説明

アルキルホスホコリンの液状医薬製剤及びその製造方法

本発明は、活性成分であるアルキルホスホコリン及び共溶媒系を含有する液状医薬製剤に関する。共溶媒系はヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び水の混合物である。必要に応じてpH調整剤の添加により医薬製剤のpHを4〜6の範囲にしてもよい。該組成物は良好な保存安定性を呈し、身体の種々の器官への局所適用に好適である。本発明はこの医薬製剤の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は局所適用のためのアルキルホスホコリンを含有する液状医薬製剤に関する。本発明は該組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルホスホコリン類は医薬成分として知られる。それらは、鎖長、不飽和度およびシス二重結合の位置が異なる脂肪族長鎖アルコール類のホスホコリンエステルである。これらの化合物は、その優れた抗腫瘍性および抗原虫性とともに、欧州特許出願EP0108565に記載されている。それらの最も重要で治療的に意味のある性質は、主として乳癌に対して化学的に誘導される抗腫瘍性であり、そのことは実験的に(Hilgard et al.1993;Zeisig et al.1991,1993)、および臨床的に(Unger and Eibl 1991;Dummer etal.1993)証明されている。この種の薬剤の代表例はヘキサデシルホスホコリンである。それは乳癌の皮膚転移の治療においてすでに臨床的に適用されてきた。
【0003】
細胞毒性薬の液状医薬製剤による皮膚転移の局所的な治療が公知である。この適用は自己投与が容易であり主たる浸透障害が無いことから魅力的である。アルキルホスホコリン類、特にヘキサデシルホスホコリンは細胞膜リン脂質での作用により細胞毒性を発現し、局所適用が可能であることが知られている。欧州特許第EP0534445には、原虫症、特にリーシュマニア症の治療に好適な、活性成分として任意の周知のアルキルホスホコリン類を含有する局所適用のための液状医薬が開示されている。
【0004】
欧州特許第EP0248047による保護の対象は、腫瘍の治療効果がある、活性化合物のヘキサデシルホスホコリンによる局所適用に好適な医薬である。この発明による組成物には、ヘキサデシルホスホコリン、ならびに、溶媒−3つのアルキルグリセロールエーテル、即ち、より低級、中級及びより高級のものの混合水溶液を含有する混合物(カスケードとも呼ばれる。)が含まれ、より低級のエーテルの重量含量は残りの2つのエーテルおよび任意に含まれるフェノキシエタノールの重量含量の合計とほぼ等しい。
【0005】
20〜120℃の温度にて3つのアルキルグリセロールエーテルと、水と、任意的にはフェノキシエタノールとの混合物中にヘキサデシルホスホコリンを溶解することにより薬剤が調製される。得られる溶液は遊離である。
【0006】
欧州特許第EP0593897にはアルキルホスホコリン類の安定化された溶液が開示されている。発明者、Engleらは、アルキルホスホン酸類共存のアルキルグリセロールエーテル類の液状医薬製剤は保存安定性を欠くと示唆している。彼らは酸化過程により過酸化物をもたらし、それにより酸が導かれ、それ故、さらなる分解によるpHの低下を引き起こすことを発見している。したがって、この発明者らはpH5.3のバッファを用いて溶液の安定性を高めている。好適なバッファはクエン酸塩緩衝剤である。アルキルホスホコリン類の最終的な溶液はpHが4〜6である。
【0007】
アルキルホスホコリン類の安定化した溶液の製法は2つのステップからなる。当該製法の第1のステップにおいて、pH値が5.3のバッファ水溶液が調製される。当該製法の第2のステップにおいて、得られたバッファ溶液をグリセロールエーテルと水との混合物に溶解したアルキルホスホコリンと混合する。窒素ガス処理により均一な溶液が得られ、ろ過をしてボトルに注入される。
【0008】
この組成物における欠点は、溶媒であるアルキルグリセロールエーテル類が薬局方に記載されておらず、市場にて入手可能ではなく、溶液の追加的な安定化が必要であり、そのために製造プロセスの実施が複雑になることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第EP0534445号明細書
【特許文献2】欧州特許第EP0248047号明細書
【特許文献3】欧州特許第EP0593897号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明は、アルキルホスホコリン類の局所適用に好適な液状医薬溶液に関する。この組成物には活性成分として0.5〜300mg/mlのアルキルホスホコリン、共溶媒系が含有される。本発明で用いられる、この共溶媒系はヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び水の混合物である。必要であれば、得られた溶液を酸性化又はアルカリ化してpH4〜6にする。
【0011】
本発明で用いられる、この共溶媒系は2〜50%v/vのヘキシレングリコール、40〜46%v/vのプロピレングリコール、2〜25%v/vのジエチレングリコールモノエチルエーテルおよび10〜50%v/vの水を含有する。
【0012】
本発明の好適態様によれば、この共溶媒系は22%v/vのヘキシレングリコール、44%v/vのプロピレングリコール、2%v/vのジエチレングリコールモノエチルエーテル及び32%v/vの水を含有する。
【0013】
アルキルホスホコリン類は水、エタノール及びメタノールに可溶であるが、正確な文献データはない。我々の知見により、局所適用可能な医薬プロダクトにとって必要な濃度および品質をもつクリアな溶液を得るために、ある特定の溶媒に対するアルキルホスホコリン類の溶解性は不十分であることが判明した。さらに、アルキルホスホコリン類の溶解性は共溶媒系において顕著により高くなることも判明した。例えば、グリコール及びグリコールエーテルにおけるアルキルホスホコリン類の溶解性は十分に高い。ヘキシレングリコールノ濃度を高めるにつれてアルキルホスホコリン類の溶解性が高まり、プロピレングリコール−ヘキシレングリコール−水混合物におけるアルキルホスホコリン類の溶解性の向上が認められるヘキシレングリコールが50%のところで最大になる。この結果は、ヘキシレングリコールが22%のところにある系がアルキルホスホコリン類の溶解性を高める、優れた効果を有することを意味している。アルキルホスホコリン類の溶解性の応答は共溶媒混合物におけるプロピレングリコール濃度が40〜60%の範囲において直線的である。
【0014】
共溶媒混合物へトランスクトールPを添加することにより、アルキルホスホコリン類の溶解性が高まり、それはトランスクトールPの濃度に応じたものでありが、これは、共溶解効果によるものであろう。トランスクトールPの作用は可溶化剤であると同時に、活性成分が角質層のバリアを超えられるようにする透過促進剤である。
【0015】
表1に、開示された共溶媒系でのヘキサデシルホスホコリンの改良された溶解性を列挙し、系へのいくつかの補助成分による累積的効果を示す。
【0016】
表1 補助成分による25℃でのヘキサデシルホスホコリンの溶解性への効果
【表1】

