説明

アミノ酸−N,N−二酢酸化合物を調製する方法

少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸、またはカルボキシル基の数基準で当量未満のアルカリ金属とのその塩を製造する方法において、当該方法が、最初に有機または無機酸を使用する化学的酸性化を実施してその中の該基のうちの少なくとも1がプロトン化されたところの化合物を得る段階、そして後続の段階において、電気透析によって、アミノカルボキシレート出発物質をさらに酸性化しそして少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸の部分的に酸性化されたアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減すること、によって、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸のアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減することおよびアミノカルボキシレート出発物質を酸性化することを含む方法であって、該電気透析が、陽極側に水素イオン選択透過膜および陰極側にカチオン透過膜を使用して実施される、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸(以下「AADA」と呼ばれる。)のアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減するための改良された方法に関する。より具体的には、本発明は、AADAアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減することによって、酸の形をしたAADAの水性溶液を高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸を製造する方法を開示しており、該アミノ酸は低減されたアルカリ金属イオンを含んでいるかまたはアルカリ金属イオンを含まず、かつ生分解性が高い。該方法は、電気透析によって、AADAのアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減する方法を包含する。電気透析は、陽極側に水素イオン選択透過膜および陰極側にカチオン透過膜を使用して実施されることができる。この製造方法は、電気透析装置に入る溶液が腐食性であり、高粘度を有し、かつ該方法が多大なエネルギーを消費するという不利点を有する。60%を超えるAADAアルカリ金属塩の濃度は、その場合には粘度が非常に高くなって、溶液の拡散性が悪化し時間当たりの透析効率が減少するので、可能ではないことが特許文献1に特に示されている。
【0003】
BPM(バイポーラ膜)電気透析法を好適に実施するためには、過度に低い流れを防ぐために電気透析されるべきサンプルは好ましくは過度に高い粘度を有してはならない(好ましくは、これは40℃において15センチポアズ未満と言われている。)ことが、一般に知られている。この過度に低い流れはときには高い圧力によって部分的に相殺されるけれども、これはエネルギーを消費し、過度に低い流れはしばしば濃度分極をもたらして、不均一な電流分布につながり、電気透析セルの膜が焼ける危険または少なくとも該膜の有意の劣化の危険を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1004571号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸を調製する改良された方法を提供することであり、該アミノ酸は低減されたアルカリ金属イオンを含んでいるかまたはアルカリ金属イオンを含まず、該方法においては高度に腐食性の物質および高い粘性の物質が電気透析的に酸性化される必要がなく、それでいてそれと同時に、高度に濃縮された溶液が調製されることができ、かつ本発明の方法がエネルギーの使用と化学薬品の使用との間のより良好なバランスを提供し、さらに加えて反応系への水の添加とそこからの水の除去との間の良好なバランスをもたらし、該方法は特に、化学薬品の使用量を等価のエネルギー使用量に計算し直すと、現在の最新技術の方法よりも使用するエネルギーが少ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸、またはカルボキシル基の数基準で当量未満のアルカリ金属とのその塩を製造する方法において、当該方法が、最初に有機または無機酸を使用する化学的酸性化を実施して該基のうちの少なくとも1がプロトン化されたところの化合物を得る段階、そして後続の段階において、電気透析によって、アミノカルボキシレート出発物質をさらに酸性化しそして少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸の部分的に酸性化されたアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減すること、によって、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸のアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減することおよびアミノカルボキシレート出発物質を酸性化することを含み、該電気透析が、陽極側に水素イオン選択透過膜および陰極側にカチオン透過膜を使用して実施される、上記方法を提供する。
