹拌した。TLC及び1H-NMRにより反応終了を確認後、セライトを用いた吸引濾過によってPd/Cを除去し、溶媒を減圧下、留去することで粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン= 1:1 v/v)で単離精製し、化合物3(877.4 mg)を収率75%で得た。
3:1H-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 6.92 (d J-- = 8.1Hz, 2H), 6.68(d, J = 8.1 Hz, 1H), 5.56 (s, 1H), 3.68 (s, 3H), 2.86 (t, J= 7.5 Hz, 2H), 2.60 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.22 (s, 3H).
13C-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 174.13, 152.56, 132.33, 130.97, 126.67, 124.09, 114.96, 51.86, 36.23, 30.21, 15.93.
【化8】

8の合成は以下のようにして行なった。三方コックを付け、撹拌子を入れた100 mLナスフラスコに、MeOH (25 mL),さらにAcCl(5.00 mL)を加え、飽和HCl/MeOH溶液とした。これに4(5.00g、32,9 mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。その後、TLC及び1H-NMRにより反応終了を確認後、MeOHを除去し、飽和NaHCO3溶液(10mL)を加えて中和後、エーテルで抽出し、エーテルを減圧下、留去することでメチルエステル体粗生成物を得た。得られた粗生成物は、精製することなく三方コックを付け攪拌子を入れた200 mLナスフラスコ中のDMF (60 mL)に溶解させ、K2CO3(4.80g、34.8 mmol)およびDMF (15 mL)に溶解したBnBr(5.85 g、34.2 mmol)を滴下ロートより室温で加え、室温で10時間攪拌後、水(15mL)を加え、生成物をエーテルで抽出し、Na2SO4で乾燥後、エーテルを減圧下、留去することでベンジルエーテル5を定量的に得た。
5:1H-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 7.20-7.45 (m, 7H), 6.85 (m, 2H), 5.20 (brs, 2H), 3.65 (s, 2H), 3.62 (s, 3H).
【0068】
得られた5(516.6 mg, 2.00 mmol)に蟻酸メチル(2.50 mL、20.0 mmol)と60wt%NaH(160.0 mg、4.00 mmol)を加え3時間撹拌した。その後、飽和NH4Cl(10 mL)で反応を止め、さらに1N HCl溶液で弱酸性とした。生成したホルミル化体をエーテルで抽出し、Na2SO4で乾燥した。溶媒を減圧下、留去することで相当するホルミル化体組成生物(579.5 mg)を得た。引き続き三方コックを付けた30 mLナスフラスコに、撹拌子、DMF ( 4.0 mL)、K2CO3 (580.5 mg、4.2 mmol)およびジメチル硫酸(0.25 mL、2.60 mmol )を加え、これにホルミル化体組成生物(579.5 mg)をDMF(1 .0 mL)に溶解して加えた。反応は室温で2時間行った後、水(1.0 mL)を加え、生成物をエーテルで抽出し、Na2SO4で乾燥した。溶媒を減圧下、留去することで得られた粗生成物6は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン= 8:1 →4:1 v/v)で単離精製を行い、化合物6(481.4 mg)を収率81%で得た。
【0069】
化合物6(481.4 mg, 1.61 mmol)をメタノール溶媒中、5%Pd/C (10.0 mg)触媒、 H2雰囲気下にて室温で18時間攪拌することで加水素化分解し、ベンジル保護基を外すことによりフェノール誘導体7(237.8 mg)を71%収率で得た。
7:1H-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 7.62 (s, 1H), 7.22(d, J= 7.60, 1H), 6.90 (d, J=7.6, 1H), 6.70 (d, J=7.62, 1H), 3.65 (s, 2H), 3.62 (s, 3H).
【0070】
フェノール誘導体7(111.3 mg, 0.534 mmol)とジクロロピリミジン(159.4 mg, 1.07 mmol)をDMF (1.0 mL)中で塩基K2CO3(147.9 mg, 10.7 mmol)存在下室温で15時間撹拌してカップリングさせ、化合物8(115.7 mg) を67%収率で得た。
8:1H-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) =8.79 (s, 1H), 7.42 (s, 1H), 7.30-7.41 (m,, 3H), 7.18 (d, J=6.7Hz, 1H), 6.68 (s, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.59 (s, 3H).