【0017】
この実験において試験されたその他のアルキルホスホコリン類について、似たような結果が見出された。
【0018】
本発明によれば、この共溶媒系はアルキルホスホコリン類のよりよい溶解性、良好な抗菌性及び静真菌性、ならびに良好な透過促進剤を呈する溶媒から選択される。したがって、本発明によれば、共溶媒系における溶媒は殺菌性を有しているので、溶液に防腐剤を加える必要はない。
【0019】
本発明の好適態様によれば、液状医薬組成物における活性成分の濃度は60mg/mlである。
【0020】
本発明のさらに別の好適態様によれば、液状医薬用液の活性成分はヘキサデシルホスホコリンである。
【0021】
医薬溶液には、クエン酸三ナトリウム又は無水クエン酸をpH調整剤としてバッチのアルキルホスホコリン成分のpH値に応じて加えてもよい。アルキルホスホコリン類の水溶液の製造において、pHを制限内に維持するための緩衝剤は必要ではない。
【0022】
上述した液状医薬組成物の製造方法を提供することが本発明のさらなる目的である。この製法では、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合物に攪拌してアルキルホスホコリンを溶解させる。得られた溶液のpH値を測定し、必要であれば、pH4〜6へと酸性化又はアルカリ化する。水を加えた後に、得られた溶液を攪拌して、次いで、消泡のために放置する。得られた液状医薬プロダクトをメンブレンフィルターを介してろ過し、得られたろ液を分注する。
【0023】
pH値を4〜6の範囲に調整するためにクエン酸三ナトリウム水溶液又は無水クエン酸水溶液を用いてもよい。
【0024】
本発明による液状医薬製剤の利点は、市場出入手可能な薬局方記載の成分のみを用いて単純な製法によって、保存における物理的、科学的及び微生物学的安定性を備え、良好な浸透効果を備える、アルキルホスホコリンの液状医溶液を製造できることである。
【実施例】
【0025】
以下の実施例によって本発明を説明する:
[実施例1]
局所適用のためのヘキサデシルホスホコリン(INNミルテホシン)60mg/mlの医薬溶液の組成(100ml)は以下のとおりである:
【0026】
【表2】

【0027】
ミルテホシン成分を0.5mmの大きさのスクリーンでフルイにかけ、100mlの目盛り付きフラスコにて42.558gのプロピレングリコール、18.400gのヘキシレングリコール及び1.974gのジエチレングリコールモノエチルエーテルに10分かけて溶解する。得られたミルテホシン溶液のpHを測定する。溶液のpH値は5.5(4.0〜6.0の範囲)とする。100mlの溶液になるまで水を加える。得られたこの溶液を15分間攪拌して、次いで、消泡のために30分間放置する。得られた医薬組成物をポアサイズ0.45μmのメンブレンフィルターを介してろ過する。バルクの溶液を検査して、10mlずつスポイト付き褐色ビンに分注し、保護キャップで栓をする。
【0028】
[実施例2]
局所適用のためのヘキサデシルホスホコリン(INNミルテホシン)60mg/mlの医薬溶液の組成(5l)は以下のとおりである:
【0029】
【表3】

