説明

アミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法

【課題】 簡単な装置と操作により、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を効果的に除去することができ、これによりアミノ酸−鉄錯塩が分解して、炭酸鉄の析出により充填材を目詰まりさせるのを防止するとともに、遊離したアミノ酸が鉄を腐食させるのを防止することが可能なアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法を提案する。
【解決手段】 酸性ガスを吸収塔1でアミン液と接触させ、生成したリッチアミン液を1次再生塔2で1次再生し、生成したリーンアミン液の一部をカチオン交換塔11およびアニオン交換塔12に通液して2次再生する方法において、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液をカチオン交換樹脂層13に通液して遊離カチオンを除去し、さらにアニオン交換樹脂層14に通液してアミノ酸−鉄錯塩および酸成分アニオンを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ガスの処理に用いたアミン液の再生方法において、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液から、イオン交換樹脂を用いてアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製その他のプロセスでは、硫化水素、炭酸ガス、その他の酸成分を含む酸性ガスが発生するので、アミン液と接触させることにより精製している。この場合、酸性ガスはガス精製工程として、吸収塔においてアルカノールアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させることにより酸成分を吸収除去し、精製ガスはプロセスへ送る。酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)は再生塔に導入し、リボイラを熱源として精留することによって、蒸気ストリッピングにより熱分解性のアミン塩を分解して、気散性の酸成分を放出し、アミンを1次再生する。1次再生されたアミン液(リーンアミン)は吸収塔に循環し、酸成分の吸収除去に使用する。放出された硫化水素、炭酸ガス等の気散性の酸性ガスはそれぞれの回収装置へ送られる。
【0003】
酸性ガスに含まれる酸成分は、硫化水素、炭酸ガスが主成分であるが、この他に硫化カルボニル、シアン化水素、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等が微量成分として含まれる。これらの酸性ガスに含まれるすべての酸成分が、吸収塔においてアミン液に吸収され、アミン塩となる。再生塔では、硫化水素、炭酸ガスのアミン塩のように熱分解性のアミン塩は熱分解され、分離した硫化水素、炭酸ガス等の気散性の酸性ガスが系外へ放出され、アミンが1次再生される。ところがギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等のアミン塩のように熱安定性アミン塩(Heat Stable Amine Salt:以下、HSASと記す場合がある。)は再生塔では分解されず、アミン液中に蓄積する。このような熱安定性アミン塩(HSAS)が蓄積すると、吸収塔におけるアミン液の吸収効率が低下するほか、2〜3重量%になると装置の腐食や運転中の発泡の原因となるので、アミン液からHSASを除去し、アミン液を再生している。
【0004】
アミン液からHSASを除去する方法として、アミン液を水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリで中和する方法がある。この方法は、アミン液にアルカリを注入することにより、アミン塩を分解して、HSASを構成する熱安定性酸成分であるギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の難気散性の弱酸および強酸を溶離して、ナトリウム、カリウム等の金属塩を遊離させ、アミン液を再生することが行われている。ここで生成する熱安定性酸成分の金属塩は低濃度であれば吸収の障害にならないが、溶解度が低く、溶解度を超えると析出して害を及ぼすため、根本的な処置とはいえない。
【0005】
酸性ガスから酸成分の除去に用いたアミン液からHSASを実質的に除去する方法としてイオン交換法があり、特許文献1(特開平5−294902)には、カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層にアミン液を通液することにより、アミン液中のカチオンおよびアニオンを除去し、アミン液を2次再生することが記載されている。ここではHSASを構成するアミンに結合したアニオンの特性に応じて、I型およびII型の強酸性アニオン交換樹脂層をシリーズに配置してアニオンを除去している。これらの樹脂の再生は、カチオン交換樹脂の再生には硫酸等の酸、アニオン交換樹脂の再生には水酸化ナトリウム等のアルカリを通液することにより樹脂を再生し、アミン液の処理に供している。
【0006】
上記特許文献1を含む従来のアミン液の再生方法は、ガス精製工程の再生塔から硫化水素、炭酸ガス等の気散性の酸性ガスを除去したアミン液(リーンアミン)を、ガス精製工程に付随して設けられたカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層へ通液して、リーンアミン液中のカチオンおよびアニオンを除去することによりリーンアミン液を2次再生している。このようなイオン交換では、樹脂の交換容量が飽和すると対象のイオンが除去できなくなるので、除去対象のイオンがリークする貫流点において通液を停止し、再生に移る。再生は、カチオン交換樹脂層、アニオン交換樹脂層へ酸、塩、アルカリ等の再生剤を通液して再生し、リーンアミン液の2次再生に繰り返し使用している。
【0007】
従来、上記のような酸性ガスの精製にアミンを用い、アミン液をイオン交換樹脂で2次再生し、導電率によりイオン交換樹脂の貫流点を監視して樹脂の再生を行う方法は、主に石油精製その他のプロセスで発生する酸性ガスの精製に採用されているが、対象となる酸性ガスは前述のように硫化水素を含む非酸化性のガスが多く、アミン液自体の損傷、劣化などは比較的少なく、除去の対象となるのは酸性ガスに含まれる酸成分が主なものであり、イオン交換樹脂による処理で十分に対応できた。
【0008】
ところが近年、炭酸ガスの排出規制などの観点から、ボイラの煙道ガス等の石炭や石油などの燃焼ガスから、炭酸ガスその他の有害成分を除去する必要性が高まり、このような燃焼ガスの処理に上記のアミン液による吸収が検討されている。このような燃焼ガスは、炭酸ガスその他の酸成分のほか、酸素ガスや窒素ガス、ならびにイオウ、窒素等の酸化物や過酸化物などの酸化性成分を含む酸性ガスである。このような燃焼ガスをアミン液と接触させると、酸成分がアミン液に吸収されるのは前記従来の場合と同様であるが、このときアミンの酸化により、バイシン、その他のアミンの酸化物がアミン液に含まれるようになる。天然ガスの処理に用いたアミン液にも、このようなバイシン、その他のアミンの酸化物が含まれる場合が多い。
