説明

アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびこの合金を負極に備えたアルカリ蓄電池ならびにアルカリ蓄電池システム

【課題】部分充放電サイクルの初期段階での水素吸蔵合金の微粉化により出力を向上させるとともに、その表面状態を維持させて生涯仕事量が向上するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびアルカリ蓄電池ならびにアルカリ蓄電池システムを提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmTv(Re:Yを含む希土類元素、T:Co,Mn,Zn、0.17≦x≦0.64、3.5≦n≦3.8、0.60≦m≦0.22、v≧0)と表され、主相の結晶構造がA5B19型構造であり、表面層のNiに対するAlの濃度比率Xとバルク層のNiに対するAlの濃度比率Yの比X/Yが0.36以上、0.85以下である。そして、本発明のアルカリ蓄電池は該水素吸蔵合金を負極に備えており、本発明のアルカリ蓄電池システムは部分充放電制御するようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の大電流放電を要する用途(高出力用途)に適したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金に関する。また本発明は、アルカリ蓄電池及びアルカリ蓄電池システムに係り、特に、水素吸蔵合金を負極活物質とする負極とニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池およびこのアルカリ蓄電池を用いたアルカリ蓄電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池は、安全性にも優れているという点からHEVやPEV等といった高出力用途に用いられている。これらの用途に用いられる水素吸蔵合金は、AB2型構造あるいはAB5型構造の単一相から構成されているものが一般的であった。ところが、近年、従来の範囲をはるかに超えた高出力や高容量性能が要望されており、希土類−Mg−Ni系合金のように、AB2型構造とAB5型構造を組み合わせたA27型構造やA519型構造を主相として含むものが、特許文献1(国際公開第2007/018292号)にて提案されるようになった。
【0003】
ここで、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、化学量論比によって結晶構造が変態し、化学量論比が増加するに従ってA27型構造からA519型構造が構成されやすくなる。
この内、A519型構造は、AB2型構造が1層とAB5型構造が3層を周期として積み重なり合った構造を含むもので、単位結晶格子当たりのニッケル比率を向上させることができる。このため、A519型構造を主相として含む(比較的多く含む)希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池は、特に優れた高出力特性を示すこととなる。
【0004】
ところで、HEV等の高出力用途では、例えば、充電深度(SOC:State Of Charge)が20〜80%となる範囲でパルス充放電を繰り返す部分充放電制御方式が適用されるのが一般的である。このため、HEV等の高出力用途では、使用するアルカリ蓄電池が出力特性に優れているとともに、SOCの変化に伴う出力特性の変化が小さい(出力安定性に優れる)ことが求められている。
【0005】
一般的に、水素吸蔵合金を負極に備えたアルカリ蓄電池の出力特性は、水素吸蔵合金の平衡圧と密接な関係があり、水素吸蔵合金の平衡圧が高いと出力特性も高くなり、水素吸蔵合金の平衡圧が低いと出力特性も低くなる傾向にある。このため、SOCの変化に伴って水素吸蔵合金の平衡圧が変化する場合、出力特性も変化することになる。この場合、SOCの変化に伴って出力特性が変化するということは、特定のSOCの範囲においては所定の出力が得られなくなるので、低SOC〜高SOCにわたって常に一定の出力が求められるHEV等の高出力用途においては好ましくないこととなる。
【0006】
このため、SOCの変化に伴う出力特性の変化を小さくするためには、SOCの変化に伴う水素吸蔵合金の平衡圧の変化が小さくなるように制御する必要がある。そこで、実使用領域に対応する水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域(通常、SOC20〜80%の範囲に見られるような、SOCの変化によって水素吸蔵合金の平衡圧が大きく変化しない領域)の平衡圧の変化を小さくするように制御する必要がある。
【0007】
特に、高出力特性を得ることを目的としてA519型構造を主相とする希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を使用する場合、この水素吸蔵合金の結晶構造は安定性が悪いため、A27型構造、AB5型構造またはAB3型構造等の副相が生成されやすく、これら副相の存在によって水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域における平坦性が低下し、出力安定性が低下するという課題がある。このため、当該水素吸蔵合金を使用する場合においては、PCT曲線のプラトー領域の平衡圧の変化を小さくするように制御するように留意する必要がある。
【0008】
上述のように副相の存在によって使用する水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域における平坦性が低下する理由は、以下の通りと考えられる。即ち、一般的に、水素吸蔵合金が複数の結晶構造で構成される場合、水素吸蔵合金のPCT曲線は、各結晶構造のPCT曲線(図3(a)参照)が混成されたものとなる(図3(b)参照)。しかしながら、PCT曲線の混成は、全てのSOC領域で均等に行われず、低SOC領域と中〜高SOC領域では混成のされ方が異なるので、最終的に得られるPCT曲線は、プラトー領域が傾いた形になる(図3(b)参照)。
【0009】
