説明

アルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質およびその製造方法

【課題】高次コバルト被覆水酸化ニッケルを正極活物質としたアルカリ蓄電池において、表面のコバルトのみ酸化することによって、十分に充電が入り、容量低下および電圧低下を抑制することにより、保存後でも保存前の電圧から安定して使用可能なアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】表面に価数が2.7〜2.8価のコバルト化合物を被覆した水酸化ニッケルからなるアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質であって、前記水酸化ニッケルの酸化度が90〜96%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ蓄電池の正極活物質に用いるコバルト被覆水酸化ニッケルに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池、特にニッケル水素二次電池は、寿命特性や保存特性といった耐久性が高く、リチウムイオン電池より安全性に優れているため、近年では、ハイブリッド自動車用の電池として搭載され注目を集めている。ハイブリッド自動車用の電池として使用するためには、出力特性や保存特性、耐久性をより向上させる必要がある。
【0003】
水酸化ニッケルはアルカリ蓄電池の正極活物質として用いられているが、水酸化ニッケル自体は電気伝導性が低く、水酸化ニッケル単独で用いた場合、電池の活物質として十分に機能することができない。そこで、水酸化ニッケルの電気伝導性を向上させるために水酸化ニッケル粒子表面にコバルトを被覆させ、コバルトの形態を最適化させる試みがなされている。高負荷用途においてもニッケルの利用率を低下させず、過放電状態での容量低下を抑制するために、水酸化ニッケルの粒子表面のコバルト価数を2.8以上、かつ表面でのコバルトとニッケルの割合(具体的には粒子表面から3〜5nmの深さまでESCAで分析した場合におけるCo/(Co+Ni)比率)をモル比で99%以上とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−157840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、表面のコバルト価数を上げるための酸化処理工程において、母相のニッケルまで酸化し、ニッケルの高次化、すなわちニッケルの価数の上昇により充電時の電圧上昇が起こり、十分な充電がされないことにより、電池容量が低下する恐れがある。また、保存時には、水酸化ニッケルの平衡電位に戻ろうとするため、電圧低下が大きくなる恐れがあるため、保存後の放電特性の向上は困難であった。
【0006】
本発明は上述した課題を鑑みてなされたものであり、母相のニッケルを酸化することなく、表面のコバルトのみ酸化することができるため、十分に充電が入り、容量低下および電圧低下を抑制することにより、保存後でも保存前の電圧から安定して使用可能なアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質は、表面に価数が2.7〜2.8価のコバルト化合物を被覆した水酸化ニッケルからなり、コバルト被覆した水酸化ニッケルの酸化度が90〜96%であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質は、請求項1の記載を前提に、水酸化ニッケルの価数を全て2価とした場合の、水酸化ニッケルの(101)面に相当する角度θ30°付近の回折ピークにおける半値幅が0.90〜0.94であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質の製造方法は、水酸化ニッケルにコバルト価数が2価の水酸化コバルトを被覆して前駆体を得る第1の工程と、この前駆体における前駆体の総量に対する水分量を0.15〜0.40質量%に調整する第2の工程と、この前駆体にアルカリを、噴霧し加熱する処理を施すことにより2価の水酸化コバルトを2.7〜2.8価のコバルト化合物に変化させる第3の工程と、からなることを特徴とする。このようにコバルトの価数を高次化する前の水酸化ニッケルの水分量を規定することにより、母相のニッケルの酸化を抑制することができ、充電による電圧上昇を抑制し十分に充電ができ、保存特性に優れたアルカリ蓄電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、母相のニッケルの酸化を抑制し、コバルト被覆状態を一定にすることができるので、粒子間での容量ばらつきが抑制でき、安定な物性を得ることができる。また、充電時の電圧上昇を抑制することができるので、電池容量および保存後の放電特性に優れたアルカリ蓄電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、説明する。
【0012】
上述したように、本発明の請求項1に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質は、表面に価数が2.7〜2.8価のコバルト化合物を被覆した水酸化ニッケルからなり、90〜96%の酸化度を有する。また、本発明の請求項2に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質は、請求項1の記載を前提に、水酸化ニッケルの価数を全て2価とした場合の、水酸化ニッケルの(101)面に相当する角度θ30°付近の回折ピークにおける半値幅が0.90〜0.94である。また、本発明の請求項3に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質の製造方法は、水酸化ニッケルにコバルト価数が2価の水酸化コバルトを被覆して前駆体を得る第1の工程と、この前駆体における前駆体の総量に対する水分量を0.15〜0.40質量%に調整する第2の工程と、この前駆体にアルカリを、噴霧し加熱する処理を施すことにより2価の水酸化コバルトを2.7〜2.8価のコバルト化合物に変化させる第3の工程と、からなる。この製造方法を採ることで、コバルト被覆状態を一定にすることができるので、粒子間での容量ばらつきを抑制することができ、安定な物性を得ることができる。また、充電時の電圧上昇を抑制することができるというものである。