【0009】
バイシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)はキレート作用等により、鉄等の装置の器壁を腐食させると指摘されている。バイシンが鉄を腐食した結果生成する腐食生成物は、バイシン−鉄錯塩を形成しているものと認められる。一般にこのような錯塩は、キレート化合物として、安定な化合物とされている。しかしアミン液による処理系では、吸収塔にアミン液が循環して炭酸ガスを吸収すると、アミン液に含まれるバイシン−鉄錯塩は分解し、炭酸鉄が析出して充填材を目詰まりさせ、一方バイシンは遊離して、さらに鉄を腐食することが分かった。
【0010】
バイシンのほか、他のアミノ酸も同様のことが考えられるが、これらのアミノ酸−鉄錯塩は安定なキレート化合物であるため、その除去は困難であると考えられている。このようなキレート化合物を除去するためには、錯塩を分解して鉄を遊離させ、遊離した鉄およびアミノ酸をそれぞれイオン交換樹脂で除去することが考えられるが、中性塩分解能を持つ強塩基性カチオン交換樹脂を用いてもアミノ酸−鉄錯塩から鉄を除去することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−294902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、簡単な装置と操作により、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を効果的に除去することができ、これによりアミノ酸−鉄錯塩が分解して、炭酸鉄の析出により充填材を目詰まりさせるのを防止するとともに、遊離したアミノ酸が鉄を腐食させるのを防止することが可能なアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、次のアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法である。
(1) アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液をカチオン交換樹脂層に通液して遊離カチオンを除去し、
さらにアニオン交換樹脂層に通液して、アミノ酸−鉄錯塩および酸成分アニオンを除去する
ことを特徴とするアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法。
(2) 酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点となるまで通液可能なアミン液量の75〜85容積%以下のアミン液量を通液した時点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、
このアミノ酸−鉄錯塩貫流点で前記アニオン交換樹脂層の再生を行うか、
あるいは前記アミノ酸−鉄錯塩貫流点で前記アニオン交換樹脂層の流出液を第2アニオン交換樹脂層に通液し、前記アニオン交換樹脂層が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う上記(1)記載の方法。
(3) 酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点となるまで通液可能なアミン液量は、次の[1]式により求まる値である上記(2)記載の方法。
〔酸成分アニオン貫流点-までの通液可能量(L)〕=〔樹脂量(L)〕×〔貫流交換容量(eq/L−R)〕÷〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕・・・[1]
(4) 貫流交換容量は、酸成分アニオンを含み、アミノ酸−鉄錯塩を含まないアミン液を、使用するアニオン交換樹脂層に通液し、次の[2]式により求まる値である上記(3)記載の方法。
〔貫流交換容量(eq/L−R)〕=〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕×〔貫流点までの通液量(L)〕÷〔樹脂量(L)〕・・・[2]
(5) カチオン交換樹脂層の貫流点におけるリーンアミン液の通液量を100%としたとき、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液の通液量が103〜106%となる時点で、カチオン交換樹脂層の再生を行う上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6) アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液を、pH9.8〜12.5の状態でカチオン交換樹脂層に通液する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7) カチオン交換樹脂層を通過したアミン液を、pH9.5〜12.5の状態でアニオン交換樹脂層に通液する上記(6)記載の方法。
【0014】
本発明において、処理の対象となるアミン液は、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液である。このようなアミン液としては、ボイラの煙道ガス等の石炭や石油などの燃焼ガス、あるいは天然ガスなど、酸化性成分を含むガスを、アミン液と接触させて処理することにより、酸成分や酸化性成分を吸収し、アミンが変成されて生成したバイシン等のアミノ酸が鉄と結合してアミノ酸−鉄錯塩を形成しているアミン液であり、アミノ酸−鉄錯塩とともに酸成分アニオンを含んでいる。上記の燃焼ガス等の酸化性成分を含むガスは、炭酸ガスのほか、ギ酸、酢酸その他の低級有機酸が酸成分として含まれ、さらに酸素ガス、ならびにイオウ、窒素等の酸化物や過酸化物(SO、SO等のSO、ならびにNO、NO等のNO)などの酸化性成分を含む酸性ガスである。イオウ、窒素等の酸化物や過酸化物は酸化性成分であるとともに、酸成分であるものが多い。
【0015】
これらの酸成分および酸化性成分を含む酸性ガスと接触させて処理するための吸収液に用いられるアミン液としては、従来より石油精製等のプロセスのガス精製工程において用いられているアルカノールアミン、その他のアミン液を用いることができる。その具体例としては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)およびメチルジエタノールアミン(MDEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)等のアルカノールアミンが一般に用いられるが、他のアミンであってもよい。これらのアミン液は通常15〜55重量%の水溶液として用いられる。
【0016】
