説明

アミンアランの精製方法

【課題】不純物としてハロゲンを含むアミンアランから、半導体産業においてCVD等への適用が可能となる程度まで、ハロゲンを除去するための方法を提供すること。
【解決手段】不純物としてハロゲンを含有するアランのアミン付加化合物(アミンアラン:一般式AlH3(NR1R2R3)n[n=1または2]で表され、R1、R2、R3がアルキル基である)と金属水素化物(特にアルカリ金属の水素化物が好ましい)とを接触させることで、アミンアランを精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミンアランの精製方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、不純物としてハロゲンを含むアミンアランの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アランのアミン付加化合物(アミンアラン)は、半導体産業においてアルミニウム製膜用材料として使われている。
【0003】
アミンアランの合成方法としては、以下の反応式1〜5に基づくものが知られている[以下の反応式中、Mはアルカリ金属;Xはハロゲンを表す]。
1)MAlH+RN・HX → AlH(NR)+H↑+MX↓ (反応式1)
(非特許文献1および特許文献1) 。
2)MAlH+HX+NR → AlH(NR)+H↑+MX↓ (反応式2)
(特許文献2)
3)3MAlH+AlX+4NR → 4AlH(NR)+3MX (反応式3)
(特許文献3および4)
4)3MH+AlX+→ AlH+3MX↓
AlH+NR → AlH(NR) (反応式4)
(特許文献5)
【0004】
これらの反応では原料として、NR・HX、HX、AlX等ハロゲンを含むものが使われているため、得られたアミンアラン中にハロゲンが不純物として残る可能性がある。しかしながら、ハロゲン不純物についてこれまであまり注意は払われてこなかった。ハロゲン不純物について触れている少ない例の一つとして、非特許文献2がある。非特許文献2では、反応式1において、ハロアランAlH3−k(NR) (k=1または2)が副生する恐れがあるので、これを避けるためMAlHを過剰に加える必要があることが開示されている。しかしながら、通常のアミンアラン製造においては、非特許文献2以降もMAlHを過剰に加えることは行われていない。また、この方法によりどこまでハロゲン不純物レベルを下げることができるかについての記載もない。
【0005】
この他、特許文献5にも残留ハロゲンについて触れているが、AgNOを加えて僅かにしか白濁しなかったので、“practically chloride-free”と述べているだけである。
【0006】
通常の製造方法では、上記の反応で得られたアミンアランに対して蒸留を行い精製する。しかし、蒸留によりどの程度ハロゲンが除かれるかについての報告もこれまでにはない。
【0007】
【非特許文献1】J.K. Ruff and M.F. Hawthorne、Journal of the American Chemical Society, 1920, 2141-2144
【非特許文献2】J.K. Ruff, Inorganic Syntheses, Vol. 9, pp. 30-37, Wiley出版
【特許文献1】特開2007−287821
【特許文献2】特公平2−24277
【特許文献3】特公昭60−28915
【特許文献4】特表2008−527037
【特許文献5】米国特許第4006095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アミンアラン製造は通常上記反応式1〜4に基づいて行われる。これらの反応では原料として、NR・HX、HX、AlX等ハロゲンを含むものが使われているため、これらの反応により得られるアミンアランにはハロゲンが少量不純物として含まれる恐れがある。非特許文献2においては、ハロアランAlH3−k(NR) [k=1または2]が副生する可能性があるため、例えば前記反応式1において、Xに対して過剰量のMAlHを使用する必要があると述べられている。しかし、この場合、Alを過剰に導入することになり、Alを余分に含む産物が生成する可能性があるという問題がある。
【0009】
アミンアランの精製には通常蒸留が使われる。しかし、ハロゲンは上に述べたようにハロアランAlH3−k(NR)の形体で含まれていると考えられるが、ハロアランも揮発性があるため、蒸留により両者を完全に分離するには、温度と圧力を厳密に制御する必要があり、そのように制御してもなお難しいと考えられる。
【0010】
非特許文献2以降、不純物として含まれる可能性のあるハロゲンについては特に注意が払われてこなかった。そのため、以上の他特にハロゲン不純物を低減させる方法についての報告はない。
【0011】
アミンアランにハロゲンが残留していると、CVD等による製膜での利用に際して以下のような問題が起こる可能性がある。
1)塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素が発生し、配管内部等の腐食の原因となる、
2)アミンとハロゲン化水素が反応し、固体のアミン・ハロゲン化水素塩となり配管が詰まる原因となる。
3)得られた膜にもハロゲンが残留する可能性がある。
