説明

アルケニルメルカプタンの製造法

【課題】アルケニルハライド及び水硫化アルカリからアルケニルメルカプタンを収率良く製造する。
【解決手段】相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる二相系溶媒中で、アルケニルハライドと水硫化アルカリとを反応させる。その際、有機溶媒、水及び水硫化アルカリからなる二相系混合液にアルケニルハライドを供給しながら反応を行う。また、該二相系混合液の水相のpHを8〜12に調整して、アルケニルハライドの供給を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケニルハライド及び水硫化アルカリからアルケニルメルカプタンを製造する方法に関する。アルケニルメルカプタンは、例えば医薬や農薬の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
メルカプタンを製造する方法の1つとして、相間移動触媒の存在下に、対応するハライドと水硫化アルカリとを反応させる方法が知られている。例えば、特開昭62−294652号公報(特許文献1)には、置換ベンジルハライドと水硫化アルカリとを反応させて、置換ベンジルメルカプタンを製造する際、相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる二相系溶媒中で、好ましくは酸を添加して反応を行うことが提案されており、具体的には、有機溶媒、水、置換ベンジルハライド及び酸を仕込み、これに水硫化アルカリの水溶液を供給しながら反応を行うことが開示されている。また、特開平4−257557号公報(特許文献2)には、アラルキルハライド又はアルキルハライドと水硫化アルカリとを反応させて、アラルキルメルカプタン又はアルキルメルカプタンを製造する際、相間移動触媒の存在下に、有機溶媒を使用せずに水中で、硫化水素の加圧下に反応を行うことが提案されており、具体的には、水硫化アルカリの水溶液を仕込んで、硫化水素で加圧し、これにアラルキルハライドを供給しながら反応を行うことが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−294652号公報
【特許文献2】特開平4−257557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら従来の方法では、メルカプタンの収率が必ずしも十分でなかった。特にハライドとしてアルケニルハライドを用いてアルケニルメルカプタンを得ようとする場合、これを収率良く製造するのが難しかった。そこで、本発明の目的は、アルケニルハライド及び水硫化アルカリからアルケニルメルカプタンを収率良く製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、アルケニルハライドと水硫化アルカリとの反応を、相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる二相系溶媒中で、所定の仕込供給条件を採用して行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる二相系溶媒中で、アルケニルハライドと水硫化アルカリとを反応させることにより、アルケニルメルカプタンを製造する方法であって、有機溶媒、水及び水硫化アルカリからなる二相系混合液にアルケニルハライドを供給しながら反応を行うこと、及び該二相系混合液の水相のpHを8〜12に調整して、アルケニルハライドの供給を開始することを特徴とするアルケニルメルカプタンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アルケニルハライド及び水硫化アルカリからアルケニルメルカプタンを収率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
原料のアルケニルハライドとしては、通常、アルケニルクロライド又はアルケニルブロマイドが用いられ、また、該アルケニルとしては、例えば、2−プロペニル(アリル)、2−メチル−2−プロペニル(メタリル)、2−ブテニル(クロチル)、3−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル(プレニル)、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニルなどが挙げられる。中でも、2−アルケニルハライド、特に炭素数3〜5程度の低級2−アルケニルハライドを原料に用いて、2−アルケニルメルカプタンを製造する場合に、本発明の方法は有利に採用される。
【0008】
上記のようなアルケニルハライドを水硫化アルカリと反応させることにより、対応するアルケニルメルカプタンが得られる。水硫化アルカリとしては、通常、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム又は水硫化カリウムが用いられ、その使用量は、アルケニルハライドに対して、通常1モル倍以上、好ましくは1.05〜2モル倍である。
【0009】
上記反応は、相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる油水二相系の混合溶媒中で行うことにより、円滑に進行させることができる。
【0010】
相間移動触媒としては、例えば、テトラ−n−エチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−エチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウム硫酸水素塩、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドのような第4級アンモニウム塩や、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドのような第4級ホスホニウム塩の他、クラウンエーテル、クリプタンドなどが挙げられる。中でも4級アンモニウム塩が好ましく用いられる。相間移動触媒の使用量は、アルケニルハライドに対して、通常0.001〜0.2モル倍、好ましくは0.05〜0.1モル倍である。
【0011】
有機溶媒としては、油水二相系の混合溶媒を構成するため、水と非混和性のものが用いられ、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンのような脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化脂肪族炭化水素;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテルのようなエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステルなどが挙げられる。中でも芳香族炭化水素が好ましく用いられる。
【0012】
