説明

アミノ酸の析出が抑制された液状組成物

【課題】アミノ酸が高含量に配合されても、製造中或いは保存流通中におけるアミノ酸の析出が抑制された液状組成物を提供する。
【解決手段】 アミノ酸を配合した液状組成物に、水溶性ヘミセルロースを含有する。好ましくは、水溶性ヘミセルロースが、アルコール精製沈殿処理法により製造されたものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸が高含量に配合されても、製造中或いは保存流通中におけるアミノ酸の析出が抑制された液状組成物及び、アミノ酸の析出を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アミノ酸の栄養生理機能の解明が進み、医療分野で使用される高濃度のアミノ酸を含む輸液等の薬剤のみならず、アミノ酸を高濃度含有する清涼飲料なども数多く開発されている。このようなアミノ酸を高濃度で含有する製品は、保存又は流通過程で製品中にアミノ酸が析出してしまうという問題点が生じる。特に、チロシンなど水に難溶性のアミノ酸を飲料等の水溶液に配合すると再析出して好ましくない。その為に、これらのアミノ酸の配合量が制限されるという問題点があった。
【0003】
その解決策として、多糖類、ペプチドと言ったアミノ酸晶出抑制化合物と、過飽和アミノ酸とを含有する、アミノ酸を過飽和に含有する水溶液に添加する方法が報告されている(特許文献1)。特許文献1には、アミノ酸晶出抑制化合物が多糖類及びペプチドから選ばれる1種または2種以上の化合物を含有すると記載されており、多糖類、寒天、ペクチン、アラビアガム、β―サイクロデキストリン等があげられ、ペクチンなかでも、ハイメトキシルペクチンが好ましいとの記載がある。このような、寒天、ペクチンなどの多糖類の使用に関しては、添加量を増やせばある程度のアミノ酸析出防止効果は見られるものの、飲料に粘性が付与され、清涼感がなくなってしまうという問題点があった。また、これら多糖類について添加量が少なければアミノ酸析出防止効果は低い。このように、アミノ酸含有飲料について、アミノ酸の析出が問題となっており、解決策が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−266844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、風味を損なうことなく、アミノ酸を高含量に配合し、しかも長期間保存してもアミノ酸の析出が顕著に抑制された液状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、液状組成物中にアミノ酸と水溶性ヘミセルロースとを共存させることにより、アミノ酸を高濃度含有しても、液状組成物中のアミノ酸の析出を顕著に抑制できることを見いだした。中でも水溶性ヘミセルロースが、アルコール沈殿処理により精製されたものを使用すると、よりアミノ酸の析出抑制効果が高くなることを見いだした。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アミノ酸を高濃度含有する栄養飲料等の液状組成物中におけるアミノ酸の析出を顕著に抑制できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のアミノ酸の析出が抑制された液状組成物は、水溶性ヘミセルロース及びアミノ酸を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の液状組成物はアミノ酸を含有する液状組成物であれば限定はされず、医療用の輸液、経口液剤、飲料などがあげられる。特には、飲料が好ましく、例えば、栄養飲料、スポーツ飲料、清涼飲料があげられる。
【0010】
本発明で使用する水溶性ヘミセルロースは、油糧種子(大豆、パーム、椰子、コーン、綿実等)または穀類(米、小麦等)や豆類(小豆、エンドウ豆等)を原料とし、それらから通常の方法で油脂、タンパク質、澱粉質を除いた穀又は粕を用いて、それらを酸性乃至アルカリ性の条件下、好ましくは各々のタンパク質の等電点付近pHで、好ましくは80℃以上130℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下で加熱分解して水溶性画分を分画した後、そのまま乾燥するか又は例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理或いはアルコール精製沈澱処理法などを行い、疎水性物質もしくは低分子物質を除去し乾燥することによって水溶性ヘミセルロースを得ることができる。
【0011】
原料が大豆であれば、豆腐、豆乳及び分離大豆タンパクを製造するときに副生するオカラを利用することができる。こうして得られた水溶性ヘミセルロースは、平均分子量が数万〜数百万であり、その組成のおよそ8割以上が多糖類で、その他、粗灰分、租タンパクおよび水分を含有している。また、構成糖としてはガラクトースが最も多く、次いでウロン酸およびアラビノース、その他キシロース、フコース、ラムノースがあげられる。本発明の水溶性ヘミセルロースの原料としては上記のものがあげられるが、溶解性や工業性の面から、豆類由来、特に大豆、なかでも子葉由来のものが好ましい。
【0012】
水溶性ヘミセルロースは、その分子量がどの様な物でも使用可能であるが、高分子であることが好ましく、平均分子量が数千〜数百万、具体的には5千〜100万であるのが好ましい。中でも、アルコール精製沈澱処理法により製造した水溶性ヘミセルロースを使用すると、よりアミノ酸の析出抑制効果が高くなる。アルコール精製沈殿処理法は、ペクチン、カラギナンなどの多糖類の製造に一般的に用いられている方法であり、多糖類溶液にアルコールを添加すると、アルコールが多糖類の水和水を奪い、多糖類が析出する。この現象を利用し多糖類を回収する方法であり、精製後乾燥し、粉末化する製造方法で、精製工程と脱水工程を兼ね備えたものである。使用するアルコールは特に限定はないが、好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール等を使用することができる。
