説明

アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤およびその製造方法

【課題】アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤を提供
する。
【解決手段】p−アミノフェノールをジアゾ化する第1工程、次いで、カップリング反応
を行い、OH−azoを合成する第2工程、1,2−ジブロモエタンによりBr−azo
を合成する第3工程、さらに、ジメチルアミンによりDN−azoを合成する第4工程、
最後に、フッ化炭素鎖を導入する第5工程からなることにより、アゾベンゼン骨格をスペ
ーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤を実現した。また、前記第5工程の後、得られたGemini型フッ素系界面活性剤をイオン交換する第6工程を施しても、新規なGemini型フッ素系界面活性剤を得ることができる。本発明のGemini型フッ素系界面活性剤は、トランス体:シス体の割合は10:0であったが、紫外光照射後には、トランス体:シス体の割合が2:8と変化した。また、可視光照射によりシス体からトランス体へと光異性化し,可逆変化することを示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型界面活性剤としては、4,4’−ビス(トリメチルアンモニウムヘキシルオキシ)アゾベンゼンブロミド(4,4’−bis(trimethylammoniumhexyloxy)azobenzene bromide)が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
また、Gemini型界面活性剤の製造方法として、E−16azo16と称され、アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型界面活性剤の合成が、3−アルコキシ−4ーメチルニトロベンゼンを還元的カップリングすることにより得られる化合物をブロモ化後、それに続いて起こるトリメチルアミンを用いたアミノ化により達成される(The synthesis of the desired symmetrical gemini surfactant was achieved by reductive coupling of the corresponding 3−alkoxy−4−methylnitrobenzene, followed by bromination and subsequent amination with trimethylamine to afford E−16azo16.)ことも知られている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【0004】
【非特許文献1】「Using Light to Control Dynamic Surface Tensions of Aqueous Solutions of Water Soluble Surfactants」Langmuir 1999, 15,4404−4410
【非特許文献2】「Photoinduced morphism of gemini surfactant aggregates」www.rsc.org/chemcomm First published as an Advance Article on the web 17th January 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型界面活性剤にフッ化炭素鎖を導入した化合物および当該化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
下記一般式(1)で表される、本発明の第1発明である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面活性剤は、中間体4,4−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得て、最後にフッ化炭素鎖を導入することを最も主要な特徴とする。
【0007】
【化1】

(式中Rは炭素数1から3のアルキル基である)
【0008】
具体的には、かかる第1発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面活性剤は、下記一般式(2)
【0009】
【化2】

で表されるp−アミノフェノールの塩酸塩水溶液を亜硝酸ナトリウムにより、下記一般式(3)
【0010】
【化3】

のジアゾ化合物を得る第1工程、次いで、硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下し、カップリング反応を行い、下記一般式(4)
【0011】
【化4】

の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る第2工程、次いで、炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンとアセトン溶媒中で加熱還流し、下記一般式(5)
【0012】
【化5】

の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る第3工程、さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンとアセトン溶媒中で反応させ、下記一般式(6)
【0013】
【化6】

の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得る第4工程、最後にフッ化炭素鎖を導入することにより、下記一般式(1)
【0014】
【化7】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドを得る第5工程、に示されるGemini型フッ素系界面活性剤の製造方法により得ることができる。
【0015】
また、下記一般式(1´)で表される、本発明の第2発明である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるGemini型フッ素系界面活性剤は、4,4´−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドをイオン交換することにより得ることを最も主要な特徴とする。
【0016】
【化8】

(式中Rは炭素数1から3のアルキル基である。)
【0017】
具体的には、かかる第2発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるGemini型フッ素系界面活性剤は、下記一般式(2)
【0018】
【化9】

で表されるp−アミノフェノールの塩酸塩水溶液を亜硝酸ナトリウムにより、下記一般式(3)
【0019】
【化10】

のジアゾ化合物を得る第1工程、
次いで、硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下し、カップリング反応を行い、
下記一般式(4)
【0020】
【化11】

の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る第2工程、
次いで、炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンとアセトン溶媒中で加熱還流し、
下記一般式(5)
【0021】
【化12】

の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る第3工程、
さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンとアセトン溶媒中で反応させ、
下記一般式(6)
【0022】
【化13】

