説明

アルコキシル化アルコールまたはフェノールを調製するための方法

第二級アルコール、第三級アルコールおよびこれらの混合物から選択される出発モノヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む、アルコキシル化アルコールを調製するための方法。また、アルコールは、ホウ素含有化合物がホウ酸または無水ホウ酸またはこれらの混合物である場合は、第一級モノヒドロキシアルコールでありうるか、またはHFおよびホウ酸トリメチルの存在下においてエチレンオキシドと反応させられる場合は、C14/C15アルコールを除く第一級モノヒドロキシアルコールでありうる。フェノールは、モノ−ヒドロキシアルコールの代わりに、同様の方法でアルコキシル化されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシル化アルコールまたはフェノールを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非イオン性界面活性剤、湿潤および乳化剤、溶媒、および化学中間体として有用な、非常にさまざまな生成物が、アルキレンオキシド(エポキシド)と、1つまたはそれ以上の活性水素原子を有する有機化合物との付加反応(アルコキシル化反応)によって調製される。例えば、エチレンオキシドと、どちらも6から30個の炭素原子からなる脂肪族アルコールまたは置換されたフェノールとの反応によって調製される、アルカノールエトキシラートおよびアルキル置換されたフェノールエトキシラートを特に挙げることができる。このようなエトキシラート、および程度はより少ないが、対応するプロポキシラートおよび混合オキシエチレンおよびオキシプロピレン基を含有する化合物は、産業界および家庭において使用するための市販の洗浄調合物の、非イオン性洗剤成分として、広く使用されている。
【0003】
アルカノールエトキシラート(下式IIIによって表される。)を、ある数個(k)のエチレンオキシド分子(式II)を、単一のアルカノール分子(式I)に付加することによって調製することを図解すると、次式によって表される:
【0004】
【化1】

【0005】
本明細書において使用される用語「アルコキシラート」は、ある数個(k)のアルキレンオキシド分子が単一の活性水素を含有する有機化合物に付加反応して生成したいずれの生成物をも指す。
【0006】
アルキレンオキシド付加反応は、種々の数のアルキレンオキシドアダクト(オキシアルキレンアダクト)を有する、例えば、上記の式IIIにおけるアダクト数kとして種々の値を有する、さまざまなアルコキシラート分子の生成物混合物を、生成することが知られている。アダクト数は、多くの点でアルコキシラート分子の性質を支配する要因であり、生成物の平均アダクト数および/または生成物内のアダクト数の分布を、生成物が意図されている使われ方に合わせるための努力がなされている。
【0007】
アルコキシル化アルコールを調製する場合、第一級アルコールが、より反応性に富むことはしばしば起こる事実であり、ある場合には、対応する第二級および第三級化合物よりかなり反応性に富んでいる。例えば、このことは、出発アルコールとの反応が遅い可能性があり、それぞれ未反応の第二級および第三級アルコールが大量に発生する可能性があり、それぞれ非常に幅広いエチレンオキシド分布を有する第二級アルコールエトキシラートおよび第三級アルコールエトキシラートが生じる可能性があるので、第二級および第三級アルコールを首尾よく直接エトキシル化することは必ずしもできないことを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第二級アルコールは、パラフィン[フィッシャー−トロプシュ法によって製造されるパラフィンなど]などの比較的安価な供給原料から(酸化によって)、または短鎖C〜C10第一級アルコールから(プロポキシル化によって)、誘導されうる。このために、第二級アルコールから直接アルコキシル化するための適切な方法を開発することは、望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚いたことに、本発明者らは、第一級アルコールのみならず第二級および第三級アルコールが、フッ化水素およびホウ素含有化合物の存在下においてアルコキシル化反応を実施することにより、成功裏にアルコキシル化されうることを発見した。
【0010】
このアルコキシル化された生成物は、アルカリ金属水酸化物触媒によって調製されたアダクトと比較して、低減された量の遊離未反応アルコールを含有し、狭い範囲のアルキレンオキシドアダクト分布を有することができる。これらの製造方法は、反応温度を広範囲、例えば、−20〜150℃、にわたって変化させることができ、触媒は、複雑な触媒合成を必要とするDMC触媒よりも使用が簡単であることから、複合金属シアン化物DMC触媒による方法と比較して、通常、より容易でより柔軟性がある。また、本発明の方法は、アルカリ金属水酸化物またはフッ化水素を、少なくとも1つのB−O結合を有するホウ素含有化合物が存在しない状態で触媒として使用する場合と比較して、遥かに大きな収率でアルコキシル化生成物をもたらす。
【0011】