このことは、低SOC領域では、平衡圧の低い結晶構造が水素の吸蔵・放出に主体的に関与する一方、中〜高SOC領域では、平衡圧の高い結晶構造が水素の吸蔵・放出に主体的に関与することを意味する。このため、低SOC領域では平衡圧の低い結晶構造側にシフトするようにして水素吸蔵合金のPCT曲線が混成される一方、高SOC領域では平衡圧の高い結晶構造側にシフトするようにして水素吸蔵合金のPCT曲線が混成されるからであると考えられる。
以上のようにして各結晶構造のPCT曲線が混成される結果、水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域に傾きが生じて平坦性が低下することとなる。このため、上記のような水素吸蔵合金を使用したアルカリ蓄電池においては、SOCの変化に伴う出力特性の変化が大きくなり、出力特性の安定性が低下するものと考えられる。
【0010】
ところで、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域における平坦性が低下し、出力安定性が低下するという問題は、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が、希土類部分にLa量を多く含み、Niの部分に含まれるAlの量が少ない場合に顕著に見られることが最近の調査で分かってきた。また、このような問題は、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の、Niの部分に含まれるAl等の量を増加させることにより、出力特性の安定性を改善できることも分かってきた。
すなわち、PCT曲線のプラトー領域における平坦性の低下の原因となる副相のAB3型構造、AB5型構造およびA27型構造の構成比率が所定の範囲に規制されるので、図3(c)に示すように、水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域の傾きが小さく、平坦性が高いので、出力特性の安定性を改善できることも分かってきた。
【0011】
しかしながら、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金に含まれるAlは、Niにくらべて標準電極電位が卑であるために、アルカリ水溶液中において溶出し易いという問題があった。このため、Al量を増加させた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いてアルカリ蓄電池を構成する場合、充放電過程で、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが溶出し、これが正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性(出力耐久性)が低下するといった課題が新たに生じた。
【0012】
そこで、本発明者等は、出力特性の安定性とともに、耐久性に優れるアルカリ蓄電池を得るのに好適な希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金およびこれを用いたアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極を特願2009−210403号にて提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2007/018292号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特願2009−210403号にて提案されている水素吸蔵合金を有するアルカリ蓄電池においては、部分充放電サイクルの初期における水素吸蔵合金の微粉化に起因して、放電性と耐食性が優れているとされている。なお、部分充放電サイクル試験においては、自動車としての15万km以上の走行距離あるいは10年間以上に亘る走行期間に相当する45℃で6000時間に亘る部分充放電サイクルを繰り返して行う(放電時間が3000時間に亘る部分充放電サイクル試験となる)ものである。
【0015】
しかしながら、HEV制御を模擬した部分充放電サイクル試験(SOCが20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始させ、SOCが80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始させるというサイクルを繰り返す試験)を行って、電池の耐久性を調査したところ、放電出力(W)と放電時間(h)との積の総和(積分値)となる総放電出力時間(Wh:以後においては生涯仕事量(Wh)という)が低下するという問題があることが明らかになった。これは、部分充放電サイクルの初期段階での水素吸蔵合金の微粉化の進行により、水素吸蔵合金の表面が活性となって出力が向上するが、部分充放電サイクルの進行に伴う水素吸蔵合金表面の酸化が進行し、活性な表面が減少することで生涯仕事量が低下するためと考えられる。
【0016】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、部分充放電サイクルの初期段階での水素吸蔵合金の微粉化により出力を向上させるとともに、その合金の表面状態を維持させて生涯仕事量(Wh)が大幅に向上させることができるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金、およびこの合金を負極に用いたアルカリ蓄電池、ならびにアルカリ蓄電池システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmv(ただし、ReはYを含む希土類元素(Laを除く)から選択された少なくとも1種の元素、TはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素、0.17≦x≦0.64、3.5≦n≦3.8、0.06≦m≦0.22、v≧0)と表され、主相の結晶構造がA519型構造であり、表面層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率X(Al/Ni)(%)とバルク層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率Y(Al/Ni)(%)の比X/Yが0.36以上、0.85以下(0.36≦X/Y≦0.85)であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のアルカリ蓄電池は、上述の水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z1)が、水素吸蔵合金1g当たり95mg以上で125mg以下(95mg≦Z1≦125mg)であることを特徴とする。