【0013】
この水溶性ヘミセルロースは商業的に入手することができ、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のSM−700、SM−920、SM−1200等を挙げることができ、特に、アルコール沈殿処理により精製した水溶性ヘミセルロースとして、SM−1200を挙げることができる。この水溶性ヘミセルロースの添加量としては、液状組成物に対して、0.05〜1重量%、好ましくは、0.1〜0.4重量%である。これよりも少ないと充分な効果を得ることができず、これより多く添加しても、更なる効果が望めないためである。また、アミノ酸に対する水溶性ヘミセルロースの配合量としては、使用するアミノ酸の種類や液状組成物の液性などにより大きく変動するが、後述する水に難溶性のアミノ酸1重量部に対して、水溶性ヘミセルロースを0.001〜10重量部、好ましくは、0.01〜3.0重量部含むように液状組成物に添加するのが好ましい。
【0014】
本発明で液状組成物中に含ませるアミノ酸は、食用可能なものであれば特に制限はない。また、本発明はアミノ酸を高濃度含有させても、アミノ酸の析出を顕著に抑制することができるため、アミノ酸を飽和溶解量より多い量まで添加しても、その後の保存、流通等の過程におけるアミノ酸の析出を抑制することができる。
【0015】
なお、アミノ酸及びその飽和溶解量を以下に列挙する。飽和溶解量とは、アミノ酸の種類及び保存、流通又は使用温度で異なるため、25℃静置状態での、純水100gに対するL−アミノ酸量を、アミノ酸の記載に続けてカッコ内で示す(参考資料、アミノ酸資料集I(昭和60年度改訂版)、4頁、日本必須アミノ酸協会)。アラニン(16.5g)、アルギニン(15g)、アスパラギン(3g)、アスパラギン酸(0.50g)、システイン(0.001g)、グルタミン酸(0.84g)、グルタミン(4g)、グリシン(25.0g)、ヒスチジン(4.3g)、ヒドロキシプロリン(36.1g)、イソロイシン(4.1g)、ロイシン(2.2g)、リジン塩酸(40g)、メチオニン(3.3g)、フェニルアラニン(3.0g)、プロリン(162.3g)、セリン(5.0g)、スレオニン(40g)、トリプトファン(1.1g)、チロシン(0.045g)、バリン(8.8g)である。
【0016】
なお、本発明では、特に水に難溶性のアミノ酸を含む液状組成物に効果を奏する。水に難溶性のアミノ酸としては、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファン、バリン、アスパラギン酸、チロシン、グルタミン酸、システインなどがあげられ、中でも、アスパラギン酸、チロシン、グルタミン酸が好ましく、特には、チロシンに効果が高い。アミノ酸としては、D体、L体又はこれらの混合物でもよい。
【0017】
本発明に添加されるアミノ酸の濃度としては、液状組成物の用途や使用するアミノ酸により異なるが、例えば栄養飲料、スポーツ飲料、清涼飲料等の飲料においては、例えば難溶解性チロシンの場合では、栄養学上200mg/l以上が好ましく、500mg/l以上がより好ましく、1000mg/l以上が特に好ましい。
【0018】
本発明の液状組成物の調製方法は特に限定されるものではないが、好ましくは飽和溶解量より多い量のアミノ酸を溶解するのに十分な温度条件で完全に溶解させた後、他の必要な成分を添加し調製する方法があげられる。温度条件としては、保存、流通又は使用温度よりも高温、好ましくは40℃以上、より好ましくは70℃以上である。
【0019】
上述の方法で、製造した過飽和アミノの液状組成物を、調製時の温度条件、好ましくはそれよりも高い温度条件で、水溶性ヘミセルロースを添加し攪拌溶解する。該温度条件のまま、または適当な温度まで冷却した後、必要に応じて他の添加物を添加し、アミノ酸を過飽和に含有する水溶液を製造することができる。
【0020】
また、本発明の液状組成物には、アミノ酸及び水溶性ヘミセルロース以外にも、その効果を妨げない範囲において、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、塩酸、塩化ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、フィチン酸等の有機酸及び/又はその塩類、寒天、ゼラチン、カラギナン、ファーセレラン、タマリンドシードガム、タラガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、トラガントガム、グァーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、プルラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、アラビアガム、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、キトサン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カードラン、ガティガム、ラムザンガム、マクロホモプシスガム、サイリウムシードガム等の増粘・ゲル化剤、CMC、MC、HPMC、HPC、微結晶セルロース、発酵セルロース、微小繊維状セルロース等のセルロース類、生澱粉、化工澱粉、加工澱粉などの澱粉類、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、デンプン糖化物、還元デンプン水飴、デキストリン、サイクロデキストリン、トレハロース、黒糖、はちみつ等の糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリン等の高甘味度甘味料、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸塩、ユッカ抽出物、サポニン、レシチン、ポリソルベート等の乳化剤、ミネラル、ビタミン等を添加することができる。