説明

アミン化合物の製造方法

【課題】還元的アミノ化反応において、一般性が高く、高ジアステレオ選択的なアミン化合物の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される特定の有機金属化合物を含む還元的アミノ化反応に用いる触媒を用いた、ジアステレオ選択的なアミン化合物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素有機金属錯体を触媒として用いた、カルボニル化合物のジアステレオ選択的な還元的アミノ化反応によるアミン化合物の実用性に優れた製造方法、およびイミン化合物またはエナミン化合物のジアステレオ選択的な還元または水素化による、アミン化合物の実用性に優れた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアまたは1級もしくは2級アミン化合物とカルボニル化合物との反応によるアミン化合物の製法は、還元的アミノ化反応として知られ、アミン化合物を製造するための標準的方法の一つである。還元的アミノ化反応は、不斉触媒を用いたエナンチオ選択的な反応を除き、一般的には、ラネーNi、ラネーCo、Pd/活性炭、Pt/活性炭などの不均一系触媒を用いた水素化反応による方法や、NaBHCN(J. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 2897.)やNaBH(OAc)(J. Org. Chem. 1996, 61, 3849.)などのホウ素系反応剤を用いた方法で実施される。これらの不均一系触媒やホウ素系反応剤の存在下、反応基質としてキラル炭素またはアキラル炭素を有するカルボニル化合物またはアミン化合物を用いると、反応中間体のイミン化合物またはエナミン化合物がジアステレオ選択的に還元されることが知られている。
【0003】
例えば、4―tert―ブチルシクロヘキサノンとアンモニアとの還元的アミノ化反応による4―tert―ブチルシクロヘキシルアミンの合成では、非特許文献1や特許文献1に示されているように、不均一系触媒のロジウム触媒やパラジウム触媒を用いた水素化反応により、シス体:トランス体=90:10のジアステレオ選択性で対応するアミンが得られる。4―tert―ブチルシクロヘキサノンと1級アミンを反応させ、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3および非特許文献4に記載されているように、得られたイミンを不均一系触媒を用いての水素化反応やホウ素系反応剤による還元反応を行なうと、最高でシス体:トランス体=99:1の選択性で対応するアミンが得られる。
【0004】
さらに、ジアステレオ選択的な反応を利用して光学活性アミンを得る方法として、非特許文献5に記載されているように、不均一系触媒(ラネーNi、Pd/活性炭、Pt/活性炭、Ru/活性炭、またはRh/活性炭)とTi(O−i−Pr)等のルイス酸の存在下、カルボニル化合物と光学活性α−メチルベンジルアミンとの還元的アミノ化反応により、対応するアミンをジアステレオ選択的に得たのち、脱ベンジル化反応により、光学活性な一級アミンを得る方法が知られている。
【0005】
しかしながら、非特許文献1、非特許文献5、特許文献1、および特許文献2に記載された不均一系触媒を用いた方法は、基質中に炭素−炭素多重結合部位、シアノ基、ニトロ基などの官能基を有する場合、同時に水素化されてしまうことから、これらの官能基をもつ基質には適用できないという問題点がある。さらに、非特許文献1や特許文献1の方法では、非特許文献3および4と比較してジアステレオ選択性が低いという問題点もある。
【0006】
非特許文献2〜4に記載されたホウ素系反応剤を用いた方法は、耐圧反応装置を必要としないことから操作性や安全性に優れ、不均一系触媒の問題点であった官能基選択性の点では問題がないものの、触媒反応でないことから経済面や環境面において優れた方法ではない。さらに、非特許文献3および4では、高いジアステレオ選択性を示しているものの、前もってイミンを調製し、イミンの還元反応を行なった後に得られたアミンの脱保護を必要とし、高いジアステレオ選択性を得るためには高価なホウ素系反応剤を用いる必要があることから、実用的な製造方法とはならない。
【0007】
特許文献3には、有機金属錯体を触媒として用いてカルボニル化合物を不斉還元することで光学活性アルコールの製造する方法が記載されているが、かかる触媒によって還元的アミノ化を触媒できるかどうかについては報告されていない。また、特許文献4には還元的アミノ化反応に有機金属錯体を触媒として用いて、エナンチオ選択的にアミン化合物を得る方法が記載されているが、十分なエナンチオ選択率を達成するものとは言えなかった。
【0008】
以上のことから、従来より還元的アミノ化反応により高いジアステレオ選択性でアミン化合物を製造するための、汎用性が高く、高活性で官能基選択性に優れた実用性の高い製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP 0669314 A1
【特許文献2】WO99/047487
【特許文献3】WO02/010101
【特許文献4】WO2006/004093
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本化学会誌, 1989, p.641-647
【非特許文献2】Tetrahedron Letters (1996), 37(23), 3977-3980
【非特許文献3】Tetrahedron Letters (1984), 25(7), 695-8
【非特許文献4】Tetrahedron Letters (1981), 22(36), 3447-50
【非特許文献5】Adv. Synth. Catal. 2006, 348, 1289-1299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、還元的アミノ化反応において、汎用性が高く、高ジアステレオ選択的なアミン化合物の実用的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、カルボニル化合物とアミン化合物との還元的アミノ化反応によるアミン化合物の製造方法に関して鋭意研究を行う中で、含窒素配位子を有するルテニウム、ロジウム、およびイリジウム錯体が還元的アミノ化反応において、高ジアステレオ選択的にアミン化合物を製造できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
(a)下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Arは、1または2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、シクロペンタジエニル基または芳香族化合物であり、WはC1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、アシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルホ基、メルカプト基、ホスフィノ基、シリル基またはハロゲン基を表し、Mはルテニウム、ロジウム、またはイリジウムであり、Xはヒドリド基またはアニオン性基であり、Eは、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよいC1〜6の飽和もしくは不飽和炭化水素基、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アシル基、ハロゲン基、エステル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルホ基もしくはチオール基によって、1または2以上の水素原子が置換されていてもよい(ここで、前記各置換基中の1もしくは2以上の水素原子がさらに置換基Wで置換されてもよい)アリーレン基であるリンク基を表し、Aは「M−NRC(O)−E」の結合様式をもつアミド基、または酸素原子であり、ここでAが酸素原子の場合、Eは、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよいアリーレン基であり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基(ここで、置換基W中の1または2以上の水素原子がさらに置換基Wで置換されていてもよい)を示し、YおよびZは同一であるか、または互いに異なり、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、またはシリル基を示し、ここでYとZ、ZとE、YとE、またはY−Z−Eとが結合して環を形成してもよく、またnは0または1の整数を示し、n=0の場合は、N−Z間またはN−E間が二重結合となる)で表される有機金属化合物の存在下、水素ガスまたは水素供与性の有機もしくは無機化合物を用いて、イミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、アミン化合物の製造方法。
【0014】
(b)式(1)中の部位である下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、n=0でN、EおよびZは上記と同じ意味を表す。)で表される部位が、含窒素環状基を含む基であることを特徴とする、(a)に記載のアミン化合物の製造方法。
【0015】
(c)式(1)で表される有機金属化合物が、下記一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Ar、MおよびXは(a)と同じ意味を表し、RおよびRは互いに同一である、または互いに異なり、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メルカプト基、カルボキシル基、1もしくは2以上の水素原子が、置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基、フルオロアルキル基、アシル基、スルホニル基、アミノ基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基またはシリル基を示し、Wは(a)と同じ意味を表し、j、kは互いに独立して0から3までの整数であり、ここで、RまたはRが結合していないキノリン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、jとkが1以上の場合、RとRが互いに連結して環を形成してもよく、jおよび/またはkが2以上の場合は、2以上のRおよび/またはRが互いに連結して環を形成してもよい)で表される有機金属化合物、または下記一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、Ar、MおよびXは(a)と同じ意味を表し、Rは上記RおよびRと同じであり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基を示し、Wは(a)と同じ意味を表し、lは0から4までの整数を表し、ここで、Rが結合していないピリジン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、lが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよい)および下記一般式(5)
【化5】