【0007】
上記のように、アミノ酸出発物質の基のうちの少なくとも1がプロトン化されるまで、化学的酸性化段階は続けられることになる。正味の化学反応においてはプロトン化されることになる最初の基はカルボキシレート基のうちの1と言われており、これが次にカルボン酸基に転化されると言われている。しかし、本発明の対象となる多数のアミノ酸においては、分子中で最も高いpKaを有する基はアミノ基であってカルボキシレート基ではないので、実際には(1または複数の)アミノ基(のうちの1)が最初にプロトン化され(て、アンモニウムカルボキシレートが得られ)る。したがって、「該基のうちの少なくとも1」の語句は、アミノ酸出発物質の、最も高いpKaを有する基を意味する。
【発明の効果】
【0008】
化学的酸性化は、酸性化の部分について大量のエネルギー(電気)を使用する必要を取り除き、該酸性化は(普通の)酸を用いてきわめて好都合に達成されることができる。バイポーラ膜電気透析セルを操業するときに、水の電気透析によるHの生成は決して100%の効率ではない。一般に、電流効率はほぼ65〜75%程度であり、これはH生成の効率に直接結びつく。酸性化されるべきAADAのpHよりもそのpHが十分に低いところの酸を使用すると、実質的にすべてのHが使用されて、AADAによるH消費量単位で表されたときにより高い効率、100%を含む100%までさえの効率が得られる。本明細書の文脈における十分により低いpHとは、AADAのpHよりも少なくとも1低い、好ましくは少なくとも1.5低いことを意味する。その結果、AADAの酸性化のための化学薬品および電気の使用量を比較すると、化学的酸性化を使用するときには、これは電気分解的酸性化よりも有意に少ないエネルギーしかかからないと計算し直されることができることが発見された。
【0009】
他方において、BPM電気透析の利点、すなわちAADA塩の結晶の結晶化分離(この方法では、たとえば、有機溶媒の添加によって実施される貧溶媒添加晶析によって、結晶が形成される。)が必要でないこと、およびAADAアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを効率的に低減することが、とりわけより強酸が要求されるであろう該低減の部分について、維持される。要するに、すでに前記したように、BPM電気透析はさらに加えて、このプロセスの間に生成されるアルカリ性溶液が(再)使用されるならば、完全に酸性化されたAADAを製造するための、廃棄物の出ない(すなわち、無機塩の生成のない)プロセスであることができる。本発明に従う方法のさらなる利点は、電気透析装置への入口流れが、酸性化されていないAADA、すなわちその中のすべてのカルボン酸基がそのアルカリ金属塩の形をしているところのAADAよりもはるかに低度に腐食性でありかつ有意に低い粘度を有することである。本発明に従う方法では、BPM装置のサイズが、特許文献1に開示された現在の最新技術の方法と比較して減少されることができる。
【0010】
さらに、本発明の方法を使用すると、反応系に加える水とそこから除く水との間の良好なバランスが得られ、それでいて同時に最終生成物中の塩の量が制御下に抑えられる。バイポーラ膜電気透析酸性化におけるカチオン、たとえばアルカリ金属イオンの低減は、浸透力によって反応系から水が抜き出される結果となる。他方、化学的酸性化では、好適には系に水が添加される。これらの2の酸性化段階を1のプロセスに組み合わせることは、希釈され過ぎてその結果適度に濃縮された生成物を得るために水を蒸発することが必要であることもない系において、あるいは濃縮され過ぎてその結果高濃縮AADA溶液を取り扱うことにかかわる不具合、たとえばAADAの望まれていない結晶化およびきわめて高い粘度または腐食性に遭遇することもない系において水性AADA生成物を与える。
【0011】
特許文献1に、AADAのアルカリ金属塩の水性溶液に無機または有機酸を添加して無機または有機酸のアルカリ金属塩を生じさせる段階、そしてその後に、今述べた(無機または)有機酸の添加によって生成された無機塩または有機塩を除くために、得られた溶液をアニオン側にアニオン透過膜および陰極側にカチオン透過膜を用いて電気透析する段階を含む方法が開示されていることはここに記しておかなければならない。