これらのアミン液が用いられるガス処理工程は、ボイラの煙道ガスのような石炭や石油等の燃焼ガス、あるいは天然ガスなど、酸素ガス、炭酸ガス、その他の酸成分、ならびに酸化性成分を含む酸性ガスと接触させて処理する工程であり、酸性ガスを吸収させる吸収工程と、アミン1次再生工程とからなる。吸収工程は酸成分および酸化性成分を含む酸性ガスを、吸収塔においてアミン液と接触させることにより、酸成分ならびに酸化性成分を吸収除去してリッチアミン液を生成する工程であり、処理ガスは熱回収工程等の後工程に送られる。アミン1次再生工程は、酸成分および酸化性成分を吸収したアミン液を再生塔において熱分解することにより、炭酸ガスその他の熱分解性ガスを放出して回収するとともに、アミン液を1次再生してリーンアミン液を生成する工程である。吸収塔および再生塔としては、それぞれ充填塔、その他の従来より用いられている気−液接触塔が用いられる。
【0017】
吸収工程は、吸収塔において酸性ガスとアミン液(リーンアミン液)とを分散状態で、例えば向流式に接触させることにより、酸成分および酸化性成分をアミン液に吸収させて被処理ガスから除去し、リッチアミン液を生成する。ここでは熱分解性のアミン塩を形成する炭酸ガス、酸素等の溶解性のガス、熱安定性アミン塩(HSAS)を形成するギ酸、酢酸等の低級有機酸のほか、無機酸を形成するイオウ、窒素等の酸化物や過酸化物、その他のアミンに溶解または反応する成分が吸収され、熱分解性のアミン塩および熱安定性アミン塩を形成する。この場合、アミンを構成する窒素原子の非共有電子対にプロトンが配位結合するため、「プロトン化(protonate)」が起こるとされているが、このとき酸を構成する対イオン(アニオン)はイオン結合するため、酸成分がアミン液に吸収される。
【0018】
吸収工程で酸成分および酸化性成分を吸収したアミン液は、アミン1次再生工程において熱分解することにより、アミン液を1次再生してリーンアミン液を生成する。熱分解は、酸成分および酸化性成分を吸収したアミン液(リッチアミン)を再生塔に導入し、リボイラを熱源として精留することによって、蒸気ストリッピングにより炭酸ガスのアミン塩のような熱分解性のアミン塩は熱分解され、分離する炭酸ガス等の気散性のガス成分を放出する。これによりアミンは1次再生され、炭酸ガス等の熱分解、気散性の酸成分を除去したリーンアミン液が生成し、リーンアミン液は吸収塔に循環して酸成分および酸化性成分の吸収に供される。分離した炭酸ガス等の気散性の酸性ガスは熱回収工程等の後工程を経て系外へ放出されるが、ギ酸、酢酸等の有機酸、亜硫酸、硫酸、亜硝酸、硝酸、その他の無機酸等の非気散性の酸成分のアミン塩のような熱安定性アミン塩(HSAS)は再生塔では分解されず、アミン液中に蓄積した状態で吸収塔に循環する。
【0019】
このようにガス処理工程において、アミン液による酸成分および酸化性成分の吸収と再生を繰返すと、吸収工程で酸成分および酸化性成分がアミン液に吸収されるとき、酸素や酸化性成分により、アミンが酸化されるためと推定されるが、バイシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、その他のアミノ酸がアミン液に含まれるようになる。これらのバイシンその他のアミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を持ち、弱いながら酸であるため、HSASに含まれる。
【0020】
これらのバイシンその他のアミノ酸はアミン液中で、キレート作用等により鉄等の装置の器壁を腐食させ、溶解した鉄イオンと結合して、バイシン−鉄錯塩を含むアミノ酸−鉄錯塩を形成する。このような腐食生成物としてのアミノ酸−鉄錯塩は、安定な錯化合物であるため、従来は特に処理の対象とはされていなかった。しかし前述のように、アミン液が吸収塔に循環して炭酸ガスを吸収すると、アミン液に含まれるアミノ酸−鉄錯塩は分解し、炭酸鉄が析出して充填材を目詰まりさせ、一方バイシン等のアミノ酸は遊離して、さらに鉄を腐食するので、本発明では、このアミノ酸−鉄錯塩をアミン液から除去する。
【0021】
アミノ酸−鉄錯塩は、アミノ酸と鉄イオンが反応した塩である。アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持つため、鉄イオンはカルボキシル基とイオン結合するが、アミノ基の非共有電子対に鉄が配位して錯塩となり、安定化するものと推測される。2価または3価の鉄イオン1個に対して1個のアミノ酸が反応したと考えると、鉄イオンの正電荷が残るため、カチオン性を示すと推測されるが、アミノ酸−鉄錯塩はカチオン交換樹脂に吸着されない。このため鉄イオン1個に対して2個または3個のアミノ酸が反応して非イオン性の錯塩となり、安定化しているものと推測される。
【0022】
一般の中性塩は、中性塩分解能を有する強酸性カチオン交換樹脂により中性塩分解されて吸着されるが、アミノ酸−鉄錯塩は、強酸性カチオン交換樹脂により中性塩分解されず、吸着されない。本発明者らがイオン交換樹脂によるアミノ酸−鉄錯塩の除去を検討したところ、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液を、pH9.8〜12.5、好ましくはpH10.0〜12.3でカチオン交換樹脂層に通液して遊離カチオンを除去し、カチオン交換樹脂層を通過したアミン液をpH9.5〜12.5、好ましくはpH10.0〜11.5の状態でアニオン交換樹脂層に通液することにより、アミノ酸と鉄を、それぞれ結合した状態で効率よく除去できることが分かった。この機構は不明であるが、アニオン交換樹脂の有機物吸着能による可能性もあり得るとも推測される。
【0023】
本発明では、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液をカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層に通液することにより、アミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去するが、このアミン液には、アミノ酸−鉄錯塩のほかに酸成分アニオン、特にHSASアニオンを含んでいてもよい。アミノ酸−鉄錯塩および酸成分を含むアミン液をアニオン交換樹脂層に通液すると、アミノ酸−鉄錯塩とともに、これらの酸成分アニオンも同時に除去できる。またアミノ酸−鉄錯塩は分解することなく、アミノ酸と鉄が結合した状態で吸着されるので、単一の操作によりアミノ酸と鉄が同時に除去されることになり、効率のよい除去が行える。アニオン交換樹脂層に吸着されたアミノ酸−鉄錯塩は、水酸化ナトリウム等のアルカリ液の通液により容易に溶離し、アニオン交換樹脂層は再生される。アミン液中のアミノ酸−鉄錯塩の許容限度は数百mg/L(通常250mg/L)とされるので、この範囲内の濃度を維持するように処理が行われる。
【0024】
アミン液中には、通常被処理ガスから持ち込まれるカチオンが含まれるので、本発明では、アニオン交換樹脂層による処理に先立ちカチオン交換処理を行う。すなわち酸性ガスから移行する遊離カチオンが存在する場合には、リーンアミン液をカチオン交換樹脂層を通過させ、これらを除去することにより、アミン2次再生工程におけるアニオン交換樹脂への悪影響を防止することができる。ここで用いるカチオン交換樹脂層としては、強酸性カチオン交換樹脂が好ましい。
