説明

アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法

【課題】簡便に高純度のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法の提供。
【解決手段】ジカルボン酸無水物含有酸クロライドとジアミンを溶液中で反応して、アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法において、反応の進行によってアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の反応溶液が過飽和状態を形成し、その後にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を析出するアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を純度良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器における耐熱絶縁材料として、ポリイミドの重要性が益々高まっている。ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁信頼性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線用基材、テープオートメーションボンディング回路基材、チップオンフィルム回路基材、光導波路材料、半導体素子の保護膜、多層回路における層間絶縁膜等、様々な用途に現在広く利用されている。ポリイミドはモノマーを変更することで物性改良を行いやすく、近年益々多様化する要求特性に対応しやすいという点においても有利である。
【0003】
近年多層配線化が進むにつれて、層間絶縁膜の要求特性として低線熱膨張特性が重要になりつつある。配線層上に形成されたポリイミド前駆体膜をイミド化する際、イミド化温度から室温へ冷却する過程で発生する熱応力は、金属配線層と膜の部分的剥離、割れ、CMP耐性の低下等、電気的信頼性上の深刻な問題を引き起こす恐れがあるため、熱応力をできるだけ低減する必要がある。
【0004】
また、イオンマイグレーションを抑制するという観点から、ポリイミドワニスを使用してこれを塗布・乾燥し層間絶縁膜を形成することが好ましいが、室温で安定なポリイミドワニスとするためには、ポリイミドが汎用の揮発性有機溶媒に対して室温で高い溶解性を有することが必要となる。
【0005】
これら上記の問題点を解決するポリイミドとして特定のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有するポリアミドイミドが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−106225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等の検討によると、ポリイミドの分子量が変化するとCTEや有機溶媒への溶解性が変化することが明らかとなった。また、重合によって得られるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の分子量はジアミンと酸二無水物の化学純度が大きく影響することも分かった。特に、低純度の酸二無水物は不純物を含んでおり、重合にバラつきを与える原因となるため、安定的に良品質なポリマーを得るためには化学純度の高い酸二無水物を重合に用いる必要がある。
【0008】
そこで本発明では、特定のモノマーを高純度で簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ジカルボン酸無水物含有酸クロライドとジアミンを溶液中で反応して、アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法において、反応の進行によってアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の反応溶液が過飽和状態を形成し、その後にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を析出するアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。これによれば、反応終了時に系がすでに過飽和状態になっていることで簡便に、しかも析出時の不純物を低減出来ることから高純度のモノマーを製造することができる。
【0010】
また、アミド化反応を−50℃以上、40℃以下で行うことを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0011】
また、反応溶液を構成する溶媒が酢酸エチルを含むこと、更には酢酸エチルであることを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0012】
また、前記ジカルボン酸無水物含有酸クロライドが芳香環を有することを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0013】
また、前記ジカルボン酸無水物含有酸クロライドがトリメリット酸無水物クロライドであることを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0014】
また、前記ジアミンが芳香族ジアミンまたは脂肪族ジアミンであることを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0015】
また、前記ジアミンが2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下TFMBと称する)であることを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0016】
また、前記アミド化反応後に反応溶媒よりもアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解度が低い溶媒を添加することを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0017】
また、前記析出操作後に得られたアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を反応溶媒より溶解性の低い溶媒に加えて加熱した後に濾別する工程を含む前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【0018】
