説明

アルキレンビスジチオカルバメートを安定化する方法

アルキレンビスジチオカルバメートを安定化する方法であって、アルキレンビスジチオカルバメートを不活性気体に接触させる工程、アルキレンビスジチオカルバメートを脱気する工程、およびアルキレンビスジチオカルバメートを気密容器内にパッケージングする工程を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺真菌剤として有用であるアルキレンビスジチオカルバメート化合物を安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンビスジチオカルバメートは、植物を種々の病気から予防および保護するのに有用であることが見出されている公知の化合物である。これらの化合物は、代表的には、粒子または粉末の形態であり、これは換気用に設計された微小せん孔バッグ、または気密バッグ中にパッケージングされ得る。しかし、このようなジチオカルバメートはまた、不純物または分解の副産物、例えば、エチレンチオ尿素(ETU)(これは、経時的にジチオカルバメートの分解から発生する)を有することが知られている。これらの不純物を軽減するために、安定化剤が添加され、そして/または生成物が真空パッケージングされて分解を防止されてきた。しかし、安定化剤は、費用がかさみ、真空パッケージングは、非常に粒径が小さいために高価な特別な装置を用いて粉末についてのみ用いられ得る。米国特許第5,389,674号は、有効量の湿気を提供して、流動性を顕著に増強させかつ組成物のETU含有量を減少させることによって、増大した安定性を得る方法を開示する。しかし、添加された湿気含有量は、いくらかの分解を引き起こし、そのため有効成分の量を減少させる。したがって、安定性が改善し、副産物のより少ない殺菌性のアルキレンビスジチオカルバメート組成物が引き続き求められている。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、アルキレンビスジチオカルバメートを安定化する方法およびそれにより生産される製品に関し、この方法は、ジチオカルバメートを気密容器内に密封する前に、不活性気体を使用して、ジチオカルバメートを移送し、冷却し、そして脱気する工程を含み、分解および副産物(特にアルキレンチオ尿素)の形成が、有意に減少する。
【0004】
本発明に係るジチオカルバメートは、アルキレンビスジチオカルバメートであり、好ましくは、エチレンビスジチオカルバミン酸(EBDC)金属塩から選択される。好ましいエチレンビスジチオカルバミン酸金属塩は、マンコゼブ(亜鉛とエチレンビスジチオカルバミン酸マンガンとの配位生成物)、マネブ(エチレンビスジチオカルバミン酸マンガン)、メチラム(トリス[アミン[エチレンビス(ジチオカルバミン酸)]亜鉛(II)[テトラヒドロ−1,2,4,7−ジチアジア−ゾシン−3,8−ジチオン]ポリマー)、およびジネブ(エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛)である。
【0005】
本発明の方法は、ジチオカルバメートの任意の固体形態(分散性顆粒、粉塵、粉末処方物などを含む)にとって有用である。
【0006】
1つの実施形態において、ジチオカルバメートは、水和剤の形態であり、これは、凝集して、ジチオカルバメート、不活性希釈剤、および農業的に受容可能な界面活性剤の密な混合物を含む水分散性顆粒を形成し得る。水和剤中のジチオカルバメートの濃度は、水和剤の全重量に基づいて、通常、10重量%〜90重量%であり、より好ましくは、25重量%〜90重量%である。
【0007】
水和剤処方物の調製において、ジチオカルバメートは、機械による粉砕によって微細に分割され、次いで不活性気体および界面活性剤と混合される。水和剤の総重量の0.5重量%〜10重量%を含む有効な界面活性剤は、スルホン化リグニン、ナフタレンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、および非イオン性界面活性剤(例えば、アルキルフェノールのエチレンオキシド付加物)を含む。
【0008】
別の実施形態において、ジチオカルバメートは顆粒処方物であり、これは土壌への適用に特に有用である。顆粒処方物は、通常、担体中に分散したジチオカルバメートの処方物の総重量に対して0.5重量%〜10重量%を含有する。担体は、その全てまたは大部分が粗に分割したアタパルガイド、ベントナイト、珪藻岩、粘土、または同様の高価でない物質からなる。そのような処方物は、通常、ジチオカルバメートを適切な溶媒に分散し、それを0.5〜3mmの範囲の適切な粒径に予め形成しておいた顆粒状の担体に適用することによって調製される。そのような処方物はまた、担体およびジチオカルバメートの練り粉またはペーストを作製し、押し潰して乾燥させて、所望の顆粒状粒子を得ることによって調製され得る。
