説明

アニオン交換膜CO2センサ

【課題】電解液を用いず、かつ電極の再生等が不要なCO2センサを提供する。
【解決手段】アニオン交換膜CO2センサはアニオン交換膜の少なくとも一面に設けられた検知極と対極とから成り、検知極と対極間の起電力からCO2濃度を検出する。好ましくは、アニオン交換膜CO2センサは、前記起電力とは正負が逆の電圧を検知極と対極間に加える手段を備えず、かつCO2との反応で消耗する活物質を備えていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアニオン交換膜を用いたCO2センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許3391422)では、KClとKHCO3とを含む電解液に、PtOからなる検知極と銀線から成る対極とを電気化学的に接続し、CO2センサとする。そしてCO2が電解液に溶解すると、
CO2+H2O→H2CO3 (1)
H2CO3→H++HCO3 (2)
の反応が生じる。生成したHを検知極のPtOと(3)のように反応させて、その反応電流からCO2を検出する。
2H++PtO+2e→Pt+H2O (3)
しかしながら特許文献1のCO2センサは電解液を必要とするため扱いにくい。
【0003】
特許文献2(USP7811433)では、塩素イオン型のアニオン交換膜の一面にPt2O3,PtO等からなる検知極を、反対面に銀から成る対極を設ける。アニオン交換膜では上記の(1),(2)の反応が生じ、生成したHを検知極のPt2O3と(4)のように反応させて、反応電流が発生する。
2H++Pt2O3+2e→2PtO+H2O (4)
アニオン交換膜では、(2)の反応で生じた炭酸水素イオンにより交換膜中の塩素イオンが(5)のように置換され、
R-Cl-+HCO3-→R+HCO3-+Cl- (5)
塩素イオンは対極の銀電極と反応する。特許文献2も、特許文献1と同様に、検知極と対極とでの反応電流からCO2を検出する。しかしながら特許文献1,2のPt酸化物電極はCO2の検出により消耗し、銀電極も同様に塩素イオンとの反応で消耗する。このため、CO2の検出電流とは逆向きの電流を例えば周期的に加え、電極を再生する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3391422
【特許文献2】USP7811433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、電解液を用いず、かつ電極の再生等が不要なCO2センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、アニオン交換膜の少なくとも一面に設けられた検知極と対極とから成り、検知極と対極間の起電力からCO2濃度を検出するように構成されたアニオン交換膜CO2センサにある。
好ましくは、アニオン交換膜CO2センサは、前記起電力とは正負が逆の電圧を検知極と対極間に加える手段を備えず、かつCO2との反応で消耗する活物質を備えていない。
【0007】
この発明のアニオン交換膜CO2センサでは、アニオン交換膜に達したCO2から例えば(6)
CO2+H2O+2e-→CO+2OH- (6)
により水酸化物イオンが生成する。この反応に対するネルンストの式による起電力EMFは、
EMF=RT/2F・ln((PCO2S・PH2OS・PCOC)/(PCO2C・PH2OC・PCOS)) (7)
で表され、式中Sは検知極をCは対極を表し、PCO2はCO2の分圧を、PH2Oは水蒸気の分圧を、PCOはCOの分圧を示す。またRはガス定数、Tは絶対温度で、実施例では室温あるいは戸外の環境温度であり、Fはファラデー定数である。
【0008】
発明者の実験結果では、
・ 検知極のCO2濃度を高めると、対極に対する検知極の電位(以下単に「起電力」という)は正となり、
・ 起電力のCO2濃度依存性から、CO2に関する2電子反応が生じており、
・ 酸素分圧は起電力に影響せず、
・ COに対して起電力はCO2とは逆向きに応答することが判明している。これらの結果は、(6)式による反応を支持するが、(1),(2)の反応が生じている可能性もある。ただしそのように仮定すると、アニオン交換膜中を水素イオンが拡散できる必要がある。
【0009】
この発明でのCO2の検出機構の詳細は未確認であるが、実験では、Ptをアニオン交換樹脂またはカーボンブラックに担持した検知極と対極とにより起電力が得られ、特許文献1,2のような白金酸化物電極も銀電極も不要であった。また実験に用いたアニオン交換膜は水酸化物イオン導電型で、塩素イオンが反応に関与する余地はなかった。そしてこの発明では電解液を用いず、貴金属酸化物からなる検知極も、銀の対極も用いずに、CO2を検出できる。また貴金属酸化物の代わりに、水素イオンを水に還元するための活物質を用いる必要もない。この明細書において、%及びppmは容積%と容積ppmとを表す。カーボンブラックを記号CBで表し、アニオン交換膜と同質のアニオン交換樹脂を記号AERで表す。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アニオン交換膜センサでの、アニオン交換膜と検知極とを示す平面図
