説明

アトピー性皮膚炎の予防処置のための保湿組成物

本発明は、有効成分として、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる局所用組成物に関し、該組成物はアトピー性皮膚炎の予防に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、アトピー、およびそれに関連する障害の処置の分野に関する。
【0002】
アトピーはハウスダスト、ダニ、花粉、動物の毛などの種々のアレルゲンに症候的に(疾患)反応する遺伝性の疾病素因と定義される。アトピーであると考えられる障害には、アトピー性皮膚炎(AD)、アレルギー性気管支喘息およびアレルギー性鼻炎または「枯草熱」が含まれる。
【0003】
アトピー性皮膚炎(またはアトピー性湿疹)は、フランスで10〜15%の乳児が罹患している、よく見られる皮膚科疾患であり、ここ数十年増えてきている。
【0004】
アトピー性皮膚炎は、発疹が出現し、病巣は常に存在するが最小となる緩解期間が挟まり、本質的に乾燥症(皮膚の乾燥)およびそう痒により表される慢性疾患である。
【0005】
皮膚の炎症は、炎症性徴候ならびに赤い斑点(紅斑)、小胞、痂皮、滲出およびかゆみを含む症状により表れる発疹を特徴とする。
【0006】
この疾病は一般に3か月〜2歳の間に発症するが、さらに早く1か月から発症する場合もある。その発症はしばしば好都合にも、大部分の症例で5歳〜8歳の間に完全緩解を伴う。青年期または若年成人期には回復する場合もある。この疾病は症例の15〜20%で成人において持続する場合がある。
【0007】
また、別のアトピー性障害へ向かう発症もあり得る。小児期にADが存在すると、喘息を発症するリスクが高まり、AD頻度と喘息頻度の間には明らかな相関がある。ADに罹患している小児における喘息の発症リスクは、30〜40%の間であると見積もられる。
【0008】
食物アレルギーの発症リスクは3歳までが最も多く、あるいはアレルギー性鼻炎の発症リスクはさらに後であり、研究によって異なる。
【0009】
アトピー性皮膚炎に関しては、明確な遺伝的疾病素因があり、親の片方が罹患していれば、この疾患の発症リスクは30〜50%であり、両親とも罹患していれば、リスクは80%近い。この遺伝的疾病素因には、表皮のバリア機能の決定因子をコードしているか、または先天免疫または適応免疫の担い手をコードしている多くの遺伝子が関わっている。最近の多くの研究を考慮すれば、AD(または他のアトピー性疾患であっても)は、免疫の活性化およびアレルギー性症状の原因となる環境因子(アレルゲンおよび微生物)に対する透過性の増大を担う表皮のバリア機能の基本的な異常に関連するという仮説を立てることができる。
【0010】
表皮の透過性の異常は、皮膚の乾燥および微少な水分喪失の増加および表皮のバリア機能に関与するフィラグリン(filaggrin)(FLG)などの表皮タンパク質をコードする遺伝子の多型の表出により表れる(Palmer, 2006)。フランスでの最近の研究によれば、FLG遺伝子の多型とADの関連が3を超える相対危険度で確認されている(Hubiche, 2007)。
【0011】
アトピーは、環境のアレルゲンとの接触に対する遅延型の過敏感反応と考えられる。それは一般に二段階で見られる。最初の臨床的に無症状の感作段階は皮膚に特異的なTリンパ球を生じる。この感作はアレルゲンの環境から皮膚への透過によって起こり、乾燥によって助長される。次の、特異的Tリンパ球の活性化段階は炎症性サイトカインの産生をもたらす。
【0012】
全体として、アトピー性皮膚炎の外面的な徴候は、環境因子、皮膚のバリア機能の薬理学的異常、不全または変換、免疫学的現象および遺伝的感受性の間の複雑な相互作用によるものである。
【0013】
多くの因子の中でも、皮膚過敏性、種々の微生物に対する不適切な免疫応答ならびに二次感染は病態の慢性化に役割を果たすと思われる。
【0014】
湿疹病巣の発達に有利な免疫活性化の生起および/または維持におけるT皮膚細菌叢の役割は、ますます知られるようになっている。アトピー性皮膚炎に罹患している患者のある種の免疫不全に関連する皮膚のバリア機能の変化は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の定着を引き起こし、この細菌はAD患者の90%の皮膚に、この疾患の進行性の発疹以外の部分にも定着する(Current Opinion in Allergy and Clinical Immunol. 2007, 7, 413)。
【0015】