【0009】
さらに別の実施形態において、ジチオカルバメートは、ジチオカルバメートを含有する粉塵の形態であり得、これは、粉末形態のジチオカルバメートを適切な粉塵状の農業用担体(例えば、カオリン粘土、研磨した火山岩など)と密に混合することによって調製される。粉塵は、適切には、その組み合わせの少なくとも1重量%〜10重量%を含み得る。
【0010】
処方物は、必要に応じて、1つ以上のジチオカルバメートとさらなる殺菌剤化合物とを、その混合物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%含み得る組み合わせを含んでいてもよい。そのようなさらなる殺菌剤化合物は、殺真菌剤(fungicide)、殺虫剤、抗線虫剤、殺ダニ剤、殺節足動物剤(arthropodicide)、殺菌剤(bactericide)、またはこれらの組み合わせであり得、これらは適用のために選択される媒体中で本発明のジチオカルバメートと適合性であり、本発明の化合物の活性に対して拮抗しない。したがって、このような実施形態において、他の化合物が同じかまたは異なる殺虫用途のための補充的毒物として利用される。殺虫剤化合物およびジチオカルバメートは、一般に、1:100〜100:1の重量比で一緒に混合され得る。
【0011】
本発明の方法において、ジチオカルバメートを含有する固体生成物が、パッケージングプロセスに導入され、そこでジチオカルバメートが不活性気体と接触され、不活性気体流を介して移送される。ジチオカルバメートは、代表的には、閉鎖された領域内で不活性気体と接触される。閉鎖された領域は、不活性気体が導入され得、不活性気体の損失が最小限となるように漸増的に濃縮され得る。閉鎖された領域は、例えば、移送用のパイプ、保存容器、ホッパーもしくはサイロ、および/または気密容器を含み得る。不活性気体は、ジチオカルバメートを、例えば、圧気輸送により移送し、ジチオカルバメートの分解およびETUのレベルが顕著に低減されるように安定性を付与する任意の不活性気体であり得る。ETUの有意な減少は、不活性気体の非存在下で生成されるETUの量に対して少なくとも20パーセントまたはそれ以上の減少である。好ましくは、不活性気体は、二酸化炭素(CO2)、窒素、およびアルゴン、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。最も好ましくは、不活性気体は、分子量が高いことおよび移送中のジチオカルバメートに対する冷却効果が改善されていることにより、CO2である。1つの実施形態において、気体はCO2および窒素の混合物であり、ここで窒素は、気体混合物の総容量に対して、1〜、好ましくは5〜、さらにより好ましくは10〜40パーセントであり、好ましくは、〜45、より好ましくは、〜50パーセントである。
【0012】
ジチオカルバメートは、不活性気体と混合され、そうしてジチオカルバメートと接触する大量の酸素を除去する。次いで、ジチオカルバメート/不活性気体の混合物は、空気または他の気体がさらに容器内の不活性気体雰囲気と交換し得ないように密封することができる容器内に配置される。すなわち、容器は、密封後は気密である。気密容器を密封する前に、ジチオカルバメートは、代表的には、さらに不活性気体によって脱気され、実質的に全ての他の気体が除去される。脱気は、不活性気体で空気を実質的に交換する任意の方法によって達成され得る。
【0013】
本発明の1つの実施形態(実施形態I)では、不活性気体が、ジチオカルバメート移送プロセスの間にジチオカルバメートに導入され、ここで、ジチオカルバメートは、1つのプロセス内に1つの場所から別の場所に移送される。不活性気体は、移送するシステムの能力および移送距離に依存して適切な速度で導入され、そうして大気を交換し、希釈された相移送システムを形成する。希釈相移送システムは、ジチオカルバメートと不活性気体との組み合わせであり、これは流動化したジチオカルバメート/不活性気体混合物を形成し、これは容易に流れることができる。このような方法および希釈相移送システムは、当業者にとって容易に確認することができるものである。次いで、ジチオカルバメートおよび不活性気体は、受入ホッパーに集められ、そして過剰の気体はジチオカルバメートから分離され、そして大気中に放出される前にろ過され、このようにしてホッパーの不活性化(inertization)が確実にされる。同じ受入ホッパーにおいて、過剰の気体の追加が提供され、そして残りの酸素含量が、専用の気体分析装置により連続的にモニターされる。パッケージング前のホッパー中の平均の酸素レベルは、代表的には、気体の総組成物に対して、0.9パーセント以下、好ましくは、0.8パーセント以下、より好ましくは、0.7パーセント以下、そして最も好ましくは、0.6パーセント以下である。
