説明

アニリン類の製造方法

【課題】 従来のジルコニア系触媒を用いた方法に比べて、高収率でアニリン類を製造できるアニリン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】 好ましくは気相反応条件下であって、触媒の存在下に、フェノール類とアミノ化剤を反応させてアニリン類を製造するにあたり、触媒として、例えばリン酸化物とジルコニアの複酸化物、或いはPOで示されるリン酸根又はリン酸化物を含有するジルコニア等の、リン化合物を有するジルコニアを用いることを特徴とするアニリン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業用化学薬品として有用なアニリン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アニリン類は、芳香族ニトロ化合物を接触還元する方法、芳香族ハロゲン化物を高温高圧下にアミノ化剤と反応させる方法、又はフェノール類とアミノ化剤とを反応させる方法等により製造されている。
【0003】
しかしながら、芳香族ニトロ化合物を接触還元する方法では、芳香族ニトロ化合物の合成工程において、硝酸及び硫酸を多量に必要とする。そのため、反応終了後のこれら酸(即ち廃酸)の中和工程で多量のアルカリ物質が使用され、その高濃度の塩類を含む排水が多量に生ずる。また、これら酸による装置腐食が問題となり、高価な材質等が必要となり、さらに窒素酸化物が飛散することによる大気汚染等、好ましくない問題点がある。
【0004】
芳香族ハロゲン化物を用いる方法は、腐食性の高いハロゲン化水素が副生し、高価な耐食性材料を使用する必要が生ずる。また芳香族ハロゲン化物を、高温、高圧下でアミノ化剤、例えばアンモニアと反応させても、収率が低く工業的にはほとんど実用化されていない。
【0005】
これらの問題点を解決するため、フェノール類とアミノ化剤とを反応させ、アニリン類を得るプロセスが注目されている。このプロセスは、フェノール類とアミノ化剤を固体触媒に接触させるだけでアニリン類を製造できるために、製造プロセスも極めて簡略化できるほか、多量の廃酸やその中和に伴う排水もなく、また窒素酸化物による大気汚染も無い等利点が認められる。
【0006】
それ故、フェノール類とアミノ化剤とを反応させアニリン類を製造するための触媒研究が行われ、ジルコニウム−ニオブ、ジルコニウム−ホウ素、ジルコニウム−タングステン等のジルコニア系触媒が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭55−039369号
【0007】
しかし、かかるジルコニア系触媒を用いたアニリン類の製造の収率は、7.8%〜9.3%と非常に低いものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のジルコニア系触媒を用いた方法に比べて、高収率でアニリン類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、触媒の存在下で、フェノール類とアミノ化剤を反応させてアニリン類を製造するにあたり、触媒としてリン化合物を有するジルコニアを用いることを特徴とするアニリン類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、従来方法に比べて高収率でアニリン類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、フェノール類とアミノ化剤を、触媒であるリン化合物を有するジルコニア(以下、本触媒という。)に接触させることで実施される。本発明の製造方法では、脱水酸基等の副反応が起こりにくく、優先的に所望のアニリン類を得ることができる。
【0012】
本触媒は、リン化合物を有するジルコニアを触媒活性成分とするものである。ここでいう「リン化合物を有するジルコニア」とは、例えば、リン酸化物とジルコニアの複酸化物、或いはPOで示されるリン酸根又はリン酸化物を含有するジルコニア等が挙げられる。本触媒は市販品をそのまま触媒として用いることができる。そして本触媒は、リン化合物を有するジルコニアの粉末を、そのまま或いはシリカ、アルミナ、シリカアルミナ等の担体、シリカ、硅藻土、カオリン、ベントナイト、アルミナ、シリカアルミナ等のバインダー、水等を加えた後、打錠機又は押し出し機で円柱状、円筒状等の所望の形状に成型して固定床触媒として用いてもよい。また本触媒は、リン化合物を有するジルコニアの粉末を、シリカ、硅藻土、カオリン、ベントナイト、アルミナシリカアルミナ等のバインダー及び水と混合してスラリーとし、これを噴霧乾燥して、球状のマイクロビーズにして流動床触媒として用いることもできる。
