説明

アペリンを含んで成る皮下脂肪蓄積抑制剤

【課題】本発明の課題は、新規な皮下脂肪の蓄積を抑制するのに有効な薬剤の提供にある。
【解決手段】本発明は、アペリンを含んで成る皮下脂肪蓄積抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアペリンを含んで成る皮下脂肪蓄積抑制剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
生体が余剰なエネルギーを蓄積していく、つまり肥満を呈する過程において、脂肪細胞はサイズの増大によって肥大化し、また新たな脂肪細胞の出現によって脂肪細胞数が増加する。すなわち脂肪組織の過剰状態である肥満は、個々の脂肪細胞の肥大化(hypertrophy)と脂肪細胞数の増加(hyperplasia)の両方に起因する。
ヒトは約60兆個の細胞から構成されているが、脂肪細胞の数は約300億個と推定されている。ヒトの脂肪細胞の平均直径は約60〜90ミクロンであり、白色脂肪組織の固定標本を観察しても、一様な大きさで単房性の脂肪滴をもつため、核は細胞膜に接触した形で平らに変形している。このような脂肪組織の形態は、肥満になると劇的に変化する。まず容易に観察されるのは、脂肪細胞サイズの増大である。肥満ヒトの場合、脂肪細胞は最大直径が140〜150ミクロンまでに肥大化する。この肥大化で体積が約3倍までになる(非特許文献1)。
【0003】
肥満には内蔵脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満とがあり、いずれも高血圧症などを含む軽度から重篤に至る様々な疾患につながる危険性を有し、現代人が悩まされる症状一つである。その解決法としては運動、食事制限、脂肪分・糖分摂取の制限、機能性食品の摂取など様々であり、より効率的な予防法・解消法が常に所望されている。
【0004】
リンパ管が拡張し、リンパ管機能異常を有するマウスは肥満の表現型を示し、しかもその皮下脂肪層は、正常なものに比べ、顕著に厚いことも知られている(非特許文献2)。しかしながら、リンパ管の機能の正常化、安定化を介して肥満を予防・解消する研究はほとんどなされていない。
【0005】
アペリンは、1998年に、長らくオーファン受容体であった7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であるAPJ(別名、AGTRL1:Angiotensin receptor like 1)に対する結合因子として牛の胃の細胞抽出液から単離された分子である。アペリンの cDNA は77アミノ酸をコードするが、この前駆体からロング・フォーム(42〜77アミノ酸)とショート・フォーム(65〜77アミノ酸)が形成される。どちらのアペリンもAPJの活性化を誘導することが知られている。これまで、心血管系や中枢神経系で、APJの発現が報告されてきており、心臓では心筋収縮作用、神経系ではバソプレシンの発現を制御するなど、体液の調節機構に関与することが示唆されてきている。また、APJはエイズウイルスの受容体として感染にも関与することから、種々の観点からの創薬のターゲットとしてにわかに注目を浴びつつある受容体である。APJの発現は、血管系においては、血管内皮細胞や壁細胞に発現するとされてきており、アフリカツメガエルを用いた遺伝子ノックダウンの実験にて、アペリン/APJシステムが血管発生に必須の役割を果たすことが示され、またマウスやヒトにおいても本受容体の発現が内皮細胞に認められることから、哺乳類においても血管形成に関与することが予想されてきた(非特許文献3)。また、近年、アペリンのノックアウトマウスの解析や、試験管内での血管系解析を通して、血管内皮細胞がAng1で刺激を受けた際に分泌するアペリンが血管径を制御することが報告されている(非特許文献4)。これまでに、アペリンと皮膚リンパ管の機能安定化に関与することについては何ら明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】増刊実験医学 Vol. 25, No.15 (2007), pp. 32-40
【非特許文献2】Nature Genetic 37(10) (2005), pp.1072-1081
【0007】
実験医学 Vol. 24, No18 (2006), pp. 133-138
【0008】
【非特許文献3】実験医学 Vol. 26, No.9 (2008), pp. 1380-1383
【非特許文献4】Kidoya et al, (2008) Spatial and temporal role of the apelin/APJ system in the caliber size regulation of blood vessels during angiogenesis. EMBO J 27: 522-534
【非特許文献5】Kawamata Y et al, (2001) Molecular properties of apelin: tissue distribution and receptor binding. BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA. 2-3:162-171
【非特許文献6】Kajiya et al, (2005) Hepatocyte growth factor promotes lymphatic vessel formation and function. EMBO J 24: 2885-2895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、リンパ管機能を促進することで皮下脂肪の蓄積を抑制するという新規な皮下脂肪の蓄積を抑制するのに有効な薬剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、以前、ウエスタンブロッティング法によって、ヒトリンパ管内皮細胞(以下、LEC)においてアペリンの受容体であるAPJが発現していることを確認した。また、リガンド活性を有するアペリン13、及び36でLECに刺激を負荷したところ、LECによる管腔形成が観察されることも確認した。さらに、アペリンを表皮で高発現する遺伝子を導入したマウスに紫外線照射した場合には、野生型マウスと比較してリンパ管の透過性、及び拡張が有意に抑制されたことが確認された。これらの結果は、アペリンがリンパ管機能の安定化に寄与することを示すものである。そして、今般、本発明者はアペリンを表皮で高発現するマウスは、高脂肪の食餌を負荷したとしても、野生型に比べ、皮下脂肪蓄積量が有意に抑制されている、更にはアペリンを欠損したマウスでは、高脂肪の食餌を負荷すると野生型に比べ、顕著な皮下脂肪の蓄積がみられることを確認した。
【0011】
したがって、本願は、リンパ管の安定化を図り、皮下脂肪の蓄積を抑制するのに有効な薬剤を提供する。詳しくは、本願は以下の発明を包含する:
(1)アペリンを含んで成る皮下脂肪蓄積抑制剤。
(2)(1)の皮下脂肪蓄積抑制剤を適用することからなる、皮下脂肪蓄積を解消又は予防するための美容学的方法。
(3)皮下脂肪蓄積抑制剤をスクリーニングする方法であって、皮膚細胞における内因性アペリンの発現を亢進する薬剤、またはAPJを活性化するアペリン様薬剤を皮下脂肪蓄積抑制剤として選定することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る皮下脂肪蓄積抑制剤を使用することにより、皮下脂肪の蓄積の予防・解消が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】野生型マウス(WT)との対比における表皮アペリン高発現マウス(TG)の体重変動を示すグラフ。(A)は高脂肪餌負荷マウスの体重変動;(B)は高脂肪餌負荷マウスの体重変化量を示す。
【図2】各マウスの摂餌量を示すグラフ。
【図3】各マウスの皮下脂肪重量を示すグラフ。(A)は高脂肪餌負荷マウスの皮下脂肪重量;(B)は高脂肪餌負荷マウスの体重当たりの皮下脂肪重量を示す。
【図4】各マウスの皮膚のHE光学顕微鏡写真図。
【図5】各マウスの皮下脂肪細胞染色した組織片の共焦点顕微鏡写真図。
【図6】TG及びWTマウスの脂肪細胞の油滴の面積を定量化したグラフ。
【図7】WTマウスとの対比におけるアペリン欠損マウス(KO)の体重変動を示すグラフ。(A)は高脂肪餌負荷マウスの体重変動;(B)は高脂肪餌負荷マウスの体重変化量を示す。
【図8】各マウスの体重あたりの皮下脂肪重量を示す。
【図9】各マウスの皮膚のHE光学顕微鏡写真図。
【図10】各マウスの皮下脂肪細胞染色した組織片の共焦点顕微鏡写真図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ヒトアペリンは、心臓、肺、腎臓、脂肪、胃、脳、副腎、内皮など様々な部位での発現が報告されており、77アミノ酸の前駆タンパク質に由来する以下の36アミノ酸から成るアペリンAPJ受容体のリガンドとして知られる(非特許文献5)。また、アペリンには、そのアミノ酸のN末端及び/又はC末端が欠落した変異体、例えばアペリン−13(アペリンの第24〜36番目のアミノ酸配列からなるポリペプチド)なども知られ、よって本明細書において「アペリン」という場合、36アミノ酸から成る全長ヒトアペリンに限らず、アペリンの活性を有する限り、その1または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアペリン変異体、並びにこれらのフラグメントも包含する。また、アペリンには、ヒト由来のみならず、ヒト以外の霊長類や、ラット、マウス、ウサギなどといったげっし動物由来のものも含まれる。さらに、本明細書でいうアペリンをコードする遺伝子とは、アペリンをコードする遺伝子の他に、その1もしくは数個のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたものであってアペリン活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、さらにはアペリンをコードする遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイズするものであってアペリン活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含む。ここでいう「アペリン活性」とは、アペリンがその受容体であるAPJに結合することによって、細胞内シグナル伝達分子であるAktをリン酸化することや、細胞内のcAMP濃度を減少させることとして定義される。なお、高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、例えばナトリウム濃度が約10〜40mM、好ましくは約20mM、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃であることを含む条件をいう。
【0015】