疾患の重篤度と一方ではブドウ状球菌の定着密度、他方ではブドウ球菌毒素に対する特異的IgEの陽性頻度との間には相関がある(J. Allergy Clin. Immunol. 2006, 117, 1141; Am. J. Clin. Dermatol., 2006, 7, 273; Clin. Rev. Allergy Immunol., 2007, 33, 167; Current Opinion Allergy and Clinical Immunol. 2004, 4, 373)。
【0016】
これらの事実は、黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎およびおそらくはアレルギー性感作の外面的な皮膚徴候の一因となる局部的な免疫活性化の生起に役割を持つという示唆を与える。
【0017】
掻くという行為の他、皮膚の一次防護系の変化、および第一には、角質層の脂質組成の変化による黄色ブドウ球菌の定着を促進する多くの因子が存在する。この皮膚のバリア機能の変化は、ブドウ球菌の定着の原因であり、また、皮膚の水分喪失の増加の原因でもあり、乾燥、刺激作用、かゆみを生じ、それにより、ある種の病態生理学的悪循環ができる。
【0018】
アトピー性皮膚炎の治療的管理は種々のレベル、本質的には症候レベルで、また予防レベルでも考えられ得る。今日、この疾患の治癒的処置は無い。
【0019】
できる限り望ましい、特定されたアレルゲンの追い出しに加え、この疾患の標準的療法である局所的コルチコステロイド療法による発疹の対症療法に付加されるものとして、そのバリアの役割の回復または維持のための手段としての皮膚の保湿が出て着る。他の局所用非ステロイド抗炎症薬(特に、カルシニュリン阻害剤)も発疹の処置に使用可能である。最後に、重症型には光線療法、経口免疫抑制薬または他の広範囲全身療法が残っている。
【0020】
しかしながら、コルチコイド、抗炎症薬および/または免疫抑制薬の使用は、局所経路であっても特に乳児または幼児では、慣用なものでなく、望ましくない作用に曝し、対症療法でしかない。
【0021】
他方、この疾患の管理も患者のコンプライアンス(低い場合が多い)も助けない、コルチコイドの使用には恐怖が存在する。
【0022】
最後に、黄色ブドウ球菌はコルチコイド耐性を誘発する可能性がある(Clin. Rev. Allergy Immunol. 2007 33 167)。
【0023】
従って、他の治療選択肢、より詳しくは、予防処置の必要かつ強い要求がある。これらの処置はアトピー性皮膚炎に罹患している患者に見られる湿疹発疹の頻度および/または強度を軽減することを目的とする。このアプローチは、すでに存在する疾患(アトピー性皮膚炎)の合併症(炎症性発疹)を回避する傾向があるので、WHOの定義によれば三次予防である。
【0024】
出願WO2008048076は、アトピー性皮膚炎の処置のためのグルコサミンまたはその誘導体の1つの使用を開示している。
【0025】
出願WO2007023226は、小児におけるアトピー性皮膚炎の処置のためのプレバイオティックと組み合わせたプロバイオティックの使用を開示している。
【発明の開示】
【0026】
今般、全く驚くべきことに、そして予期しないことに、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリン(登録商標)および液体パラフィン種の組合せが、アトピー性皮膚炎の予防を可能としたことが分かった。
【0027】
本発明者らは、培養における黄色ブドウ球菌のケラチノサイトへの接着に対するこの組合せの阻害作用を示した。従って、このグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せにより、アトピー性患者における黄色ブドウ球菌の感染的役割、ならびに黄色ブドウ球菌の皮膚定着を阻害する特異的IgEの産生による炎症反応の持続に対する黄色ブドウ球菌の役割を妨げることができる。
【0028】
さらに、本発明者らは、この組合せは皮膚の防護的および機能的バリアの役割を回復することを示した。この目的で、本発明者らは誘発性皮膚脱水のex vivo皮膚モデルを用いた。さらに、本発明者らは表皮マーカーの発現およびセリンプロテアーゼ活性を追跡した。
【0029】
よって、本発明の目的は、有効成分として、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる、アトピー性皮膚炎の予防に用いるための局所用組成物である。
【0030】
好ましくは、予防は一次予防である。
【0031】
本発明において、「予防する」、「予防」または「予防的処置」とは、疾患、障害または1つまたはいくつかの徴候および/もしくは症状の発生を回避することを意味する。
【0032】
本発明において、「一次予防」または「一次予防処置」とは、アトピー性疾患(アトピー性皮膚炎および/またはアレルギー性気管支喘息および/または一般に「枯草熱」と呼ばれるアレルギー性鼻炎)および/またはアトピーの最初の臨床症状の前、すなわち、始まりから作用することによるアレルギー感作の発生を防ぐことを意味する。
