説明

アルカリ電池

【課題】 正極活物質の材料および物性を最適化することにより、低負荷および高負荷のいずれの放電においても優れた放電特性を有するアルカリ電池を提供する。
【解決手段】 アルカリ電池は、粉末状のオキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを活物質として含む正極合剤を備え、前記オキシ水酸化ニッケルが以下の(1)〜(3)の物性を満たす。
(1)結晶構造がβ型とγ型の混相であり、粉末X線回折パターンにおけるγ型の(003)に基づく回折ピークの積分強度Iγと、β型の(001)に基づく回折ピークの積分強度Iβとが、関係式:Iγ/(Iβ+Iγ)=0.1〜0.5を満たす。
(2)平均ニッケル価数が3.05〜3.30である。
(3)アルミニウムを1〜10mol%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを活物質とする正極合剤を用いて、インサイドアウト構造を採用した一次電池としてのアルカリ電池(ニッケルマンガン電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池は、正極端子を兼ねる有底円筒状の正極ケースの中に、正極ケースに密着して二酸化マンガンを含む中空円筒状のペレット状正極合剤を配置し、その中央にセパレータを介してゲル状の亜鉛負極を配置したインサイドアウト型の構造を有する。
近年のデジタル機器の普及に伴い、機器の負荷電力は増大している。このため、デジタル機器の電源に用いられる電池は優れた強負荷放電性能を有することが要望されている。強負荷放電特性を向上させる方法としては、電池の正極合剤にオキシ水酸化ニッケルを混合することが提案されており(特許文献1)、この電池が実用化されて広く普及するに到っている。
【0003】
オキシ水酸化ニッケルには、特許文献2で挙げられているようなアルカリ蓄電池用途の球状ないしは鶏卵状の水酸化ニッケルを原料として、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の酸化剤で酸化したものを用いることができる。電池内への正極合剤の充填密度を向上させるために、嵩密度(タップ密度)の大きいβ型の球状水酸化ニッケルを酸化処理して、得られたβ型を主構造とした球状オキシ水酸化ニッケルがよく用いられる。
また、正極の利用率を高めるために、アルカリ蓄電池用途として特許文献3で挙げられているようなコバルト・亜鉛等を結晶中に固溶させた球状水酸化ニッケルを原料に用いることができる。
【0004】
一次電池用途のオキシ水酸化ニッケルに関しては、球状であること(特許文献4)、結晶中に亜鉛・コバルトを固溶させること(特許文献5)、特定範囲の比表面積のものを用いること(特許文献6)、不純物の含有量を規制すること(特許文献7)、電解二酸化マンガンと合わせた平均粒子径を規制すること(特許文献8)等が提案されている。しかし、これらの提案は、基本的にアルカリ蓄電池用正極に関する周知の技術を一次電池に適用したものである。
【0005】
一方、アルカリ蓄電池では、実用化されていないが、特許文献9および10等において、結晶内にマンガンやアルミニウム等を固溶させたオキシ水酸化ニッケル粒子を正極活物質とし、ニッケルの価数が、2価から3価超(3.5価程度)までの間で変化する充放電反応を可能にして高容量化を図ることが提案されている。なお、このような高次のオキシ水酸化物を形成し得る材料を一次電池に用いる試みは、これまで殆ど行われていなかった。
【特許文献1】特開昭57−72266号公報
【特許文献2】特開平4-80513号公報
【特許文献3】特開平7−77129号公報
【特許文献4】特開2002−8650号公報
【特許文献5】特開2002−203546号公報
【特許文献6】特開2003−31213号公報
【特許文献7】特開2003−123745号公報
【特許文献8】特開2003−123747号公報
【特許文献9】特許第3239076号明細書
【特許文献10】特開平11−345613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような正極合剤中にオキシ水酸化ニッケルを含有させたアルカリ電池(ニッケルマンガン電池)は高負荷放電特性に優れているが、オキシ水酸化ニッケルの理論容量(1電子反応と仮定した場合、約290mAh/g)が二酸化マンガンの理論容量(1電子反応と仮定した場合、約308mAh/g)よりも小さい。このため、正極利用率が高い低負荷放電特性では、ニッケルマンガン電池は、二酸化マンガンのみを正極活物質に用いたアルカリマンガン乾電池よりも容量が小さくなる。これに対して、ニッケルマンガン電池の低負荷放電特性を改善するためには、高価数のオキシ水酸化ニッケル(γ型等)を用いて、オキシ水酸化ニッケル自体の容量を高める(1電子超の反応を活用する)のが有効と考えられる。
