説明

アルカリセルロース、およびアルカリセルロースまたはその誘導体の製造方法。

【課題】 アルカリ置換基の均一分散性の高いアルカリセルロースを効率的に製造すること。
【解決手段】 セルロースを水およびアルカリの存在下、機械的処理をすることによりアルカリセルロースを製造するに際し、水を、水とセルロースの合計に対し10〜30重量%の割合になるような量で、使用することを特徴とする、アルカリセルロースの製造方法。得られたアルカリセルロースにエーテル化剤として、ハロゲン化アルキル、アルキレンオキサイド、ハロゲン化酢酸、またはビニル系モノマーを反応させることを特徴とするセルロースエーテル誘導体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を極小量用いてアルカリセルロースを製造する方法、該方法で得られたアルカリ金属が均質に分散したアルカリセルロースおよびそれからセルロースエーテル誘導体を製造する方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリセルロースはセルロース誘導体の前駆体として重要なものである。古くよりビスコースの原料を初めとして、セルロースエーテル、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)の原料として、用いられており、その製法も古くから開発されてきている。
セルロースは、グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の高分子である。セルロースは多くの水酸基を有し、該水酸基が分子内で水素結合するのに加えて、分子間も水素結合が形成され、化学的に強固な構造となっている。また、セルロースは結晶構造の観点で見ても、それを構成する高分子が集束配列した結晶部分と緩く配列した非結晶部分より成る不均質構造のものであることも良く知られたことである。
セルロースにアルカリを導入しアルカリセルロースにするには、このような化学的および結晶学的に見て極めて強固な構造が存在すること、および不均質な構造が存在することが、色々な問題を生じさせているのである。即ち、アルカリセルロース中のアルカリ置換度やアルカリ置換基の均一分散性は、それから誘導される各種セルロースエーテル誘導体の性質にも少なからぬ影響を与えるのである。例えば、セルロースエーテル誘導体の一種であるカルボキシメチルセルロースの水に対する膨潤性乃至溶解性はその原料となるアルカリセルロースのアルカリ置換度によって大きく影響されるのである。
【0003】
従来、一般的には、アルカリセルロースの製造には、高濃度(通常、10〜20重量%または20〜45重量%)のNaOH溶液を、固体セルロースに対して、大過剰で使用して化学反応させていた。
特許文献で先行技術を幾つか抽出してみると以下のような文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−316101号
【特許文献2】国際公開WO 01/346552
【特許文献3】特開2001−302701号
【特許文献4】特開2006−348177号
【特許文献5】特開2007−197678号
【特許文献6】特開2007−197679号
【特許文献7】特開2007−197680号
【0005】
アルカリセルロースの製造における水の使用割合と機械的処理の観点でこれらの文献を概括すると次の通りである。
特許文献1では、例えば実施例ではセルロース濃度5〜8%の溶液で、高速撹拌型ミキサー(T.K.ホモミキサー)を用いて処理を行っている。
特許文献2では、セルロース含有率4〜12重量%で、メディア式湿式粉砕、低温撹拌混練機(ニーダー)、ホモミキサー等の手段を用いている。
特許文献3では、例えば実施例1ではパルプ10gに対し水6.7gを用い、二軸混練機で処理している。
特許文献4では、例えば実施例ではパルプ35Kgに対し水44Kgの割合で、高速分散装置(具体的にはフロージェットミキサー)を用いている。
特許文献5では、例えば実施例1では50Kgのパルプに対し49%NaOH水溶液1700(l)を使用し、スクリューコンベヤーで処理している。
特許文献6では、例えば実施例4、5では15Kgのパルプに対し44%NaOH水溶液150(l)を使用し、ロータリーフィーダーで処理している。
特許文献7では、例えば実施例1では50Kgのパルプに対し49%NaOH水溶液1300(l)を使用し、パイプ型接触器で処理している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、特許文献1〜7では、用いられる水の量が、本発明のような極小量(パルプ+水の量に対する水の割合が10〜30%、逆にいうと、パルプの割合が90〜70%)ではなく、それからほど遠い多い量である。また、アルカリ化の処理に用いる機械も、混練や分散を主として意図する装置ばかりであり、本発明のボールミルのようなセルロースの強固な結晶構造をほぐしセルロース分子鎖をバラバラにさせるような「高剪断力がかけられ、且つ混合することもできる機械処理」のようなものは、記載されていない。このように、大量のNaOHや水を用いればセルロースをアルカリ化してアルカリセルロースとすることはできるかも知れないが、(1)アルカリ化をする操作の為の装置が大規模となること、(2)廃液が大量に排出されること等の問題があった。その他、(3)固形セルロースには結晶部分と非結晶部分が存在し、結晶構造の部分のアルカリ化の進行が遅れ、それが均一で迅速な化学反応の進行を妨げるといった問題もあった。