また上述のセパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P1)が、セパレータ1g当たり660mg以上で1160mg以下(660mg≦P1≦1160mg)であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のアルカリ蓄電池は、部分充放電サイクルにおける3000時間放電後において、水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z2)が、水素吸蔵合金1g当たり65mg以上であることを特徴とする。また、部分充放電サイクルにおける3000時間放電後において、セパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P2)が、セパレータ1g当たり370mg以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の水素吸蔵合金のように、上記組成式で表されるとともに、式中のx,n,mの値が上記の範囲内に収まり、かつ主相の結晶構造がA519型構造であると、PCT曲線のプラトー領域における平坦性の低下の原因となる副相のAB3型構造、AB5型構造およびA27型構造の構成比率が所定の範囲に規制されることとなる。これにより、水素吸蔵合金のPCT曲線のプラトー領域の傾きが小さくて平坦性が高くなり、出力特性の安定性に優れたアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金となる。
【0021】
この場合、表面層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率X(Al/Ni)(%)とバルク層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率Y(Al/Ni)(%)の比X/Yが0.36以上、0.85以下(0.36≦X/Y≦0.85)であると、バルク層に比べてAlの濃度が小さい表面層を有しているため、本発明の水素吸蔵合金を使用したアルカリ蓄電池においては、水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが溶出し、これが正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性が低下するといった不具合が抑制されることとなる。
【0022】
なお、水素吸蔵合金の表面層とは、バルク層とは異なる形態(水素吸蔵合金粉末の断面を透過型電子顕微鏡で観察すると、濃淡で区別される)を示している領域のことをいう。また、表面層はアルカリ蓄電池内において、水素吸蔵合金の表面からアルカリ電解液が浸透し得る深さにある領域でもある。通常、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の表面層の厚みは100nm程度であるので、この領域に含まれるAlの濃度を低くすると、水素吸蔵合金からアルカリ電解液中へのAlの溶出を効果的に抑制することが可能となる。
【0023】
この場合、部分充放電サイクル前(使用前)に、水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z1)を水素吸蔵合金1g当たり95mg以上で125mg以下(95mg≦Z1≦125mg)に規制すると、総放電出力時間(生涯仕事量:Wh)が大幅に向上することが分かった。これは、部分充放電サイクル前(使用前)に、水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z1)を所定量に規定すると、アルカリ電解液が水素吸蔵合金の表面に常に存在する状態になったためと考えられる。このように、アルカリ電解液が水素吸蔵合金の表面に常に存在すると、部分充放電サイクルの初期に微粉化が進行した後においては、合金表面の酸化の進行が抑制されるようになって、総放電出力時間(生涯仕事量:Wh)が増大すると考えられる。また、上記のようにアルカリ電解液が水素吸蔵合金の表面に常に存在する状態とするには、部分充放電サイクル前に、セパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P1)を、セパレータ1gあたり660mg以上で1160mg以下(660mg≦P1≦1160mg)にすることが望ましい。
【0024】
なお、部分充放電サイクルにおける6000時間経過後(放電時間は3000時間となる)において、水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z2)は、水素吸蔵合金1g当たり65mg以上(65mg≦Z2)であるのが望ましい。
また、部分充放電サイクルにおける3000時間放電後において、セパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P2)は、セパレータ1gあたり370mg以上(370mg≦P2)であるのが望ましい。
【0025】