の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得る第4工程、
そして、フッ化炭素鎖を導入することにより、下記一般式(1)
【0023】
【化14】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドを得る第5工程、
最後に、上記一般式(1)のI基をイオン交換によりCl基に置換することにより得られる、下記一般式(1´)で表され、
【0024】
【化15】

式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドを得る第6工程、に示されるGemini型フッ素系界面活性剤の製造方法により得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のアゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤は、その物性が光によって変化するために、光によって制御できるという利点がある。
【0026】
具体的には、本発明の第1発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤(F4H3I−azo)は、界面活性剤として、水に溶かして水面上単分子膜を形成するだけでなく、水中でミセル及びベシクル等の会合体を形成させることができる。また、本発明の第1発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤は、Langmuir−Blodgett法により多層膜を作製することも可能であり、F4H3I−azoの膜及び会合体の構造は、光照射により変化させることが可能であるので、洗浄、乳化、ぬれ等の現象を光により制御することができるため、土壌中に含浸している石油の高次回収、乳化重合プロセスにおける乳化剤、マイクロチャンネルにおける流動制御等に広く適用することができる。
【0027】
そして、F4H3I−azoが水中において形成する会合体は、カチオン性であるため、疾病細胞に対する遺伝子導入担体としての利用も可能であり、細胞への遺伝子導入を光制御できる等、本発明の第1発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤(F4H3I−azo)は広範な用途に利用できる。
【0028】
本発明の第2発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤(F4H3Cl−azo)は、前記した第1発明の奏する効果に加えて、水溶液中においてミセルを形成するが、その形成を光照射により制御することが可能である。このため、界面活性剤ミセルが関与する、ぬれ、可溶化、分散、乳化等の現象を光により制御することが可能である。
【0029】
また、本発明の第2発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤は、水溶液中においてベシクルを自発的に形成する。かかるベシクル(界面活性剤会合体)は水溶液中に正の電荷を帯びるため、疾病細胞に対する遺伝子導入担体として利用も可能であり、細胞への遺伝子導入を光により制御できる。かかるGemini型界面活性剤が形成するベシクルは紫外光(UV)照射により、その構造を崩壊させるため、光を用いることにより、遺伝子の導入を制御できることが期待できるものである。
【0030】
これは、界面活性剤の末端に導入したフェロセニル基という酸化還元活性な官能基を酸化、あるいは還元することでベシクルの形成と崩壊を制御し、DNAの導入を制御する手段である。具体的には、本発明のGemini型界面活性剤はアゾベンゼン骨格を有するため、紫外光−可視光の照射により、その分子構造を変化させることが可能であり、例えば、水中でアニオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムとの混合により、ベシクルという分子集合体を形成する。このベシクルはDNAと静電的にコンプレックスを形成することができるので、例えば、ベシクル−DNAコンプレックスを標的とする細胞へ導入し、その細胞内でDNAから治療効果のあるタンパクを合成させることができるので、遺伝子治療における、遺伝子導入剤としての適用が十分に期待できる。このように、本発明の第2発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤(F4H3Cl−azo)も広範な用途に利用できる。
【0031】
また、本発明のGemini型フッ素系界面活性剤の製造方法は、前記した本発明に係るGemini型フッ素系界面活性剤を簡便に製造する方法として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるフッ素系Gemini型界面活性剤は、
(1)p−アミノフェノールをジアゾ化する第1工程、
(2)次いで、カップリング反応を行い、4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを合成
する第2工程、
(3)次いで、1,2−ジブロモエタンにより4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを合成する第3工程、
(4)さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンにより4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを合成する第4工程、
(5)最後に、前記中間体4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンにフッ化炭素鎖を導入する第5工程からなることを特徴とする。
このようにして、アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活
性剤を実現した。
【0033】
また、本発明の第2発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるフッ素系Gemini型界面活性剤は、
(1)p−アミノフェノールをジアゾ化する第1工程、
(2)次いで、カップリング反応を行い、4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを合成
する第2工程、
(3)次いで、1,2−ジブロモエタンにより4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを合成する第3工程、
(4)さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンにより4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを合成する第4工程、
(5)そして、前記中間体4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンにフッ化炭素鎖を導入する第5工程、
(6)4,4´−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるフッ素系Gemini型界面活性剤をイオン交換する第6工程からなることを特徴とする。
このようにしても、アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤を実現することができる。
【0034】
ここで、前記(5)で導入可能なフッ化炭素鎖としては、例えば、C2n+1(CHI(nは2以上の整数であり、好ましくは2、4、6または8である。)を挙げることができ、例えば、C(CHIを使用することができる。また、前記(6)で適用可能なイオン交換法としては、特に制限はなく、例えば、カラムを用いたイオン交換クロマトグラフィにより、一般式(1)のI基をCl基に置換すればよい。
【実施例】
【0035】
実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤の製造(1)
以下の方法を用いて、本発明の第1発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面活性剤(下記式(1−a))を製造した。
【0037】
【化16】

