説明

アミド化合物の製造方法

【課題】酸素を酸化剤として使用し、環境性に優れるアミド化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】金ナノクラスターを含む触媒を調製する触媒調製工程、及び、前記金ナノクラスターを含む触媒の存在下、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコールと第一級又は第二級アミンとを反応させアミド化合物を合成する合成工程を含むことを特徴とするアミド化合物の製造方法。前記前記金ナノクラスターを含む触媒が、ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスターであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に行われているアミド化合物の製造方法としては、従来、カルボン酸及びその等価体とアミンとの反応により形成する方法や、触媒等を使用して対応するニトリル化合物を水和する方法、オキシム化合物をベックマン転位反応させてアミド化合物に変換させる方法などが知られている。
一方で、カルボン酸に代えて、アルコール化合物を出発物質とするアミド化合物の合成方法(直接アミド製造法)が、原料供給及び安全性などの観点から求められている。
このような方法としては、近年、ルテニウム触媒やロジウム触媒を使用し、第一級アルコール化合物とアミン類とから、アミド化合物を合成する方法が知られている(非特許文献1〜4参照)。
【0003】
また、アミド化合物の合成の中でも、特に、メタノールを用いた直接ホルムアミド製造法は有用である。このような直接ホルムアミド製造法としは、特許文献1や特許文献2に記載された方法が知られている。
特許文献1には、アルカリ金属アルコラートを触媒として、ジアルキルアミンと一酸化炭素よりジアルキルホルムアミドを製造するに際し、アルコールの共存下反応を行い、発生した反応熱を冷媒液体の蒸発潜熱として連続的に除去することを特徴とするジアルキルホルムアミドの連続製造方法が記載されている。
特許文献2には、アルカリ金属アルコラートを触媒として用い、アルコール共存下において、石炭のガス化または重質油の部分酸化反応によって得られた一酸化炭素を含有する混合ガスとジアルキルアミンの反応によりジアルキルホルムアミドを合成する方法において、原料混合ガス中の酸素濃度を0.5容量%以下、且つアルカリ金属アルコラートに対する混合ガス中の酸素のモル比を2以下にすることを特徴とするジアルキルホルムアミドの製造方法が記載されている。
【0004】
さらにまた、近年、金触媒が注目されており、様々な反応への応用や新反応の開発が期待されている。例えば、金ナノクラスターについて、非特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−128747号公報
【特許文献2】特開2004−238358号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chidambaram Gunanathan, Yehoshoa Ben-David, and David Milstein, Science, vol.317, p.790-792 (2007)
【非特許文献2】Lars Ulrik Nordstrom, Henning Vogt, and Robert Madsen, J. Am. Chem. Soc., vol.130, p.17672-17673 (2008)
【非特許文献3】Theo Zweifel, Jean-Valere Naubron, and Hansjorg Grutzmacher, Angew. Chem. Int. Ed., vol.48, p.559-563 (2009)
【非特許文献4】Andrew J. A. Watson, Aoife C. Maxwell, and Jonathan M. J. Williams, Organic letters, vol.11, p.2667-2670 (2009)
【非特許文献5】櫻井英博、佃達哉、有機合成化学会誌、Vol.67,p.85〜96(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、酸素を酸化剤として使用し、環境性に優れるアミド化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が解決しようとする上記課題は、以下に示す<1>により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<5>と共に以下に示す。
<1>金ナノクラスターを含む触媒を調製する触媒調製工程、及び、前記金ナノクラスターを含む触媒の存在下、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコールと第一級又は第二級アミンとを反応させアミド化合物を合成する合成工程を含むことを特徴とするアミド化合物の製造方法、
<2>前記金ナノクラスターを含む触媒が、ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスターである、上記<1>に記載のアミド化合物の製造方法、
