説明

アルカリプロテアーゼ変異体

【課題】液体洗剤中での安定性が向上したアルカリプロテアーゼ変異体の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体。該アルカリプロテアーゼ変異体をコードする遺伝子。該遺伝子を含有する組換えベクター。該組換えベクターを含有する形質転換体。該アルカリプロテアーゼ変異体を含有する洗浄剤組成物。陰イオン界面活性剤を含有する、該洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体洗浄剤配合酵素として有用なアルカリプロテアーゼ変異体及びそれをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
産業分野でのプロテアーゼ利用の歴史は古く、衣料用洗剤をはじめとする洗浄剤から繊維の改質剤、皮革処理剤、化粧料、浴剤、食品改質剤或いは医薬品としての利用まで非常に多岐にわたっている。中でも最も工業的に大量に生産されているものが洗剤用プロテアーゼであり、例えば、アルカラーゼ、サビナーゼ(登録商標;ノボザイムズ)、マクサカル(登録商標;ジェネンコア)、ブラップ(登録商標;ヘンケル)、及びKAP(花王)等が知られている。
【0003】
洗剤中にプロテアーゼを配合する目的は、衣料に付着したタンパク質を主成分とする汚れを分解して低分子化し、界面活性剤による可溶化を促進することであるが、実際の汚れはタンパク質だけでなく皮脂由来の脂質や固体粒子等、有機物と無機物が入り混じった複数の成分を内包する複合汚れであり、このような複合汚れに対する洗浄性の高い洗浄剤が望まれていた。
【0004】
かかる観点から本発明者は、高濃度の脂肪酸存在下でも十分なカゼイン分解活性を保持し、タンパク質だけでなく皮脂等の混在する複合汚れに対しても優れた洗浄性を有する分子量約43,000のアルカリプロテアーゼを数種見出し、先に特許出願した(特許文献1参照)。斯かるアルカリプロテアーゼ群は、その分子量、一次構造、酵素学的性質、特に非常に強い酸化剤耐性を有する点で、従来から知られているバチルス属細菌由来のセリンプロテアーゼであるズブチリシンとは異なり、新しいズブチリシンサブファミリーに分類することが提唱されている(非特許文献1)。
【0005】
ところで、洗浄剤はその形態により、粉末洗剤と液体洗剤に分類することが出来る。液体洗剤は粉末洗剤に比べて、溶解性に優れ、また、汚れ部分に原液を直接塗布出来るメリットがある。液体洗剤には粉末洗剤には無い上記のような利点があるが、その反面プロテアーゼなどの酵素の安定的な配合に関しては粉末洗剤には無い技術的な困難さがあることが広く知られている。元来、液体中で常温保存すること自体が、タンパク質の変性を招きやすい上に、液体洗剤には界面活性剤、脂肪酸、溶剤等が含有され、pHも弱アルカリ性であり、酵素にとって極めて厳しい条件になっている。また、プロテアーゼはタンパク質分解酵素であるが故に自己消化の問題も有しており、液体洗剤中での安定保存を更に困難なものにしている。
【0006】
このような技術的な課題に対して、カルシウムイオン、ホウ砂、ホウ酸、ホウ素化合物、ギ酸などのカルボン酸、ポリオール等の酵素安定化剤を加えることは公知である。また、プロテアーゼの活性を阻害することにより、自己消化の問題を解決すべく検討もなされており、4−置換フェニルボロン酸(特許文献2)や、ある種のペプチドアルデヒド及びホウ素組成物(特許文献3)によるプロテアーゼの可逆的阻害による安定化法が報告されている。また、デキストランで化学修飾したプロテアーゼが、界面活性剤を含む水溶液中での安定性を向上させ得ることが報告されている(非特許文献2)。
しかし、カルシウムイオン、ホウ酸などの酵素安定化剤の添加によってもプロテアーゼの安定性は十分ではなく、阻害剤も酵素種によって阻害効率が異なる上に製造コストを考慮すると液体洗剤組成物として課題を解決する方法とは言い難い。同様に酵素の化学修飾も製造コストの面で難があった。
【0007】
一方、KP43〔バチルス エスピーKSM−KP43(FERM BP−6532)〕由来のアルカリプロテアーゼにおいて、アミノ酸配列の15位のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換すること、16位のアミノ酸残基をスレオニン若しくはグルタミン残基に置換すること(特許文献4)、65位のアミノ酸残基をプロリン残基に置換すること(特許文献5)、66位のアミノ酸残基をアスパラギン酸残基に置換することにより(特許文献6)、親アルカリプロテーゼよりも比活性が向上すること知られている。しかしながら、KP43由来のアルカリプロテアーゼにおいて、比活性を低下させることなく液体洗剤中での安定性が向上するような変異体は、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/18218号パンフレット
【特許文献2】特表平11−507680号公報
【特許文献3】特表2000−506933号公報
【特許文献4】特開2004−305176号公報
【特許文献5】特開2004−000122号公報
【特許文献6】特開2002−218989号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Saekiら, Biochem.Biophys.Res.Commun., 279, 313-319, 2000
【非特許文献2】Cosmetics&Toiletries magazine, 111, p79-88, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、液体洗剤中での安定性が親アルカリプロテアーゼに比して向上したアルカリプロテアーゼ変異体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、分子量約43,000のアルカリプロテアーゼKP43に特徴的なアミノ酸残基のうち、ある特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、液体洗剤中での安定性が親アルカリプロテアーゼに比して向上することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の1種以上が下記アミノ酸残基に置換された変異を含んでなる、液体洗剤中での安定性が親アルカリプロテアーゼに比して向上したアルカリプロテアーゼ変異体。
