アルキルパラベン分解酵素並びにその製造及び利用
【課題】プロピルプラベンの新規な分解酵素の提供。
【解決手段】白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質、作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである、を有する酵素蛋白質。
【解決手段】白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質、作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである、を有する酵素蛋白質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモン作用物質であるパラベン類に作用して分解する酵素蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモン作用物質に対する関心が飛躍的に高まってきている。環境ホルモンとは環境中に存在し、生体内において、ホルモンと似た作用を引き起こす人為的に合成された化合物のことを指す。現在約70種類の化合物が環境ホルモンであると疑われており、この数は今後更に増加するものと考えられ、日本では「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」を発表し、本格的に調査・検討に乗り出している(内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について ‐環境ホルモン戦略計画 SPEED’98-2000年11月版 環境庁))。
【0003】
パラベンはp-hydroxybenzoateの略称で、代表的なもので、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等があり、医薬品、化粧品、食品などに防腐剤、保存料、安定剤などとして幅広く使用されている(Elder R.L. (1984), J Am Coll Toxicol:3:147-209)。特に化粧品においては約8割の商品に添加されている(S.C.Rastogi, et al. (1995) Contact Dermatitis. Jan;32(1):28-30)。しかし、パラベンは人により接触性皮膚炎、アレルギー性湿疹を起こす可能性を秘めている(Mowad CM. (2000), Am J Contact Dermat. Mar;11(1):53-6. Review)。
【0004】
さらに近年になり、パラベンやその代謝物がエストロゲン活性を持つということが、乳癌細胞MCF-7の増殖試験(Byford JR, et al, (2002) J Steroid Biochem Mol Biol. Jan;80(1):49-60;Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32)や酵母でのレセプター結合試験(Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9;Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53;Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33)などによって報告されてきた。
【0005】
これまでの様々なアッセイにより、ブチル- >プロピル- >エチル- >メチルパラベンの順でそのエストロゲン活性が低下するということも報告されている(Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32;Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9;Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53;Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33;Farinati F, et al. (2002) Mol Cell Endocrinol. Jul 31;193(1-2):85-8;Pedersen KL, et al. (2000) Pharmacol Toxicol. Mar;86(3):110-3)。
【0006】
また、オスのラットにプロピル-、ブチルパラベンを経口投与した場合、ADI(1日許容摂取量)と同程度の量でも精子の減少が確認されたという報告もある(Oishi S. (2002) Food Chem Toxicol. Dec;40(12):1807-13)。本研究室でも雄のメダカにおいて、パラベンによる卵黄タンパクの前駆物質であるvitellogeninの誘導が確認されている(Inui M, et al. (2003) Toxicology. Dec 15;194(1-2):43-50)。
【0007】
近年、バイオテクノロジーを用いて環境修復を行ったり、微生物の機能を利用して汚染物質を分解・無害化するという、いわゆるバイオレメディエーション(Bioremediation)という技術が産業レベルで取り入れられてきている。バイオレメディエーションは従来の物理的・化学的な処理法と比べ、(1)汚染物質そのものを分解してしまう根本的な解決策となる、(2)汚染土壌を掘り出すことなく原位置での汚染処理が可能、(3)広範囲に拡散した低濃度の汚染にも対応できる、(4)コストが安いなどの利点もつ。最近、日本においてはバイオレメディエーション技術の実際の汚染現場への適用が試みられ、米国においては多くの企業で実用化が計られてきている。このような状況の中で、1985年に白色腐朽菌の難分解性化合物の分解能が発見されて以来、担子菌類が特に注目を浴びるようになった(Bumpus JA, et al. (1985) Science. Jun 21;228(4706):1434-6;キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 編著 宍戸和夫 株式会社アイピーシー)。
【0008】
担子菌類とは有性胞子を形成する場所が子実体で、この子実体が大きく肉眼で認められる菌類のことを指す。栄養の観点からみると、共生菌、寄生菌、腐生菌に大別され、難分解性物質の分解において最も注目されているのは腐生菌、特に木材腐朽菌である。腐生菌は枯れ木や落ち葉などを養分として生長し、自らが分泌した加水分解酵素によって枯れ木などを分解、消化、吸収する(きのこの生化学と利用 寺下隆夫 編著 応用技術出版)。そのうちの木材腐朽菌は褐色腐朽菌と白色腐朽菌に大別され、褐色腐朽菌はセルロースとヘミセルロースを同程度分解するが、難分解性高分子芳香族化合物であるリグニンを完全に分解することはない。一方、シイタケ、シメジ、エリンギ等に代表される白色腐朽菌は、それに加えてリグニンをも同時に分解する。
【0009】
芳香族化合物を分解するという特性を利用して、Polyporus brumalisによるフタル酸ジブチルの分解(Lee SM, et al. (2007) Biotechnol Bioeng. Jan 12)等、様々な難分解性芳香族化合物の分解が試みられている。特に最近、注目されているのは芳香環をもち、環境中で生態系に悪影響を与え得る環境ホルモン物質の分解である。既にCoriolopsis polyzona によってノニフェノール 、ビスフェノール Aのエストロゲン活性が除去されるということが報告されており(Cabana H, et al. (2006) Chemosphere. Nov 29)、ますます白色腐朽菌は注目を集めている。
【0010】
【非特許文献1】Elder R.L. (1984), J Am Coll Toxicol:3:147-209
【非特許文献2】S.C.Rastogi, et al. (1995) Contact Dermatitis. Jan;32(1):28-30
【非特許文献3】Mowad CM. (2000), Am J Contact Dermat. Mar;11(1):53-6. Review
【非特許文献4】Byford JR, et al, (2002) J Steroid Biochem Mol Biol. Jan;80(1):49-60.
【非特許文献5】Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32
【非特許文献6】Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9
【非特許文献7】Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53
【非特許文献8】Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33
【非特許文献9】Farinati F, et al. (2002) Mol Cell Endocrinol. Jul 31;193(1-2):85-8
【0011】
【非特許文献10】Pedersen KL, et al. (2000) Pharmacol Toxicol. Mar;86(3):110-3
【非特許文献11】Oishi S. (2002) Food Chem Toxicol. Dec;40(12):1807-13
【非特許文献12】Inui M, et al. (2003) Toxicology. Dec 15;194(1-2):43-50
【非特許文献13】Bumpus JA, et al. (1985) Science. Jun 21;228(4706):1434-6
【非特許文献14】キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 編著 宍戸和夫 株式会社アイピーシー
【非特許文献15】きのこの生化学と利用 寺下隆夫 編著 応用技術出版
【非特許文献16】Lee SM, et al. (2007) Biotechnol Bioeng. Jan 12
【非特許文献17】Cabana H, et al. (2006) Chemosphere. Nov 29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、環境ホルモン作用を示し、環境中に大量且つ広範囲に存在する可能性のあるパラベンを分解、除去するために有用な、白色腐朽菌由来の酵素を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質が上記の作用を有することを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明は、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質:
(1)作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;
(2)最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;
(3)pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;
(4)阻害剤の影響:10mMのL−システインによりほぼ完全に阻害されれ、10mMのEDTAにより阻害される;
(5)分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである;
を有する酵素蛋白質を提供する。
【0014】
本発明はまた、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)を培養し、その培養物から上記の酵素蛋白質を採取することを特徴とする、上記酵素蛋白質の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記の酵素蛋白質をプロピルパラベンに作用させることを特徴とする、プロピルパラベンの減少方法を提供する。
本発明は更に、上記の酵素蛋白質を、プロパノール以外の低級アルコールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、当該低級アルコールに対応するアルキルパラベンの製造方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記の酵素蛋白質を、エタノール又はメタノールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、それぞれエチルパラベン又はメチルパラベンの製造方法を提供する。
本発明は更に、上記の酵素蛋白質を、低級アルキルパラベンに作用させるとを特徴とする、p−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供する。前記低級アルキルパラベンは、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン又はプロピルパラベンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
生産菌
プロピルパラベンを分解する能力を有する微生物としては、例えば、コプリヌス・フリクチドスポルス(Coprinus phlyctidosporus)、アガリクス・ブラゼイ(Agaricus blazei)、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)、コリオルス・ベルシコラー(Coriorus versicolor)などが挙げられるが、プロピルパラベンによる誘導条件下で高いプロピルパラベン分解能を有する微生物とし、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)が特に好ましい。具体的には、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)が挙げられる。
【0017】
具体的には、アウリクラリア(Auricularia)属、例えばアウリクラリア・アウリクラ(Auricularia auricula)種、例えばATCC 62496、ATCC 62508及びATCC 62509株;アウリクラリア・アウリクラ−ジュダ(Auricularia auricula-judae)種、例えばNBRC 4900、NBRC 5949及びNBRC 100150株;アウリクラリア・メセンテリカ(Auricularia mesenterica)種、例えばNBRC 9613株;アウリクラリア・ポリトリカ(Auricularia polytricha)種、例えばNBRC 30778、NBRC 3239、 ATCC 22079、ATCC 52851、ATCC 52923、ATCC 62444及びATCC 62513株;アウリクラリア・フスコサクシネア(Auricularia fuscosuccinea)種、例えばATCC 200733、ATCC 200734及びATCC 200735;アウリクラリア・アウリクラリア(Auricularia auricularia)(別名アウリクラリア・アウリクラ)ATCC 36636;ヒルネオラ・アウリクラ−ジュダ(Hiruneola auricula-judae)種(別名アウリクラリア・アウリクラ) ATCC 52490等を用いることができる。
【0018】
培養、酵素の精製及び性質
生産微生物の培養、培養物からの酵素の単離・精製、酵素の性質などについては、以下の実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1. パラベン分解酵素の単離・精製
培養
ジャガイモはよく洗い、皮を剥いて約7 mm四方の大きさに切り、30〜60分おだやかに煮、煮汁をガーゼでこし出した。グルコース20 gを加え、pH を6.0にあわせ、1 lにフィルアップした後、20 mlずつ100 ml三角フラスコに分注した。分注後、綿栓をし、121℃、15分でオートクレーブした。なお、プロピルパラベン添加によってパラベン分解酵素の発現が誘導されるため、グルコース添加後、培地中のプロピルパラベンが0.01%となるようにプロピルパラベンをPD培地に添加した。
上記の培地に、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)例えばATCC 62496をはじめとするキクラゲを接種し、25℃にて約20日間、静置培養した。
【0020】
フィルターろ過
アスピレーターと漏斗を用いてキクラゲの培養上清と菌糸体を分離し、その後さらに、メンブレンフィルター(pore size 0.45 μm)を用い、培養上清中に存在する菌糸体を完全に除いた。
【0021】
培養上清の濃縮
メンブレンフィルターによって菌糸体が除かれた培養上清を、使用前に煮沸し不純物を取り除いた透析用セルロースチューブに入れ、タッパー上で膜の上に直接PEG#6,000をふりかけ、体積が1/10になるまで濃縮した。濃縮後、チューブ内の液を回収し、冷蔵庫に保存した。チューブの内側もよくトリス-HCl バッファー(pH 7.0)で洗い、回収した。最終的に得られた溶液を粗酵素として、以降の実験を行った。
【0022】
DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィー
樹脂(80 ml)をカラムクロマト管(φ2.5×18 cm)に詰め、20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)500 mlで樹脂を平衡化した。その後PEGによる濃縮で得られた粗酵素をカラムに供し、20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)で吸光度A280が0.05以下となるまで洗浄し、0から1 MのNaCl濃度勾配をかけた20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)400 mlで溶出を行った。得られたフラクション5 ml×80本のA280を測定した。またそれぞれのフラクションについて、下記の条件でプロピルパラベン分解活性を調べた。
【0023】
50 mM トリス-HCl 緩衝液(pH 7.0) 1500 μl、サンプル 50 μl、及びプロピルパラベン(メタノール中2.5 mg/ml) 50 μl の反応混合物を、37℃にて24時間反応させ、HPLCで分析した。HPLC分析条件は、溶離液:アセトニトリル/水=50/50、流速:1.0 ml/分、温度:40℃、検出:UV 254 nm、サンプル量:10.0 μlとした。結果を、図1に示す。活性の見られたフラクション21〜24を回収し、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーに付した。
【0024】
Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィー
樹脂(11 ml)をカラムクロマト管(φ1.6×13.3 cm)に詰め、20 mM トリス-HCl緩衝液(pH 7.0)に、1 Mになるよう (NH4)2SO4を入れたもの100 mlで樹脂を平衡化した。その後試料をカラムに供し、1から0 Mの(NH4)2SO4濃度勾配をかけた20 mM トリス-HCl緩衝液(pH 7.0)60 mlで溶出を行った。1mlずつのフラクション60本を得、それらのA280を測定した。またそれぞれのフラクションについて、前記のようにしてプロピルパラベン分解活性を調べた。結果を、図2に示す。比較的活性の高いフラクション50〜57を回収し、Superdex 75に供するサンプルとした。
【0025】
Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィー
Superdex 75 10/300 GLを、フィルターろ過し、脱気したミリQ水で洗浄し、0.2 M NaCl を含む20 mM KH2PO4/NaOH バッファー (pH 7.0) で平衡化した。その後、試料約7 mlをAmicon Ultra-15を用いて1/10量に限外ろ過濃縮し、カラムに供し、同バッファーで溶出した。得られたフラクションのA280を測定し、前記のようにしてプロピルパラベン分解活性を調べた。結果を、図3に示す。溶出の結果、大きなピークが一つ検出された。活性とA280のピークが同じフラクションに見られた。また、A280の値から、タンパク量は非常に少ないと考えられるので、さらにmicroconを用いて5倍に濃縮し、SDS-PAGEに供した。
【0026】
SDS-PAGE
以下のようにSDS用ゲルを調製した。分離ゲルを次のようにして調製した。1枚当り、30%アクリルアミド:3.75 ml、蒸留水:2.145 ml、1.875 M トリス-HCl (pH 8.8)緩衝液:1.5 ml、10% SDS:75 μl、及び過硫酸アンモニウム:45 μlの混合溶液を脱気し、TEMEDを7 μl加え、よく混合し、ガラスプレートに注ぎ込んだ。ゲルが固まるのを待った。濃縮ゲルは次のようにして調製した。30%アクリルアミド:0.83 ml、蒸留水:3.6 ml、0.6 M トリス-HCl (pH 6.8)緩衝液:0.5 ml、10% SDS:50 μl及び過硫酸アンモニウム:40 μlの混合溶液を脱気し、TEMEDを6 μl加え、よく混合して濃縮ゲルとし、前記の分離ゲルの上に注ぎ込んだ。濃縮ゲルにコームを差しゲルが固まるのを待った。
【0027】
サンプルに、4倍量のサンプル緩衝液と、全量の10%分のメルカプトエタノールを加え、100℃で3分間ボイルした。サンプルをゲル上にアプライし、300 V、20 mAで約1時間泳動した後、ゲルをCBB染色し、10%酢酸で脱色した。