そのことは、(4)部分的には十分アルカリ化していないアルカリセルロース(即ち、セルロースの本来の結晶構造を残置したままのセルロース、置換度の低いセルロース)しかできていなかった、という問題をも生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、アルカリセルロースを製造するに際しては高濃度のNaOH水溶液を多量に使用し、操作・装置が大規模となり、また、多量の廃液が出るという従来の問題を解決することを目的とする。また、本発明は、アルカリ置換基の均一分散性の高いアルカリセルロースを効率的に製造することを目的とする。さらにまた、アルカリセルロースから誘導されるエーテル化率が高いエーテル誘導体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記従来技術の諸問題を解決する方法を模索し、試行錯誤を重ねた結果、水を極小量(水を、水と固体セルロースの合計量に対して10〜30重量%になるような量)で用いると共に、機械的処理な処理を施すことにより、効果的にアルカリ置換が行われ、置換基が均一に分散したアルカリセルロースを製造することができることを発見し、それに基づき本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(6)に記載のアルカリセルロースの製造方法、(7)に記載のアルカリセルロース、および(8)〜(10)に記載のセルロースエーテル誘導体の製造方法、に関する。
(1)セルロースを水およびアルカリの存在下、機械的処理をすることによりアルカリセルロースを製造するに際し、水を、水とセルロースの合計に対し10〜30重量%の割合になるような量で、使用することを特徴とする、アルカリセルロースの製造方法。
(2)セルロースに、水および水酸化アルカリを加え、この混合物を機械的に処理することによりアルカリセルロースを製造する、(1)に記載のアルカリセルロースの製造方法。
(3)セルロースに、水を加えて機械的処理をした後、水酸化アルカリを加えて機械的処理をする、アルカリセルロースを製造する、(1)に記載のアルカリセルロースの製造方法。
(4)アルカリは水に対し90〜10(分母はアルカリ+水)重量%の濃度の水溶液を形成するような割合で用いることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
(5)アルカリをセルロースに対し、両者の合計に対し50〜11(分母はセルロース+アルカリ)重量%の割合になるような量で使用することを特徴とする、(1)ないし(4)のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
(6)機械的処理が、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、ディスクミル、エクストルーダー(二軸ニーダー)またはバンバリーミキサーによってなされることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
(7)(1)ないし(6)のいずれかに記載の製造方法によって得られたアルカリセルロース。
(8)(1)ないし6のいずれかに記載の製造方法よりなるアルカリセルロースの製造工程、およびアルカリセルロースの製造工程で得られたアルカリセルロースにエーテル化剤として、ハロゲン化アルキル、アルキレンオキサイド、ハロゲン化酢酸、またはビニル系モノマーを反応させるエーテル誘導体の製造工程を有することを特徴とするセルロースエーテル誘導体の製造方法。
(9)エーテル誘導体の製造工程において、エーテル化剤が固体の場合は、それを溶解し得る溶媒を用いることを特徴とする(8)に記載のセルロースエーテル誘導体の製造方法。
(10)エーテル誘導体の製造工程において、エーテル化剤としてモノクロル化酢酸を用いてエーテル誘導体としてカルボキシメチルセルロースを製造することを特徴とする(8)に記載のセルロースエーテル誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アルカリセルロースを製造するに際しては高濃度のNaOH水溶液を多量に使用し、操作・装置が大規模となり、また、多量の廃液が出るという従来の問題を解決することができた。
本発明は、極小の水の存在下で機械的処理を施すという技術的な構成を採用することにより、アルカリセルロースを効率的に製造することができ、アルカリ置換基の均一分散性の高いものを得ることができると言う製造方法としての効果を有するものであると共に、その生成物であるアルカリセルロースもアルカリ置換基の均一分散性の高いと言う点で従来になかった新規なものであり、また、それから誘導されるエーテル誘導体はエーテル化率が高く副反応が少ないものが得られると言う効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】含水下でセルロースをアルカリ化する際に機械的処理が果たす役割を模式的に示すモデル図である。
【図2】実施例1(Na0H3mol、ボールミル処理後水洗)で、得られたアルカリセルロースの広角X線回折強度を示す図面である。
【図3】実施例1(Na0H3mol)で、得られたアルカリセルロースのNMR図である。
【図4】実施例2(Na0H1mol、ボールミル処理後水洗)で、得られたアルカリセルロースの広角X線回折強度を示す図面である。
【図5】実施例2(Na0H1mol)で、得られたアルカリセルロースのNMR図である。