【0007】
この点に着目して、本発明者らは、各種異元素を固溶させた水酸化ニッケル(オキシ水酸化ニッケル)を一次電池用正極材料に用いることについて種々検討を行った。その結果、マンガンが固溶したβ−水酸化ニッケルを原料に用いて得られた高酸化状態のγ−オキシ水酸化ニッケルを正極材料に用いた場合に、アルカリ電池(ニッケルマンガン電池)の低負荷放電特性が向上することを見出した。
しかし、このような高酸化状態にあるγ−オキシ水酸化ニッケルを活用する場合においても、依然として以下の(a)および(b)ような一次電池(ニッケルマンガン電池)用途特有の問題点が存在しており、実用化に至っていない。
【0008】
(a)原料のβ−水酸化ニッケルを酸化してγ−オキシ水酸化ニッケルに変換する際に体積が大幅に増大するため、粒子の破砕(微細化)や嵩密度(タップ密度)の低下が起こる。このため、正極合剤ペレットを成型する際の作業性が著しく悪くなり、量産が困難となる。
(b)マンガン等が固溶したγ−オキシ水酸化ニッケルは、通常のβ−オキシ水酸化ニッケルよりも酸化還元電位がかなり低くなる。また、放電時に、γ型からβ型へ結晶構造が変化することにより、正極活物質の体積が減少する傾向があるため、正極合剤中に導電剤として含まれる黒鉛による電気的接続(導電網)が破壊される。これらの理由により、特に高負荷放電性能が低下する傾向にある。
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するために、正極活物質の材料や物性を最適化することにより、低負荷および高負荷のいずれの放電においても優れた放電特性を有するアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアルカリ電池は、活物質と導電剤を含み、活物質が粉末状のオキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む正極合剤と、活物質として亜鉛を含む負極と、前記正極合剤と負極とを隔離するセパレータと、アルカリ水溶液からなる電解液とを具備し、
前記オキシ水酸化ニッケルが以下の(1)〜(3)の物性を満たすことを特徴とする。
(1)結晶構造がβ型とγ型の混相であり、粉末X線回折におけるγ型の(003)面に基づく回折ピークの積分強度Iγと、β型の(001)面に基づく回折ピークの積分強度Iβとが、関係式:Iγ/(Iβ+Iγ)=0.1〜0.5を満たす。
(2)平均ニッケル価数が3.05〜3.30である。
(3)アルミニウムを1〜10mol%含有する。
上記の正極活物質を用いることにより、低負荷および高負荷のいずれの放電においても優れた放電特性を有するアルカリ電池が得られる。なお、上記(3)におけるアルミニウムの含有量は、オキシ水酸化ニッケル中のニッケルとアルミニウムとの合計量に対するアルミニウム量の割合を示す。
【0010】
正極合剤の成型性、電池缶内部への充填性、および電池内での電解液の含浸性が向上するため、前記オキシ水酸化ニッケルが、さらに以下の(4)〜(6)の物性を満たすのが好ましい。
(4)体積基準の平均粒子径が10〜25μmである。
(5)タップ密度が1.8g/cm以上である。
(6)BET比表面積が5〜20m/gである。
なお、上記(5)におけるタップ密度は、試料粉末を入れた容器を300回タッピングした時の試料粉末の嵩密度を示す。
【0011】
前記オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合重量比が10〜80:85〜15であるのが好ましい。
前記正極合剤が、前記導電剤として黒鉛を3〜10重量%含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極活物質の材料および物性を最適化することにより、低負荷および高負荷のいずれの放電においても優れた放電特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、活物質と導電剤を含み、前記活物質が粉末状のオキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む正極合剤と、活物質として亜鉛を含む負極と、前記正極合剤と負極とを隔離するセパレータと、アルカリ水溶液からなる電解液とを具備し、前記オキシ水酸化ニッケルが以下の(1)〜(3)の物性を満たすアルカリ電池に関する。
