説明

アルキルグリオキサールの二量体化のための新規方法

本発明は有機合成の分野に関し、より詳細にはアルキルグリオキサールの二量体化のための新規方法に関する。この場合、この方法は、ヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩により促進され、かつpH3.5〜9.5で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成およびさらに詳細には、式(I)の化合物を、ヒドロキシメタンスルフィン酸アルカリ金属塩(HCOCHSOM)、好ましくはHCOCHSONa・2HOにより促進されたアルキルグリオキサール(II)の還元二量体化によって製造するための新規方法に関し、この場合、これは、反応式(1):
反応式1:本発明によるグリオキサールの還元二量体化
【化1】

[式中、Rは同時に直鎖または分枝のC〜C−アルキル基を示し、かつ、Mはアルカリ金属イオンを示す]に従う。
【0002】
従来技術
式(I)の化合物を製造するための種々の方法が、たとえば、Briggs et al, J. Chem. Soc. Perkin. Trans. I, 1985, 795、この方法は、酒石酸から出発しての3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンの多段階合成に関する、あるいは、Bassignani et al, J. Org. Chem., 1978, 43, 4245、この方法は、高価な2,5−ジメチルフランを、毒性であってかつ高価なKClO/OsO系で酸化することによる、3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンの合成に関する、が報告されている。
【0003】
式(I)を合成するための他の報告された方法は、グリオキサールの還元二量体化である。しかしながら、この反応が、一工程のみで、簡単に入手可能なグリオキサール(II)から、最終生成物として化合物(I)を得ることを可能にするといった事実にもかかわらず、前記反応はあまり注目されなかった。
【0004】
我々の知る限りにおいて、従来技術では、グリオキサールを二量体化するための4個の異なる方法のみが開示されている:
a)EP特許EP368211B1では、アルキルグリオキサールを、約47%の収率で二量体化するための電気化学的方法を開示している。
b)Buechi et al, J. Org. Chem., 1973, 38, 123 では、約55%の収率で、メチルグリオキサールの二量体化を促進するための金属Znの使用を教示している。
c)Clerici et al, J. Org. Chem., 1989, 54, 3872 では、約30%の収率で、フェニルグリオキサールの二量体化を促進するためのTiClの使用を教示している。
d)Russell et al, J. Am. Chem. Soc, 1966, 88, 5498では、約60〜70%の収率で、フェニルグリオキサールの二量体化を促進するための、Cu(NOおよびHCOCHSONa・2HOからin situで得られた、Cu(I)の使用を教示している。
【0005】
前記方法は、その低い収率(一般には70%を下回る)および/または重金属塩の少なくとも0.1等量の使用を含み、この場合、これは、最終生成物の精製および廃棄物処理の問題を生じる。したがって、高い収率で、補助反応成分としての重金属を用いることなく、グリオキサールの還元二量体化を達成するための方法を提供することが必要とされた。
【0006】
本発明の説明
前記問題を解消するために、本発明は単一工程で、かつ高い収率で、式(I)の化合物の合成を可能にする新規方法に関する。
【0007】
本発明の方法は、より詳細には、グリオキサール(II)の二量体化に関する。さらに驚くべきことに、ヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩が、特定のpH条件の存在下で、グリオキサール(II)の還元二量体化を促進することが可能であることを見出した。
【0008】
したがって、本発明の方法は、式(I)
【化2】