また、上記本発明の水素吸蔵合金を備えた水素吸蔵合金負極を用いてアルカリ蓄電池システムを構成する場合、充電深度(SOC)が20〜80%の間でのみ充放電が可能となるように制御されているのが好ましい。また、部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされているのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、部分充放電サイクルの初期に水素吸蔵合金の微粉化が進行することで、部分充放電サイクル初期の出力が向上するとともに、その微粉化の状態を適正に維持することが可能となるので、部分充放電サイクルにおける6000時間経過後(放電時間は3000時間となる)の総放電出力時間(生涯仕事量:Wh)を大幅向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】部分充放電サイクルにおける経過時間(時間:h)に対する放電出力(W)の比率の関係を示すグラフである。
【図3】水素吸蔵合金のPCT曲線を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
1.水素吸蔵合金
水素吸蔵合金は以下のようにして作製した。この場合、まず、ランタン(La)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)を所定のモル比の割合で混合し、この混合物をアルゴンガス雰囲気中で溶解させ、これを溶湯急冷して組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmv(ただし、式中Reはランタン(La)を除く希土類元素から選択された元素で、TはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素)と表される水素吸蔵合金α,β,γ,δのインゴットを作製した。
【0029】
なお、これらの水素吸蔵合金α,β,γ,δの組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によって分析すると、下記の表1に示すように、水素吸蔵合金αは組成式がLa0.3Sm0.5Mg0.2Ni3.2Al0.25で表されものであることが分かった。また、水素吸蔵合金βは組成式がLa0.6Sm0.2Mg0.2Ni3.6Al0.15で表され、水素吸蔵合金γは組成式がLa0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.6Al0.10Co0.05で表され、水素吸蔵合金δは組成式がLa0.6Sm0.2Mg0.2Ni3.6Al0.06で表されるものであることが分かった。
なお、下記の表1には、各水素吸蔵合金α,β,γ,δを組成式LaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmvで表した場合のA成分(希土類元素(La,Re)とMg)に対するB成分(NiとAlとT)のモル比(B/A=n)の値およびLaのモル比(x),Alのモル比(m),T(v)のモル比も示している。
【0030】
ついで、得られた各水素吸蔵合金α,β,γ,δについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、これらの水素吸蔵合金α,β,γ,δの融点(Tm)よりも50℃だけ低い温度(Ta=Tm−50℃)で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行った。この後、これらの各水素吸蔵合金α,β,γ,δの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で機械的に粉砕して、体積累積頻度50%での粒径(D50)が25μmの水素吸蔵合金粉末を作製した。
【0031】
ついで、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で水素吸蔵合金粉末α,β,γ,δの結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度20〜50θ/degでX線回折測定を行った。なお、結晶構造の各構造比率の算出においては、A519型構造はPr5Co19型構造とSm5Co19型構造とし、A27型構造はCe2Ni7型構造とGd2Co19型構造とし、NIMS(National Institure for Materials Science)データベースの各回折強度ピークをもとに、得られたプロファイルの42〜44°の最強強度値との比較強度比によって、各構造比率を算出して主相の結晶構造を求めると、下記の表1に示すような結果が得られた。
【0032】
2.水素吸蔵合金の表面処理
上述のようにして作製された水素吸蔵合金α,β,γ,δの粉末を用いて以下のようにして表面処理を行った。この場合、まず、水素吸蔵合金α,β,γ,δの粉末をSUS製の容器に封入した後、これらの水素吸蔵合金α,β,γ,δの質量に対し1.0×10-1質量%となるように、濃度が0.30質量%のリン酸水素2ナトリウム・12水和物を注入した。この後、当該容器を加振し、3日間放置して、水素吸蔵合金α,β,γ,δの表面処理を行った。
【0033】
ついで、得られた表面処理済みの水素吸蔵合金粉末の試料をダミー基板間に分散・固定し、これを切断・研磨して水素吸蔵合金粉末の分析用断面を形成した。この後、水素吸蔵合金粉末の分析用断面を透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2010F型 電界放射型透過電子顕微鏡、加速電圧200KV)を用いて観察した。観察した結果、各水素吸蔵合金粉末の表面層の領域と、バルク層の領域とは異なる形態(濃淡を示していた)を示していることが分かった。
【0034】
なお、表面層の領域は電解液に接触する領域であって、その幅(深さ)を測定すると粒子表面から100nmの範囲であることが分かった。さらに、表面層とバルク層の組成を、エネルギー分散型X線分光装置(ノーラン社製 UTW型Si(Li)半導体検出器)により分析して、表面層でのNiに対するAlの強度比率X(%)とバルク層におけるNiに対するAlの強度比率Y(%)とを求めた後、バルク層での強度比率Y(%)に対する、表面層での強度比率X(%)との比(X/Y)を算出すると、下記の表1に示すような結果が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