<3>前記金ナノクラスターを含む触媒における金ナノクラスターの平均粒径が、2nm以下である、上記<1>又は<2>に記載のアミド化合物の製造方法、
<4>前記第一級アルコールが、式(1)で表される化合物であり、前記第一級又は第二級アミンが、式(2)で表される化合物であり、前記アミド化合物が、式(3)で表される化合物である、上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のアミド化合物の製造方法、
【0009】
【化1】

(式(1)〜(3)中、R1は、水素原子又は一価の有機基を表し、R2は、一価の有機基を表し、R3は、水素原子又は一価の有機基を表し、R2とR3とは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0010】
<5>前記第一級アルコールが、メタノールであり、前記アミド化合物が、ホルムアミド化合物である、上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載のアミド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸素を酸化剤として使用し、環境性に優れるアミド化合物の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアミド化合物の製造方法は、金ナノクラスターを含む触媒を調製する触媒調製工程、及び、前記金ナノクラスターを含む触媒の存在下、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコールと第一級又は第二級アミンとを反応させアミド化合物を合成する合成工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のアミド化合物の製造方法は、金ナノクラスターを含む触媒を使用し、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコール(以下、単に「アルコール化合物」ともいう。)と第一級又は第二級アミン(以下、単に「アミン化合物」ともいう。)とを反応させアミド化合物を合成する製造方法である。
第一級アルコールと第一級又は第二級アミンとを反応させアミド化合物を触媒反応により合成する場合、当該触媒反応は、下記式(4)に示すように形式的には2分子の水素分子を除く反応であるため、触媒上に生じる水素分子又は2つの水素原子を触媒上から取り除く水素アクセプターにより反応が促進されると考えられる。
【0014】
【化2】

(式(4)中、Rは、水素原子又は一価の有機基を表し、R’は、一価の有機基を表し、R”は、水素原子又は一価の有機基を表す。)
【0015】
本発明のアミド化合物の製造方法では、金ナノクラスターを含む触媒を使用することにより、酸素を酸化剤(水素アクセプター)として使用することが可能であり、触媒上の前記水素分子又は水素原子を酸素により水に変換することにより、反応が促進される。
一方、非特許文献1〜4に記載された発明では、ルテニウム触媒やロジウム触媒を使用しており、酸素を酸化剤として利用することはできず、水素アクセプターを使用せず高温下において水素分子を平衡的に脱離させる、又は、水素アクセプターとしてケトン類やメチルメタクリレート、ヘテロ環カルベン化合物、過酸化水素などを使用する必要があった。
また、本発明のアミド化合物の製造方法では、主たる副生成物としては水だけであり、さらに金ナノクラスターは、金原子のナノオーダーのクラスターであるので、生体に対しほぼ無毒であり、環境性に優れ、本発明のアミド化合物の製造方法は、特に医薬品、農薬、塗料、染料、接着剤、合成洗剤、及び、化粧品などのファインケミカル製品の製造に特に好適に使用することができる。また、中でも特にホルムアミド化合物については、イソニトリル源やシアノ源等としてポリマー原料や、各種ポリマーの溶剤、ガス吸収剤等に好適に使用することができる。
【0016】
<触媒調製工程>
本発明のアミド化合物の製造方法は、金ナノクラスターを含む触媒を調製する触媒調製工程を含む。
「金ナノクラスター」とは、粒径がナノサイズ(好ましくは平均粒径0.5〜10nm)の金原子の集合体である。また、金ナノクラスターは、0価の金原子のクラスターである。通常、金属としての金は酸素等に対し不活性な金属であるが、金原子をナノオーダーのクラスターにすることにより酸素等に対し反応活性を有するようになる。
金ナノクラスターの平均粒径は、0.5〜10nmであることが好ましく、0.5〜5nmであることがより好ましく、0.8〜2nmであることが更に好ましい。上記範囲であると、触媒活性がより優れる。
また、金ナノクラスターの粒径分布は、狭いほうが好ましく、粒子の90個数%以上が平均粒径±2.0nmであることが好ましく、平均粒径±1.0nmであることがより好ましく、平均粒径±0.7nmであることが更に好ましい。
【0017】
金ナノクラスターを含む触媒とは、金ナノクラスターを少なくとも含むものであれば、特に制限はないが、金ナノクラスターと保護剤との混合物や、金ナノクラスター担持高分子化合物などが好ましく例示でき、金ナノクラスターと保護剤との混合物(以下、「保護金ナノクラスター」ともいう。)がより好ましく例示できる。
金ナノクラスター担持高分子化合物としては、金ナノクラスター担持スターポリマーが好ましく例示できる。スターポリマーとしては、特に制限はないが、疎水性を示すコア部位と3以上の親水性を示す鎖状部位とを有するポリマーであることが好ましい。