【0033】
本発明において、水中油型または油中水型エマルションの形態のグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せは「有効な組合せ」と呼ばれる。
【0034】
有利には、このグリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンは「欧州薬局方」第6版により記載され、管理された基準を有する。
【0035】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、35〜70℃の、好ましくは51〜57℃の、より好ましくは約54℃の滴点を有する。滴点は、「欧州薬局方」第6版に記載されている2.2.17法に従って測定される。
【0036】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、175〜195 1/10mm、好ましくは約185 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する。
【0037】
有利には、この有効な組合せのワセリンは、100℃において4〜5cStの、好ましくは、100℃において約4.8cStの粘度を有する。
【0038】
本発明による組成物では、この有効な組合せは、組成物の総重量に対して10〜50重量%の間、優先的には20〜30重量%の割合に従って存在し;グリセロール濃度は組成物の総重量に対して5〜30重量%の間、優先的には10〜20重量%の間を含んでなり、より好ましくは約15重量%であり、ワセリン濃度は組成物の総重量に対して3〜20重量%の間、優先的には5〜10重量%の間を含んでなり、より好ましくは約8重量%であり、液体パラフィン濃度は組成物の総重量に対して0.5〜5重量%の間、優先的には1〜3重量%の間を含んでなり、より好ましくは約2重量%である。
【0039】
水相において、水は組成物の総重量に対して30〜80重量%である。
【0040】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約15重量%のグリセロール、約8重量%のワセリンおよび約2重量%の液体パラフィンを含んでなる。
【0041】
本発明による皮膚科組成物は慣例の皮膚科適合性形剤をさらに含んでなる。
【0042】
本発明による皮膚科組成物は、油中水型(W/O)または水中油型(O/W)エマルションとして、例えば水中水中油型エマルション(W/O/W)もしくは油中水中油型エマルション(O/W/O)などの多相エマルションとして、またはさらには水分散液もしくは脂肪分散液、ゲルもしくはエアゾールとして製造することができる。
【0043】
皮膚科的に適合する賦形剤は、クリーム、ローション、ゲル、軟膏、エマルション、マイクロエマルジョン、スプレーなどとしての局所適用用の組成物を得るのに当業者に公知のもののうちいずれの賦形剤であってもよい。
【0044】
本発明による組成物は特に、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水固定剤(water fixing agents)、展着剤、安定剤、色素、香料および保存剤などの添加剤および製剤補助剤を含み得る。
【0045】
好適な乳化剤としては、トロラミン、ステアリン酸PEG−40が挙げられる。
【0046】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約5重量%の乳化剤を含む。
【0047】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して1〜5重量%の間の、好ましくは約3重量%のステアリン酸を含む。
【0048】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0〜2重量%の間の、好ましくは約0.5重量%のトロラミンを含む。
【0049】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0〜2重量%の、好ましくは約0.5重量%のステアリン酸PEG−40を含む。
【0050】
好適な増粘剤としては、モノステアリン酸グリセロール、PEGが挙げられる。
【0051】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約5重量%の増粘剤を含む。
【0052】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して2〜10重量%の、好ましくは約5重量%のモノステアリン酸グリセロールを含む。
