説明

アルキリデンコハク酸化合物の製造方法

【課題】 フォトクロミック化合物の合成原料として重要な化合物であるベンゾフェノン骨格を有するアルキリデンコハク酸化合物を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】 4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステルとを金属アルコキシドの存在下に反応させてベンゾフェノン骨格を有するアルキリデンコハク酸化合物を製造する方法において、ベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステルとを含む原料液に、金属アルコキシドをテトラヒドロフランなどのエーテルに金属アルコキシドを溶解若しくは懸濁させた液を添加して反応を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物の原料として有用なアルキリデンコハク酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾフェノン骨格を有するアルキリデンコハク酸化合物は、インデノナフトピラン等のフォトクロミック化合物の合成原料として重要な化合物である(特許文献1参照)。このようなアルキリデンコハク酸の製造方法としては、Stobbe反応を利用した方法として、t−ブタノール中で金属アルコキシドを調製し、これにベンゾフェノン化合物及びコハク酸ジエステルを滴下して、還流温度に加熱して反応させる方法が知られている(非特許文献1及び2参照)。なお、上記Stobbe反応においては、原料として非対称のベンゾフェノン化合物を用いた場合には、ベンゾフェノンのα位の炭素原子を中心とした回転に起因して2種類の異性体がほぼ1:1の比率で生成することが知られている。
【0003】
【特許文献1】US6340765
【非特許文献1】Organic Synthesis IV,132(1963)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,72,511−513(1979)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記Stobbe反応には、次のような問題がある。即ち、第一に、該反応では、反応溶媒として融点の低いt−ブタノールを使用しているため、反応終了後の反応溶媒留去処理の際に蒸発したt−ブタノールがプロセス機材の壁面に付着して固化し、場合によっては配管が閉塞するという問題が起こる。このような問題の発生を回避するために、金属アルコキシドを適当な反応溶媒、例えば、トルエン等に懸濁した液に、ベンゾフェノン化合物及びコハク酸ジエステルを滴下して反応させる方法も行われている。しかしながら、このような方法では、使用する溶媒はt−ブタノールに比べて金属アルコキシドに対する溶解力が低いため反応に長時間を要するばかりでなく、副生成物の量が増えるため収率が低下してしまう。
【0005】
また、原料のベンゾフェノン化合物としてメトキシ基等の電子供与性基を置換基として有する化合物を用いた場合には、溶媒としてt−ブタノールを用いても高収率で目的物を得ることができない。例えば前記非特許文献2には、4,4’−ジメトキシベンゾフェノンを原料として使用した反応例が記載されているが、そのときの収率は47%と低いものとなっている。該例ではベンゾフェノン化合物として対称な化合物を用いているが、非対称な化合物を用いた場合には異性体が生成するので、目的物の収率は20%程度になるものと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、下記式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基;アルコキシ基;アラルコキシ基;置換アミノ基;シアノ基;アリール基;ハロゲン原子;アラルキル基;窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基;及び前記複素環基に芳香族炭化水素環が結合した縮合複素環基からなる群より選ばれる1種の基又は原子であり、Rはアルキル基であり、a及びbは、それぞれ独立に0〜5の整数であり、a又はbが2〜5の整数である場合、分子内に複数存在するR又はRは互いに異なっていてもよい。)
で示されるアルキリデンコハク酸化合物を製造する方法であって、
下記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物及び下記式(3)で示されるコハク酸ジエステルを含む原料液に、エーテル中に溶解若しくは懸濁させた金属アルコキシドを添加して反応を行なう工程を含むことを特徴とする。
【0009】
【化2】

【0010】
{式中、R、R、a及びbは、それぞれ前記式(1)におけるものと同義である。}
【0011】
【化3】

【0012】
{式中、Rは、前記式(1)におけるものと同義である。}
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、t−ブタノールを使用しないので、後処理工程で機材に溶媒が付着・固化するといった問題を起すことがない。また、t−ブタノールを使用しないにもかかわらず、低温、短時間で反応を完結させることができる。金属アルコキシドをエーテルに溶解若しくは懸濁させて使用する場合でも、金属アルコキシドの溶液若しくは懸濁液にベンゾフェノン化合物及びコハク酸ジエステルを添加した場合には多量の副生成物が生成してしまうのに対し、本発明の方法では副生物の生成量が少ないため高い収率で目的物を得ることができる。更に、本発明によればカルボニル化合物としてメトキシ基等の電子供与性基を置換基として有するベンゾフェノン化合物を用いた場合でも高い収率で目的物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法では、前記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物と前記式(3)で示されるコハク酸ジエステルとを金属アルコキシドの存在下に反応させて前記式(1)で示されるアルキリデンコハク酸化合物を製造する。
