説明

アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド及びそれを用いた溶剤又は洗浄剤

【課題】温度により溶解する物質を変えることができるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド、さらに使用後に回収及び精製が容易な溶剤及び洗浄剤を提供する。
【解決手段】疎水性を示す温度範囲及び親水性を示す温度範囲を有し、前記親水性を示す温度範囲が前記疎水性を示す温度範囲より低温である下記式で表されるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド。
−O−CHCHC(=O)NH−CH(CH
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド及びそれを用いた溶剤又は洗浄剤、並びにそれを用いた分離方法及びその分離方法を用いたアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アミド系溶剤は、優れた溶解力と水に容易に溶解する性質を有する。従って、アミド系溶剤は水によるリンスが可能であり、溶剤又は洗浄剤として望ましい性質を有している。また、最近では、オゾン層を破壊する等の環境汚染をもたらすおそれがあることから、従来のハロゲン系溶剤はアミド系溶剤に代替される傾向にある。このようなアミド系溶剤としては、例えば、ホルムアミド、モノメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、モノエチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が知られている。
【0003】
アミド系溶剤を始めとする溶剤や洗浄剤は、使用後、再生するために蒸留等を行っており、多大なエネルギーと多段階の精製工程を必要とする。省エネルギーや精製工程の簡易化の観点から、使用後の溶剤の精製や溶液中の溶質の単離が容易に行える親水性、疎水性が温度により変えることができる溶剤や洗浄剤が切望されている。しかし、従来から溶剤や洗浄剤として知られているものにおいて、温度の変化により親水性から疎水性に変化する、又は疎水性から親水性に変化するものは無かった。
【0004】
特許文献1には、温度を下げることにより半固状、固状から液状に変化する洗浄剤組成物が開示されている。しかし、温度に対応した親水性から疎水性への変化、又はこの逆の変化は生じていない。
【0005】
特許文献2には、溶剤や洗浄剤として適用可能であるアクリル酸アミド類と炭素数1〜4の脂肪族一価アルコールを反応させるβ−アルコキシプロピオンアミド類の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、新規なβ−アルコキシプロピオンアミド類及び該アミド類を含有する溶剤、洗浄剤が開示されている。
しかし、いずれも温度に対応した親水性から疎水性への変化、又はこの逆の変化については開示されていない。
【特許文献1】特開平9−59692号公報
【特許文献2】特開2004−250353号公報
【特許文献3】特開2005−478885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、温度により溶解する物質を変えることができるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド、さらに使用後に回収及び精製が容易な溶剤及び洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の溶剤及び洗浄剤等が提供される。
1.疎水性を示す温度範囲及び親水性を示す温度範囲を有し、前記親水性を示す温度範囲が前記疎水性を示す温度範囲より低温である下記式で表されるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド。
−O−CHCHC(=O)NH−CH(CH
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
2.1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを含む溶剤又は洗浄剤。
3.1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド及び水を含む溶剤又は洗浄剤。
4.1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに、疎水性を示す温度において疎水性の物質を溶解させ、その後親水性を示す温度に冷却して疎水性の物質を析出させて分離する分離方法。
5.1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに、親水性を示す温度において親水性の物質を溶解させ、その後疎水性を示す温度に昇温して親水性の物質を析出させて分離する分離方法。
6.前記アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに水を添加して使用する4又は5記載の分離方法。
7.4〜6のいずれかに記載の分離方法を用いて不純物である疎水性の物質又は親水性の物質を分離するアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドの精製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、温度により溶解する物質を変えることができるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド、さらに使用後に回収及び精製が容易な溶剤及び洗浄剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは下記式で表される。
−O−CHCHC(=O)NH−CH(CH
式において、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0010】
上記アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、疎水性を示す温度範囲及び親水性を示す温度範囲を有し、親水性を示す温度範囲が疎水性を示す温度範囲より低温である。
【0011】