結果を図4に示す。1の濃縮した培養上清でもタンパク量は非常に少なかったが、各ステップを経た2のSuperdex75のフラクション17-18では約60 kDaの位置に主だったバンドが確認された。しかし、非特異なバンドも2〜3、確認された。SDS-PAGEの結果から、目的酵素の分子量は約60 kDaである。
【0028】
タンパク定量
クーマシーブリリアントブルー(CBB)法(Bradfold M. (1976) Anal Biochem 72: 248-254)によって、培地に含まれるタンパク質量を測定した。まず、乾燥した試験管にBSA(1 mg/ml)を0、2、4、6、8、10 μlそれぞれ入れた。サンプルも同様に試験管に50、100、200 μlずつそれぞれ入れた。各試験管に2 mlのCBB溶液を加え、室温で20分放置した後、595 nmの吸光度を測定し、BSA検量線からサンプルのタンパク量を計算した。
【0029】
精製過程と収率
前記の工程の結果をまとめると、下記のとおりであった。比活性は約17倍となった。
【表1】
【0030】
実施例2. 酵素の諸性質
最適pH
pH 1.0からpH 11.0の範囲の緩衝液1.5 mlに0.625 mg/mlのプロピルパラベンを50 μl加え、これに酵素液50 μlを加えたものを37℃で17時間インキュベートした後、HPLCによってプロピルパラベン減少率を分析した。使用した緩衝液は以下のとおりである。
pH 1.0−pH 4.0 50 mM CH3COONa/HCl緩衝液
pH 4.0−pH 6.0 50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液
pH 6.0−pH 8.0 50 mM KH2PO4/NaOH緩衝液
pH 8.0−pH 9.0 50 mM トリス-HCl緩衝液
pH 9.0−pH 11.0 50 mM グリシン-NaOH緩衝液
【0031】
結果を図5に示す。各pHのバッファーを用いて活性を調べたところ、CH3COONa/CH3COOH緩衝液、KH2PO4/NaOH緩衝液の各pHが 6.0の時、プロピルパラベンの減少率が最も高かった。酸性側ではpH 3.0、アルカリ側ではpH 8.0を超えると、減少率は50%を下回るようになった。弱酸性で最も活性を示す酵素といえる。また、アルカリ側ではKH2PO4/NaOH緩衝液のpH 8.0の時とトリス-HCl緩衝液のpH 8.0、トリス-HCl緩衝液のpH 9.0の時とグリシン-NaOH緩衝液のpH 9.0とでは20%以上減少率が違った。このことから、本酵素の最適pHは6.0であり、また、その活性はバッファーの種類によっても影響を受けるということが示唆された。
【0032】
pH安定性
酵素液50 μlと各種pHの緩衝液200 μlを混合し、37℃で20分間インキュベートした。この混合液にpH 7.0の50 mM トリス-HCl緩衝液 1.5 mlと0.625 mg/ml プロピルパラベン50 μlを加え、37℃で17時間インキュベートした後、反応液中のプロピルパラベンをHPLC分析し、プロピルパラベンの減少率を調べた。使用した緩衝液は以下のとおりである。
pH 1.0−pH 4.0 50 mM CH3COONa/HCl緩衝液
pH 4.0−pH 6.0 50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液
pH 6.0−pH 8.0 50 mM KH2PO4/NaOH緩衝液
pH 8.0−pH 9.0 50 mM トリス-HCl緩衝液
pH 9.0−pH 11.0 50 mM グリシン-NaOH緩衝液
【0033】
結果を図6に示す。酵素を各pH緩衝液で処理した後、pH 7.0で基質と反応させたときの活性を示している。図6からもわかるように、pH安定性はpH 4.0〜8.0付近で比較的安定であった。pH 3.0で約70%の活性があり、pH 9.0でも約60%〜90%の活性があった。このことから、このプロピルパラベン分解酵素pH 4.0から8.0の範囲において幅広いpH安定性をもつということが言える。また、pH安定性測定の際、最も安定性が高かったのはバッファーのpHが 5.0のときである。図5及び図6の両方から言えることは、比較的、弱酸性の条件で活性が高く、安定であるということである。
【0034】
活性阻害剤
50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液(pH 6.0) 1.5 mlに0.625 mg/ml プロピルパラベン 50 μl加え、これにアジ化ナトリウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTT (ジチオスレイトール) 、L-システインを1 mM、10 mMとなるように加えたものと、何も加えていないものをそれぞれ用意し、酵素液50 μl加えた後、37℃で17時間インキュベートした。その後、HPLCによってプロピルパラベンの減少率を比較した。結果を、図7及び図8に示す。
【0035】
用いた阻害剤はアジ化ナトリウム、EDTA、L-システイン、DTTである。Fig. 8-aは阻害剤の濃度を1 mMに設定したときの、図7及び図8は阻害剤の濃度を10 mMに設定したときの相対活性を示している。アジ化ナトリムに関しては阻害剤の濃度を上げても活性阻害が見られなかった。
【0036】
EDTAでは1 mMの存在下においては、活性が約80%に保持されていたが、10 mMでは活性は約70%に減少した。この実験ではL-システインの影響が最も顕著であった。1 mMの時、活性はほぼ100%保持していたが、10 mMになると活性は急激に減少した。DTTは1 mMのときの活性はほぼ100%であったのに対し、10 mMでは約90%の活性が認められた。プロピルパラベン分解酵素は、活性部位に金属イオンを持つ可能性が非常に高い。
【0037】
実施例3. 本発明の酵素によるプロピルパラベンの分解産物の単離と同定
酵素分解
50 mM トリス-HCl (pH 7.0) 1500 μl、プロピルパラベン (メタノール中10 mg/ml) 50 μl ×6本、及び酵素液 50 μl を混合し、37℃にて2週間反応させ、HPLCにより生成物を観察した。上記の反応系でプロピルパラベンのピーク (保持時間:6.9)が見られなくなるまでインキュベートした。
【0038】
上記の反応溶液を、分取用カラム(関東化学のMightysil RP-18 GP 250-10 )に2 ml注入した。注入の約2分及び4分後に現れる分解産物のピークが出現する流出液のみを試験管に採取した。この作業を数回繰り返し、GC/MSで確認できる量を獲得した。分取したサンプル中の有機溶媒を完全に飛ばすため、10時間ほど遠心濃縮(遠心濃縮機:タイテック株式会社製VC-12S)した。濃縮したサンプルに、pH 1.0になるまで、ユニバーサル試験紙で確認しながら1N HClを添加した。1 N HClでpH調整後、サンプルと等量の酢酸エチルを加え、激しく混合し、1時間ほど静置後、上清を回収した。この過程を2〜3度繰り返し、上清を集めた。上清回収後、無水硫酸ナトリウムを適量添加し、1〜2時間静置することで上清中に含まれる水を完全に除去した。水を除去した後はエバポレーターで濃縮乾固し、白色固形の分解産物を得た。
【0039】
GC/MSによる反応生成物の同定
(1)GC-MS分析
サンプルを、アセトン1 mlに溶解し、そこから0.5 mlをスクリューバイヤルに移した。アセトンを気化させた後、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド50 μlおよびピリジン50 μl加え、90℃で10分間加熱しTMS化した。装置は島津製作所製GC-17A/GCMS-QP5050Aを用いた。測定条件は以下の通りであった。カラム:RESTEC Rtx-5MS 30m×0.25mm i.d.、注入口温度:250℃、検出器温度:250℃、気化室温度:初発温度50度(5分間保持)・昇温速度10℃/分・最終温度230度(5分間保持)、キャリヤーガス:He、流速:30mm/分、検出器:EI。
【0040】
結果を、図9に示す。GC/MSの結果から、プロピルパラベンの最初の分解産物(1)はメチルパラベンであるということがわかった。さらに(2)の最終分解産物はp-ヒドロキシ安息香酸であった。市販品の化合物と比較した結果、保持時間、及び質量分析パターンの何れも一致した。この実験から、プロピルパラベンは、メチルパラベンを経由して最終的にp-ヒドロキシ安息香酸にまで分解されることがわかった。
【0041】
ここで、(1)プロピルパラベンがp-ヒドロキシ安息香酸のエステルであること、及び(2)今回の実験系では、プロピルパラベンをメタノールに溶解していること、に注目した。一般に、エステルとアルコールが共存するとエステル交換反応が起こると言われている。しかし、本実験において、プロピルパラベンとメタノールのみを混合しただけでは、置換反応は起こらなかった。そこで、本酵素によって、プロピルパラベンとメタノールの間でのエステル交換反応が促進されていることが予想される。このことは、実施例4において確認された。
【0042】
実施例4. プロピルパラベン分解酵素における分解機構の解明
実施例4の結果より、本酵素によって、プロピルパラベンがメチルパラベンを経由した後、p-ヒドロキシ安息香酸に分解されるという結果が得られた。そこで、プロピルパラベンの分解過程における本酵素の作用をより詳細に検討するため、実施例4では、分解過程における各物質の量的変化、本酵素の基質への作用様式について調べた。
【0043】
メチルパラベンとプロピルパラベンの量的変化
実施例3で、反応中間産物としてメチルパラベンが生成するということがわかったので、プロピルパラベンとメチルパラベンについて検量線を作製し、時間の経過に伴う各物質の量的変化を調べた。メチルパラベン、プロピルパラベンをメタノールに溶解させ、10〜100 μM内で検量線を作製した。メチルパラベン、プロピルパラベンをメタノールに溶解させ、10〜100 μM内で検量線を作製した。反応系として、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (メタノール中0.625 mg/ml):50 μl、及び酵素液:50 μlの混合物を37℃でインキュベートした。酵素反応開始直後から順次、10 μlずつ採取し、実施例1に記載したHPLC測定条件で反応系中の各物質の濃度を測定した。
【0044】
結果を、図10に示す。図10、はプロピルパラベン量とメチルパラベン量の経時変化について示したものである。酵素反応開始直後ではプロピルパラベンは214 nmol存在したが、酵素反応開始から20時間で、100 nmolにまで減少した。その後、時間の経過と共にプロピルパラベン量は減少していくが、減少率(グラフの勾配)は序々に低下していった。対してメチルパラベンにおいては、酵素反応開始直後では0 nmolであったが、反応開始から20時間後には40 nmol生成していた。その後、60時間を経過するまではゆるやかに増加し、60 nmolに達した後、緩やかに減少していった。
