説明

アディポネクチン産生増強組成物

【課題】 医薬品が糖尿病、肥満及び動脈硬化などの治療に使用されているが、治療効果があっても、様々な副作用を起こすことから、天然物由来で副作用もなく、幅広い飲食品や医薬品に使用可能なアディポネクチンの産生を増強させ、糖尿病、肥満及び動脈硬化を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物及びそれを含有する飲食品及び医薬品を提供することを目的とする。
【解決手段】 アムラー酵素処理物を含有させることにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アムラー酵素処理物を含有することを特徴とするアディポネクチン増強組成物及びそれを含有する飲食品及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省は、肥満者の割合が男性では30〜69歳で約3割、いずれの年齢層においても20年前に比べ1.5倍程度に増加しており、女性では、60歳以上で肥満者の割合が多く、約3割であると2003年に報告している。また、糖尿病についても日本国内の成人のうち、治療中の患者を含めた糖尿病が強く疑われる有病者は約740万人、可能性を否定できない予備軍は約880万人、合計で約1620万人が糖尿病であるとの調査結果と5年前の調査結果より有病者が約50万人、予備軍が約200万人増加しており、今後も増え続けるとの予想を明らかにした。
【0003】
肥満者は正常体重者と比べて約5倍もの高率で糖尿病を発症しやすいといわれており、同様に、高血圧症は約3.5倍、胆石症は約3倍、痛風は約2.5倍、心疾患は約2倍、関節障害は約1.5倍といわれている。他にも、血液中にコレステロールや中性脂肪が増加する高脂血症や,過剰な脂肪が肝臓に沈着した脂肪肝、または呼吸機能障害などもよくみられ、動脈硬化、短命などとも密接に関係しているといわれている。
【0004】
日本人の糖尿病患者の90%以上は2型糖尿病であり、これは複数の原因遺伝子が組合わさり、更に生活習慣などの環境因子が重なって発症する多因子病である。糖尿病や肥満の原因は食生活の欧米化、特に高脂肪食と身体活動の減少など生活習慣に起因したインスリン抵抗性の増大と考えられる。
【0005】
一方、動脈硬化症もまた生活習慣病の一種であり、食生活の欧米化や運動不足、社会の複雑化によるストレスにより増大してきており、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などの原因として重要である。
【0006】
脂肪組織は、以前は単なる中性脂肪の貯蔵庫と考えられていた。しかし、下村、松原らによるヒト脂肪組織発現遺伝子解析の結果、脂肪組織は他の臓器に比べて最も多くの内分泌タンパク質遺伝子を発現している事が明らかとなり、脂肪組織の重要性が注目されている。脂肪組織由来の内分泌因子の総称はアディポサイトカインと呼ばれ、それらの中には、脂肪蓄積とともにその発現が亢進・低下し、脂肪蓄積に伴う合併症発症に強く関与するものが見出されており、糖・脂質代謝異常、動脈硬化の発症・進展に深くかかわることが明らかになってきた(例えば、非特許文献1を参照)。
【0007】
アディポサイトカインの1つであるアディポネクチンは244個のアミノ酸からなるタンパク質で、66アミノ酸のコラーゲン様モチーフ(G−X−Y)をもち、補体系のC1qやコラーゲンX、VIIとホモロジーを有している(例えば、非特許文献2を参照)。アディポネクチンの血中濃度は肥満者において低下し、減量によって増加し、特に、肥満合併症と強く相関する内臓脂肪の蓄積とともにその血中濃度が低下することが報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。
【0008】
アディポネクチンの血中濃度は糖尿病の重症度に比例し、また、インスリンクランプ試験で算出された全身のインスリン感受性と相関があることが知られており、アディポネクチンはインスリン感受性増強ホルモンとしての機能を有していると考えられている(例えば、非特許文献4、5、1を参照)。
【0009】
動脈硬化性疾患、冠状動脈疾患では肥満度とは無関係にアディポネクチンの血中濃度が低下していることが知られている(例えば、非特許文献6を参照)。アディポネクチンは、血管内皮細胞においてNFκBの制御を通じTNF−α依存性の接着因子のVCAM−1、ICAM−1、E−セレクチンの発現を抑制することで血管内皮細胞と単球との接着を阻害する。また、マクロファージの貪食能及びTNF−α産生も低下させる。さらに種々の増殖因子による血管平滑筋細胞の増殖を抑制する作用も有することよりアディポネクチンは抗動脈硬化作用を有することが知られている(例えば、非特許文献6、7、8、9を参照)。
【0010】
糖尿病治療の第一の目標は血糖値を正常に保ち(血糖値を良好にコントロールする)合併症を予防することで、血糖コントロールには食事療法、運動療法及び薬物療法があるが、薬物療法には、インスリン抵抗性を改善するメルホルミンやピログリダゾンがあり、インスリン分泌改善薬としてα−グルコシダーゼ阻害薬、インスリン及びスルホニル尿素薬がある。最近ではビグアナイド薬とスルホニル尿素薬との併用投与もされている。インスリン抵抗性改善作用を持つチアゾリジン誘導体も話題の薬の一つで、日本では現在、ピオグリタゾンしか認可されていないが、チアゾリジン誘導体は、アディポネクチンの分泌を促進し、動脈硬化を抑えるといった作用も報告されている。しかし、このような治療薬は下痢、便秘、吐き気などの消化器症状や肝臓の障害の副作用を伴うことがある。