【0025】
このほか無機物や非イオン性の有機物等の不純物がアミン液中に含まれる場合には、ろ過、活性炭処理、膜分離等の前処理を行うのが好ましい。酸性ガスから移行する非イオン性の無機物、固形物等はろ過、膜分離などにより予め除去される。非イオン性の有機物等には活性炭処理、膜分離などが有効であり、アミンの酸化物その他の変成物のうち非イオン性のものは、これらの処理により除去することができる。
【0026】
アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液を、前処理により無機物や非イオン性の有機物等の不純物を除去し、さらにカチオン交換処理によりカチオンを除去した後、アニオン交換樹脂層に通液することにより、アミノ酸−鉄錯塩を効率よく除去することができる。アミン液がHSASを構成する非気散性の酸成分を含む場合は、これらの酸成分アニオンも除去され、アミン液は2次再生される。この場合、リーンアミン液の少なくとも一部をアニオン交換樹脂層に通液することにより、リーンアミン液に含まれるアミノ酸−鉄錯塩および熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンが交換吸着により除去され、再生されたリーンアミン液は吸収塔に循環される。アニオン交換樹脂層は、交換容量が飽和した時点で、リーンアミン液の通液を停止し、水酸化ナトリウム水溶液等の再生剤を通液してアニオン交換樹脂の再生を行う。
【0027】
交換容量が飽和した時点は、除去対象のイオンがリークする貫流点であり、一般には導電率によって検出されている。これはリークするイオンの導電性を利用して、導電率の強弱により、イオンのリークを検出するものである。この場合、貫流点と判定する導電率の値は、リークするイオンの許容値によって決まる。従来の石油精製その他のプロセスの酸性ガスの精製工程において、酸成分を吸収したアミン液を1次再生したリーンアミン液をアニオン交換樹脂に通液してHSASを除去する場合、酢酸が最初にリークし、導電率が急上昇する。一般的な熱安定性酸成分の場合、リークするイオンの許容値は1〜2重量%とされ、導電率が約1000μS/cmの点を通液停止点としている。
【0028】
ところがアミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液の場合、HSASを構成する酸成分を含む場合でも、酢酸よりも先にバイシン等のアミノ酸−鉄錯塩がリークする。このアミノ酸−鉄錯塩はアミノ酸と鉄に解離しないので、導電率は低く、アミノ酸−鉄錯塩がリークする時点を導電率で検出するのは困難である。リーンアミン液をアニオン交換樹脂層に通液し、アミノ酸−鉄錯塩およびHSASを構成する酸成分アニオンを除去したとき、アニオン交換樹脂層から流出するアミン液の導電率を測定すると、アミン自体の導電率が150〜200μS/cm程度検出されるが、アミノ酸−鉄錯塩がリークしても、導電率はほとんど変化しない。
【0029】
アミン液をアニオン交換樹脂層に通液し、アミノ酸−鉄錯塩および熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンを除去する場合、アミノ酸−鉄錯塩が酢酸などの熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンよりも先にリークするのは、アミノ酸−鉄錯塩は樹脂との親和性が弱いので、一旦樹脂に交換吸着されても、後から来る親和性の強いイオンに置換されて追い出されるため、樹脂との親和性の弱いイオンから順次溶出してくるためであると推測される。
【0030】
樹脂との親和性は解離指数によって決まり、pKaが大きいほど親和性が弱いとされる。前記HSASを構成する熱安定性酸成分の中では、酢酸がpKa4.76で最も大きいので、最初に樹脂層からリークするが、バイシン−鉄錯塩はバイシンのpKa8.35でさらに大きいため、酢酸よりも先にリークするものと推測される。pKaが大きいということは、イオン性が小さいことを意味し、バイシン−鉄錯塩等のアミノ酸−鉄錯塩の導電率は低い。その上リークするアミノ酸−鉄錯塩の許容値は250mg/Lの低濃度であり、このような低濃度のアミノ酸−鉄錯塩を導電率で検出することができず、導電率によりアニオン交換樹脂の貫流点を監視して樹脂の再生を行うことができない。
【0031】
アミン液がアミノ酸−鉄錯塩およびHSASを構成する酸成分を含む場合、アミノ酸−鉄錯塩のリークした後、しばらくしてHSASを構成する酸成分アニオン、一般には酢酸がリークし、導電率が急上昇する。一般的な熱安定性酸成分の場合、リークするイオンの許容値は1〜2重量%とされ、導電率が約1000μS/cmで容易に検出できる。アミノ酸−鉄錯塩のリークする時点と、酢酸がリークする時点との間には一定の関係があるため、本発明では、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点を基準として、アミノ酸−鉄錯塩貫流点を決め、アニオン交換樹脂の再生に移る。
【0032】
すなわち本発明では、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点となるまで通液可能なアミン液量の75〜85容積%以下のアミン液量を通液した時点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、このアミノ酸−鉄錯塩貫流点でアニオン交換樹脂層の再生を行うか、あるいは前記アミノ酸−鉄錯塩貫流点でアニオン交換樹脂層の流出液を第2アニオン交換樹脂層に通液し、アニオン交換樹脂層が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う。
【0033】
熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンがリークする酸成分アニオンの貫流点となるまで通液可能なリーンアミン液量は、試験的に被処理リーンアミン液を通液し、導電率で酸成分アニオンのリークする酸成分アニオン貫流点を検出し、それまでに通液した積算量とすることができる。被処理リーンアミン液の組成が変わらない場合には、この量は上記通液可能なリーンアミン液量として、その75〜85容積%以下のリーンアミン液量を通液した点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とすることができる。
【0034】
リーンアミン液の組成が変わる場合には、リーンアミン液の組成、アニオン交換樹脂の樹脂量および貫流交換容量から、次の[1]式により上記酸成分アニオン貫流点-までの通液可能量を求めることができる。[1]式中、アミン液中の酸成分アニオン当量は、単位被処理リーンアミン液に含まれる全酸成分アニオンの当量であり、アミノ酸−鉄錯塩のアミノ酸は含まない。