尚、本発明において、親水性とは水に配合した場合に均一溶液を形成する性質であり、疎水性とは、水に配合した場合に交じり合わず、二層に分離する性質である。
【0012】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、Rが炭素数4より大きいアルキル基の場合は、低温にしても親水性にならない。
の具体例としては、メチル基、エチル基、nプロピル基、イソプロピル基、nブチル基、secブチル基、tertブチル基等が挙げられる。このうち、溶媒や洗浄剤として使用する場合に適する温度範囲(例えば、0℃〜100℃の範囲)に親水性及び疎水性の両方を示すことから、好ましくはエチル基、nプロピル基、イソプロピル基、nブチル基であり、より好ましくは、イソプロピル基及びnブチル基である。
【0013】
また、−NHCH(CHのように、1個の水素が窒素と結合している必要がある。−NHのように2個の水素が窒素と結合している場合、又は水素と窒素の結合がない場合には、疎水性を示す温度範囲と親水性を示す温度範囲を有し、かつ親水性を示す温度範囲の方が低温であるという特性を示さない。
【0014】
上記の理由としては、低温領域においては水分子の動きが不活発であるため、下記式に示すように、本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを構成する基のうち、水と水素結合する能力を有する部分と水素結合を形成し、親水性となる。一方、高温領域では、水分子の動きが活発化し、水素結合が切断して、疎水性となるからと推測される。
【化1】

【0015】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、例えば、塩基性触媒存在下、イソプロピルアクリルアミドと炭素数1〜4のアルコールを反応させることにより得られる。
尚、イソプロピルアクリルアミドは市販されているものも使用できる。
【0016】
イソプロピルアクリルアミドと炭素数1〜4のアルコールの仕込み比率は、通常、イソプロピルアクリルアミド1モルに対して、炭素数1〜4のアルコールがほぼ1〜3モルであればよく、好ましくは1〜2モル、より好ましくは1〜1.5モルである。
【0017】
炭素数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、各種ブタノールが使用できる。これらアルコールのうち、得られるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドの親水性と疎水性のバランスの点から、好ましくはイソプロパノール又はnブタノールである。
【0018】
塩基性触媒の具体例としては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、tertブトキシナトリウム、tertブトキシカリウム等が挙げられる。この中では、副生物が生成せず、長時間の反応を必要としない点から、好ましくはtertブトキシナトリウム又はtertブトキシカリウムである。また、これら触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
塩基性触媒の使用量は、特に制限は無く、原料の種類等に応じて適宜選択される。通常、アクリルアミドに対して塩基性触媒が0.5〜20モル%、好ましくは1〜15モル%である。
【0020】
上記反応に用いる溶媒は、例えば、アセトン、エーテル及びアミド系溶媒を使用することができるが、経済性の観点から、好ましくは使用しない。
【0021】
反応温度は、好ましくは30〜60℃であり、より好ましくは35℃〜50℃である。反応温度が30℃未満の場合反応速度が非常に小さく、60℃を超える場合、着色や重質化が起こり収量が低下する恐れがある。また、反応時間は、使用する原料や触媒の種類、反応温度等に左右され、一概に決めることはできないが、通常30分から10時間程度であり、好ましくは2〜5時間である。
【0022】
生成したアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、反応終了後に酢酸等の酸で中和した後、蒸留等の手段により目的物である生成物を分離することにより得ることができる。
【0023】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、好ましくは溶剤又は洗浄剤に用いられる。また、本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、水と混合して溶剤又は洗浄剤として用いると、分離操作や精製操作の面で、操作性能が向上し好ましい。尚、水の配合割合は適宜選択でき、溶剤又は洗浄剤としての使用に都合のよい割合とすればよい。ただし、水の配合割合を過大にすると、溶剤や洗浄剤として使用した後のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドと水との分離操作や、後述する親水性物質の分離操作等において、操作の容易性が損なわれる恐れがある。アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに対する水の比率は、体積比として10,000倍程度以下とするのが、操作性の点で好ましい。
【0024】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドは、低温領域では親水性を示すため、水と均一溶液を形成する物質、例えば、グリセリン、エチレングリコール等の親水性基を有する化合物を溶解する溶剤又は洗浄する洗浄剤として機能できる。また、高温領域では疎水性を示すため、水と均一溶液を形成しない物質、例えば、アダマンタン、ワックス等の炭化水素系化合物を溶解する溶剤又は洗浄する洗浄剤として機能できる。
【0025】
本発明の分離方法は、疎水性を示す温度範囲と親水性を示す温度範囲を有し、親水性を示す温度範囲が疎水性を示す温度範囲より低温であるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを使用することで、疎水性を示す温度において疎水性の物質を溶解させ、その後親水性を示す温度に冷却して疎水性の物質を析出させる、又は親水性を示す温度において親水性の物質を溶解させ、その後疎水性を示す温度に昇温して親水性の物質を析出させて分離する。また、上記分離方法を実施して親水性又は疎水性の物質(不純物)を除くことによりアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを精製することができる。