(a)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン
(b)又はこれに相当する位置:メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン
(c)又はこれに相当する位置:トリプトファン
(d)又はこれに相当する位置:ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン
(e)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン
2)上記アルカリプロテアーゼ変異体をコードする遺伝子。
3)上記遺伝子を含有する組換えベクター。
4)上記組換えベクターを含有する形質転換体。
5)上記アルカリプロテアーゼ変異体を含有する洗浄剤組成物。
6)配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の1種以上を下記アミノ酸残基に置換することを特徴とする、親アルカリプロテアーゼの液体洗剤中での安定性向上方法。
(a)位置:グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン
(b)位置:メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン
(c)位置:トリプトファン
(d)位置:ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン
(e)位置:グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン
7)上記形質転換体を培養する工程を含む、上記アルカリプロテアーゼ変異体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LAS等の陰イオン界面活性剤を配合した液体洗剤中でも活性を有し、かつ比活性が高く、洗浄剤配合用酵素として有用なアルカリプロテアーゼ変異体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】15位のアミノ酸残基を置換した変異体の残存相対活性を示す図である。
【図2】16位のアミノ酸残基を置換した変異体の残存相対活性を示す図である。
【図3】65位のアミノ酸残基を置換した変異体の残存相対活性を示す図である。
【図4】66位のアミノ酸残基を置換した変異体の残存相対活性を示す図である。
【図5】204位のアミノ酸残基を置換した変異体の残存相対活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアルカリプロテアーゼ変異体は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の1種以上が、他のアミノ酸残基に置換された変異を含んでなるアルカリプロテアーゼ変異体を意味するが、これらは野生型の変異体或いは人為的に変異を施した変異体であってもよい。
【0016】
本発明において、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼとしては、例えば、KP43〔バチルス エスピーKSM−KP43(FERM BP−6532)〕由来のアルカリプロテアーゼが挙げられる(国際公開第99/18218号パンフレット)。
【0017】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列とは異なるが、配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼと同等の機能を有するものが挙げられる。
斯かるアルカリプロテアーゼ変異体としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、且つ配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼと同等の機能を有するものが包含される。
【0018】
具体的には、例えばプロテアーゼKP9860[バチルス エスピーKSM―KP9860(FERM BP−6534)由来、WO99/18218、GenBank accession no.AB046403]、プロテアーゼ9865〔バチルス エスピーKSM−9865(FERM BP−10139)由来、GenBank accession no.AB084155〕が挙げられる。
【0019】
また、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列の66位をアスパラギン酸に置換し、且つ246位をセリンに置換した変異体、103位をアルギニンに置換した変異体、195位をアラニン、グルタミン酸、グルタミン、バリン、グリシン、リジン、スレオニン、システイン、プロリン、セリン、アルギニン、アスパラギン又はヒスチジンに置換した変異体等の変異体(特開2002−218989号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の84位をアルギニンに置換した変異体、104位をプロリンに置換した変異体、256位をアラニン又はセリンに置換した変異体、369位をアスパラギンに置換した変異体等の変異体(特開2002−306176号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の251位をグルタミン、バリン、イソロイシン又はスレオニンに置換した変異体、256位をグルタミン、アラニン、バリン、セリン又はアスパラギンに置換した変異体(特開2003−125783号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の65位をプロリンに置換した変異体、273位をスレオニン又はイソロイシンに置換した変異体、320位をフェニルアラニン又はイソロイシンに置換した変異体、356位をグルタミン又はセリンに置換した変異体、387位をリジン、アラニン又はグルタミンに置換した変異体等の変異体(特開2004−000122号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の163位をヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン、バリン、リジン、グルタミン、アスパラギン酸、アラニン又はフェニルアラニンに置換した変異体、170位をバリン又はロイシンに置換した変異体、171位をアラニン、グリシン又はスレオニンに置換した変異体等の変異体(特開2004−057195号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の63位をセリンに置換した変異体、89位をヒスチジンに置換した変異体、120位をアルギニンに置換した変異体、63位及び187位をセリンに置換した変異体、226位をチロシンに置換した変異体、296位をバリンに置換した変異体、304位をセリンに置換した変異体等の変異体(特開2004-305175号公報)、配列番号2で示されるアミノ酸配列の15位をヒスチジンに置換した変異体、16位をスレオニン又はグルタミンに置換した変異体、166位をグリシンに置換した変異体、167位をバリンに置換した変異体、346位をアルギニンに置換した変異体、405位をアスパラギン酸に置換した変異体等の変異体(特開2004-305176号公報)及びこれら変異体における変異を多重に含む変異体などが挙げられる。
【0020】
このうち、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼが有する次の何れかの酵素学的性質を有するのが好ましい。1)酸化剤耐性を有し、アルカリ側(pH8以上)で作用し、かつ安定である。ここで、酸化剤耐性を有するとは、当該アルカリプロテアーゼを50mM過酸化水素(5mM塩化カルシウムを含有)溶液中(20mMグリットンロビンソン緩衝液、pH10)で、20℃20分間放置後の残存活性(合成基質法)が少なくとも50%以上を保持していることをいう。2)50℃、pH10で10分間処理したとき80%以上の残存性を示す。3)ジイソプロピルフルオルリン酸(DFP)及びフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)で阻害される。4)SDS−PAGEによる分子量が43,000±2,000である。
【0021】
なお、アミノ酸配列の同一性は、リップマン−パーソン法(Lipman-Pearson法;Science, 227, 1435, (1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出される。
また、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1乃至10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、また、付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
【0022】
本発明のアルカリプロテアーゼ変異体としては、具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列のアルカリプロテアーゼの(a)15位のアミノ酸残基(セリン残基)が、グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン残基に置換されたもの、(b)16位のアミノ酸残基(セリン残基)が、メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン残基に置換されたもの、(c)65位のアミノ酸残基(スレオニン残基)が、トリプトファン残基に置換されたもの、(d)66位のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が、ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン残基に置換されたもの、(e)204位のアミノ酸残基(グルタミン残基)が、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン残基に置換されたものが含まれる。
【0023】
また、本発明のアルカリプロテアーゼ変異体には、配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位に相当する位置のアミノ酸残基がグルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン残基に置換されたもの、(b)16位に相当する位置のアミノ酸残基がメチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン残基に置換されたもの、(c)65位に相当する位置のアミノ酸残基がトリプトファン残基に置換されたもの、(d)66位に相当する位置のアミノ酸残基がヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン残基に置換されたもの、(e)204位に相当する位置のアミノ酸残基がグルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン残基に置換されたものが含まれる。
尚、15位又はこれに相当する位置、16位又はこれに相当する位置、65位又はこれに相当する位置、66位又はこれに相当する位置、204位又はこれに相当する位置のアミノ酸置換は、何れか一つを行ってもよく、複数を同時に行っても良い。
【0024】
ここで、「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えることにより行なうことができる。プロテアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各プロテアーゼにおける配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象のプロテアーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0025】