【0038】
「第1工程:ジアゾ化」
【化17】

【0039】
500mlのビーカーに、p−アミノフェノール2.00g(18.34mmol)をとり、水20.00mlを加えて水溶液とした。
そして、塩酸7.32ml、水29.28mlを30分かけて滴下し、塩酸塩水溶液とした。
続いて、水108.00mlに溶かした亜硝酸ナトリウム1.26g(18.34mmol)を、前記塩酸塩水溶液に、2時間かけて、ゆっくりと滴下し、ジアゾ化を行った。以上の操作は、0〜3℃で行った。
【0040】
「第2工程:4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンの合成」
【化18】

【0041】
別のビーカーに、硫酸銅(II)五水和物8.15g(32.65mmol)とアンモニア水5.47ml(29.00mmol)と塩化ヒドロキシルアンモニウム1.28g(18.34mmol)をとり、水18.30mlに溶解させてジアゾニウム塩水溶液を作成した。このジアゾニウム塩水溶液に前記ジアゾ化物を滴下し、さらにジエチルエーテル18.00mlを加え、カップリング反応を行った。反応終了後、ろ過し、希塩酸液で洗浄し粗生成物とした。これを、アセトン−水系で再結晶することにより目的生成物を得た。
【0042】
この目的生成物について、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。NMR、IR、Massの各スペクトルを図1、図2、図3に示す。
【0043】
得られた目的生成物は、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)であると同定した。
収量 3.73g(17.42mmol)
収率 95%
性状 黄色固体
【0044】
「第3工程:4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンの合成」
【化19】

【0045】
還流冷却器を装備した200mlナス型フラスコに、OH−azo0.20g(0.93mmol)、炭酸カリウム0.90g(6.54mmol)、1,2−ジブロモエタン1.76g(9.34mmol)および溶媒としてアセトンを用い、70℃ で50時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、アセトン−水系で再結晶することにより、目的生成物を得た。
【0046】
この目的生成物について、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。NMR、IR、Massの各スペクトルを図4、図5、図6に示す。
【0047】
得られた目的生成物は、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)であると同定した。
収量 0.35g(0.81mmol)、
収率 87%、
性状 黄色固体。
【0048】
「第4工程:4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼンの合成」
【化20】

【0049】
窒素置換をした100mlナス型フラスコに、Br−azo0.28g(0.66mmol)、ジメチルアミン2.25ml(24.21mmol)、および溶媒としてアセトンを用い、室温で5日間攪拌した。反応終了後、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、クロロホルム−水系によって分液操作し、クロロホルム層を減圧留去した。これをアセトン−水系で再結晶することにより、目的生成物を得た。
【0050】
この目的生成物について、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。NMR、IR、Massの各スペクトルを図7、図8、図9に示す。
【0051】
得られた目的生成物は、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)であると同定した。
収量 0.03g(0.07mmol)
収率 11%
性状 黄金色固体
【0052】
「第5工程:4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面活性剤の合成」
【化21】