【0012】
バイポーラ膜電気透析(BPM)は、水素イオン選択透過膜を使用する電気透析と基本的に同じものであり、最も好都合な電気透析法である。これは、BPM電気透析以外の他の電気透析法(すなわち、アニオンおよびカチオン透過膜のみの使用に基づいたもの)を使用すると、副生成物は普通、塩であり、これは廃棄物流とみなされることになるからである。BPM電気透析法では、副生成物としてアルカリ性溶液を製造することが可能であり、これは価値のある副流である。何故ならば、たとえば、これはAADA出発化合物の調製に使用されることができるからである。この用途にアニオン交換膜を使用する上の難点は、工程内に存在するAADAアニオンの潜在的な損失である。何故ならば、これらのアニオンは、電位差力の結果としてアニオン透過膜を通っても移動することができ、価値のあるAADA生成物の損失を引き起こしかつ副生成物の水性アルカリ金属水酸化物を汚染するからである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に使用されることができる電気透析装置の概略図である。
【図2】様々な酸性化方法における水バランスの比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩は、好ましくは以下の式(1)

または式(2)

によって表された塩であり、これらの式で、Mはアルカリ金属を表し、mは0または1〜2の整数を表し、およびnは0または1〜3の整数を表す。
【0015】
アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩の例として、グルタミン酸−N,N−二酢酸(GLDA)のアルカリ金属塩、アスパラギン酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩、グリシン−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩、アルファアラニン−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩、ベータアラニン−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)のアルカリ金属塩、メチルグリシン二酢酸(MGDA)のアルカリ金属塩、およびセリン−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩が挙げられることができる。
【0016】
1の実施態様では、アミノ酸−N,N−二酢酸は、(完全に酸性化されると)少なくとも約1グラム毎水100グラムの溶解度を有する。好ましくは、アミノ酸−N,N−二酢酸は少なくとも約5グラム毎水100グラムの溶解度を有する。より好ましくは、これは少なくとも約10グラム毎水100グラムの溶解度を有する。
【0017】
好まれる実施態様では、アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩は、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)またはグルタミン酸二酢酸(GLDA)のアルカリ金属塩である。特に好ましくは、これはグルタミン酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩である。
【0018】
図1は、本発明に使用されることができる電気透析装置の概略図である。電気透析法は、正極および負極が電極溶液の水性溶液中に入れられ電位の傾きがそれにかけられると、溶液中の正および負イオンがそのそれぞれの対極に向かって移動する原理を利用しており、これは、2電極間にイオン交換膜および半透膜を配置し、そして該膜間の溶液中の2種類のイオンを異なった方向に運んで該膜からこれらのイオンを除く処理を意味する。
【0019】
電気透析法では、陽極側に水素イオン選択透過膜および陰極側にカチオン透過膜を用いて電気透析が実施される。図1に示された製造プロセスに使用されるべき電気透析に従うと、それを通してAADAアルカリ金属塩の水性溶液(図中で「サンプル」Sと称されている。)が通るところの各膜セルは、陽極側に半透膜としての水素イオン選択透過膜Hおよび陰極側にイオン交換膜としてのカチオン透過膜Cを含んでいる。水性溶液Aは、それぞれ水素イオン選択透過膜Hおよびカチオン透過膜Cの(反対)側に供給される。この手順において、AADAアルカリ金属塩の水性溶液中のアルカリ金属イオンは、対極に向かって、すなわち陰極に向かって移動し、そして膜Cを透過しそして水性溶液A中に入り込む。何故ならば、陰極側の透過膜はカチオン透過膜Cであるからである。実質的に、水素イオンは陽極側の水性溶液から分かれて水素イオン選択透過膜Hを通ってAADAアルカリ金属塩の水性溶液に移動する。この機構によって、AADA塩の水性溶液中のアルカリ金属イオンが水素イオンで置き換えられて、AADA塩の水性溶液中のアルカリ金属イオンの数が低減される。