金ナノクラスターと保護剤との混合物(保護金ナノクラスター)における保護剤としては、金ナノクラスターのクラスター構造の安定化剤として作用し、かつ触媒活性が完全に失われることのないものであれば、特に制限はないが、樹脂や糖類が好ましく挙げられる。
前記保護剤として具体的には、ポリビニルピロリドン(PVP)、キトサン、グルコース、セルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)等が好ましく例示できる。これらの中でも、金ナノクラスターを含む触媒の触媒活性や、生体への安全性の面から、ポリビニルピロリドン(PVP)が特に好ましく例示できる。
なお、金ナノクラスターとポリビニルピロリドンとの混合物を、ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスターともいう。他の保護剤についても同様である。
本発明に用いることができるポリビニルピロリドンは、特に制限はないが、重量平均分子量が1,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが更に好ましい。
また、本発明に用いることができるポリビニルピロリドンは、FikentscherのK値が10〜100のポリビニルピロリドンであることが好ましく、K値が15〜50のポリビニルピロリドンであることがより好ましく、K値が25〜35のポリビニルピロリドンであることが更に好ましい。なお、K値とは、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を次のFikentscherの式に適用して計算される。
K=(1.5logηrel−1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel+(c+1.5clogηrel21/2/(0.15c+0.003c2
ηrel:ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度
c:ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)
【0018】
金ナノクラスターを含む触媒として、金ナノクラスターと保護剤との混合物を使用する場合、保護剤の含有量は、金原子1モルに対し、化合物である場合はそのモル数が、ポリマーである場合はその単量体単位のモル数が、10〜1,000モルであることが好ましく、20〜500モルであることがより好ましく、50〜200モルであることが更に好ましい。
【0019】
前記触媒調製工程における金ナノクラスターを含む触媒を調製する方法としては、金ナノクラスターを含む触媒を調製できれば特に制限はないが、塩化金酸(HAuCl4、四塩化金酸、テトラクロロ金酸)の水溶液に還元剤を作用させる方法が好ましく、保護剤を含有する塩化金酸の水溶液に還元剤を作用させる方法がより好ましい。
前記還元剤としては、0価の金へ還元できる化合物であれば、特に制限はないが、水素化ホウ素ナトリウムであることが好ましい。また、還元剤は、溶媒に溶解させてから添加してもよく、水溶液として添加することが好ましい。
また、保護剤としては、前述したものを好適に用いることができる。また、保護剤は還元剤のほうに添加して混合してもよく、塩化金酸の水溶液、及び、還元剤の両方に添加してもよい。
【0020】
また、上記のような方法により得られた金ナノクラスターを含む触媒を含有した水溶液は、そのまま前記合成工程に使用してもよいし、また、透析膜や限外ろ過膜を使用して生成した塩化ナトリウム等の塩を脱塩及び/又は水分の除去を行ってもよい。透析膜や限外ろ過膜を使用して得られた金ナノクラスターを含む触媒の固体分は、再度水に分散し水分散液として使用してもよく、前記水分散液として冷蔵庫などで長期保存が可能であり、また、前記固体分を凍結乾燥し固体として保存することもできる。また、凍結乾燥した固体は、水以外の溶媒に再分散して使用することもできる。
【0021】
<合成工程>
本発明のアミド化合物の製造方法は、前記金ナノクラスターを含む触媒の存在下、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコール(アルコール化合物)と第一級又は第二級アミン(アミン化合物)とを反応させアミド化合物を合成する合成工程を含む。
前記合成工程における金ナノクラスターを含む触媒の使用量は、使用するアルコール化合物及びアミン化合物のいずれか少ないほうの使用量1モルに対し、金ナノクラスターを含む触媒中の金原子のモル量が、0.01〜50モル%であることが好ましく、0.1〜20モル%であることがより好ましく、0.5〜10モル%であることが更に好ましい。
【0022】
前記合成工程は、酸素を含む雰囲気下において反応を行う。
酸素を含む雰囲気下とは、アルコール化合物、アミン化合物及び触媒を含む反応液に、酸素(O2)を少なくとも含む気体が接している状態をいう。
酸素を含む雰囲気における酸素濃度は、特に制限はなく、任意の濃度でよいが、簡便性、安全性及びコストの面から、前記合成工程は空気雰囲気下で行うことが特に好ましい。
【0023】