すなわち、上記方法でアミノ酸配列を整列させ、上記の方法を用いることにより、
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列の15位のアミノ酸残基(セリン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、例えばプロテアーゼKP9860においては15位のセリン残基、プロテアーゼKP9865においては15位のセリン残基というように特定することができる。
また同様に、(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列の16位のアミノ酸残基(セリン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、例えばプロテアーゼKP9860においては16位のセリン残基、プロテアーゼKP9865においては16位のセリン残基、(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列の65位のアミノ酸残基(スレオニン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、例えばプロテアーゼKP9860においては65位のスレオニン残基、プロテアーゼKP9865においては65位のスレオニン残基、(d)配列番号2で示されるアミノ酸配列の66位のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、例えばプロテアーゼKP9860においては66位のアスパラギン残基、プロテアーゼKP9865においては66位のアスパラギン残基、(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列の204位のアミノ酸残基(グルタミン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、例えばプロテアーゼKP9860においては204位のグルタミン残基、プロテアーゼKP9865においては204位のグルタミン残基というように特定することができる。
【0026】
本発明のアルカリプロテアーゼ変異体は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼ又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼを変異前のアルカリプロテアーゼ(親アルカリプロテアーゼということがある)とし、これに目的部位の変異を施すことにより得ることができる。なお、上記親アルカリプロテアーゼは、本発明のアルカリプロテアーゼ変異体が有する、LAS等の陰イオン界面活性剤を配合した液体洗剤中での活性を有し、かつ比活性が高いという効果に影響を与えない限り、目的部位以外のアミノ酸残基が任意の変異を伴うものであってもよい。
【0027】
具体的には、例えば以下の方法により得ることができる。すなわち、クローニングされた親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子(配列番号1)に対して変異を施し、得られた変異遺伝子を用いて適当な宿主を形質転換し、当該組換え宿主を培養し、培養物から採取することにより得られる。親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子のクローニングは、一般的な遺伝子組換え技術を用いればよく、例えば国際公開第99/18218号パンフレット、国際公開第98/56927号パンフレット記載の方法に従って行なえばよい。
【0028】
親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子の変異手段としては、一般的に行われている部位特異的変異の方法がいずれも採用できる。より具体的には、例えばSite-Directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Kmキット(タカラ)等を用いて行なうことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic Press, New York, 1990)を用いることによって、遺伝子の任意の配列を、他の遺伝子の該任意の配列に相当する配列と置換することが可能である。
【0029】
得られた変異遺伝子を用いた本発明のアルカリプロテアーゼ変異体の製造方法としては、例えば当該変異遺伝子を安定に増幅できるDNAベクターに連結させ宿主菌を形質転換する、或いは当該変異遺伝子を安定に維持できる宿主菌の染色体DNA上に導入させる、等の方法が採用できる。この条件を満たす宿主としては例えばバチルス属細菌、大腸菌、カビ、酵母、放線菌などが挙げられ、これらの菌株を用い、資化性の炭素源、窒素源その他必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い培養すればよい。
【0030】
かくして得られる本発明のアルカリプロテアーゼ変異体は、酸化剤耐性を有し、高濃度の脂肪酸によるカゼイン分解活性の阻害を受けず、SDS−PAGEにより認められる分子量が43,000±2,000であり、アルカリ性域で活性を有すると共に、比活性が高い。そして、本発明のアルカリプロテアーゼは変異体、高い比活性を有するにも関らず、親アルカリプロテアーゼに比べ、LAS等の陰イオン界面活性剤等を配合した液体洗剤中での安定性を有するという性質、すなわち液体洗剤中での安定性が向上するという性質を新に獲得したものである。
従って、本発明のアルカリプロテアーゼ変異体は、各種洗剤組成物配合用酵素として有用である。
【0031】
洗浄剤組成物中への本発明品プロテアーゼ変異体の配合量は、アルカリプロテアーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗浄剤組成物1kg当たり0.1〜5000PUが配合できるが、経済性等を考慮し、500PU以下が好ましい。