【0020】
本明細書で使用される「水素イオン選択透過膜」の語は、それを通して水素イオンのみが透過性でありかつ他のカチオンまたはアニオンは非透過性であるところの機能膜であり、かつそれが積層されたカチオン交換膜およびアニオン交換膜から成るハイブリッド膜であることを意味する。電位の傾きが該膜にかけられると、水が分解されて水素イオンおよび水酸化物イオンを生成し、該水素イオンおよび水酸化物イオンは、それぞれ陰極側および陽極側に向かって移動し、そして水酸化物イオンは水性溶液A中の水素イオンと反応して水を生成しまたは該水性溶液をよりアルカリ性にする。したがって、水素イオンのみが該膜を通って移動するように見えるということができる。商業的に入手可能な水素イオン選択透過膜の例として、(旭硝子株式会社によって製造された)Selemion HSVおよび(トクヤマ社によって製造された)NEOSEPTA BP1が挙げられることができる。
【0021】
「カチオン透過膜」の語は、それを通してカチオンが透過性でありかつアニオンは非透過性であるところの機能膜を意味する。該膜としては、スルホン酸基、カルボン酸基、および解離されたときに負の電荷を有するであろう他の基を高い密度で保持し、かつスチレンポリマー性均質膜から成る膜が好都合に使用されることができる。商業的に入手可能な膜は、たとえば(旭硝子株式会社によって製造された)Selemion CMV、(旭化成工業株式会社によって製造された)Aciplex CK−1、CK−2、K−101、およびK−102、(トクヤマ社によって製造された)Neosepta CL−25T、CH−45T、C66−5T、およびCHS−45T、ならびに(Du Pont社によって製造された)Nafion 120、315、および415を含む。アミノ酸二酢酸のアルカリ金属塩の化学種または除かれるべき不純物に従って、該膜は選択されることができる。
【0022】
本発明の方法の第一段階に使用されることができる酸は、出発物質の(カルボキシレート)基のうちの1を少なくとも完全にプロトン化するのに十分なほど強酸であるところのありとあらゆる酸を、それのたとえば水中の溶液を含めて、包含する。第一段階に使用されるべき酸として、たとえば硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、および他の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、ならびにクエン酸の各水性溶液が挙げられることができる。酸の量は、除かれるべきアルカリ金属イオンの量に基づいて計算されることができる。
【0023】
好まれる有機酸は、AADA塩へのプロトンの付与後に残るそのアニオンが、AADA最終生成物が結晶化しまたは沈降する傾向を望ましくないほど増加しないような有機酸である。同様に、有機酸をAADA塩に添加した後生成されるその有機塩は、好ましくは結晶化もしないし沈降もしないものでなければならない。同様に好まれるのは、そのpKaが、その有機酸がBPM電気透析的酸性化によって直ちにプロトン化されないようなものであるところの有機酸である。これは一般にBPM装置における処理後の混合物のpHがこのpKaよりも高い場合であり、好適にはこれは少なくとも1.0だけ高く、好ましくはこれは少なくとも1.5だけ高い。本発明の製造方法に使用されるべき好まれる有機酸の例は、ギ酸、酢酸、および他の低分子量の、安価なおよび相対的に酸性の有機酸であり、その水性溶液も含む。酸性化に使用されるべき好まれる無機酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、および硝酸のような無機酸を含み、その水性溶液も含む。本発明の方法の第一段階に適した他の酸は、カルボキシレート基の実質的な部分またはそのすべてがカルボン酸基に転化されているアミノ酸−N,N−二酢酸化合物およびプロトン交換樹脂である。好まれる実施態様では、本発明の方法の第一段階の化学的酸性化は、後続の電気透析において酸として製造された、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸、またはカルボキシル基の数基準で当量未満のアルカリ金属を有するその塩を使用して実施される。この実施態様では、本発明の方法から得られたすでに(部分的に)酸性化されたAADAに、AADA塩が(連続的に)添加され、そして取得されたプロセス混合物はその後本発明の電気透析段階に付される。
【0024】