【0053】
好適な保存剤としては、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾールが挙げられる。
【0054】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約0.1%の保存剤を含む。
【0055】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0.05〜1重量%の、好ましくは約0.1%のパラヒドロキシ安息香酸プロピルを含む。
【0056】
好適な展着剤としては、ジメチコン、ポリジメチルシクロシロキサンが挙げられる。
【0057】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約2重量%の展着剤を含む。
【0058】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0.2〜2重量%の、好ましくは約0.5重量%のジメチコンを含む。
【0059】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して1〜3重量%の、好ましくは約2.5重量%のポリジメチルシクロシロキサンを含む。
【0060】
好適な水固定剤としては、ポリエチレングリコール、好ましくはポリエチレングリコール600が挙げられる。
【0061】
好ましくは、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して約8重量%の水固定剤を含む。
【0062】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して2〜10重量%の、好ましくは約5重量%のポリエチレングリコールを含む。
【0063】
本エマルションの水相に用いられる水は、蒸留水または皮膚化粧特性を有する湯であり得る。
【0064】
有利には、本発明による組成物は、
約15%のグリセロール、
約8%のワセリン、
約2%の液体パラフィン、および賦形剤:
約1〜5%のステアリン酸、
約2〜10%のモノステアリン酸グリセロール、
約1〜3%のポリジメチルシクロシロキサン、
約0.2%〜2%のジメチコン、
約2〜10%のポリエチレングリコール600、
約0〜2%のトロラミン、
約0.05〜1%のパラヒドロキシ安息香酸プロピル、
100%までの水
を含んでなる。
【0065】
本発明の目的はまた、アトピー性皮膚炎の予防を目的とする薬剤の製造のための本発明による組成物の使用である。
【0066】
以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0067】
実施例1:調剤
組成物A
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
0.5gのトロラミン、
および賦形剤として、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン、ジメチコン、ポリエチレングリコール(PEG)600、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、
100gまでの水。
【0068】
組成物A’
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
1.5gのステアリン酸、
5gのモノステアリン酸グリセロール、
1.5gのポリジメチルシクロシロキサン(polydimethylycyclosiloxane)、
0.5gのジメチコン、
5gのポリエチレングリコール600、
0.15gのトロラミン、
0.1gのパラヒドロキシル安息香酸プロピル
100gまでの水。
【0069】
組成物B
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
0.5gのステアリン酸PEG−40、
および賦形剤として、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン(polydimethylycyclosiloxane)、ジメチコン、ポリエチレングリコール(PEG)600、クロロクレゾール、
100gまでの水。
【0070】
組成物B’
15gのグリセロール、
8gのワセリン、
2gの液体パラフィン、
3gのステアリン酸、
5gのモノステアリン酸グリセロール、
2gのポリジメチルシクロシロキサン、
0.5gのジメチコン、
0.1gのトロラミン、
3gのポリエチレングリコール600、
0.5gのステアリン酸PEG−40
0.075gのクロロクレゾール、
100gまでの水。
【0071】
実施例2:細胞傷害性試験
原理