【0026】
以下、本発明の分離方法を図を用いて説明する。
図1及び2に示すアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド1は温度T以上の時に疎水性を示し、T以下の時に親水性を示す物質である(T<T)。
【0027】
図1は本発明の一実施形態に係る疎水性物質を分離する方法を示す図である。
まず、アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド1(以下、APAM1と言う)の溶液の温度をT以上に昇温し、疎水性物質5を溶解させる。このとき、疎水性物質5は、APAM1が疎水性を示すことから、APAM1に溶解している。疎水性物質5が溶解しているAPAM1をT以下に冷却すると、APAM1が親水性を示すことから、疎水性物質5はAPAM1に溶解できず、その密度によってAPAM1の上部又は底部に析出する。この状態の液を、ろ過等することによって疎水性物質5を分離することができる。また、同時にろ液であるAPAM1は疎水性物質5が分離されることから、精製され、再度利用することが可能となる。
【0028】
図2は本発明の一実施形態に係る親水性物質を分離する方法を示す図である。
アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド水溶液2(以下、APAM水溶液2と言う)は、アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド1と水で構成される均一溶液である。
まず、APAM水溶液2を温度T以下に冷却し、親水性物質7を溶解させる。このとき、親水性物質7は、APAM水溶液2が親水性を示すことから、APAM1に溶解している。親水性物質7が溶解しているAPAM水溶液2をT以上に昇温すると、APAM1は疎水性を示し水相3とAPAM1(油相)の2相に分離し、親水性物質7は、水相部3に溶解した状態になる。この2相に分かれた溶液を分液ロート等で水相部3を除去することで、親水性物質7を分離することができる。また、同時に油相であるAPAM1は親水性物質7と水が分離されることから、精製され、再度利用することが可能となる。
本発明の分離方法は、図1に示すように水なしでも分離できるし、図2に示すように水を添加して分離することもできる。
尚、本発明の分離方法は上記図1及び図2を使って説明した方法に限定されない。
【0029】
本発明の分離方法は、例えば洗浄方法に用いることができる。
図3は本発明の一実施形態に係る疎水性(親油性)汚れの洗浄方法を示す図である。
まず、APAM1の温度をT以上に昇温し、疎水性汚れ11が付着した洗浄対象物9をAPAM1に投入する。このとき、疎水性汚れ11は、APAM1が疎水性を示すことから、APAM1に溶解し、洗浄対象物9から分離する。疎水性汚れ11が除かれた洗浄対象物9をAPAM1から取り出す。
【0030】
次に、分離した疎水性汚れ11が溶解しているAPAM1をT以下に冷却すると、APAM1が親水性を示すことから、疎水性汚れ11はAPAM1に溶解できず、その密度によってAPAM1の上部又は底部に析出する。この状態の溶液を、ろ過等することによって疎水性汚れ11を分離することで、APAM1は精製され、再利用することができる。
【実施例】
【0031】
実施例1
[イソプロポキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドの合成]
還流冷却器、撹拌装置、温度計を備えた2リットルの三口フラスコにイソプロパノール450ml(5.99mol)及びN−イソプロピルアクリルアミド500gを入れ40℃に加熱して溶解させた。これに、40℃の加熱と撹拌を続けながらt−ブトキシナトリウム12.7gを4回に分けて30分毎に添加した。全てのt−ブトキシナトリウムを添加後、さらに2時間加熱撹拌を続けた。反応終了後、酢酸7.0gを添加して析出物を濾過により除去し、減圧蒸留により精製し(81−85℃、0.7kPa)、イソプロポキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを638.9g(収率84%)得た。
得られた生成物のH−NMRチャート(CDCl、400MHz)を図4に示す。
【0032】
実施例2
[nブトキシ−N−イソプロピルプロピオンアミドの合成]
還流冷却器、撹拌装置、温度計を備えた2リットルの三口フラスコにnブタノール425ml(4.59mol)及びN−イソプロピルアクリルアミド500gを入れ40℃に加熱して溶解させた。これに、40℃の加熱と撹拌を続けながらt−ブトキシナトリウム8.5gを4回に分けて30分毎に添加した。全てのt−ブトキシナトリウムを添加後、さらに2時間加熱撹拌を続けた。反応終了後、酢酸6.0gを添加して析出物を濾過により除去し、減圧蒸留により精製し(98−110℃、0.6kPa)、nブトキシ−N−イソプロピルプロピオンアミドを603g(収率73%)得た。
得られた生成物のH−NMRチャート(CDCl、400MHz)を図5に示す。
【0033】
実施例3
室温(25℃)にて、ビーカーに実施例1で得たイソプロポキシ−N−イソプロピルプロピオンアミド(以下、PPAM)50mlと水50mlを入れて攪拌したところ、目視観察にては均一に白濁した液状物が得られた。これを徐々に降温したところ、16℃にて無色透明で均一な溶液となった。これをさらに0℃付近まで降温しても、無色透明で均一な溶液のままであった。一方、前記の乳濁した液状物を徐々に昇温したところ、40℃にて両層とも無色透明な二層(PPAM層と水層)の溶液となった。これをさらに80℃付近まで昇温しても、無色透明な二層の溶液のままであった。無色透明で均一な溶液が得られたことから、PPAMは16℃付近以下の温度範囲で親水性を示すことが確認された。また、無色透明な二層の溶液が得られたことから、PPAMは40℃付近以上の温度範囲で疎水性を示すことが確認された。
【0034】
実施例4