塩化水素、臭化水素、硫酸、および硝酸のような無機酸の使用は、これらが安価かつ高モル濃度の水性溶液で入手容易であることに加えて、これらのアニオン、たとえば塩素アニオンが、電気透析に付された水性溶液に改良された導電性を与え、それでいて該アニオン自体は本発明の方法かあるいは得られる最終生成物に有害な影響を与えないというさらなる利点を有する。
【0025】
酸形のアミノ酸−N,N−二酢酸自体の使用は、その中にアニオン不純物が存在しないところのAADA最終生成物がもたらされるというさらなる有益な効果を有する。
【0026】
上記のように、イオン(プロトン)交換樹脂も本発明の方法の第一段階のための酸として好適に使用されることができる。これは優れた酸性を有し、他の反応物から容易に分離される。アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩を酸性化する能力があるほど十分に酸性なイオン交換樹脂の主要な部分は、これらが比較的低い容量を有するという事実によって特徴付けられる。該樹脂はAADAの部分的な化学的酸性化をもたらす能力があることのみが必要とされるので、この低い容量は、該樹脂を本発明の方法に不適当にはしない。
【0027】
AADAアルカリ金属塩の水性溶液の濃度は、好ましくは5〜70重量%の範囲に入るべきである。該濃度は、より好ましくは10重量%以上、典型的に好ましくは20重量%以上、かつより好ましくは60重量%以下、典型的に好ましくは50重量%以下である。
【0028】
AADAアルカリ金属塩の水性溶液の5重量%未満の濃度は、生産性の悪化を引き起こし、透析後に濃縮操作を要求することがあり、したがって実用的でない。
【0029】
これに関連して、製造されるAADAがグルタミン酸−N,N−二酢酸、メチルグリシン−N,N−二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸またはセリン二酢酸であるときは、該AADAの塩は水に適度ないし高度まで溶解性であるので、これらの化合物の水性溶液は高濃度で処理されることができる。アルカリ金属イオンの完全な除去が要求されないならば、ある実施態様では、製造されるAADAまたはその塩は水により易溶性であることができ、したがってより高濃度で反応されることができる。
【0030】
AADAアルカリ金属塩の水性溶液からほとんどすべてのアルカリ金属イオンが除かれなければならないときは、透析の間のAADAの結晶の沈降を避けるために、今問題にしているAADAの溶解度に応じて、濃度が予め調整されなければならない。
【0031】
水性溶液Aは、水性酸性溶液、水性アルカリ性溶液または中性水性溶液、たとえば水(水道水で十分である。)であることができる。好まれる実施態様では、水性溶液は中性または(わずかに)アルカリ性の溶液である。より好まれるのは中性またはわずかにアルカリ性の溶液の使用であり、最も好ましくは7〜8のpHを有するものの使用である。
【0032】
水性溶液Aは、好ましくは数回分に分けて使用され、電気透析の間に取り替えられる。何故ならば、要求される計算量の全量を使用すると電流効率の悪化を引き起こすからである。このような回分使用はAADAアルカリ金属塩の水性溶液中のアルカリ金属イオンの濃度を効率よく低減することができる。水性溶液は循環されおよびリサイクルされてもよい。
【0033】
水性溶液が酸、塩基または塩を含有するならば、該水性の酸、アルカリ性または塩の溶液の濃度は、1の実施態様では、1〜40重量%の範囲に入らなければならない。該濃度は、より好ましくは5重量%以上、典型的に好ましくは8重量%以上、かつより好ましくは20重量%以下、典型的に好ましくは15重量%以下である。水性酸溶液の濃度が40重量%を超えるならば、過剰量の硫酸イオンおよび他の塩基がAADA塩の水性溶液中に移動することがあり、そして硫酸ナトリウムまたは他のアルカリ金属塩の結晶が沈降して、該溶液の温度が低いと膜を塞ぐことがある。他方、それが1重量%未満であれば、循環される水性酸溶液の割合が増加されなければならず、貯槽の容積の増加をもたらす。
【0034】
電極セル中を循環されるべき電極溶液Eとしては、必要とされる電流を十分に伝導する限り、アルカリ性、酸性または中性溶液が使用されることができる。1の実施態様では、該溶液は0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、最も好ましくは1〜2重量%の濃度における酸、塩基または塩の溶液であることができる。酸性溶液が使用されるならば、透析に使用されたものと同一の酸が好ましくは用いられる。電極溶液の濃度が高過ぎるならば、電極板がより速く腐食されることがある。他方、濃度が低過ぎるならば、電流がほとんど流れないだろう。
【0035】