US−A−4456697には、フッ化水素および金属アルコキシドの存在下における、第一級および第二級アルコールを含む、多くの種類の化合物のアルコキシル化が記載されており、第一級アルコールのみを使用することが例示されている。
【0012】
US−A−5034423には、活性ヒドロキシル含有化合物、ホウ酸、三フッ化ホウ素などのエポキシ触媒、および塩基性塩の存在下においてエポキシ化合物からポリエーテルポリオールを製造することが記載されている。
【0013】
WO03/044074には、開始剤(少なくとも1つのヒドロキシ基を有するヒドロキシル化合物でありうるが、好ましくは、グリセロールなどのポリオールである。)の存在下においてアルキレンオキシドからポリエーテルポリオールを製造することが記載されており、この反応は、フッ化水素および複合金属シアン化物触媒によって、場合により多くの他のホウ酸またはホウ酸トリメチルの中の1つでありうる助触媒の存在下において触媒される。実施例2において、グリセロールは、フッ化水素およびホウ酸トリメチルの存在下においてプロピレンオキシドと反応させられ、次いで、ストリッピングされ、さらに複合金属シアン化物触媒の存在下においてプロピレンオキシドと反応させられ、3000g/molの重量平均分子量を有するポリエーテルポリオールを生成する。
【0014】
本願の優先日の後からWO2005/005360として公表された、同時係属のPCT出願PCT/EP04/051366では、比較例Dにおいて、C14/C15第一級アルコール組成物をHFおよびホウ酸トリメチルの存在下においてエトキシル化することによって、C14/C15第一級アルコールエトキシラートを調製することが開示されている。この出願においては、第二級および第三級アルコールをアルコキシル化する実施例は存在していない。
【0015】
発明の要旨
本発明により、第二級アルコール、第三級アルコールおよびこれらの混合物から選択される出発モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む、アルコキシル化アルコールを調製するための方法が提供される。
【0016】
本発明の別の態様により、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物を、第二級および第三級モノ−ヒドロキシアルコールをアルコキシル化するために使用することが提供される。
【0017】
本発明のさらに別の態様により、第一級モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含み、C14/C15第一級アルコールを、HFおよびホウ酸トリメチルの存在下においてエチレンオキシドと反応させることを含む方法を除外した、アルコキシル化第一級アルコールを調製するための方法が提供される。
【0018】
本発明のさらに別の態様により、第一級モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含み、ホウ素含有化合物がホウ酸および無水ホウ酸から選択される方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明のある一態様による方法は、第二級アルコール、第三級アルコールおよびこれらの混合物から選択される出発モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む。
【0020】
本発明の方法は、第二級および第三級アルコールをアルコキシル化するための従来の方法と比較して、第二級および第三級アルコールを直接エトキシル化し、低濃度の未反応残留アルコールと狭いエトキシラート分布とを有するエトキシル化アルコール生成物を生成する方法を提供するという点で、特別な利点をもたらすが、本発明の方法は、また、第一級モノ−ヒドロキシアルコールをアルコキシル化するためにも適している。
【0021】
本明細書においてアルコキシル化アルコールを調製する際に使用するのに適した出発アルコールには、アルカノール、例えば1から30個の炭素原子からなるものなど、が含まれる。
【0022】
また、工程の性能および生成物の商業的な価値の両方の理由から、6から30個(例えば、9から30個など)の炭素原子を有するアルコール、特にアルカノールが好ましいということができ、CからC24アルコールがより好ましく、CからC20アルコールがもっとも好ましく、この中には、CアルコールとC20アルコールとの混合物などの、これらの混合物も含まれる。一般に、アルコールは、意図された用途に応じて分岐または直鎖構造でありうる。一実施形態においては、さらに好ましくは分子の50%超、より好ましくは分子の60%超、およびもっとも好ましくは分子の70%超が直線状(直鎖)炭素構造であるアルコール反応物である。別の実施形態においては、さらに好ましくは分子の50%超、より好ましくは分子の60%超、およびもっとも好ましくは分子の70%超が分岐炭素構造であるアルコール反応物である。
【0023】
