説明

アポクライティン−IIをコードするコドン最適化核酸およびその使用方法

【課題】クライティン-IIの発光活性を著しく向上させ、細胞内カルシウム流動の検出を顕著に容易なものとすることができる、アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するアポクライティン-IIタンパク質またはその変異体をコードする、コドン最適化核酸。該コドン最適化核酸を有する組換え宿主細胞。該コドン最適化核酸を用いて発現されたアポクライティン-IIタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸、アポクライチン-IIタンパク質、およびその製造方法などに関する。
【0002】
腔腸動物における発光クラゲの中には、カルシウムイオンと特異的に結合し発光する発光タンパク質が6種類知られている。その中で、イクオリンとオベリンが詳細に研究されている。これらのカルシウム結合型発光蛋白質は、細胞における生物学的カルシウム指標あるいはカルシウム濃度の測定に用いられてきた。またその遺伝子を用いて、カルシウム依存による細胞環境内の重要な修飾因子および生物学的メカニズムに関する情報を導きだす手法として用いられてきた。
【0003】
他の発光オワンクラゲClytia gregaria由来の発光蛋白質であるクライティンは、1982年に単離され(非特許文献1参照)、その遺伝子は、1993年に単離され,大腸菌内での発現が確認されている(非特許文献2参照)。その後、井上らにより、詳細に遺伝子解析がなされ、発光性質の異なるクライティン遺伝子が同定され、最初に単離されたクライティン(=クライティン-I)と区別して、クライティン-II と命名された(非特許文献3参照)。クライティン-II遺伝子は、大腸菌内で発現され、組換えクライティン-IIとしても精製され、生物学的カルシウム指標あるいはカルシウム濃度の測定に使用の可能性が示された。
クライティン-IIは、イクオリンおよびクライティン-Iと比較すると、蛋白質量あたりの全発光量はほぼ同一であるが、発光初速強度は約5倍である。すなわち、クライティン-IIのS/N比はイクオリンおよびクライティン-Iの5倍である。このことは、検出系においてクライティン-IIを使用する場合に、イクオリンおよびクライティン-Iより優れている可能性を示唆している。
【0004】
このような発光能をもつクライティン-II は、分子量約22,000のアポクライティン-IIタンパク質、分子状酸素が付加したセレンテラジンからなる複合体である。クライティン-IIタンパク質の分子内には、カルシウムイオンと結合可能な配列が3カ所存在する。クライティン-IIにカルシウムイオンが結合すると青い光(λmax=470nm)を放ち、二酸化炭素およびセレンテラミドを生成する。この発光強度は、カルシウムイオン濃度に依存することから、クライティン-IIは、高感度でのカルシウム濃度測定を可能にする。
【0005】
先行技術によると発光タンパク質クライティン-IIのアミノ酸配列は、Inouyeにより最初に公開され(非特許文献3参照)、受託番号:AB360785によりEMBL配列データベースにおいて開示されている(本明細書においても配列番号1として開示される)。
【0006】
アミノ酸配列相同性について、クライティン-IIと他の発光蛋白質クライティン-I、イクオリン、オベリン及びマイトロコミンと比較すると、それぞれ88.4%、61.9%、76.2%、60.8%であり、イクオリン、オベリン及びマイトロコミンとは、相同性が低い(非特許文献3参照)。
【0007】
また、特表2005-506053において、発光タンパク質イクオリンのアミノ酸配列にもとづいたコドン最適化(ヒト化)遺伝子配列の報告があるが、クライティン-IIのアミノ酸配列との相同性61.9%、発光パターンの異なること、さらに塩基配列における相同性は 64.6%であることから、全くことなる機能分子として認定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005-506053
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Comp. Biochem. Physiol. (1982) 72B, 77-85
【非特許文献2】FEBS Lett. (1993) 333,301-305
【非特許文献3】J. Biochem. 143 (2008) 711-717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、クライティン- IIには、真核細胞生物由来の宿主細胞あるいは宿主アッセイ細胞内で組換えクライティン- IIを安定的に発現された実績も、細胞内カルシウム濃度変化のレポーターとして用いられた実績もない。また、クライティン-IIについて、Gタンパク質結合型受容体および/またはイオンチャネルの活性化状態を起こす小分子のスクリーニングにおける有用性についての検討も行われていない。さらに、最適化されたクライチィン−II配列に関する報告もない。
【0011】
クライティン-IIを用いて、哺乳類細胞中の細胞内カルシウム濃度における変化をアッセイするには、アポクライティン-IIをコードする核酸を含有するプラスミドを細胞内に導入することが必須である。核酸の細胞内への導入は、イオン脂質試薬を用いたDNA複合体形成またはCaPOによる沈殿のような標準的な形質導入技術により成し遂げられる。
【0012】
しかしながら、形質導入された哺乳類細胞において、細胞の少集団のみがアポクライティン-II発現プラスミドを宿す場合には、アポクライティン-IIタンパク質の低発現の結果、発現再生アポクライティン-IIを用いたカルシウムアッセイにおいて、低発光強度(低発光量)に起因して、クライティン-IIの使用が制限される。本発明者らは、この事実に着目し、アポクライティン-IIタンパク質の細胞内発現量の増加が、カルシウムアッセイにおけるより高い発光量、さらにはノイズに対する高いシグナル比率の実現に有効ではないかとの仮説を立てた。
【0013】
また、本発明者らは、アポクライティン-II遺伝子転写の増幅は、標準的な形質導入技術では扱いにくい哺乳類細胞におけるカルシウムアッセイの実施を可能とすること、さらにこれは、レトロウイルス遺伝子送達法によるアポクライティン-II遺伝子の導入により、または、普通は一過性形質導入より少ない遺伝子の転写数という結果となる他の方法によっても達成され、しかも、より広範な哺乳類細胞への遺伝子送達が可能となることに独自に着目した。
【0014】