電気透析にかけられる電力は、定電圧法かあるいは定電流法によって制御されることができる。電流密度が増加されると、要求される処理時間が減少する。しかし、電流密度の増加は電圧の増加を要求し、したがって電力投入量が増加する。これは、電気透析装置中の抵抗損によって生成される溶液の温度上昇を招く。したがって、好ましくは膜の劣化を引き起こさないであろうような範囲内に溶液の温度を維持するように、電位および電流の双方の上限は制御される。
【0036】
電気透析操作は一般にバッチ系で実施され、AADAアルカリ金属塩の水性溶液は各透析操作の完了後に取り替えられる。しかし、水性溶液Aは同時に取り替えられる必要はなく、次のバッチ操作の過程中まで使用され、それから水性溶液の新しい小分け分で取り替えられることができる。この操作によって、AADAアルカリ金属塩の水性溶液中のアルカリ金属イオンの濃度は、効率よく低減されることができる。もちろん、複数の透析装置を接続して多段階透析装置を構成することによって、電気透析は連続的に実施されることができる。
【0037】
バッチ処理では、AADAアルカリ金属塩の水性溶液の濃度またはpH値が所定の値に達したかどうかによって、電気透析操作の完了は決定されなければならない。アルカリ金属イオンが除かれてAADA水性溶液を生成するために電気透析が実施されるときには、好ましくはアルカリ金属イオンの濃度が許容下限値に達した時点でまたはそれよりも早く、電気透析操作は完了されなければならない。これは、アルカリ金属イオンの完全な除去を目的とした過度な電気透析は、電流効率を悪化させかつAADA溶液に移動し汚染する酸イオンおよび塩基の量を増加させる原因となるからである。
【実施例1】
【0038】
ある程度部分的に酸性化されたAADAの多数の特性、たとえば粘度、導電率、および水中腐食性を、これらのAADAの完全金属塩と比較した測定
【0039】
商用の、Akzo Nobel Chemicals社からのDissolvine(商標)GL−38、Dissolvine(商標)H−40、およびBASF社からのTrilon(商標)Mが、それぞれ参照のGLDA−Na4、HEDTA−Na3、およびMGDA−Na3として使用された。対応するキレート酸(水中)をこれらの商用製品に、そこに存在する完全に中和されたキレートが0.1重量%未満であるところの最も高いpHに達するまで添加することによって、部分的に酸性化されたキレート(水中40%)が調製された。電気透析によってGLDA−H4が調製され、またイオン交換によってTrilon(商標)MからMGDA−Nax<33−xがつくられた。プロトン化定数に基づく化学種分布グラフから、所望のpHが導き出された。得られたキレート溶液はすべて、実際に存在する塩38.3〜43重量%のキレート含有量(Fe−TSV)を有する。
【0040】
詳細の明示されていないアルミニウム板を使用して、アルミニウムに対する腐食性が測定された。技術サービスから供給された6×3×0.2cmのアルミニウム板がエタノール洗浄剤で洗浄され、乾燥され、そして板の重量が測定された。その後、板は、商用のまたは部分的に酸性化されたキレート溶液中に完全に沈められ、そして室温に保たれた。時間が経って、板は溶液から取り出され、すすがれ、工業用空気によって乾燥され、そして秤量された。腐食性は、特定の時間後の重量損失として表された。さらにそのうえ、アルミニウム板およびキレート溶液は目視で検査されて腐食の過程が評価された。
【0041】
約40重量%のキレート溶液自体のpHがガラス電極によって測定された。
【0042】
Knick Konductometer 703を用いて、導電率が測定された。
【0043】
Brookfield DV−II+プロ・ビスコメータを用いてS−18スピンドルを使用して、粘度が測定された。温度は低温保持装置を用いて維持された。
【0044】
物理的特性が表1に示される。
【表1】

【0045】
結論
【0046】
部分的に酸性化された約40重量%のGLDA、HEDTA、およびMGDAのナトリウム塩は、これらの完全に中和された対応物よりもアルミニウムに対して低度に腐食性、より導電性、およびより低度に粘性である。
【実施例2】
【0047】
GLDA−Na(pH≒7.2)の電気透析的酸性化
【0048】
図1は、本実施例に使用された電気透析装置(Eurodia Industrie社:EUR2c−7 Bip)を示す概略図である。水性塩基性溶液(水酸化ナトリウム溶液)が循環ポンプ(示されていない。)で貯槽(示されていない。)から図中に「水性塩基溶液A」と表示された膜間腔を通って循環され、貯槽に戻される。水酸化ナトリウムの濃度は5重量%である。約5重量%の水酸化ナトリウムを含有する電極溶液Eが、プロセスの開始時に循環ポンプ(示されていない。)で貯槽(示されていない。)から両電極セルに供給され、貯槽に循環される。図中に「サンプルS」と表示されたセルは、その中に(任意的に、部分的に酸性化された)AADAナトリウム塩溶液が流れ込むところのセルであり、このAADAナトリウム塩溶液は循環ポンプ(示されていない。)で貯槽(示されていない。)から電気透析装置の膜間腔を通って貯槽に循環される。
