説明

アルカリ蓄電池

【課題】正極板との対向面積が大きく、かつ高密度充填された水素吸蔵合金負極板を用いても、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生を抑制できるようにして、負極集電体との溶接部での抵抗増加を抑制し、高出力化を達生できるアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池は、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極板11と、ニッケル酸化物あるいはニッケル水酸化物を正極活物質とするニッケル正極板12と、これらの両極板を隔離するセパレータ13と、アルカリ電解液とを外装缶17内に備えている。ここで、水素吸蔵合金負極板11の電極容量X(Ah)に対する表面積Y(cm2)の割合Y/Xが70cm2/Ah(Y/X=70cm2/Ah)以上で、かつ水素吸蔵合金負極板11における水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上であるとともに、水素吸蔵合金のビッカーズ強度は640Hv以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動自転車やハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の高出力が要求される用途に適したアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池(蓄電池)の用途が拡大して、携帯電話、ノートパソコン、電動工具、電動自転車、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(PEV)など広範囲にわたって用いられるようになった。このうち、特に、電動自転車、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(PEV)などの高出力が求められる機器の電源用としては、従来の範囲を遙かに超えた高出力が求められるようになった。このような従来の範囲を遙かに超えた高出力化を達成するための手法が、例えば、特許文献1(特開2000−82491号公報)などで提案されるようになった。
【0003】
ところで、特許文献1にて提案された高出力化を達成するための手法においては、正極板と負極板との総対向面積を大きくするようにして、両極板間に流れる電流の密度(電流密度)を小さくするようにしている。これにより、高い放電率で作動させても内部抵抗に起因する作動電圧の低下を防止することが可能となって、大きな放電電流を取り出すことができるようになる。この場合、正極板と負極板との総対向面積を大きくするために、正極板および負極板の厚みをできる限り薄くして、渦巻状電極群における正極板および負極板の層数(巻回数)をできる限り多くするようにしている。
【特許文献1】特開2000−82491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した特許文献1に示されるように、正極板および負極板の厚みをできる限り薄くして、正極板と負極板との総対向面積を増大させるようにすると、渦巻状電極群を作製する際の捲回工程において巻ズレが発生するという問題が生じた。このような巻ズレは、渦巻状電極群の捲回方向に直交する方向に負極板がずれて、渦巻状電極群から負極板がはみ出すというもので、特に、水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上と高充填密度になった水素吸蔵合金負極板において顕著に生じるようになることが判明した。
【0005】
これは、水素吸蔵合金負極板は水素吸蔵合金粉末を含有するスラリーを導電性芯体に塗着し、乾燥後、圧延することにより作製されるが、水素吸蔵合金負極板の薄型化に伴い、高い圧力で圧延されるため、導電性芯体に水素吸蔵合金粉末が食い込むようになる。これにより、水素吸蔵合金負極板が硬化することとなって、水素吸蔵合金負極板の柔軟性が低下するとともに水素吸蔵合金負極板に歪み(反り)が発生するようになる。この結果、渦巻状電極群を作製する際に、渦巻状電極群から水素吸蔵合金負極板がはみ出すという巻ズレが発生するようになる。
【0006】