本試験の原理は、テトラゾリウム塩「ナトリウム3,3−[1[(フェニルアミノ)カルボニル]−3−4−テトラゾリウムビス(4−メトキシ−6−ニトロ)]ベンゼンスルホン酸水和物」、すなわちXTTの、有色化合物ホルマザンへの酵素的変換に基づく。
【0072】
XTTは、電子結合剤である補酵素Qの存在下で、生細胞のミトコンドリアデヒドロゲナーゼにより、黄/橙色の水溶性化合物ホルマザンへと還元され、これが450nmでの分光測定によりアッセイ可能である。
【0073】
製品での処置
96ウェルマイクロプレートに10細胞/mLを播種し、24時間インキュベートした後、培養培地を除去し、マイクロプレートをPBSですすぐ。種々の希釈率の試験品100μLをマイクロプレートの各ウェルに加える。同じ条件下で、製品を含まない対照を作製した。
【0074】
マイクロプレートを37℃、5%CO下で2時間、インキュベートした。
【0075】
細胞傷害性の解明
インキュベーション後、マイクロプレートをPBSで2回洗浄する。次に、100μLのXTT(1mg/mL)/補酵素Q(0.2mg/mL)混合物を96ウェルプレートの各ウェルに加える。
【0076】
3時間インキュベートした後、100μLの10%SDS溶液を各ウェルに加える。
【0077】
すぐに、分光光度計POLARstar(BMG,フランス)を用いて450nmで光学密度の読み取りを行う。
【0078】
結果の表示
測定された光学密度は生存細胞集団に比例する。
【0079】
従って、この試験を用いれば、対照に相当する光学密度から、光学密度が対照バッチのものよりも小さい場合に、細胞胞傷害性を分析することができる。
【0080】
生存率%=(処理OD−対照OD)/対照OD×10
【0081】
生存率<30%の場合にその製品は細胞傷害性とみなす。
【0082】
これらの操作間試験を8回行う。
【0083】
結果
製品の非細胞傷害性の程度に応じて、接着試験のために選択される濃度は次の通りである。
組成物A:6%、3%、1.5%、0.8%および0.4%
Atopiclair(登録商標):0.8%、0,4%、0.2%、0.1%および0.05%
Physiogel(登録商標):6%、3%、1.5%、0.8%および0.4%
組成物B:3%、1.5%、0.8%、0.4%および0.2%
【0084】
実施例3:接着試験
原理
細菌をトリチウム化アデニン(sigma)で標識し、放射能レベルを評価することによりケラチノサイトの表面に接着した細菌の割合を決定する。
【0085】
トリチウム化アデニンによる細菌の標識
細菌の標識は適切な培養培地中、30μCiのトリチウム化アデニンの存在下で行う。37℃で18時間インキュベートした後、組み込まれていない放射能を除去するために微生物をPBSで3回洗浄する。
【0086】
染色媒体中、微生物2×10/mLとなるように懸濁液を調整する。
【0087】
接着阻害効果
製品の各試験希釈液の存在下、500μLの標識細菌を細胞層の表面に付着させる。
【0088】
2時間インキュベートした後(37℃、5%CO)C、PBSでの洗浄を行う。
【0089】
細胞の溶解
ケラチノサイトに接着した細菌を、0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを含む0.5N水酸化ナトリウム溶液500μLを用い、37℃で18時間溶解させる。
【0090】
各ウェルの溶解液をサンプリングし、計数管に入れる。各管に2mLの液体シンチレーターを加える。
【0091】
結果の表示
βカウンターで読み取りを行う。放射能レベルはcpm(counts per minute)で表す。
【0092】
接着阻害率%を式:
阻害率%=((試験cpm−対照cpm)/対照cpm)×100
に従って算出する。
【0093】
接着阻害率は、その値が≦−30%である場合に有意である。
【0094】
試験は4回行う。
【0095】
結論
・組成物Aは、6%および3%でのインキュベーション2時間後に、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のケラチノサイトへの接着を有意に阻害する。
・Physiogel製品は、6%でのインキュベーション2時間後に、黄色ブドウ球菌のケラチノサイトへの接着を有意に阻害するが、3%ではそうではない。
・Atopiclair製品は、黄色ブドウ球菌のケラチノサイトへの接着に効果がない。
・組成物Bの存在下では、黄色ブドウ球菌のケラチノサイトへの接着は異常に高まる。
【0096】
実施例4:誘発性皮膚脱水の調節の分析
本発明者らは、ここで、誘導性皮膚脱水のex vivo皮膚モデルを使用することにより、組成物Aの保湿活性と、その後の皮膚のバリア機能の改善を評価する。
【0097】
本発明者らは、定量的PCRおよび免疫組織化学により、示差的分子表皮マーカーの発現を観察する。