【0045】
図には100時間後までしか示していないが、メチルパラベンは、その後さらに緩やかに減少し、最終的には限りなく0 nmolに近い値となった。また、データには示していないが、メチルパラベン量が増加している際に、後に生成されるp-ヒドロキシ安息香酸量の生成、増加が確認された。この結果より、プロピルパラベンからメチルパラベンに分解されたものは、順次、p-ヒドロキシ安息香酸に分解されていくということが予想される。
【0046】
アルコールとプロピルパラベン分解酵素の関係
本酵素は、パラベンとパラベンを溶解しているアルコールのエステル交換反応を促進する可能性があると考えられるため、プロピルパラベンの溶媒を、(a)他のアルコール溶液、及び(b)非アルコール溶液に変更してプロピルパラベンの分解の様子を調べた。(a)のアルコール溶液にはエタノールを用い、(b)の非アルコール溶液にはDMF (ジメチルホルムアミド)を用いた。
【0047】
(a)の反応系として、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (エタノール中0.625 mg/ml):50 μl及び酵素液:50 μlの混合物を用い、(b)の非アルコール溶液での反応系としては、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (DMF中0.625 mg/mlF):50 μl及び酵素液:50 μlの混合物を用い、これらを37℃でインキュベートし、実施例1に記載したのと同様のHPLC分析条件でHPLCチャートにおける分解産物のピークをこれまでの実験の結果と比較した。
【0048】
(a)において、他のアルコールをプロピルパラベンの溶媒として用いた酵素反応の結果、分解産物のピークはHPLCの保持時間: 4.1(メチルパラベン)の位置には出現せず、保持時間: 5.0のピークが出現した。このピークはエチルパラベンのピークの位置とほぼ同じ保持時間であった。
(b)において、非アルコール溶液DMFを、プロピルパラベンの溶媒として用いて行った酵素反応の結果、プロピルパラベンは分解されなかった。しかし、この反応系にアルコール(ここではメタノール)を添加すると、プロピルパラベンは分解され、分解産物のピークはretention time; 4.1の位置に確認された。
【0049】
この実験結果から、本酵素はプロピルパラベンのエステルとアルコールのエステル交換反応を触媒するという可能性が示唆された。(b)においてDMFを用いた実験の結果との比較から、(a)における保持時間: 5.0の物質はエチルパラベンであると推測される。また、DMFを溶媒として用いても、アルコールを添加すると反応が進むということから、本酵素はDMFによる多少の活性の低下は考えられるものの、失活の可能性は低いことが示唆される。
【0050】
実施例5. プロピルパラベンと分解産物の女性ホルモン様作用の比較
蒸留水:1,500 μl、プロピルパラベン (メタノール中10 mg/ml):50 μl 及び酵素液:50 μlの反応系を作製し、プロピルパラベン分解産物を得た。コントロールには酵素の代わりに蒸留水を添加した。反応液をHPLCでプロピルパラベンのピークが見られなくなるまで37℃で培養し、−80℃で保存した。アッセイ直前に凍結乾燥し、乾燥後、析出した白色の分解産物をDMSO(ジメチルスルホキシド) 100 μlに溶かし、女性ホルモン様物質アッセイ用のサンプルとした。
【0051】
サンプル調製後、下記に示すYeast Assay ER試験法により、プロピルパラベンと分解産物のエストロゲン様活性を測定した。
Yeast Assay ER試験法
菌の培養
増殖培地 10 ml及び菌体ER 25 μlを、30℃にて、振盪培養(OD 600が2.0程度になるまで)した。
【0052】
Assay 1日目
増殖培地:50 ml、CPRG:0.5 ml及び培養菌液:0.4 mlを培養した。
96穴プレートにβ-17 -エストラジオール、またはブランク(EtOH)10 μlを3列ずつ入れ、EtOHを乾燥させた。サンプル1 μlを3列ずつ入れ、希釈した上記菌液200 μlを分注した。外周に蒸留水を敷き詰め、蓋をし、オートクレーブテープを巻いた。プレートを、30℃にて一夜、穏やかに振盪培養した。
【0053】
Assay 2日目
プレートを恒温槽から出し、培養液をよくピペッティングした後、OD 540 nmを測定した。蓋をし、オートクレーブテープを巻き、再び30℃にて一夜、振盪培養をした。3日目以降、同様に測定を繰り返した。
【0054】
なお、培地組成は、次のとおりであった。
増殖培地 1 M グルコース:5 ml、L-アスパラギン酸溶液:25 ml、ビタミン溶液(1):0.5 ml、L-トレオニン溶液:0.4 ml、硫酸銅(II)溶液:125 μl、及び最少培地(2):45 ml。
ビタミン溶液(1) チアミン8 mg、ピリドキシン8 mg、パントテン酸8 mg、イのシロール40 mg、ビオチン溶液(2 mg/100 ml 蒸留水)20 mg、及び180 ml 蒸留水。蒸留水でフィルアップした溶液を0.2 μm フィルターを用いてフィルター滅菌し、4℃で保存した。
【0055】
最少培地(2) KH2PO4 13.61 g、(NH4)2SO4 1.98 g、KOH 4.2 g、MgSO4 0.2 g、Fe2(SO4)3 溶液(0.8 mg/ml 蒸留水)1 ml、L-ロイシン 50 mg、L-ヒスチジン 50 mg、アデニン 50 mg、L-アルギニン-HCl 20 mg、L-メチオニン 20 mg、L-チロシン 30 mg、L-イソロイシン 30 mg、L-リジン-HCl 30 mg、L-フェニルアラニン 25 mg、L-グルタミン酸 100 mg、L-バリン 150 mg、L-セリン 375 mg、及び180 ml 蒸留水。蒸留水でフィルアップした後、加熱溶解し、オートクレーブ滅菌後、室温保存した。
【0056】
酵母によるエストロゲン活性の測定の結果、プロピルパラベン分解産物はエストロゲン活性を持たないということがわかった。エストラジオールのエストロゲン活性を1とすると、プロピルパラベンのエストロゲン活性は1/50,000〜1/100,000である。実験の結果、ブランクのプロピルパラベンのβ-17エストラジオール換算濃度は880 nMであるのに対し、反応後の分解産物はわずか1 nMであった。これはプロピルパラベンの有するエストロゲン活性が分解されることによって減少したということを示している。分解によって得られた分解産物のエストロゲン活性は、プロピルパラベンの約1/1000であったということから、キクラゲ由来パラベン分解酵素によって、プロピルパラベンの分解に伴い、エストロゲン活性も減少するという結論に至った。結果を図11に示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィーによる分離の結果を示す図である。
【図2】図2は、DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィーにより分離された活性フラクションについて、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーによる分離の結果をしめす図である。
【図3】図3は、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーにより分離された活性フラクションについて、Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィーによる分離の結果を示す図である。
【図4】図4は、Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィーにより分離さらた活性フラクションについて、SDS-PAGEの結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の酵素の最適pHを示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の酵素のpH安定性を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の酵素に対する阻害剤の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の酵素に対する阻害剤の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の酵素による分解生成物の同定を示す図である。
【図10】図10は、本発明の酵素によるプロピルパラベンからメチルパラベンへの経時変化を示す。
【図11】図11は、本発明の酵素による分解産物のエストロゲン活性を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモン作用物質であるパラベン類に作用して分解する酵素蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモン作用物質に対する関心が飛躍的に高まってきている。環境ホルモンとは環境中に存在し、生体内において、ホルモンと似た作用を引き起こす人為的に合成された化合物のことを指す。現在約70種類の化合物が環境ホルモンであると疑われており、この数は今後更に増加するものと考えられ、日本では「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」を発表し、本格的に調査・検討に乗り出している(内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について ‐環境ホルモン戦略計画 SPEED’98-2000年11月版 環境庁))。
【0003】
パラベンはp-hydroxybenzoateの略称で、代表的なもので、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等があり、医薬品、化粧品、食品などに防腐剤、保存料、安定剤などとして幅広く使用されている(Elder R.L. (1984), J Am Coll Toxicol:3:147-209)。特に化粧品においては約8割の商品に添加されている(S.C.Rastogi, et al. (1995) Contact Dermatitis. Jan;32(1):28-30)。しかし、パラベンは人により接触性皮膚炎、アレルギー性湿疹を起こす可能性を秘めている(Mowad CM. (2000), Am J Contact Dermat. Mar;11(1):53-6. Review)。
【0004】