室温(25℃)にて、ビーカーに実施例2で得たnブトキシ−N−イソプロピルプロピオンアミド(以下、BPAM)50mlと水50mlを入れて攪拌したところ、目視観察にては均一に白濁した液状物が得られた。これを徐々に降温したところ、8℃にて無色透明で均一な溶液となった。これをさらに0℃付近まで降温しても、無色透明で均一な溶液のままであった。一方、前記の乳濁した液状物を徐々に昇温したところ、35℃にて両層とも無色透明な二層(BPAM層と水層)の溶液となった。これをさらに80℃付近まで昇温しても、無色透明な二層の溶液のままであった。無色透明で均一な溶液が得られたことから、BPAMは8℃付近以下の温度範囲で親水性を示すことが確認された。また、無色透明な二層の溶液が得られたことから、BPAMは35℃付近以上の温度範囲で疎水性を示すことが確認された。
【0035】
比較例1
実施例3において、PPAMに代えてN−メチルピロリドンを用い、実施例1と同様に観察したところ、室温(25℃)では無色透明な均一溶液が得られた。これを0℃まで降温しても無色透明な均一溶液なままであった。一方、100℃付近まで昇温しても、均一な溶液のままであった。即ち、N−メチルピロリドンが疎水性を示す温度範囲は観察されなかった。
【0036】
比較例2
実施例3において、PPAMに代えてN,N−ジメチル−ブトキシプロピオンアミドを用い、実施例1と同様に観察したところ、室温(25℃)では無色透明な均一溶液が得られた。これを0℃まで降温しても無色透明な均一溶液なままであった。一方、80℃まで昇温しても、均一な溶液のままであった。さらに昇温したところ、白濁し疎水性を帯びるようになった。しかし、水の沸点付近まで昇温しても白濁のままであった。即ち、N,N−ジメチル−ブトキシプロピオンアミドが明確に疎水性を示す温度範囲は観察されなかった。このため、N,N−ジメチル−ブトキシプロピオンアミドを洗浄剤として用いても、使用後の精製・回収の簡便化は図れないと推定される。
【0037】
実施例5
実施例1で製造したPPAM5ml及び水3mlにアダマンタン500mgを加えた混合物を70℃に加熱したところ、無色透明な二層の液体が得られた。これを氷で10℃に冷却するとすぐに白色固体が析出し、液体は一層となった。これを、吸引濾過により固液分離したところ、白色固体状のアダマンタン500mgが回収された。一方、ろ液として、PPAMと水で構成される無色透明な一層の液体が回収された。このことから、PPAMは、蒸留等の複雑で多くのエネルギーを必要とする手段を用いることなく、簡便に回収できることが確認された。
【0038】
実施例6
実施例5において水を使用しない以外は同様にして、洗浄剤回収のモデル実験を実施した。PPAMとアダマンタンの混合物は70℃では無色透明な一層の液体となった。これを氷で10℃に冷却すると、徐々に白色固体が析出した。これを、吸引濾過により固液分離したところ、白色固体状のアダマンタン500mgが回収された。一方、ろ液として、PPAMが回収された。このことから、PPAMは、蒸留等の複雑で多くのエネルギーを必要とする手段を用いることなく、簡便に回収及び精製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを用いた溶剤及び洗浄剤は、親水性及び疎水性両方の物質を溶解できることから、幅広い物質を対象にできる。また、本発明の溶剤及び洗浄剤は、使用後の回収及び精製が簡便に行うことができることから再利用が容易であり、工業的にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る疎水性物質を分離する方法を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る親水性物質を分離する方法を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る洗浄方法を示す図である。
【図4】実施例1で生成したイソプロポキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドのH−NMRチャートである。
【図5】実施例2で生成したnブトキシ−N−イソプロピルプロピオンアミドのH−NMRチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド
2 アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド水溶液
3 水相部
5 疎水性物資
7 親水性物質
9 洗浄対象物
11 疎水性汚れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性を示す温度範囲及び親水性を示す温度範囲を有し、
前記親水性を示す温度範囲が前記疎水性を示す温度範囲より低温である下記式で表されるアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド。
−O−CHCHC(=O)NH−CH(CH
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドを含む溶剤又は洗浄剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミド及び水を含む溶剤又は洗浄剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに、
疎水性を示す温度において疎水性の物質を溶解させ、その後親水性を示す温度に冷却して疎水性の物質を析出させて分離する分離方法。
【請求項5】
請求項1に記載のアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに、
親水性を示す温度において親水性の物質を溶解させ、その後疎水性を示す温度に昇温して親水性の物質を析出させて分離する分離方法。
【請求項6】
前記アルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドに水を添加して使用する請求項4又は5記載の分離方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の分離方法を用いて不純物である疎水性の物質又は親水性の物質を分離するアルコキシ−N−イソプロピル−プロピオンアミドの精製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−31112(P2008−31112A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207398(P2006−207398)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】