【0032】
本発明の洗浄剤組成物は、本発明品プロテアーゼ変異体以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等である。このうち、本発明以外のプロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。プロテアーゼとしては市販のアルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、カンナーゼ(登録商標;ノボザイムズ社)、プロペラーゼ、プラフェクト(登録商標;ジェネンコア社)、またKAP(花王)、等が挙げられる。セルラーゼとしてはセルザイム、ケアザイム(登録商標;ノボザイムズ社)、またKAC、特開平10−313859号公報記載のバチルス・エスピーKSM−S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ(以上、花王)等が挙げられる。アミラーゼとしてはターマミル、デュラミル、ステインザイム(登録商標;ノボザイムズ社)、プラスター(登録商標;ジェネンコア社)、またKAM(花王)、等が挙げられる。リパーゼとしてはリポラーゼ、リポラーゼウルトラ、ライペックス(登録商標;ノボザイムズ社)が挙げられる。
【0033】
洗浄剤組成物中で本発明品プロテアーゼ変異体以外のプロテアーゼを併用する場合の配合量は、洗浄剤組成物1kg当たり0.1〜500PUが好ましい。セルラーゼを併用する場合は、特開平10−313859号公報の段落〔0020〕に記載の酵素活性測定方法より決定される単位(KU)に基づき、洗浄剤組成物1kg当たり300〜3000000KUが好ましい。
【0034】
またアミラーゼを併用する場合は、特開平11−43690号公報の段落〔0040〕記載のアミラーゼ活性測定方法より決定される単位(IU)に基づき、洗浄剤組成物1kg当たり50〜500000IUが好ましい。
【0035】
さらにリパーゼを併用する場合は、特表平8−500013号公報の実施例1記載のリパーゼ活性測定方法より決定される単位(LU)づき、洗浄剤組成物1kg当たり10000〜1000000LUが好ましい。
【0036】
本発明の洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0037】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗浄剤組成物中0.5〜60質量%配合され、特に粉末状洗浄剤組成物については10〜45質量%、液体洗浄剤組成物については20〜50質量%配合することが好ましい。また本発明洗浄剤組成物が漂白剤、または自動食器洗浄機用洗剤である場合、界面活性剤は一般に1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。
【0038】
本発明洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種または組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0039】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10〜14の、より好ましくは12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4〜20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5〜15.0、好ましくは11.0〜14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0041】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01〜50質量%、好ましくは5〜40質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1〜10μm、特に0.1〜5μmのものが好適に使用される。
【0042】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01〜80質量%、好ましくは1〜40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0043】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千〜10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0044】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1〜10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6−316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01〜10質量%配合することができる。
【0045】
(6)蛍光剤
本発明洗浄剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS−Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001〜2質量%配合するのが好ましい。
【0046】
(7)その他の成分
本発明品洗浄剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、その他の添加剤を含有させることができる。
【0047】
本発明の洗浄剤組成物は、上記方法で得られた本発明品プロテアーゼ変異体及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0048】
斯くして得られる本洗浄剤組成物は、衣料洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。
実施例1 KP43プロテアーゼの調製