【図6】アルカリセルロースをモノクロル酢酸でエーテル化したエーテル化物(エーテル誘導体)である表1のNo.13〜15の赤外分光分析スペクトルの生データである。
【図7】アルカリセルロースをモノクロル酢酸でエーテル化したエーテル化物(エーテル誘導体)である表1のNo.16〜18の赤外分光分析スペクトルの生データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の、極小の水の存在下で機械的処理を施しながら行う、セルロースをアルカリと反応させてアルカリセルロースを製造する方法においては、研究の結果次のような傾向があるこが発見されたのである。
【0013】
(A)アルカリセルロースの組成・均一性について
その製造過程(アルカリセルロースの製造工程)において、
(1)反応形の存在する水に対するNaOHの割合が大きいほど(即ち、NaOH>HOほど)反応速度が大きく、置換度が増大する、また、
(2)水に対するセルロースの割合が大きいほど(即ち、セルロース>HOほど、逆を言えば水が少ないほど)生成するアルカリセルロースの均一性が増大する、
ことが判ったのである。
(B)アルカリセルロースをエーテル化する際のエーテル化剤の副反応について
生成したアルカリセルロースにエーテル化剤(例えばハロゲン化酢酸)を反応させてセルロースエーテル誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース)を製造する際(エーテル誘導体の製造工程)において、
(3)アルカリセルロースの製造過程(アルカリセルロースの製造工程)において、反応系に存在する水に対するNaOHの割合が大きいほど(即ち、NaOH>HOほど)、エーテル生成が良好であり、
(4)アルカリセルロースの製造過程(アルカリセルロースの製造工程)において、NaOHに対する水の割合が大きいほど(即ち、HO>NaOHほど、逆を言えば水が多いほど)、アルコールが生成し易く、
(5)アルカリセルロースの製造過程(アルカリセルロースの製造工程)において、水に対するセルロースの割合が大きいほど(即ち、セルロース>HOほど、逆を言えば水が少ないほど)、エーテル化剤の副反応が抑えられる、
ことがわかったのである。
【0014】
上記の知見から、セルロースからアルカリセルロースを製造する際に水の存在が少ない方が(別の言葉で言えばセルロースの含水率が低い方が)、アルカリセルロースの製造のみならずそれから誘導されるセルロースエーテル製造に際しても良いことがわかるのである。
しかし、少量の水の存在は反応に必須不可欠のものであり、水の役割は(i)NaOHのキャリヤとして働くと共に、(ii)アルカリセルロース膨潤剤としても働くのである(膨潤によりエーテル化剤が浸透可能になる。)。
【0015】
また、機械的処理の役割は、固いセルロースに剪断力、好ましくは高い剪断力、を付与し、セルロースの強固な結晶構造をほぐし、セルロース分子鎖をバラバラにさせ、水/アルカリ溶液のセルロースへの浸透を容易にさせるものである。
これを、模式的に図解したものが図1である。
化学反応に際し、化学反応を妨げる強固な結晶組織に機械的処理を同時に並行させることにより、セルロース分子とアルカリ水溶液の接触の機会を増大させ、その結果として、均一な反応生成物、即ち、アルカリ置換基の均一分散性の高いものを得ることができるのである。
従来のものは、このような機械的処理を施さなかったので、セルロースの強固な結晶構造が部分的に残り、アルカリ置換基の均一分散性の高いものは得られていなかったのである。したがって、物質と言う観点から見ても、本発明のアルカリセルロースは新規なものであると言えるのである。
【0016】
[セルロース]
本発明で用いるセルロースは、天然の植物中に存在するセルロースは総て使用することができ、木材、紙、パルプ、コットン、バクテリアセルロース、などが使用できるが、既に精製されている高純度にセルロースを含有するものが望ましい。例えば、中古シーツ(コットン100%)、タオル、テーブルクロス、浴衣、シャツなどの繊維製品などが好ましい。
【0017】
[アルカリ]
アルカリ金属の水酸化物、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビシウム、セシウムの水酸化物や炭酸塩が使用できる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムが容易に入手し得る点で好ましい。
【0018】
[含水量:セルロースのアルカリ化で使用する水の量]
アルカリセルロースを製造するに際し、水を、水とセルロースの合計に対し10〜30重量%の割合になるような量で、使用するが、10%より少ないとセルロース固体中へのアルカリの拡散が非効率的であり、50%を超えると遊離した過剰な水が多くなり、外力の散逸や、全体積の増加により、大掛かりな装置を必要とするという不都合を生ずる。
水の使用割合は、より好ましくは10〜30重量%の割合、水の媒体としての役割と反応効率を考慮すると、更に好ましくは15〜25重量%の割合である。
【0019】
[アルカリの使用量]
アルカリのセルロースに対する使用量は、目的とするアルカリセルロースのアルカリ置換度によって異なるが、セルロースのグルコース単位当たり0.5〜4モルである。0.5モルは水溶性のセルロースエーテル誘導体を得るための下限値であり、一方4モル以上では、アルカリが過剰となり、大量の廃液を生じ、生産コストの不利益を招くばかりか、環境への配慮を欠くものである.