さらに近年になり、パラベンやその代謝物がエストロゲン活性を持つということが、乳癌細胞MCF-7の増殖試験(Byford JR, et al, (2002) J Steroid Biochem Mol Biol. Jan;80(1):49-60;Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32)や酵母でのレセプター結合試験(Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9;Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53;Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33)などによって報告されてきた。
【0005】
これまでの様々なアッセイにより、ブチル- >プロピル- >エチル- >メチルパラベンの順でそのエストロゲン活性が低下するということも報告されている(Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32;Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9;Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53;Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33;Farinati F, et al. (2002) Mol Cell Endocrinol. Jul 31;193(1-2):85-8;Pedersen KL, et al. (2000) Pharmacol Toxicol. Mar;86(3):110-3)。
【0006】
また、オスのラットにプロピル-、ブチルパラベンを経口投与した場合、ADI(1日許容摂取量)と同程度の量でも精子の減少が確認されたという報告もある(Oishi S. (2002) Food Chem Toxicol. Dec;40(12):1807-13)。本研究室でも雄のメダカにおいて、パラベンによる卵黄タンパクの前駆物質であるvitellogeninの誘導が確認されている(Inui M, et al. (2003) Toxicology. Dec 15;194(1-2):43-50)。
【0007】
近年、バイオテクノロジーを用いて環境修復を行ったり、微生物の機能を利用して汚染物質を分解・無害化するという、いわゆるバイオレメディエーション(Bioremediation)という技術が産業レベルで取り入れられてきている。バイオレメディエーションは従来の物理的・化学的な処理法と比べ、(1)汚染物質そのものを分解してしまう根本的な解決策となる、(2)汚染土壌を掘り出すことなく原位置での汚染処理が可能、(3)広範囲に拡散した低濃度の汚染にも対応できる、(4)コストが安いなどの利点もつ。最近、日本においてはバイオレメディエーション技術の実際の汚染現場への適用が試みられ、米国においては多くの企業で実用化が計られてきている。このような状況の中で、1985年に白色腐朽菌の難分解性化合物の分解能が発見されて以来、担子菌類が特に注目を浴びるようになった(Bumpus JA, et al. (1985) Science. Jun 21;228(4706):1434-6;キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 編著 宍戸和夫 株式会社アイピーシー)。
【0008】
担子菌類とは有性胞子を形成する場所が子実体で、この子実体が大きく肉眼で認められる菌類のことを指す。栄養の観点からみると、共生菌、寄生菌、腐生菌に大別され、難分解性物質の分解において最も注目されているのは腐生菌、特に木材腐朽菌である。腐生菌は枯れ木や落ち葉などを養分として生長し、自らが分泌した加水分解酵素によって枯れ木などを分解、消化、吸収する(きのこの生化学と利用 寺下隆夫 編著 応用技術出版)。そのうちの木材腐朽菌は褐色腐朽菌と白色腐朽菌に大別され、褐色腐朽菌はセルロースとヘミセルロースを同程度分解するが、難分解性高分子芳香族化合物であるリグニンを完全に分解することはない。一方、シイタケ、シメジ、エリンギ等に代表される白色腐朽菌は、それに加えてリグニンをも同時に分解する。
【0009】
芳香族化合物を分解するという特性を利用して、Polyporus brumalisによるフタル酸ジブチルの分解(Lee SM, et al. (2007) Biotechnol Bioeng. Jan 12)等、様々な難分解性芳香族化合物の分解が試みられている。特に最近、注目されているのは芳香環をもち、環境中で生態系に悪影響を与え得る環境ホルモン物質の分解である。既にCoriolopsis polyzona によってノニフェノール 、ビスフェノール Aのエストロゲン活性が除去されるということが報告されており(Cabana H, et al. (2006) Chemosphere. Nov 29)、ますます白色腐朽菌は注目を集めている。
【0010】
【非特許文献1】Elder R.L. (1984), J Am Coll Toxicol:3:147-209
【非特許文献2】S.C.Rastogi, et al. (1995) Contact Dermatitis. Jan;32(1):28-30
【非特許文献3】Mowad CM. (2000), Am J Contact Dermat. Mar;11(1):53-6. Review
【非特許文献4】Byford JR, et al, (2002) J Steroid Biochem Mol Biol. Jan;80(1):49-60.
【非特許文献5】Okubo T, et al, (2001) Food Chem Toxicol. Dec;39(12):1225-32
【非特許文献6】Routledge EJ, et al. (1998) Toxicol Appl Pharmacol. Nov;153(1):12-9
【非特許文献7】Blair RM, et al. (2000) Toxicol Sci. Mar;54(1):138-53
【非特許文献8】Satoh K, et al. (2000) Yakugaku Zasshi. Dec;120(12):1429-33
【非特許文献9】Farinati F, et al. (2002) Mol Cell Endocrinol. Jul 31;193(1-2):85-8
【0011】
【非特許文献10】Pedersen KL, et al. (2000) Pharmacol Toxicol. Mar;86(3):110-3
【非特許文献11】Oishi S. (2002) Food Chem Toxicol. Dec;40(12):1807-13
【非特許文献12】Inui M, et al. (2003) Toxicology. Dec 15;194(1-2):43-50
【非特許文献13】Bumpus JA, et al. (1985) Science. Jun 21;228(4706):1434-6
【非特許文献14】キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 編著 宍戸和夫 株式会社アイピーシー
【非特許文献15】きのこの生化学と利用 寺下隆夫 編著 応用技術出版
【非特許文献16】Lee SM, et al. (2007) Biotechnol Bioeng. Jan 12
【非特許文献17】Cabana H, et al. (2006) Chemosphere. Nov 29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、環境ホルモン作用を示し、環境中に大量且つ広範囲に存在する可能性のあるパラベンを分解、除去するために有用な、白色腐朽菌由来の酵素を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質が上記の作用を有することを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明は、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質:
(1)作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;
(2)最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;
(3)pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;
(4)阻害剤の影響:10mMのL−システインによりほぼ完全に阻害されれ、10mMのEDTAにより阻害される;
(5)分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである;
を有する酵素蛋白質を提供する。
【0014】
本発明はまた、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)を培養し、その培養物から上記の酵素蛋白質を採取することを特徴とする、上記酵素蛋白質の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記の酵素蛋白質をプロピルパラベンに作用させることを特徴とする、プロピルパラベンの減少方法を提供する。
本発明は更に、上記の酵素蛋白質を、プロパノール以外の低級アルコールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、当該低級アルコールに対応するアルキルパラベンの製造方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記の酵素蛋白質を、エタノール又はメタノールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、それぞれエチルパラベン又はメチルパラベンの製造方法を提供する。
本発明は更に、上記の酵素蛋白質を、低級アルキルパラベンに作用させるとを特徴とする、p−ヒドロキシ安息香酸の製造方法を提供する。前記低級アルキルパラベンは、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン又はプロピルパラベンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
生産菌
プロピルパラベンを分解する能力を有する微生物としては、例えば、コプリヌス・フリクチドスポルス(Coprinus phlyctidosporus)、アガリクス・ブラゼイ(Agaricus blazei)、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)、コリオルス・ベルシコラー(Coriorus versicolor)などが挙げられるが、プロピルパラベンによる誘導条件下で高いプロピルパラベン分解能を有する微生物とし、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)が特に好ましい。具体的には、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)が挙げられる。