〔酸成分アニオンの貫流点-までの通液可能量(L)〕=〔樹脂量(L)〕×〔貫流交換容量(eq/L−R)〕÷〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕・・・[1]
【0035】
貫流交換容量を求めるには、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンを含み、アミノ酸−鉄錯塩を含まないリーンアミン液を、使用するアニオン交換樹脂層に通液し、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンの許容値に対応する導電率を検出することにより酸成分アニオンがリークする貫流点を決めることができる。この場合、例えば導電率約1000μS/cmを検出した時点を、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンの貫流点とすることができる。こうして求められる貫流点から、次の[2]式によりアニオン交換樹脂層の貫流交換容量が算出される。
〔貫流交換容量(eq/L−R)〕=〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕×〔貫流点までの通液量(L)〕÷〔樹脂量(L)〕・・・[2]
【0036】
アニオン交換樹脂層の再生を行うためのアニオン交換樹脂層のアミノ酸−鉄錯塩貫流点は、上記[1]式により求めた酸成分アニオン貫流点-までの通液可能量の75〜85容積%以下のリーンアミン液量を通液した点であり、このアミノ酸−鉄錯塩貫流点で、アニオン交換樹脂層の再生を行うか、あるいは前記アミノ酸−鉄錯塩貫流点でアニオン交換樹脂層の流出液を第2アニオン交換樹脂層に通液し、アニオン交換樹脂層が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う。アミノ酸−鉄錯塩貫流点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う場合は、この時点でアミン液の通液を停止して、前記アニオン交換樹脂層の再生に移る。第2アニオン交換樹脂層を設ける場合は、アミノ酸−鉄錯塩貫流点で前記アニオン交換樹脂層の流出液を第2アニオン交換樹脂層に通液して、リークするアミノ酸−鉄錯塩を第2アニオン交換樹脂層で除去し、前記アニオン交換樹脂層が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う。第2アニオン交換樹脂層が飽和したときは、第2アニオン交換樹脂層のアミノ酸−鉄錯塩貫流点において、独立に再生を行う。
【0037】
アミノ酸−鉄錯塩は、酸成分アニオン貫流点にいたる前にすでにリークしているが、通液可能量の85容積%以下のリーンアミン液量を通液した点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とすることにより、アミノ酸−鉄錯塩のリーク量を許容値内にすることができ、特に75容積%以下を通液した点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とすることにより、それらのリークを防止することができる。上記通液可能量に掛ける75〜85容積%以下の具体的な数値は、リーンアミン液に含まれる酸成分アニオンとアミノ酸−鉄錯塩の当量比によりきまるが、アミノ酸−鉄錯塩の含有率が低い場合は85容積%以下とし、その含有率が高くなるに従って容積%の数値を小さくすることができるが、含有率が高い場合は75容積%以下とするのが好ましい。
【0038】
カチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層の再生は通常の樹脂の再生と同様に行うことができる。例えばカチオン交換樹脂層に対しては塩酸、硫酸等の酸を通液し、アニオン交換樹脂層に対しては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ、または食塩等の塩とアルカリを通液する薬注工程、同量の水を流す押出工程、および水洗工程を行うことによりカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層は再生される。再生したカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層は、リーンアミン液を通液することにより、リーンアミン液の2次再生を再開することができる。
【0039】
イオン交換樹脂層に再生剤を通液して再生するに際しては、以下の工程により相転換し、アミンを回収するのが好ましい。
(1)イオン交換塔内のイオン交換樹脂層の上方に窒素ガスを導入して、イオン交換塔の底部からアミン液を流出させるガス置換工程。
(2)アミン液の流出後も窒素ガスの導入を継続し、樹脂に付着するアミン液を流下させるアミン液流下工程。
(3)樹脂層からアミン液の流下が停止した段階で、イオン交換塔内に水を導入して樹脂層の上方まで満たした後、下向流で水を流下させて樹脂に付着するアミン液を洗い流し、水相に置換する水置換工程。
【0040】
カチオン交換樹脂層では、貫流点においてカチオンがリークする時点では、カチオン交換樹脂層には多量のアミンが吸着された状態になっているので、この時点でカチオン交換樹脂層を再生すると、アミンが再生排液中に排出され、アミンの歩留まりが低下するとともに、再生排液の処理が困難になる。このような点を改善するためには、カチオン交換樹脂層の貫流点後もアミン液を通液し、カチオン交換樹脂に交換吸着したアミンを溶出させた時点、すなわちカチオン交換樹脂層の貫流点におけるリーンアミン液の通液量を100%としたとき、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液の通液量が103〜106%となる時点を飽和点とし、この時点で相転換に移って窒素ガスの導入を行うことにより、アミン液の回収率をさらに高くし、アミンのロスを少なくすることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液をカチオン交換樹脂層に通液して遊離カチオンを除去し、さらにアニオン交換樹脂層に通液してアミノ酸−鉄錯塩および酸成分アニオンを除去するようにしたので、簡単な装置と操作により、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を効果的に除去することができ、これによりアミノ酸−鉄錯塩が分解して、炭酸鉄の析出により充填材を目詰まりさせるのを防止とともに、遊離したアミノ酸が鉄を腐食させるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態の全体の処理方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1において、1はガス処理工程を構成する吸収塔、2は1次再生塔であり、ラインL1、L2により、ポンプP1、P2および熱交換器3を介して連絡している。吸収塔1および1次再生塔2は内部に充填層4、5を備え、気−液接触により吸収および1次再生を行うように構成されている。吸収塔1にはラインL3、L4が連絡しており、ラインL3から入る酸成分を含む酸性ガスを充填層4において、ラインL1から入るリーンアミン液と接触させ、これにより酸成分を吸収除去して精製ガスをラインL4からプロセスへ返送し、生成するリッチアミン液をラインL2から1次再生塔2へ送るように構成されている。1次再生塔2では、ラインL5からリーンアミン液をリボイラ6へ送って蒸気加熱することにより、ラインL2から入るリッチアミン液を蒸気ストリッピングし、硫化水素、炭酸ガスのアミン塩のような熱分解性のアミン塩を分解して酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成し、リーンアミン液をラインL1から吸収塔1に循環し、蒸気はコンデンサ7で凝縮し、凝縮水はラインL6から凝縮水槽8を経て1次再生塔2へ還流するように構成されている。