(1)結晶構造がβ型とγ型の混相であり、粉末X線回折におけるγ型の(003)面に基づく回折ピークの積分強度Iγと、β型の(001)面に基づく回折ピークの積分強度Iβとが、関係式:Iγ/(Iβ+Iγ)=0.1〜0.5を満たす。
(2)平均ニッケル価数が3.05〜3.30である。
(3)アルミニウムを1〜10mol%含有する。
なお、上記(3)におけるアルミニウムの含有量は、オキシ水酸化ニッケル中のニッケルとアルミニウムとの合計量に対するアルミニウム量の割合を示す。
【0014】
ここで、図1は、結晶構造がβ型およびγ型の混相からなるオキシ水酸化ニッケルのX線回折パターンの一例を示す。β型およびγ型の混相からなるオキシ水酸化ニッケルでは、図1に示すようにγ型の(003)面に基づく回折ピークおよびβ型の(001)面に基づく回折ピークが現れる。この2つの回折ピークが(1)の条件を満たすと、オキシ水酸化ニッケルを作製すると、原料である水酸化ニッケルの酸化時の体積増加が少なくなり、得られるオキシ水酸化ニッケルの粒子破砕や嵩密度の低下が抑制され、正極合剤成型時の作業性が向上する。
【0015】
また、条件(1)のオキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は3.05〜3.30であり、結晶構造がβ型のみのオキシ水酸化ニッケル(3.00価)よりも高いため、条件(1)のオキシ水酸化ニッケルを用いた電池では優れた低負荷放電特性が得られる。
γ/(Iβ+Iγ)値が0.1未満(平均ニッケル価数が3.05未満)であると、十分に高い容量が得られない。一方、Iγ/(Iβ+Iγ)値が0.5を超える(平均ニッケル価数が3.30を超える)と、放電時の活物質粒子の体積変化が大きくなり、高負荷放電特性が低下する。
【0016】
また、上記の(3)におけるアルミニウムは、アルミニウムを固溶させた水酸化ニッケルを原料に使用することにより、酸化により得られるオキシ水酸化ニッケル中に固溶状態で含まれる。水酸化ニッケルは、アルミニウムが固溶すると多孔度が増大するため、酸化によりγ型オキシ水酸化ニッケルが生成して結晶格子のサイズが増大しても、それによる体積変化は粒子内で緩和され、粒子の破砕を抑制することができる。
【0017】
さらに、アルミニウムが固溶したオキシ水酸化ニッケルは、γ型結晶構造を含んでいても、酸化還元電位がβ−オキシ水酸化ニッケルよりも高い。また、このγ型結晶構造は、放電時に、β型結晶構造(体積減少)でなく、α型結晶構造(体積増加)に変化する傾向が強いため、正極活物質粒子間の電気的接触(黒鉛による導電網)が、比較的良好に維持される。このため、上記の条件(3)を満たすオキシ水酸化ニッケルを活物質として用いたアルカリ電池では、優れた高負荷放電特性が得られる。
アルミニウムの含有量が1mol%未満であると、アルミニウムによる効果が不十分となる。一方、アルミニウムの含有量が10mol%を超えると、相対的にオキシ水酸化ニッケル中に含まれるニッケル量が減少し、十分に高い容量が得られない。
【0018】
また、粉末状のオキシ水酸化ニッケルが、さらに下記(4)〜(6)の条件を満たすのが好ましい。
(4)体積基準の平均粒子径が10〜25μmである。
(5)タップ密度が1.8g/cm以上である。
(6)BET比表面積が5〜20m/gである。
なお、上記(5)におけるタップ密度は、試料粉末を入れた容器を300回タッピングした時の試料粉末の嵩密度を示す。これにより、正極合剤の成型性、電池缶内部への充填性、および電池内での電解液の含浸性が向上する。
【0019】
体積基準の平均粒子径が10μm未満であると、正極合剤の強度が低下し、生産上好ましくない。一方、体積基準の平均粒子径が25μmを超えると、正極合剤の成型が困難となる。
タップ密度が1.8g/cm未満であると、正極合剤の電池缶内への充填性が悪くなり、高密度(高容量)の正極合剤が得られにくくなる。タップ密度は2.4g/cm以下であるのがより好ましい。
BET比表面積は5m/g未満であると、電池内の正極合剤における電解液の含浸性が低下し、十分な電池性能を引き出すことができない。一方、BET比表面積は20m/gを超えると、正極合剤における電解液の含浸性が高くなりすぎるため、注液時に正極合剤が膨潤する等の作業上の不具合が生じやすい。
【0020】
前記オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合重量比が10〜80:85〜15であるのが好ましい。二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルとを比較した場合、二酸化マンガンの方が単位重量あたりの容量(mAh/g)、電池缶内への充填性、および材料価格などの点において優れるが、一方で、放電電圧および強負荷放電特性についてはオキシ水酸化ニッケルの方が優れている。電池全体としての特性や価格のバランスを考えると、正極合剤中のオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合重量比率を上記の範囲とするのが好ましい。