【化9】

次に上記で得られた3と8とのカップリング反応を行なった。即ち三方コックを付けた10 mLナスフラスコに撹拌子,DMF ( 10 mL), 3( 76.3 mg, 0.393 mmol)および8(115.7 mg, 0.361 mmol)を入れ、塩基K2CO3(54.4 mg, 0.393 mmol)存在下、室温で15時間撹拌しカップリングさせ、相当するアゾキシストロビンハプテン前駆体9(101.9 mg)を59%収率で得た。
9:1H-NMR (300MHz, CDCl3):δ(ppm ) =8.40 (s, 1H), 7.42 (s, 1H), 7.02-7.41 (m, 6H), 6.85 (d, J=6.7 Hz, 1H), 6.20 (s, 1H), 3.73 (s, 3H) 3.65 (s, 3H), 3.49 (s, 3H), 2.92 (t, J=6.7 Hz,, 2H), 2.62 (t, J=6.7 Hz,, 2H), 2.12 (s, 3H)。
【0071】
得られたアゾキシストロビンハプテン前駆体9(90.4 mg, 0.190 mmol )は直ちに撹拌子を入れた 5 mLナスフラスコに入れ、THF/H2O (1:1 v/v), 5mL中、LiOH (8.0 mg, 0.19 mmol)で加水分解を行ない相当するカルボン酸誘導体10(88.5mg)を定量的に得た。
10:1H-NMR(300MHz, CDCl3):δ(ppm ) = 8.40 (s, 1H), 7.46 (s, 1H), 7.42-7.28 (m, 3H), 7.21 (m, 2H), 7.13-6.09 (m, 2H), 6.99-6.92 (m, 1H), 6.12 (s, 1H), 3.74 (s, 3H), 3.59 (s, 3H), 2.96 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 2.70 (t, J = 7.8 Hz, 2H). 2.13ppm (s, 3H)
これをアゾキシストロビンハプテンとして抗体作製に供した。
【実施例2】
【0072】
(免疫原の調製)
免疫原としてスカシガイヘモシアニン(KLH)とBSAを用い、アゾキシストロビンとそれぞれの免疫原との複合体を、活性エステル法を用いて作製した。
【0073】
実施例1で得られたアゾキシストロビンハプテン10.3mgをDMSO 1.03mLに溶解し、ここに、N-ヒドロキシスクシンイミド4.5mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボキシジイミド 塩酸塩8.3mgを加え、室温で2時間反応させた。85mMホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにKLH 20mg、BSA 10mgをそれぞれ溶解し、ここに、上記の反応液を、KLHには206μL、BSAには277μL添加し、室温で1.5時間反応させた。反応終了後、それぞれPBSにて透析し、アゾキシストロビンハプテンとKLHの結合体、アゾキシストロビンハプテンとBSAの結合体を調製した。
【実施例3】
【0074】
(モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製)
実施例2で調製した免疫原を1mg/mLとなるようにPBSに溶解し、これに等量の完全アジュバント(商品名:フロイント完全アジュバント;FCA)を混合しエマルジョン化し、その100μLを6〜7週齢のメスのBALB/cマウスに腹腔投与した。これと同様の手順で、不完全アジュバント(商品名:フロイント不完全アジュバント;FICA)を等量混合した0.5mg/mLの免疫原100μLを2週間毎に追加免疫した。4回の免疫後、眼底から採血し、血清中の抗体力価が十分に上がっていることを間接ELISAにて確認した。
【0075】
間接競合阻害ELISA法によるアゾキシストロビンの検出
(1)実施例1で得られたアゾキシストロビンとBSAとの複合体を、PBSを用いて1μg/mLに希釈し、96穴マイクロプレートに100μL/ウェルずつ分注し、4℃で一晩放置することにより固相化した。次に液を吸引除去後、0.4%BSAおよびPBSを300μL/ウェル分注し、4℃で一晩静置することによりブロッキングを行った後、ブロッキング液を吸引除去した。
【0076】
(2)メタノールに溶解したアゾキシストロビンを、それぞれ0.2%BSA含有PBSに加え、アゾキシストロビンの濃度が0.0、0.0125、0.05、0.25、1.25、5μg/mLメタノール濃度が1%になるように調製した。一方、得られた抗血清は、0.2%BSA含有PBSで2000倍に希釈した。アゾキシストロビンの希釈溶液と抗血清希釈液を、(1)で作製したアゾキシストロビンハプテンとBSAとの複合体固相化プレートに50μL/ウェルずつ分注して、25℃で1時間静置しアゾキシストロビンの競合阻害反応をさせた。
【0077】
(3)HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)と抗マウスIgG ヤギ抗体の複合体(PIERCE社)を、0.2%BSAおよびPBSで8000倍に希釈して2次抗体希釈液とした。
【0078】
(4) (2)で反応させたウェルを、PBSで3回洗浄したあと、上記の2次抗体希釈液を100μL/ウェル分注して、25℃ 1時間静置して反応させた。
【0079】
(5)上記の(4)で反応させた後のウェルを、PBSで3回洗浄し、TMB基質溶液(100μg/mLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジンおよび0.006%過酸化水素を添加した0.1N 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5))100μLをウェルに加え、25℃で10分間インキュベーションした後、1N硫酸100μLをウェルに加えて発色反応を止め、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで検出した。