通常、この種の水素吸蔵合金負極板の幅方向の端部には水素吸蔵合金スラリーが塗着されていない芯体露出部が形成されていて、渦巻状に巻回後、この芯体露出部に負極集電体を溶接するようにしている。このため、このような巻ズレが巻回時に発生するようになると、芯体露出部と負極集電体との溶接部に溶接不良が発生するようになる。溶接不良が発生すると、溶接不良箇所での抵抗が増加するようになる。すると、この抵抗増加に起因して、該当部での反応性の低下を招来するようになって、高出力化を達成することができなくなるという問題を生じるようになる。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、正極板との対向面積が大きく、かつ高密度充填された水素吸蔵合金負極板を用いても、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生を抑制できるようにして、負極集電体との溶接部での抵抗増加を抑制し、高出力化を達生できるアルカリ蓄電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルカリ蓄電池は、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極板と、ニッケル酸化物あるいはニッケル水酸化物を正極活物質とするニッケル正極板と、これらの両極板を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えている。そして、上記目的を達成するため、水素吸蔵合金負極板の電極容量X(Ah)に対する表面積Y(cm2)の割合Y/Xが70cm2/Ah以上(Y/X≧70cm2/Ah)で、かつ水素吸蔵合金負極板における水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上であるとともに、水素吸蔵合金のビッカーズ強度は640Hv以下であることを特徴とする。
【0009】
ここで、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生を抑制するためには、ビッカーズ硬度が低くて柔軟性のある導電性芯体(負極芯体)を使用することが考えられる。ところが、周知の負極芯体はNiメッキ軟鋼材であるため、ビッカーズ硬度は150〜300Hv程度と大きい。このため、負極芯体のビッカーズ硬度をさらに低くするためには負極芯体を焼鈍する必要がある。しかしながら、Niメッキ軟鋼材を焼鈍すると、FeのNiメッキ層への拡散が進行して、負極芯体としての導電性低下をもたらすこととなる。このため、負極芯体のビッカーズ硬度を低下させるには限界があった。
【0010】
そこで、本発明者等は種々検討した結果、ビッカーズが低い水素吸蔵合金を用いればビッカーズ硬度が150〜300Hv程度のNiメッキ軟鋼材からなる負極芯体を用いても水素吸蔵合金負極板の柔軟性が向上して、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生を抑制することが可能となることが明らかになった。この場合、ビッカーズ硬度が640Hvより大きい水素吸蔵合金を用いると、水素吸蔵合金負極板を薄型化するための圧延時に、水素吸蔵合金粉末が負極芯体に過度に食い込むようになる。これにより、水素吸蔵合金負極板が硬化して、柔軟性が低下したり極板歪み(反り)が生じるようになる。このため、ビッカーズ強度が640Hv以下の水素吸蔵合金を用いる必要がある。
【0011】
ここで、合金主相の結晶構造がCe2Ni7構造を有し、かつ少なくとも希土類元素、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを含有する水素吸蔵合金は、ビッカーズ硬度を640Hv以下に低くすることが可能であることが明らかとなった。そして、上述のようなビッカーズ硬度が低い水素吸蔵合金を用いると、水素吸蔵合金負極板の極板容量X(Ah)に対する表面積Y(cm2)の割合Y/Xが70cm2/Ah以上(Y/X≧70cm2/Ah)の高対向面積で、かつ水素吸蔵合金負極板における水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上という高充填密度であっても、水素吸蔵合金負極板の柔軟性を向上させることが可能となった。
【0012】
これにより、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生を抑制することが可能となり、負極集電体との溶接部での抵抗増加を抑制して高出力化を達成することができるアルカリ蓄電池を得ることが可能となる。
【0013】
なお、水素吸蔵合金負極板の極板曲げ強度R(MPa)は52×10-4(MPa)〜85×10-4(MPa)であって、当該水素吸蔵合金負極板の芯体の曲げ強度S(MPa)との割合(R/S)が1.3〜1.7(1.3≦R/S≦1.7)であると、渦巻状電極群を形成する際の巻ズレの発生が抑制でき、高出力を得ることが明らかとなった。このため、水素吸蔵合金負極板の極板曲げ強度R(MPa)は52×10-4(MPa)〜85×10-4(MPa)で、当該水素吸蔵合金負極板の芯体の曲げ強度S(MPa)との割合(R/S)が1.3〜1.7(1.3≦R/S≦1.7)であるのが望ましい。
【0014】