また、炭酸ガス、亜酸化窒素ガスを含有させて、発泡性飲料としても良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載のない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示すものとし、文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標を示す。
【0022】
実験例1
水に、下記表1記載の安定剤を配合して、80℃10分間攪拌溶解にて1.5%各安定剤溶液を調製する。別に80℃10分間攪拌溶解にて調製した0.125%チロシン溶液、1.25%アスパラギン酸溶液、2.5%グルタミン酸溶液の各80部と、先ほど調製した安定剤溶液10部を混合後、水にて100部に全量調整する。93℃達温殺菌後、スクリュー瓶に充填し、アミノ酸含有溶液を調製した。各アミノ酸含有溶液を、5℃および室温にて保存した後の、アミノ酸の析出の状態を表1に示す。
【0023】
なお、表1の記号については、以下の通りである。
析出量:多い ++++>+++>++>+>±>− 少ない
↑ :その判断基準よりやや多い。
【0024】
【表1】

【0025】
1)水溶性ヘミセルロース:SM−1200、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製;アルコール精製沈殿処理法にて製造。
2)水溶性ヘミセルロース:SM−920、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製;アルコール精製沈殿処理法によらず製造。
3)水溶性ヘミセルロース:SM−700、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製;アルコール精製沈殿処理法によらず製造。
4)ペクチン:SM−666、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製:ガラクツロン酸残基のカルボキシル基がメチル化されているものであり、カルボキシル基の50%以上がメチル化されているハイメトキシペクチンを使用した。
【0026】
表1より、比較例2のペクチンを添加することにより、比較例1の安定剤無添加と比較しアミノ酸析出防止効果は見られるものの、実施例1〜3の水溶性ヘミセルロースを使用した液状組成物では、顕著にアミノ酸の析出抑制効果が見られた。中でも、アルコール精製沈殿処理法にて精製した水溶性ヘミセルロース(商品名:SM−1200)を使用した実施例1が、特にアミノ酸析出防止効果が高かった。
【0027】
実験例2
水に、下記表2記載の安定剤を配合して、80℃10分間攪拌溶解にて1.5%各安定剤溶液を調製する。別に80℃10分間攪拌溶解にて調製した0.125%チロシン溶液、1.25%アスパラギン酸溶液、2.5%グルタミン酸溶液の各80部と、先ほど調製した安定剤溶液10部を混合後、チロシン含有飲料は50%(w/v)クエン酸溶液にて、アスパラギン酸およびグルタミン酸含有飲料は10%(w/v)クエン酸ナトリウム溶液にてpH3.9に調整する。93℃達温殺菌後、スクリュー瓶に充填して、アミノ酸含有酸性液状組成物を調製した。
【0028】
得られたアミノ酸含有酸性液状組成物を、5℃および室温にて保存した後の、アミノ酸の析出の状態を表2に示す。なお、表2中の記号は表1と同様の評価であり、水溶性ヘミセルロース及びペクチンは表1と同じものを使用した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、酸性液状組成物においても、比較例4のペクチンを添加することにより、比較例3の安定剤無添加と比較しアミノ酸析出防止効果は見られるものの、実施例1〜3の水溶性ヘミセルロースを使用した液状組成物では、顕著にアミノ酸の析出抑制効果が見られた。中でも、アルコール精製沈殿処理法にて精製した水溶性ヘミセルロース(商品名:SM−1200)を使用した実施例4が、特にアミノ酸析出防止効果が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、アミノ酸が高含量に配合されても、製造中或いは保存流通中におけるアミノ酸の析出が抑制された液状組成物を提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ヘミセルロース及びアミノ酸を含有することを特徴とする、アミノ酸の析出が抑制された液状組成物。
【請求項2】
水溶性ヘミセルロースが、アルコール精製沈殿処理法により製造されたものである請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
水溶性ヘミセルロースを含むことを特徴とする、液状組成物中のアミノ酸の析出を抑制する方法。







【公開番号】特開2007−53935(P2007−53935A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241233(P2005−241233)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】