【0021】
前記正極合剤は、前記導電剤として黒鉛を3〜10重量%含むのが好ましい。正極用導電剤としては、黒鉛以外にも各種カーボンブラックや繊維状炭素などを用いてもよいが、正極合剤ペレットを成型しやすい点から黒鉛を用いるのが好ましい。このとき、正極合剤中の正極活物質の体積エネルギー密度を十分に高めるのと、強負荷放電特性を向上させる点から、正極合剤中の黒鉛の含有量を上記の範囲とするのが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
《実施例1》
(A)オキシ水酸化ニッケル粉末の作製
攪拌翼を備えた反応槽に、所定濃度の硫酸ニッケル(II)水溶液、硫酸アルミニウム(III)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、およびアンモニア水を、pHを調整しながらポンプで供給し、十分に攪拌して水酸化ニッケル粒子を析出・成長させた。得られた粒子を水洗し、真空乾燥させて原料の粉末状の水酸化ニッケルAを得た。このとき、水酸化ニッケルA中のアルミニウムの含有量は、ニッケルとアルミニウムの総量に対して5mol%となるように調整した。
【0023】
また、硫酸アルミニウム(III)水溶液の代わりに硫酸マンガン(II)水溶液または硫酸コバルト(II)水溶液を用いた以外は、上記と同様の方法により、それぞれ水酸化ニッケルB(組成:Ni0.95Mn0.05(OH))および水酸化ニッケルC(組成:Ni0.95Co0.05(OH))を作製した。
さらに、上記と同じ手順で、硫酸アルミニウム(III)水溶液等を用いず、異種金属元素を含まない水酸化ニッケルDも作製した。
なお、得られた原料の水酸化ニッケルA〜Dはいずれもβ型の結晶構造を有し、体積基準の平均粒子径が約20μmであり、タップ密度が約2.2g/cmであり、BET比表面積が10〜12m/gであった。なお、これらの構造解析および各物性値の測定は、後述するオキシ水酸化ニッケルの場合と同様の方法により行った。
【0024】
次に、水酸化ニッケルA200gを3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10重量%)を加えながら攪拌し、得られたオキシ水酸化ニッケル粒子を十分に水洗後、60℃で真空乾燥(24時間)させて粉末状のオキシ水酸化ニッケルAを得た。
また、水酸化ニッケルAの代わりに水酸化ニッケルB〜Dを用いた以外は上記と同様の方法により、それぞれ粉末状のオキシ水酸化ニッケルB〜Dを得た。
さらに、水酸化ニッケルD200gを0.01mol/L(弱アルカリ性)の水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10重量%)を加えて化学酸化させた後、水洗し、真空乾燥させて粉末状のオキシ水酸化ニッケルE(標準材)を得た。
【0025】
上記の粉末状オキシ水酸化ニッケルA〜Eに関して、以下のような評価を行った。
体積基準の平均粒子径は、粒度分布測定装置((株)日機装製のマイクロトラックFRA)を用いて測定した。タップ密度は、(株)セイシン企業製のタップデンサーKYT−3000を用いて測定した。なお、ここでのタップ密度は、粉末を入れた容器を300回タッピングした時の粉末の嵩密度とした。BET比表面積は、(株)島津製作所製のASAP2010を用いて測定した。
また、構造解析は、粉末X線回折装置(理学(株)製のRINT2500)を用いて行った。そして、得られたX線回折パターンから、γ−オキシ水酸化ニッケルの(003)面に基づく回折ピーク(7Å付近)の積分強度Iγと、β−オキシ水酸化ニッケルの(001)面に基づく回折ピーク(4.5〜5Å付近)の積分強度Iβの値とから、オキシ水酸化ニッケル全体におけるγ−オキシ水酸化ニッケルの比率Iγ/(Iβ+Iγ)を算出した。
【0026】
また、オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は、以下に手順を示す化学測定によって求めた。
(イ)オキシ水酸化ニッケル中の金属重量比率の測定
硝酸水溶液中に所定量のオキシ水酸化ニッケルを加えて加熱し、溶解させた。この溶液について、VARIAN社製のVISTA−RLを用いてICP発光分析を行い、オキシ水酸化ニッケルに含まれる金属重量比率(ニッケル、アルミニウム、マンガン、およびコバルトの含有比率)を求めた。