この場合、水素吸蔵合金粉末の平均粒径が30μmよりも大きくなると、水素吸蔵合金負極板を薄型化するための圧延時に、水素吸蔵合金粉末が負極芯体に過度に食い込むようになって極板硬化が生じ易くなる。このため、平均粒径が30μm以下の水素吸蔵合金粉末を用いるのが望ましいということができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、従来の範囲を遥かに越える正・負極板の総対向面積を有するアルカリ蓄電池において、水素吸蔵合金のビッカーズ硬度を最適化することにより水素吸蔵合金負極板の柔軟性を所定量に維持することを可能とする。これにより、渦巻状電極群の捲回時の巻きズレの発生を抑制することを可能とし、従来の範囲を遥かに超える高出力化を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ついで、本発明の実施の形態を以下の図1〜図5に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。図2は水素吸蔵合金負極板の反り量(mm)を説明するための図である。図3は水素吸蔵合金負極容量X(Ah)に対する水素吸蔵合金負極の表面積Y(cm2)の割合Y/X(cm2/Ah)と反り量(mm)の関係を示すグラフである。図4は水素吸蔵合金負極容量X(Ah)に対する水素吸蔵合金負極の表面積Y(cm2)の割合Y/X(cm2/Ah)と巻ズレ量(mm)の関係を示すグラフである。図5は電池出力試験を行う状態の電池を模式的に示す図である。
【0017】
1.水素吸蔵合金
Ln(Yを含む希土類元素)、Mg、Ni、Co、AlあるいはLn(Yを含む希土類元素)、Ni、Co、Al、Mnを所定のモル比の割合で混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、冷却し、ついで、得られた水素吸蔵合金の融点よりも100℃低い温度で所定時間の熱処理を行って、水素吸蔵合金のインゴットを作製した。この場合、組成式がLn0.89Mg0.11Ni3.2Co0.1Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金aとし、Ln0.87Mg0.13Ni3.4Co0.1Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金bとした。また、LnNi4.3Co0.6Al0.3Mn0.2で表されるものを水素吸蔵合金cとした。
【0018】
なお、これらの水素吸蔵合金a,bは合金主相の結晶構造がCe2Ni7構造を有し、水素吸蔵合金cはCaCu5型結晶構造を主結晶相とするAB5型系水素吸蔵合金である。そして、これらの水素吸蔵合金a〜cのビッカーズ硬度を求めると下記の表1に示すような結果となった。この場合、微小硬度計(島津製作所製 測定荷重:300g)を用いて測定した。
【表1】

【0019】
上記表1の結果から明らかなように、合金主相の結晶構造がCe2Ni7構造を有し、少なくとも希土類元素、Mg,Ni,Alを含有する水素吸蔵合金a,bは、ビッカーズ硬度(Hv)が552〜640Hvと低いのに対して、CaCu5型結晶構造を主結晶相とする水素吸蔵合金cのビッカーズ硬度(Hv)は690Hvと高いことが分かる。
【0020】
2.水素吸蔵合金負極板
ついで、これらの各水素吸蔵合金a〜cの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が30μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末を作製した。この後、得られた各水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、非水溶性結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を1.0質量部と水(あるいは純水)を加え、水素吸蔵合金スラリーを作製した。ついで、ビッカーズ硬度が130Hvで、開孔率が30%の多孔基板からなるNiメッキ軟鋼材製の負極芯体を用意した。この場合、厚みが60μmのものを負極芯体αとし、厚みが80μmのものを負極芯体βとした。この後、用意した負極芯体に、充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーを塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法になるように切断して、水素吸蔵合金負極板11(a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3)をそれぞれ作製した。
【0021】
ここで、水素吸蔵合金aを用い、負極芯体がα(厚み60μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が1030cm2のものを水素吸蔵合金負極板a1とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が760cm2のものを水素吸蔵合金負極板a2とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が5.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が230cm2のものを水素吸蔵合金負極板a3とした。