(一般式(5)中、Ar、M、XおよびYは(a)と同じ意味を表し、Rは上記RおよびRと同じであり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基を示し、Wは(a)と同じ意味を表し、mは0から7までの整数を表し、ここで、ピロリジン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、mが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよいで表される有機金属化合物からなる群から選択される1または2以上の有機金属化合物であることを特徴とする、(a)または(b)に記載のアミン化合物の製造方法。
【0016】
(d)下記一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、Ar、M、およびXは(a)と同じ意味を表し、pは2以上の整数を表す。)で表される有機金属化合物と、下記一般式(7)
【化7】

(一般式(7)中、A、E、Y、Zおよびnは(a)と同じ意味を表す。)で表される有機化合物の存在下、水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を用いて、イミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、アミン化合物の製造方法。
【0017】
(e)カルボニル化合物とアミン化合物を混合し、系中で生成したイミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、(a)〜(d)のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。
(f)式(1)および式(6)中のMがロジウム、およびイリジウムであることを特徴とする、(a)〜(e)のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。
(g)水素供与性の有機または無機化合物がギ酸、またはギ酸塩である、(a)〜(f)のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。
(h)反応により得られるアミン化合物が、環状アミン化合物または環状ジアミン化合物である、(a)〜(g)のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、カルボニル化合物とアミン化合物との還元的アミノ化反応による高ジアステレオ選択的なアミン化合物の製造法において、実用的な製造方法を提供でき、それによってアミン化合物を高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の代表的な有機金属化合物を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いられる含窒素有機金属錯体は、一般式(1)
【化8】

で表される。
【0021】
Arは、典型的には、1または2以上の水素原子が置換されていてもよいシクロペンタジエニル基または芳香族化合物であり、Arの具体例としては、これに限定するものではないが、例えば無置換のベンゼン、トルエン、o−、m−およびp−キシレン、o−、m−およびp−シメン、1,2,3−、1,2,4−および1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,3,4,5−テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ならびにヘキサメチルベンゼン等のアルキル基を有するベンゼン、ベンジル、ビニル、アリルなどの、不飽和炭化水素基を有するベンゼン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、ハロゲン基等の異原子を有するベンゼンなどが挙げられる。ベンゼン環の置換基の数は1〜6の任意の数であり、置換位置は任意の位置を選ぶことができる。錯体合成の容易さという点で、好ましくはp−シメン、1,3,5−トリメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼンである。
【0022】
さらに、置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基の例としては、これに限定するものではないが、例えばシクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、エチルシクロペンタジエニル基、イソプロピルシクロペンタジエニル基、フェニルシクロペンタジエニル基、ベンジルシクロペンタジエニル基、1,2−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル基、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基(Cp)などが挙げられる。錯体合成の容易さという点で、好ましくは1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル基(Cp)である。
【0023】
置換基Wは、典型的には、C1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、アシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルホ基、メルカプト基、ホスフィノ基、シリル基またはハロゲン基であり、特に、C1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルコキシ基、アシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホニル基、シリル基またはハロゲン基である。
【0024】
Wの具体例としては、これに限定するものではないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシレン基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基、ピリジル基、フラニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、アセチル基、プロパノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヒドロキシル基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、フルオロ基、クロロ基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。錯体合成の容易さという点で、好ましくは飽和または不飽和炭化水素基、さらに好ましくはメチル基、i−プロピル基である。
一般式(1)のMは、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムのいずれかである。触媒活性の高さという点で、好ましくはロジウム、およびイリジウムである。
【0025】
一般式(1)のXは、典型的には、ヒドリド基またはアニオン性基である。Xの具体例としては、これに限定するものではないが、例えば、ヒドリド基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、架橋したオキソ基、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基、テトラフルオロボラート基、テトラヒドロボラート基、テトラキスペンタフルオロフェニルボラート基、テトラキス[3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート基、ヘキサフルオロホスフェート基、ヘキサフルオロアンチモネート基、ヘキサクロロアンチモネート基、ヘキサフルオロアーセネート基、パークロレート基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、(2’,6’−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(2’,5’−ジヒドロキシベンゾイル)オキシ基、(3’−アミノベンゾイル)オキシ基、(2’,6’−ジメトキシベンゾイル)オキシ基、(2’,4’,6’−トリイソプロピルベンゾイル)オキシ基、1−ナフタレンカルボン酸基、2−ナフタレンカルボン酸基、トリフルオロアセトキシ基、トリフルオロメタンスルホンイミド基、ニトロメチル基、ニトロエチル基、トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、エタンスルホナート基、n−プロパンスルホナート基、イソプロパンスルホナート基、n−ブタンスルホナート基、フルオロスルホナート基、フルオロメタンスルホナート基、ジフルオロメタンスルホナート基、トリフルオロメタンスルホナート基、ペンタフルオロエタンスルホナート基などが挙げられる。錯体合成の容易さという点で、好ましくは塩素基、臭素基、ヨウ素基、トリフルオロメタンスルホナート基である。
【0026】
また、Mにはアニオン性基であるX以外に、配位性の中性分子が配位していてもよい。Mに配位する中性分子の具体例としては、水やメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテルなどのエーテル類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。
【0027】
リンク基Eは、典型的には、1または2以上の水素原子が置換されていてもよい、C1〜6の飽和もしくは不飽和炭化水素基、またはアリーレン基である。Eの具体例としては、これに限定するものではないが、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、シクロヘキシレン基、ビニレン基、プロピニレン基、ブテニレン基、フェニレン基、ナフタレニレン基などが挙げられる。触媒活性の高さや錯体合成の容易さを考えると、好ましくはメチレン基、エチレン基、フェニレン基、ナフタレニレン基であり、さらに好ましくはメチレン基、フェニレン基である。
【0028】
Eがアリーレン基である場合、その1または2以上の水素原子の置換基としては、典型的には、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アシル基、ハロゲン基、エステル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ホスフィノ基、スルホニル基、スルフェニル基、スルホ基、チオール基もしくはシリル基であり、特にC1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、またはアシル基である。これらの置換基の1または2以上の水素原子は、さらに置換基Wで置換されていてもよい。
【0029】
一般式(1)中のAは、「M−NRC(O)−E」の結合様式をもつアミド基、または酸素原子である。Rは、典型的には、水素原子、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基である。これらの基中の置換基Wの1または2以上の水素原子は、さらに置換基Wで置換されていてもよい。
【0030】
の具体例としては、これに限定するものではないが、例えば水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基、ビニル基、エチニル基、エステル結合を有する基、アセチル基、ベンゾイル基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基などが挙げられる。触媒活性や反応収率の高さという点で、好ましくは水素原子、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−(ジメチルアミノ)フェニル基である。Aが酸素原子である場合、Eは、1または2以上の水素原子が置換基Wによって置換されていてもよいアリーレン基に限定される。
【0031】
一般式(1)中のYおよびZは、典型的には、互いに独立して、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されてもよいアルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、シリル基、アリール基、アルケニル基である。YおよびZの具体例としては、例えばメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基、ビニル基、トリメチルシリル基などが挙げられるが、これに限定するものではない。錯体合成の容易さという点で、好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基である。Y、Z、Eはそれぞれ結合して環を形成してもよい。具体的には、これに限定するものではないが、ZとEが結合してピペリジル基、ピリジル基、ピロリジル基を形成する、などが挙げられる。nが0を表す場合、N−ZまたはN−Eが二重結合となる。
【0032】
上記式(1)の構造を有する有機金属錯体を、水素ガスまたは水素供与性の有機もしくは無機化合物の存在下において、イミン化合物またはエナミン化合物を還元する還元的アミノ化反応において触媒として用いることにより、該イミンまたはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することができる。このジアステレオ選択的還元反応のメカニズムについては必ずしも明らかではないが、一因として、前記有機金属錯体の分子構造の大きさが関係しているのではないかと考えられる。前記有機金属錯体は立体的にかさ高い分子であり、還元的アミノ化の触媒として作用する際、イミン構造の反応部位に対して立体障害のより少ない方向から還元が起こりやすくなるものと考えられる。
【0033】
本発明に用いられる一般式(1)を含む触媒中の部位である一般式(2)
【化9】