【0011】
肥満の治療は食事制限と運動で行われるが、両者はそれぞれ別個に実施すべきではなく、両者を同時に併用することが肥満治療の基本である。食事制限だけでは治療開始の1〜2カ月後に、体重減少が止まる『適応現象』という現象が必ず出現し、この適応現象は非常に強いもので、1日240キロカロリーというような超低カロリー食事療法を行っても出現するくらいであり、こうした適応現象を克服し、継続的な減量を獲得するために運動の併用が不可欠である。肥満の治療薬としてマジンドールがあるが、長期間使用すると薬剤が効かなくなるため、服用は3か月間が限度であり、緑内障、高血圧、不安状態などの副作用が起こることがある。
【0012】
動脈硬化治療薬には、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチンなどのスタチン系の脂質代謝改善薬、エラスターゼ、クロフィブラート、クリノフィブラートなどの、高脂血症薬、コレスタチミド、ソイステロール、コレスチラミンなどの高コレステロール血症薬などがあるが、これらも肝障害、頭痛、下痢、便秘、胃障害、食欲不振、腹部膨満感等様々な副作用が起こることがある。
【0013】
このような医薬品が糖尿病、肥満及び動脈硬化などの治療に使用されているが、治療効果があっても、様々な副作用を起こすことから、最近では、合成医薬品による治療よりは食生活を通じて透析治療を必要とする進行した病期への進展を出来るだけ抑制するような機能を持った成分又は食品成分に対する研究も注目されるようになってきている。
【0014】
血糖値上昇抑制効果の食品成分としては、バナバ葉の熱水抽出物やアルコール抽出物(例えば、特許文献1参照。)、ツユクサ科に属するオオボウシバナの抽出物(例えば、特許文献2参照。)、ヨモギ抽出物(例えば、特許文献3参照。)が知られている。
肥満抑制効果のある食品素材としては、モモタマナの葉の発酵物(例えば、特許文献4参照。)、イソフラボンおよびサポニンを主成分とする大豆エキス(例えば、特許文献5参照。)が、動脈硬化予防に効果のある食品素材としては、ワカメタンパク質含有組成物(例えば、特許文献6参照。)、発酵豆乳含有食品(例えば、特許文献7参照。)が知られている。
【0015】
アディポネクチンに関しては、アディポネクチンによる肝線維化抑制や正常肝細胞増殖促進効果(例えば、特許文献8参照。)や抗炎症効果(例えば、特許文献9参照。)が知られている。
【0016】
【特許文献1】特開2000−169384号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2002−316935号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2004−67600号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2004−141163号公報(第1−2頁)
【特許文献5】特開2000−83623号公報(第1−2頁)
【特許文献6】特開2004−97021号公報(第1−2頁)
【特許文献7】特開2003−81855号公報(第1−3頁)
【特許文献8】特開2002−363094号公報(第1−3頁)
【特許文献9】特開2000−256208号公報(第1−3頁)
【非特許文献1】「実験医学」、2002年、20巻(12号)、p.1762−1767
【非特許文献2】“Biochem. Biophys. Res. Commun.”、1996年、221巻、p.286−289
【非特許文献3】“Biochem. Biophys. Res. Commun.”、1999年、257巻、p.79−83
【非特許文献4】“Arterioscler Thromb.”、2000年、20巻、p.1595−1599
【非特許文献5】“J. Clin. Endocrinol Metab.”、2001年、86巻、p.1930−1935
【非特許文献6】“Circulation”、1999年、100巻、p.2473−2476
【非特許文献7】“Circulation”、2000年、102巻、p.1296−1301
【非特許文献8】“Circulation”、2001年、103巻、p.1057−1063
【非特許文献9】“Circulation”、2002年、105巻、p.2893−2898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、幅広い飲食品や医薬品に使用可能なアディポネクチンの産生を増強させ、糖尿病、肥満及び動脈硬化を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物及びそれを含有する飲食品及び医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは様々な天然植物を利用してアディポネクチンの産生を増強させ、糖尿病、肥満及び動脈硬化、さらにはこれらに起因する糖尿病網膜症、糖尿病神経障害及び糖尿病性腎症などの糖尿病合併症、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物を捜す目的で、多角的に検討した結果、アムラーを酵素処理して得られた酵素処理物が優れたアディポネクチンの産生増強効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0019】