【0044】
11はカチオン交換塔、12はアニオン交換塔で、それぞれカチオン交換樹脂層13、アニオン交換樹脂層14を備え、イオン交換装置を構成している。これらはラインL1から分岐するラインL11に、フィルタ15、活性炭槽16の後流に設けられ、アミン貯槽17、ポンプP3を介してラインL12からラインL1に連絡している。18は再生排液槽である。
【0045】
ガス処理工程では、吸収工程としてボイラの煙道ガス等の石炭や石油などの燃焼ガス、あるいは天然ガスなどの酸化性成分を含むガスを、ラインL3から吸収塔1へ導入し、充填層4においてラインL1から入るリーンアミン液と接触させ、これにより酸成分を吸収除去して精製ガスをラインL4からプロセスへ返送し、生成するリッチアミン液をラインL2から1次再生塔2へ送る。ここでは熱分解性のアミン塩を形成する炭酸ガス等の気散性のガスも、HSASを形成するギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、無機酸等の難気散性のガスも吸収され、熱分解性のアミン塩および熱安定性アミン塩を形成する。
【0046】
1次再生工程では、1次再生塔2においてリボイラ6により発生する蒸気を導入して加熱することにより、ラインL2から入るリッチアミン液を蒸気ストリッピングし、硫化水素、炭酸ガスのアミン塩のような熱分解性のアミン塩を分解して酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成し、リーンアミン液をラインL2から吸収塔1に循環する。分離した炭酸ガス等の気散性の酸性ガスはラインL7から系外へ放出されるが、ギ酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の非気散性の酸成分のアミン塩、ならびにアミンの酸化物であるアミノ酸−鉄錯塩のようなHSASは分解されず、アミン液中に蓄積する。
【0047】
アミノ酸−鉄錯塩および酸成分を含むリーンアミン液の一部をラインL11から分流してカチオン交換塔11、アニオン交換塔12からなるイオン交換装置へ送り、2次再生を行う。このときラインL11から入るリーンアミン液を、フィルタ15に流してろ過し、活性炭槽16で活性炭処理し、カチオン交換塔11でカチオン交換樹脂層13によりカチオンを交換除去し、アニオン交換塔12でアニオン交換樹脂層14によりHSASを構成するアニオンを交換除去して2次再生する。2次再生されたアミン液(リーンアミン液)は、アミン貯槽17に貯留され、ラインL12から吸収塔1へ循環する。
【0048】
カチオン交換塔11およびアニオン交換塔12の出口に設けられた電気伝導率計の電気伝導率信号によりイオンがリークする貫流点を判定し、それぞれの樹脂の再生に移る。カチオン交換樹脂層13を含むカチオン交換塔11およびアニオン交換樹脂層14を含むアニオン交換塔12では、樹脂が飽和に達する時期が異なるので、それぞれ再生が必要になった時点で通液を停止し、個別に樹脂の再生を行う。カチオン交換塔11については、流出液の電気伝導率が急上昇する時点、すなわちイオンがリークし始めるカチオンの貫流点において再生に移ってもよいが、前述のように、カチオンの貫流点におけるリーンアミン液の積算通液量を100%としたとき、リーンアミン液の積算通液量が103〜106%、好ましくは104〜105%となる時点で再生に移るのが好ましい。
【0049】
アニオン交換塔12については、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンがリークする酸成分アニオンの貫流点となるまで通液可能なアミン液量の75〜85容積%以下のアミン液量を通液した時点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、このアミノ酸−鉄錯塩貫流点でアニオン交換樹脂層13の再生を行うか、あるいは前記アミノ酸−鉄錯塩貫流点でアニオン交換塔12の流出液をラインL11aから第2アニオン交換塔12aに通液し、第2アニオン交換樹脂層14aでアミノ酸−鉄錯塩を吸着させ、ラインL11bからアミン貯槽17へ送られる。アニオン交換樹脂層14が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層14の再生を行う。これらの時点は、カチオン交換塔11、アニオン交換塔12に設けられた導電率計の導電率信号を制御装置に入力して、前記式[1]および[2]で演算することにより決められる。第2アニオン交換樹脂層14aが飽和したときは、独立に再生を行う。
【0050】
これらの再生に先立って、それぞれのイオン交換樹脂層について、以下の相転換を行い、アミンを回収する。
まずガス置換工程(1)では、イオン交換塔としてのカチオン交換塔11またはアニオン交換塔12内に、ラインL13またはL14からイオン交換樹脂層であるカチオン交換樹脂層13またはアニオン交換樹脂層14の上方に窒素ガスを導入して、カチオン交換塔11またはアニオン交換塔12の底部からアミン液を流出させ、イオン交換塔内をアミン相からガス相に転換する。
【0051】
ガス置換工程(1)で窒素ガスによりアミン液を押し出しても、イオン交換樹脂の表面にはアミン液が付着しているので、ガス置換工程(1)によるアミン液の流出後も、アミン液流下工程(2)として、ラインL13またはL14からの窒素ガスの導入を継続し、樹脂に付着するアミン液を流下させて回収する。
【0052】
樹脂層からアミン液の流下が停止した段階で、水置換工程(3)移る。このときカチオン交換塔11またはアニオン交換塔12内に、ラインL17、L18から純水を導入して樹脂層の上方まで満たした後、下向流で水を流下させて樹脂に付着するアミン液を洗い流し、水相に置換する。流出する希釈アミン液は、ラインL15またはL16からアミン貯槽17に回収する。その後ラインL19またはL20からカチオン交換塔11またはアニオン交換塔12に再生剤を送って、カチオン交換樹脂層13またはアニオン交換樹脂層14を再生し、再生排液をラインL21またはL22から再生排液槽18へ排出する。第2アニオン交換樹脂塔12aを用いる場合も、同様にして再生を行う。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例および比較例(従来例)について説明する。