の構造は、触媒活性の高さやジアステレオ選択性の高さという点で、好ましくは含窒素環状基を含む基である。nが0の場合、該基は含窒素芳香族環基となり、一般式(2)中のNが含窒素芳香族環構造のヘテロ窒素原子となって、ZとEが結合して環構造を形成することになる。含窒素芳香族環構造を含む基としては、例えば6員の含窒素単環芳香族環であるピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、テトラジン環などだけでなく、6員の含窒素芳香族環構造を含む多環芳香族基であるキノリン環やイソキノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、アクリジン環、シンノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環などを含む。また、かかる基は含窒素芳香族環構造を含んでいればよく、例えば5,6,7,8−テトラヒドロキノリル基なども含まれる。
5員の含窒素環としては、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、テトラゾール環などが挙げられる。
【0034】
nが1の場合、前記含窒素環状基は非芳香族環となり、一般式(2)中のNが含窒素環のヘテロ窒素原子となって、ZとEが結合して環構造を形成することになる。かかる非芳香族性含窒素環構造を含む基としては、例えば4員環の含窒素環であるアゼチジン環、5員の含窒素環または該環を含む基であるピロリジン環、ピロリン環、イミダゾリジン環、イミダゾリン環、ピラゾリジン環、ピラゾリン環、オキサゾリン環、インドリン環、イソインドリン環、6員の含窒素環または該環を含む基であるピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などのほか、キヌクリジン環などが挙げられる。
【0035】
触媒活性の高さやジアステレオ選択性の高さという点で、好ましくは化合物が一般式(3)
【化10】

で表される化合物である。式中のRおよびRは、典型的には、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基、フルオロアルキル基、アシル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ホスフィノ基、スルフェニル基またはシリル基であり、特に水素原子、ハロゲン原子、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基、アシル基、スルホニル基、ヒドロキシル基またはシリル基である。
【0036】
およびRは複数個導入されていてもよく、置換数jおよびkは、互いに独立して、0〜3の整数であり、ここで、jが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよく、例えばフェナントリジン環、アクリジン環などを形成してもよい。さらに、RまたはRが結合していないキノリン環構造中の1または2以上の炭素原子が窒素原子に置き換えられていてもよく、例えばナフチリジン環、キノキサリン環、シンノリン環、キナゾリン環、フタラジン環などを形成してもよい。
【0037】
およびRの具体例としては、例えばメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ピリジル基、ビニル基、エチニル基、エステル結合を有する基、アセチル基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、トリメチルシリル基などが挙げられるが、これに限定するものではない。触媒活性の高さという点で、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基である。
【0038】
また、触媒活性の高さやジアステレオ選択性の高さという点で、化合物が好ましくは一般式(4)
【化11】

で表される化合物である。Rは上記と同じ意味を示し、その置換数lは、0〜4までの整数である。Rは、水素原子、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基である。
【0039】
の具体例としては、これに限定するものではないが、例えば水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、シクロへキシル基、フェニル基、ピリジル基、ビニル基、エチニル基、エステル結合を有する基、アセチル基、ベンゾイル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。触媒活性や反応収率の高さという点で、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−(ジメチルアミノ)フェニル基である。Rは複数個導入されていてもよく、置換数lは0〜4までの整数を表し、ここで、lが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよく、例えばキノリン環、イソキノリン環などを形成してもよい。また、Rが結合していないピリジン環構造中の1または2以上の炭素原子は窒素原子によって置き換えられてもよく、例えばピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環などを形成してもよい。
【0040】
さらに、触媒活性の高さやジアステレオ選択性の高さという点で、化合物が好ましくは一般式(5)
【化12】