上記表1の結果から明らかなように、組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmv(ただし、ReはYを含む希土類元素(Laを除く)から選択された少なくとも1種の元素、TはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素)で表され、0.17≦x≦0.64、3.5≦n≦3.8、0.06≦m≦0.22、v≧0の条件を満たす水素吸蔵合金β,γ,δは主相がA519型構造であることが分かった。
【0037】
また、水素吸蔵合金β,γ,δにおいては、Alの含有量が低く(m=0.15あるいはm=0.06、即ち、0.06≦m≦0.22)、かつバルク層でのAlの強度比率Y(%)に対する表面層でのAlの強度比率X(%)との比(X/Y)が0.36以上で0.85以下(0.36≦X/Y≦0.85)の範囲内であることが分かる。これにより、バルク層に比べてAlの濃度が小さい表面層を有しているため、水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが溶出し、これが正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性が低下するといった不具合が抑制されることとなる。
【0038】
3.水素吸蔵合金負極
水素吸蔵合金負極11は、ニッケルメッキを施した軟鋼材製のパンチングメタルからなる負極芯体11aに水素吸蔵合金スラリーが充填されて作製されている。この場合、まず、上述のように表面処理した水素吸蔵合金α,β,γ,δの粉末のいずれかと水溶性結着剤と熱可塑性エラストマーおよび炭素系導電剤とを混合・混練して水素吸蔵合金スラリーを作製した。なお、水溶性結着剤としては、0.1質量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)と水(あるいは純水)とからなるものを使用した。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジエンラテックス(SBR)を使用した。さらに、炭素系導電剤としては、ケッチェンブラックを使用した。
【0039】
ついで、上述のようにして作製した水素吸蔵合金スラリーを負極芯体(ニッケルメッキを施した軟鋼材製のパンチングメタル)11aに所定の充填密度(例えば、5.0g/cm3)となるように塗着、乾燥させて活物質層11bを形成させた後、所定の厚みになるように圧延した後、所定の寸法に切断して、水素吸蔵合金負極11(a,b,c,d)を作製した。この場合、水素吸蔵合金αの粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極aとした。同様に、水素吸蔵合金βの粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極bとし、水素吸蔵合金γの粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極cとし、水素吸蔵合金δの粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極dとした。
【0040】
4.ニッケル正極
ニッケル正極12は、基板となるニッケル焼結基板の多孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが充填されて作製されている。この場合、まず、例えば、ニッケル粉末に、増粘剤となるメチルセルロース(MC)と高分子中空微小球体(例えば、孔径が60μmのもの)と水とを混合、混練してニッケルスラリーを作製した。ついで、ニッケルめっき鋼板からなるパンチングメタルの両面にニッケルスラリーを塗着した後、還元性雰囲気中で1000℃で加熱して、塗着されている増粘剤や高分子中空微小球体を消失させるとともにニッケル粉末同士を焼結することによりニッケル焼結基板を作製した。
【0041】
ついで、得られたニッケル焼結基板に以下のような含浸液に含浸した後、アルカリ処理液によるアルカリ処理を所定回数繰り返すことにより、ニッケル焼結基板の細孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが充填されることとなる。この後、所定の寸法に裁断することにより、正極活物質が充填されたニッケル正極12を作製した。この場合、正極活物質となる水酸化ニッケルのニッケル質量に対して水酸化亜鉛の亜鉛質量の比率が7質量%となるように作製した。
【0042】
なお、含浸液としては、硝酸ニッケルと硝酸亜鉛を所定のモル比に調整したものを用いた。一方、アルカリ処理液としては、比重が1.3の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いた。この場合、高温特性を高めるなどの目的で、硝酸コバルトや硝酸イットリウムや硝酸イッテルビウムなども添加した含浸液を用いるようにしてもよい。そして、ニッケル焼結基板を上述した含浸液に浸漬して、ニッケル焼結基板の細孔内に含浸液を含浸させた後、乾燥させ、ついで、アルカリ処理液に浸漬してアルカリ処理を行う。これにより、ニッケル塩や亜鉛塩を水酸化ニッケルや水酸化亜鉛に転換させる。この後、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥させる。このような、含浸液の含浸、乾燥、アルカリ処理液への浸漬、水洗、および乾燥という一連の正極活物質の充填操作を6回繰り返すことにより、所定量の正極活物質がニッケル焼結基板に充填されたニッケル正極12を作製した。
【0043】
5.ニッケル−水素蓄電池
ニッケル−水素蓄電池10は、以下のようにして作製した。この場合、 まず、上述のように作製された水素吸蔵合金負極11とニッケル正極12とを用い、これらの間に、目付が55g/m2のポリオレフィン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0044】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)16内に収納した後、負極集電体14を外装缶16の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aと、正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット18が装着された封口体17の底部を構成する封口板17aとを溶接した。なお、封口体17には正極キャップ17bが設けられていて、この正極キャップ17b内に所定の圧力になると変形する弁体17cとスプリング17dよりなる圧力弁が配置されている。