APJ受容体は、AGTRL1(アンジオテンシン受容体様1)とも称され、GPCRの1つであり、380のアミノ酸から成る。この膜貫通領域は、アンジオテンシン(AT1)受容体と40〜50%の相同性を示す。アペリン/APJシグナルは、血管ではANG1/Tie2の下流シグナルであり、心筋の収縮や、血圧及び血流、並びに血管形成に関与することが報告されている((非特許文献4等)。
【0016】
上述のとおり、アペリンがリンパ管機能を促進することによって、生じる皮下脂肪蓄積抑制効果はこれまでに何ら明らかになっていない。本発明は、アペリンがリンパ管機能の正常化・安定化を介して、皮下脂肪蓄積抑制作用を示す、という驚くべき知見に基づくものである。
【0017】
したがって、本発明の1実施態様において、アペリンを含有する皮下脂肪蓄積抑制剤を提供する。
【0018】
本発明に係る皮下脂肪蓄積抑制剤はリンパ管の構造の不安定化を原因とする皮下脂肪細胞の蓄積の予防・解消に有効な医薬品または化粧品として利用できる。皮下脂肪蓄積が伴う疾患、症状には例えばセルライト、たるみ(皮膚老化、弾力低下)などが挙げられる。本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤は皮下脂肪蓄積を抑えることでこのような疾患・症状の発症を予防・改善することができる。また、皮下脂肪型肥満の症状を抱える場合、軽度から重篤に至る様々な疾患・症候群に進行する場合がある。その例として、睡眠時無呼吸症候群、頻尿、無毛症、月経異常、ホルモン低下による発育不良、貧血、卵巣がん、子宮がん、乳がん、不妊症、肝硬変、痔、深部静脈血栓症、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症などが挙げられる。本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤はこのような疾患・症候群の発症を予防・改善することもできる。
【0019】
本発明に係る皮下脂肪蓄積抑制剤は痩身を目的とする美容学的方法にも利用される。この美容学的方法は、例えば本発明に係る皮下脂肪蓄積抑制剤を皮下脂肪蓄積の気になる部位、例えばセルライト(脂肪の繊維組織)を呈している部位に適用し、そのまま放置するか又は例えばリンパ管の流れの方向に即してマッサージなどを施し、リンパ管液の流れを促進するなどして行うことができる。この方法の適用箇所には顔面、首、手足、など、全身のあらゆる部位が挙げられる。
【0020】
本発明に係る皮下脂肪蓄積抑制剤は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤の投与形態は特に制限されるものではなく、経口、非経口、外用等であってよいが。好ましくは外用剤である。剤型としては、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤、注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤、又は錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤を挙げることができる。
【0021】
本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤中のアペリンの配合量は、用途に応じて適宜決定できるが、一般には剤全量中、0.00001〜20.0質量%、好ましくは0.00001〜10.0質量%である。
【0022】
また、本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤には、アペリン以外に、例えば、通常の食品や医薬品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0023】
さらに、本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤を皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0024】
また、被験体におけるアペリンをコードする遺伝子(アペリン遺伝子)が不活性状態又は沈黙状態にあり、その結果細胞がアペリン欠損又は欠陥状態にあるときは、アペリン遺伝子自体を細胞内に導入するために、アペリン遺伝子を組み込んだベクターを使用することができる。該ベクターにおいては、アペリン遺伝子の発現を亢進させる調節配列、例えばプロモーターやエンハンサーを、アペリン遺伝子に対し作動可能な位置に配置することが好ましい。
【0025】
アペリン遺伝子を細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、あるいは非ウイルス性の遺伝子導入方法(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁、実験医学増刊、12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療 の基礎技術」、羊土社(1996))のいずれの方法も適用することができる。ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルス、又はRNAウイルスに、アペリンをコードするDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。このうち、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が、特に好ましい。