で表される化合物である。Rは上記と同じ意味を示し、その置換数mは、0〜7までの整数である。Rは、水素原子、1または2以上の水素原子が置換基Wで置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基である。
【0041】
の具体例としては、これに限定するものではないが、例えば水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、シクロへキシル基、フェニル基、ピリジル基、ビニル基、エチニル基、エステル結合を有する基、アセチル基、スルホニル基、シリル基などが挙げられる。触媒活性や反応収率の高さという点で、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ベンジル基、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−(ジメチルアミノ)フェニル基である。Rは複数個導入されていてもよく、置換数mは0〜7までの整数を表し、ここで、mが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよく、例えばインドリン環、イソインドリン環などを形成してもよい。また、ピロリジン環構造中の1または2以上の炭素原子は窒素原子によって置き換えられてもよく、例えばイミダゾリジン環、ピラゾリジン環などを形成してもよい。
【0042】
上述のように、有機金属錯体を不斉還元触媒として用いることは公知である。例えば上記特許文献3および4には、本願一般式(1)のYに相当する置換基にHを有する有機金属錯体を触媒として用いる不斉還元反応について開示されている。
特許文献3に開示されているのは、カルボニル化合物を不斉還元して光学活性アルコールを製造する方法であり、ジアステレオ選択的にアミン化合物を製造する方法ではない。
【0043】
特許文献4に開示されているのは、タムスロシンの製造方法であり、その一工程において、イミン化合物を不斉還元してエナンチオマーを得る工程が開示されている。しかしながら、かかる不斉還元反応において用いられている、本願式(1)のYに相当する置換基が水素原子である有機金属錯体を用いたイミン化合物の不斉還元反応では、30〜40%ee程度と十分なエナンチオ選択性を得ることができず、ここからさらに再結晶法を用いて精製することで、十分な純度の光学活性体を得ることができたことが開示されている。
【0044】
それに対し、本発明の方法に用いられる有機金属錯体は、特に金属原子に配位しているヘテロ環員窒素原子に水素原子を有しないこと、すなわちYがHでないことに特徴を有するものである。本発明の方法では、YがHではない有機金属錯体を用いることにより、従来の有機金属錯体と比較して反応性やジアステレオ選択性が格段に高い還元的アミノ化反応を達成することが可能となったものである。さらに、YがHである有機金属錯体では、カルボニル化合物とともに還元条件で反応させると、イミン化合物またはエナミン化合物はほとんど還元されず、カルボニル化合物が還元されてアルコールが生成する反応が進行するため、カルボニル化合物とアミン化合物を混合し、系中で生成したイミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元するというワンポットの還元的アミノ化反応に用いることはできないが、本発明の方法ではかかるワンポットの反応も可能となる。
【0045】
YがHでない場合により高いジアステレオ選択性が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明の有機金属錯体は、立体的にかさ高いために、還元されるイミン化合物またはエナミン化合物中の置換基の立体的環境に大きく影響を受けるためと考えられる。また、YがHでない場合にカルボニル化合物の還元が起こらない理由も必ずしも明らかではないが、イミン化合物またはエナミン化合物が生成しやすい酸性条件下で、本発明の有機金属錯体がカルボニル化合物の還元能を有しないためと考えられる。
【0046】
本発明で用いられる触媒存在下、水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を用いて、イミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することによりアミン化合物を製造することが可能である。
さらに、本発明で用いられる触媒存在下、水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を用いて、カルボニル化合物とアミン化合物を混合し、系中で生成したイミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することによりアミン化合物を製造することが可能である。
【0047】
イミン化合物またはエナミン化合物の原料であるカルボニル化合物は、例えば一般式(8)
【化13】

で表されるものであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。一般式(8)についてみると、RおよびRは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、1または2以上の水素原子が任意の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基、アリール基またはヘテロシクリル基、カルボキシル基、エステル基、アシル基である。
【0048】
具体的には、これに限定するものではないが、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル等のアルキル基、トリフルオロメチル基などのフルオロアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル等のシクロアルキル基、ビニル、アリルなどの不飽和炭化水素、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、インデニル基等の芳香族単環または多環式基、チエニル、フリル、ピラニル、キサンテニル、ピリジル、ピロリル、イミダゾリニル、インドリル、カルバゾイル、フェナントロニリル等のヘテロ単環または多環式基、フェロセニル基、カルボン酸、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのエステル基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基等が挙げられる。
【0049】
置換基には各種任意のものを有していてもよく、これに限定するものではないが、例えばアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル等の炭化水素基、フルオロアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基等の含酸素基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルフェニル基、スルホ基、メルカプト基、シリル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。また、RとRが結合して環を形成してもよく、その場合には、これに限定するものではないが、例えばシクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロへプタノン、シクロペンテノン、シクロへキセノン、シクロへプテノンなどの環状ケトンを与える飽和、および不飽和脂環式基、およびそれぞれの各炭素にアルキル基、アリール基、不飽和アルキル基、ヘテロ元素を含む鎖状または環状炭化水素基を有する置換基をもつ飽和および不飽和脂環式基等が挙げられる。
【0050】
より高いジアステレオ選択性で反応を実施するためには、側鎖に置換基をもつ環状ケトン類が好ましく、2位に置換基をもつシクロヘキサノン、3位に置換基をもつシクロヘキサノン、4位に置換基をもつシクロヘキサノン、2位に置換基をもつシクロペンタノン、3位に置換基をもつシクロペンタノン、アザビシクロアルカノン、アダマンタノンが挙げられ、より具体的には、2−メチルシクロヘキサノン、2−フェニルシクロヘキサノン、2−シクロヘキサノンカルボン酸エチル、3−メチルシクロヘキサノン、4−フェニルシクロヘキサノン、4−tert−ブチルシクロヘキサノン、4−シクロヘキサノンカルボン酸エチル、1,4−シクロヘキサンジオン、シクロペンタノン−2−カルボン酸エチル、2−ノルボルナノン、カンファー、8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン−3−オン、トロピノン、3−キヌクリジノン、5−ヒドロキシ−2−アダマンタノンなどが例示される。
上記環状ケトンを用いて還元的アミノ化反応を行うと、環状アミンが生成することとなる。したがって、反応によって得られるアミン化合物が、環状アミンまたは環状ジアミンであることが好ましい。
【0051】
本発明の原料であるアミン化合物は、例えば一般式(9)
【化14】