【0022】
また、水素吸蔵合金bを用い、負極芯体がα(厚み60μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が1030cm2のものを水素吸蔵合金負極板b1とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が760cm2のものを水素吸蔵合金負極板b2とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が5.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が230cm2のものを水素吸蔵合金負極板b3とした。
【0023】
さらに、水素吸蔵合金cを用い、負極芯体がα(厚み60μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が1030cm2のものを水素吸蔵合金負極板c1とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が10.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が760cm2のものを水素吸蔵合金負極板c2とし、負極芯体がβ(厚み80μm)で、負極容量X(Ah)が5.8Ahで、負極表面積Y(cm2)が230cm2のものを水素吸蔵合金負極板c3とした。そして、これらの水素吸蔵合金負極板a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3の内容を表に示すと、下記の表2に示すようになる。
【表2】

【0024】
3.水素吸蔵合金負極板の曲げ強度
上述のようにして作製した水素吸蔵合金負極板a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3を60mm×45mmの寸法に裁断し、アイコーエンジニアリング製曲げ試験装置(JISR1601規格)を用いて、三点曲げ強度試験を行った。このとき、支点間距離は20mmで、変位速度は10mm/minで、5KgFのロードセルを用い、水素吸蔵合金負極板a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3の極板曲げ強度R(限界曲げ強度:MPa)および反り量(mm)を測定すると、下記の表3に示すような結果が得られた。この場合、反り量(mm)とは、図2に示すように、水素吸蔵合金負極板a1〜a3,b1〜b3,c1〜c3の芯体露出部x側の両端部と極板中央との距離h(mm)を意味する。また、負極芯体(α,β)の芯体曲げ強度Sを測定すると、芯体αは39×10-4MPa(Sα=39×10-4MPa)であり、芯体βは51×10-4MPa(Sβ=51×10-4MPa)であった。
【表3】

【0025】
上記表3の結果から明らかなように、負極板容量X(Ah)に対する負極板表面積Y(cm2)の割合(Y/X(cm2/Ah))が等しい負極板a1,b1,c1((a2,b2,c2)(a3,b3,c3))同士を比較すると、それぞれ負極板容量X(Ah)に対する負極板表面積Y(cm2)の割合(Y/X(cm2/Ah))が等しい場合、負極板c1,c2,c3の極板曲げ強度R(MPa)が一番大きいことが分かる。
即ち、水素吸蔵合金のビッカーズ硬度の違いより、負極板の柔軟性が異なり、ビッカーズ硬度が低い水素吸蔵合金を用いた負極板ほど極板曲げ強度が小さく、柔軟性が大きいことが分かる。
そして、芯体曲げ強度S(MPa)に対する極板曲げ強度R(MPa)の割合R/Sが小さいほど極板柔軟性が良好で、極板の反りが小さいことが分かる。
【0026】
4.ニッケル正極板
多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
【0027】
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル正極12を作製した。
【0028】
5.ニッケル−水素蓄電池
この後、上述のようにして作製した水素吸蔵合金負極11とニッケル正極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極板11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極板12の芯体露出部12cが露出している。
【0029】
ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極板12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接した。この後、正極集電体15の上部に円筒状の正極用リード16を溶接した。この場合、円筒状の正極用リード16には、正極集電体15の溶接電極挿入用の中心開口15bに対応する位置にこの開口15bに連通する開口16aが形成されている。
【0030】