【0045】
ついで、外装缶16の上部外周部に環状溝部16aを形成した後、電解液を注液し、外装缶16の上部に形成された環状溝部16aの上に封口体17の外周部に装着された絶縁ガスケット18を載置した。この後、外装缶16の開口端縁16bをかしめ、外装缶16内に水素吸蔵合金1g当たり所定量(Z1(mg))となるようにアルカリ電解液(水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)と水酸化リチウム(LiOH)との混合水溶液)を注入して、公称容量が6AhでDサイズのニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)を作製した。
【0046】
この場合、水素吸蔵合金負極aを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり85mgとなるように電解液が注入されたものを電池Aとした。また、水素吸蔵合金負極bを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり85mgとなるように電解液が注入されたものを電池Bとした。また、水素吸蔵合金負極cを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり85mgとなるように電解液が注入されたものを電池Cとした。また、水素吸蔵合金負極dを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり85mgとなるように電解液が注入されたものを電池Dとした。
【0047】
一方、水素吸蔵合金負極aを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり95mgとなるように電解液が注入されたものを電池Eとした。また、水素吸蔵合金負極bを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり95mgとなるように電解液が注入されたものを電池Fとした。また、水素吸蔵合金負極cを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり95mgとなるように電解液が注入されたものを電池Gとした。また、水素吸蔵合金負極dを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり95mgとなるように電解液が注入されたものを電池Hとした。さらに、水素吸蔵合金負極bを用いかつ水素吸蔵合金1g当たり125mgとなるように電解液が注入されたものを電池Iとした。
【0048】
なお、水素吸蔵合金1g当たりの電解液量(Z1(mg))は、各ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)から取り出した水素吸蔵合金負極11を流水中に浸漬して脱アルカリ処理したものを減圧乾燥させ、洗浄前と洗浄後の質量差を水素吸蔵合金の質量で割って算出したものである。また、セパレータに含まれるアルカリ電解液(P1(mg)は、ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)から取り出したセパレータ13を流水中に浸漬して脱アルカリ処理したものを減圧乾燥させ、洗浄前と洗浄後の質量差をセパレータの質量で割って算出したものである。
【0049】
6.電池試験
(1)活性化
上述のようにして作製されたニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)を用いて、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止させた。ついで、60℃の温度雰囲気で24時間放置した後、30℃の温度雰囲気で、1Itの放電々流で電池電圧が0.9Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して、これらのニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)を活性化した。
【0050】
(2)放電出力および生涯仕事量(部分充放電サイクルでの放電時間が3000時間経過後の総出力時間)の評価
ついで、活性化終了後のニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)において、10Itの充電電流にて、45℃の温度雰囲気(電池温度を45℃とする)で、初期電池容量に対するSOC(State Of Charge:充電深度)が80%となる電圧まで充電した後、10Itの放電電流にてSOCが20%となる電圧まで放電させるという充放電サイクルを繰り返す部分充放電サイクル試験を行った。そして、このような部分充放電サイクルでの放電時間が500時間および3000時間(なお、この500時間および3000時間は、部分充放電サイクルにおいては、1000時間および6000時間にそれぞれ相当する。)経過した後、各電池の25℃での放電出力(W)を算出すると、下記の表2に示すような結果となった。
【0051】
この場合、25℃での放電出力(W)は、25℃で電池容量(公称容量)に対し、1.0Itの充電電流で電池容量の50%までを充電し、25℃の温度雰囲気で3時間保管した。この後、30Itの放電レートで10秒間放電を行い、10秒後の電池電圧(V)と電流(A)の積(W)から算出している。なお、下記の表2においては、電池Aの初期出力(W)を100とし、他の電池の初期出力(W)をそれとの比率(%)で示すとともに、500時間経過後および3000時間経過後の放電出力(W)も電池Aの初期出力(W)に対する比率(%)で示している。