さらに、本発明者らは、非常に強化された発光シグナルの大きさという付加利点を有する、哺乳類細胞におけるアポクライティン-IIタンパク質の増加した発現に対するアポクライティン-IIのコドン最適化バージョン、およびその使用を教示する刊行物を知らない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで前述の従来技術の課題に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、アポクライティン-IIタンパク質をコードする核酸のコドン最適化(以下「ヒト化」と言うことがある。)が、クライティン-IIの発光活性を著しく向上させること、さらには、従来の野生型クライティン-IIを用いた場合に比べ、細胞内カルシウム流動の検出を顕著に容易なものとすることを知見し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0016】
本発明は以下の構成を有するものである。
(1)アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸。
(2)配列番号:1のアミノ酸配列を有するアポクライティン-IIタンパク質またはその変異体をコードする、前記第1項に記載のコドン最適化核酸。
(3)前記第1項または第2項に記載のコドン最適化核酸と、他のタンパク質をコードする核酸とが融合したコドン最適化核酸。
(4)CGCアルギニンコード化コドン、AACアスパラギンコード化コドン、GACアスパラギン酸コード化コドン、CAGグルタミンコード化コドン、GAGグルタミン酸コード化コドン、GGCグリシンコード化コドン、CACヒスチジンコード化コドン、ATCイソロイシンコード化コドン、CTGロイシンコード化コドン、AAGリジンコード化コドン、CCCプロリンコード化コドン、TTCフェニルアラニンコード化コドン、TCCまたはAGCセリンコード化コドン、TACチロシンコード化コドン、およびGTGバリンコード化コドンからなる群から選ばれた1種以上のコドンの数が、配列番号:2の野生型クラゲアポクライティン-IIタンパク質をコードする核酸よりも多い、前記第1項から第3項の何れか1項に記載のコドン最適化核酸。
(5)前記第1項から第4項の何れか1項に記載のコドン最適化核酸を用いて発現されたアポクライティン-IIタンパク質。
(6)前記第5項に記載のアポクライティン-IIを構成成分とするクライティン-II。
(7)アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の位置が、哺乳類細胞において作動するプロモーターの制御調節下である、発現ベクター。
(8)アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸、および哺乳類細胞においてアポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の発現を制御する制御調節配列を有する、前記第7項に記載の発現ベクター。
(9)アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸を有する組換え宿主細胞。
(10)宿主細胞が哺乳類細胞である、前記第9項に記載の組換え宿主細胞。
(11)宿主細胞がヒト細胞である、前記第9項に記載の組換え宿主細胞。
(12)宿主細胞が非ヒト哺乳類細胞である、前記第9項に記載の組換え宿主細胞。
(13)下記(i)〜(iii)の工程を有するアポクライティン-IIタンパク質の製造方法。
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸を、宿主細胞において作動するプロモーターの制御調節下に置いた組換え発現ベクターを調製する工程
(ii)該組換え発現ベクターを宿主細胞に導入する工程
(iii)当該宿主細胞を培養し、アポクライティン-IIタンパク質を発現させる工程
(14)アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化された核酸と、当該核酸を発現し得る制御調節核酸とが結合した核酸を、宿主細胞に導入することを特徴とする、クライティン-IIの発光強度増強方法。
(15)宿主細胞におけるクライティン-IIの発光強度を増強させるための、アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の使用。
(16)アポクライティン-IIタンパク質を発現するように遺伝子操作された宿主細胞を、セレンテラジンまたはセレンテラジン誘導体と接触させ、次いで、発生した光量を測定することを特徴とする、活性化時の細胞内カルシウム流動の変化を仲介する受容体を阻害する化合物の能力測定方法。
(17)さらに、受容体阻害の能力を記録する、前記第16項に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
アポクライティン-II をコードするコドン最適化核酸は新規の物質であり、このコドン最適化核酸を宿主細胞に導入するなどして得られるヒト化アポクライティン-IIタンパク質(以下「コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質」と言うことがある。は、発光基質、および分子状酸素から構成される複合体(ヒト化クライティン-II)を形成した場合には、野生型アポクライティン-IIを用いた場合に比較して極めて顕著な発光活性を示す。さらに、本発明によりもたらされるクライティン-IIは、細胞内カルシウム流動の検出などの用途において極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明で用いられる真核細胞生物でのコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターpCMX-hCLIIを示す概略図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる原核細胞生物でのコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターpiP-H-hCLIIを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の態様は、アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸(以下「コドン最適化アポクライティン-II核酸」と言うことがある。)である。
【0020】
好ましい実施態様において、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質は、配列番号:1において表された配列、またはそれらの切断バージョンを包含する。