また、アルカリの水に対する割合は、セルロースに対する水の使用割合およびセルロースに対するアルカリの使用割合から、その上限、下限が規制されるが、90〜10(分母はアルカリ+水)である。
【0020】
[機械的処理および装置]
本発明の機械的処理は、セルロースの結晶構造をほぐしてバラバラにするような剪断力を生ずるような処理を行えるようなものであればどのようなものであっても良い。より適するものとしては「高剪断力がかけられ、かつ混合する機械処理」である。それに使用する装置としては、セルロースに物理的な外力を加えることができるようなものであれば、どのような種類のものでもよく、粉砕機(磨砕機)も含まれる。
天然のセルロースを含有する繊維をバラバラにしたり、潰したりするのに使われる装置ももちろん使える。
ただ、水やアルカリの存在下で機械的処理を行うのであるから、それらが逃散しないような密閉式の構造を有するものでなければならないこと言うまでもないことである。そのような、機械的処理を行える装置は、例えばボールミル、二軸ニーダー、ロッドミル、ハンマーミル、ディスクミル、エクストルーダー(二軸ニーダー)、バンバリーミキサーなどがある。
機械的処理を行う装置としてボールミルを用いる場合には、100rpm〜300rpmの回転数で10〜180分、適宜中断時間を挟んで、行うことができる。
【0021】
[エーテル化剤]
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド、ビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、ビニル系モノマー、ハロゲン化カルボン酸、たとえばモノクロル酢酸等が挙げられる。
【0022】
[アルカリセルロースから得られるセルロースエーテル]
アルカリセルロースを出発原料として得られるセルロースエーテルとしては、メチルセルロース、エチルセルロース(EC)、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、更にはその混合セルロースエーテルであるヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、カルバモイルエチルセルロースが挙げられる。
【0023】
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
以下、本発明および比較例を示す。
【実施例1】
【0024】
実施例1においては(1−2)および(1−3)は本発明の実施例であり、(1−1)および(1−4)は比較例である。
[アルカリセルロースの製造]
原料セルロースとして中古シーツ(コットン100%)を用いる。アルカリとしてはナカライテスク社製のNaOH粒を用いる。
中古シーツ10gに対し、水の添加なし、水1.1g、水2.5g水10gをそれぞれ添加して中古シーツと水の合計量に対し水が、それぞれ、0%、10%、20%、50%(含水率、0%、10%、20%、50%)となるようにした。それを遊星型ボールミル装置(フリッチュ社製、専用容器とボールはジルコニア製)に入れ、300rpmで30分間ボールミル処理を行った。
次に7.4gのNaOH粒(セルロース1モルに対し3モル)を添加し再び300rpmで30分間10分運転、10分休止の繰返しで運転時間の合計が30分となるようボールミル処理を行った。
【0025】
[X線回折]
得られたものについて水で水洗した後、広角X線回折強度を測定した。結果は図2に示す通りである。
含水率20%の(1−3)において、2θ=12.1、19.8、22.0°にCelluloseII(アルカリセルロースから再生された水和セルロース)に由来するピークが最もはっきり現れている。このように、CelluloseIIに由来するピークがはっきり観られるということは、上記のボールミル処理でアルカリセルロース化が効果的に進行していることを示している。
含水率0%の(1−1)、含水率10%の(1−2)、含水率50%の(1−4)において、2θ=14.7、16.5、22.6°にCelluloseI(天然セルロース)に由来するピークが残存し、未反応であったことを表している。ただ、含水率10%の(1−2)は含水率0%の(1−1)と比べると、ピークの形は僅かながら変化し、CelluloseIIが僅かながらでも生成していることが窺われるのである。
【0026】
[NMR]
上記[アルカリセルロースの製造]で得られたもの、即ち、NaOH3molでボールミル処理後のものについて23Na−NMR分析を行った。図3は、その結果を示すものである。図3の横軸は塩化ナトリウムのナトリウムを基準とした場合の差をppmで表したものである。ピークの位置がマイナス側ほど、また、ピークの幅がブロードなほど、Naがセルロースの水酸基と結合していることを表している。