第二級出発アルコールは、好ましくは、1つのヒドロキシル基、特に最長の炭素鎖の末端から番号付けして、2、3、4、5または6番の炭素原子に位置しているヒドロキシル基を有するアルカノールである。アルカノールは好ましくは直鎖である。本明細書において使用するのに適した第二級アルコールの例には、2−ウンデカノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール、4−デカノール、2−ドデカノール、2−テトラデカノール、2−ヘキサデカノールおよびこれらの(特に同じ炭素含有量のアルカノールの)混合物が含まれる。2,6,8−トリメチル−4−ノナノールも使用することができる。
【0024】
第三級アルコール出発アルコールは、好ましくは、4〜24特に9〜20個の炭素原子のアルカノールであり、式IV、R(R)C(R)OH[式中、R、R、Rのそれぞれは、同一であるかまたは異なっており、1〜20個の炭素のアルキル基を表す。]、を有する。Rは、好ましくは、4〜18個の炭素のアルキルを表し、直鎖であるかまたは少なくとも1つのメチルまたはエチル分岐を有し、RおよびRは、好ましくは、1〜8個の炭素のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、ブチルまたはヘキシルを表す。本明細書において使用するのに適した第三級アルコールの例には、フィッシャー−トロプシュ法から出現する、ヒドロキシル化された主に末端で(主に2−および3−)メチル分岐したC〜C20のパラフィンが含まれる。
【0025】
エチレンのオリゴマー化および得られたより高級なオレフィンのヒドロホルミル化または酸化および加水分解によって調製される第一級一価アルカノールの商業的に入手できる混合物も、また、本明細書における方法において、出発アルコールとして適切である。商業的に入手可能な第一級アルカノール混合物の例には、NEODOL Alcohols[Shell Chemical Companyの商標であって、同社から発売されている:これには、C、C10およびC11アルカノールの混合物(NEODOL 91 Alcohol)、C12およびC13アルカノールの混合物(NEODOL 23 Alcohol)、C12、C13、C14およびC15アルカノールの混合物(NEODOL 25 Alcohol)、ならびにC14およびC15アルカノールの混合物(NEODOL 45 Alcohol、およびNEODOL 45E Alcohol)が含まれる。];ALFOL Alcohols[(例えば、Vista Chemical Company)、これにはC10およびC12アルカノールの混合物(ALFOL 1012)、C12およびC14アルカノールの混合物(ALFOL 1214)、C16およびC18アルカノールの混合物(ALFOL 1618)、およびC16、C18およびC20アルカノールの混合物(ALFOL 1620)が含まれる。];EPAL Alcohols[(Ethyl Chemical Company)、これにはC10およびC12アルカノールの混合物(EPAL 1012)、C12およびC14アルカノールの混合物(EPAL 1214)、およびC14、C16およびC18アルカノールの混合物(EPAL 1418)が含まれる。];およびTERGITOL−L Alcohols[(Union Cabide)、これにはC12、C13、C14およびC15アルカノールの混合物(TERGITOL−L 125)が含まれる。]がある。主成分がC11アルカノールであるNEODOL 1も、本明細書において使用するのに適している。天然に存在する脂肪酸エステルを還元することによって調製され、商業的に入手できるアルカノールも、また、非常に適しており、例としては、Procter and Gamble CompanyのCOおよびTA製品ならびにAshland Oil CompanyのTA Alcoholsがある。
【0026】
本発明の工程において使用するのに特に好ましい出発アルコールは、第二級アルコールである。
【0027】
第一級および/または第二級および/または第三級アルコールの混合物も、また、本明細書において使用するのに適している。例えば、第一級および第二級および第三級アルコールの混合物は、本明細書において使用することができる。別の例として、第一級および第三級アルコールの混合物は、本明細書において使用することができる。
【0028】
第一級および第二級アルコールを含むアルコールの混合物は、本明細書において使用するのに特に適している。
【0029】
第二級および第三級アルコールを含むアルコールの混合物も、また、本明細書において使用するのに特に適している。
【0030】
特に、フィッシャー−トロプシュ法により誘導されるパラフィン(これには、第一級および第二級アルコールの混合物が含まれている可能性がある。)から生まれる酸化物生成物は、本明細書において使用するのに特に適している。
【0031】
フェノールも、また、出発アルコールをアルコキシル化するために本明細書において記載されているものと同じ方法で、アルコキシル化することができる。本発明の代替方法においては、出発モノ−ヒドロキシフェノールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む、アルコキシル化フェノールを調製するための方法が提供される。
【0032】