【0013】
また、本触媒は、ジルコニア自体及び/又は酸素存在下で焼成することによりジルコニアとなる難溶性ジルコニウム含有化合物(以下、ジルコニア前駆体という。)と、リンの酸化物、ハロゲン化物、リン酸とその塩、有機リン酸とその塩、有機リン化合物等のリン化合物から選ばれる1種或いは2種以上を用いて、混練法、浸漬法、沈着法又は蒸発乾固法等によって調整することができるが、これらの方法に限定されるものではない。具体的には、1)混練法によるときは、上記リン化合物を、粉末或いは所望の形状成型したジルコニア及び/又はジルコニア前駆体と、必要に応じて水と共に混練した後、乾燥し、必要ならば焼成すればよい。2)浸漬法によるときは、上記の可溶性リン化合物を水に溶解し、得られた溶液に、粉末或いは所望の形状成型したジルコニア及び/又はジルコニア前駆体を浸した後、乾燥し、必要ならば焼成すればよい。3)沈着法によるときは、上記の可溶性リン化合物塩の水溶液に、粉末或いは所望の形状成型したジルコニア及び/又はジルコニア前駆体を分散させ、この混合物中にアンモニア水溶液を加えることにより本触媒の表面に上記元素の水酸化物を沈着させ、濾過した後、水で洗浄して乾燥し、必要ならば焼成すればよい。4)蒸発乾固法によるときは、上記リン化合物並びに粉末或いは所望の形状成型したジルコニア及び/又はジルコニア前駆体を水中で攪拌、混合し、蒸発乾固した後、必要ならば焼成すればよい。いずれの方法においても、ジルコニア前駆体を用いて調製し焼成を行うときには通常空気雰囲気下に、ジルコニアを用いて調製し焼成を行うときには通常空気、窒素及び/又は二酸化炭素等の雰囲気下に、350〜1100℃で数時間行われるが、ジルコニアを用いた場合には触媒は気相接触反応時に反応器内で加熱されるため必ずしも触媒の焼成は必要でない。
【0014】
本触媒におけるリン化合物とジルコニアの重量割合は、ジルコニア及びジルコニア前駆体によって或いは含有させるリン化合物の種類又はその形態によって好ましい範囲が異なり特に限定されるものではないが、ジルコニア1モルに対して、リン化合物がリン元素換算で通常0.01〜1モルである。
【0015】
本発明の製造方法で原料として使用できるフェノール類は、ベンゼン環に水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、置換基を有していてもよいが、フェノール及び低級アルキル基を有するフェノール類がより好ましい。低級アルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的には、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2−エチルフェノール、3−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,5−キシレノール等の1価フェノール類、或いは1,4−ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン等の多価フェノール類等が挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法で使用するアミノ化剤は、アンモニア、アンモニアを発生する化合物及び/又は有機アミン類である。アンモニアを発生する化合物とは、例えば熱分解等によりアンモニアガスを発生する無機化合物が挙げられ、具体的には例えば炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。また有機アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン類、ジメチルアミン、ジエチルアミン等の2級アミン類等が挙げられる。これらのうち、特にアンモニアが好ましく用いられる。アミノ化剤の使用量はフェノール類1モルに対して、通常1〜50モル、好ましくは5〜30モルである。
【0017】