酵素安定性評価に用いたプロテアーゼの調製方法について、野生型KP43プロテアーゼを例として以下に示す。すなわちプラスミドpHA64(特許第349293号、発現プロモーター下流にBamH IサイトとXba Iサイトを有する)を制限酵素BamH I およびXba I(Roche社)にて同時消化し、遺伝子挿入・発現用ベクターとした。
一方、配列番号1に示される、野生型KP43プロテアーゼ遺伝子を含むDNA(遺伝子上流の5'-末端にBamH Iサイト、遺伝子下流の3'-末端にXba Iサイトを有する)をBamH IおよびXba Iにて同時消化し、先の挿入・発現用ベクターと混合して、Ligation High(東洋紡社製)を用いてライゲーション反応を行った。ライゲーション産物をエタノール沈殿にて精製したのち、これをもって宿主菌であるバチルス エスピー KSM-9865株(FERM P-18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地(1% バクトトリプトン、0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム、1% スキムミルク、1.5% 寒天、0.05% 炭酸ナトリウム、15ppm テトラサイクリンを含む)に塗沫した。数日後に寒天培地に出現したコロニーについて、スキムミルク溶解斑の有無からプロテアーゼ遺伝子が導入された形質転換体を選抜した。この形質転換体からプラスミドDNAを抽出し、先の配列番号1に示されるプロテアーゼ遺伝子が正しく挿入されていることを確認し、結果得られたプラスミドをpHA64TSAとした。
pHA64TSAを保持するKSM-9865株の形質転換体を5mLの種母培地[6.0%(w/v) ポリペプトンS 、0.1% 酵母エキス、1.0% マルトース、0.02% 硫酸マグネシウム・7水和物、0.1 % リン酸2 水素カリウム、0.3% 無水炭酸ナトリウム、30ppm テトラサイクリン] に植菌し、30℃で16時間振盪培養を行った。次いで30mLの主培地[8% ポリペプトンS、0.3% 酵母エキス、10% マルトース、0.04% 硫酸マグネシウム・7水和物、0.2% リン酸2水素カリウム、1.5% 無水炭酸ナトリウム、30ppm テトラサイクリン] に種母培養液を1% (v/v) 植菌し、30℃で3日間振盪培養を行った。培養によって得られたKP43プロテアーゼを含む培養液を遠心分離し、液体洗剤中での安定性評価に供した。
【0050】
実施例2 KP43プロテアーゼ変異体の作製
KP43プロテアーゼ変異体の作成方法について、野生型KP43プロテアーゼ成熟酵素領域のアミノ酸配列(配列番号2)における15番目のセリン(S15)をアラニンに変異させた変異体「S15A」の作製を例として以下に示す。
すなわち十分に希釈したプラスミドpHA64TSAを鋳型とし、開始コドンの上流部分に相補するプライマーKG24S2(配列番号3、BamHIサイトを有する)と、S15のコドンと隣接する上流領域に相補するプライマーS15_R(配列番号4)をもちいてPCRを行い、KP43プロテアーゼN末端側部分をコードするDNA配列を増幅した。ついでプラスミドpHA64TSAを鋳型とし、S15のコドンをアラニンのコドンに置換するためのプライマーS15A_F(配列番号5、5'-側の一部がプライマーS15_Rと相補する)と、終止コドン下流のプライマーKG11S(配列番号6、XbaIサイトを有する)をもちいてPCRを行い、KP43プロテアーゼC末端側部分をコードするDNA配列を増幅した。得られたN末端側部分をコードするPCR産物とC末端側部分をコードするPCR産物を混合して鋳型とし、先のプライマーKG24S2とプライマーKG11Sを用いてPCRをおこなうことで、S15のコドンがアラニンのコドンに変換された変異KP43プロテアーゼ遺伝子の全長を含むPCR産物を得た。ついでこのPCR産物をエタノール沈殿にて精製したのち制限酵素BamHIおよびXbaIで同時消化し、実施例1に示された挿入・発現用ベクターと混合し、Ligation High(東洋紡社製)を用いてライゲーション反応を行った。このライゲーション産物をエタノール沈殿にて精製したのち、これをもって宿主菌であるバチルス エスピー KSM-9865株(FERM P-18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地に塗沫した。数日後に寒天培地に発生したコロニーについて、スキムミルク溶解斑を有する形質転換体を分離することで、S15がアラニンに変異したKP43プロテアーゼ変異体「S15A」を生産する形質転換体を得た。
以下、プライマーS15_Rに代えて下記表の「変異プライマー・R」欄記載の配列番号のプライマーを用い、またプライマーS15A_Fに代えて下記表の「変異プライマー・F」欄記載の配列番号のプライマーを用いて同様の操作をおこなうことで、下記表の「KP43プロテアーゼ変異」欄記載の変異を有するKP43プロテアーゼ変異体を生産する形質転換体を得た。
尚、表中、「KP43プロテアーゼ変異体」欄の数字は変異させるアミノ酸の位置を示し、数字の前後のアルファベットは、それぞれ変異前後のアミノ酸(1文字表記)を示す。
得られた形質転換体それぞれを実施例1に記載の方法で培養し、プロテアーゼ変異体を含む培養上清を得て、液体洗剤中での安定性評価に供した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
実施例3 プロテアーゼ活性測定方法
プロテアーゼ活性測定は以下のとおり行った。すなわち、ジメチルスルフォキシドに溶解した40mMのGlt-Ala-Ala-Pro-Leu-pNA・H2O(AAPL・ペプチド研究所)、200mMホウ酸緩衝液(pH 10.5)、イオン交換水をそれぞれ3容、10容、7容の割合で混合し、基質溶液とした。基質溶液50μLを96穴アッセイプレートの各ウェルに分注し、そこにイオン交換水で適宜希釈したプロテアーゼ含有液を50μL添加することで測定反応を開始した。反応開始直後に30℃に温度設定したMolecular Device社・VersaMaxのチャンバー内に挿入し、420nmにおける吸光度変化をカイネティックモードで10分間測定した。Molecular Device社・解析ソフトSoftmaxProにより測定結果として出力される吸光度変化速度(mOD/min)の値を暫定活性値として使用した。