【0021】
切断バージョンは、当該タンパク質のN−末端またはC−末端の1以上のアミノ酸、またはその近くの1以上のアミノ酸が失われたものである。1つの実施態様において、切断バージョンは、50未満のアミノ酸がC−末端から取り除かれている。但し、本発明において切断バージョンは、若干の発光特性を保持する必要がある。
【0022】
さらなる実施態様は、Inouye(J. Biochem. 143 (2008) 711-717)開示の野生型アポタンパク質のようなアポクライティン-IIタンパク質の変異型を包含する。本発明において変異型は、強化されたまたは変化した発光特性を有し得る。そしてそれら変異型は配列番号:1において表された配列に基づくアミノ酸置換体や、野生型アミノ酸配列から1つまたは2、3のアミノ酸が変化したものであることが好ましい。アポクライティン-IIタンパク質の変異型の具体例として、配列番号:1の位置62のバリンがイソロイシンにより置換された変異型、位置78のアラニンがプロリンにより置換された変異型、および位置91のグルタミン酸がリジンにより置換された変異型などを挙げることができる。
【0023】
また、本発明の実施態様である変異配列の配列番号:1との配列同一性は、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、さらには99%以上の配列同一性を有することが好ましい。2配列間の配列同一性は、NCBI Blast、WashU Blast2、Fasta、およびPILEUPのような適当なソフトウェアを用いる最適なコンピューターアラインメント解析を用いて、またはBlosum62のようなスコアマトリックス(scoring matrix)を用いて評価することができる。本発明において2配列間の配列同一性は、Smith-Watermanの「最高標準」のアライメントアルゴリズムの近似値を求める方法により決定する。
【0024】
本明細書において使用する用語「コドン最適化」および「ヒト化」は、ヒト遺伝子においてより頻繁に用いられるコドンを有するクラゲアポクライティン-IIコドンの1以上、好ましくは有意な数の置換により哺乳類細胞、特にヒト細胞における発現に適応することを意味する。
【0025】
別の好ましい実施態様において、ヒト化コドンのパーセンテージは、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、さらには99%以上であることが好ましい。
【0026】
本発明のコドン最適化核酸は一般的にcDNAであるが、ゲノムコピーも包含される。
【0027】
コドン最適化核酸は、当該技術分野における標準的な技術を用いて化学的に合成することができる。あるいは、野生型ゲノムまたは野生型cDNAを変異させることにより得ることができる。ヌクレオチド変化またはヌクレオチド変異は、新規ポリヌクレオチド合成、PCR、適当にデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーを用いた部位指定の突然変異誘発、または当業者に公知の他の方法により達成される。本発明のコドン最適化アポクライティン-II核酸の末端は、適当な制限酵素認識配列を有するように設計されていてもよく、あるいは、プラスミドベクターへのヒト化遺伝子のクローニング等を容易にするために塩基配列を付加した制限酵素配列を使用してもよい。
【0028】
様々な発現ベクター/宿主システムを使用して、アミノ酸配列をコードするコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現させることができる。発現ベクター/宿主システムは特に限定されるものではないが、具体的には、組換えアデノウイルスシステム、アデノ関連ウイルス(AAV)システムまたはレトロウイルスシステムなどを用いた発現ベクター/宿主システムを挙げることができる。本発明に好ましく用いたれる発現ベクターとしては、ワクシニアウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、および欠陥B型肝炎ウイルスなどを挙げることができる。本発明においては、コドン最適化アポクライティンII核酸の発現のために哺乳類発現システムを用いることが好ましいが、他のベクターおよびバクテリア、酵母、植物、真菌、昆虫のような宿主細胞を用いても良い。
【0029】
哺乳類発現システムでの発現ベクターは、普通は複製開始点、プロモーター、転写開始部位、さらには、任意でシグナルペプチド、ポリアデニル化部位、転写終結部位などを含む。これらのベクターは、普通はセレクションのための1以上の抗生物質耐性マーカーも含有する。本発明において適当な発現ベクターは、プラスミド、コスミド、またはファージまたはレトロウイルスのようなウイルスである。タンパク質をコード化する核酸(以下「コード配列」と言うことがある。)が、発現ベクター構造により形質転換された宿主細胞または形質導入された宿主細胞においてRNAへ転写されるように、タンパク質のコード配列は、それに適したプロモーター(すなわち、HSV、CMV、TK、RSV、SV40など)、調節因子および転写終結の制御下に置かれる。
【0030】
当該コード配列は、宿主細胞外への目的タンパク質分泌のためのシグナルペプチドまたはリーダー配列を含んでもよく、または含まなくてもよい。本発明において好ましく用いられるベクターは、少なくとも1つのマルチクローニング部位を含む。ある実施態様においては、プロモーターとコドン最適化アポクライティン-II核酸の間に位置するクローニング部位またはマルチクローニング部位が存在する。かかるクローニング部位は、それがコドン最適化アポクライティン-II核酸と近接しインフレームであることから、第2の核酸配列をクローニング部位にクローン化することにより、N−末端融合タンパク質を生成させるために使用することができる。他の実施態様において、上記のN−末端融合に類似の方法でC−末端融合の生成を促進するためにコドン最適化アポクライティンII核酸の下流にすぐ接して位置するクローニング部位またはマルチクローニング部位を存在させてもよい。
【0031】
本発明のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の発現および精製は、当該分野において公知の方法(例えば、Sambrook et al. “Molecular Cloning-A Laboratory Manual, second edition 1989”に記載)を用いて容易に実施される。発現ベクターおよびプラスミドの使用は、当業者にとって公知である。殆どのケースにおいて、いずれの哺乳類細胞発現ベクターは、本発明のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の発現に利用可能である。