有機溶媒の使用量は、アルケニルハライドに対して、通常0.5〜5重量倍程度であり、水の使用量は、水硫化アルカリに対して、通常0.5〜5重量倍程度である。また、有機溶媒と水との使用割合は、有機溶媒/水の重量比で表して、通常1/5〜5/1程度である。
【0013】
本発明では、有機溶媒、水及び水硫化アルカリを仕込んで、二相系の混合液とし、ここにアルケニルハライドを供給しながら、上記反応を行う。そして、このアルケニルハライドの供給は、上記仕込み液の水相、すなわち水硫化アルカリの水溶液の相のpHを8〜12、好ましくは9〜11に調整した状態で、開始する。これにより、ジアルケニルスルフィドなどの副生を抑制して、アルケニルメルカプタンの収率を高めることができる。なお、相間移動触媒は、通常、有機溶媒、水及び水硫化アルカリと共に仕込んでおけばよい。
【0014】
水相のpH調整は、水硫化アルカリの水溶液が、その濃度にもよるが、通常は12を超えるpHを示すので、酸を添加することにより行えばよく、この酸としては、塩酸や硫酸のような無機酸が好ましく用いられる。なお、アルケニルメルカプタンを供給するにつれて、通常、水相のpHが低下していくが、このpHは、成り行きに任せて低下させてもよいし、例えば塩基を添加して所定値以上に保ってもよい。
【0015】
アルケニルハライドは、冷却して供給するのが好ましい。これにより、局部的な温度上昇が抑制されるためか、生成したアルケニルメルカプタンの副反応、例えば、アルケニルメルカプタン2分子が酸化されてジアルケニルジスルフィドが生成する反応や、アルケニルメルカプタンのメルカプト基が別のアルケニルメルカプタンの二重結合に付加して2分子ないしそれ以上の付加体が生成する反応、アルケニルメルカプタンがアルケニルハライドと反応してジアルケニルスルフィドを生成する反応などを抑制することができる。また、アルケニルハライドと水硫化アルカリとの反応は発熱反応であり、高温ほど上記のような副反応が起こり易い傾向にあるところ、アルケニルハライドを冷却して供給することにより、除熱し易くなる。アルケニルハライドの冷却温度は、その種類にもよるが、通常−20〜5℃程度である。
【0016】
反応温度は通常0〜100℃、好ましくは30〜50℃である。また、反応は通常、常圧付近で実施されるが、必要により加圧下又は減圧下に行ってもよい。
【0017】
反応後の後処理操作については適宜選択されるが、反応混合物を油水分離すれば、有機相として、アルケニルメルカプタンの有機溶媒溶液が得られる。こうして得られた溶液は、必要に応じて、洗浄や蒸留などにより精製した後、各種用途に使用できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0019】
実施例1
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えたガラス製反応器に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム70重量%含有)54.31g(0.678モル)、水47.17g、トルエン37.74g及び55.5重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液25.29g(0.062モル)を入れて攪拌した。次いで、20重量%塩酸8.47g(0.046モル)を加えて、水相のpHを9.5に調整し、40℃に加温した。アリルクロライド47.17g(0.616モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロライドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、3時間かけて滴下し、さらに40℃で3.3時間保温した。この保温後の水相のpHは8.2であった。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水56.60gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのトルエン溶液82.65gを得た。この溶液をガスクロマトグラフィー〔水素炎イオン化検出器(FID)による内部標準法〕により分析した結果、未反応のアリルクロライドの含量は0.03g(0.0004モル)、アリルメルカプタンの含量は41.74g(0.562モル)であり、アリルクロライドの転化率は99.9%、アリルクロライドに基づくアリルメルカプタンの収率は91.3%であった。
【0020】
比較例1
実施例1と同様の反応器に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム70重量%含有)108.59g(1.356モル)、水94.34g、トルエン75.47g及び55.5重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液50.59g(0.123モル)を入れて攪拌し、40℃に加温した。この時点での水相のpHは14であった。アリルクロライド94.34g(1.233モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロライドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、3時間かけて滴下し、さらに40℃で2.3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.21gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのトルエン溶液163.88gを得た。この溶液をガスクロマトグラフィー(同上)により分析した結果、未反応のアリルクロライドの含量は0.47g(0.006モル)、アリルメルカプタンの含量は75.03g(1.012モル)であり、アリルクロライドの転化率は99.5%、アリルクロライドに基づくアリルメルカプタンの収率は82.1%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相間移動触媒の存在下に、有機溶媒及び水からなる二相系溶媒中で、アルケニルハライドと水硫化アルカリとを反応させることにより、アルケニルメルカプタンを製造する方法であって、
有機溶媒、水及び水硫化アルカリからなる二相系混合液にアルケニルハライドを供給しながら反応を行うこと、及び該二相系混合液の水相のpHを8〜12に調整して、アルケニルハライドの供給を開始することを特徴とするアルケニルメルカプタンの製造方法。
【請求項2】
有機溶媒が芳香族炭化水素である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルケニルハライドが2−アルケニルハライドである請求項1又は2に記載の方法。

【公開番号】特開2007−204453(P2007−204453A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27967(P2006−27967)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】