モノ−ヒドロキシフェノールは、アルキルなどの、少なくとも1つの不活性な、非ヒドロキシル置換基によって場合により置換される、1〜3個の芳香族環を有することができる。フェノールは、フェノール、αまたはβ−ナフトールでありうるかまたはフェノール環、またはナフトール環をベースとすることができ、これらのいずれも、それぞれが1〜20個の炭素原子の、好ましくはメチルまたはエチルなどの1〜3個の炭素原子の、あるいはヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシルまたはテトラデシルなどの6〜20個の炭素の、少なくとも1つの、例えば1〜3個のアルキル置換基を有する。アルキル基は直鎖または分岐でありうる。置換されたフェノールは、p−クレゾールまたはノニルフェノール、特に直鎖または分岐ノニルフェノールまたは場合によりn−ノニルフェノールが混在している、分岐ノニルフェノールの混合物であることができる。
【0033】
本明細書において使用するのに適したアルキレンオキシド反応物には、1つまたはそれ以上の隣接アルキレンオキシド、特により低級なアルキレンオキシド、およびより特別にはCからCの範囲にある低級アルキレンオキシドを含む、アルキレンオキシド(エポキシド)反応体が含まれる。一般に、アルキレンオキシドは式(VII)によって表される。
【0034】
【化2】

式中、R、R、RおよびR部分のそれぞれは、水素およびアルキル部分からなる群から好ましくは個々に選択されるが、式VIIにおいて、2つ以上のヒドロキシアルキル基が存在しない、例えば1つ、好ましくはまったく存在しないという条件の下に、水素、アルキルおよびヒドロキシアルキル部分からなる群から独立に選択されうる。エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、グリシドールまたはこれらの混合物を含む反応体が、より好まれ、特にエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから本質的になるものが好まれる。エチレンオキシドから本質的になるアルキレンオキシド反応体は、アルコキシル化を実施する商業上の機会という観点から、および、また、狭い範囲のエチレンオキシドアダクト分布を有する生成物を調製するという観点から、もっとも好ましいと考えられる。
【0035】
本明細書において、アルコキシラート組成物を調製するために、アルキレンオキシド反応物および出発アルコールは、フッ化水素およびホウ素含有化合物の存在下において接触させられる。
【0036】
フッ化水素は、そのものを添加するかまたはその場で形成することができる。フッ化水素は、例えば、反応条件においてフッ化水素が分離される化合物を使用することにより、その場で形成することができる。フッ化水素は、鉱酸、例えば硫酸によって、アルカリ土類金属フッ化物、例えばカルシウム、ストロンチウムまたはバリウムの二フッ化物を酸性化することにより得られる。HFは、HFの混合無水物および有機または無機酸などの混合物中で、HFを形成する反応性フッ素含有化合物を、反応混合物に添加することにより、その場で生成させることができる。このような化合物の例には、フッ化アルカノイル(例えばフッ化アセチル)などのフッ化アシル、または例えばフッ化ベンゾイルなどのフッ化アリールカルボニル、またはフッ化トリフルオロメチルスルホニルなどの有機フッ化スルホニル、またはフッ化スルフリルもしくはチオニルがある。好ましくは、フッ化水素は、そのものを、本発明の工程に添加する。フッ化水素は、例えば30〜35重量%濃度のHF水溶液として添加することができるが、好ましくは無水物である。
【0037】
フッ化水素は、フッ化水素が出発アルコールと1つまたはそれ以上のアルキレンオキシドとの反応を触媒するような量で存在する。反応を触媒するために必要とされる量は、使用される出発アルコール、存在するアルキレンオキシド、反応温度、存在し、助触媒として反応することができるさらなる化合物、および所望の生成物などのさらなる反応環境によって決まる。通常、フッ化水素は、出発アルコールおよびアルキレンオキシドの全量を基準として、0.0005から10重量%まで、より好ましくは0.001から5重量%まで、さらに好ましくは0.002から1重量%まで、特に0.05から0.5重量%まで、の量で存在することになる。
【0038】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物が、フッ化水素と一緒に存在すると、アルコールとアルキレンオキシドとの反応を触媒するのに、特に有用であることがわかった。
【0039】
本明細書において使用するための、少なくとも1つのB−O結合を含む適切なホウ素含有化合物には、ホウ酸(H3BO3)、無水ホウ酸、ホウ酸アルキル、およびこれらの混合物が含まれる。適切な化合物は、ホウ酸またはホウ酸トリメチルの場合のように、1〜3個のB−O結合、特に3個のB−O結合を含むことができる。
【0040】
本明細書において使用するためのホウ素含有化合物は、そのものを工程内に導入するか、またはその場で加水分解もしくはアルコール分解することによって有機ボラン前駆体から形成することができる。
【0041】
本明細書において使用するのに適した無水ホウ酸の例には、メタホウ酸(HBO)、テトラホウ酸(H)および酸化ホウ素(B)がある。
【0042】