【0052】
ついで、放電時間が500時間経過後および3000時間経過後の放電出力(W)を直線で繋いだ面積(Wh:図2における各曲線内の面積)を生涯仕事量(部分充放電サイクルでの放電時間が3000時間経過後の総出力)(Wh)とし定義し、各電池の生涯仕事量(Wh)を電池Aの生涯仕事量(Wh)に対する比率(%)で示すと、下記の表2に示すような結果となった。また、表2の結果に基づいて、部分充放電サイクルおける放電時間(時間:h)を横軸(X軸)にプロットし、その放電時間(時間:h)に対応する出力(W)の電池Aに対する比率(%)を縦軸(Y軸)にプロットすると、図2に示すようなグラフが得られた。
【0053】
また、部分充放電サイクルでの放電時間が3000時間経過した後、各ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)から取り出た負極極板11を流水中に浸漬して脱アルカリしたものを減圧乾燥させて、洗浄前と乾燥後の質量差を水素吸蔵合金の質量(CMC,SBR,ケッチェンブラックを除いたもの)で割った値を、水素吸蔵合金1g当たりの電解液保持量(Z2(mg))として求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0054】
さらに、セパレータに含まれるアルカリ電解液は、各ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I)から取り出したセパレータ13を流水中に浸漬して脱アルカリ処理したものを減圧乾燥させ、洗浄前と洗浄後の質量差をセパレータの質量で割った値を、セパレータ1g当たりの電解液保持量(P2(mg))として求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0055】
【表2】

【0056】
7.試験結果
上記表2および図2の結果から、以下のことが明らかになった。
即ち、まず、電池Aの負極11の水素吸蔵合金α(m=0.25、m>0.22)から、水素吸蔵合金β、水素吸蔵合金γあるいは水素吸蔵合金δに変更した電池B、電池C、電池Dにおいては、初期と500時間経過後の出力が向上していることが分かる。これは、水素吸蔵合金β、水素吸蔵合金γおよび水素吸蔵合金δにおいては、Alの含有量(m=0.15、m=0.10あるいはm=0.06、即ち、0.06≦m≦0.22)が少ないことから、部分充放電の初期から出力に有利な合金の微粉化が促進されるためであると考えられる。
【0057】
この場合、これらの各水素吸蔵合金α,β,γ,δにおいては、リン酸水素2ナトリウム・12水和物による表面処理により、表面層のAlの濃度比率(X)をバルク層のAlの濃度比率(Y)に対して0.36〜0.85(0.36≦X/Y≦0.85)と低くしている。このため、水素吸蔵合金負極からアルカリ電解液中へのAlの溶出量が抑制されることとなる。
【0058】
さらに、水素吸蔵合金β、水素吸蔵合金γおよび水素吸蔵合金δを負極に用いて、合金1g当たりの電解液の保持量(Z1)を85mgから95mgあるいは125mgに増加させた電池F、電池G、電池H、電池Iにおいては、電池Aに比べ生涯仕事量が10%以上も向上していることが分かる。これは、合金1g当たりの電解液の保持量(Z1)を95mg〜125mgに増加させることで、部分充放電サイクル初期の水素吸蔵合金の微粉化が進んだ後においは合金表面酸化の進行が抑制されて、生涯仕事量を増大させることが可能になったためと考えられる。これは、従来から用いられてきた水素吸蔵合金α(m=0.25、m>0.22)と比べて、大幅な生涯仕事量の向上効果となる。換言すると、部分充放電サイクル初期に微粉化を進行させて、部分充放電サイクルの初期の出力を向上させるとともに、その水素吸蔵合金の表面状態を維持させることで従来よりも生涯仕事量を大幅に向上させることが可能になるということができる。
【0059】
しかしながら、合金1g当たりの電解液の保持量(Z1)を95mgに増加させても、Alの含有量(m=0.25、m>0.22)を多くした水素吸蔵合金αを負極に用いた電池Eにおいては、電池F、電池Gのような生涯仕事量の向上は見られず、電池Aと同等の生涯仕事量となっていることが分かる。これは水素吸蔵合金αは、水素吸蔵合金β、水素吸蔵合金γおよび水素吸蔵合金δに比べて微粉化が部分充放電サイクル初期に進むことなく徐々に進むためと考えられる。この場合、合金1g当たりの電解液の保持量(Z1)を増加させても、微粉化により合金新表面が徐々に現れるため、新表面からAl等の溶出が加速するため、その効果が低減するためと考えられる。
【0060】
以上のことから、組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmv(ただし、ReはYを含む希土類元素(Laを除く)から選択された少なくとも1種の元素、TはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素、0.17≦x≦0.64、3.5≦n≦3.8、0.06≦m≦0.22、v≧0)と表され、主相の結晶構造がA519型構造であり、表面層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率Xとバルク層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率Yの比X/Yが0.36以上、0.85以下(0.36≦X/Y≦0.85)である水素吸蔵合金を負極に用い、かつ部分充放電制御するようになされているとともに、アルカリ蓄電池内に保持されたアルカリ電解液量は部分充放電サイクル前の水素吸蔵合金1g当たり、95mg以上、125mg以下の条件を満たせば、生涯仕事量を大きく改善させることができるといえる。
また、このときのセパレータ1g当たりのアルカリ電解液の保持量は、660mg以上、1160mg以下(660mg≦P1≦1160mg)とするのが好ましい。
【0061】