【0017】
具体的には、アウリクラリア(Auricularia)属、例えばアウリクラリア・アウリクラ(Auricularia auricula)種、例えばATCC 62496、ATCC 62508及びATCC 62509株;アウリクラリア・アウリクラ−ジュダ(Auricularia auricula-judae)種、例えばNBRC 4900、NBRC 5949及びNBRC 100150株;アウリクラリア・メセンテリカ(Auricularia mesenterica)種、例えばNBRC 9613株;アウリクラリア・ポリトリカ(Auricularia polytricha)種、例えばNBRC 30778、NBRC 3239、 ATCC 22079、ATCC 52851、ATCC 52923、ATCC 62444及びATCC 62513株;アウリクラリア・フスコサクシネア(Auricularia fuscosuccinea)種、例えばATCC 200733、ATCC 200734及びATCC 200735;アウリクラリア・アウリクラリア(Auricularia auricularia)(別名アウリクラリア・アウリクラ)ATCC 36636;ヒルネオラ・アウリクラ−ジュダ(Hiruneola auricula-judae)種(別名アウリクラリア・アウリクラ) ATCC 52490等を用いることができる。
【0018】
培養、酵素の精製及び性質
生産微生物の培養、培養物からの酵素の単離・精製、酵素の性質などについては、以下の実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1. パラベン分解酵素の単離・精製
培養
ジャガイモはよく洗い、皮を剥いて約7 mm四方の大きさに切り、30〜60分おだやかに煮、煮汁をガーゼでこし出した。グルコース20 gを加え、pH を6.0にあわせ、1 lにフィルアップした後、20 mlずつ100 ml三角フラスコに分注した。分注後、綿栓をし、121℃、15分でオートクレーブした。なお、プロピルパラベン添加によってパラベン分解酵素の発現が誘導されるため、グルコース添加後、培地中のプロピルパラベンが0.01%となるようにプロピルパラベンをPD培地に添加した。
上記の培地に、白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)例えばATCC 62496をはじめとするキクラゲを接種し、25℃にて約20日間、静置培養した。
【0020】
フィルターろ過
アスピレーターと漏斗を用いてキクラゲの培養上清と菌糸体を分離し、その後さらに、メンブレンフィルター(pore size 0.45 μm)を用い、培養上清中に存在する菌糸体を完全に除いた。
【0021】
培養上清の濃縮
メンブレンフィルターによって菌糸体が除かれた培養上清を、使用前に煮沸し不純物を取り除いた透析用セルロースチューブに入れ、タッパー上で膜の上に直接PEG#6,000をふりかけ、体積が1/10になるまで濃縮した。濃縮後、チューブ内の液を回収し、冷蔵庫に保存した。チューブの内側もよくトリス-HCl バッファー(pH 7.0)で洗い、回収した。最終的に得られた溶液を粗酵素として、以降の実験を行った。
【0022】
DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィー
樹脂(80 ml)をカラムクロマト管(φ2.5×18 cm)に詰め、20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)500 mlで樹脂を平衡化した。その後PEGによる濃縮で得られた粗酵素をカラムに供し、20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)で吸光度A280が0.05以下となるまで洗浄し、0から1 MのNaCl濃度勾配をかけた20 mM トリス-HCl バッファー(pH 7.0)400 mlで溶出を行った。得られたフラクション5 ml×80本のA280を測定した。またそれぞれのフラクションについて、下記の条件でプロピルパラベン分解活性を調べた。
【0023】
50 mM トリス-HCl 緩衝液(pH 7.0) 1500 μl、サンプル 50 μl、及びプロピルパラベン(メタノール中2.5 mg/ml) 50 μl の反応混合物を、37℃にて24時間反応させ、HPLCで分析した。HPLC分析条件は、溶離液:アセトニトリル/水=50/50、流速:1.0 ml/分、温度:40℃、検出:UV 254 nm、サンプル量:10.0 μlとした。結果を、図1に示す。活性の見られたフラクション21〜24を回収し、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーに付した。
【0024】
Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィー
樹脂(11 ml)をカラムクロマト管(φ1.6×13.3 cm)に詰め、20 mM トリス-HCl緩衝液(pH 7.0)に、1 Mになるよう (NH4)2SO4を入れたもの100 mlで樹脂を平衡化した。その後試料をカラムに供し、1から0 Mの(NH4)2SO4濃度勾配をかけた20 mM トリス-HCl緩衝液(pH 7.0)60 mlで溶出を行った。1mlずつのフラクション60本を得、それらのA280を測定した。またそれぞれのフラクションについて、前記のようにしてプロピルパラベン分解活性を調べた。結果を、図2に示す。比較的活性の高いフラクション50〜57を回収し、Superdex 75に供するサンプルとした。
【0025】
Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィー
Superdex 75 10/300 GLを、フィルターろ過し、脱気したミリQ水で洗浄し、0.2 M NaCl を含む20 mM KH2PO4/NaOH バッファー (pH 7.0) で平衡化した。その後、試料約7 mlをAmicon Ultra-15を用いて1/10量に限外ろ過濃縮し、カラムに供し、同バッファーで溶出した。得られたフラクションのA280を測定し、前記のようにしてプロピルパラベン分解活性を調べた。結果を、図3に示す。溶出の結果、大きなピークが一つ検出された。活性とA280のピークが同じフラクションに見られた。また、A280の値から、タンパク量は非常に少ないと考えられるので、さらにmicroconを用いて5倍に濃縮し、SDS-PAGEに供した。
【0026】
SDS-PAGE
以下のようにSDS用ゲルを調製した。分離ゲルを次のようにして調製した。1枚当り、30%アクリルアミド:3.75 ml、蒸留水:2.145 ml、1.875 M トリス-HCl (pH 8.8)緩衝液:1.5 ml、10% SDS:75 μl、及び過硫酸アンモニウム:45 μlの混合溶液を脱気し、TEMEDを7 μl加え、よく混合し、ガラスプレートに注ぎ込んだ。ゲルが固まるのを待った。濃縮ゲルは次のようにして調製した。30%アクリルアミド:0.83 ml、蒸留水:3.6 ml、0.6 M トリス-HCl (pH 6.8)緩衝液:0.5 ml、10% SDS:50 μl及び過硫酸アンモニウム:40 μlの混合溶液を脱気し、TEMEDを6 μl加え、よく混合して濃縮ゲルとし、前記の分離ゲルの上に注ぎ込んだ。濃縮ゲルにコームを差しゲルが固まるのを待った。
【0027】
サンプルに、4倍量のサンプル緩衝液と、全量の10%分のメルカプトエタノールを加え、100℃で3分間ボイルした。サンプルをゲル上にアプライし、300 V、20 mAで約1時間泳動した後、ゲルをCBB染色し、10%酢酸で脱色した。
結果を図4に示す。1の濃縮した培養上清でもタンパク量は非常に少なかったが、各ステップを経た2のSuperdex75のフラクション17-18では約60 kDaの位置に主だったバンドが確認された。しかし、非特異なバンドも2〜3、確認された。SDS-PAGEの結果から、目的酵素の分子量は約60 kDaである。
【0028】
タンパク定量
クーマシーブリリアントブルー(CBB)法(Bradfold M. (1976) Anal Biochem 72: 248-254)によって、培地に含まれるタンパク質量を測定した。まず、乾燥した試験管にBSA(1 mg/ml)を0、2、4、6、8、10 μlそれぞれ入れた。サンプルも同様に試験管に50、100、200 μlずつそれぞれ入れた。各試験管に2 mlのCBB溶液を加え、室温で20分放置した後、595 nmの吸光度を測定し、BSA検量線からサンプルのタンパク量を計算した。
【0029】
精製過程と収率
前記の工程の結果をまとめると、下記のとおりであった。比活性は約17倍となった。
【表1】
【0030】
実施例2. 酵素の諸性質
最適pH
pH 1.0からpH 11.0の範囲の緩衝液1.5 mlに0.625 mg/mlのプロピルパラベンを50 μl加え、これに酵素液50 μlを加えたものを37℃で17時間インキュベートした後、HPLCによってプロピルパラベン減少率を分析した。使用した緩衝液は以下のとおりである。
pH 1.0−pH 4.0 50 mM CH3COONa/HCl緩衝液
pH 4.0−pH 6.0 50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液
pH 6.0−pH 8.0 50 mM KH2PO4/NaOH緩衝液
pH 8.0−pH 9.0 50 mM トリス-HCl緩衝液
pH 9.0−pH 11.0 50 mM グリシン-NaOH緩衝液
【0031】
結果を図5に示す。各pHのバッファーを用いて活性を調べたところ、CH3COONa/CH3COOH緩衝液、KH2PO4/NaOH緩衝液の各pHが 6.0の時、プロピルパラベンの減少率が最も高かった。酸性側ではpH 3.0、アルカリ側ではpH 8.0を超えると、減少率は50%を下回るようになった。弱酸性で最も活性を示す酵素といえる。また、アルカリ側ではKH2PO4/NaOH緩衝液のpH 8.0の時とトリス-HCl緩衝液のpH 8.0、トリス-HCl緩衝液のpH 9.0の時とグリシン-NaOH緩衝液のpH 9.0とでは20%以上減少率が違った。このことから、本酵素の最適pHは6.0であり、また、その活性はバッファーの種類によっても影響を受けるということが示唆された。
【0032】
pH安定性
酵素液50 μlと各種pHの緩衝液200 μlを混合し、37℃で20分間インキュベートした。この混合液にpH 7.0の50 mM トリス-HCl緩衝液 1.5 mlと0.625 mg/ml プロピルパラベン50 μlを加え、37℃で17時間インキュベートした後、反応液中のプロピルパラベンをHPLC分析し、プロピルパラベンの減少率を調べた。使用した緩衝液は以下のとおりである。