非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。また、上記遺伝子を実際に医薬として作用させるには、DNAを直接体内に導入する in vivo 法、およびヒトからある種の細胞を取り出し体外でDNAを該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁、月刊薬事、36(1), 23-48(1994)、実験医学増刊、12(15)(1994))。in vivo 法がより好ましい。in vivo 法により投与される場合は、疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に投与することができる。in vivo 法により投与する場合は、一般的には注射剤等とされ、必要に応じて慣用の担体を加えてもよい。また、リポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)の形態にした場合は、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることができる。
【0026】
したがって、本発明の更なる実施態様においては、皮下脂肪蓄積抑制のための、アペリンをコードする遺伝子を含んで成るベクターを含有する皮下脂肪蓄積抑制剤が提供される。この場合、アペリンをコードする遺伝子は、アペリン遺伝子の発現を亢進させる調節配列と作動可能的に連結されていることが好ましい。
【0027】
本発明の皮下脂肪蓄積抑制剤中のアペリンをコードする遺伝子を含んで成るベクターの配合量は、用途に応じて適宜決定できるが、一般には皮下脂肪蓄積抑制剤全量中、0.00001〜20.0質量%、好適には0.00001〜10.0質量%である。
【0028】
本発明はさらに、皮下脂肪蓄積抑制剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、皮膚細胞における内因性アペリンの発現を亢進する薬剤、またはAPJを活性化するアペリン様薬剤を皮下脂肪蓄積抑制剤として選定することを特徴とする。内因性アペリンの発現の亢進は、例えば皮膚細胞中のアペリンの量を直接測定することにより決定することができる。また、APJの活性化は、皮膚細胞中のカルシウムイオン濃度、cAMP濃度等を測定することにより決定することができる。なお、皮膚細胞には、表皮細胞、例えば角化細胞、顆粒細胞、有棘細胞等、線維芽細胞、血管・リンパ管内皮細胞、皮下脂肪細胞が含まれ、ヒト由来であっても、その他の動物、例えばラット、マウス、ウサギなどであってもよい。好ましくは、内因性アペリン量の測定はアペリンに特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素などを利用する免疫染色法、ウエスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法など、様々な方法により実施できる。また、皮膚細胞からRNAを抽出し、アペリンをコードするmRNAの量を測定することにより決定することもできる。mRNAの抽出、その量の測定も当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により行われる。以上の他、アペリンの既知の生物活性を測定することによりアペリンの発現量を測定することもできる。他に、アペリンの発現はin situハイブリダイゼーション法やその生物活性の測定を通じて決定することができる。
例えば皮膚細胞中の内因性アペリンの発現がコントロール値と比べ30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上亢進したら、「皮下脂肪蓄積抑制剤」と判断する、としてよい。コントロール値としては、限定されるものではないが、例えば統計学的に有意な数(例えば10人分以上、好ましくは100人分以上)の健常人の対応の部位における表皮細胞の内因性アペリンの発現量の平均値であってよい。
【0029】
好適な態様において、上記スクリーニング方法は更に、上記亢進能力を有する候補薬剤をモデル動物、例えばアペリン欠損動物や、紫外線照射などによりリンパ管の損傷した動物に適用し、皮下脂肪蓄積抑制剤を確認することを含んで成る。
【0030】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実験1
表皮アペリン高発現マウスの体重、摂餌量測定
アペリンをK14 プロモーターの制御化で表皮に高発現させたC57 / BL6 マウス(5週齢)(以下、アペリンTG又はTG)(非特許文献6)、及び野生型C57/BL6マウス(以下、WT)に45kcal%高脂肪餌(Research Diets, Tokyo, Japan)を8週間負荷した。1週間ごとに各個体の体重、摂餌量、及び負荷終了後の皮下脂肪重量を測定し、グラフ化した。図1Aはマウスの体重変化を示す。図1Bは1週間あたりの体重増加量を算出し、グラフ化したものである。図2は1週間におけるアペリンTG及びWTの摂餌量を示したグラフである。図3Aは皮下脂肪重量を示すグラフであり、図3Bはマウス体重当たりの皮下脂肪重量を示すグラフである。
【0032】
図1Bから特によくわかるとおり、高脂肪餌を負荷したアペリンTGはWTに比べ、体重増加が抑制された。また、図3からわかるとおり、皮下脂肪重量に関しても、高脂肪餌を負荷したアペリンTGはWTに比べ、抑制された。図2を参照すると、摂餌量の点ではアペリンTG及びWTに差がないことがわかる。よって、アペリンTGはWTと同量の餌を摂取しているにもかかわらず、WTに比べ体重増加及び皮下脂肪量増加が抑えられることが認められた。