【0098】
本発明者らはまた、in situザイモグラフィーによりセリンプロテアーゼ酵素の活性を、また、ウエスタンブロット法により角質デスモソームタンパク質の分解を追跡する。
【0099】
皮膚バリアの機能性を、蛍光プローブを使用することにより分析する。
【0100】
器具および方法
I.組織モデル
1.皮膚外植片の処理
実験室は、形成手術(乳房縮小術)の処置廃棄物から皮膚サンプルを回収する。これらのサンプルの使用は、フランス文部省に対して出された「ピエール・ファーブルグループの研究プログラムの要件を満たすヒト身体要素の保存および処理のための活動に関する声明」の範囲内にある。
【0101】
これらのサンプルをPBS浴で10回洗浄した後、2cm系のディスクに切り取る。これらの皮膚外植片をペトリ皿のグリッドに拡げ、処置領域の範囲を定めるためにその皮膚上に1cm径のリングを留める。
【0102】
2.モデルの速度論
この誘導性脱水モデルでは、皮膚は、細胞培養フード下、蓋のない皿の中で2時間乾燥させた後、有効な組合せ有り、または無しの局所処置のためにオーブン内に2時間置く。脱水ストレスの陰性対照は、蓋をしたペトリ皿にて同じ速度で行う。
【0103】
3.分析用サンプル
処置後、RNAの発現を分析するために6mm径の生検を2つサンプリングし、組織学のために4mm径の生検を1つ、Tissue Tek(登録商標)(Sakura Finetek)に入れる。タンパク質分析のため、真皮から表皮を分離するために、皮膚を60℃の湯浴中で5分間、次いで4℃で2時間熱ショックに曝す。
【0104】
これらの生検および表皮を液体窒素中で凍結させ、−80℃で分析まで保存する。
【0105】
II.定量的PCRによるトランスクリプトームの分析
皮膚生検を、予め液体窒素で冷却した乳鉢で摩砕し、供給者の奨励に従い、RNeasy(登録商標)(QIAGEN)の手段により、RNAを抽出する。次に、このRNAをRNA 6000 Nano LabChip(登録商標)にてBioanalyzer 2100(登録商標)(Agilent Technologies)で分析する。cDNAは1μgのRNAから、オリゴdTプライマーとともにAccess RT−PCR Core Reagent(登録商標)キット(Promega)を用いて行った酵素的逆転写反応によって得る。遺伝子発現レベルは、95℃での変性(15秒)および60℃での伸長(1mm)を含んでなる40サイクルの手順に従い、PCR iQ(商標)SYBR(登録商標)Green Super Mixキット(Biorad)を用いる蛍光サーモサイクラーIClycler iQ(登録商標)(Biorad)での定量的PCRによって分析する。蛍光発光(SYBR(登録商標)Green intercalant)と比例するPCR産物の蓄積をiCyclerソフトウエアの手段により、サイクルが終わるたびに観察する。
【0106】
iClyclerバージョン3.1分析ソフトウエアにより、C(サイクル閾値)、すなわち、cDNA増幅を始めるサイクルの生値が得られる。数種の参照遺伝子の発現を、あるサンプルから他のものまで、最も安定な参照遺伝子の選択を可能とするGenormプログラムバージョン3.4の手段により、並行して分析する。次に、この遺伝子を参照として用い、ΔC=着目する遺伝子C−参照遺伝子Cを算出することによって結果をノーマライズする。
【0107】
次に、誘導倍率(IF)を、処置ごとに、対応する対照条件に対して算出する。IF=2−ΔΔCT(ここで、ΔΔCT=処置ΔCT−対照ΔCT)。mRNAの発現は5人の異なる個体からの5回の実験で2回ずつ評価する。対照に対する誘導倍率が2より大きい場合には、その遺伝子の発現が誘導されているとみなされ、0.5より小さい場合には、その発現は抑制されているとみなされる。このモデルで引き起こされたストレスに対する応答に対する有効成分の効果は、下式:
ストレス応答阻害率%=100×[(ストレス有りのIF−ストレス無しの対照IF)−(処置有りのIF−ストレス無しの対照IF)]/[(ストレス有りのIF−ストレス無しのIF)]
を用いて算出された阻害率%によって評価する。
【0108】
本試験モデルと比較した際、「ストレス無しの対照」条件は、乾燥していない対照に相当し、「ストレス有り」の条件は、2時間乾燥させ、対照条件下(すなわち、局所処置無し)でさらに2時間経過した皮膚生検に相当し、最後に「処置有り」の条件は、2時間の乾燥を施した後に保湿剤で2時間局所処置を施した皮膚である。
【0109】
III.ウエスタンブロット法によるタンパク質発現の分析
処置済みの表皮を、液体窒素で冷却した乳鉢で摩砕し、溶解バッファーROPA(Tris HCl pH8 50mM;NaCl 150mM;Triton X 100 IX;Na+デスオキシコレート1%;SDS0.1%;EDTA 5mM;DTT 100mM;プロテアーゼ阻害剤カクテル(品番P8340、SIGMA)にてタンパク質を抽出する。