【0032】
本発明のさらなる態様により、宿主細胞でのコドン最適化アポクライティン-II核酸の発現を制御可能とする制御調節配列を含む発現ベクターが提供される。
【0033】
本発明の発現ベクターにおいて、コドン最適化アポクライティン-II核酸は、哺乳類細胞で作動するプロモーターの転写調節下に位置することが好ましい。
【0034】
コドン最適化アポクライティン-II核酸を含有するベクターは、CHOのような哺乳類細胞、E.coliのようなバクテリア;Saccharomyces cerevisiaまたはPichia pastorisのような酵母、または突然変異誘発、クローニング、あるいは発現といった操作を容易にする他の適当な宿主へ導入、すなわち形質転換または形質導入され得る。本発明の実施は、如何なる特定の宿主細胞株またはベクターにも依存せず、かつ制限されない。本発明の使用のために適当な宿主細胞またはベクターは、当業者にとって明白であり、選択可能な事項である。
【0035】
ベクターを細胞に導入する方法としては、一般的に用いられている方法が好適に利用可能である。例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE−デキストラン法、リポソーム試薬を用いる方法、カチオン性脂質を用いたリポフェクション法などが挙げられる。ここで、ベクターが環状である場合、公知の方法により線状化して細胞に導入されてもよい。
【0036】
コドン最適化アポクライティン-II核酸を含有するベクターで形質転換または形質導入された宿主細胞は、目的物質の発現および細胞培養物からの回収に適当な条件下で培養され得る。こうして発現されたコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質は、使用された配列に依存して、すなわち適当な分泌シグナル配列が存在するか否かによって、培養液中に分泌され、または細胞内に蓄積され得る。この際、一過性形質転換細胞/細胞株、安定的形質転換細胞/細胞株の両方が検討の対象となる。
【0037】
コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の発現における使用に適当な宿主細胞としては、具体的には、CHO、COS、HeLa、BHK、Vero、MDCK、HepG2、HEK293、K562等を挙げることができる。
【0038】
コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現可能なトランスジェニック動物の作製には、例えばUS 5,714,666に開示のような発現システムを用いればよい。
【0039】
本発明はさらに、その細胞においてコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現の制御が可能な、コドン最適化アポクライティン-II核酸および制御調節配列を含むトランスジェニックである非ヒト動物を提供する。
【0040】
トランスジェニック動物は特に限定されるものではないが、本発明においてはマウスであることが好ましい。
【0041】
本発明のさらなる態様は、本発明のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現するために適した宿主細胞を提供する。すなわち、コドン最適化アポクライティン-II核酸を含む組換え宿主細胞である。本発明において宿主細胞は限定されるものではないが、好ましくは哺乳類細胞である。哺乳類細胞には、ヒト細胞と非ヒト細胞とがあり、非ヒト哺乳類細胞としては、CHO−K1、Phoenix細胞などを例示できる。哺乳類細胞の中でもヒト細胞は、本発明において最も好ましい宿主細胞である。
【0042】
本発明の実施態様である組換え宿主細胞は、クライティン-IIを形成させた際に検出可能とするのに十分な量のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を産生する。
【0043】
野生型クラティン-II のコード配列から作成したコドン使用頻度を示す表1の検討から、野生型クラゲアポクライティン-IIコドンは3番目の位置でAまたはUのどちらかを好むことが判る。一般に、好ましい哺乳類コドンは、位置1および位置2の2残基の同一性に関わらず一般に3番目の位置ではCまたはGのどちらかを好み、最も好ましくはCを好む。100の高発現ヒト遺伝子の比較は、Haas et al., (Current Biology. 6(3):3135-324, 1996)により解析され、次のような傾向が示されている。例えば、高発現遺伝子中のアラニン(GCX)残基の53%がGCCにより、17%がGCTにより、13%がGCAにより、および17%がGCGによりコードされる。同様に、セリン残基は、以下の統計値:TCC(28%)、TCT(13%)、TCA(5%)、TCG(9%)、AGC(34%)およびAGT(10%)を有する。クラゲとヒトとの間のコドン使用の表から明らかな様に、2つのコドンの選択のみが存在するアミノ酸において、野生型クラゲアポクライティン-II核酸は、ヒト遺伝子によって好まれるコドンと比較して最も好まれないコドンを通常用いている。
【0044】
表1 野生型クライティンIIコドン使用頻度表
【表1】

【0045】
コドン最適化アポクライティン-II核酸を構築する際、それぞれのコドンは、その3番目の位置をCまたはGのどちらかで置き換えることにより哺乳類の相当物に変換される。これが可能でない場合には、問題のある制限酵素部位の導入があるはずであり、高発現ヒト遺伝子において次に頻繁に用いられるヌクレオチドを用いればよい。
【0046】
本発明のコドン最適化アポクライティン-II核酸は、配列番号:2に示される野生型クラゲ核酸と比較して、GCCアラニンコード化コドンの数が増加していることが好ましい。
【0047】
本発明においてコドンの数が増加するとは、例えば、コドン最適化型より多くのアラニンアミノ酸が存在することを意味するのではなく、例えば、GCCアラニンコード化コドンの相対的な数がコドン最適化アポクライティン-II核酸においてより多いことを意味する。もちろん、このことは、野生型のタンパク質と比較して特定のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質内に特定のアミノ酸が数的に多く存在するものを除外しない。例えば、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質は、配列番号:2の野生型タンパク質配列に対して相対的に数の上でより多くのアミノ酸を有し得る。