で表されるものであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。一般式(9)についてみると、RおよびRは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、1または2以上の水素原子が任意の置換基で置換されていてもよいヒドロカルビル基、または1または2以上の水素原子が任意の置換基で置換されていてもよいヘテロシクリル基である。
【0052】
具体的には、これに限定するものではないが、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル等のアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル等のシクロアルキル基、ビニル、アリルなどの不飽和炭化水素、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、インデニル基等の芳香族単環または多環式基、チエニル、フリル、ピラニル、キサンテニル、ピリジル、ピロリル、イミダゾリニル、インドリル、カルバゾイル、フェナントロニリル等のヘテロ単環または多環式基、フェロセニル基等が挙げられる。
【0053】
置換基としては各種任意のものを有していてもよく、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル等の炭化水素基、フルオロアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基等の含酸素基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルフェニル基、スルホ基、メルカプト基、シリル基、ニトロ基、シアノ基等であってもよい。また、RとRが結合して環を形成しても良く、その場合には、これに限定するものではないが、例えばピロリジン、ピペリジン、アゼパン、ピロール、テトラヒドロピリジン、テトラヒドロアゼピンなどの環状ケトンを与える飽和、および不飽和脂環式基、およびそれぞれの各炭素にアルキル基、アリール基、不飽和アルキル基、ヘテロ元素を含む鎖状または環状炭化水素基を有する置換基をもつ飽和および不飽和脂環式基等が挙げられる。特に、第一級アミンを合成するためには、一般的にはアンモニウム塩、ベンジルアミン、ラセミ体のα―フェニルエチルアミン、光学活性体のα―フェニルエチルアミンが汎用される。
【0054】
ジアステレオ選択的な反応を実施するためには、一般式(8)で表されるカルボニル化合物、および/または一般式(9)で表されるアミン化合物中に、キラル炭素を有している必要があり、これらの基質を適時組み合わせることによってジアステレオ選択的にアミン化合物を製造することができる。
【0055】
本発明で用いられるイミン化合物やエナミン化合物は、酸触媒存在下、あるいは酸触媒非存在下、一般式(8)で表されるカルボニル化合物、および一般式(9)で表されるアミン化合物との縮合反応により容易に得ることができる
【0056】
酸触媒としてはブレンステッド酸やルイス酸を加えることが望ましく、好適なブレンステッド酸としては、例えばカルボン酸、スルホン酸、フェノール類などの有機酸、またはリン酸、ホウ酸、塩酸、硝酸などの鉱酸が挙げられ、具体的には、これに限定するものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、フェノール、ビナフトール等ブレンステッド酸、あるいはチタニウムテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド等のルイス酸が挙げられる。これらは単独または複数組み合わせて用いることができる。特にギ酸は水素供与体としても作用するため、カルボニル化合物とアミン化合物との還元的アミノ化反応には好ましいブレンステッド酸である。
イミン化合物やエナミン化合物の生成は、酸性条件が好ましいことから、酸性となる各種緩衝液を用いることも可能である。
【0057】
本発明において用いられる水素供与体は、熱的作用によって、あるいは触媒作用によって水素を供与することのできる化合物を意味しており、このような水素供与性の化合物については特にその種類に限定されない。好適な水素供与性化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、sec−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、シクロペンチルアルコール、n−へキシルアルコール、シクロへキシルアルコール、ベンジルアルコール、ギ酸、HCOOK、HCOONa、HCOONa、HCOOLi、HCOONH等が例示され、単独または複数種組み合わせて用いることができる。反応性や経済性という点で、好ましくはギ酸、またはギ酸塩である。
【0058】
用いられる水素供与性の化合物の量は、カルボニル化合物に対し、1〜30当量で用いることができるが、反応性や経済性の点から、好ましくは1〜10当量で用いる。
水素供与体としてHCOOK、HCOONa、HCOOLi、HCOONH等のギ酸塩を用いる場合は、必要に応じて相間移動触媒を添加して反応を実施してもよい。用い得る相間移動触媒としては、長鎖アルキルアンモニウムカチオンを有する塩であれば何でもよいが、反応性や経済性の点から好ましくはテトラブチルアンモニウム塩である。相間移動触媒の添加によっては、多くの場合、反応速度が向上する効果が認められる。添加する相間移動触媒の量としては、カルボニル化合物に対して通常0.001〜10モル当量の範囲で用いるが、反応性や経済性の点から好ましくは0.01〜0.1モル当量用いるのが望ましい。
【0059】
用いられるアミン化合物の量は、カルボニル化合物に対し、通常1〜30当量で用いることができるが、反応性や経済性の点から好ましくは1〜10当量で用いる。また、アンモニアのような気体をアミン化合物として用いる場合は、気体としてそのまま用いたり、あるいはアンモニア水や溶媒等に溶解させて用いるか、アンモニウム塩として用いることができる。
【0060】
用い得るアンモニウム塩としては、アンモニアを含む塩であれば何でもよく、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、フッ化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、リン酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられるが、反応性や経済性の点から、好ましくはギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、または塩化アンモニウムである。
【0061】
本発明で用いられる一般式(1)で表されるルテニウム、ロジウム、若しくはイリジウム錯体は、一般式(6)
【化15】