pH 1.0−pH 4.0 50 mM CH3COONa/HCl緩衝液
pH 4.0−pH 6.0 50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液
pH 6.0−pH 8.0 50 mM KH2PO4/NaOH緩衝液
pH 8.0−pH 9.0 50 mM トリス-HCl緩衝液
pH 9.0−pH 11.0 50 mM グリシン-NaOH緩衝液
【0033】
結果を図6に示す。酵素を各pH緩衝液で処理した後、pH 7.0で基質と反応させたときの活性を示している。図6からもわかるように、pH安定性はpH 4.0〜8.0付近で比較的安定であった。pH 3.0で約70%の活性があり、pH 9.0でも約60%〜90%の活性があった。このことから、このプロピルパラベン分解酵素pH 4.0から8.0の範囲において幅広いpH安定性をもつということが言える。また、pH安定性測定の際、最も安定性が高かったのはバッファーのpHが 5.0のときである。図5及び図6の両方から言えることは、比較的、弱酸性の条件で活性が高く、安定であるということである。
【0034】
活性阻害剤
50 mM CH3COONa/CH3COOH緩衝液(pH 6.0) 1.5 mlに0.625 mg/ml プロピルパラベン 50 μl加え、これにアジ化ナトリウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTT (ジチオスレイトール) 、L-システインを1 mM、10 mMとなるように加えたものと、何も加えていないものをそれぞれ用意し、酵素液50 μl加えた後、37℃で17時間インキュベートした。その後、HPLCによってプロピルパラベンの減少率を比較した。結果を、図7及び図8に示す。
【0035】
用いた阻害剤はアジ化ナトリウム、EDTA、L-システイン、DTTである。Fig. 8-aは阻害剤の濃度を1 mMに設定したときの、図7及び図8は阻害剤の濃度を10 mMに設定したときの相対活性を示している。アジ化ナトリムに関しては阻害剤の濃度を上げても活性阻害が見られなかった。
【0036】
EDTAでは1 mMの存在下においては、活性が約80%に保持されていたが、10 mMでは活性は約70%に減少した。この実験ではL-システインの影響が最も顕著であった。1 mMの時、活性はほぼ100%保持していたが、10 mMになると活性は急激に減少した。DTTは1 mMのときの活性はほぼ100%であったのに対し、10 mMでは約90%の活性が認められた。プロピルパラベン分解酵素は、活性部位に金属イオンを持つ可能性が非常に高い。
【0037】
実施例3. 本発明の酵素によるプロピルパラベンの分解産物の単離と同定
酵素分解
50 mM トリス-HCl (pH 7.0) 1500 μl、プロピルパラベン (メタノール中10 mg/ml) 50 μl ×6本、及び酵素液 50 μl を混合し、37℃にて2週間反応させ、HPLCにより生成物を観察した。上記の反応系でプロピルパラベンのピーク (保持時間:6.9)が見られなくなるまでインキュベートした。
【0038】
上記の反応溶液を、分取用カラム(関東化学のMightysil RP-18 GP 250-10 )に2 ml注入した。注入の約2分及び4分後に現れる分解産物のピークが出現する流出液のみを試験管に採取した。この作業を数回繰り返し、GC/MSで確認できる量を獲得した。分取したサンプル中の有機溶媒を完全に飛ばすため、10時間ほど遠心濃縮(遠心濃縮機:タイテック株式会社製VC-12S)した。濃縮したサンプルに、pH 1.0になるまで、ユニバーサル試験紙で確認しながら1N HClを添加した。1 N HClでpH調整後、サンプルと等量の酢酸エチルを加え、激しく混合し、1時間ほど静置後、上清を回収した。この過程を2〜3度繰り返し、上清を集めた。上清回収後、無水硫酸ナトリウムを適量添加し、1〜2時間静置することで上清中に含まれる水を完全に除去した。水を除去した後はエバポレーターで濃縮乾固し、白色固形の分解産物を得た。
【0039】
GC/MSによる反応生成物の同定
(1)GC-MS分析
サンプルを、アセトン1 mlに溶解し、そこから0.5 mlをスクリューバイヤルに移した。アセトンを気化させた後、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド50 μlおよびピリジン50 μl加え、90℃で10分間加熱しTMS化した。装置は島津製作所製GC-17A/GCMS-QP5050Aを用いた。測定条件は以下の通りであった。カラム:RESTEC Rtx-5MS 30m×0.25mm i.d.、注入口温度:250℃、検出器温度:250℃、気化室温度:初発温度50度(5分間保持)・昇温速度10℃/分・最終温度230度(5分間保持)、キャリヤーガス:He、流速:30mm/分、検出器:EI。
【0040】
結果を、図9に示す。GC/MSの結果から、プロピルパラベンの最初の分解産物(1)はメチルパラベンであるということがわかった。さらに(2)の最終分解産物はp-ヒドロキシ安息香酸であった。市販品の化合物と比較した結果、保持時間、及び質量分析パターンの何れも一致した。この実験から、プロピルパラベンは、メチルパラベンを経由して最終的にp-ヒドロキシ安息香酸にまで分解されることがわかった。
【0041】
ここで、(1)プロピルパラベンがp-ヒドロキシ安息香酸のエステルであること、及び(2)今回の実験系では、プロピルパラベンをメタノールに溶解していること、に注目した。一般に、エステルとアルコールが共存するとエステル交換反応が起こると言われている。しかし、本実験において、プロピルパラベンとメタノールのみを混合しただけでは、置換反応は起こらなかった。そこで、本酵素によって、プロピルパラベンとメタノールの間でのエステル交換反応が促進されていることが予想される。このことは、実施例4において確認された。
【0042】
実施例4. プロピルパラベン分解酵素における分解機構の解明
実施例4の結果より、本酵素によって、プロピルパラベンがメチルパラベンを経由した後、p-ヒドロキシ安息香酸に分解されるという結果が得られた。そこで、プロピルパラベンの分解過程における本酵素の作用をより詳細に検討するため、実施例4では、分解過程における各物質の量的変化、本酵素の基質への作用様式について調べた。
【0043】
メチルパラベンとプロピルパラベンの量的変化
実施例3で、反応中間産物としてメチルパラベンが生成するということがわかったので、プロピルパラベンとメチルパラベンについて検量線を作製し、時間の経過に伴う各物質の量的変化を調べた。メチルパラベン、プロピルパラベンをメタノールに溶解させ、10〜100 μM内で検量線を作製した。メチルパラベン、プロピルパラベンをメタノールに溶解させ、10〜100 μM内で検量線を作製した。反応系として、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (メタノール中0.625 mg/ml):50 μl、及び酵素液:50 μlの混合物を37℃でインキュベートした。酵素反応開始直後から順次、10 μlずつ採取し、実施例1に記載したHPLC測定条件で反応系中の各物質の濃度を測定した。
【0044】
結果を、図10に示す。図10、はプロピルパラベン量とメチルパラベン量の経時変化について示したものである。酵素反応開始直後ではプロピルパラベンは214 nmol存在したが、酵素反応開始から20時間で、100 nmolにまで減少した。その後、時間の経過と共にプロピルパラベン量は減少していくが、減少率(グラフの勾配)は序々に低下していった。対してメチルパラベンにおいては、酵素反応開始直後では0 nmolであったが、反応開始から20時間後には40 nmol生成していた。その後、60時間を経過するまではゆるやかに増加し、60 nmolに達した後、緩やかに減少していった。
【0045】
図には100時間後までしか示していないが、メチルパラベンは、その後さらに緩やかに減少し、最終的には限りなく0 nmolに近い値となった。また、データには示していないが、メチルパラベン量が増加している際に、後に生成されるp-ヒドロキシ安息香酸量の生成、増加が確認された。この結果より、プロピルパラベンからメチルパラベンに分解されたものは、順次、p-ヒドロキシ安息香酸に分解されていくということが予想される。
【0046】
アルコールとプロピルパラベン分解酵素の関係
本酵素は、パラベンとパラベンを溶解しているアルコールのエステル交換反応を促進する可能性があると考えられるため、プロピルパラベンの溶媒を、(a)他のアルコール溶液、及び(b)非アルコール溶液に変更してプロピルパラベンの分解の様子を調べた。(a)のアルコール溶液にはエタノールを用い、(b)の非アルコール溶液にはDMF (ジメチルホルムアミド)を用いた。
【0047】
(a)の反応系として、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (エタノール中0.625 mg/ml):50 μl及び酵素液:50 μlの混合物を用い、(b)の非アルコール溶液での反応系としては、50 mM 酢酸緩衝液(pH 6.0):1500 μl、プロピルパラベン (DMF中0.625 mg/mlF):50 μl及び酵素液:50 μlの混合物を用い、これらを37℃でインキュベートし、実施例1に記載したのと同様のHPLC分析条件でHPLCチャートにおける分解産物のピークをこれまでの実験の結果と比較した。
【0048】
(a)において、他のアルコールをプロピルパラベンの溶媒として用いた酵素反応の結果、分解産物のピークはHPLCの保持時間: 4.1(メチルパラベン)の位置には出現せず、保持時間: 5.0のピークが出現した。このピークはエチルパラベンのピークの位置とほぼ同じ保持時間であった。
(b)において、非アルコール溶液DMFを、プロピルパラベンの溶媒として用いて行った酵素反応の結果、プロピルパラベンは分解されなかった。しかし、この反応系にアルコール(ここではメタノール)を添加すると、プロピルパラベンは分解され、分解産物のピークはretention time; 4.1の位置に確認された。
【0049】
この実験結果から、本酵素はプロピルパラベンのエステルとアルコールのエステル交換反応を触媒するという可能性が示唆された。(b)においてDMFを用いた実験の結果との比較から、(a)における保持時間: 5.0の物質はエチルパラベンであると推測される。また、DMFを溶媒として用いても、アルコールを添加すると反応が進むということから、本酵素はDMFによる多少の活性の低下は考えられるものの、失活の可能性は低いことが示唆される。
【0050】
実施例5. プロピルパラベンと分解産物の女性ホルモン様作用の比較