本発明で得られたアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物は、ストレプトゾトシン(STZ)を投与して誘発させた糖尿病性腎症ラットへの投与試験の結果から、アディポネクチンの産生を増強させ、糖尿病合併症を含む糖尿病の予防及び改善効果がある。
【0020】
また、本発明で得られたアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物は、高脂肪及び高ショ糖食を与えた動物実験の結果から、アディポネクチンの産生を増強させ、肥満の予防及び改善効果がある。
【0021】
特にアムラーは、昔から人間が日常食生活に使用してきた天然植物なので、従来使用していた薬剤とは違い、副作用が無く安全である。
【0022】
本発明はアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物を各種飲食品及び医薬品等に利用して、アディポネクチン産生を増強することによって、糖尿病、肥満及び動脈硬化、さらにはこれらに起因する糖尿病網膜症、糖尿病神経障害及び糖尿病性腎症などの糖尿合併症、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願発明に用いるアムラーとは、学名:エンビリカ・オフィシナル(Emblica officinale)又は、フィランサス・エンブリカ(Phyllanthus embilica)といい、トウダイグサ科コミカンソウ属に属する落葉の亜高木であり、インドからマレーシア地域及び中国南部にかけて分布しており、インドが原産地と考えられている。また、各地方又は言語により、各々固有の名称があり、余柑子、油甘、奄摩勒、エンブリック・ミロバラン、アーマラキー、マラッカノキ、マラッカツリー、インディアングーズベリー、アロンラ、アミラ、アミラキ、アミラキャトラ、ネリカイ、ネルリ、タシャ、カユラカ、ケムラカ、ナックホンポン等とも称されている。
【0024】
本発明において、アムラーの部位としては、特に限定されるものではないが、果実、果汁、葉、茎、根等を用いることができるが、好ましくは果実、果汁が用いられる。その形態は、特に限定するものではなく、未熟果実、完熟果実、乾燥果実、果汁、果汁粉末等のいずれでも良い。
【0025】
本発明に用いる酵素としては、食品工業に用いるものであれば、特に限定するものではなく、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α―アミラーゼ、グルコアミラーゼ、マルトトリヒドロラーゼ、β―アミラーゼ、トランスグルコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、デキストラナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラクターゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ、プルラナーゼ、トリプシン、パパイン、レンネット、ホスホリパーゼA等より選ばれる、1種類又は2種類以上の酵素を用いることが出来る。好ましくは、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ、タンナーゼより選ばれる、1種類又は2種類以上の酵素を用いることが出来る。
【0026】
本発明で得られるアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物を製造する時の酵素の添加量は、使用する酵素の比活性により適宜選択できる。例えば、使用するペクチナーゼの比活性がAJDA (Apple Juice Depectinizing Activity)で50000U/mlの場合、アムラーに対して50〜2000ppmであり、好ましくは100〜1000ppmであり、最も好ましくは300〜500ppmである。添加量が50ppmより少ないとペクチナーゼによるアムラー果実組織の抽出が不十分で生産収量が少なく、またアディポネクチン産生増強作用も酵素処理の効果が得られない。2000ppmを超える量を添加しても酵素反応の速度は増加せず、本発明のアディポネクチン産生増強組成物の生産収量はそれほど増加しない。
【0027】
本発明で得られるアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物を製造する時の処理時間は、特に限定されないが、未乾燥の果実と乾燥の果実では異なる。例えば、(1)アムラー果実が未乾燥の場合では、生産性の観点から処理時間は、0.5〜12時間であり、好ましくは2〜8時間であり。最も好ましくは3〜5時間である。
【0028】