【0027】
(ロ)酸化還元滴定による平均ニッケル価数の測定
オキシ水酸化ニッケルにヨウ化カリウムと硫酸を加え、十分に攪拌してオキシ水酸化ニッケルを完全に溶解させた。なお、この過程において、価数の高いニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化し、自身は2価に還元される。アルミニウムイオンは3価のままであり、価数は変化しない。続いて、生成・遊離したヨウ素を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。このときの滴定量は上記のような2価より価数の大きいニッケルイオン、マンガンイオン、コバルトイオンの量に依存する。そこで、(イ)で求めた金属重量比率の値を用い、オキシ水酸化ニッケルB中のマンガンの価数については4価、オキシ水酸化ニッケルC中のコバルトの価数については3.5価と仮定して、それぞれオキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数を見積もった。
【0028】
これらの測定結果をまとめて表1に示す。原料の水酸化ニッケルにアルミニウム、マンガン、およびコバルトをそれぞれ固溶させたオキシ水酸化ニッケルA〜Cでは、異種金属を含まないオキシ水酸化ニッケルDと比較して、同一条件の化学酸化でもγ型結晶構造の比率が増大し、平均ニッケル価数が大きいことわかった。また、オキシ水酸化ニッケルEは、ほぼ純粋なβ−オキシ水酸化ニッケルであることがわかった。
【0029】
【表1】

【0030】
(B)アルカリ電池の作製
上記で得られたオキシ水酸化ニッケル粉末を用いてアルカリ乾電池を作製した。ここで、図2は本発明のアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。ニッケルメッキされた鋼板からなり、内面に黒鉛塗装膜72が形成された正極ケース71の内部に、主構成材料である二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケル、ならびにアルカリ電解液を含む短筒状の正極合剤73を複数個挿入し、これらを正極ケース71内で再加圧して正極ケース71の内面に密着させた。
【0031】
そして、正極合剤73の中空内面および正極ケース71の底部内面にセパレ−タ74および絶縁キャップ75を挿入した後、セパレ−タ74と正極合剤73を湿潤させる目的で電解液を注液した。電解液には、40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。注液後、セパレータ74の内側にゲル状負極76を充填した。ゲル状負極76には、ゲル化剤としてのポリアクリル酸ナトリウム、上記と同様の電解液、および負極活物質としての亜鉛粉末からなるものを用いた。
【0032】
続いて、負極集電体70をゲル状負極76の中央に差し込んだ。なお、負極集電体70は、樹脂製の封口板77、負極端子を兼ねる底板78、および絶縁ワッシャ79と一体化に組み立てられている。そして、正極ケース1の開口端部を、封口板77の周縁端部を介して底板78の周縁部にかしめることにより、正極ケース1の開口部を密封した。次いで、正極ケース71の外表面を外装ラベル711で被覆した。こうして単三形アルカリ乾電池を完成させた。
【0033】
上記において正極合剤は、二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケルAおよび黒鉛を重量比50:45:5の割合で混合し、得られた混合粉100重量部に対して電解液1重量部を混合した後、ミキサ−で均一に撹拌・混合して一定粒度に整粒し、得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型することにより得られた。この正極合剤と、40重量%の水酸化カリウム水溶液からなる電解液を用いてアルカリ乾電池Aを組み立てた。
また、オキシ水酸化ニッケルAの代わりにオキシ水酸化ニッケルB〜Eを用いた以外は、上記と同様の方法により、それぞれ電池B〜Eを組み立てた。
【0034】
[電池の評価]
低負荷放電特性の評価をするために、製造直後の電池A〜Eを、それぞれ20℃で50mA(低負荷)の定電流で連続放電させ、電池電圧が0.9Vに至るまでの放電容量を測定した。また、強負荷放電特性を評価するために、製造直後の電池A〜Eを、それぞれ20℃で1000mAの定電流で連続放電させ、電池電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの放電容量を測定した。