この場合、部分充放電サイクルを行い、放電が3000時間経過した後に、合金1g当たりの電解液の保持量(Z2)が65mg以上残存するように電解液量を規制すると、生涯仕事量が向上することとなる。このことから、放電が3000時間経過した後の合金1g当たりの電解液の保持量(Z2)が65mg以上になるように電解液量を規制するのが望ましいということができる。また、このときのセパレータに含まれる電解液の保持量(P2)は、セパレータ1gあたり370mg以上になるように電解液量を規制するのが望ましいということができる。
ここで、部分充放電サイクルにおける放電が3000時間(部分充放電サイクルにおける6000時間に相当する)とは、自動車における10年間以上に亘る走行期間あるいは15万km以上の走行距離に相当するものである。
【0062】
なお、水素吸蔵合金のニッケル置換元素となる元素Tはコバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含まないことが好ましい。これはHEVなど高温環境下に長期放置される用途では自己放電性能が求められており、負極にCo、Mnを含むと、長期放置時にこれらの元素が溶出して、セパレータ上に再析出し、自己放電性能の低下をもたらすからである。
【0063】
また、上記本発明の水素吸蔵合金を用いてアルカリ蓄電池システムを構成する場合、充電深度(SOC)が20〜80%の間で充放電が可能となるように制御されているのが好ましい。また、部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされているのが好ましい。上記のように制御されていると、上記本発明の効果が効果的に発現される。また、充電深度(SOC)は、30〜70%の間で充放電が可能となるように制御されているのが好ましく、また、40〜60%の間で充放電が可能となるように制御されているのがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0064】
11…水素吸蔵合金負極、11a…負極用導電性芯体、11b…活物質層、11c…芯体露出部、12…ニッケル正極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…正極用リード、16…外装缶、16a…環状溝部、16b…開口端縁、17…封口体、17a…封口板、17b…正極キャップ、17c…弁板、17d…スプリング、18…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であって、
前記水素吸蔵合金は、組成式がLaxReyMg1-x-yNin-m-vAlmv(ただし、ReはYを含む希土類元素(Laを除く)から選択される少なくとも1種の元素、TはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素、0.17≦x≦0.64、3.5≦n≦3.8、0.06≦m≦0.22、v≧0)と表され、主相の結晶構造がA519型構造であり、表面層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率X(Al/Ni)(%)とバルク層のニッケル(Ni)に対するアルミニウム(Al)の濃度比率Y(Al/Ni)(%)の比X/Yが0.36以上、0.85以下(0.36≦X/Y≦0.85)であるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項2】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、
前記水素吸蔵合金は請求項1に記載の水素吸蔵合金であるとともに、
前記水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z1)は、水素吸蔵合金1g当たり95mg以上で125mg以下(95mg≦Z1≦125mg)であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記セパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P1)は、セパレータ1g当たり660mg以上で1160mg以下(660mg≦P1≦1160mg)であることを特徴とする請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記アルカリ蓄電池の部分充放電サイクルにおける3000時間放電後における前記水素吸蔵合金負極が保持するアルカリ電解液の保持量(Z2)は、水素吸蔵合金1g当たり65mg以上であることを特徴とする請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項5】
前記アルカリ蓄電池の部分充放電サイクルにおける3000時間放電後における前記セパレータが保持するアルカリ電解液の保持量(P2)は、セパレータ1g当たり370mg以上であることを特徴とする請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項6】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池を有するアルカリ蓄電池システムであって、
前記アルカリ蓄電池は請求項2から請求項5のいずれかに記載のアルカリ蓄電池であるとともに、当該アルカリ蓄電池を部分充放制御するようになされており、
前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20〜80%の間でのみ充放電が可能となるように制御されていることを特徴とするアルカリ蓄電池システム。
【請求項7】
前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされていることを特徴とする請求項6に記載のアルカリ蓄電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216467(P2011−216467A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16242(P2011−16242)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】