【0015】
本発明で原料として使用するベンゾフェノン化合物は、下記式(2)で示される。
【0016】
【化4】

【0017】
上記式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基;アルコキシ基;アラルコキシ基;置換アミノ基;シアノ基;アリール基;ハロゲン原子;アラルキル基;窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基;前記複素環基に芳香族炭化水素環が結合した縮合複素環基からなる群より選ばれる1種の基又は原子である。以下、これらの基又は原子について説明する。
【0018】
(i)アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等を挙げることができる。
【0019】
(ii)アルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、好適なアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0020】
(iii)アラルコキシ基としては、炭素数6〜10のアラルコキシ基が好ましく、好適なアラルコキシ基を具体的に例示すると、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。
【0021】
(iv)置換アミノ基としては、アルキル基又はアリール基が置換したアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、又はジアリールアミノ基が好ましい。好適な置換アミノ基を具体的に例示すると、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることができる。
【0022】
(v)アリール基は置換基を有していてもよい。非置換アリール基としては炭素数6〜10のアリール基が好ましく、好適な基を例示すると、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、置換アリール基としては、上記非置換アリール基の1若しくは2以上の水素原子が置換基で置換されたものが好適である。このとき置換基としては、前記したのと同様のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アミノ基、後述するハロゲン原子、アラルキル基、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とアリール基とが結合する置換もしくは非置換の複素環基、又は該複素環基に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基等の置換基で置換された置換アリール基を挙げることができる。
【0023】
(vi)ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を挙げることができる。
【0024】
(vii)アラルキル基としては、炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基を例示すると、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0025】
(viii)窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基は置換基を有していてもよい。置換基としては、前記アリール基における置換基と同じものが挙げられる。該複素環基を構成する炭素原子の数は一般的には2〜10、特に2〜6であるものが好ましい。該複素環内には、ベンゼン環と結合している窒素原子の他に更にヘテロ原子が存在していてもよい。該へテロ原子は特に限定されないが、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が好適である。該複素環基として好適な基としてはモルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジニル基、N−メチルピペラジニル基等を挙げることができる。
【0026】
(ix)前記複素環基(viii)に芳香族炭化水素環が結合した縮合複素環基としては、インドリニル基、カルバゾリル基等を挙げることができる。
【0027】
およびRの置換数を示すaおよびbは、0〜5の整数である。RおよびRが結合する位置は、特に制限されず、その総数も特に限定されない。なお、aおよびbが2〜5の整数であるとき、分子内に複数存在することになる各R(又は各R)はそれぞれ互いに異なっていてもよい。
【0028】
前記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物を具体的に例示すれば、ベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4−ジメチルベンゾフェノン、2,5−ジメチルベンゾフェノン、3,4−ジメチルベンゾフェノン、2−フルオロベンゾフェノン、4−フルオロベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、3−クロロベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3−トリフルオロメチルベンゾフェノン、4−トリフルオロメチルベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、4,4‘−ジメトキシベンゾフェノン、2−アミノベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−モルホリノベンゾフェノン、3−ニトロベンゾフェノン、4−ニトロベンゾフェノン等が挙げられる。