(pは2以上の整数を表す)で表される有機金属化合物と一般式(7)
【化16】

で表される含窒素配位子とを混合して調製することができる。
【0062】
例えば、不活性ガス雰囲気下、ハロゲン系溶媒に一般式(6)で表される有機金属化合物と一般式(7)で表される含窒素配位子、および塩基を混合し、室温にて攪拌し、得られた溶液を水洗した後、溶媒を留去して減圧乾燥することで本発明で用いられる一般式(1)で表される有機金属錯体を含む触媒を得ることができる。
【0063】
使用する触媒の量は、ルテニウム、ロジウム、またはイリジウム触媒に対するカルボニル化合物のモル比をS/C(Sはカルボニル化合物、イミン化合物、またはエナミン化合物のモル数、Cは触媒のモル数を表す)として表記することができる。その場合、S/Cをどの程度まで高められるかは基質の構造、触媒の種類、濃度、反応温度、水素供与体の種類等によって大きく変動するが、実用上はS/C=100〜20000程度に設定することが望ましい。
【0064】
本発明では、カルボニル化合物、アミン化合物、イミン化合物、エナミン化合物、酸、水素ガスおよび水素供与性化合物の物理的性質や化学的性質を考慮し、適時反応溶媒を用いることができる。プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒、イオン性液体、水および緩衝液を単独で、もしくは複数組み合わせて用いることができる。
【0065】
反応温度は、基質や生成物の溶解度、反応性、および経済性を考慮して、好ましくは−20℃〜100℃程度で実施することができるが、さらに好ましくは20℃〜80℃である。反応時間は、基質濃度、温度、圧力等の反応条件によって異なるが、数分から100時間で反応が完結する。
【0066】
生成したアミン化合物の精製は、酸−塩基抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の公知の方法により、または適時それらの組み合わせにより行なうことができる。
また、一般式(6)で表される有機金属化合物と、一般式(7)で表される有機化合物の存在下で、カルボニル化合物、アミン化合物、および水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を反応させることによって、もしくはイミン化合物またはエナミン化合物、および水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を反応させることによって、アミン化合物を製造することが可能である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を示し、さらに詳しくこの発明について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。下記の各参考例、比較例および実施例に記載した反応は、アルゴンガスまたは窒素ガスの不活性ガス雰囲気下で行なった。使用したカルボニル化合物やアミン化合物は、市販試薬をそのまま用いた。配位子錯体および反応物の同定には核磁気共鳴装置(NMR)を用い、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質とし、そのシグナルをδ=0(δは化学シフト)とした。アミン化合物への変換率はH−NMR、およびガスクロマトグラフィー(GC)により決定した。生成物であるアミン化合物のジアステレオ選択性や立体異性体の確認は、H−NMR、GC、およびフーリエ変換赤外分光装置(FT/IR)を用いて決定した。NMR装置はJNM-ECX-400P(日本電子株式会社製)を用い、GC装置はGC-17A(株式会社島津製作所製)を用い、フーリエ変換赤外分光装置はFT/IR-660 plus(日本分光株式会社製)を用いた。本発明で用いたイリジウム触媒、ロジウム触媒、およびルテニウム触媒の構造を図1に示した。
【0068】
参考例1
Cp*IrCl(N−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド)錯体の合成(Ir−1)
20mLのシュレンクに[Cp*IrCl(MW:796.67)400mg(0.506mmol)、およびN−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド(MW:241.29)244mg(1.01mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。これに脱水塩化メチレン10mL、トリエチルアミン(MW:101.19)140μL(1.01mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。少量の水で4回洗浄後、有機溶媒を留去し、減圧乾燥した。ジイソプロピルエーテル20mLを加えて室温で1時間攪拌した後、結晶を濾集し、少量のジイソプロピルエーテルで洗浄後、減圧乾燥して橙色粉末結晶を476mg(単離収率78%)得た。
【0069】
H NMR(400MHz,CDCl,δ/ppm):1.42(s,15H),2.92(s,6H),6.74(d,J=8.2Hz,2H),7.46(ddd,J=7.3,5.5,1.8Hz,1H),7.50〜7.58(m,2H),7.89(dt,J=7.3,1.8Hz,1H),8.14(d,J=7.8,0.9Hz,1H),8.55(d,J=5.5Hz,1H).
13C NMR(100MHz,CDCl,δ/ppm):8.4,41.2,86.5,112.8,126.1,127.0,127.1,138.4,138.4,147.9,149.4,155.8,168.6.
【0070】
参考例2
Cp*IrCl(N−(4−ジメチルアミノフェニル)−(S)−1−メチル−2−ピロリジンカルボキサミド)錯体の合成(Ir−2)
20mLのシュレンクに[Cp*IrCl(MW:796.67)250mg(0.316mmol)、およびN−(4−ジメチルアミノフェニル)−(S)−1−メチル−2−ピロリジンカルボキサミド(MW:247.34)313mg(1.27mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。これに脱水塩化メチレン5mL、トリエチルアミン(MW:101.19)88μL(0.632mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。少量の水で4回洗浄後、有機溶媒を留去し、減圧乾燥した。ジイソプロピルエーテル20mLを加えて室温で1時間攪拌した後、結晶を濾集し、少量のジイソプロピルエーテルで洗浄後、減圧乾燥して橙色粉末結晶を189mg(単離収率50%)得た。
【0071】
H NMR(400MHz,CDCl,δ/ppm):1.34(s,15H),1.75〜2.15(m,3H),2.45〜2.60(m,1H),2.89(s,6H),3.03(s,3H),3.25〜3.45(m,2H),4.06(d,J=8.7Hz,1H),6.60〜6.80(brs,2H),6.80〜7.00(brs,1H),7.12〜7.35(brs,1H).
13C NMR(100MHz,CDCl,δ/ppm):8.6,22.5,23.8,41.3,47.3,63.9,72.8,85.3,112.4,113.7,127.3,128.1,140.1,148.0,178.8.
【0072】
参考例3
Cp*RhCl(N−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド)錯体の合成(Rh−1)
20mLのシュレンクに[Cp*RhCl(MW:618.08)150mg(0.243mmol)、およびN−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド(MW:241.29)117mg(0.485mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。これに脱水塩化メチレン5mL、トリエチルアミン(MW:101.19)68μL(0.485mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。少量の水で4回洗浄後、有機溶媒を留去し、減圧乾燥した。ジイソプロピルエーテル20mLを加えて室温で1時間攪拌した後、結晶を濾集し、少量のジイソプロピルエーテルで洗浄後、減圧乾燥して橙色粉末結晶を211mg(単離収率85%)得た。
【0073】
H NMR(400MHz,CDCl,δ/ppm):1.42(s,15H),2.92(s,6H),6.72〜6.81(m,2H),7.49(ddd,J=7.3,5.5,1.8Hz,1H),7.60〜7.68(m,2H),7.91(dt,J=7.8,1.8Hz,1H),8.13(dd,J=7.8,0.9Hz,1H),8.61(d,J=5.5Hz,1H).
13C NMR(100MHz,CDCl,δ/ppm):8.6,41.3,94.5,94.5,112.8,125.7,126.6,127.5,138.5,138.6,147.7,149.5,156.8,166.6.
【0074】
参考例4
RuCl(N−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド)(p−cymene)錯体の合成(Ru−1)
20mLのシュレンクに[RuCl(p−cymene)](MW:612.39)200mg(0.327mmol)、およびN−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピリジルカルボキサミド(MW:241.29)140mg(0.653mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。これに脱水塩化メチレン5mL、トリエチルアミン(MW:101.19)91μL(0.653mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。少量の水で4回洗浄、有機溶媒を留去し、減圧乾燥した。2−プロパノール:ジクロロメタン=20:1の混合溶媒20mLを加えて室温で1時間撹拌した後、結晶を濾集し、減圧乾燥して橙色粉末結晶を199mg(単離収率60%)得た。
【0075】
H NMR(400MHz,CDCl,δ/ppm):1.05(d,J=6.9Hz,3H),1.06(d,J=6.9Hz,3H),2.20(s,3H),2.58(quintet,J=6.9Hz,1H),2.96(s,6H),4.69(d,J=6.0Hz,1H),5.14(d,J=6.0Hz,1H),5.17(d,J=6.0Hz,1H),5.22(d,J=6.0Hz,1H),6.73〜6.84(m,2H),7.42(ddd,J=7.3,5.5,1.8Hz,1H),7.50〜7.58(m,2H),7.88(dt,J=7.8,1.4Hz,1H)8.07(dd,J=7.8,0.9Hz,1H)8.94(d,J=5.5Hz,1H).
13C NMR(100MHz,CDCl,δ/ppm):18.8,21.8,22.3,30.7,41.1,83.4,84.1,85.0,100.2,101.2,112.9,125.6,126.2,126.6,138.2,142.7,147.7,153.0,156.1,167.0.
【0076】
参考例5
Cp*IrCl(N−(4−ジメチルアミノフェニル)−(S)−2−ピロリジンカルボキサミド)錯体の合成(Ir−7)
20mLのシュレンクに[Cp*IrCl(MW:796.67)200mg(0.253mmol)、およびN−(4−ジメチルアミノフェニル)−(S)−2−ピロリジンカルボキサミド(MW:233.31)130mg(0.556mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。これに脱水塩化メチレン5mL、トリエチルアミン(MW:101.19)71μL(0.506mmol)を加え、室温で22時間撹拌した。少量の水で4回洗浄後、有機溶媒を留去し、減圧乾燥した。ジイソプロピルエーテル20mLを加えて室温で1時間攪拌した後、結晶を濾集し、少量のジイソプロピルエーテルで洗浄後、減圧乾燥して橙色粉末結晶を236mg(単離収率71%)得た。
【0077】
H NMR(400MHz,CDCl,δ/ppm):1.38(s,15H),1.65〜1.85(m,1H),1.85〜2.05(m,1H),2.05〜2.20(m,1H),2.20〜2.35(m,1H),2.89(s,6H),3.00〜3.20(brs,1H),3.40〜3.55(brs,1H),4.12(quartet,J=8.2Hz,1H),4.75〜5.25(brs,1H),6.69(d,J=9.2Hz,2H),7.17(d,J=9.2Hz,2H).
13C NMR(100MHz,CDCl,δ/ppm):8.7,26.6,29.6,41.4,54.6,64.5,85.2,112.8,128.0,139.7,147.8,179.8.
【0078】
比較例1
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
100mLの耐圧反応装置に、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、および10%Pd/C(エヌ・イーケムキャット社製、NXタイプ、50wt%含水品)154mgを仕込み、アルゴンガスに置換した。7Nアンモニア―メタノール溶液7mLを加え、水素圧1.0MPa、反応温度30℃で15時間攪拌した。反応溶液をセライト濾過して10%Pd/Cを除いた後、メスアップして100mLのメタノール溶液とした。この溶液から10mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率24%、シス体:トランス体=31:69のジアステレオ選択性で得られた。
【0079】
比較例2
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−7(MW:595.20)29.8mg(0.050mmol、S/C=100)を加え、60℃にて5時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量したところ、原料の変換率は92%であったが、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンは全く生成していなかった。
【0080】
実施例1
2−メチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、2‐メチルシクロヘキサノン(MW:112.17)603μL(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応液をKOH水溶液で処理した後、GC分析を行なったところ、2−メチルシクロヘキシルアミンが収率82%、シス体:トランス体=94:6のジアステレオ選択性で得られた。
【0081】
実施例2
2−フェニルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、2‐フェニルシクロヘキサノン(MW:174.24)871mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて17時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄後、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、2−フェニルシクロヘキシルアミンが収率81%、シス体:トランス体=98:2のジアステレオ選択性で得られることを確認した。
【0082】
実施例3
2−クロロシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、2‐クロロシクロヘキサノン(MW:132.59)572μL(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、40℃にて18時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄後、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、2−クロロシクロヘキシルアミンが収率61%で得られた。得られた目的物を塩酸塩に誘導し、IR測定を行なったところ、シス体が主生成物であることを確認した。
【0083】
実施例4
2−アミノシクロヘキサンカルボン酸エチルの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946 g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、2‐シクロヘキサノンカルボン酸エチル(MW:170.21)795μL(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて8時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、飽和NaHCO水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン50mLで抽出した。有機層を水5mLで2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤をろ過により除去した後、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、2−アミノシクロヘキサンカルボン酸エチルが収率54%、シス体:トランス体=96:4のジアステレオ選択性で得られることを確認した。
【0084】
実施例5
3−メチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、3‐メチルシクロヘキサノン(MW:112.17)610μL(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液20mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、ついで濾過し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。メスフラスコにメスアップした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、3−メチルシクロヘキシルアミンが収率75%、シス体:トランス体=4:96のジアステレオ選択性で得られた。
【0085】
実施例6
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率97%、シス体99%以上で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0086】
実施例7
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−3(MW:507.05)12.7mg(0.025mmol、S/C=200)を加え、60℃にて5時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率82%、シス体:トランス体=88:12のジアステレオ選択性で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0087】