【0110】
次に、これらのタンパク質をDC−DCタンパク質アッセイ法(Biorad)によってアッセイし、ウエスタンブロット法によって分析する。各条件につき、25〜40μgの全タンパク質を、7.5%ポリアクリルアミドを含むTris−グリシンゲルにのせる。このタンパク質混合物を、Mini Protean IIシステム(Biorad)を用いた電気泳動によって分離し、タンパク質をPVDF膜(Hybond−P、Amersham)に転写する。着目するタンパク質を、特異的抗体およびECL+キット(Amersham)によって現像する。タンパク量および分解型の割合を、β−アクチン(参照タンパク質)に対してノーマライズした後にImage Master TotalLabソフトウエアバージョン1.11(Amersham)の手段によって算出する。
【0111】
IV.組織学的技術
皮膚生検をCryotome(Leica CM 3050s)で厚さ5μmの切片とし、観察用スライド(Starfrost(登録商標))にのせる。
【0112】
1.免疫組織化学
凍結切片を20℃のアセトンで10分固定した後、PBSで再水和させ、その後、免疫化学標識により分析する。固定および再水和の後、皮膚切片を3%BSA溶液で飽和させ、着目するタンパク質に対する一次抗体とともに1時間インキュベートする。次の段階では、それらを、Alexa−488またはAlexa−555蛍光色素と結合させた二次抗体とともに1時間インキュベートし、最後に、核を標識するためのDAPIを含有するMowiol中に包埋する。
【0113】
2.in situザイモグラフィー
−20℃のアセトン中で10分固定した後、切片を洗浄溶液(水中1%のTween 20)中ですすぎ、蛍光団(付属品)と結合させた、着目する酵素の特異的基質を含有する溶液とともに37℃で2時間インキュベートする。酵素が活性化されると蛍光団が切断され、蛍光シグナルを発し、これを顕微鏡で観察することができる。その後、標識されたスライドを、エピ蛍光を備えた顕微鏡(Nikon Eclipse 50i)または倒立共焦顕微鏡Zeiss Axiovert 100下で観察する。
【0114】
3.蛍光プローブ
脱水処置の後、皮膚外植片をさらに1時間、37℃のオーブンにて、HBSSバッファー中1mMの蛍光プローブルシファー・イエローカルボキシヒドラジド二リチウム塩(Invitrogen)とともにインキュベートする。次に、皮膚をHBSS浴中で1分間すすいだ後、4mm径の生検をサンプリングし、Tissue TekR(登録商標)樹脂(Sakura Finetek)(Matsuki et al., 1998)に包埋する。その後、皮膚を切片にし、核をDAPIで標識し、それらのスライドを上記のように、蛍光顕微鏡下、450nmの波長で観察する。
【0115】
結果
I.誘導性の乾燥によるバリア機能不全モデル
1.蛍光プローブを用いた皮膚の透過性の測定
最初の分析は、皮膚バリア機能の基本的機能パラメーター、すなわち、表皮の上層の透過性を調べることからなった。乾燥実験の後に皮膚を蛍光プローブ(ルシファー・イエロー)とともにインキュベートすると、皮膚透過性の調節の同定が可能であった。対照条件下では、標識は極めて少なく、表面的なものであり、プローブは角質層をあまり透過せず、すすぎの間に除去される。2時間乾燥させた後、標識は角質層のより深層に見られる。乾燥は皮膚の透過性を増し、そのバリア機能を低下させる。2時間乾燥させた後に組成物Aで局所処置すると、プローブに対するSCの不透性が回復し、対照条件下と同様に、標識はこの場合にも少なく、表面的なものとなる。従って、保湿処置は、乾燥した皮膚に、また、この組織モデルで観察可能な皮膚のバリア機能に修復効果を持つと結論付けることができる。
【0116】
2.トランスクリプトームおよびプロテオームの調節に対する効果
表皮バリア機能の恒常性に関与する可能性ある種々の遺伝子の発現を、乾燥モデルの種々のストレスまたは処置条件下、定量的PCRにより測定した。免疫組織化学による分析では、例えば密接に結合しているなど、位置に関する特定のタンパク質の発現の再編成を示す可能性が得られた。角質デスモソームタンパク質の分解をウエスタンブロット法により分析した。
【0117】
これらの種々のアプローチにより調べた標的をそれらの生理学的役割によって分類した(表1参照)。この研究の目標は、観察可能なストレス応答の観察および組成物Aの局所適用によるストレス作用の矯正である。
【0118】
実施された研究によれば、特定の標的の種々の調節レベルを示すことも可能であった。従って、本発明者らは、落屑の酵素は転写レベルでは、より詳しくはそれらの活性レベルでは調節されないことに気づくことができた(結果3参照)。