【0048】
上記定義に照らして、本発明のコドン最適化アポクライティン-II核酸は、CGCアルギニンコード化コドン、AACアスパラギンコード化コドン、GACアスパラギン酸コード化コドン、CAGグルタミンコード化コドン、GAGグルタミン酸コード化コドン、GGCグリシンコード化コドン、CACヒスチジンコード化コドン、ATCイソロイシンコード化コドン、CTGロイシンコード化コドン、AAGリジンコード化コドン、CCCプロリンコード化コドン、TTCフェニルアラニンコード化コドン、TCCまたはAGCセリンコード化コドン、TACチロシンコード化コドン、およびGTGバリンコード化コドンからなる群から選ばれた1種の数が、配列番号:2の野生型クラゲアポクライティン-II核酸よりも多いことが好ましい。
【0049】
アミノ末端に7個のアミノ酸が付加したヒト最適化アポクライティン-IIは、本発明において好ましいコドン最適化アポクライティン-II核酸の1つである。本発明のコドン最適化核酸は、コドン最適化アポクライティン-II核酸と他のタンパク質をコードする核酸とが融合したものであっても良い。これによりタンパク質発現を可能とする制御配列および前述の融合された配列を有する宿主細胞において融合タンパク質が発現するという結果をもたらす。そしてこの結果は、N−末端融合タンパク質およびC−末端融合タンパク質の何れの場合も同様に起こり得るのである。
【0050】
本発明のコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質に融合される他のタンパク質は特に限定されるものではないが、具体的には、分泌あるいは他の制御配列、標識配列(例えば、6−his標識)、標的指向配列等である。それ以外のタンパク質としては、レポーターまたは他のマーカーとして働く緑色蛍光タンパク質を挙げることができる。さらには、HA1赤血球凝集素エピトープを挙げることができる。これは、認識配列として働くことから、アポクライティン-IIタンパク質の発現および濃度の確認を可能とする。
【0051】
本発明のさらなる態様は、下記(i)〜(iii)の工程を有するアポクライティン-IIタンパク質の製造方法である。
(i)コドン最適化アポクライティン-II核酸を、宿主細胞において作動するプロモーターの制御調節下に置いた組換え発現ベクターを調製する工程
(ii)該組換え発現ベクターを適当な宿主細胞に導入する工程
(iii)当該宿主細胞を、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現させる工程
【0052】
本発明の製造方法において、宿主細胞は特に限定されるものではないが、哺乳類細胞であることが好ましく、その際に使用するプロモーターは哺乳類宿主細胞において作動するプロモーターであることが好ましい。
組換え発現ベクターを宿主細胞に導入する方法は、特に限定されるものではなく、前述あるいは後述の方法により可能である。また、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現させる方法も特に限定されるものではなく、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の発現を可能とするのに適する条件において宿主細胞を培養する方法などが挙げられる。
【0053】
さらに、本発明の製造方法においては、下記(iv)の工程を追加してもよい。
(iv)発現したコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を有意な量の他の細胞内タンパク質から精製する工程
前述の(iv)の工程の後、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の純度は、70%以上、85%以上、さらには95%以上であることが好ましい。
【0054】
本発明のさらなる態様は、アポクライティン-IIタンパク質をコードし、アポクライティン-IIタンパク質を産生するコドン最適化核酸の効果的な発現を可能とする制御配列と作動可能なように結合したコドン最適化核酸を含む核酸を、宿主に導入することを特徴とする、クライティン-IIの発光強度の増強方法である。
【0055】
その好ましい実施態様において、制御配列に作動可能なように結合したコドン最適化アポクライティン-II核酸を含む核酸は、形質導入、形質転換またはエレクトロポレーションなどにより宿主細胞に導入すればよい。そしてこの宿主細胞をコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の発現に適当な条件下で培養すればよい。ここで、「クライティン-II 発光強度の増大」は、野生型(非ヒト化)クラゲアポエクオリン遺伝子が用いられている以外は同一の発現システムに比較して、発光の大きさが増加していることを意味している。
【0056】
本発明のさらなる態様は、宿主細胞におけるクライティン-II発光強度を増大させるコドン最適化アポクライティン-II核酸の使用である。
【0057】
本発明のさらなる態様は、活性化されると細胞内カルシウム流動の変化を仲介するGタンパク質結合受容体(以下「GPCR」と言うことがある。)またはイオンチャネルのような受容体を遮断、阻害、または拮抗する化合物の能力を測定する方法である。例えば、GPCRは、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を発現できるように操作された、HEK293細胞またはCHO細胞のような細胞株において発現させることができ、測定に先立って、それら細胞をセレンテラジンの存在下にインキュベーションすることにより、生産されたアポクライティン-IIをクライティン-IIに変換することができる。
【0058】
具体的には、試験化合物を細胞に加え、次いでリガンドを加える。そして、受容体の活性化に起因して増加したカルシウム流動により生じた発光を標準的なルミノメーターにより測定する。次いで、試験化合物により生じた阻害の程度を算定は、化合物で処理された細胞の発光強度と、リガンドのみで処理した細胞の発光強度とを比較すればよい。また、クライティン-II細胞を試験化合物で処理し、そして発光産生量を直接的測定することによりレセプターアゴニストを直接見つけ出すことができる。
【0059】