実施例8
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−5(MW:485.00)24.2mg(0.05mmol、S/C=100)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率92%、シス体:トランス体=95:5のジアステレオ選択性で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0088】
実施例9
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−6(MW:534.07)26.7mg(0.05mmol、S/C=100)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率80%、シス体:トランス体=93:7のジアステレオ選択性で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0089】
実施例10
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−2(MW:609.22)30.5mg(0.050mmol、S/C=100)を加え、60℃にて5時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率93%、シス体99%以上で得られた。比較例1および比較例2と比べると、ジアステレオ選択性や反応性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0090】
実施例11
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびロジウム触媒Rh−1(MW:513.87)5.14mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて5時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率92%、シス体:トランス体=98:2のジアステレオ選択性で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0091】
実施例12
4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−tert−ブチルシクロヘキサノン(MW:154.25)771mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびルテニウム触媒Ru−1(MW:511.02)25.5mg(0.050mmol、S/C=100)を加え、60℃にて7時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミンが収率74%、シス体:トランス体=95:5のジアステレオ選択性で得られた。比較例1と比べると、ジアステレオ選択性は格段に優れた結果を示しており、本発明の有用性が示された。
【0092】
実施例13
4−フェニルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4−フェニルシクロヘキサノン(MW:174.24)871mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄し、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−フェニルシクロヘキシルアミンが収率99%、シス体:トランス体=95:5のジアステレオ選択性で得られた。
【0093】
実施例14
4−メチルシクロヘキシルアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、4‐メチルシクロヘキサノン(MW:112.17)610μL(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応液をKOH水溶液で処理した後、GC分析を行なったところ、4−メチルシクロヘキシルアミンが収率75%、シス体:トランス体=90:10のジアステレオ選択性で得られた。
【0094】
実施例15
2−アミノノルボルナンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)0.946g(15.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、2‐ノルボルナノン(MW:110.15)551mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)286μL(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、40℃にて17時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液7.5mLを加え、ジクロロメタン40mLで抽出し、有機層を水5mLで2回洗浄後、メスアップして50mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、2−アミノノルボルナンが収率62%、エキソ体:エンド体=94:6のジアステレオ選択性で得られた。
【0095】
実施例16
1,4−シクロヘキサンジアミンの合成
20mLのシュレンクにギ酸アンモニウム(MW:63.06)1.892g(30.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、1,4−シクロヘキサンジオン(MW:112.13)561mg(5.0mmol)、酢酸(MW:60.05)573μL(10.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。溶液をメスアップして50mLのメタノール溶液とし、この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、1,4−シクロヘキサンジアミンが収率49%、シス体99%以上で得られた。
【0096】
実施例17
1,4−シクロヘキサンジベンジルアミンの合成
20mLのシュレンクにベンジルアミン(MW:107.15)1145μL(2.1mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これにメタノール5mL、1,4−シクロヘキサンジオン(MW:112.13)561mg(5.0mmol)、ぎ酸(MW:46.03)755μL(20.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)6.03mg(0.010mmol、S/C=500)を加え、60℃にて21時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液25mLを加え、ジクロロメタン80mLで抽出し、有機層を水10mLで2回洗浄後、メスアップして100mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から10mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、1,4−シクロヘキサンジベンジルアミンが収率99%、シス体:トランス体=97:3のジアステレオ選択性で得られた。
【0097】
実施例18
(2R)−3−メチル−N−((R)−1−フェニルエチル)ブタン−2−アミン
20mLのシュレンクに(R)−1−フェネチルアミン(MW:121.18)265μL(2.1mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これに脱水酢酸エチル4mL、3−メチル−2−ブタノン(MW:86.13)214μL(2.0mmol)、ぎ酸(MW:46.03)226μL(6.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−1(MW:603.18)12.3mg(0.020mmol、S/C=100)を加え、60℃にて21時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液10mLを加え、ジクロロメタン15mLで抽出し、有機層を水3mLで2回洗浄し、メスアップして20mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、3−メチル−N−((R)−1−フェニルエチル)ブタン−2−アミンが収率80%、(R,R)体:(R,S)体=87:13のジアステレオ選択性で得られた。
【0098】
実施例19
(2R)−3−メチル−N−((R)−1−フェニルエチル)ブタン−2−アミン
20mLのシュレンクに(R)−1−フェネチルアミン(MW:121.18)290μL(2.3mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これに脱水酢酸エチル4mL、3−メチル−2−ブタノン(MW:86.13)214μL(2.0mmol)、ぎ酸(MW:46.03)226μL(6.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−3(MW:507.05)2.0mg(0.004mmol、S/C=500)を加え、60℃にて21時間加熱撹拌した。1M KOH水溶液10mLを加え、ジクロロメタン15mLで抽出し、有機層を水3mLで2回洗浄し、メスアップして20mLのジクロロメタン溶液とした。この溶液から5mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、3−メチル−N−((R)−1−フェニルエチル)ブタン−2−アミンが収率96%、(R,R)体:(R,S)体=80:20のジアステレオ選択性で得られた。
【0099】
実施例20
4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールの合成
50mLのシュレンクに、5−ヒドロキシアダマンタン−2−オン(MW:166.22)1.662g(10.0mmol)を仕込み、減圧乾燥した後にアルゴンガスに置換した。これに脱水酢酸エチル20mL、DL−α−メチルベンジルアミン(MW:121.18,d 0.96)1.45mL(11.5mmol)、ギ酸(MW:46.03,d 1.220)755μL(20.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−3(MW:507.05)2.54mg(0.005mmol、S/C=2000)を加え、50℃にて24時間加熱撹拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液15mLを加え、ジクロロメタン50mLで抽出し、10mLの水で1回洗浄後、メスアップして100mLの塩化メチレン溶液とした。この溶液から10mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールが収率99%、トランス体:シス体=75:25のジアステレオ選択性で得られた。
【0100】
実施例21
4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールの合成
100mLの耐圧反応装置に、5−ヒドロキシアダマンタン−2−オン(MW:166.22)831mg(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−3(MW:507.05)25.4mg(0.05mmol、S/C=100)を仕込み、アルゴンガスに置換した。これに、DL−α−メチルベンジルアミン(MW:121.18,d 0.96)631μL(5.0mmol)、クロロ酢酸(MW:94.50)473mg(5.0mmol)、および6mLの脱水メタノールからなる溶液を加え、水素圧1.0MPa、反応温度50℃で18時間攪拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液8mLを加え、ジクロロメタン50mLで抽出し、10mLの水で有機層を1回洗浄後、メスアップして100mLの塩化メチレン溶液とした。この溶液から10mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールが収率99%、トランス体:シス体=71:29のジアステレオ選択性で得られた。
【0101】
実施例22
4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールの合成
100mLの耐圧反応装置に、5−ヒドロキシアダマンタン−2−オン(MW:166.22)831mg(5.0mmol)、およびイリジウム触媒Ir−4(MW:483.99)24.2mg(0.05mmol、S/C=100)を仕込み、アルゴンガスに置換した。これに、DL−α−メチルベンジルアミン(MW:121.18,d 0.96)726μL(5.75mmol)、クロロ酢酸(MW:94.50)543mg(5.75mmol)、および6mLの脱水メタノールからなる溶液を加え、水素圧1.0MPa、反応温度50℃で18時間攪拌した。反応溶液の溶媒を留去し、1M KOH水溶液8mLを加え、ジクロロメタン50mLで抽出し、10mLの水で有機層を1回洗浄後、メスアップして100mLの塩化メチレン溶液とした。この溶液から10mL採取して溶媒留去した後、クマリン(MW:146.14)を内部標準としてH NMR定量することにより、4−(1−フェニル−エチルアミノ)−アダマンタン−1−オールが収率97%、トランス体:シス体=68:32のジアステレオ選択性で得られた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上詳しく説明したように、この発明により、カルボニル化合物とアミン化合物との還元的アミノ化反応により、高いジアステレオ選択性でアミン化合物を高効率に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Arは、1または2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、シクロペンタジエニル基または芳香族化合物であり、WはC1〜10の飽和もしくは不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、アシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、スルホニル基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルホ基、メルカプト基、ホスフィノ基、シリル基またはハロゲン基を表し、Mはルテニウム、ロジウム、またはイリジウムであり、Xはヒドリド基またはアニオン性基であり、Eは、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよいC1〜6の飽和もしくは不飽和炭化水素基、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アシル基、ハロゲン基、エステル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルホ基もしくはチオール基によって、1または2以上の水素原子が置換されていてもよい(ここで、前記各置換基中の1もしくは2以上の水素原子がさらに置換基Wで置換されてもよい)アリーレン基であるリンク基を表し、Aは「M−NRC(O)−E」の結合様式をもつアミド基、または酸素原子であり、ここでAが酸素原子の場合、Eは、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよいアリーレン基であり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基(ここで、置換基W中の1または2以上の水素原子がさらに置換基Wで置換されていてもよい)を示し、YおよびZは同一であるか、または互いに異なり、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、またはシリル基を示し、ここでYとZ、ZとE、YとE、またはY−Z−Eとが結合して環を形成してもよく、またnは0または1の整数を示し、n=0の場合は、N−Z間またはN−E間が二重結合となる)で表される有機金属化合物の存在下、水素ガスまたは水素供与性の有機もしくは無機化合物を用いて、イミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、アミン化合物の製造方法。
【請求項2】
式(1)中の部位である下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、n=0でN、EおよびZは上記と同じ意味を表す。)で表される部位が、含窒素環状基を含む基であることを特徴とする、請求項1に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項3】
式(1)で表される有機金属化合物が、下記一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、Ar、MおよびXは請求項1と同じ意味を表し、RおよびRは互いに同一である、または互いに異なり、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メルカプト基、カルボキシル基、1もしくは2以上の水素原子が、置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基、フルオロアルキル基、アシル基、スルホニル基、アミノ基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基またはシリル基を示し、Wは請求項1に記載の意味と同じ意味を表し、j、kは互いに独立して0から3までの整数であり、ここで、RまたはRが結合していないキノリン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、jとkが1以上の場合、RとRが互いに連結して環を形成してもよく、jおよび/またはkが2以上の場合は、2以上のRおよび/またはRが互いに連結して環を形成してもよい)で表される有機金属化合物、または下記一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、Ar、MおよびXは請求項1と同じ意味を表し、Rは上記RおよびRと同じであり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基を示し、Wは請求項1に記載の意味と同じ意味を表し、lは0から4までの整数を表し、ここで、Rが結合していないピリジン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、lが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよい)および下記一般式(5)
【化5】