ついで、鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、開口17aおよび中心開口15bを通して図示しない溶接電極を挿入し、水素吸蔵合金負極板11に溶接された負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。ついで、外装缶17の上部内周側に防振リング19bを挿入し、外装缶17の上部外周側に溝入れ加工を施して防振リング19bの上端部に環状溝部17aを形成した。この後、外装缶17内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液を注入した。なお、アルカリ電解液の注液量は電池容量(Ah)当たり2.5g(2.5g/Ah)とした。
【0031】
さらに、この外装缶17の開口部の上部に、封口板18aの底面が正極用リード16の円筒部分に接触するように配置した。ここで、封口板18aの上部には正極キャップ(正極外部端子)18bが設けられており、この正極キャップ18b内には弁板18cとスプリング18dからなる弁体を備えており、封口板18aの中央にはガス抜き孔が形成されており、封口板18aと正極キャップ18bとで封口体18が形成されている。ついで、正極キャップ(正極外部端子)18bの上面に一方の溶接電極(図示せず)を配置するとともに、外装缶17の底面(負極外部端子)の下面に他方の溶接電極(図示せず)を配置した。
【0032】
この後、これらの一対の溶接電極間に所定の圧力を加えながら、これらの溶接電極間に電池の放電方向に所定の電圧を印加し、所定のパルス電流を流す通電処理を施した。この通電処理により、封口板18aの底面と正極用リード16の周側縁との接触部分が溶接されることとなる。このように、一対の溶接電極間に所定の圧力を加えながら、これらの溶接電極間に電圧を印加して、通電処理を施すことにより、円筒状の正極用リード16の高さ寸法にばらつきがあっても、円筒状の正極用リード16の周側縁と封口板18aの底面との間に接触点を形成することが可能となる。これにより、溶接強度に優れた溶接部を形成することができるようになる。
【0033】
ついで、封口体18の封口板18aの周縁に絶縁ガスケット19aを嵌着させ、プレス機を用いて封口体18に加圧力を加えて、絶縁ガスケット19aの下端が外装缶17の上部外周に設けられた環状溝部17aの位置になるまで封口体18を外装缶17内に押し込む。この後、外装缶17の開口端縁17bを内方にかしめて電池を封口することによりニッケル−水素蓄電池A1,A2,A3,B2,C1,C2,C3をそれぞれ組み立てた。
【0034】
なお、この封口時の加圧力により、円筒状の正極用リード16は押しつぶされ、その断面形状は円形が押しつぶされた楕円形状となる。ここで、負極板a1を用いたものを電池A1とし、負極板a2を用いたものを電池A2とし、負極板a3を用いたものを電池A3とした。また、負極板b2を用いたものを電池B2とした。さらに、負極板c1を用いたものを電池C1とし、負極板c2を用いたものを電池C2とし、負極板c3を用いたものを電池C3とした。
【0035】
上述のように各電池A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3をそれぞれ作製するに際して、各電極群の中央部において縦方向に切断し、負極芯体露出部のズレの最大差を巻ズレ量として求めると、下記の表4に示すような結果が得られた。また、表4の結果から、Y/X(cm2/Ah)を横軸にプロットし、上記表3で得られた反り量を縦軸にプロットしてグラフに表すと、図3に示すような結果が得られた。また、表4の結果から、Y/X(cm2/Ah)を横軸にプロットし、巻ズレ量を縦軸にプロットしてグラフに表すと、図4に示すような結果が得られた。
【表4】

【0036】
上記表4および図3、図4の結果から明らかなように、水素吸蔵合金a(ビッカーズ硬度552Hv)からなる負極板a1,a2,a3を用いた電池A1,A2,A3であっても、水素吸蔵合金b(ビッカーズ硬度640Hv)からなる負極板b1,b2,b3を用いた電池B1,B2,B3であっても、あるいは水素吸蔵合金c(ビッカーズ硬度690Hv)からなる負極板c1,c2,c3を用いた電池C1,C2,C3であっても、負極板容量X(Ah)に対する負極板表面積Y(cm2)の割合(Y/X(cm2/Ah))が70cm2/Ah以上になると、反り量および巻きズレ量が大きくなることが分かる。
【0037】
ここで、水素吸蔵合金a(ビッカーズ硬度552Hv)の場合、負極板a1を用いた電池A1と、負極板a3を用いた電池A3との反り量の差は0.8mmで、ズレ量の差は0.08mmと小さいことが分かる。また、水素吸蔵合金b(ビッカーズ硬度640Hv)の場合、負極板b1を用いた電池B1と、負極板b3を用いた電池B3との反り量の差は1.0mmで、ズレ量の差は0.09mmと小さいことが分かる。これらに対して、水素吸蔵合金c(ビッカーズ硬度690Hv)の場合、負極板c1を用いた電池C1と、負極板c3を用いた電池C3との反り量の差は2.3mmで、ズレ量の差は0.22mmと極めて大きいことが分かる。