また、前記アミド化反応において過飽和状態を形成した際にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の濃度が0.15mmol/ml以上であることを特徴とする前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法を提供した。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法によれば、高純度のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を、簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ジカルボン酸無水物含有酸クロライドとジアミンを溶液中で反応して、アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法において、反応の進行によってアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の反応溶液が過飽和状態を形成し、その後にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を析出するアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法に関するものである。これによれば、反応終了時に系がすでに過飽和状態かつ均一になっていることで簡便に生成物を分離することが出来る。しかも過飽和状態を経由することで温和に析出させることが出来るので、結晶中に不純物を取り込むことが少なく、高純度のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造することができる。
【0021】
本発明で使用するジカルボン酸無水物含有酸クロライドとしては、特に限定されないが、例えば無水トリメリット酸クロライドが好適に用いることができる。
【0022】
本発明で使用するジアミンとしては、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン、2−メトキシ−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ビス(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられ__が好適に用いることができる。
【0023】
通常、本発明で過飽和状態を達成するためには反応終了時点でのアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の濃度が飽和濃度を上回る様に仕込み時に溶媒の量を制御することとなる。ただし、反応物であるジカルボン酸無水物含有酸クロライドとジアミンの両者を全量添加した際に溶解していることが望ましい。
【0024】
前記アミド化反応について説明する。ジカルボン酸無水物含有酸クロライドのジアミンに対する添加量はどのような比率でも良いが、生成物の化学純度を鑑みると2倍以上が望ましい。さらに、副生成物を巻き込んで析出しない様にするためには、ジカルボン酸無水物含有酸クロライドのジアミンに対する添加量の比は2〜2.5倍が好ましい。
【0025】
本発明で使用する反応溶媒としては、アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法において、反応終了時点でアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の濃度が飽和濃度を越える溶媒であれば各種溶剤を使用することができる。例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと称する)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと称する)、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、n−ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応後の処理のしやすさおよび原料の溶解性の観点から酢酸エチルが好適に用いられる。
【0026】
本発明の反応溶液におけるアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の過飽和状態を安定的に形成する点で、過飽和状態形成時のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の濃度は0.15mmol/ml以上であることが好ましい。また過飽和状態を形成するために一度加温した後に冷却する、あるいは加温した後に貧溶媒を加えて冷却する方法を用いても良い。
【0027】
本発明のアミド化反応終了後にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物が過飽和状態を安定的に形成するために、−50℃以上、さらに−30℃以上で行うことが好ましい。また、副反応を避けるために、40℃以下、さらに30℃以下で行うことが好ましい。また、上記範囲では、前記反応が素早く完結し、さらに操作が簡便になるという点で、20℃での反応が特に好ましい。
【0028】
本発明ではアミド化反応で生じる塩酸が副反応を引き起こす可能性があるため、脱酸剤を用いることが好ましい。脱酸剤としてはプロピレンオキサイドの他に、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルアミノピリジンなどの3級アミンを好適に用いることが出来る。副反応の抑制や、塩の除去の容易さからプロピレンオキサイドが特に好適に用いられる。
【0029】
前記アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の析出後は、収率をさらに向上させるためにアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解性の低い溶媒を添加しても良い。一度過飽和状態を経由することで純度の高いアミド基含有テトラカルボン酸二無水物が得られているため、その後溶解度の低い溶媒を加えてさらに系からアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を析出させたとしても化学純度を低下させることは少ない。アミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解度の低い溶媒としてはn−ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、トルエンなどの炭化水素系有機溶媒を挙げることができ、これらを好適に用いることが出来る。