本願発明のアディポネクチン産生増強組成物は、飲食品、医薬品、飼料等に応用でき、好ましくは、人が手軽に摂食できる飲食品又は医薬品が好ましい。
【0029】
本願発明において、アディポネクチン産生増強組成物又は、飲食品等に加工する際に、各種栄養成分を強化することができる。
【0030】
強化できる栄養成分としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン、テアニン、グルタミン、ピログルタミン等の必須アミノ酸類やそれらを含む誘導体もしくは重合体、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、セレン等のミネラル類や、γ‐アミノ絡酸、クエン酸、乳酸、酢酸、グルクロン酸等の有機酸及び、例えば、カルニチン、コエンザイムQ10、α−リノレン酸、EPA、DHA、月見草油、オクタコサノール、カゼインホスホペプチド(CPP)、カゼインカルシウムペプチド(CCP)、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、オリゴ糖等の人の健康に寄与する物質類、その他の食品や食品添加物として認可されている有用物質の1種又は2種以上が使用できる。
【0031】
本願発明における飲食品とは溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等経口摂取可能な形態であれば良く特に限定するものではない。より具体的には、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等の即席食品類、清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の飲料類、パン、パスタ、麺、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品、飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子等の菓子類、ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類等の調味料、加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂類、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類等の乳製品、冷凍食品、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品等の水産加工品、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品、農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアル等の農産加工品、栄養食品、錠剤、カプセル等が例示される。
【0032】
本願発明のアディポネクチン産生増強組成物の飲食品としての摂取量は、本発明の病気の状態、病人の体重、年齢、体質、体調等によって調整されるべきであるが、一般に1日あたり、アディポネクチン産生増強組成物として0.02g〜20g、好ましくは0.05g〜3gの範囲で適宜選択することができる。これを病気の状態や食品等の形態によって1日1ないし数回にわけて摂取することができる。
【0033】
本願発明における医薬品とは、経口または非経口投与に適した賦形剤、その他の添加剤を用いて、常法に従って、経口製剤または注射剤として調製することができる。好ましいのは、経口製剤であり、最も好ましいのは、容易に服用でき且つ保存、持ち運びに便利な経口固形製剤である。
【0034】
経口固形製剤としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等が用いられる。このような固形製剤においては、適宜の薬理学的に許容され得る坦体、賦形剤(例えばデンプン、乳糖、白糖、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなど)、結合剤(例えばデンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど)、崩壊剤(例えばカルボキシメチルセルロース、タルクなど)、などと混合し、常法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等を調整することが出来る。経口液状製剤は、製薬学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エチルアルコールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0035】
非経口投与しての注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エチルアルコールのようなアルコール類、ポリソルベート80等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えばラクトース)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保管フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0036】