【図2】実施例のアニオン交換膜センサの断面図
【図3】変形例のアニオン交換膜センサの断面図
【図4】2%のCO2へのアニオン交換膜センサの応答波形を示す図で、CO2の導入前は検知極/対極とも395ppmCO2と20%O2とを含むN2ガスの雰囲気に置かれ、対極側のCO2濃度を固定し検知極側のCO2濃度を変化させて、測定温度は30℃で相対湿度は57%である。
【図5】アニオン交換膜センサの起電力のCO2濃度依存性を示す図で、測定温度は30℃、相対湿度は57%、対極のCO2濃度は395ppmである。
【図6】1000ppmのCOへのアニオン交換膜センサの応答波形を示す図で、COの導入前は検知極/対極とも20%O2を含むN2ガスの雰囲気に置かれ、対極側の雰囲気を固定して、検知極側のCO濃度を変化させ、測定温度は21℃で相対湿度は50%である。
【図7】O2濃度を20%から0%,10%及び30%へ変化させた際のアニオン交換膜センサの応答波形を示す図で、O2濃度の変化前は検知極側は2%CO2と20%O2とを含むN2ガスの雰囲気に、対極側は395ppmCO2と20%O2とを含むN2ガスの雰囲気に置かれ、対極側の雰囲気を固定し検知極側のO2濃度を変化させ、測定温度は30℃で相対湿度は57%である。
【図8】相対湿度を変化させた際の2%のCO2へのアニオン交換膜センサの応答波形を示す図で、検知極側と対極側とを20%O2を含む、相対湿度が0〜80%のN2ガスの雰囲気(30℃)に置き、検知極側の雰囲気に2%のCO2を加えた際の応答波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図8に、実施例のアニオン交換膜CO2センサ2,22とその特性とを示す。図1はCO2センサ2,22のセンサ本体4を示し、アニオン交換膜6の一面に検知極8を、反対面に対極を設け、Au線等のリード線11,12を接続する。アニオン交換膜6は例えば強塩基性の水酸化物イオン伝導性の合成樹脂膜であり、例えば株式会社アストム製のネオセプタ(ネオセプタは登録商標)を用いる。なおアニオン交換膜6での伝導陰イオンの種類は任意である。検知極8と対極10の材料は、Ptペーストもしくはカーボンブラック(CB)に担持したPtを、アニオン交換膜6と同質のアニオン交換樹脂(AER)と混合したもの等を用いるが、例えばPtの薄膜電極などでもよい。またPtに代えて、Au,Rh,Ir,Ruなどの他の貴金属電極(厚膜または薄膜)を用いてもよく、さらにLaCoO3,LaNiO3などの卑金属の酸化物電極などを用いてもよい。また対極はCBから成る炭素電極、もしくは炭素の薄膜電極などでもよい。
【0013】
図2にアニオン交換膜CO2センサ2の構造を示し、アニオン交換膜6の検知極8とは反対面に対極10が設けられ、検知極8側がCO2濃度を測定する雰囲気(被検ガス)に曝され、対極10側がCO2濃度が既知の雰囲気(参照ガス)に曝される。そして検知極8と対極10間の起電力を測定する。
【0014】
図8に示すように、CO2センサ2には相対湿度依存性があるので、水溜を備えたアニオン交換膜CO2センサ22(図3)を用いてもよい。24は容器で水を収容し、26はPTFE膜などの多孔質膜で、検知極8を覆うことにより外部から保護し、多孔質膜26は容器24に固定されて、これらの隙間からリード線11,12を引き出す。
【0015】
センサ本体4の製造方法を説明する。塩化白金酸の水溶液をCBと混合し、60分間超音波照射した後、70℃に加熱して乾燥した後、350℃で1時間水素雰囲気中で還元することにより、PtをCB量に対して10wt%担持させたPt/CBを調製した。強塩基性で水酸化物イオン伝導性のアニオン交換樹脂(4級アンモニウム基をアニオン交換基として有するアニオン交換樹脂で、イオン交換容量は1.5mmol/g)の有機溶媒溶液に、前記のPt/CBを混合し、電極材料とした。この電極材料を用いた電極をPt/CB-AERと呼び、その組成は質量比でAER:CB:Pt=1.1:1:0.1である。他の電極材料として、田中貴金属株式会社製の市販のPtペースト(TR-7905)を前記のアニオン交換樹脂の溶液と混合し、アニオン交換樹脂とPtとを33:1の質量比で含むペーストを調製した。このペースト用いた電極をPt-AERと呼ぶ。強塩基性で水酸化物イオン伝導性のアニオン交換膜(4級アンモニウム基をアニオン交換基として有するアニオン交換樹脂で、イオン交換容量は1.8mmol/g)の表裏両面に、Pt/CB-AERを塗布し、検知極と対極とを作製すると共に、Auからなるリード線11,12を固定した。同様にPt-AERの電極材料を、前記のアニオン交換膜の表裏両面に塗布すると共に、リード線11,12を取り付けた。製造したセンサ本体4の構成を表1に示す。図2のセンサ2を用いて特性を測定し、対極10側には参照ガスを、検知極8側には被検ガスを供給し、リード線11,12間の起電力を測定した。
【0016】