【0038】
これらのことから、Y/X(cm2/Ah)が70cm2/Ah以上という従来の範囲を超える負極表面積を有する負極板において、ビッカーズ硬度が640Hv以下である水素吸蔵合金a,bを用いることで、極板曲げ強度R(MPa)が52×10-4MPa〜85×10-4MPaで、芯体曲げ強度S(MPa)との割合R/Sが1.0〜1.7という適正値に維持することが可能となり、巻きズレを抑制することが可能となるということができる。
【0039】
6.出力特性の測定
ついで、出力特性の測定を以下のようにして行った。この場合、上述のようにして作製した電池A2,C2を用いて、まず、25℃の温度雰囲で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した。ついで、70℃の温度雰囲中に24時間放置(熟成)した後、45℃の温度雰囲で1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させた。ついで、このような充電→休止→熟成→放電のサイクルを2サイクル繰り返して、これらの各電池A2,C2を活性化した。
【0040】
活性化終了後、図5に示すように、外装缶17の一部を剥ぎ取り、さらに外装缶17の缶底から負極集電体14が露出するように外装缶の一部を取り除いた。この後、正極集電体15にリ一ドXを溶接し、負極板11にリ一ドYを溶接し、負極集電体14にリ一ドZを溶接した。リ一ドXとリ一ドYとの間、リ一ドXとリ一ドZとの間、およびリ一ドYとリ一ドZとの間に電圧測定点をそれぞれ設けた。この後、25℃の温度雰囲で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の50%まで充電した後、3時間休止した。
【0041】
ついで、任意の放電レートで10秒間放電させた後、30分間休止させた。その後、任意の充電レートで10秒間充電させ、30分間休止させた。このような任意の放電レートでの放電、任意の充電レートでの充電を繰り返した。この場合、任意の放電レート(充電レート)は、10It→15It→20It→27Itの順で放電電流(充電電流)を増加させ、各放電レート(充電レート)で10秒間経過時点での各電池A2,C2の各電圧測定点での電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定した。
【0042】
ここで、各放電レート(充電レート)を横軸(x軸)にプロットし、得られた各電圧測定点での電圧(V)を縦軸(y軸)にプロットして、各電圧測定点でのV−I特性を求め、求めたV−I特性を最小二乗法で直線回帰し、その傾きを内部抵抗DCR(mΩ)として求めた。この場合、リ一ドXとリ一ドZとの間の内部抵抗をDCR(x,z)と表し、リ一ドXとリ一ドYとの間の内部抵抗をDCR(x,y)と表し、リ一ドYとリ一ドZとの間の内部抵抗をDCR(y,z)と表すと、下記の表5に示すような結果となった。
【表5】

【0043】
上記表5の結果から明らかなように、負極板11に柔軟性をもたせ、負極巻きズレ量および反りを低減させた負極板a2を用いた電池A2の方が、負極巻きズレ量および反りが大きい負極板c2を用いた電池C2よりも、負極板11と負極集電体14との間の内部抵抗DCR(y,z)が低減されていることが分かる。
【0044】
7.水素吸蔵合金粉末の粒径の検討
ついで、水素吸蔵合金粉末の平均粒径について検討した。そこで、水素吸蔵合金a(Ln0.89Mg0.11Ni3.2Co0.1Al0.2:ビッカーズ硬度は552Hv)を用い、この水素吸蔵合金aの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が50μmおよび75μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末を作製した後、上述と同様に水素吸蔵合金スラリーを作製した。ついで、上述と同様にビッカーズ硬度が130Hvで、厚みが80μmで、開孔率が30%で、曲げ強度Sが51×10-4MPa(Sα=51×10-4MPa)のNiメッキ軟鋼材製の多孔基板からなる負極芯体を用意した。
【0045】
この後、この負極芯体に充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーを塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法になるように切断して、極板容量(X)が10.8Ahで、極板表面積(Y)が70cm2の水素吸蔵合金負極板11(d2,e2)をそれぞれ作製した。ここで、平均粒径が50μmの水素吸蔵合金粉末を用いたものを水素吸蔵合金負極板d2とし、平均粒径が75μmの水素吸蔵合金粉末を用いたものを水素吸蔵合金負極板e2とした。ついで、これらの水素吸蔵合金負極板d2,e2を用いて、上述と同様に極板の曲げ強度R(MPa)および反り量(mm)を測定すると下記の表6に示すような結果が得られた。なお、下記の表6には、水素吸蔵合金負極板a2の結果も併せて示している。