【0033】
実験2
表皮アペリン高発現マウスの皮膚HE染色
上記と同様に8週間高脂肪餌を負荷したアペリンTGマウスの背部皮膚を採取し、Tissue-Tech OCTコンパウンド(Sakura Finetechnical, Tokyo, Japan)に包埋した。包埋ブロックからクリオスタットにより20μm に薄切した凍結切片を作製した。作製した組織標本に10%ホルマリン固定を施し、HE (へマトキシリン・エオジン)染色を行った。コントロールとしては、同様に高脂肪餌を負荷した同週齢のWTマウスの背部皮膚から作製した組織切片を用いた。その後、染色した標本を光学顕微鏡を用いて観察した。図4にその結果を示す。白色部分が皮下脂肪層であるが、TGの皮下脂肪層の厚みはWTに比べ、顕著に薄いことがわかる。したがって、高脂肪餌を負荷したアペリンTGはWTに比べ、皮下脂肪量の蓄積を抑えられることがわかる。
【0034】
実験3
アペリン高発現マウスの皮下脂肪細胞油滴染色
上記と同様に8 週間高脂肪餌を負荷したアペリンTG マウスの鼠形部皮下脂肪組織を採取し、2mm 片に細かく切断した。採取した組織片を蛍光物質BODIPY493/503 (Molecular Probes, Eugene, OR)の5μM 溶液に添加し、1時間室温で皮下脂肪細胞中の油滴を染色した。コントロールとしては、同様に高脂肪餌を負荷した同週齢のWTマウスの鼠形部皮下脂肪から採取した組織片を用いた。その後、染色した組織片を共焦点顕微鏡を用いて観察した(図5)。また、画像解析ソフトIP-Lab を用いて、TG及びWTについて取得した染色画像を元に、脂肪細胞の油滴の面積を定量化した(図6)。図からよくわかるとおり、高脂肪餌を負荷したアペリンTGはWTに比べ、皮下脂肪細胞の油滴が小さいことがわかった。
【0035】
実験4
アペリン欠損マウスの体重測定
アペリンの発現をノックアウトしたC57 / BL6 マウス(7〜9週齢)(以下、アペリンKO、又はKO)、及び野生型C57/BL6マウス(以下、WT)に60kcal%高脂肪餌(Research Diets, Tokyo, Japan)を17週間負荷した。1週間ごとに各個体の体重を測定し、グラフ化した。図7Aはマウスの体重変化を示す。図7Bは試験終了時の体重増加量を算出し、グラフ化したものである。図8は試験終了時のマウス体重当たりの皮下脂肪重量を示すグラフである。
【0036】
図7Bから特によくわかるとおり、高脂肪餌を負荷したアペリンKOはWTに比べ、体重増加が促進された。また、図8からわかるとおり、皮下脂肪重量に関しても、高脂肪餌を負荷したアペリンKOはWTに比べ、顕著に増加した。以上よりアペリンKOはWTに比べ体重増加及び皮下脂肪量増加が促進されることが認められた。
【0037】
実験5
アペリン欠損マウスの皮膚HE染色
上記と同様に17週間高脂肪餌を負荷したアペリンKOマウスの背部皮膚を採取し、Tissue-Tech OCTコンパウンド(Sakura Finetechnical, Tokyo, Japan)に包埋した。包埋ブロックからクリオスタットにより20μm に薄切した凍結切片を作製した。作製した組織標本に10%ホルマリン固定を施し、HE (へマトキシリン・エオジン)染色を行った。コントロールとしては、同様に高脂肪餌を負荷した同週齢のWTマウスの背部皮膚から作製した組織切片を用いた。その後、染色した標本を光学顕微鏡を用いて観察した。図9にその結果を示す。白色部分が皮下脂肪層であるが、KOの皮下脂肪層の厚みはWTに比べ、顕著に厚いことがわかる。したがって、高脂肪餌を負荷したアペリンKOはWTに比べ、皮下脂肪量の蓄積が促進されることが分かる。
【0038】
実験6
アペリン欠損マウスの皮下脂肪細胞油滴染色
上記と同様に17 週間高脂肪餌を負荷したアペリンKOマウスの鼠形部皮下脂肪組織を採取し、2mm 片に細かく切断した。採取した組織片を蛍光物質BODIPY493/503 (Molecular Probes, Eugene, OR)の5μM 溶液に添加し、1時間室温で皮下脂肪細胞中の油滴を染色した。コントロールとしては、同様に高脂肪餌を負荷した同週齢のWTマウスの鼠形部皮下脂肪から採取した組織片を用いた。その後、染色した組織片を共焦点顕微鏡を用いて観察した(図10)。図から、高脂肪餌を負荷したアペリンKOはWTに比べ、皮下脂肪細胞の油滴が大きいことがよくわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アペリンを含んで成る皮下脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載の皮下脂肪蓄積抑制剤を適用することからなる、皮下脂肪蓄積を解消又は予防するための美容学的方法。
【請求項3】
請求項1、2記載の皮下脂肪蓄積抑制剤を適用することからなる、リンパ管を安定化することによって皮下脂肪蓄積を予防するための美容学的方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−20942(P2012−20942A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158190(P2010−158190)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】