【0053】
窒素置換をした還流冷却器を装備した100mlナス型フラスコに、4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)0.01g(2.81×10−2mmol)、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチルヨージド0.08ml(3.67×10−2mmol)、および溶媒としてアセトニトリルを用い、92℃ で1週間、加熱還流した。反応終了後、減圧留去し、粗生成物を得た。これを酢酸エチルで再結晶することにより、目的生成物を得た。
【0054】
この目的生成物について、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより分析を行った。NMR、IR、Massの各スペクトルを図10、図11、図12に示す。
【0055】
得られた目的生成物は、H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイド(F4H3I−azo)からなるGemini型フッ素系界面活性剤であると同定した。
収量 0.02g(1.77×10−2mmol)
収率 62.9%
性状 黄色固体、吸水性
【0056】
「物性の測定:光吸収スペクトル」
水中におけるアゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤
の紫外光および可視光の吸収スペクトルを測定した。結果を図13に示す(なお、図13中、「Before UV」は紫外光照射前、「After UV 30sec」は、紫外光30秒を照射後、をそれぞれ示す。)。アゾベンゼン由来のπ−π遷移を中心としたピークが紫外光照射前に351nmで観測され、この状態で紫外光を30秒照射すると、351nmのピークが消失し、π−π遷移のピークが440nmに確認できた。
さらに可視光を5分間照射すると、紫外光照射前の吸収スペクトルに戻った。
また、可視光を照射せずに、21時間、暗所下で静置した場合にも、同様な結果が得られた。
【0057】
「物性の測定:異性化率」
次に,紫外光照射前後におけるF4H3I−azoの異性化率をH−NMRで調べた。照射前では、トランス体:シス体の割合は10:0であったが、照射後には、トランス体:シス体の割合が2:8と変化した。
【0058】
「物性の測定:表面張力及び臨界ミセル濃度」
次に、F4H3I−azoの水面上単分子膜を作製し、紫外光照射前後におけるF4H3I−azo水溶液の表面張力及び臨界ミセル濃度を43℃において調べた。
F4H3I−azo濃度が0.028mMの場合、照射前では、表面張力は47mN/mであったが、照射後では表面張力は8mN/m増加し、56mN/mになった。
また、F4H3I−azo濃度が1.0mMの場合、照射前では、表面張力は25mN/mであったが、照射後では表面張力は4mN/m減少し、21mN/mになった。
さらに、F4H3I−azoの臨界ミセル濃度は、光照射で0.12mMから0.53mMへと大きく変化した。
【0059】
以上の結果から、F4H3I−azoは、水中において紫外光照射により、トランス体からシス体へ、可視光照射によりシス体からトランス体へと光異性化し、可逆変化することを示した。
また、光照射により、F4H3I−azo水溶液の表面張力を大きく変化させることが可能であるとともに、F4H3I−azoミセルの形成と破壊を制御できることも示した。
【0060】
[実施例2]
アゾベンゼン骨格をスペーサーとするGemini型フッ素系界面活性剤の製造(2)
以下の方法を用いて、本発明の第2発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるGemini型フッ素系界面活性剤(下記式(1´−a))を製造した。
【0061】
【化22】