【0119】
【表1】

【0120】
3.落屑に関連する酵素活性の測定
セリンプロテアーゼの活性を脱水モデルにてin situザイモグラフィーにより評価し、乾燥2時間後の対照条件下と、乾燥2時間の後に組成物Aとともに2時間インキュベートした後に共焦顕微鏡下で観察した。標識は対照条件下でより強く、正常な強い活性に相当する。乾燥2時間後、この標識は低下し、角質層に沿っては無視できるほどになるが、組成物Aとともに2時間インキュベートした後には、その強度は増し、活性の局在が認められる。乾燥は酵素活性を低下および摂動する作用を有する。これらの結果は、乾燥で本発明者らが観察した角質デスモソームタンパク質の分解の低下と一致し、開発されたモデルで見られた落屑の減少に対する乾燥の影響が確認される。組成物Aは脱水した皮膚の酵素活性を回復させることができ、落屑の恒常性の回復に関する本組成物の効果が確認される。
【0121】
これらの結果は、分子標的の発現レベルの回復を可能とし、その発現が誘発される皮膚脱水ストレスにより増すことを示している。組成物Aを用いれば、セリンプロテアーゼ活性を回復させることができる。さらに、組成物Aの局所適用により、ストレスにより誘発される炎症の抑制が可能である。
【0122】
これらの結果は全体として、局所適用としての組成物Aは皮膚のバリア機能の回復、黄色ブドウ球菌の定着の制限またはさらには防止を可能とし、従って、アトピー性疾患(アトピー性皮膚炎および/またはアレルギー性気管支喘息および/または一般に「枯草熱」と呼ばれるアレルギー性鼻炎)および/またはアレルギー感作の発生を防ぐ「一次予防処置」であることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを水中油型または油中水型エマルションの形態で含んでなる、アトピー性皮膚炎の予防に用いるための局所用組成物。
【請求項2】
アトピー性皮膚炎の一次予防に用いるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ワセリンが35〜70℃の滴点を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ワセリンが、51〜57℃の、特に54℃の滴点を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ワセリンが175〜195 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ワセリンが約185 1/10mmの稠度(25℃におけるコーン貫入)を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ワセリンが、100℃において4〜5cStの粘度を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ワセリンが、100℃において約4.8cStの粘度を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
約15%のグリセロール、約8%のワセリンおよび約2%の液体パラフィンを含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
ステアリン酸、モノステアリン酸グリセロール、ポリジメチルシクロシロキサン、ジメチコン、ポリエチレングリコール600、トロラミン、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、および蒸留水からなる群から選択される1種以上の賦形剤を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
アトピー性皮膚炎の予防を目的とする薬剤の製造のための、水中油型または油中水型エマルションの形態の、グリセロール、ワセリンおよび液体パラフィンの組合せを有効成分として含んでなる組成物の使用。
【請求項12】
アトピー性皮膚炎の予防を目的とする薬剤の製造のための、請求項3〜10のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2011−520848(P2011−520848A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508946(P2011−508946)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056007
【国際公開番号】WO2009/138515
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】