なおアニオン交換膜は一般にアニオン交換基を有する樹脂の膜であり、アニオン交換基は例えば4級アンモニウム基、4級ホスホニウム基等である。アニオン交換膜は、例えばポリスチレン、ポリビニルピリジン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール等の樹脂を基材として、アニオン交換基等の官能基を導入し、キャスト成膜等により成膜したものである。アニオン交換膜は通常0.2〜3mmol/g、好ましくは0.5〜2.5mmol/gのアニオン交換容量を有し、乾燥によりアニオン伝導性が低下しないように、25℃における含水率は7wt%以上で、好ましくは10〜90wt%である。膜厚は、電気抵抗が低く、かつ必要な機械的強度を保つために、5〜200μmが好ましく、より好ましくは10〜100μmとする。またアニオン交換膜は、25℃で0.5mol/LのNaCl水溶液中での膜抵抗が例えば0.05〜1.5Ωcm2であり、好ましくは0.1〜0.5Ωcm2である。
【0017】
表1 センサ本体の構成
アニオン交換膜 水酸化物イオン伝導性強塩基性アニオン交換膜
検知極と対極(Pt/CB-AER) Pt:カーボンブラック:アニオン交換樹脂=0.1:1:1.1
検知極と対極(Pt-AER) Pt:アニオン交換樹脂=1:33
【0018】
図4は2%のCO2への応答波形を示し、最初は検知極/対極とも395ppmCO2と20%O2とを含むN2ガスの雰囲気に置かれ、対極側のCO2濃度を固定し検知極側のCO2濃度を変化させて、測定温度は30℃で相対湿度は57%である。対極側のCO2濃度を395ppmに固定したまま、検知極側のCO2濃度を395ppmと2%との間で変化させた。Pt/CB-AER電極とPt-AER電極とを比較すると、Pt-AER電極では起電力の変化が大きいが、雰囲気への応答はPt/CB-AER電極の方が速いことが分かる。図5は、被検ガス中のCO2濃度を395ppmから2%までの範囲で変化させた際の起電力を示し、最初は検知極/対極とも395ppmCO2と20%O2とを含むN2ガスの雰囲気に置かれ、測定温度は30℃、相対湿度は57%、対極のCO2濃度は395ppmに固定した。起電力の勾配をネルンストの式と比較すると、Pt-AER電極では反応の電子数は1.6、Pt/CB-AER電極では反応の電子数は2であることが分かる。
【0019】
前記の(6)の CO2+H2O+2e-→CO+2OH- の電極反応では、センサ2はCOに対してCO2とは逆向きに応答するはずである。1000ppmのCOへの応答波形(Pt-AER電極)を図6に示し、検知極と対極は共に20%のO2を含み、相対湿度が50%で残余がN2ガスの雰囲気に置かれ、測定温度は21℃である。この条件で被検ガスに1000ppmのCOを導入した際の結果を図6に示す。センサ2はCOに対して、CO2とは逆向きに応答している。
【0020】
図7はO2濃度を0%,20%,30%に変化させた際の応答波形(Pt-AER電極)を示し、最初検知極を2%のCO2と20%のO2を含むN2ガスの雰囲気に置き、O2濃度を0%、10%及び30%に変化させる。対極は395ppmのCO2と20%のO2を含むN2ガスの雰囲気に置かれている。測定温度は30℃で、検知極側も対極側も共に相対湿度を57%とした。図7からO2濃度の変化に対する応答がごく僅かで、O2はCO2の検出反応に関与しないことが分かり、このことは(6)の電極反応を支持している。
【0021】
図8は30℃で相対湿度が0〜80%の各雰囲気での、2%のCO2に対する応答波形(Pt-AER電極)を示し、検知極と対極は共に20%のO2を含むN2ガスの雰囲気に置かれている。またCO2の導入前は検知極と対極は共に395ppmのCO2を含んでいる。相対湿度が低いほど応答は大きくなるが、回復が遅くなる。相対湿度が低いと起電力の変化が大きくなることは、アニオン交換膜中に溶解したCO2濃度が相対湿度が低いほど高くなることを示している。
【0022】
図4〜図7から、起電力はCO2に対して正に応答し、CO2に対してほぼ2電子反応であり、O2は応答に関与せず、COに対して負に応答することが分かる。これらのことは、電極反応が(6)に沿ったものであることを支持している。実施例では検知極8と対極10をアニオン交換膜6の両面に設けたが、これらを同一面に設けて、対極10を気密な樹脂等で被検ガスから遮断しても良い。

【符号の説明】
【0023】
2,22 アニオン交換膜CO2センサ
4 センサ本体
6 アニオン交換膜
8 検知極
10 対極
11,12 リード線
14 ハウジング
24 容器
26 多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜の少なくとも一面に設けられた検知極と対極とから成り、検知極と対極間の起電力からCO2濃度を検出するように構成されたアニオン交換膜CO2センサ。
【請求項2】
前記起電力とは正負が逆の電圧を検知極と対極間に加える手段を備えず、かつCO2との反応で消耗する活物質を備えていないことを特徴とする、請求項1のアニオン交換膜CO2センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251940(P2012−251940A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126465(P2011−126465)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】