*注:ミルテホシンの量は水分量5.28%で計算する;ミルテホシン溶液の比重は1.008g/mlである。
【0030】
ミルテホシン成分を0.5mmの大きさのスクリーンでフルイにかける。容器(ステンレススチール、Erweka社プラネタリー攪拌機、PRS、容積5リットル)中で、2.1279kgのプロピレングリコール、0.92kgのヘキシレングリコール及び0.0987kgのジエチレングリコールモノエチルエーテルを10分間攪拌する。ミルテホシンをこのグリコール類の混合物中に60分かけて溶解させる。得られたミルテホシン溶液のpHを測定し、1.5760kgの水中の0.0005kgのクエン酸三ナトリウムからなる溶液(4.0〜6.0の範囲)をゆっくり加える。得られたこの溶液を30分間攪拌し、消泡のために30分間放置する。得られた医薬組成物をポアサイズ0.45μmのメンブレンフィルターを介してろ過する。バルクの溶液を検査して、10mlずつスポイト付き褐色ビンに分注し、保護キャップで栓をする。
【0031】
[実施例3]
局所適用のためのヘキサデシルホスホコリン(INNミルテホシン)30mg/mlの医薬溶液の組成(100ml)は以下のとおりである:
【0032】
【表4】

【0033】
この実施例の医薬溶液の製法は上記実施例1と同様である。
【0034】
[実施例4]
局所適用のためのヘキサデシルホスホコリン(INNミルテホシン)120mg/mlの医薬溶液の組成(100ml)は以下のとおりである:
【0035】
【表5】

【0036】
この実施例の医薬溶液の製法は上記実施例1と同様である。
【0037】
[実施例5]
局所適用のためのヘキサデシルホスホコリン(INNミルテホシン)60mg/mlの医薬溶液の組成(100ml)は以下のとおりである:
【0038】
【表6】

【0039】
この実施例の医薬溶液の製法は上記実施例1と同様である。
【0040】
[実施例6]
実施例1の医薬溶液を25°C/60%RHにて12ヶ月間保存、および、40°C/75%RHにて6ヶ月保存の安定性試験に供する分析結果を表7に記載する。
【0041】
表7 ヘキサデシルホスホコリンの医薬溶液の安定性試験の結果
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルホスホコリンと溶媒とからなり、アルキルホスホコリンの濃度が0.5〜300mg/mlであり、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び水の混合物である共溶媒系を溶媒として用い、溶液のpHが4〜6の範囲であることを特徴とする局所適用のための液状医薬製剤。
【請求項2】
共溶媒の混合物が2〜50%v/vのヘキシレングリコール、40〜46%v/vのプロピレングリコール、2〜25%v/vのジエチレングリコールモノエチルエーテルおよび10〜50%v/vの水を含有する請求項1記載の液状医薬製剤。
【請求項3】
共溶媒の混合物が22%v/vのヘキシレングリコール、44%v/vのプロピレングリコール、2%v/vのジエチレングリコールモノエチルエーテルおよび32%v/vの水を含有する請求項1又は2記載の液状医薬製剤。
【請求項4】
アルキルホスホコリンの濃度が60mg/mlである請求項1〜3のいずれか1項記載の液状医薬製剤。
【請求項5】
アルキルホスホコリンがヘキサデシルホスホコリンである請求項1〜4のいずれか1項記載の液状医薬製剤。
【請求項6】
クエン酸三ナトリウム又は無水クエン酸の添加により医薬溶液のpHが4〜6の値に調整されてなる請求項1〜5のいずれか1項記載の液状医薬製剤。
【請求項7】
アルキルホスホコリンを攪拌してプロピレングリコール、ヘキシレングリコールおよびジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合物に溶解し、得られた溶液のpHを測定し、水をこの溶液に添加して攪拌して、その後、消泡させ、次いで、メンブレンフィルターを介して得られた医薬組成物をろ過し、得られたろ液を分注することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の局所適用のための液状医薬製剤の製造方法。
【請求項8】
pH測定の後に、必要に応じて、クエン酸三ナトリウム水溶液又は無水クエン酸水溶液で該溶液を酸性化又はアルカリ化してpH4〜6にする請求項7記載の液状医薬製剤の製造方法。

【公表番号】特表2012−532154(P2012−532154A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518755(P2012−518755)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004984
【国際公開番号】WO2011/003430
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512006549)エキスパーゲン ドラッグ デベロプメント ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】EXPERGEN DRUG DEVELOPMENT GMBH
【住所又は居所原語表記】Hernalser Hauptstrasse 24,A−1170 Vienna Austria
【Fターム(参考)】