以下本発明を、実施例にて詳細に説明するが、次の実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)アムラー酵素処理物の調製
アムラー乾燥果実を40メッシュ以下に粉砕し、その粉末80gに、蒸留水1リットル及びペクチナーゼA(アマノエンザイム製、Aspergillus由来、12,000U/ml) 0.1gを入れ、55℃で2時間抽出した。その後、90℃で30分間酵素失活させた。その後、遠心分離(3000rpm、10分間)し、その上清を濾過し、抽出物と残渣を分離した。その残渣に蒸留水0.5リットルを加え抽出し、それぞれの抽出液をあわせた後、凍結乾燥し、アムラー果実酵素処理物48.0gを得た。収率は60.0%であった。
【0038】
(実施例2)アムラー酵素処理物の調製
アムラー乾燥果実100gに、蒸留水1リットル及びスミチームAP(新日本化学工業製、50,000U/g)0.02gを入れ、50℃で1時間抽出した。その後、90℃で30分間酵素失活させた。その後、減圧濾過し、濾液をスプレードライし、アムラー果実酵素処理物54.0gを得た。収率は54.0%であった。
【0039】
(比較例1)アムラー果実抽出物の調製
アムラー乾燥果実を40メッシュ以下に粉砕し、その粉末80gに、蒸留水2リットルを加え、55℃で3時間抽出した。その後、遠心分離(3000rpm、10分間)し、その上清を濾過し、抽出物と残渣を分離した。その残渣に蒸留水2リットルを加え、同条件でもう1回繰り返し抽出し、それぞれの抽出液をあわせた後、凍結乾燥し、アムラー果実抽出物35.0gを得た。収率は43.8%であった。
【0040】
(試験例1)STZ誘発糖尿病性腎症ラットの作製
ウィスター系雄性ラット(日本SLC、8週齢)に24.0%カゼイン、3.5%脂質、60.5%糖質を含む飼料を与え、1週間予備飼育した後、STZ(50mg/kg)をクエン酸バッファーに溶解して腹腔内注射した。その後も試験が終了するまで継続して上記飼料を与えた。STZを腹腔内注射したラットについて1週間後に尾静脈から採血し、血中グルコース値及び体重を測定して糖尿病性腎症誘発ラットの作製確認をした。
【0041】
(試験例2)アディポネクチン産生増強効果の確認1
平均体重がほぼ等しくなるように5匹/群となるようにSTZ誘発糖尿病性腎症ラットを5群に分けた。そして、下記条件に従って、20日間、上記飼料にて飼育した。尚、アムラー酵素処理物は実施例1の方法で調製したものを使用し、アムラー果実抽出物及びアムラー酵素処理物は、0.5%生理食塩液に懸濁したものを毎日強制経口投与した。試験終了時に採血を行い、得られた血液より、血清アディポネクチン値、血清グルコース値、血清グルコシル化蛋白値及び血清クレアチニン値を測定した。また、試験終了1日前からの一日量の尿を採取し、尿中蛋白値を測定した。それらの結果を表1に示す。
1)対照群:0.5%生理食塩液経口投与/試験開始時体重kg/日を経口投与したSTZ誘発糖尿病性腎症ラット群
2)アムラー果実抽出物20mg群:アムラー果実抽出物20mg/試験開始時体重kg/日を経口投与したSTZ誘発糖尿病性腎症ラット群
3)アムラー果実抽出物40mg群:アムラー果実抽出物40mg/試験開始時体重kg/日を経口投与したSTZ誘発糖尿病性腎症ラット群
4)アムラー酵素処理物20mg群:アムラー酵素処理物20mg/試験開始時体重kg/日を経口投与したSTZ誘発糖尿病性腎症ラット群
5)アムラー酵素処理物40mg群:アムラー酵素処理物40mg/試験開始時体重kg/日を経口投与したSTZ誘発糖尿病性腎症ラット群
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すようにSTZによって糖尿病性腎症が誘発されたラットにおいて、アムラー果実抽出物、アムラー酵素処理物を投与した群では、対照群に比較して血清アディポネクチン値が上昇した。また、血清グルコース値、血清グルコシル化蛋白値、血清クレアチニン値及び尿中蛋白値は対照群と比較して低値を示し、糖尿病性腎症の改善が認められた。とくに、アムラー酵素処理物を投与した群はアムラー果実抽出物を投与した群と比較しても血清アディポネクチン値が高く、また、血清グルコース値、血清グルコシル化蛋白値、血清クレアチニン値及び尿中蛋白値は低値を示し、血清アディポネクチン値の上昇に伴い糖尿病性腎症の改善も進んだ。このことから、アムラー酵素処理物投与により、アディポネクチンの産生が増強され、糖尿病性腎症を含む糖尿病の改善及び予防をすることができることが示唆された。
【0044】
(試験例3)アディポネクチン産生増強効果の確認2