【0054】
〔比較例1〕:
石油精製プロセス酸性ガスの精製において、水酸化ナトリウムで中和して得られるリーンアミン液であって、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンおよびナトリウムを含み、アミノ酸−鉄錯塩を含まないアミン液を模擬し、表1に示す酸および水酸化ナトリウムを純水に添加して、アミン液Aを調製した。アミン液Aの組成は、メチルジエタノールアミン(MDEA);40重量%、ギ酸;2000mg/L(44.4meq/L)、酢酸;1000mg/L(16.9meq/L)、硫酸;1000mg/L(20.8meq/L)、チオシアン酸;2000mg/L(34.5meq/L)、溶存ナトリウム;500mg/L、残部;水、pH10.7であり、全アニオン当量は117meq/Lである。
【0055】
活性炭(クリコールWG−560:栗田工業(株)製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さ充填し、上記のアミン液Aを458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液した。その流出液をさらに、強塩基性カチオン交換樹脂(ダウエックスマラソンMSC、ダウケミカル社製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さに充填した充填層に、458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F3として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表1に示す。表1において、ナトリウムはF1でカチオン交換樹脂により除去され、アミンも吸着されていることがわかる。
【0056】
【表1】

【0057】
〔比較例2〕:
比較例1から得られるカチオン交換後のアミン液であって、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンを含み、アミノ酸−鉄錯塩を含まないアミン液Bの組成は、メチルジエタノールアミン(MDEA);40重量%、ギ酸;2000mg/L(44.4meq/L)、酢酸;1000mg/L(16.9meq/L)、硫酸;1000mg/L(20.8meq/L)、チオシアン酸;2000mg/L(34.5meq/L)、残部;水、pH10.2であり、全アニオン当量は117meq/Lである。
【0058】
上記のアミン液Bをさらに、強塩基性アニオン交換樹脂(ダウエックスマラソンMSA、ダウケミカル社製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さに充填した充填層に、458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F14として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表2に示す。表2において、導電率が1000μS/cmに達する点を貫流点とすると、F11とF12の境界が貫流点となり、貫流点までの通液量は350mLとなる。この結果より[2]式により貫流交換容量を求めると、次の[2a]式のように0.745(eq/L−R)になる。
〔貫流交換容量(eq/L−R)〕=〔アミン液中のアニオン当量0.117(eq/L)〕×〔貫流点までの通液量0.350(L)〕÷〔樹脂量0.055(L)〕
=0.745(eq/L−R)・・・[2a]
【0059】
【表2】

【0060】
〔実施例1〕:
煙道ガスの精製から得られる中和処理を行わないリーンアミン液であって、アミノ酸−鉄錯塩および熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンを含むアミン液を模擬し、表3に示す酸、水酸化ナトリウム、バイシンおよび硫酸鉄(II)を純水に添加して、アミン液Cを調製した。アミン液Cの組成は、メチルジエタノールアミン(MDEA);40.0重量%、ギ酸;1000mg/L(22.2meq/L)、酢酸;1000mg/L(16.9meq/L)、硫酸;1000mg/L(20.8meq/L)、硝酸;1000mg/L(16.1meq/L)、バイシン;1000mg/L(6.2meq/L)、溶存鉄190mg/L、ナトリウム;500mg/L、残部;水、pH10.8であり、全アニオン当量は82.2meq/Lである。
【0061】
比較例1と同様に、活性炭(クリコールWG−560:栗田工業(株)製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さ充填し、上記のアミン液Cを458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液した。その流出液をさらに、強塩基性カチオン交換樹脂(ダウエックスマラソンMSC、ダウケミカル社製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さに充填した充填層に、458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F4として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表3に示す。表3において、ナトリウムはF1でカチオン交換樹脂により除去されるが、溶存鉄は除去されず、アミンはF1、F2で吸着されることがわかる。
【0062】
【表3】

【0063】
〔実施例2〕:
実施例1から得られるカチオン交換後のアミン液(pH10.3)であって、バイシン−鉄錯塩および熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンを含み、ナトリウムを含まないアミン液D(F4)を、強塩基性アニオン交換樹脂(ダウエックスマラソンMSA、ダウケミカル社製、商標)55mLを円筒カラムに700mmの高さに充填した充填層に、458mL/H(SV;8.3、LV;5.8m/H)で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F5−4として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表4に示す。ここではバイシンと溶存鉄は同時に吸着され、同時にリークしているので、両者が結合したバイシン−鉄錯塩を形成しているものと認められる。
【0064】
【表4】

【0065】
表4において、[1]式により酸成分アニオンの貫流点-までの通液可能量を求めると、次の[1a]式のようになる。
〔酸成分アニオンの貫流点-までの通液可能量(L)〕=〔樹脂量0.055(L)〕×〔貫流交換容量0.745(eq/L−R)〕÷〔アミン液中の酸成分アニオン当量0.0822(eq/L)〕=0.498(L)・・・[1a]
【0066】