【0030】
前記アミド化反応により得られたアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の分離および精製について説明する。反応終了後に析出物を濾別し、反応溶媒よりアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解度が低い溶媒により洗浄することで、不純物や副生成物、脱酸剤と塩酸により形成された塩などを除去することが出来る。また、最後に生成物を30〜160℃で1〜24時間真空乾燥することで、高純度の乾燥アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を得ることができる。尚、乾燥速度を考慮すると120℃以上で真空乾燥することが望ましい。
【0031】
前記析出操作後に得られたアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を、反応溶媒より溶解性の低い溶媒に加えて加熱した後に濾別することで、より純度の高いアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を得ることも出来る。また、この操作によりアミド基含有テトラカルボン酸二無水物が開環したアミド基含有テトラカルボン酸を再閉環することが出来る。前記加熱操作で用いる溶媒はアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解性が反応溶媒より低いものであれば各種溶媒を使用することが出来るが、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと称する)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと称する)、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、n−ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒、酢酸、無水酢酸、トルエンなどを好適に使用することができる。尚、これらの溶媒は単独でも2種類以上混合して用いても良い。特に無水酢酸とトルエンの混合溶媒中で加熱した後に濾別することで効率良く精製することが出来る。
【0032】
本発明の製造方法で製造したアミド基含有テトラカルボン酸二無水物は各種ポリイミドの重合に用いることが出来る。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実験例を示して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の例における物性値は次の方法により測定した。
【0034】
<HPLC>
WATERS2690を用いて分析を行い、検出器にはWATERS996を用いた。カラムはDAISOPAK SP−200−5−ODS−BP 250mm×4.6mm、プレカラムはDAISOPAK SP−200−5−ODS―BP 35mm×4.6mmを用いた。カラム温度は40℃、検出波長は254nm、流速は1ml/minに設定した。溶離液はメタノール/蒸留水/トリフルオロ酢酸=600/400/1(体積比)。サンプルは約0.05wt%となる様にメタノールに溶解させ30分撹拌して調整した。検出波長は254nmとし、吸光から化学純度を決定した。
【0035】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBr法にて本発明のテトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にて本発明のポリイミドの薄膜(5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0036】
<NMR>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて重水素化ジメチルスルホキシド中でテトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
【0037】
<DSC>
テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
【0038】
(実施例1)
式(1)で表されるアミド基含有テトラカルボン酸二無水物(以下TATFMBと称する)をTFMBとトリメリット酸無水物クロライドより合成した。セパラブルフラスコにトリメリット酸無水物クロライド42.44g(201.54mmol)を入れ、酢酸エチル84.79gを加えて溶解し、溶液Aを調整した。他方で別のセパラブルフラスコにTFMB29.34g(91.62mmol)を入れ、酢酸エチル88.02gと脱酸剤としてプロピレンオキサイド10.65gを加えて溶解し、溶液Bを調整した。
【0039】
【化1】

【0040】
反応容器を10℃となる様に恒温槽で調製し、溶液Aに溶液Bを1時間かけて滴下した。滴下終了時点では系内は溶解度の限界を超えているにもかかわらず均一であり、さらに撹拌を30分続けることで結晶が析出した。その後内温が20℃になる様に昇温し、2時間熟成した。その後反応容器にn−ヘプタン129.68gを加え、1時間撹拌した後に濾別し、白色の生成物を得た。この白色生成物を酢酸エチル84.79gとn−ヘプタン58.68gの混合溶液で洗浄することで副生成物を除去し、120℃の真空オーブンで乾燥を行い、粗結晶を54.66g取得した(収率89.25%)。
【0041】
これを無水酢酸50.08gとトルエン497gの混合溶媒に加え、110℃に加温して3時間加熱撹拌した。反応容器を10℃まで冷却し、白色の結晶を濾別した後に、トルエン50.01gを用いて洗浄し、120℃のオーブンで12時間乾燥することで目的のTATFMBを49.19g取得した(総収率80.33%)。
【0042】
得られたTATFMBの化学純度を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
生成物の確認はFT−IRとNMRにより行った。
FT−IR: 3378cm−1(アミド基NH伸縮振動)、3108cm−1(芳香族C−H伸縮振動)、1858cm−1、1782cm−1(酸無水物基C=O伸縮振動)、676cm−1(アミド基C=O伸縮振動)