従って、本発明のこの態様をふまえて、細胞内カルシウムの調節に含まれる受容体およびヒト化遺伝子由来のクライティン-IIを発現するように操作した哺乳類細胞を、試験しようとする化合物とインキュベートする。次いで、セレンテラジン補助因子を加えて発光強度を測定する。ここで、発光強度は細胞内カルシウム放出レベルの指標である。そして試験結果、すなわち受容体を阻害または調節するための試験化合物の能力は、例えば、紙などに、または電子的手段により記録すればよい。
【0060】
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
[配列番号:1]野生型アポクライティン-IIのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:2]野生型アポクライティン-IIの塩基酸配列を示す。
[配列番号:3]コドン最適化アポクライティン-IIの塩基配列を示す。
[配列番号:4]実施例1で作製した発現ベクターpCMX-hCLIIに挿入された、ヒト型クライティン遺伝子の塩基配列を示す。
[配列番号:5]実施例1で作製した発現ベクターpCMX-hCLIIに挿入された、ヒト型クライティン遺伝子のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:6]実施例2で作製した発現ベクターpiP-H-hCLIIに挿入された、ヒト型クライティン遺伝子の塩基配列を示す。
[配列番号:7]実施例2で作製した発現ベクターpiP-H-hCLIIに挿入された、ヒト型クライティン遺伝子のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:8]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:9]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:10]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:11]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:12]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:13]実施例2で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実験例1 コドン最適化アポクライティン-II核酸の設計および化学合成
コドン最適化アポクライティン-II核酸の設計は、アポクライティン-IIのアミノ酸配列を変えることなく、ヒトにおける高頻度使用のアミノ酸コドンの選択のみならず、転写因子認識配列の不活性化配列へ変換、スプライシングの可能性のある部位除去、6塩基認識の制限酵素部位の削除、ループ構造を作るパリンドローム配列が形成しないように配列設計を行った(配列表3)。コドン
最適化アポクライティン-IIコドン使用頻度表を表2 に示した。野性型アポクライティン-IIコドン頻度表の表1にくらべ、明らかにコドン最適化アポクライティン-II核酸は、ヒト化コドンへ最適化設計されている。
最適化設計したコドン最適化アポクライティン-II核酸を、常法により化学合成法により合成した。pBlueScript SK(+)(Stratagene社)のEcoRI/SalI制限酵素サイトにクローン化し、pBlue-hCLIIプラスミドを構築した。コドン最適化アポクライティン-II核酸の確認は、塩基配列(ABI社製)をDNAシークエンサーにて確認した。
【0062】
表2 コドン最適化クライティンIIコドン使用頻度表
【表2】

【0063】
実験例2 動物培養細胞でのコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターの構築
コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターの構築は以下の通りである。先ず、動物培養細胞での新規発現ベクターpCMX-Linker、を構築した。具体的には、pCMX-GFP (Ogawa et al., (1995) PNAS. 92(25), 11899-11903記載)において、制限酵素部位であるAsp718/SalI部位に、化学合成したマルチクローニング配列をもつリンカーLinker F(5)A-Sal (5' GT ACC ACC ATG CTC GAG CTG CAG GAA TTC TCT AGA G 3')(配列番号7)、および Linker R(5)A-Sal (5' TC GAC TCT AGA GAA TTC CTG CAG CTC GAG CAT GGT G 3')(配列番号8)を挿入して新規発現ベクターpCMX-Linkerを構築した。すなわち、新規発現ベクターは、CMVのプロモーターに制御され、その下流にコザック配列、マルチクローニングサイト配列(Asp718I/ XhoI/ PstI/ EcoRI/ XbaI/ SalI/ EcoRV/ BamHI/ MscI/ NheI)を有する。
次に、新規発現ベクターpCMX-Linkerを用いたコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターの構築は以下の通りである。 pBlue-hCLIIを常法により制限酵素EcoRI/SalIにて消化した後、pCMX-LinkerのEcoRI-SalI 部位に連結することによって、図1に示す発現ベクターpCMX-hCLIIを構築した。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサートDNAの確認を行った。また、コドン最適化アポクライティン-II核酸の対照となる野生型アポクライティン核酸を含むコントロールベクターであるpCMX-CLIIは、同様の方法により構築した。
【0064】
実施例3 細胞へのベクターの導入
(1)発現プラスミドの切断および精製
実施例2にて得られたpCMX-hCLIIプラスミドを用いて以下の実験を行った。大腸菌JM83内のpCMX-hCLIIプラスミドを、Endofree Plasmid Maxi kit (QIAGEN社製)を用いて精製した。1 μg/ μlの濃度になるよう滅菌水に溶解した。同様にして、pCMX-hCLII,および内部標準のためのホタルルシフェラーゼベクター(pGL-control:プロメガ社)を使用した。
(2)トランスフェクション