以上のとおり、ハロゲン不純物の少ないアミンアランを製造することが望まれているところ、本発明の目的は、不純物としてハロゲンを含むアミンアランからハロゲンを除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、不純物としてハロゲンを含むアミンアランと金属水素化物を接触させることを特徴としたアミンアラン精製方法を提供する。
【0013】
前記金属水素化物が、アルカリ金属の水素化物である、前記したアミンアラン精製方法は本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記金属水素化物が、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、中でも水素化リチウムである前記したアミンアラン精製方法は本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記アミンアランが、一般式AlH(NR [n=1または2]で表され、R、R、Rがアルキル基である、前記したアミンアラン精製方法は本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によりハロゲン不純物含有の少ないアミンアランを得ることができる。
本方法で精製したアミンアランは、配管内部等の腐食・詰まりといった問題を起こしにくくCVD等での利用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、不純物としてハロゲンを含むアミンアランからハロゲンを除去するための方法を提供する。
本発明における不純物としてハロゲンを含むアミンアランとは、ハロゲンを含む原料から合成されたアミンアランのことを指す。好ましくは、上記反応式1〜4に基づき調製されたアミンアランである。ここで、アミンアランは単離されていなくても良く、反応後の反応溶液そのもの、もしくは濾過により固形物を除いた後の反応溶液であっても良い。
【0018】
本発明におけるアミンアランは一般式
AlH(NR (1)
で表すことができる。
【0019】
式(1)中、nは1または2であり、R、RおよびRは、水素または置換基であり、それぞれ異なっていても良く、またその内2つまたは全てが連結していても良い。好ましくは、R、R、およびRは独立にアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であるか、もしくは、R、R、Rの内二つが連結し、NRが脂環式環状アミン、N−置換脂環式環状アミン、他のヘテロ原子を含む脂環式環状アミン、他のヘテロ原子を含むN−置換脂環式環状アミン、炭素−炭素二重結合を含む脂環式環状アミン、または炭素−炭素二重結合を含むN−置換脂環式環状アミンを形成するものである。より好ましくは、R、R、およびRがアルキル基であるか、またはNRがN−置換脂環式環状アミンである。さらに好ましくは、R、R、およびRはアルキル基である。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などの炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。脂環式環状アミンおよびN−置換脂環式環状アミンの例としては、ピロリジン、N−メチルピロリジン、ピペリジン、N−メチルピペリジンが挙げられる。他のヘテロ原子を含む脂環式環状アミンおよびそのN−置換脂環式環状アミンの例としては、ピペラジン、N−メチルピペラジン、モルフォリン、N−メチルモルフォリンが挙げられる。炭素−炭素二重結合を含む脂環式環状アミンおよびそのN−置換脂環式環状アミンの例としては、3−ピロリンおよび1−メチル−3−ピロリンが挙げられる。
【0020】
不純物としてハロゲンを含むアミンアランと金属水素化物を適当な溶媒中で接触させる。この時の溶媒は、アミンアランと金属水素化物を溶解し、かつこれらと反応を起こさない溶媒であれば良い。金属水素化物に対しては少量でも溶解する溶媒であれば良く溶解度は低くても構わない。好ましくは、エーテル系溶媒である。より好ましくは、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、THFである。
【0021】
本発明では、不純物としてハロゲンを含むアミンアランと金属水素化物を溶液中で適当な時間接触させた後、該溶液からアミンアランを回収する。
【0022】
接触させる時間は、ハロゲンと金属水素化物が反応するのに十分な時間の範囲で適宜選ぶことができる。この時、溶液は静置しても良いし、攪拌しても良い。
【0023】
アミンアランの回収は、周知の方法を用い行うことができる。一例としては、アミンアラン粗製物と金属水素化物を含む溶液を濾過し固体成分を除いた後、溶媒を留去することで、残留物としてアミンアランを回収することができる。該アミンアランが液体の場合は、この残留物を濾過することで、溶媒に溶けていた余分の金属水素化物等の固体不純物を除くことができる。但し、上記操作のみでは、金属水素化物由来の金属の除去が不十分である可能性があるので、これを除くため上記操作の後さらに蒸留精製を行っても良い。該アミンアランが固体の場合は、残留物をヘキサン、ヘプタン、トルエン等の金属水素化物を溶解しないがアミンアランを溶解する溶媒に加え、再び濾過、溶媒留去操作を行うことで、余分の金属水素化物等の固体不純物を除くことができる。但し、この場合も以上の操作だけでは金属水素化物由来の金属の除去が不十分である可能性があるので、これを除くため上記操作の後さらに昇華精製を行っても良い。