1H−NMR: δ11.06ppm(s、NH、2H)、δ8.65ppm(s、フタルイミド上、3位CaromH、2H)、δ8.37ppm(フタルイミド上、5および6位CaromH、4H)、δ7.46ppm(d、中央ビフェニル上、6および6’位CaromH、2H)、δ8.13ppm(d、中央ビフェニル上、5および5’位CaromH、2H)、δ8.27ppm(s、中央ビフェニル上、3および3’位CaromH、2H)
DSC:融点267℃
【0045】
(実施例2)
反応容器の温度を−20℃とする以外は実施例1と同一の方法で合成を行った。滴下終了時点では均一であり、実施例1と同様過飽和状態を形成した。その後の精製操作も実施例1と同様に行ったところ、TATFMB49.02gを取得した(収率80.05%)。
【0046】
得られたTATFMBの化学純度を表1に示した。
【0047】
(実施例3)
n−ヘプタン129.68gを加えて1時間撹拌する工程を行わなかった以外は、実施例1と同一の方法で各工程を行ったところ、TATFMB42.32gを取得した(収率69.11%)。
【0048】
得られたTATFMBの化学純度を表1に示した。
【0049】
(比較例1)
セパラブルフラスコにトリメリット酸無水物クロライド19.37g(91.98mmol)を入れ、酢酸エチル58.12gを加えて溶解し、溶液Aを調整した。他方で別のセパラブルフラスコにTFMB14.38g(44.91mmol)を入れ、酢酸エチル53.25g、ヘプタン44.73gと脱酸剤としてプロピレンオキサイド5.219gを加えて溶解し、溶液Bを調整した。
【0050】
反応容器を10℃となる様に恒温槽で調製し、溶液Aに溶液Bを1時間かけて滴下した。滴下時から白色結晶が析出し、過飽和状態にはならなかった。その後内温が20℃になる様に昇温し、2時間熟成した。その後反応容器にn−ヘプタン46.01gを加え、1時間撹拌した後に濾別し、白色の生成物を得た。この白色生成物を酢酸エチル41.56gとn−ヘプタン28.76gの混合溶液で洗浄することで副生成物を除去し、120℃の真空オーブンで乾燥を行い、粗結晶を26.67g取得した(収率88.85%)。
【0051】
これを無水酢酸24.55gとトルエン243gの混合溶媒に加え、110℃に加温して3時間加熱撹拌した。反応容器を8〜12℃まで冷却し、白色の結晶を濾別した後に、トルエン24.50gを用いて洗浄し、120℃のオーブンで12時間乾燥することで目的のTATFMBを23.90g取得した(総収率79.63%)。
【0052】
得られたTATFMBの化学純度を表1に示した。
【0053】
(比較例2)
反応においてヘプタン44.73gの代わりにトルエン44.73gを用いた以外は比較例1と同一の方法で合成を行った。その際滴下終了時点ですでに白色結晶が析出していた。その後の精製操作は比較例1と同様に行ったところ、目的のTATFMBを13.52g取得した(収率45.05%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸無水物含有酸クロライドとジアミンを溶液中でアミド化反応して、アミド基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する方法において、反応の進行によってアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の反応溶液が過飽和状態を形成し、その後にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を析出するアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項2】
アミド化反応を−50℃以上、40℃以下で行うことを特徴とする請求項1記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項3】
前記反応溶液を構成する溶媒が酢酸エチルを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項4】
前記ジカルボン酸無水物含有酸クロライドが芳香環を有する請求項1〜3のいずれか一項記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
前記ジカルボン酸無水物含有酸クロライドがトリメリット酸無水物クロライドであることを特徴とする請求項4記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項6】
前記ジアミンが芳香族ジアミンまたは脂肪族ジアミンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項7】
前記ジアミンが2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであることを特徴とする請求項6記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項8】
前記アミド化反応後に、反応溶媒よりもアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の溶解度が低い溶媒を添加することを特徴とする請求項1〜7いずれか一項記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項9】
析出したアミド基含有テトラカルボン酸二無水物を、反応溶媒より溶解性の低い溶媒に加えて加熱した後に濾別する工程を含む請求項1〜8のいずれか一項記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項10】
前記アミド化反応において過飽和状態を形成した際にアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の濃度が0.15mmol/ml以上であることを特徴とする請求項1〜9いずれか一項記載のアミド基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【公開番号】特開2013−28578(P2013−28578A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167686(P2011−167686)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】