【0013】
請求項1の発明において、高次コバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度を90〜96%とし、請求項2の発明において、半価幅を0.90〜0.94とすることで、ニッケルの結晶度をシャープにし、母相ニッケルの結晶の歪みを抑制しつつ、コバルトを高次にすることができるので、充電時の電圧上昇を抑制することができる。
【0014】
高次コバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度が90%未満の場合、被覆コバルトの高次化が不十分となり、十分な伝導性を得ることができず、正極活物質としての水酸化ニッケルを十分に機能させることができない。また、96%を超える場合、被覆コバルトだけではなく母相のニッケルまで酸化し、高次ニッケルは充電時に電圧上昇し、十分な充電ができず、電池容量が低下する。また、コバルト被覆水酸化ニッケルの半価幅が0.90未満の場合、ニッケルの結晶化度が高くなり、水素および電子の反応性が低下し、充電効率および容量が低下する。また、半価幅が0.94を超える場合、水酸化ニッケルの結晶の歪みが大きくなり、充放電による結晶構造変化が起こり易くなるため、水酸化ニッケルの不動体化が加速され、充放電しにくくなる。上述のニッケル水素二次電池用ニッケル正極材料を得るために、請求項3の発明は、コバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.15〜0.40質量%にする工程を経てから、アルカリ処理による酸化工程を経てニッケル表面のコバルトを高次化する。高次化処理工程前のコバルト被覆後水酸化ニッケルの水分量が0.15質量%未満の場合、被覆コバルトだけではなく母相のニッケルを酸化する恐れがある。また、水分量が0.40質量%を超える場合、アルカリ処理槽の温度を上昇させるのに時間がかかり、被覆コバルトを一定時間で均一に高次化することができない恐れがある。
【0015】
上記、高次コバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は、ヨウ素酸化還元滴定とICP定量分析により算出した。ヨウ素酸化還元滴定は、高次コバルト被覆水酸化ニッケルを2N硫酸溶液に溶解し、ヨウ化カリウムとでんぷんを加え、これを0.025mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。ブランク値(高次コバルト被覆水酸化ニッケルを溶解するために用いた2N硫酸溶液と同量の2N硫酸溶液に、ヨウ化カリウムとでんぷんを加え、これを0.025mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した時の、チオ硫酸ナトリウムの滴定量)と、この高次コバルト被覆水酸化ニッケルの反応に用いたチオ硫酸ナトリウムの滴定量から、チオ硫酸ナトリウムの消費量を定量することができる。このチオ硫酸ナトリウム消費量から滴定後の溶液中の全ニッケル量を差し引くと、3価のコバルト量を算出することができる。ここで、滴定後の溶液中のニッケルは全て3価であるという考えのもとで計算している。3価のコバルト量と滴定後の溶液中の全コバルト量からコバルトの価数および酸化度を算出することができる。滴定後の溶液中のコバルトとニッケルの量は、ICP発光分光分析装置において分析した。さらに、X線吸収微細構造分析装置により、ニッケルの価数を分析した。
【0016】
上記、コバルト被覆水酸化ニッケルの半価幅は、X線回折装置を用いて測定し、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面に相当する角度θ30°付近の回折ピークから半価幅を算出した。半価幅はピーク強度の半分の値で算出した。
【0017】
上記、アルカリ処理による被覆コバルトの高次化前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量は、80℃の恒温槽で1時間乾燥し、その前後の重量変化から算出した。
【0018】
続いて、本発明の高次コバルト被覆水酸化ニッケルを用いたニッケル水素二次電池について説明する。
【0019】
正極活物質の主成分には、本発明の高次コバルト被覆水酸化ニッケルを用いる。
【0020】
正極は、本発明の高次コバルト被覆水酸化ニッケルに、増粘剤さらに結着剤を加えてニッケル水素二次電池用正極を作製する。
【0021】
正極に用いる増粘剤は、電極合剤ペーストに粘性を付与できるものを用いることができる。一例として、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記)およびその変性体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0022】
正極に用いる結着剤は、電極合剤が集電体に結着した状態を維持できる限り、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(以下、SBRと略記)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体Naイオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体Naイオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体Naイオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体Naイオン架橋体などを、単独あるいは混合して用いることができる。
【0023】
負極は、CeNi型およびCeNi型などの水素吸蔵合金を用い、導電剤、増粘剤さらに結着剤を加えてアルカリ蓄電池用負極を作製する。負極に用いる導電剤は、電子伝導性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅などの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いればよい。中でも人造黒鉛、ケッチェンブラック、炭素繊維が好ましいが、これらの材料を混合して用いてもよい。また、電極材料に対してこれらの材料を機械的に表面被覆させてもよい。上記導電剤の添加量は特に限定されず、例えば電極材料100質量部に対して1〜50質量部の範囲が好ましく、1〜30質量部の範囲がより好ましい。