これらの測定結果を表2にまとめる。なお、各電池の放電容量は、電池Eの放電容量を100とした指数として表した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、平均ニッケル価数が3.0価以上であるオキシ水酸化ニッケルA〜Dを用いた電池A〜Dでは、いずれも50mA(低負荷)放電時の放電容量は増加するが、1000mA(高負荷)放電時の放電容量は、アルミニウムが固溶したオキシ水酸化ニッケルを用いた電池A以外で容量低下することがわかった。このように高負荷放電特性が低下する理由としては、マンガンやコバルト等が固溶したγ−オキシ水酸化ニッケルまたは異種金属を含まないγ−オキシ水酸化ニッケルの酸化還元電位が、β−オキシ水酸化ニッケルよりも低い点や、これらのγ−オキシ水酸化ニッケルが放電に際してγ型からβ型への構造変化(体積減少)を起こす傾向が強く、放電時に黒鉛による正極活物質粒子間の電気的接触(導電網)が破壊される点が考えられる。
【0037】
これに対して、アルミニウムが固溶したオキシ水酸化ニッケルAは、γ型構造を含んでいても、酸化還元電位がβ−オキシ水酸化ニッケルよりも高く、かつγ型構造の放電にともなう構造変化が、γ型→β型(体積減少)でなくγ型→α型(体積増加)となる傾向が強い。これは、放電時に結晶内のアルミニウムの価数が変化しないことによる。このため、黒鉛による正極活物質粒子間の電気的接触(導電網)が良好に維持され、他の高次オキシ水酸化ニッケルで見られるような、高負荷放電時の特性低下を引き起こすことがない。以上のように、本発明のアルカリ電池では、低負荷および高負荷のいずれの放電時においても優れた放電特性が得られる。
【0038】
《実施例2》
本実施例では、オキシ水酸化ニッケルの酸化度(Iγ/(Iβ+Iγ)値および平均ニッケル価数)について検討した。
実施例1の水酸化ニッケルA200gを0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、これに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10重量%)を加えて水酸化ニッケルAを化学酸化させた後、得られたオキシ水酸化ニッケル粒子を十分に水洗後、60℃で24時間真空乾燥させて粉末状のオキシ水酸化ニッケルA1を得た。
また、原料の水酸化ニッケルAを分散させる水酸化ナトリウム水溶液の濃度を1mol/L、3mol/L、5mol/L、および7mol/Lに変えること以外は上記と同様の方法により、粉末状のオキシ水酸化ニッケルA2〜A5をそれぞれ作製した。
【0039】
そして、得られたオキシ水酸化ニッケルA1〜A5について実施例1と同様に分析を行った。その結果を表3に示す。原料を分散させる水酸化ナトリウムの濃度が高いほど、Iγ/(Iβ+Iγ)値が大きくなり、平均ニッケル価数が増大することがわかった。このように、原料を分散させる水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変化させることにより、得られるオキシ水酸化ニッケルの酸化度(Iγ/(Iβ+Iγ)値および平均ニッケル価数)を制御できることがわかった。
【0040】
【表3】

【0041】
次に、オキシ酸化ニッケルAの代わりに上記のオキシ水酸化ニッケル粉末A1〜A5を用いた以外は、実施例1と同様の方法により電池A1〜A5を作製し、放電特性を評価した。これらの結果を表4にまとめる。なお、表4中の各電池の放電容量は、電池Eの放電容量を100とした指数で表した。
【0042】
【表4】

【0043】
γ/(Iβ+Iγ)値が0.1〜0.5、および平均ニッケル価数が3.05〜3.30の範囲のオキシ水酸化ニッケルを用いた電池A2〜A4では、低負荷放電および高負荷放電のいずれも高い放電容量が得られた。Iγ/(Iβ+Iγ)値が0であり、ほぼ純粋なβ型結晶構造であるオキシ水酸化ニッケルA1を用いた電池では、平均ニッケル価数が高くないので容量は増大せず、異種元素(アルミニウム)が固溶するために放電に寄与するニッケル量が少なくなり容量が低下した。一方、Iγ/(Iβ+Iγ)値が0.72であり、平均ニッケル価数が3.36である酸化度が極端に高いオキシ水酸化ニッケルA5を用いた電池A5では、ニッケル価数が高いので低負荷放電時の放電容量は増加するが、高負荷放電特性は改善されなかった。これは、オキシ水酸化ニッケル中のγ型結晶構造の比率が高すぎて、放電時の正極合剤の体積変化が大きくなり、高負荷放電時に正極活物質粒子間の電気的接触が十分に保てなくなるためと推察される。
【0044】
《実施例3》
本実施例では、オキシ水酸化ニッケル中に固溶させるアルミニウムの量について検討した。