C57BL/6J雄性マウス(日本チャールスリバー、7週齢)15匹を1週間市販の飼料(オリエンタル酵母工業、MF粉末)で予備飼育した。平均体重がほぼ等しくなるように5匹/群となるように5群に分けた。表2に示す組成飼料を作成し13週間摂取させた。尚、アムラー酵素処理物は実施例2の方法で調製したものを使用した。試験終了時に体重測定後、採血を行った。また、副睾丸周囲脂肪、腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪を摘出し、重量を測定した。得られた血液より、血清アディポネクチン値、血清グルコース値、血清総コレステロール値、血清トリグリセライド値、血清遊離脂肪酸値を測定した。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように高脂肪・高ショ糖食を摂取させたマウスにおいて、飼料摂取量は各群で差は認められなかったが、アムラー果実抽出物、アムラー酵素処理物を投与した群では、対照群に比較して体重増加量、副睾丸周囲脂肪重量、腎臓周囲脂肪重量、腸間膜脂肪重量は低値を示した。特に、アムラー酵素処理物を投与した群はアムラー果実抽出物を投与した群と比較しても体重増加量、副睾丸周囲脂肪重量、腎臓周囲脂肪重量、腸間膜脂肪重量は低値を示した。また、アムラー果実抽出物、アムラー酵素処理物を投与した群では、対照群に比較して血清アディポネクチン値が上昇した。また、血清グルコース値、血清総コレステロール値、血清トリグリセライド値及び血清遊離脂肪酸値は低値を示した。とくに、アムラー酵素処理物を投与した群はアムラー果実抽出物を投与した群と比較しても血清アディポネクチン値が高く、また、血清グルコース値、血清総コレステロール値、血清トリグリセライド値及び血清遊離脂肪酸値は低値を示した。このことから、アムラー酵素処理物投与により、アディポネクチンの産生が増強され、肥満の改善及び予防をすることができることが明らかである。
【0048】
(実施例3)アディポネクチン産生増強組成物含有錠剤の調製
実施例1で得られたアディポネクチン産生増強組成物20g、結晶セルロース10g、トウモロコシデンプン27.5g、乳糖65g、ヒドロキシプロピルセルロース6.5gを混合し、顆粒化した。この顆粒化物にステアリン酸マグネシウム2.0gを加え、均一に混合し、この混合物をロータリー式打錠機を用いて加圧成形して一錠が130mgの本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有錠剤を得た。
【0049】
次に、被験者に十分なインフォームドコンセントを行った後、本人の自由意志で試験に参加した肥満ぎみの男性4名(平均年齢41.25歳、平均BMI25.8)を対象とて、実施例7で得たアディポネクチン産生増強組成物含有錠剤を一日に10錠服用し、1ヶ月間服用した後の血中アディポネクチン、及び体重を測定したところ、その内の3人に血中アディポネクチンの上昇が観られた(A:5.90→6.20、B:6.82→6.87、C:5.80→6.15、D:6.17→6.10、単位はμg/dl)。また、4名全員の体重の低下が観られた(A:75.2→74.0、B:79.5→77.6、C:84.6→83.4、D:73.8→73.5、単位はkg)。なお、以上の結果においては、矢印の右側の数値が試飲後を意味する。
【0050】
(実施例4)アディポネクチン産生増強組成物含有食品(錠菓)の調製
実施例1で得られたアディポネクチン産生増強組成物5g、乳糖30g、DHA含有粉末油脂(サンコートDY−5;太陽化学株式会社製)12g、ショ糖脂肪酸エステル4g、ヨーグルト香料4gを混合し、この混合物をロータリー式打錠機を用いて加圧成形して1錠が300mgの本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有飲食品(錠菓)を得た。
【0051】
(実施例5)アディポネクチン産生増強組成物含有飲料の調製
実施例1で得られたアディポネクチン産生増強組成物5g及び、1/5濃縮グレープフルーツ透明果汁2.1g、エリスリトール30g、クエン酸結晶2.5g、クエン酸三ナトリウム0.5g、L−アスコルビン酸0.5g、乳酸カルシウム1.93g、CCP0.15g、グレープフルーツ香料1.0を水に混合溶解して、全量を1000mlとし、それを100mlの瓶に充填し、キャップで密栓した後、90℃、30分間加熱殺菌をして、本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有飲食品を得た。
【0052】
(実施例6)アディポネクチン産生増強組成物含有飲料(野菜果汁混合飲料)の調製
実施例2で得られたアディポネクチン産生増強組成物1g及び、グアーガム分解物(サンファイバーR;太陽化学株式会社製)3gを市販の野菜果汁混合飲料100mlに添加混合溶解して、本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有飲食品(野菜果汁混合飲料)を得た。
【0053】
(実施例7)アディポネクチン産生増強組成物含有クッキーの調製
実施例2で得られたアディポネクチン産生増強組成物4g及び、市販のケーキミックス粉200gを容器に入れた後、バター35gを入れ、木杓子で混ぜ合わせた。それに溶き卵25gを加えて、なめらかな生地になるまで良く練った。小麦粉を振った台の上に生地を取り出し、さらに小麦粉を振って麺棒で5mmの厚さに伸ばし、丸型で抜き、それを170℃のオーブンで10分間焼いて、1個約5gの本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有クッキーを得た。
【0054】
(実施例8)アディポネクチン産生増強組成物含有ヨーグルトの調製