蒸留水:1,500 μl、プロピルパラベン (メタノール中10 mg/ml):50 μl 及び酵素液:50 μlの反応系を作製し、プロピルパラベン分解産物を得た。コントロールには酵素の代わりに蒸留水を添加した。反応液をHPLCでプロピルパラベンのピークが見られなくなるまで37℃で培養し、−80℃で保存した。アッセイ直前に凍結乾燥し、乾燥後、析出した白色の分解産物をDMSO(ジメチルスルホキシド) 100 μlに溶かし、女性ホルモン様物質アッセイ用のサンプルとした。
【0051】
サンプル調製後、下記に示すYeast Assay ER試験法により、プロピルパラベンと分解産物のエストロゲン様活性を測定した。
Yeast Assay ER試験法
菌の培養
増殖培地 10 ml及び菌体ER 25 μlを、30℃にて、振盪培養(OD 600が2.0程度になるまで)した。
【0052】
Assay 1日目
増殖培地:50 ml、CPRG:0.5 ml及び培養菌液:0.4 mlを培養した。
96穴プレートにβ-17 -エストラジオール、またはブランク(EtOH)10 μlを3列ずつ入れ、EtOHを乾燥させた。サンプル1 μlを3列ずつ入れ、希釈した上記菌液200 μlを分注した。外周に蒸留水を敷き詰め、蓋をし、オートクレーブテープを巻いた。プレートを、30℃にて一夜、穏やかに振盪培養した。
【0053】
Assay 2日目
プレートを恒温槽から出し、培養液をよくピペッティングした後、OD 540 nmを測定した。蓋をし、オートクレーブテープを巻き、再び30℃にて一夜、振盪培養をした。3日目以降、同様に測定を繰り返した。
【0054】
なお、培地組成は、次のとおりであった。
増殖培地 1 M グルコース:5 ml、L-アスパラギン酸溶液:25 ml、ビタミン溶液(1):0.5 ml、L-トレオニン溶液:0.4 ml、硫酸銅(II)溶液:125 μl、及び最少培地(2):45 ml。
ビタミン溶液(1) チアミン8 mg、ピリドキシン8 mg、パントテン酸8 mg、イのシロール40 mg、ビオチン溶液(2 mg/100 ml 蒸留水)20 mg、及び180 ml 蒸留水。蒸留水でフィルアップした溶液を0.2 μm フィルターを用いてフィルター滅菌し、4℃で保存した。
【0055】
最少培地(2) KH2PO4 13.61 g、(NH4)2SO4 1.98 g、KOH 4.2 g、MgSO4 0.2 g、Fe2(SO4)3 溶液(0.8 mg/ml 蒸留水)1 ml、L-ロイシン 50 mg、L-ヒスチジン 50 mg、アデニン 50 mg、L-アルギニン-HCl 20 mg、L-メチオニン 20 mg、L-チロシン 30 mg、L-イソロイシン 30 mg、L-リジン-HCl 30 mg、L-フェニルアラニン 25 mg、L-グルタミン酸 100 mg、L-バリン 150 mg、L-セリン 375 mg、及び180 ml 蒸留水。蒸留水でフィルアップした後、加熱溶解し、オートクレーブ滅菌後、室温保存した。
【0056】
酵母によるエストロゲン活性の測定の結果、プロピルパラベン分解産物はエストロゲン活性を持たないということがわかった。エストラジオールのエストロゲン活性を1とすると、プロピルパラベンのエストロゲン活性は1/50,000〜1/100,000である。実験の結果、ブランクのプロピルパラベンのβ-17エストラジオール換算濃度は880 nMであるのに対し、反応後の分解産物はわずか1 nMであった。これはプロピルパラベンの有するエストロゲン活性が分解されることによって減少したということを示している。分解によって得られた分解産物のエストロゲン活性は、プロピルパラベンの約1/1000であったということから、キクラゲ由来パラベン分解酵素によって、プロピルパラベンの分解に伴い、エストロゲン活性も減少するという結論に至った。結果を図11に示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィーによる分離の結果を示す図である。
【図2】図2は、DEAE-TOYOPEARLによるイオン交換クロマトグラフィーにより分離された活性フラクションについて、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーによる分離の結果をしめす図である。
【図3】図3は、Phenyl-TOYOPEARLによる疎水クロマトグラフィーにより分離された活性フラクションについて、Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィーによる分離の結果を示す図である。
【図4】図4は、Superdex 75によるゲルろ過クロマトグラフィーにより分離さらた活性フラクションについて、SDS-PAGEの結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の酵素の最適pHを示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の酵素のpH安定性を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の酵素に対する阻害剤の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の酵素に対する阻害剤の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の酵素による分解生成物の同定を示す図である。
【図10】図10は、本発明の酵素によるプロピルパラベンからメチルパラベンへの経時変化を示す。
【図11】図11は、本発明の酵素による分解産物のエストロゲン活性を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質:
(1)作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;
(2)最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;
(3)pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;
(4)阻害剤の影響:10mMのL−システインによりほぼ完全に阻害されれ、10mMのEDTAにより阻害される;
(5)分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである;
を有する酵素蛋白質。
【請求項2】
白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)を培養し、その培養物から請求項1に記載の酵素蛋白質を採取することを特徴とする、請求項1に記載の酵素蛋白質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酵素蛋白質をプロピルパラベンに作用させることを特徴とする、プロピルパラベンの減少方法。
【請求項4】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、プロパノール以外の低級アルコールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、当該低級アルコールに対応するアルキルパラベンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、エタノール又はメタノールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、それぞれエチルパラベン又はメチルパラベンの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、低級アルキルパラベンに作用させるとを特徴とする、p−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項7】
前記低級アルキルパラベンが、メチルパラベン、エチルパラベン又はプロピルパラベンである、請求項6に記載の方法。
【請求項1】
白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)由来の酵素蛋白質であって、下記の性質:
(1)作用:メタノール又はエタノールの存在下でプロピルパラベン(Propylparaben)に作用して、それぞれエチルパラベン(Ethylparaben)又はメチルパラベン(Methylparaben)、及びp−ヒドロキシ安息香酸を生成する;
(2)最適pH:37℃で測定した最適pHは約6である;
(3)pH安定性:各種pHにおいて37℃にて20分間インキュベートした場合に、pH4〜8の間で安定である;
(4)阻害剤の影響:10mMのL−システインによりほぼ完全に阻害されれ、10mMのEDTAにより阻害される;
(5)分子量:SDS-PAGEにより測定した分子量が約60kDaである;
を有する酵素蛋白質。
【請求項2】
白色腐朽菌キクラゲ(Auricularia auricula)を培養し、その培養物から請求項1に記載の酵素蛋白質を採取することを特徴とする、請求項1に記載の酵素蛋白質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酵素蛋白質をプロピルパラベンに作用させることを特徴とする、プロピルパラベンの減少方法。
【請求項4】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、プロパノール以外の低級アルコールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、当該低級アルコールに対応するアルキルパラベンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、エタノール又はメタノールの存在下で、プロピルパラベンに作用させることを特徴とする、それぞれエチルパラベン又はメチルパラベンの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の酵素蛋白質を、低級アルキルパラベンに作用させるとを特徴とする、p−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項7】
前記低級アルキルパラベンが、メチルパラベン、エチルパラベン又はプロピルパラベンである、請求項6に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2009−60806(P2009−60806A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229228(P2007−229228)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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