前記合成工程において使用する第一級アルコールとしては、反応を阻害する化合物でなければ特に制限はなく、少なくとも1つの第一級ヒドロキシ基(−CH2OH)を有する化合物であればよく、2つ以上の第一級ヒドロキシ基を有する多価アルコール化合物であってもよい。
前記第一級アルコールの第一級ヒドロキシ基(−CH2OH)以外の部分としては、金ナノクラスターに対し反応性が高く、前記合成工程における反応を阻害する基を有していなければ、特に制限はないが、炭化水素構造、又は、炭化水素構造、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、シリル基、アリールスルホニルアミド基及び第三級アミノ基よりなる群から選ばれた構造を2以上組み合わせた構造が好ましく挙げられ、炭化水素構造、又は、炭化水素構造、カルボニル基、エステル結合、アミド結合及びエーテル結合よりなる群から選ばれた構造を2以上組み合わせた構造がより好ましく挙げられる。
また、前記第一級アルコールは、エチレン性不飽和基を有していない第一級アルコールであることが好ましい。
前記第一級アルコールとしては、下記式(1)で表される化合物が好ましく例示できる。
【0024】
【化3】

(式(1)中、R1は水素原子、又は、一価の有機基を表す。)
【0025】
式(1)のR1における一価の有機基としては、金ナノクラスターに対し反応性の低い基(ただし、第一級ヒドロキシ基は除く。)であることが好ましく、炭化水素基、又は、炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、及び、アミド結合よりなる群から選ばれた構造を2以上結合した基であることがより好ましく、炭化水素基であることが更に好ましい。
前記炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、又は、これらを2以上組み合わせた基が挙げられる。
前記炭化水素基におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
前記炭化水素基は、置換基を有していてもよく、前記置換基としては、第一級ヒドロキシ基、シリル基、アリールスルホニルアミド基、及び、第三級アミノ基等が挙げられる。
【0026】
前記合成工程において使用する第一級アルコールとしては、炭素数1〜8の低級アルコールであることが好ましく、メタノールであることがより好ましい。特にメタノールを使用した場合、本発明のアミド化合物の製造方法により得られるアミド化合物は、ホルムアミド化合物である。ホルムアミド化合物の製造には、特許文献1及び2に記載されているように、従来の方法では厳しい反応条件が必要であったり、有毒物質を使用する必要があった。本発明のアミド化合物の製造方法は、穏和な条件で、かつ無毒の金触媒を使用し、また、メタノールやエタノールから直接合成可能であり、さらに酸素を酸化剤として使用し、主たる副生成物としては何ら毒性のない水が生成するという優れた製造方法である。
【0027】
前記合成工程において使用する第一級又は第二級アミンとしては、反応を阻害する化合物でなければ特に制限はなく、計2つ以上の第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多価アミン化合物であってもよい。
前記第一級又は第二級アミンの第一級又は第二級アミノ基(−NH2又は>NH)以外の部分としては、金ナノクラスターに対し反応性の高く、前記合成工程における反応を阻害する基を有していなければ、特に制限はないが、炭化水素構造、又は、炭化水素構造、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、シリル基、アリールスルホニルアミド基及び第三級アミノ基よりなる群から選ばれた構造を2以上組み合わせた構造が好ましく挙げられ、炭化水素構造、又は、炭化水素構造、カルボニル基、エステル結合、アミド結合及びエーテル結合よりなる群から選ばれた構造を2以上組み合わせた構造がより好ましく挙げられる。
前記第一級又は第二級アミンとしては、下記式(2)で表される化合物が好ましく例示できる。
【0028】
【化4】

(式(2)中、R2は、一価の有機基を表し、R3は、水素原子又は一価の有機基を表し、また、R2とR3とは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0029】
式(2)のR2及びR3における一価の有機基としては、金ナノクラスターに対し反応性の低い基(ただし、第一級アミノ基及び第二級アミノ基は除く。)であることが好ましく、炭化水素基、又は、炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、及び、アミド結合よりなる群から選ばれた構造を2以上結合した基であることがより好ましく、炭化水素基であることが更に好ましい。
前記炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、又は、これらを2以上組み合わせた基が挙げられる。
前記炭化水素基におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
前記炭化水素基は、置換基を有していてもよく、前記置換基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、シリル基、及び、アリールスルホニルアミド基等が挙げられる。
【0030】