ヒト子宮頸部がん由来細胞株であるHeLa株を、10%牛胎児血清(インビトロジェン社)を含むDMEM培地(高グルコース含:和光純薬)にて培養し、2 x 10 細胞/ウエルにて6ウエルプレートに播種し、インキュベーター中37 ℃、5 % CO2にて培養した。24時間後、精製pCMX-hCLIIプラスミドをFuGene HD(ロッシュ社)トランスフェクションキットを用いて、HeLa細胞にトランスフェクション 実験に用いた。具体的には、100μl のDMEM培地に、アポクライティン-II発現ベクターと内部標準ホタルルシフェラーゼ発現ベクターそれぞれ1μl/μlと FuGene HD 6μlを加え、室温で15分間放置した。50μlのDNA−FuGene 複合体溶液を、6ウエルの細胞に添加した。24時間培養後、2mlの冷PBSで3回洗浄した。細胞に250μlの冷PBSを加え、細胞を回収した。回収した細胞は、超音波破砕装置で破砕し、測定用酵素溶液とした。
【0065】
実験例4 動物培養細胞での発光活性測定
(1)内部標準用ホタルルシフェラーゼの測定方法:
実験例3で得られた測定用酵素溶液10μlを、50μl の酵素アッセイ用試薬(プロメガ社)に加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、10秒間での発光積算し、相対発光強度で表記した。
(2)発光活性測定:
実験例3で得られた測定用酵素溶液50μl を、1μl のメルカプトエタノール(和光純薬)、1μl のセレンテラジン(チッソ社製)、および10mMEDTA(和光純薬)を含む950μlの50mMTris−HCl(pH7.6)に加え、4oC で3時間静置し、クライティン-IIを再生させた。この再生溶液10μlに100μlの50mM CaCl2 を含む50mMTris−HCl(pH7.6)溶液を、インジェクションすることにより発光させ、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、10秒間での発光測定し、最大発光強度を相対発光値で示した。
その結果を表3にまとめた。内部標準で使用したホタルルシフェラーゼ活性より、活性化率を求めた結果、野生型アポクライティン-IIに比べ、本発明のコドン最適化クライティン-IIタンパク質は約15倍以上の活性を示すことが明らかとなった。
【0066】
表3 野生型クライティン-II遺伝子とヒト型ククライティン-II遺伝子の培養細胞での発現の比較
【表3】

【0067】
実験例5 コドン最適化クライティン-IIタンパク質発現ベクターの大腸菌における構築
大腸菌においてコドン最適化アポクライティン-II核酸を発現させるために、出発となる発現ベクターpiP-H-L(6)を構築した。具体的には、特開2008-22848記載のpiP-(His6)HEベクターのHindIII-BamHIサイトに、化学合成したマルチクローニング配列をもつリンカーH/P/S/Xb/Xh/B:Linker-F(5' AG CTT CTG CAG GTC GAC TCT AGA CTC GAG G 3') (配列番号9)、及びH/P/S/Xb/Xh/B:Linker-R(5' GA TCC CTC GAG TCT AGA GTC GAC CTG CAG A 3') (配列番号10)を挿入し、piP-H-L(6)を構築した。基本ベクターpiP-H-L(6)は、大腸菌のリポプロテインのプロモーター、ラクトースのオペロンに制御され、分泌のためのOmpA配列、キレートゲルによる精製のための6個のヒスチジン配列、種々のマルチクローニング配列を有する。
基本ベクターpiP-H-L(6)を用いたコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質発現ベクターの構築は以下の通りである。pBlue-hCLIIを鋳型としてPCRプライマーペア:hCLII-1N/HindIII(5' ggc aag ctt GTG AAG CTG GAC CCC GAC TTC 3')(配列番号11)及びhCLII-2C/XhoI(5' ggc CTC GAG TTA GGG GAC GAA GTT GCC GTA 3')(配列番号12)を用いて、PCRキット(日本ジーン社製)にてPCR(サイクル条件:25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を行った。得られた断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、制限酵素HindIII/XhoIで消化した後、piP-H-L(6)の制限酵素HindIII/XhoI部位に挿入することによって、図2に示す発現ベクターpiP-H-hCLIIを構築した。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサートDNAの確認を行った。
【0068】
実験例6 コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の大腸菌での発現
コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質(以下「hCLII」と言うことがある。)を、大腸菌において発現させるため、実施例2で作製した組換えプラスミドpiP-H-hCLIIを用いた。常法により大腸菌WA802株に導入し、得られた形質転換株をアンピシリン(50μg/ml)を含有する10mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、30℃で18時間培養を行った。次いで、その培養物を新たなLB液体培地400ml x 5本(総量2L)に添加して30℃で18時間培養を行った。培養後、菌体を遠心回収(5,000rpm、5分)し、集菌された培養菌体をタンパク質抽出の出発材料とした。
【0069】
実験例7 培養菌体からのコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の抽出および精製
集菌した培養菌体を200mlの50mM Tris-HCl(pH7.6)で懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、Sonifier model cycle 250)を3分間、3回行い、その菌体破砕液を10,000 rpm(12,000×g)で4 ℃、20分間遠心した。得られた可溶性画分を、50mM Tris-HCl(pH7.6)で平衡化したニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径2.5×6.5cm)に供しコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を吸着させた。500mlの50mM Tris-HCl(pH7.6)で洗浄後、0.1Mイミダゾール(和光純薬工業社製)によりコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を溶出した。精製蛋白質濃度を、ウシ血清アルブミン(ピアス社製)を標品としてBradford法にもとづく市販のキット(バイオラッド社製)を用いて決定したところ、2Lの培養菌体より45.7mgのコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を得た。SDS-PAGE分析の結果、純度は95%以上であった。