【0029】
前記したように、従来のStobbe反応では、ベンゾフェノン化合物として電子供与性基を有する化合物を原料とした場合に反応収率が低いという問題があった。これに対し、本発明の製造方法ではこのようなベンゾフェノン化合物を使用した場合にも高い収率で目的物を得ることができる。このような顕著な効果が得られるという観点から、本発明においては、前記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物として、少なくとも1つの電子供与性基を置換基として有するベンゾフェノン化合物を使用するのが好ましい。
【0030】
ここで、電子供与性基とは、水素原子と比較してより電子を放出しやすい基を意味し、RおよびRとして挙げた基のうち、(vi)のハロゲン基以外の基が電子供与性基に相当する。即ち、本発明においては、前記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物の内、a及びbが共に0ではなく、置換基として結合しているRおよび/又はRの内の少なくとも一つに(vi)のハロゲン基以外の基を有する化合物を使用するのが好適である。本発明で特に好適に使用されるベンゾフェノン化合物を例示すれば、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4−ジメチルベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、4,4‘−ジメトキシベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−モルホリノベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0031】
本発明で原料として使用するコハク酸ジエステルは前記式(3)で示される。式(3)において、Rはアルキル基である。これらの中でも入手の容易さから、メチル基、エチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。本発明において、特に好適に使用されるコハク酸ジエステルを例示すれば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジt−ブチル等を挙げることができる。
【0032】
本発明で使用する金属アルコキシドは、カリウムt−ブトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシドなど公知のものが使用できるが、取り扱いやすさの点で、カリウムt−ブトキシドを用いるのが特に好適である。
【0033】
本発明の製造方法では、ベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステルとを金属アルコキシドの存在下に反応させるに際し、ベンゾフェノン化合物及びコハク酸ジエステルを含む原料液に、エーテル中に溶解若しくは懸濁させた金属アルコキシドを添加して反応を行なうことが重要である。このような方法を採用することにより、溶媒としてt−ブタノールを使用することなく目的物を高収率で得ることが可能となる。金属アルコキシドをエーテルに溶解若しくは懸濁させて使用する場合でも、金属アルコキシドの溶液若しくは懸濁液にベンゾフェノン化合物及びコハク酸ジエステルを添加した場合には多量の副成物が生成してしまい高い収率を実現することができない。本発明の製造方法においては、添加された金属アルコキシドは速やかに反応に使用され、反応系内にフリーの金属アルコキシドが存在し難いため、コハク酸ジエステル同士の縮合(Claisen反応)や反応中間体アニオン種へのベンゾフェノン化合物又はコハク酸ジエステルの攻撃といった副反応が抑制されるものと思われる。この効果は、コハク酸ジエステルから生じるアニオン種の攻撃をより受けにくいために反応性が低く、したがってClaisen反応が起こりやすい“電子供与性基を有するベンゾフェノン化合物”を用いた場合において、より顕著な差となって現れる。
【0034】
本発明の製造方法で使用する原料液は、前記式(1)で示されるベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステルを含有する液状組成物であれば特に限定されず、これら2成分のみからなっていても、更に希釈溶媒を含んでいてもよい。希釈溶媒としては特に制限はされないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;等が挙げられる。これらのうち、反応系を複雑にせず、後の処理も簡単になることから、金属アルコキシドを懸濁もしくは溶解させるのに使用するエーテルと同じものを使用するのが特に好ましい。
【0035】
上記原料液に含まれるベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステル誘導体の割合は特に限定されないが、反応効率の観点からベンゾフェノン化合物1モルに対してコハク酸ジエステル誘導体を0.5〜1.5モル、特に0.9〜1.3モル使用するのが好適である。また、希釈溶媒を使用する場合における希釈溶媒の使用量は、ベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエステル誘導体の合計100質量部に対して50〜5000質量部、特に100〜1000質量部とするのが好適である。
【0036】