攪拌翼を備えた反応槽に、所定濃度の硫酸ニッケル(II)水溶液、硫酸アルミニウム(III)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、およびアンモニア水を、pHを調整しながらポンプで供給し、十分に攪拌して水酸化ニッケル粒子を析出・成長させた。得られた粒子を水洗し、真空乾燥させて原料の粉末状の水酸化ニッケルを得た。
このとき、水酸化ニッケル中のアルミニウムの含有量が、金属イオンの総量に対して0.5、1、3、7、10、および12mol%となるようにそれぞれ調整し、組成の異なる水酸化ニッケルX1〜X6を得た。
これらの水酸化ニッケルX1〜X6の粉末を実施例1と同様の方法により分析した結果、水酸化ニッケルX1〜X6はいずれもβ型の結晶構造を有し、体積基準の平均粒子径が約20μm、タップ密度が約2.2g/cm、BET比表面積が10〜12m/gであった。
【0045】
次に、200gの水酸化ニッケルX1を3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、これに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10重量%)を十分加えて化学酸化させた後、得られたオキシ水酸化ニッケル粒子を十分に水洗後、60℃で24時間真空乾燥させて粉末状のオキシ水酸化ニッケルX1を得た。また、水酸化ニッケルX1の代わりに水酸化ニッケルX2〜X6を用いた以外はすべて上記と同様の方法により、オキシ水酸化ニッケルX2〜X6を得た。
オキシ水酸化ニッケルX1〜X6について実施例1と同様の方法により分析した結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
次に、オキシ水酸化ニッケルAの代わりに上記のオキシ水酸化ニッケル粉末X1〜X6を用いた以外は、実施例1と同様の方法により電池X1〜X6を作製し、放電特性を評価した。これらの結果を表6にまとめる。なお、表6中の各電池の放電容量は、電池Eの放電容量を100とした指数で表した。
【0048】
【表6】

【0049】
アルミニウムの含有量が1〜10mol%のオキシ水酸化ニッケルを用いた電池X2〜X5では、低負荷および高負荷のいずれの放電時においても高い放電容量が得られた。アルミニウムの含有量が0.5mol%のオキシ水酸化ニッケルX1では、酸化度が低く、放電特性が低下した。また、アルミニウムの含有量が12mol%のオキシ水酸化ニッケルX6では、酸化度は十分高いが放電に寄与するニッケル量が少ないため放電容量が低下した。
【0050】
《実施例4》
本実施例では、正極合剤中の二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルとの混合比率について検討した。
二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケルAおよび黒鉛を表7に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様の方法により正極合剤Y1〜Y10を得た。これらの正極合剤Y1〜Y10を用いて、実施例1と同様の方法により、それぞれ電池Y1〜Y10を組み立て、放電特性を評価した。これらの結果を表7に示す。なお、表7中の各電池の放電容量は、電池Eの放電容量を100とした指数で表した。
【0051】
【表7】

表7より、電池Y9およびY10では、50mA(低負荷)放電時の放電容量が低下し、電池Y1では、1000mA(高負荷)放電時の放電容量が低下することがわかった。これらのことから、正極合剤中のオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合重量比が10〜80:85〜15が好ましいことがわかった。
【0052】
《実施例5》
本実施例では、正極合剤中の黒鉛(導電剤)の含有量について検討した。
二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルAを重量比1:1の割合で混合した。そして、正極合剤中の含有量が表8中に示す値となるように導電剤として黒鉛を添加した。二酸化マンガン、オキシ水酸化ニッケル、および黒鉛を上記のように混合した以外は、実施例1と同様の方法により正極合剤を得た。これらの正極合剤を用いて、実施例1と同様の方法により電池Z1〜Z8を組み立て、放電特性を評価した。これらの結果を表8に示す。なお、表8中の各電池の放電容量は、電池Eの放電容量を100とした指数で表した。
【0053】
【表8】

【0054】