実施例1でアディポネクチン産生増強組成物10g、市販の脱脂乳(明治乳業社製。蛋白質含量34%)0.95kg、及び市販の無塩バター(雪印乳業社製)0.35kgを温水8Lに溶解し、均質化し、全量を10Lに調整した。次いで、90℃で15分間加熱殺菌し、冷却し、市販の乳酸菌スターター(ハンゼン社製)0.03kg(ストレプトコッカス・サーモフィラス0.02kg及びラクトバシラス・ブルガリクス0.01kg)を接種し、均一に混合し、100mlの容器に分注、充填し、密封し、37℃で20時間発酵させた後、冷却し、本願発明のアディポネクチン産生増強組成物含有ヨーグルトを得た。
【0055】
(実施例9)アディポネクチン産生増強組成物含有経口流動食の調製
カゼインナトリウム(DMV社製)100g、卵白酵素分解物(太陽化学社製)85g、デキストリン(松谷化学社製)200g水2Lに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、MCT(花王社製)90g、パーム油(不二製油社製)35g、サフラワー油(太陽油脂社製)35g、レシチン(太陽化学社製)1.4g、消泡剤(太陽化学社製)2gを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更に、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約510gを調製した。この中間製品粉末500gに実施例1で得られたアディポネクチン産生増強組成物10g、デキストリン(松谷化学社製)390g、水溶性食物繊維(太陽化学社製)45g、少量のビタミンとミネラルおよび粉末香料を添加し、均一に混合して、アディポネクチン産生増強組成物を含有する経口流動食約950gを得た。
【0056】
本発明の実施態様ならびに目的生成物を挙げれば以下の通りである。
(1) アムラー酵素処理物を含有することを特徴とするアディポネクチン産生増強組成物。
(2) アムラーを処理する酵素がペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼより選ばれる1種類又は2種類以上であることを特徴とする前記(1)記載のアディポネクチン産生増強組成物。
(3) アムラーの部位が果実であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のアディポネクチン産生増強組成物。
(4) 前記(1)〜(3)いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする飲食品。
(5) 前記(1)〜(3)いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする医薬品。
(6) 前記(1)〜(3)いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする糖尿病を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物。
(7) 前記(1)〜(3)いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする肥満を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明で得られたアムラー酵素処理物を含有するアディポネクチン産生増強組成物は、STZを投与して誘発させた糖尿病性腎症ラットへの投与試験で、アディポネクチンの産生を増強し、糖尿病性腎症の改善効果示し、また、高脂肪・高ショ糖を摂取させたマウスへの投与試験で、アディポネクチンの産生を増強し、肥満の予防・改善効果示し、各種飲食品及び医薬品等に利用して、アディポネクチン産生を増強することによって、糖尿病、肥満及び動脈硬化、さらにはこれらに起因する糖尿病網膜症、糖尿病神経障害及び糖尿病性腎症などの糖尿合併症、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アムラー酵素処理物を含有することを特徴とするアディポネクチン産生増強組成物。
【請求項2】
アムラーを処理する酵素がペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼより選ばれる1種類又は2種類以上であることを特徴とする請求項1記載のアディポネクチン産生増強組成物。
【請求項3】
アムラーの部位が果実であることを特徴とする請求項1又は2記載のアディポネクチン産生増強組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする糖尿病を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか記載のアディポネクチン産生増強組成物を含有することを特徴とする肥満を改善、治療、予防及びこれらの進展を抑制する効果のある組成物。

【公開番号】特開2006−335702(P2006−335702A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163643(P2005−163643)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】