[式中、Rは、直鎖または分枝のC〜C−アルキル基を示す]の化合物の製造に関し、この方法は、式(II)
【化3】

[式中、Rは、前記と同様の意味を有する]のグリオキサールの、水ベースの反応媒体中での二量体化を含み、この場合、この方法は、二量体化が、
a)ヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩(すなわち、式HOCHSOMの化合物、その際、Mはアルカリ金属イオンである)の存在下で、かつ
b)反応媒体のpH3.5〜9.5で、
実施することを特徴とする。
【0009】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、出発材料グリオキサール(II)はメチルグリオキサールであり、この場合、これは、好ましい最終生成物ジヒドロキシ−ジオン(I)、すなわち、3,4−ジヒドロキシ−ヘキサン−2,5−ジオンを提供する。
【0010】
ヒドロキシメタンスルフィン酸の好ましいアルカリ金属塩は、HOCHSONa・2HOであり、この場合、これらは、Rongalit(R)(由来:BASF, Germany)として知られている。
【0011】
前記ヒドロキシメタンスルフィン酸の塩は、本発明による方法において、予め製造され、かつ単離された形態で使用することができるか、あるいは、反応媒体中で、in situで、単離または精製することなく、使用直前に製造することができる。その製造のための試験的方法は、本質的に双方の場合において同様であり、かつ当業者に公知である。予め単離された化合物の形での、ヒドロキシメタンスルフィン酸の塩の使用は、好ましい実施態様を示す。
【0012】
前記のように、二量体化は、水ベースの反応媒体中で実施する。水ベースの反応媒体とは、ここでは反応が実施される媒体を意味し、その際、媒体は、少なくとも50%の水を含有するものである(%はその質量に基づく)。本発明の実施態様によれば、特に適した水ベースの反応媒体は水である。
【0013】
本発明による方法が水ベースの反応媒体中で、かつ、反応式1中に示されるように実施される場合には、グリオキサールの還元はプロトンを必要とし、溶液のpHは、反応の過程において極めて重要である。この点において、我々は、式(I)の高い収率を確立するために、本発明による方法を、弱酸性から中程度の塩基性の媒体中で実施することが重要であることを見出した。したがって、反応を極めて酸性または極めて塩基性の媒体中で実施する場合には、反応の収率は低くなる。本発明の実施態様によれば、本発明の方法は、好ましくは4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、より好ましくは5.0〜7.5のpHを有する反応媒体中で実施する。
【0014】
さらに方法を、有利には、緩衝塩を含有する水ベースの反応媒体中で実施し、これによって、遊離プロトンの濃度における最小限の変動を保証することを立証した。使用される緩衝塩の量は、pHの好ましい範囲に依存する。
【0015】
前記緩衝塩は、弱塩基性または弱酸性の誘導体であり、かつ本発明の実施態様によれば、これらは、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩またはモノアルカリ金属リン酸塩から成る群から選択される。
【0016】
より好ましくは、緩衝塩は、NaCO、CaCOおよびNaHCOから成る群から選択される。
【0017】
反応の化学量論によれば、グリオキサール(II)/(HOCHSOM)のモル比は2である。しかしながら我々は、HOCHSOMの過剰量が、本発明の収量を増加させることを見出した。したがって、本発明の実施態様によれば、グリオキサール(II)/(HOCHSOM)のモル比は2〜0.3であり、あるいは、有利には1.5〜0.5で使用することができる。
【0018】
本発明による方法を実施することができる温度は、0〜100℃であり、より好ましくは20℃〜60℃である。ここで本発明は、以下の実施例にしたがって記載することができ、その際、温度は摂氏℃および略記は通常の意味を有する。
【実施例】
【0019】
例1
Rongalit(R)、炭酸カルシウムおよびメチルグリオキサール(テクニカル、〜水中40%)は、すべてFLUKA(Switzerland)から通常入手可能なものである。
【0020】
メチルグリオキサールの二量体化
機械式撹拌装置、アルゴンブランケット、サーモメーターおよびpHメーターを備えた1.5lのガラス反応器を、メチルグリオキサール(180g;1モル)および水(300ml)の40%水溶液で装填した。この溶液を、40℃で撹拌し、かつ固体の炭酸ナトリウム(10g)を添加し、pHは2.6から5.5に上昇した。水中のRongalit(R)溶液(154g;1モル)を15分に亘って添加し、その一方で、40〜43℃に維持した。反応はわずかに発熱性であり、かつpHは導入の間に5.5〜7.3に上昇させ、その後に1時間に亘って6.3に低下させた。反応を、40℃でさらに6時間に亘って撹拌した。20℃で、85%のリン酸を添加することによってpHを5.0に酸性化した。反応混合物の水を、真空蒸留により蒸留させ、かつ残留物を3回に亘って酢酸エチル600mlで抽出した。組み合わせた有機相を混合し、かつ溶剤を真空蒸留により留去した。粗生成物のバルブ・ツー・バルブ蒸留(bulb to bulb distillation)は、0.1ミリバール/130〜150℃で、3,4−ジヒドロキシ−ヘキサン−2,5−ジオン(Buechi et al, J.Org.Chem., 1973, 38, 123で記載されたのと同様のH−NMRスペクトルを有する)を、72%の収率で得た。
【0021】
例2
例1と同様のプロトコールにしたがって、種々の試験条件を使用したが、第1表による量および体積を適用させた:
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
例3
水50ml中に溶解された亜ニチオン酸ナトリウム(110ミリモル)(測定pH=6.5)に、水25ml中のNaOH溶液(120ミリモル)を添加し、かつ得られた懸濁液を15分に亘って撹拌した。この懸濁液に、ホルムアルデヒド9.5g(110ミリモル)(水中35%)を添加し、かつ混合物を2時間に亘って室温で撹拌した(最終溶液のpH9.5)。その後に、エタノール80mlを添加し、かつ沈殿物を濾別した(亜硫酸ナトリウム)。HCOCHSONaを含有する液体を、その後に15分に亘って、1.8g(100ミリモル)のメチルグリオキサール(水中40%)および1gの炭酸ナトリウム(pH=7)を含有する水30mlに添加した。得られた混合物を、6時間に亘って室温で撹拌し、かつ8.2〜7.7のpHを有していた。リン酸で酸性化し、かつ例1で記載したように後処理し、結果として、式(I)の好ましい化合物を約55%の収率で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、Rは、直鎖または分枝のC〜C−アルキル基を示す]の化合物を製造するための、式(II)
【化2】

[式中、Rは、前記と同じ意味を有する]のグリオキサールの、水ベースの反応媒体中での二量体化を含む方法において、
前記方法が、二量体化を、
a)ヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩の存在下で;かつ、
b)反応媒体のpH3.5〜9.5で、
実施することを特徴とする、前記式(I)の化合物を製造するための方法。
【請求項2】
式(II)の化合物がメチルグリオキサールであり、かつ式(I)の化合物が3,4−ジヒドロキシヘキサン−2,5−ジオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩が、HOCHSONa・2HOである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
pHが4.0〜9.5である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
pHが5.0〜9.0である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
pHが5.0〜7.5である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
方法を、緩衝塩を含有する水ベースの反応媒体中で実施する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
緩衝塩が、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩およびモノアルカリ金属リン酸塩から成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
緩衝塩が、NaCO、CaCOおよびNaHCOから成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
方法を実施する温度が、20℃〜60℃である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−519027(P2008−519027A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539665(P2007−539665)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/IB2005/053489
【国際公開番号】WO2006/048792
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】