【0049】
水素イオン選択透過膜(トクヤマ社:Neosepta BP1E、図中に「H」と表示されている。)、カチオン透過膜(トクヤマ社:Neosepta CMB、図中に「C」と表示されている。)、および厚膜のカチオン透過膜(トクヤマ社:Neosepta C66−10F、「T」と表示されている。)が図1に示された配列で設置された。透析に有効な組の数は7であり、各膜の有効面積は200cmであった。
【0050】
電気透析が、図1の配置で以下の様式で実施された。すなわち、四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸の水性溶液(四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸:50%、pH13.5)を濃塩酸溶液(HClの37重量%)と混合しそして蒸発によって濃度を調整することによってつくられた四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸の溶液(四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸:40.2%、pH7.2)1.8kg、当初に水酸化ナトリウム溶液(5%)1.5kg、および電極溶液(水酸化ナトリウム5%)3kgの合計が個別の貯槽に入れられ、そして各溶液をポンプで循環しながら電気透析が実施された。15アンペアの一定電流が、15.7〜16.7ボルトの電圧で80分間供給された。グルタミン酸−N,N−二酢酸塩1モル当たり直流電気エネルギーの合計量75Whが消費される。得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸の溶液(グルタミン酸−N,N−二酢酸:44.7%、pH1.9)は1.6kgであった。
【0051】
比較例3:GLDA−Na4(pH≒13.5)の酸性化
【0052】
電気透析が以下の様式で実施された。すなわち、四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸の溶液(四ナトリウムグルタミン酸−N,N−二酢酸:37.0%、pH13.5)1.7kg、当初に水酸化ナトリウム溶液(5重量%)1.5kg、および電極溶液(水酸化ナトリウム5重量%)3kgの合計が個別の貯槽に入れられ、そして各溶液をポンプで循環しながら電気透析が実施された。15アンペアの一定電流が、16〜20ボルトの電圧で120分間供給された。グルタミン酸−N,N−二酢酸塩1モル当たり直流電気エネルギーの合計量111Whが消費される。得られたグルタミン酸−N,N−二酢酸の溶液(グルタミン酸−N,N−二酢酸:47.5%、pH2.0)は1.3kgであった。
【0053】
実施例2および比較例3の結論
【0054】
pH=2にあるGLDAを製造するためのエネルギー消費量は、HClで予備酸性化されたGLDA−Na溶液が使用されると(実施例2)、強塩基性(pH=13.7)のGLDA−Na生成物を用いて出発するのに比較して(比較例3)、32%少ない
【0055】
pH=2にあるGLDAを製造するために要求されるBPM装置は、HClで予備酸性化されたGLDA−Na溶液が使用されると(実施例2)、強塩基性(pH=13.7)のGLDA−Na生成物を用いて出発するのに比較して(比較例3)、36%小さい
【0056】
BPM装置において、HClで予備酸性化されたGLDA−Na溶液(pH=7.2)がpH=2まで酸性化されると(実施例2)、強塩基性のGLDA−Na溶液(pH=13.7)を用いて出発することを除いて同じことをするのに比較して(比較例3)、増加された濃度の物が処理されることができる
【0057】
実施例4〜6ならびに比較例7および8
【0058】
100%、BPM電気透析のみによるAADA塩の水性溶液の酸性化(比較例7)が、化学薬品およびBPM電気透析による酸性化の組み合わせ(75%、50%、および25%のBPMがそれぞれ実施例4、5、および6)、および化学的酸性化のみ(比較例8)と比較された。
【0059】
AADA塩として40重量%のGLDA−Na4水性溶液が使用され、化学的酸性化のための酸は水中37%のHClであった。BPMは、実施例2で使用された方法に従って実施され、その場合、使用されたHClの量が電気透析段階で要求される時間を決定する(HClが少なければ少ないほど、電気透析段階はそれだけ長くなる。)。
【0060】
結果が図2に示される。
【0061】