【0024】
負極に用いる増粘剤は、電極合剤ペーストに粘性を付与できるものを用いることができる。一例として、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記)およびその変性体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0025】
負極に用いる結着剤は、電極合剤が集電体に結着した状態を維持できる限り、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよい。例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(以下、SBRと略記)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体Naイオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体Naイオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体Naイオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体Naイオン架橋体などを、単独あるいは混合して用いることができる。
【0026】
電解液は、水酸化カリウムを主成分としたアルカリ電解液を用いることができる。
【0027】
セパレータは、ポリプロピレン製不織布セパレ―タなどを用いることができる。
【0028】
以上の構成要素を組み合わせることにより、本発明のアルカリ蓄電池を構成することができる。
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
(i)コバルト被覆水酸化ニッケルの作製
硫酸ニッケル、水酸化ナトリウムを出発材料とし、晶析法により球状の水酸化ニッケル粒子を得た。この水酸化ニッケル粒子を水酸化ナトリウム溶液に入れ、そこに硫酸コバルトを攪拌しながら添加し、平均粒子径9μmの球状のコバルト被覆水酸化ニッケルを作製した。
【0031】
(ii)被覆コバルトの高次化処理工程
上述したコバルト被覆水酸化ニッケル粉末を、乾燥し水分量を測定する。コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を乾燥および加湿し水分量を0.3質量%とした。この工程の後、水酸化ナトリウムを噴霧し、80℃雰囲気下で1時間酸化処理した。水洗、脱水、乾燥してふるいをかけ、平均粒子径9μmの球状のニッケル正極活物質を作製した。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は93%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.92であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価であった。
【0032】
(iii)正極の作製
上述した高次コバルト被覆水酸化ニッケルに、カルボキシメチルセルロース(CMC、エーテル化度0.7、重合度1600)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を加え、さらに水を添加して練合し、ペーストを得た。このペーストを、発砲タイプのニッケル基板の両面に塗着した。ペーストの塗膜は、乾燥後、基板とともにローラでプレスした。こうして、厚み0.4mm、幅35mm、容量1500mAhの正極を得た。なお正極の長手方向に沿う一端部には、リード部を設けた。
【0033】
(iv)電解液の作製
水酸化ナトリウムのペレットを純水に溶かしたアルカリ水溶液に、水酸化カリウムのペレット、水酸化リチウムの粉末を添加し純水で1Lとした。このときのアルカリモル濃度をKOH5mol/l、NaOH1mol/l、LiOH0.5mol/lとした。
【0034】
(v)ニッケル水素二次電池の作製
長手方向に沿う一端部に幅35mmの芯材の露出部を有する容量2200mAhのLmNi系(ここでLmは軽希土類元素すなわちLa、Nd、Ce、Prからなる混合物を示す)の水素吸蔵合金を使用した負極を用い、4/5Aサイズで公称容量1500mAhのニッケル水素二次電池を作製した。具体的には、正極と負極とを、スルホン化処理したポリプロピレン不織布からなるセパレータ(厚み100μm)を介して捲回し、円柱状の極板群を作製した。極板群では、正極合剤を担持しない正極芯材の露出部と、負極合剤を担持しない負極芯材の露出部とを、それぞれ反対側の端面に露出させた。正極芯材が露出する極板群の端面には正極集電板を溶接した。負極芯材が露出する極板群の端面に負極集電板を溶接する一方、正極リードを介して封口板と正極集電板とを導通させた。負極集電板を下方にして極板群を円筒形の有底缶からなる電池ケースに収容した後、負極集電板と接続された負極リードを電池ケースの底部と溶接した。さらに(iv)記載の電解液を注入した後、周縁にガスケットを具備する封口板にて電池ケースの開口部を封口し、ニッケル水素二次電池を作製した。これを実施例1とする。
【0035】
(実施例2)
被覆コバルトの高次化処理前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.15質量%としたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例2とする
。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は96%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.94であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価であった。
【0036】