【0055】
実施例4 変異体の安定性評価
96穴プレートのウェルに90μLの組成物A(8%ソフタノール70H、14%エマルゲン120、8%直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム液体酸前駆体(LAS-S)、4%ルナックL-55、2%エタノール、4%ブトキシジグリコール、3.5%モノエタノールアミン、0.1%亜硫酸ナトリウム、0.55%クエン酸、pH 9.0)を添加し、そこに野生型KP43プロテアーゼまたは種々の変異型KP43プロテアーゼを含む培養上清10μLを加え、十分に攪拌した。攪拌直後に混合液10μLを分取し、250μLのイオン交換水で希釈、十分に攪拌した。結果26倍希釈液となった同液50μLを、あらかじめ各ウェル50μLの基質溶液を加えた96穴アッセイプレートに添加し、Molecular Device社VersaMaxマイクロプレートリーダーに挿入、プロテアーゼ活性の測定を行い保存安定性評価の初期活性値を得た。評価液(組成物A +培養上清)を加えた96穴プレートは、密封して40℃で保温した。72時間後、プレートを取り出し、初期活性値の測定と同様の方法で残存活性値を得た。野生型KP43プロテアーゼの残存活性を100(%)として、変異型KP43プロテアーゼの残存活性の相対値を算出した。野生型、またはKP43プロテアーゼ変異体の安定性評価結果を図1〜5に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の1種以上が下記アミノ酸残基に置換された変異を含んでなる、液体洗剤中での安定性が親アルカリプロテアーゼに比して向上したアルカリプロテアーゼ変異体。
(a)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン
(b)又はこれに相当する位置:メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン
(c)又はこれに相当する位置:トリプトファン
(d)又はこれに相当する位置:ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン
(e)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、当該アミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置のアミノ酸残基の1種以上が下記アミノ酸残基に置換された変異を含んでなる請求項1記載のアルカリプロテアーゼ変異体。
(a)位置:グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン
(b)位置:メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン
(c)位置:トリプトファン
(d)位置:ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン
(e)位置:グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルカリプロテアーゼ変異体をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項4記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項6】
宿主が微生物である請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項1又は2記載のアルカリプロテアーゼ変異体を含有する洗浄剤組成物。
【請求項8】
陰イオン界面活性剤を含有する請求項7記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼから誘導されるアルカリプロテアーゼ変異体であって、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)15位、(b)16位、(c)65位、(d)66位及び(e)204位から選ばれる位置又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の1種以上を下記アミノ酸残基に置換することを特徴とする、親アルカリプロテアーゼの液体洗剤中での安定性向上方法。
(a)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、グルタミン、アルギニン、システイン、トリプトファン、アラニン又はフェニルアラニン
(b)又はこれに相当する位置:メチオニン、グルタミン酸、アルギニン、バリン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はシステイン
(c)又はこれに相当する位置:トリプトファン
(d)又はこれに相当する位置:ヒスチジン、トリプトファン、セリン又はロイシン
(e)又はこれに相当する位置:グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、バリン、スレオニン、プロリン、ヒスチジン、イソロイシン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、リジン又はアルギニン
【請求項10】
請求項5記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1又は2記載のアルカリプロテアーゼ変異体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−273673(P2010−273673A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93339(P2010−93339)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】