【0014】
次いで、ジチオカルバメート/不活性気体の混合物は、希釈相移送システムを用いて、緩衝用ホッパーに移送される。次いで、ジチオカルバメートは、真空脱気ネジ穴を介して袋詰め器ホッパーに移送され、残りの気体を除去し、そしてジチオカルバメート生成物の密度を高くする。次いで、ジチオカルバメート/不活性気体の混合物は、投与ネジ穴(dosing screw)を介して移送され、ジチオカルバメート/不活性気体の混合物がバッグの中に送達される。代表的には、混合物は、充填時に空気の取込を防止するために、バッグ内に既に配置されていたジチオカルバメートレベルのちょうど上のバッグ内の位置に送達される。換言すれば、バッグまたは投与ネジ穴のいずれかは、投与ネジ穴の出口と、バッグ中に既に沈積しているジチオカルバメート生成物の上限レベルとの間に有意な距離がないように、連続的に配置される。したがって、バッグが満たされるにつれて、投与ネジ穴が上昇するか、またはバッグが低くされる。
【0015】
一旦満たされると、バッグは第1の脱気ステーションに移され、そこで真空ロッドがバッグに導入され、残余の気体が除去される。第2の脱気ステージにおいて、バッグの上部が押しつぶされて閉じられ、吸引プローブがバッグの上部(生成物のレベルの上)に導入され、残余の気体が引き続き抽出される。
【0016】
バッグの上部は、機械的に閉じたままにされて再曝気(re−aeration)が防がれ、バッグ閉鎖ステーションに移され、そこでバッグは折り畳まれて、ヒートシールされて気密シールが施される。
【0017】
代表的には、不活性気体は、気密容器内でジチオカルバメートの周りの少なくとも99.0パーセントの大気を含む。
【0018】
容器は、密封ができ、そうして不活性気体が逃げることおよび他の気体が容器内に入ることを防ぐことができる任意の容器であり得る。代表的には、容器は、気体の移送を防止する手段を有するヒートシール可能なバッグである。このようなバッグは、代表的には、多層(multi−ply)の紙製のバッグ(例えば、3層KRAFT(登録商標)ペーパー)内にプラスチック製のライナーを備えているが、他の材料(例えば、ホイル)も使用することができる。プラスチック製のライナーは、代表的には、ポリエチレン、高密度もしくは低密度ポリプロピレン、またはポリエチレン−エチレンビニルアルコール(PE/EVOH)のようなポリマー材料から製造される。次いで、バッグは代表的には、折り畳まれ(例えば、二重折り畳み)、ヒートシールされる。
【0019】
移送およびパッケージングのプロセスは、不活性気体を導入し、安定性が増大し、副産物の生成が低減するようにジチオカルバメートを保存する任意のプロセスを使用して完了され得る。1つの実施形態において、CHRONO−FILL(登録商標)PBS2001BFWパッケージングライン(BMH Chronos Richardsonから市販されている)が使用される。
【0020】
本発明のプロセスは、ジチオカルバメートに対して驚くほど良好な安定性を付与し、分解の量およびアルキレンチオ尿素の副産物を顕著に低減する。代表的には、ETUの量は、2ヶ月間の保存後、不活性気体の非存在下で生じる分解の量に対して、少なくとも30パーセント、好ましくは少なくとも40パーセント、および最も好ましくは少なくとも45パーセント低減する。一般に、活性成分の分解の量は、ジチオカルバメートの元々の総量に対して、1パーセント未満、好ましくは、0.5パーセント未満、より好ましくは、0.4パーセント未満、そして最も好ましくは、0.3パーセント未満である。
【実施例】
【0021】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供される。実施例は、本発明の範囲を限定することを意図するものでも、そのように解釈されるべきものでもない。量は、特に断りのない限り、重量部または重量パーセントである。
【0022】
(実施例1および2)