【0080】
モノクローナル抗体の確認
血中の抗体価が十分に高くなったマウスを用いて、最終免疫(20μg/マウス)した。その3日後に当該マウスから脾臓を摘出し細胞融合に供した。
【0081】
摘出した脾臓を無血清RPMI1640培地中で余分な組織片を切除したあと、脾臓から完全に細胞を取り出し、培地中に浮遊させた。浮遊している大きな組織片を沈降させるために5分間静置、細胞浮遊液を遠沈管に集め、1500rpmで遠心し、上清を吸引除去して、新しい無血清RPMI1640を添加して細胞を浮遊させた。この操作を2回繰り返した。
【0082】
あらかじめ培養してあったミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)を回収し、遠沈、上清除去、無血清RPMI1640培地で再浮遊を2回繰り返した。
【0083】
それぞれの細胞数を計数して脾臓細胞とミエローマ細胞との比率が10:1〜7.5:1になるように混合し、1500rpmで5分間遠心して,上清を吸引除去した。
【0084】
遠沈管を激しく攪拌しながら50%ポリエチレングリコール(分子量1500)溶液2mLを約60秒かけて添加した。次いで約10mLの無血清RPMI1640を攪拌しながら3〜4分かけて添加した。
【0085】
遠沈管を1000rpm,5分で遠心して上清を完全に吸引除去し、脾臓細胞が2.5×10個/mLになるようにHT培地(ヒポキサンチン、チミジン、10%牛胎児血清入RPMI1640培地)に浮遊させ、96穴培養プレートに100μL/ウェル分注し、37℃、8%炭酸ガス、加湿条件下で培養を開始した。
【0086】
翌日に約40μL/ウェルのHAT培地(ヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリン、10%牛胎児血清入RPMI1640培地)を添加し、ミエローマ細胞が死滅し、ハイブリドーマ細胞のコロニーが形成されるまで観察を続け、以後は細胞の状態を見ながらHT培地を添加した。
【0087】
培養開始から10日後に培養液を採取し、間接競合阻害法でアゾキシストロビンに対する抗体を産生しているウェルをスクリーニングし、96ウェル、48ウェル、24ウェルと順次培養スケールを上げた。
【0088】
24ウェルの段階で限界希釈法によるクローニングを行ない、アゾキシストロビンに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株AZS11A-10F-9Hを得た。得られたハイブリドーマについては、受領番号FERM−AP−21815の下に独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託した。
【0089】
ここで、ハイブリドーマのスクリーニングは、アゾキシストロビンとの反応性が100ppbを下回りかつほぼ等価であることを指標に行った。また、濃度を変えたメタノール存在下でのアゾキシストロビンとの反応性が、可能な限り高いものを選択することを指標にスクリーニングを行うことで、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株AZS11A-10F-9Hを得た。
【実施例4】
【0090】
(モノクローナル抗体の作製)
実施例3で得られたAZS11A-10F-9H抗体産生ハイブリドーマ株を10%牛胎児血清入りRPMI1640で培養し、約2×10個の細胞をBALB/c マウスの腹腔内に注射し、腹水液を採取した。得られた腹水はプロテインG カラムによりIgG精製を行った。得られたモノクローナル抗体はサブクラスがIgG1であり、軽鎖はいずれもκ鎖である。
【実施例5】
【0091】
実施例4で作製したモノクローナル抗体を用いて、農産物および環境中の殺菌剤アゾキシストロビンを特異的に検出するELISAキットを表1に示す構成で構築した。
【表1】

(1)表1に示すキット中、アゾキシストロビン酵素標識物試薬は、直接競合ELISAにおいてトレーサーとして用いる。アゾキシストロビンハプテンと西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とを活性エステル法により結合させて調製した。
【0092】
アゾキシストロビンハプテン2.1mg、N−ヒドロキシスクシンイミド1.2mgおよび1−エチル-3−(3-ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩1.9mgを、N,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解し、この溶液を25℃の暗所に1.5時間放置しアゾキシストロビンハプテン溶液とした。
【0093】
別途、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにHRPを10mg加え、一晩攪拌することにより、HRP溶液を得た。
【0094】
このHRP溶液に、先に調製したアゾキシストロビンハプテン溶液を徐々に滴下し、暗所にて室温で1.5時間攪拌した。反応終了後、4℃で一晩生理的リン酸緩衝液(PBS、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)に対して透析した後、30℃で貯蔵した。ゲル濾過で精製を行い、濃度の測定はDCプロテインアッセイで行った。
【0095】
(2)表1に示すキット中、アゾキシストロビン抗体プレートを以下のようにして作製した。