(一般式(5)中、Ar、M、XおよびYは請求項1と同じ意味を表し、Rは上記RおよびRと同じであり、Rは水素原子、1もしくは2以上の水素原子が置換基Wに置換されていてもよい、C1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクリル基、アルケニル基、アルキニル基、エステル基、アシル基、アミド基、ホスフィノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基またはシリル基を示し、Wは請求項1に記載の意味と同じ意味を表し、mは0から7までの整数を表し、ここで、ピロリジン環中の炭素原子が窒素原子によって置き換えられてもよく、mが2以上の場合、2以上のRが互いに連結して環を形成してもよいで表される有機金属化合物からなる群から選択される1または2以上の有機金属化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、Ar、M、およびXは請求項1と同じ意味を表し、pは2以上の整数を表す。)で表される有機金属化合物と、下記一般式(7)
【化7】

(一般式(7)中、A、E、Y、Zおよびnは請求項1と同じ意味を表す。)で表される有機化合物の存在下、水素ガスもしくは水素供与性の有機または無機化合物を用いて、イミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、アミン化合物の製造方法。
【請求項5】
カルボニル化合物とアミン化合物を混合し、系中で生成したイミン化合物またはエナミン化合物をジアステレオ選択的に還元することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
式(1)および式(6)中のMがロジウム、およびイリジウムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
水素供与性の有機または無機化合物がギ酸、またはギ酸塩である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
反応により得られるアミン化合物が、環状アミン化合物または環状ジアミン化合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアミン化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62270(P2012−62270A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207142(P2010−207142)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】