エチレンビスジチオカルバメートを、本明細書の実施形態Iに記載されるプロセスに従って、生成し、CHRONO−FILL(登録商標)PBS2001BFWを用いて25kgバッグにパッケージングした。
【0023】
活性成分の割合を以下のように決定した。
【0024】
手順(CIPAC法から発行された)は、希硫酸(2N)とともに105分間加熱した場合の、0.2〜0.3gのサンプル(エチレンビスジチオカルバメート−EBDC)(炭素ジスルフィド1EBDC<=>2CS2の発生に基づくトラッキング)の分解に基づいている。放出された気体は、酢酸鉛溶液を含有する吸収剤を通して吸引され、サンプルを分解する際に形成された硫化水素を除去する。二硫化炭素は、次いで、冷却した(0−5℃)メタノールカリウムに吸収されて、キサントゲン酸カリウムを形成する。この溶液を酢酸で中和し、次いで、0.1N ヨード液ででんぷん終点(starch end point)まで滴定する。吸収剤の温度(0℃〜5℃)は、決定の間じゅう調節されていなければならない。
【0025】
エチレンチオ尿素(ETU)(2−イミダゾリジンチオン)を以下のように決定した。
【0026】
ETUは、等量の4パーセント塩化亜鉛溶液を脱イオン水中のEBDC溶液(100mg EBDC/10ml H2O)へ添加することによって抽出する。次いで、ETUを、HPLC(液体クロマトグラフィー)によって分離し、較正された溶液と比較する。溶液は、脱イオン水中の5パーセントアセトニトリル溶液である。ETUをUV分光光度計によって可視の233nmで検出する。
【0027】
CIPAC(正式な参照基準)法の参考文献は、CIPAC法MT61/TC/M/−3、CIPACハンドブック、116頁である。
【0028】
指定された時間に、50gのサンプルをバッグから取り出し、そして迅速に分析した。バッグは54℃で換気されたオーブン中に保存した。
【表1】

【表2】

【0029】
本発明のプロセスは、ジチオカルバメート保存の間のジチオカルバメートの副産物の量を驚くほど低減させ、分解産物がより少なく安定性が増大させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解および望ましくない副産物の形成から、殺真菌剤として有用なアルキレンビスジチオカルバメートを安定化する方法であって、
a)アルキレンビスジチオカルバメートを閉鎖された領域内で不活性気体と接触させる工程、
b)アルキレンビスジチオカルバメートを含有する前記閉鎖された領域を脱気する工程、および
c)前記アルキレンビスジチオカルバメートを気密容器内にパッケージングする工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記アルキレンビスジチオカルバメートが、エチレンビスジチオカルバミン酸金属塩から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルキレンビスジチオカルバメートが、マンコゼブ(亜鉛およびエチレンビスジチオカルバミン酸マンガンの配位生成物)、マネブ(エチレンビスジチオカルバミン酸マンガン)、メチラム(トリス[アミン[エチレンビス(ジチオカルバミン酸)]亜鉛(II)[テトラヒドロ−1,2,4,7−ジチアジア−ゾシン−3,8−ジチオン]ポリマー)、およびジネブ(エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛)から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性気体がCO2である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記不活性気体が、CO2と窒素との組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記気密容器がバッグである、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2007−517914(P2007−517914A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549658(P2006−549658)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/001385
【国際公開番号】WO2005/067717
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】