図2において、BPMで完全に酸性化した後には、極めて高濃度化された完全にプロトン化されたAADA組成物が、電気浸透効果の結果として得られる(電気浸透効果によって、水がナトリウムイオンとともに別のセルに輸送される。)ことがわかる。
【0062】
GLDAを完全に化学的に酸性化した後、最終生成物GLDA−H4は、出発物であるGLDA−Na4よりも明らかにはるかに低濃度である。この水はもちろん、たとえば蒸発段階によって除かれることができるが、これは本質的にさらなるエネルギー消費をもたらし、また最終生成物中のすでにかなりの塩濃度(これは、酸性化の後すでに約12重量%に達している。)をさらに増加するだろう。AADAは水の除去の間に容易に結晶化することがあり、高い塩濃度の存在においてはなおさらそうであり、これはAADA最終生成物の処理においてさらなる厄介な問題をもたらすだろう。
【0063】
しかし、少なくとも1の基が完全にプロトン化されるまで化学的酸性化を使用し、そしてその後にBPM電気浸透段階によってさらに酸性化すると、出発物質であるAADA塩の濃度に近いAADA酸の濃度が得られることが実証される。化学的酸性化から電気浸透的BPM酸性化に正しい時点で切り替えることによって、所望の濃度は容易に微調整されることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸、またはカルボキシル基の数基準で当量未満のアルカリ金属とのその塩を製造する方法において、当該方法が、最初に有機または無機酸を使用する化学的酸性化を実施して該基のうちの少なくとも1がプロトン化されたところの化合物を得る段階、そして後続の段階において、電気透析によって、アミノカルボキシレート出発物質をさらに酸性化しそして少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸の部分的に酸性化されたアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減すること、によって、少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸のアルカリ金属塩の水性溶液からアルカリ金属イオンを低減することおよびアミノカルボキシレート出発物質を酸性化することを含み、該電気透析が、陽極側に水素イオン選択透過膜および陰極側にカチオン透過膜を使用して実施される、上記方法。
【請求項2】
当該アミノ酸のアルカリ金属塩が、アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩である、請求項1に従う方法。
【請求項3】
当該アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩が、以下の式(1)

または式(2)

(これらの式で、Mはアルカリ金属を表し、mは0または1〜2の整数を表し、およびnは0または1〜3の整数を表す。)
によって表された塩である、請求項2に従う方法。
【請求項4】
当該アミノ酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩が、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン−N,N',N'−三酢酸、メチルグリシン−N,N−二酢酸、グルタミン酸−N,N−二酢酸のアルカリ金属塩である、請求項2または3に従う方法。
【請求項5】
化学的酸性化が、ギ酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、クエン酸もしくはプロピオン酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、およびこれらの水性溶液の群から選択された有機酸または無機酸を使用して実施される、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
化学的酸性化が、電気透析において製造された少なくとも1の2級または3級アミノ基および3以上のカルボキシル基を有するアミノ酸、またはカルボキシル基の数基準で当量未満のアルカリ金属とのその塩を酸として使用して実施される、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−511011(P2010−511011A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538696(P2009−538696)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062881
【国際公開番号】WO2008/065109
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】