含水率10%の(1−2)と含水率20%の(1−3)はナトリウムがセルロースと結合している度合いが他の2者、即ち含水率0%の(1−1)と含水率50%の(1−4)、に比べて高いのである。
含水率0%の(1−1)は+10.2387ppmにピークがあるのに対し、(本発明の)含水率10%と20%の(1−2)と(1−3)は−5.6806と−5.5829にピークがあるが、これはセルロースとナトリウムセルロースの化学構造の差、OHと−ONaの差を反映するものである。また、含水率50%の(1−4)は+0.7649にピークがあり、含水率0%の(1−1)に比べれば本発明のものに近いが、アルカリ置換度が低いことを物語るものである。これは、セルロースではなく、水と反応していると考えられるからである。
広角X線回折による結晶構造解析では、含水率10%(1−2)は、アルカリセルロースの生成を窺わせるCelluroseIIが明確には出なかったが、NMR分析ではアルカリセルロースの形成が明確に認められるのである。
【実施例2】
【0027】
実施例2においては、(3−2)と(3−3)が実施例で(3−1)と(3−4)が比較例である。
[アルカリセルロースの製造]
実施例2は、実施例1に対して、実施例1の[アルカリセルロースの製造]における「7.4gのNaOH粒(セルロース1モルに対し3モル)を添加し」が「2.5gのNaOH粒(セルロース1モルに対し1モル)を添加し」である点で相違しその余の点は総て実施例1と同じである。
【0028】
[X線回折]
得られたものについて水で水洗した後、広角X線回折強度を測定した。結果は図4に示す通りである。
含水率20%の(3−3)において、2θ=12.1、19.8、22.0°がCelluloseII(アルカリセルロースから再生された水和セルロース)に由来するピークである。このサンプルが上記ボールミル処理で最もアルカリセルロース化が進行していたと考えられる。
含水率0%の(3−1)、含水率10%の(3−2)、含水率50%の(3−4)において、2θ=14.7、16.5、22.6°にCelluloseI(天然セルロース)に由来するピークがかなり残存し、未反応であったことを表している。
ただ、含水率10%の(3−2)は含水率0%の(3−1)と比べると、ピークの形は僅かながら変化し、CelluloseIIが僅かながらでも生成していることが窺われるのである。
なお、28°付近に見られるシャープなピークは、内部標準物質Siによるものである。
【0029】
[NMR]
上記[アルカリセルロースの製造]で得られたもの、即ち、NaOH1molでボールミル処理後のものについて23Na−NMR分析を行った。図5は、その結果を示すものである。図5の横軸は塩化ナトリウムのナトリウムを基準とした場合の差をppmで表したものである。ピークの位置がマイナス側ほど、また、ピークの幅がブロードなほど、Naがセルロースの水酸基と結合していることを表している。
含水率10%の(3−2)と含水率20%の(3−3)はナトリウムがセルロースと結合している度合いが他の2者、即ち含水率0%の(3−1)と含水率50%の(3−4)、に比べて高いのである。
含水率0%の(3−1)は+9.9443ppmにピークがあるのに対し、(本発明の)含水率10%と20%の(3−2)と(3−3)は−7.9273と−1.7747にピークがあるが、これはセルロースとナトリウムセルロースの化学構造の差、OHと−ONaの差を反映するものである。また、含水率50%の(3−4)は+0.8625にピークがあり、含水率0%の(3−1)に比べれば本発明のものに近いが、アルカリ置換度が低いことを物語るものである。
広角X線回折による結晶構造解析では、含水率10%(3−2)は、アルカリセルロースの生成を窺わせるCelluroseIIが明確には出なかったが、NMR分析ではアルカリセルロースの形成が明確に認められるのである。
【実施例3】
【0030】
実施例3においては、ボールミルを用いて、コットン100%のシーツについて、カルボキシメチルセルロース化を検討した。
[アルカリセルロースの製造]
原料セルロースとして中古シーツ(コットン100%)を用いる。アルカリとしてはナカライテスク社製のNaOH粒を用いる。
中古シーツ10gに対し、水2.5gを添加して中古シーツと水の合計量に対し水が、20%、(含水率、20%)となるようにした。それを遊星型ボールミル装置(フリッチュ社製、専用容器とボールはジルコニア製)に入れ、300rpmで30分間ボールミル処理を行った。次に7.4gのNaOH粒(セルロース1モルに対し3モル)を添加し再び300rpmで30分間、10分運転、10分休止の繰返しで運転時間の合計が30分となるようボールミル処理を行った。
【0031】
[カルボキシメチルセルロースの製造]