すなわち、抗マウスIgGウサギ抗体をPBS緩衝液(10mM NaPB、150mM NaCl)で10μg/mLに希釈し、96穴マイクロプレートに100μg/ウェルづつ分注し、4℃で一晩放置することにより固相化した。次に液を吸引除去後、PBS緩衝液(0.4%BSA、10mM NaPB、150mM NaCl、pH7.0)を300μg/ウェル分注し、4℃で一晩静置することによりブロッキングを行った後、ブロッキング液を吸引除去した。
【0096】
次に、実施例4で得られたモノクローナル抗体(ハイブリドーマAZS11A-10F-9Hにより産生されたAZS1)をPBS緩衝液(0.2%BSA、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)で0.1μg/mLに希釈し、(1)で作製した抗マウスIgGウサギ抗体固相化プレートに100μL/ウェルづつ分注した、25℃で1時間静置した後、PBSで洗浄しアゾキシストロビン抗体プレートとした。
【実施例6】
【0097】
(直接競合阻害活性測定)
表1に示すキットを用いて、アゾキシストロビン(和光純薬)を始めとする各種農薬の標品の濃度測定を行った。
【0098】
アゾキシストロビン酵素標識物試薬をPBS緩衝液(0.4%BSA、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)で0.029μg/mLに希釈しHRP希釈液とした。
【0099】
上記HRP希釈液150μLと10%メタノール溶液に溶解したアゾキシストロビンの標準溶液150μLを加え、最終の濃度が、0、4、8、16、32、63、250、および500ng/mLとなるように調製して、そのうちの100μLをアゾキシストロビン抗体プレートに加え、20℃で1時間静置した後、PBSで3回洗浄した。
【0100】
HRP基質溶液(100μg/mLの3,3‘,5,5’−テトラメチルベンチジンおよび0.006%過酸化水素を添加した0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5))100μLをウェルに加え、25℃で10分間インキュベーションした後、1N硫酸100μLをウェルに加えて酵素反応を止め、15分以内に、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(商品名スマートリーダー、堀場製作所製)で測定した。
【0101】
同様に、このキットを用いて、(E)−メトミノストロビンスタンダード(和光純薬)、トリフロキシストロビンスタンダード(和光純薬)、またはクレソキシムメチルスタンダード(和光純薬)に対する阻害活性を測定した。
【0102】
アゾキシストロビンモノクローナル抗体AZS1についての直接競合阻害法によるアゾキシストロビン、(E)−メトミノストロビン、トリフロキシストロビン、またはクレソキシムメチルの阻害は、表2〜表6に示す通りである。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0103】
これらの結果から、本発明のアゾキシストロビンに対する抗体を用いることにより、アゾキシストロビンと(E)−メトミノストロビンの阻害曲線が導かれる(図1および図2)。従って、本発明の抗体により、アゾキシストロビンと(E)−メトミノストロビンとは一定範囲内での測定が可能であることが見出された。
【0104】
すなわち、直接競合ELISA法によるアゾキシストロビンの測定可能な範囲は5ng/mL〜400ng/mLであり、50%阻害を示す値(IC50値)は38.1ng/mLであった。一方、(E)−メトミノストロビンの測定可能な範囲は、100ng〜30000ng/mLであり、50%阻害を示す値(IC50値)は4667ng/mLであった。
【0105】
以上の結果から、本発明のアゾキシストロビン誘導体を用いて得られるモノクローナル抗体を使用する直接競合ELISA法により、アゾキシストロビン分析の大幅な簡略化および測定時間の短縮が可能となり、多数の検体を迅速、簡便且つ低コストで測定できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化10】

(式中、Rは、シアノ基またはメチル基を表し、nは、0から10までのいずれかの整数を表す)で表わされる構造を有する化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物と高分子化合物との複合体からなるアゾキシストロビン抗原。
【請求項3】
請求項2記載の複合体を抗原として用いることにより得られる、アゾキシストロビンに対する抗体またはそのフラグメント。
【請求項4】
前記抗体が、モノクローナル抗体またはそのフラグメントである、請求項3記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項5】
請求項3または4に記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
前記ハイブリドーマが、AZS11A-10F-9Hである、請求項5に記載のハイブリドーマ。
【請求項7】
請求項3または4に記載の抗体またはそのフラグメントを含んでなるアゾキシストロビンの測定キット。
【請求項8】
請求項3または4に記載の抗体またはそのフラグメントを試料に接触させる工程を含むアゾキシストロビンの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26315(P2011−26315A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149812(P2010−149812)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】