前記合成工程において使用する第二級アミンとしては、ジアルキルアミン、アルキルアリールアミン、又は、ジアリールアミンが好ましく例示でき、反応性の観点から、ジアルキルアミン、又は、アルキルアリールアミンがより好ましくより好ましく例示できる。
【0031】
本発明のアミド化合物の製造方法において、前記式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物を使用した場合、得られるアミド化合物は、下記式(3)で表される化合物である。
【0032】
【化5】

【0033】
式(3)におけるR1は、式(1)におけるR1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
また、式(3)におけるR2及びR3は、式(2)におけるR2及びR3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0034】
前記合成工程におけるアルコール化合物とアミン化合物との使用比は、特に制限はなく、任意の比率で使用すればよく、1:1のモル比で使用しても、どちらか一方を溶媒量使用してもよい。
特にアルコール化合物として、メタノールやエタノールなどの低級アルコールを使用する場合は、アミン化合物1モルに対して、アルコール化合物を過剰量(2モル当量以上)又は溶媒量使用することが好ましい。
【0035】
前記合成工程における反応温度としては、反応が進行する温度であれば、特に制限はないが、10〜100℃であることが好ましく、10〜90℃であることがより好ましく、20〜80℃であることが更に好ましい。
また、反応時間については、反応が進行する限り特に制限はなく、反応温度や触媒量などに応じ適宜選択することができるが、24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましい。
【0036】
前記合成工程に使用する反応溶媒としては、水系溶媒であっても、有機溶媒であってもよいが、水系溶媒であることが好ましく、水であることがより好ましい。
水系媒体としては、水、及び、水と水混和性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
水混和性溶媒としては、アセトンやアセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが例示できる。
有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の高極性溶媒等が好ましく挙げられる。
反応溶媒は、1種のみを用いても、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよく、反応に影響がない限り、少量の水分や不純物を含んでいてもよい。
【0037】
前記合成工程においては、塩基性化合物を添加することが好ましい。
本発明に用いることができる塩基性化合物としては、無機塩基であっても、有機塩基であってもよいが、水溶性の塩基性化合物であることが好ましい。
前記無機塩基としては、特に制限はないが、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩、並びに、希土類の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩等が挙げられ、具体的には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
前記有機塩基としては、特に制限はないが、例えば、アミン類が挙げられ、具体的には、例えば、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等が挙げられる。
前記合成工程における塩基性化合物の添加量としては、特に制限はないが、使用するアルコール化合物及びアミン化合物のいずれか少ないほうの使用量1モルに対し、0.5〜10モルであることが好ましく、1〜5モルであることがより好ましい。
【0038】
本発明のアミド化合物の製造方法により得られたアミド化合物は、必要に応じ、カラムクロマトグラフィーや、再結晶又は蒸留などの公知の方法により精製することができる。
また、本発明のアミド化合物の製造方法において使用した金ナノクラスターを含む触媒は、回収して、必要に応じ、洗浄などを行い、再利用することも可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
また、以下の実施例で用いる器具及び装置等は、特に断りのない限り、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、市販又は公知の器具及び装置を適宜用いることができる。
【0040】
以下の実施例で用いた溶媒は、特に断りがない限り、関東化学(株)又は和光純薬工業(株)製一級溶媒をそのまま用いた。
試薬は、特に断りがない限り、汎用無機試薬に関してはナカライテスク(株)又はキシダ化学(株)製のものを、汎用有機試薬に関しては東京化成工業(株)又は和光純薬工業(株)製試薬を用いた。
また、薄層クロマトグラフィーはWAKO gel BF-5を用いた。
また、得られたアミド化合物の同定には、1H NMR、13C NMR、及び/又は、ガスクロマトグラフィを使用した。
【0041】
<ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスターの調製>
操作はすべて空気雰囲気下で行い、また、ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスター(Au:PVP)の調製には、milliQ水を用いた。なお、milliQ水とは、イオン交換樹脂を複数回通し、さらに限外濾過膜を通すことで得られる比抵抗値10MΩ・cm以上の水である。
四塩化金酸(HAuCl4)水溶液(1mM,50mL)の入った三角フラスコ(200mL)にポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(555.5mg,40kDa,K−30)を加え撹拌後、0℃で30分撹拌した。1,300rpmの撹拌下水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)水溶液(0.1M,5mL)を一気に加え1時間撹拌した。この溶液をメンブレンチューブ(ザルトリウス社製vivaspin 分画分子量(MWCO)=10,000)を用いた限外濾過(3,500rpm,(株)久保田製作所製KUBOTA−5200)によって水で洗浄(20ml×3)した。
得られた固体を、水で100mLに希釈してAu:PVP水分散液(0.5mM,100mL)を調製した。なお、得られたAu:PVP水分散液における金ナノクラスターの平均粒径は、1.3nmであった。
水以外の分散液を調製する場合は、洗浄後、凍結乾燥を行い(日本理科器械(株)製EYELA FDU−2200)、得られた粉状のポリビニルピロリドン保護金ナノクラスター(Au:PVP)を各種溶媒に分散して用いた。
【0042】
(実施例1)
操作はすべて空気雰囲気下で行った。
N−メチルアニリン(0.05mmol,5.4μL)のメタノール(1.7mL)溶液の入った試験管(φ=30mm)に、水酸化リチウム(200mol%,2.4mg)、及び、Au:PVP水分散液(0.5mM,3.3mL、基質であるN−メチルアニリンに対しAu原子のモル量が10mol%の量になる。)を加えた。室温で5分撹拌後、80℃で4時間撹拌した。
酢酸エチル(15mL×3)で抽出後、有機層を水、飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーター及び真空減圧下で溶媒を除いた。薄層クロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、目的のN−ホルミル−N−メチルアニリドを得た(収率95〜99%)。
【0043】
(実施例2〜4)
表1に記載のアルコール化合物、アミン化合物、触媒、触媒量、80℃における反応時間に変更した以外は、実施例1と同様な方法により、アミド化合物を得た。得られたアミド化合物、及び、その収率を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
なお、表1中、触媒量は、使用したアルコール化合物及びアミン化合物のうち、使用したモル量が少ないほうを基準(100mol%)とし、使用した金原子のモル量を記載した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノクラスターを含む触媒を調製する触媒調製工程、及び、
前記金ナノクラスターを含む触媒の存在下、酸素を含む雰囲気下において、第一級アルコールと第一級又は第二級アミンとを反応させアミド化合物を合成する合成工程を含むことを特徴とする
アミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金ナノクラスターを含む触媒が、ポリビニルピロリドン保護金ナノクラスターである、請求項1に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記金ナノクラスターを含む触媒における金ナノクラスターの平均粒径が、2nm以下である、請求項1又は2に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第一級アルコールが、式(1)で表される化合物であり、
前記第一級又は第二級アミンが、式(2)で表される化合物であり、
前記アミド化合物が、式(3)で表される化合物である、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアミド化合物の製造方法。
【化1】

(式(1)〜(3)中、R1は、水素原子又は一価の有機基を表し、R2は、一価の有機基を表し、R3は、水素原子又は一価の有機基を表し、R2とR3とは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【請求項5】
前記第一級アルコールが、メタノールであり、
前記アミド化合物が、ホルムアミド化合物である、請求項1〜4のいずれか1つに記載のアミド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−32178(P2011−32178A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177306(P2009−177306)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】