【0024】
好ましい金属水素化物としては、アルカリ金属水素化物が挙げられる。より好ましくは、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムである。特には水素化リチウムが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を用いて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれの例によって何ら制限されるものではない。
【0026】
本発明における測定方法を以下に示した。
(1) アミンアランに含まれる塩素量定量
グローブボックス内でアミンアラン0.1mLをスクリュー管にとり、天秤にて0.1mgの桁まで秤量した。上記アミンアランにヘプタン1mLを加えた後、グローブボックス外で一晩静置した。一晩静置後、アミンアランのヘプタン溶液に、メタノールを2〜3滴滴下し、アミンアランを完全に分解させた。そこにイオン交換水10.0mLを加え、5分超音波処理した後、1時間静置した。以上の操作により、溶液はヘプタン層と白沈を含む水層に分かれる。水層を、イオンクロマト用溶離液にて500倍に希釈し、希釈液を濾過した後、イオンクロマトにて塩素イオン濃度の定量を行った。500倍希釈では塩素のピークが弱く検出できなかった時は、新たに50倍希釈液を調製しイオンクロマトによる塩素濃度定量を行った。イオン濃度定量は、関東化学製イオン混合標準液(陰イオンI)を測定し得られるピーク面積を基準に絶対検量線法に従って行った。
【0027】
イオンクロマト装置および測定条件は以下の通りである。
イオンクロマト装置:
ポンプ、Shimadzu LC−6A;
カラムヒーター、Shimadzu CTO−6A;
電気伝導度検出器、Shodex CD−4;
システムコントローラー、Shimadzu SCL−6B;
レコーダー、Shimadzu C−R5A;
カラム Shodex I−524A。
【0028】
イオンクロマト測定条件:
流量、1mL/min;
カラム温度、40℃;
溶離液、2.5mMフタル酸水溶液。
【0029】
(調製例)不純物としてハロゲンを含むアミンアラン(アミンアラン粗製物)の調製
アミンアランの例としてトリエチルアミンアランAlH(NEt)を調製した。
【0030】
窒素気流下、LiAlH4:7.6g(200mmol)をヘキサン250mLに懸濁させた。この懸濁液を15℃に冷却し、温度が上がらないよう注意しながら、トリエチルアミン塩酸塩27.5g(200mmol)を少しずつ加えた。全てのトリエチルアミン塩酸塩を添加後、さらに1時間攪拌した。その後、反応液の入ったフラスコをグローブボックス内に移し、グローブボックス内で反応液を濾過した。濾液から溶媒を留去させることにより、無色透明液体としてトリエチルアミンアラン粗製物を得た(収量21.4g)。
【0031】
得られたトリエチルアミンアラン粗製物について、イオンクロマトによる塩素イオン定量を行った。その塩素濃度は3.7wt%であった。
【0032】
(実施例1および2) 金属水素化物処理によるハロゲン除去
金属水素化物として水素化リチウム(LiH)を用いた。LiHのMTBE懸濁液に、アミンアラン粗製物(実施例1および2)をグローブボックス内で滴下した。この際、用いたアミンアラン粗製物、溶媒、および添加物の量は表1の通りである。この混合液を4〜7日グローブボックス内で静置した後、濾過により沈澱を除き、得た濾液を真空に引き溶媒を留去させた。残留物を再び濾過し、無色透明液体を回収した。この無色透明液体についてイオンクロマトにより塩素濃度を定量した。
塩素定量結果を表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、不純物としてハロゲンを含むアミンアランからハロゲンを除去するための方法が提供される。
本発明により提供される方法によって、ハロゲン不純物含有の少ないアミンアランを得ることができる
本発明の方法で精製したアミンアランは、配管内部等の腐食・詰まりといった問題を起こしにくく、得られる膜にもハロゲンが残留する可能性が非常に低くなるため、CVD等での利用に適している。
また、本発明の方法により精製したアミンアランは、半導体産業においてCVD、ALD、塗布法等を用いたアルミニウム製膜に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてハロゲンを含有するアランのアミン付加化合物(アミンアラン)と金属水素化物とを接触させることを特徴とするアミンアランの精製方法。
【請求項2】
前記金属水素化物が、アルカリ金属の水素化物である請求項1に記載のアミンアランの精製方法
【請求項3】
前記金属水素化物が、水素化リチウムである請求項1に記載のアミンアランの精製方法。
【請求項4】
前記アミンアランが、一般式AlH(NR [n=1または2]で表され、R、R、Rがアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載のアミンアランの精製方法。

【公開番号】特開2010−155795(P2010−155795A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333947(P2008−333947)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】