この酸成分アニオンの貫流点-までの通液可能量(計算値)は、分取液の累積量で表すと460mL〜500mLの分取液F4−3までに相当するので、導電率が1000μS/cm(貫流点)に達するまでの-累積通液量(通液可能量の実験値)とほぼ一致している。
貫流点に達するまでの-通液可能量(実験値)を500mLとすると、この通液可能量の85%は425mLで、バイシン−鉄錯塩がリークし始める分取液F4−1の採取中であり、バイシン−鉄錯塩のリーク量は130mg/Lで、許容値(250mg/L)の範囲内の値である。また通液可能量の75%は375mLで、分取液F3までの累積通液量の375mLに相当し、この時点ではバイシン−鉄錯塩のリークはない。
【0067】
以上の結果より、熱安定性アミン塩を構成する酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点となるまで通液可能なリーンアミン液量の75容積%以下でアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、この時点でリーンアミン液の通液を停止することにより、バイシンのリークを防止することができ、さらに85容積%以下でアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、リーンアミン液の通液を停止することにより、バイシンのリークを許容値内に収めることができ、この点でアニオン交換樹脂の再生に移るのが好ましいことがわかる。
【0068】
〔実施例3〕:
実施例2において、熱安定性アミン塩を構成するアニオンがリークする貫流点となるまで通液可能なアミン量の75〜100容積%のアニオン交換樹脂層の流出液を模擬したアミン液Eを調整した。アミン液Eの組成は、メチルジエタノールアミン(MDEA);39.3重量%、ギ酸;500mg/L(11.1meq/L)、酢酸;1300mg/L(22.2meq/L)、バイシン;2500mg/L(15.5meq/L)、溶存鉄;450mg/L、残部;水であり、全アニオン当量は48.5meq/Lである。
【0069】
実施例2のアニオン交換樹脂層と同じ構成を持つ第2のアニオン交換樹脂層に、上記のアミン液Eを、実施例2のアニオン交換樹脂層の場合と同じ条件で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F6−3として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
〔実施例4〕:
実施例3のアミン液Eを通液した第2のアニオン交換樹脂層を、液相置換、水洗、薬注(8%水酸化ナトリウム、5BV)、液抜き、水洗、液抜きの工程により再生した。そして再生した第2のアニオン交換樹脂層に上記のアミン液Eを、前回と同じ条件で通液し、流出液を所定量ずつF1〜F6−3として分取し、導電率の測定と成分分析を行った。その結果を表6に示す。
【0072】
【表6】

【0073】
表6の結果より、第2のアニオン交換樹脂層は再生により性能が回復し、繰り返し使用が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
石炭、石油等の燃焼ガスや天然ガスなどの酸性ガスの処理工程において、アミノ酸−鉄錯塩および酸成分吸収したアミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液から、イオン交換樹脂を用いて、アミノ酸−鉄錯塩を除去する方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1: 吸収塔、2: 1次再生塔、3: 熱交換器、4、5: 充填層、6: リボイラ、7: コンデンサ、8: 凝縮水槽、11: カチオン交換塔、12: アニオン交換塔、12a: 第2アニオン交換塔、13: カチオン交換樹脂層、14: アニオン交換樹脂層、14a: 第2アニオン交換樹脂層、15: フィルタ、16: 活性炭槽、17: アミン貯槽、18: 再生排液槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液をカチオン交換樹脂層に通液して遊離カチオンを除去し、
さらにアニオン交換樹脂層に通液して、アミノ酸−鉄錯塩および酸成分アニオンを除去する
ことを特徴とするアミン液からアミノ酸−鉄錯塩を除去する方法。
【請求項2】
酸成分アニオンがリークする酸成分アニオン貫流点となるまで通液可能なアミン液量の75〜85容積%以下のアミン液量を通液した時点をアミノ酸−鉄錯塩貫流点とし、
このアミノ酸−鉄錯塩貫流点で前記アニオン交換樹脂層の再生を行うか、
あるいは前記アミノ酸−鉄錯塩貫流点で前記アニオン交換樹脂層の流出液を第2アニオン交換樹脂層に通液し、前記アニオン交換樹脂層が前記酸成分アニオン貫流点となった時点で、前記アニオン交換樹脂層の再生を行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
酸成分アニオンがリークする酸成分アニオンの貫流点となるまで通液可能なアミン液量は、次の[1]式により求まる値である請求項2記載の方法。
〔酸成分アニオン貫流点-までの通液可能量(L)〕=〔樹脂量(L)〕×〔貫流交換容量(eq/L−R)〕÷〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕・・・[1]
【請求項4】
貫流交換容量は、酸成分アニオンを含み、アミノ酸−鉄錯塩を含まないアミン液を、使用するアニオン交換樹脂層に通液し、次の[2]式により求まる値である請求項3記載の方法。
〔貫流交換容量(eq/L−R)〕=〔アミン液中の酸成分アニオン当量(eq/L)〕×〔貫流点までの通液量(L)〕÷〔樹脂量(L)〕・・・[2]
【請求項5】
カチオン交換樹脂層の貫流点におけるリーンアミン液の通液量を100%としたとき、アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液の通液量が103〜106%となる時点で、カチオン交換樹脂層の再生を行う請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸−鉄錯塩を含むアミン液を、pH9.8〜12.5の状態でカチオン交換樹脂層に通液する請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
カチオン交換樹脂層を通過したアミン液を、pH9.5〜12.5の状態でアニオン交換樹脂層に通液する請求項6記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168539(P2011−168539A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34031(P2010−34031)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(390027188)栗田エンジニアリング株式会社 (26)
【Fターム(参考)】