本発明の製造方法において、金属アルコキシドはエーテルに溶解若しくは懸濁させて原料液に添加される。このとき、エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテルなど公知のものが使用できるが、金属アルコキシドを比較的よく溶解するテトラヒドロフランを用いるのが特に好適である。金属アルコキシドのエーテル溶液(この場合、金属アルコキシドは全て溶解している必要はなく、一部は懸濁した状態であってもよい。)若しくはエーテル懸濁液(この場合、金属アルコキシドの一部は溶解していてもよい。)は、金属アルコキシドとエーテルとを混合し、必要に応じて攪拌することにより調製することができる。このとき、両者の混合割合は、金属アルコキシド100質量部に対してエーテルを100〜5000質量部、特に300〜3000質量部とするのが好適である。なお、操作性の観点から、上記溶液若しくは懸濁液を調製する際の液温は、10〜50℃とするのが好適である。
【0037】
また金属アルコキシドのエーテル溶液若しくはエーテル懸濁液(以下、総称して金属アルコキシド液ともいう)の使用量は、反応効率及び経済性の観点から、ベンゾフェノン化合物1モルに対して添加される金属アルコキシドの総モル数で表して、0.8〜2.0モル、特に1.0〜1.5モルとするのが好適である。
【0038】
原料液に金属アルコキシド液を添加する方法は特に限定されず、例えば、予め所定の温度に調整された原料液に金属アルコキシド液を滴下することにより好適に行なうことができる。このとき、原料液は攪拌しておくことが好ましい。また、金属アルコキシド液の滴下速度は原料液中のベンゾフェノン化合物1モル当りに1分間で添加される金属アルコキシドのモル数で表して、0.003〜1mol/分、特に0.01〜0.3mol/分となるような速度とするのが好ましい。原料液に金属アルコキシドが添加されると反応が開始され、反応が進行する。反応温度、即ち、金属アルコキシド液の添加の際および滴下終了後反応を終了させるまでの間の反応液の温度は、副生物生成を抑制するという観点から、100℃以下、特に20〜70℃とするのが好ましい。また、反応時間は、温度にもよるが、通常30分〜24時間程度である。反応液を少量サンプリングし、高速液体クロマトグラフ法もしくはガスクロマトグラフ法により分析することにより反応の終了を確認することができる。
【0039】
反応終了後は、反応液の温度を室温付近の温度としてから、反応液から目的物を分離すればよい。目的物の分離方法は、次のようにして好適に行なうことができる。即ち、先ず反応液に水及び非水溶性有機溶媒(例えばトルエン)を加えて未反応の原料を当該有機溶媒相に抽出してから水相と有機相とを分離すると共に目的物を含む水相を回収する。次いで、水相に酸(例えば塩酸)を加えて酸性にしてから、適当な有機溶媒(例えば酢酸エチル等)で目的物を抽出し、抽出液から抽出溶媒を除去することにより目的物を分離することができる。このようにして分離された目的物は、必要に応じてシリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶などにより精製することができる。
【0040】
なお、本発明において、原料のベンゾフェノン化合物として対称な構造を有する化合物(別言すれば、式(2)においてa=b=0であるか、又はa及びbが共に0で無い場合において置換基を有する2つのベンゼン環が鏡像の関係にある場合の化合物)である場合には、主生成物は前記式(1)で示されるアルキリデンコハク酸化合物1種になる。一方、原料のベンゾフェノン化合物として非対称な構造を有する化合物(別言すれば、式(2)においてa及びbが共に0で無い場合において置換基を有する2つのベンゼン環が鏡像の関係に無い場合の化合物)である場合には、前記式(1)で示されるアルキリデンコハク酸化合物の他に、その異性体である下記式(1’)で示される化合物がほぼ等量生成する。
【0041】
【化5】

【0042】
{式中、R、R、R、a及びbは、それぞれ前記式(1)におけるものと同義である。}
したがって、非対称ベンゾフェノン化合物を原料として使用したときの収率は50%を大きく越えることは無い。上記式(1’)も有用な化合物であり、例えばフォトクロミック化合物の合成原料として使用できるが、前記式(1)で示される化合物のみが目的物である場合には、2つの異性体を分離するのが好ましい。異性体の分離方法としては、カラムクロマトグラフィー、再結晶などが採用できる。なお、化合物の種類によってはこのような方法で分離することが困難な場合もあるが、その場合には分離可能な誘導体に転化させてから分離すればよい。
【0043】
以下実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)とテトラヒドロフラン3000mlを十分に混合、溶解して金属アルコシド液を調製した。これとは別に4−メトキシベンゾフェノン500g(2.36mol)及びコハク酸ジエチル472g(2.71mol)を希釈溶媒としてのテトラヒドロフラン3800mlに添加し、室温で十分に混合することにより原料成分を溶解させて原料液を調製した。その後、原料液を50℃まで昇温した後、液温を50〜60℃の範囲に保ちながら攪拌下に金属アルコキシド液を30分間かけて滴下し、60℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水及びトルエンを加えてトルエン層を分液した後に、残る水層に塩酸を加えてpH1としてから抽出溶媒として酢酸エチルを用いて生成物を抽出した。その後、抽出液を濃縮することにより得られたオイル状物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色透明飴状固体770gを得た。H−NMRにより分析することにより、該固体は(C)(4−OMeC)C=C(COEt)CHCOHで示される2種類の異性体の混合物(混合比は約1:1)あることを確認した。なお、上記2種類の異性体の混合物としての収率は96%であり、目的物の収率は約48%であった。
【0045】
実施例2