表8より、正極合剤中の黒鉛の含有量が3重量%未満である電池Z1およびZ2では、正極合剤内の正極活物質粒子間の電気的接触(導電網)が不十分となるため、1000mA(高負荷)放電時に十分な放電容量が得られず、黒鉛の含有量が10重量%を超える電池Z8では、相対的に正極活物質量が少なくなるため、正極活物質利用率の高い50mA(低負荷)放電時の放電容量が低下することがわかった。以上の結果から、正極合剤中の黒鉛の含有量が3〜10重量%であるのが好ましいことがわかった。
【0055】
なお、上記の実施例では、アルミニウムが固溶したオキシ水酸化ニッケルの平均粒子径を約20μmとし、BET比表面積を13〜15m/g程度としたが、本発明はこれに限定されない。正極合剤を作製する際の成型性を考慮すると平均粒子径を10〜25μmの範囲に設定し、電池内での正極合剤の電解液含浸性を考慮するとBET比表面積を5〜20m/gの範囲に設定するのがよいと考えられる。また、上記の実施例ではアルミニウムが固溶したオキシ水酸化ニッケルを作製するための原料にβ型結晶構造の水酸化ニッケルを使用したが、本発明はこれに限定されない。例えばアルミニウムが固溶したα型とβ型の混晶構造の水酸化ニッケルを原料に用いても、ほぼ同様の特性を有するアルカリ電池を得ることが可能である。
【0056】
また、上記の実施例では導電剤に黒鉛を用いたが、各種カーボンブラックや繊維状炭素を単独ないしは黒鉛と混合して使用しても、上記と同様の本発明の効果が得られる。
さらに、上記の実施例では、有底円筒状の正極ケース内に中空円筒状の正極合剤ペレット、セパレータ、およびゲル状負極を配置した、いわゆるインサイドアウト型のアルカリ乾電池を作製したが、本発明はボタン型、角型等の他の構造の電池にも適応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアルカリ電池は、高負荷および低負荷のいずれの放電においても優れた放電特性を有するため、電子機器や携帯機器等の電源として負荷電力に関係なく幅広い用途に対して好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】β型およびγ型の混晶構造のオキシ水酸化ニッケルのX線回折パターンを示す図である。
【図2】本発明の実施例におけるアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。
【符号の説明】
【0059】
71 正極ケース
72 黒鉛塗装膜
73 正極合剤
74 セパレータ
75 絶縁キャップ
76 ゲル状負極
77 樹脂製封口板
78 底板
79 絶縁ワッシャ
70 負極集電体
711 外装ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と導電剤を含み、前記活物質が粉末状のオキシ水酸化ニッケルおよび二酸化マンガンを含む正極合剤と、活物質として亜鉛を含む負極と、前記正極合剤と負極とを隔離するセパレータと、アルカリ水溶液からなる電解液とを具備するアルカリ電池であって、
前記オキシ水酸化ニッケルが以下の(1)〜(3)の物性を満たすことを特徴とするアルカリ電池。
(1)結晶構造がβ型とγ型の混相であり、粉末X線回折パターンにおけるγ型の(003)面に基づく回折ピークの積分強度Iγと、β型の(001)面に基づく回折ピークの積分強度Iβとが、関係式:Iγ/(Iβ+Iγ)=0.1〜0.5を満たす。
(2)平均ニッケル価数が3.05〜3.30である。
(3)アルミニウムを1〜10mol%含有する。
【請求項2】
前記オキシ水酸化ニッケルが、さらに以下の(4)〜(6)の物性を満たす請求項1記載のアルカリ電池。
(4)体積基準の平均粒子径が10〜25μmである。
(5)タップ密度が1.8g/cm以上である。
(6)BET比表面積が5〜20m/gである。
【請求項3】
前記オキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合重量比が10〜80:85〜15である請求項1または2記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記正極合剤が、前記導電剤として黒鉛を3〜10重量%含む請求項1または2記載のアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−179428(P2006−179428A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374195(P2004−374195)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】