これに、イソプロパノール(IPA)中にモノクロル酢酸(ClCHCOOH)を溶解した液を加え、ボールミルに入れ回転数150(rpm)で機械的処理を行った。IPAおよびモノクロル酢酸の量、ボールミルの処理条件、および、生成したカルボキシメチルセルロースのIR(赤外分光分析)の結果を表1に示す。
【表1】

【0032】
表1において、(1600+1730)/3500の意味するところは次の通りである。
3500(cm−1)は水酸基、即ち、セルロースの水酸基による吸収で、未反応部分に相当するものである。1600(cm−1)および1730(cm−1)はカルボキシル基に由来する吸収で、反応が進行した部分に相当するものである。したがって、(1600+1730)/3500は、反応部分/未反応部分を示すことになり、セルロースの水酸基がカルボキシメチル基に置き換わった程度、即ちカルボキシメチル化の進行度合いを簡便に示すものである。
【0033】
図6と図7は表1の実験No.13〜15、No.16〜18のIR(赤外分光分析)の生データである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、セルロースからアルカリセルロースを製造することが効率良く行えるばかりでなく、得られたアルカリセルロースもアルカリ置換度が均一なものであり、それから製造されるセルロースエーテルもエーテル化が均一なものであるから、製法および製品は有用なものであり産業上の利用性が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを水およびアルカリの存在下、機械的処理をすることによりアルカリセルロースを製造するに際し、水を、水とセルロースの合計に対し10〜30重量%の割合になるような量で、使用することを特徴とする、アルカリセルロースの製造方法。
【請求項2】
セルロースに、水および水酸化アルカリを加え、この混合物を機械的に処理することによりアルカリセルロースを製造する、請求項1に記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項3】
セルロースに、水を加えて機械的処理をした後、水酸化アルカリを加えて機械的処理をする、アルカリセルロースを製造する、請求項1に記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項4】
アルカリは水に対し90〜10(分母はアルカリ+水)重量%の濃度の水溶液を形成するような割合で用いることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項5】
アルカリをセルロースに対し、両者の合計に対し50〜11(分母はセルロース+アルカリ)重量%の割合になるような量で使用することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項6】
機械的処理が、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、ディスクミル、エクストルーダー(二軸ニーダー)またはバンバリーミキサーによってなされることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法によって得られたアルカリセルロース。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法よりなるアルカリセルロースの製造工程、およびアルカリセルロースの製造工程で得られたアルカリセルロースにエーテル化剤として、ハロゲン化アルキル、アルキレンオキサイド、ハロゲン化酢酸、またはビニル系モノマーを反応させるエーテル誘導体の製造工程を有することを特徴とするセルロースエーテル誘導体の製造方法。
【請求項9】
エーテル誘導体の製造工程において、エーテル化剤が固体の場合は、それを溶解し得る溶媒を用いることを特徴とする請求項8に記載のセルロースエーテル誘導体の製造方法。
【請求項10】
エーテル誘導体の製造工程において、エーテル化剤としてモノクロル化酢酸を用いてエーテル誘導体としてカルボキシメチルセルロースを製造することを特徴とする請求項8に記載のセルロースエーテル誘導体の製造方法。








【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−37924(P2011−37924A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183798(P2009−183798)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(502407130)株式会社プレックス (75)
【Fターム(参考)】