【0062】
第1工程:4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるフッ素系Gemini型界面活性剤の合成」
【0063】
前記した実施例1の第1工程ないし第5工程に示した方法と同様な方法を用いて、本発明の第1発明に係る4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面活性剤を製造した。
【0064】
得られた4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイド0.50g(5.7mmol)をイオン交換樹脂(アンバーライトIRA900J CL)に通すことにより目的生成物を得た。具体的には、ガラス製カラムにイオン交換樹脂(アンバーライトIRA900J CL)を充填したのち、その充填カラムに、4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドのアセトン溶液を通し,イオン交換を行った。そして、カラムを通して得られた溶液から溶媒を減圧留去することにより目的生成物(4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライド)(F4H3Cl−azo)を得た。
【0065】
収量 0.48g(5.5mmol)
収率 95%
性状 黄色固体、吸水性
【0066】
「物性の測定:クラフト点」
得られた目的生成物(F4H3Cl−azo)の水溶液について、そのクラフト点を目視観察および示差走査熱量分析計を用いて測定したところ、0℃以下であり、水溶性が高いことが確認できた。
【0067】
「物性の測定:表面張力および臨界ミセル濃度(cmc)」
F4H3Cl−azoの水溶液を調製し、そのトランス体の表面張力を25℃において測定した。その結果を図14に示す。また、F4H3Cl−azoの水溶液に紫外光を照射し、F4H3Cl−azoがシス体である場合の表面張力も25℃で測定した。その結果も図14にあわせて示す。
【0068】
図14は、F4H3Cl−azoの表面張力−濃度曲線を示した図である。図14に示すように、トランス体、シス体ともに、最低表面張力値は、24mN/mであった。また、cmcはトランス体の場合が0.45mMであったのに対し、シス体の場合は0.56mMとなった。
【0069】
「物性の測定:自発的ベシクル形成」
21mMのF4H3Cl−azoの水溶液を調製して試料サンプルとした。かかる試料サンプルについて微分干渉顕微鏡を用いて観察した。その結果を図15に示す。
【0070】
図15は、F4H3Cl−azo水溶液の微分干渉顕微鏡像を示した図である。図15に示すように、試料サンプルには粒子径が3〜5μmのベシクルが多数自発的に形成されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
F4H3I−azoは、界面活性剤として、水に溶かして水面上単分子膜を形成するだけでなく、水中でミセル及びベシクル等の会合体を形成させることができる。また、Langmuir−Blodgett法により多層膜を作製することも可能であり、F4H3I−azoの膜及び会合体の構造は、光照射により変化させることが可能であるので、洗浄、乳化、ぬれ等の現象を光により制御することができる。
【0072】
そして、F4H3I−azoが水中において形成する会合体は、カチオン性であるため、疾病細胞に対する遺伝子導入担体としての利用も可能であり、細胞への遺伝子導入を光制御できる等、F4H3I−azoは広範な用途に利用できる。
【0073】
加えて、F4H3Cl−azoは、水溶液中においてミセルを形成するが、その形成を光照射により制御することが可能である。このため、界面活性剤ミセルが関与する、ぬれ、可溶化、分散、乳化等の現象を光により制御することが可能である。また、F4H3Cl−azoは、水溶液中においてベシクルを自発的に形成する。このベシクル(界面活性剤会合体)は水溶液中に正の電荷を帯びるため、疾病細胞に対する遺伝子導入担体として利用も可能であり、細胞への遺伝子導入を光により制御できる等、F4H3Cl−azoは広範な用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】OH−azoのNMRである。
【図2】OH−azoのIRである。
【図3】OH−azoのMassである。
【図4】Br−azoのNMRである。
【図5】Br−azoのIRである。
【図6】Br−azoのMassである。
【図7】DN−azoのNMRである。
【図8】DN−azoのIRである。
【図9】DN−azoのMassである。
【図10】F4H3I−azoのNMRである。
【図11】F4H3I−azoのIRである。
【図12】F4H3I−azoのMassである。
【図13】DN−azoの水中における紫外光・可視光吸収スペクトルである。
【図14】F4H3Cl−azoの表面張力−濃度曲線を示した図である。
【図15】F4H3Cl−azo水溶液の微分干渉顕微鏡像を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドからなるGemini型フッ素系界面
活性剤。
【請求項2】
下記一般式(1´)
【化2】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドからなるGemini型フッ素系界面活性剤。
【請求項3】
下記一般式(2)
【化3】

で表されるp−アミノフェノールの塩酸塩水溶液を亜硝酸ナトリウムにより、下記一般式(3)
【化4】

のジアゾ化合物を得る第1工程、
次いで、硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下し、カップリング反応を行い、
下記一般式(4)
【化5】

の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る第2工程、
次いで、炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンとアセトン溶媒中で加熱還流し、
下記一般式(5)
【化6】

の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る第3工程、
さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンとアセトン溶媒中で反応させ、
下記一般式(6)
【化7】

の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得る第4工程、
最後にフッ化炭素鎖を導入することにより、
下記一般式(1)
【化8】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドを得る第5工程からなることを特徴とするGemini型フッ素系界面活性剤の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(2)
【化9】

で表されるp−アミノフェノールの塩酸塩水溶液を亜硝酸ナトリウムにより、下記一般式(3)
【化10】

のジアゾ化合物を得る第1工程、
次いで、硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下し、カップリング反応を行い、
下記一般式(4)
【化11】

の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る第2工程、
次いで、炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンとアセトン溶媒中で加熱還流し、
下記一般式(5)
【化12】

の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る第3工程、
さらに、炭素数1から3のジアルキルアミンとアセトン溶媒中で反応させ、
下記一般式(6)
【化13】

の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得る第4工程、
そして、フッ化炭素鎖を導入することにより、下記一般式(1)
【化14】

で表され、式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムアイオダイドを得る第5工程、
最後に、上記一般式(1)のI基をイオン交換によりCl基に置換することにより得られる、下記一般式(1´)で表され、
【化15】

式中Rは炭素数1から3のアルキル基である4,4’−ジ[2−{ジアルキル−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第4級アンモニウムクロライドを得る第6工程からなることを特徴とするGemini型フッ素系界面活性剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−149601(P2009−149601A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237199(P2008−237199)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】