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)とジイソプロピルエーテル6000mlを十分に混合、懸濁させて金属アルコシド液を調製した。さらに、3−ブロモ−4−メトキシベンゾフェノン690g(2.36mol)及びコハク酸ジエチル472g(2.71mol)を希釈溶媒としてのジイソプロピルエーテル3800mlに添加し、室温で十分に混合して原料液を別途調製した。これらの液を用いて実施例1と同様にして反応、処理および精製を行い、(C)(3−Br−4−OMeC)C=C(COEt)CHCOHで表させる2種類の異性体の混合物として、無色透明飴状固体940g(混合物としての収率:95%、目的物収率:約48%)を得た。
【0046】
実施例3
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)をテトラヒドロフラン3000mlに加え十分に混合、溶解させて金属アルコキシド液を調製した。さらに、4、4−ジメトキシベンゾフェノン570g(2.36mol)およびコハク酸ジエチル472g(2.71mol)をテトラヒドロフラン3800mlに添加し、室温で十分に混合、溶解して原料液を調合した。これらの液を用いて実施例1と同様にして反応、処理および精製を行い、(4−OMeCC=C(COEt)CHCOHで表させる白色固体820g(収率:94%)を得た。
【0047】
実施例4
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)をテトラヒドロフラン3000mlに加え十分に混合、溶解させて金属アルコキシド液を調製した。これとは別に4−ジメチルアミノベンゾフェノン531g(2.36mol)およびコハク酸ジメチル434g(2.71mol)を室温で十分に混合して原料液を調製した。これらの液を用いて実施例1と同様にして反応、処理および精製を行い、(C)(4−N(Me))C=C(COMe)CHCOHで表される無色透明飴状固体760g(混合物としての収率:95%、目的物の収率:約48%)を得た。
【0048】
比較例1
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)をt−ブタノール3000mlに加え、十分に混合、溶解させて金属アルコキシド液を調製した。さらに、4−メトキシベンゾフェノン500g(2.36mol)及びコハク酸ジエチル472g(2.71mol)をt−ブタノール3800mlに添加し、室温で十分に混合、溶解させて原料液を調製した。金属アルコキシド液を50℃まで昇温した後、液温を50〜60℃範囲内に保ちながら原料液を滴下し、還流温度で3時間反応させた。反応終了後室温まで冷却し、t−ブタノールを減圧留去したが、この際、何度も蒸留管が閉塞するという問題を生じた。留去後、水及びトルエンを加えてトルエン層を分液した後に、残る水層に塩酸を加えてpH1とし、抽出溶媒として酢酸エチルを用いて生成物を抽出し、濃縮することによりオイル状物を得た。得られたオイル状物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、(C)(4−OMeC)C=C(COEt)CHCOHで表させる2種類の異性体の混合物として、無色透明飴状固体633g(混合物としての収率:79%、目的物の収率:約39%)を得た。
【0049】
比較例2
カリウムt−ブトキシド300g(2.71mol)をトルエン3000mlに加え十分に混合、懸濁させて金属アルコキシド液を調合した。さらに、4−メトキシベンゾフェノン500g(2.36mol)及びコハク酸ジエチル472g(2.71mol)をトルエン3800mlに添加し、室温で十分に混合、溶解させて原料液を調合した。金属アルコキシド液を50℃まで昇温した後、液温を50〜60℃の範囲内に保ちながら原料液を滴下し、還流温度で3時間反応させた。得られた反応液を実施例1と同様にして処理、精製することにより、(C)(4−OMeC)C=C(COMe)CHCOHで表させる2種類の異性体の混合物として、無色透明飴状固体602g(混合物としての収率:75%、目的物の収率:約37%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基;アルコキシ基;アラルコキシ基;置換アミノ基;シアノ基;アリール基;ハロゲン原子;アラルキル基;窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基;及び前記複素環基に芳香族炭化水素環が結合した縮合複素環基からなる群より選ばれる1種の基又は原子であり、Rはアルキル基であり、a及びbは、それぞれ独立に0〜5の整数であり、a又はbが2〜5の整数である場合、分子内に複数存在するR又はRは互いに異なっていてもよい。)
で示されるアルキリデンコハク酸化合物を製造する方法であって、下記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物及び下記式(3)で示されるコハク酸ジエステルを含む原料液に、エーテル中に溶解若しくは懸濁させた金属アルコキシドを添加して反応を行なう工程を含むことを特徴とする方法。
【化2】

{式中、R、R、a及びbは、それぞれ前記式(1)におけるものと同義である。}
【化3】

{式中、Rは、前記式(1)におけるものと同義である。}
【請求項2】
前記式(2)で示されるベンゾフェノン化合物が、少なくとも1つの電子供与性基を置換基として有するベンゾフェノン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2006−265169(P2006−265169A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85287(P2005−85287)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】