【0070】
実験例8 発光活性の測定
精製過程における、コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質を構成成分とするクライティン-IIの発光測定は、10 mM EDTA を含む30mM Tris−HCl(pH7.6)990 μlに2-メルカプトエタノール(1μl)、エタノールに溶解した基質セレンテラジン(1μg/μl)を混合した後、ヒト型アポクライティン-II溶液10μlを添加し、氷上(4℃)で2時間放置した。再生ヒト型クライティン-II溶液10μlへ、50mMカルシウム溶液を100μl加えることにより発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、10秒間での発光測定し、最大発光強度を相対発光値で示した(表4)。
【0071】
表4 コドン最適化アポクライティン-IIタンパク質の精製収率を示す表
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0072】
アポクライティン-II をコードするコドン最適化核酸を宿主細胞に導入するなどして得られるコドン最適化アポクライティン-IIタンパク質、発光基質、および分子状酸素から構成される複合体を形成した場合には、野生型アポクライティン-IIを用いた場合に比較して極めて顕著な発光活性を示す。さらに、本発明によりもたらされるクライティン-IIは、細胞内カルシウム流動の検出などの用途において極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸。
【請求項2】
配列番号:1のアミノ酸配列を有するアポクライティン-IIタンパク質またはその変異体をコードする、請求項1に記載のコドン最適化核酸。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコドン最適化核酸と、他のタンパク質をコードする核酸とが融合したコドン最適化核酸。
【請求項4】
CGCアルギニンコード化コドン、AACアスパラギンコード化コドン、GACアスパラギン酸コード化コドン、CAGグルタミンコード化コドン、GAGグルタミン酸コード化コドン、GGCグリシンコード化コドン、CACヒスチジンコード化コドン、ATCイソロイシンコード化コドン、CTGロイシンコード化コドン、AAGリジンコード化コドン、CCCプロリンコード化コドン、TTCフェニルアラニンコード化コドン、TCCまたはAGCセリンコード化コドン、TACチロシンコード化コドン、およびGTGバリンコード化コドンからなる群から選ばれた1種以上のコドンの数が、配列番号:2の野生型クラゲアポクライティン-IIタンパク質をコードする核酸よりも多い、請求項1から3の何れか1項に記載のコドン最適化核酸。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のコドン最適化核酸を用いて発現されたアポクライティン-IIタンパク質。
【請求項6】
請求項5に記載のアポクライティン-IIを構成成分とするクライティン-II。
【請求項7】
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の位置が、哺乳類細胞において作動するプロモーターの制御調節下である、発現ベクター。
【請求項8】
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸、および哺乳類細胞においてアポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の発現を制御する制御調節配列を有する、請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項9】
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸を有する組換え宿主細胞。
【請求項10】
宿主細胞が哺乳類細胞である、請求項9に記載の組換え宿主細胞。
【請求項11】
宿主細胞がヒト細胞である、請求項9に記載の組換え宿主細胞。
【請求項12】
宿主細胞が非ヒト哺乳類細胞である、請求項9に記載の組換え宿主細胞。
【請求項13】
下記(i)〜(iii)の工程を有するアポクライティン-IIタンパク質の製造方法。
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸を、宿主細胞において作動するプロモーターの制御調節下に置いた組換え発現ベクターを調製する工程
(ii)該組換え発現ベクターを宿主細胞に導入する工程
(iii)当該宿主細胞を培養し、アポクライティン-IIタンパク質を発現させる工程
【請求項14】
アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化された核酸と、当該核酸を発現し得る制御調節核酸とが結合した核酸を、宿主細胞に導入することを特徴とする、クライティン-IIの発光強度増強方法。
【請求項15】
宿主細胞におけるクライティン-IIの発光強度を増強させるための、アポクライティン-IIタンパク質をコードするコドン最適化核酸の使用。
【請求項16】
アポクライティン-IIタンパク質を発現するように遺伝子操作された宿主細胞を、セレンテラジンまたはセレンテラジン誘導体と接触させ、次いで、発生した光量を測定することを特徴とする、活性化時の細胞内カルシウム流動の変化を仲介する受容体を阻害する化合物の能力測定方法。
【請求項17】
さらに、受容体阻害の能力を記録する、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−172260(P2010−172260A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18339(P2009−18339)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「分子イメージング機器研究開発プロジェクト/新規悪性腫瘍分子プローブの基盤技術開発/分子プローブ要素技術の開発」委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】