【表6】

【0046】
上記表6の結果から明らかなように、水素吸蔵合金粉末の平均粒径が大きくなるほど極板曲げ強度RおよびR/Sが大きくなり、水素吸蔵合金負極板の柔軟性が低下することが分かる。また、水素吸蔵合金粉末の平均粒径が大きくなるほど水素吸蔵合金負極板の反り量が大きくなることが分かる。これは、水素吸蔵合金粉末の平均粒径が30μmより大きくなると、水素吸蔵合金負極板を薄型化するための圧延時に、水素吸蔵合金粉末が負極芯体に過度に食い込むようになって極板硬化が生じ易くなったためと考えられる。このことから、水素吸蔵合金粉末の平均粒径は30μm以下が望ましいということができる。
【0047】
以上の表1〜表5および図3,4の結果を総合すると、以下のようにいうことができる。即ち、水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上である水素吸蔵合金負極の電極容量X(Ah)に対する極板表面積Y(cm2)の割合Y/X(cm2/Ah)が70cm2/Ah以上である水素吸蔵合金負極板11を備えたアルカリ蓄電池を作製する場合、合金主相がCe2Ni7構造を有し、少なくとも希土類元素、Ni、Mg、Alを含有する水素吸蔵合金を用いることで、水素吸蔵合金のビッカーズ硬度が640Hv以下とすることが可能となる。
【0048】
これにより、水素吸蔵合金スラリーを周知のビッカーズ硬度を有するNiメッキ軟鋼からなる負極芯体に塗着し乾燥後、圧延することにより、極板曲げ強度(R)が52×10-4MPa〜85×10-4MPaで、かつ芯体曲げ強度(S)との割合(R/S)を1.3〜1.7とすることで、渦巻状電極群を作製する際の負極の巻きずれを抑制することが可能となり、高出力化を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】水素吸蔵合金負極板の反り量(mm)を説明するための図である。
【図3】水素吸蔵合金負極容量X(Ah)に対する水素吸蔵合金負極の表面積Y(cm2)の割合Y/X(cm2/Ah)と反り量(mm)の関係を示すグラフである。
【図4】水素吸蔵合金負極容量X(Ah)に対する水素吸蔵合金負極の表面積Y(cm2)の割合Y/X(cm2/Ah)と巻ズレ量(mm)の関係を示すグラフである。
【図5】電池出力試験を行う状態の電池を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0050】
11…水素吸蔵合金負極板、11c…芯体露出部、12…ニッケル正極板、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、16…正極用リード、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…封口板、18b…正極キャップ、18c…弁板、18d…スプリング、19a…絶縁ガスケット、19b…防振リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極板と、ニッケル酸化物あるいはニッケル水酸化物を正極活物質とするニッケル正極板と、これらの両極板を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、
前記水素吸蔵合金負極板の極板容量X(Ah)に対する表面積Y(cm2)の割合Y/Xが70cm2/Ah以上(Y/X≧70cm2/Ah)で、かつ前記水素吸蔵合金負極板における水素吸蔵合金粉末の充填密度が5.0g/cm3以上であるとともに、
前記水素吸蔵合金のビッカーズ強度は640Hv以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記ビッカーズ強度が640Hv以下の水素吸蔵合金は合金主相の結晶構造がCe2Ni7構造を有し、かつ少なくとも希土類元素、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを含有することを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金負極板の極板曲げ強度R(MPa)は52×10-4(MPa)〜85×10-4(MPa)であって、当該水素吸蔵合金負極板の芯体の曲げ強度S(MPa)との割合(R/S)が1.3〜1.7(1.3≦R/S≦1.7)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は粉末の平均粒径が30μm以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−311095(P2007−311095A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137419(P2006−137419)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】