本発明の製造方法は、気相反応によるものが好ましい。フェノール類又はフェノール類と溶媒との混合物を、液体アンモニアと一緒に或いは別々に気化させて混合するか、又はフェノール類とアンモニアの混合物を気化させる。これら原料ガスを、触媒を充填した反応器中に供給する。かかる原料ガスは必要に応じて不活性な気体、例えば窒素、アルゴン、スチーム等を用いて希釈することもできる。原料ガスの供給速度は、重量空間速度(WHSV)として通常0.01〜0.2g/cc・hrであり、好ましくは0.05〜0.15g/cc・hrである。ここで重量空間速度とは、単位時間当たりのフェノール類の供給重量(g/hr)を、反応塔又は管に充填された触媒容積(cc)で割ることにより求められる値である。反応は連続法、回分法のいずれの方式であってもよいが、工業的見地から連続法で行うことが好ましい。反応温度は通常250〜600℃、好ましくは350〜500℃である。また、反応圧力は通常1気圧以上、好ましくは1〜50気圧、より好ましくは1〜5気圧である。
【0018】
反応器から流出する反応混合ガスを、加圧であれば圧力を常圧に戻し、冷却するか又は適当な溶剤に吹き込むことで捕集し、反応混合物を得る。捕集後、抽出、蒸留等の所望の分離操作により、アニリン類を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明が実施例により限定されるものでない。尚、分析には株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフィー(以下、GCと略する。)分析装置GC−17A型を用いた。
【0020】
また、3,5−キシレノールの転化率並びに反応生成物の選択率及び収率は以下の式を用いてGC分析の結果から算出した。
[3,5−キシレノール]
転化率(%)=(単位時間に反応した3,5−キシレノールのモル数/単位時間に供給した3,5−キシレノールのモル数)×100
[3,5−キシリジン]
選択率(%)=(単位時間に生成した3,5−キシリジンのモル数/単位時間に反応した3,5−キシレノールのモル数)×100
収率(%)=(単位時間に生成した3,5−キシリジンのモル数/単位時間に供給した3,5−キシレノールのモル数)×100
[m−キシレン]
選択率(%)=(単位時間に生成したm−キシレンのモル数/単位時間に反応した3,5−キシレノールのモル数)×100
収率(%)=(単位時間に生成したm−キシレンのモル数/単位時間に供給した3,5−キシレノールのモル数)×100
【0021】
参考例1
10重量%PO/ジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製、ジルコニア1モルに対して、リン酸根0.13モル含有)の粉末を60MPaでプレスし,粉砕後,10−16メッシュに分級して、成型された10重量%PO/ジルコニアを得た。
【0022】
実施例1
参考例1で得られた成型された10重量%PO/ジルコニア30cmを、を内径19.0mmφのガラス反応管に充填した。66.7wt%の3,5−キシレノールのピリジン溶液を気化させ予熱したアンモニアガス20モル倍と混合し、3,5−キシレノールのWHSV=0.1g/cc・hrで450℃に保った反応管に常圧で通じた。得られた反応混合ガスをアセトニトリルに吸収させて反応混合物を得た。得られた反応混合物のGC分析の結果を以下に示す。
3,5−キシレノールの転化率 ;99.4%
3,5−キシリジンの選択率 ;42.6%
3,5−キシリジンの収率 ;42.4%
m−キシレンの選択率 ; 0.6%
m−キシレンの収率 ; 0.6%
【0023】
実施例2
実施例1の反応温度を450℃から425℃にかえた以外は実施例1と同様にして行い、反応混合物を得た。得られた反応混合物のGC分析の結果を以下に示す。
3,5−キシレノールの転化率 ;99.0%
3,5−キシリジンの選択率 ;50.3%
3,5−キシリジンの収率 ;51.8%
m−キシレンの選択率 ; 0.2%
m−キシレンの収率 ; 0.2%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下で、フェノール類とアミノ化剤を反応させてアニリン類を製造するにあたり、触媒としてリン化合物を有するジルコニアを用いることを特徴とするアニリン類の製造方法。
【請求項2】
リン化合物を有するジルコニアがリン酸根又はリン酸化物を含有するジルコニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン化合物を有するジルコニアがリン酸化物とジルコニアの複酸化物である、請求項1に記載の方法。


【公開番号】特開2007−223963(P2007−223963A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48434(P2006−48434)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】