(実施例3)
被覆コバルトの高次化処理前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.2質量%としたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例3とする。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は95%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.93であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価であった。
【0037】
(実施例4)
被覆コバルトの高次化処理前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.4質量%としたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、実施例4とする。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は92%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.91であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価であった。
【0038】
(比較例1)
被覆コバルトの高次化処理前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、比較例1とする。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は98%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.95であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価以上であった。
【0039】
(比較例2)
被覆コバルトの高次化処理前のコバルト被覆水酸化ニッケルの水分量を0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル水素二次電池を、比較例2とする。なおこのニッケル正極活物質におけるコバルト被覆水酸化ニッケルの酸化度は89%で、水酸化ニッケルの結晶格子面(101)面における半値幅は0.89であった。X線吸収微細構造分析の結果、ニッケル価数は、2価であった。
【0040】
以上の各実施例および比較例を、以下に示す方法にて評価した。結果を(表1)に示す。
【0041】
(電池容量)
作製した電池を20℃、電流値0.15Aで理論容量の120%まで充電し、20℃、電流値0.3Aで電池電圧が1.0Vに低下するまでの容量(初期放電容量)を測定した。結果を(表1)に示す。
【0042】
(保存後の放電特性)
作製した電池を20℃、電流値0.15Aで理論容量の120%まで充電し、20℃、電流値0.3Aで電池電圧が1.0Vに低下するまでの容量(初期放電容量)を測定した。さらに電池を20℃、電流値0.15Aで理論容量の80%まで充電し、45℃で2週間保存した。保存後、20℃、電流値0.3Aで電池電圧が1.0Vに低下するまでの容量(保存残存放電容量)を測定した。保存残存放電容量を初期放電容量で除した値を保存特性の指標として、その百分率を(表1)に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例1、2は、電池容量が実施例に対して低かった。また比較例1、2は保存後の保存特性が実施例に対して低かった。比較例1は、母相の水酸化ニッケルまで酸化しており、充電が十分にされる前に電圧が上昇し、充電が不十分なため、電池容量が低下した。比較例2は、被覆層のコバルト高次化が不十分で十分な導電性が得られず、電池容量が低下した。また、比較例1は、同じ理由で電圧が上昇し、正極が平衡電位に戻ろうとする幅が大きいため、保存後の放電特性が低下した。
【0045】
これら比較例に対して、被覆コバルトの高次化前に、水分量を適正化した実施例1〜4は、比較的良好な電池容量および保存後の放電特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明を活用することにより、アルカリ蓄電池の電池容量と保存後の放電特性を改善できるので、あらゆる機器の電源として利用可能性がある上に、過酷な環境下で使用されるハイブリッド自動車用電源などの分野において多大な効果をもたらすことが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に価数が2.7〜2.8価のコバルト化合物を被覆した水酸化ニッケルからなるアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質であって、
前記コバルト化合物を被覆した水酸化ニッケルの酸化度が90〜96%であることを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルの価数を全て2価とした場合の、水酸化ニッケルの(101)面に相当する角度θ30°付近の回折ピークにおける半値幅が0.90〜0.94であることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質。
【請求項3】
水酸化ニッケルにコバルト価数が2価の水酸化コバルトを被覆して前駆体を得る第1の工程と、
この前駆体における前駆体の総量に対する水分量を0.15〜0.40質量%に調整する第2の工程と、
この前駆体にアルカリを、噴霧し加熱する処理を施すことにより2価の水酸化コバルトを2.7〜2.8価のコバルト化合物に変化させる第3の工程と、
からなることを特徴とする、アルカリ蓄電池用ニッケル正極活物質の製造方法。

【公開番号】特開2011−81938(P2011−81938A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231274(P2009−231274)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】