本明細書において使用するのに適したホウ酸アルキルの例には、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリ−イソプロピル、ホウ酸トリブチルおよび出発(第二級)アルコールまたはこのエトキシラートから誘導されるホウ酸エステルが含まれており、ホウ酸トリメチルが好ましい。
【0043】
少なくとも1つのB−O結合を有するホウ素化合物を、その場で調製することができる。例えば、B−O結合をまったく含んでいない化合物、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(BBN)を用いて、反応混合物内でメタノールまたは水と接触させて、9−メトキシおよび/または9−ヒドロキシBBNを調製することができる。
【0044】
本明細書において使用するための好ましいホウ素含有化合物は、ホウ酸、無水ホウ酸、およびこれらの混合物から選択される。
【0045】
本方法において使用するための、特に好ましいホウ素含有化合物は、特に、アルコキシル化アルコールに比較的低水準の残留アルコールと比較的狭いアルコキシラート分布とを与えるという観点からみて、ホウ酸である。
【0046】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物は、ホウ素含有化合物が出発アルコールと1つまたはそれ以上のアルキレンオキシドとの反応に助触媒として作用するような量で存在する。必要とされる量は、使用される出発アルコール、存在するアルキレンオキシド、反応温度、存在し、助触媒として反応することができるさらなる化合物、および所望の生成物などのさらなる反応環境によって決まる。通常、少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物は、出発アルコールおよびアルキレンオキシドの全量を基準として、0.0005から10重量%まで、より好ましくは0.001から5重量%まで、さらに好ましくは0.002から1重量%まで、特に0.05から0.5重量%まで、の量で存在することになる。
【0047】
前記ホウ素含有化合物のフッ化水素に対する重量比は、通常、100:1から1:100、好ましくは1:10から10:1、特に3:1から1:3である。
【0048】
アルコキシル化工程は、−20℃から200℃(0〜200℃など)において、しかし、好ましくは50〜130℃または特に70℃未満または50℃未満(0〜50℃など)において実施され、特に副生成物の形成を低減させるようにすることができる。
【0049】
本発明の方法により製造される好ましいアルコキシル化アルコールにおいて、遊離アルコールの量は、アルコキシル化アルコールの、3重量%より少い、より好ましくはわずか1重量%より少い、さらに好ましくは0.5重量%より少い。
【0050】
反応の終わりで、アルキレンオキシド構造単位の所望の数がアルコールに付加されてしまうと、反応を、HFおよび/またはアルキレンオキシドを除去することにより、停止させることができる。酸を、吸着により、塩基性アニオン交換樹脂によるイオン交換により、または中和によるなどの反応により、除去することができる。アルキレンオキシドを、蒸発により、特に減圧下でおよび特に100℃未満(40〜80℃など)で、除去することができる。
【0051】
適切なイオン交換樹脂の例は、フッ素アニオンを除去することができる、弱いもしくは強い塩基性またはアニオン交換樹脂である。これらの樹脂は、少なくとも部分的には、塩化物またはヒドロキシルの形態をしている。これらの樹脂の例には、AMBERJET 4200およびAMBERLITE IRA 400の商標の下に販売されているものがある。反応生成物は、バッチ式操作においてはイオン交換樹脂と混合され、次いて分離されてもよいが、好ましくは、除去は、反応生成物がその中を通されるカラム内の樹脂によって連続的に操作される。
【0052】
HFを不活性化する別の方法は中和による。これは、塩基または強塩基と弱酸との塩によって行われる。塩基または塩は無機物、特に反応生成物に対して少なくともいくらかの溶解度(例えば少なくとも10g/l)を有するものでありうる。中和剤は、アルカリ金属またはアンモニウムの炭酸塩または重炭酸塩(例えば炭酸ナトリウムまたは炭酸アンモニウムなど)、あるいはこれに対応する水酸化物(例えば水酸化ナトリウムなど)である。アンモニアガスは使用することができる。好ましくは、中和剤は、少なくとも1つのアミン窒素原子(例えば、1〜3個のこのような原子)を有する有機アミンなどの有機化合物である。適切なアミンの例は、第一級、第二級または第三級モノまたはジアミンである。アミン窒素に結合されている有機基または有機基類は、場合により置換された1〜10個の炭素原子のアルキル基(例えば、メチル、エチル、ブチル、ヘキシルまたはオクチル)、またはヒドロキシルで置換されたこれらの誘導体(例えば、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、またはヒドロキシイソプロピルなど)、または(メチルなどの、例えば1〜6個の炭素原子の)少なくとも1つのアルキル置換基もしくはハロゲン(例えば塩素)などの不活性置換基によって、場合により置換されるフェニル基などの芳香族基でありうる。環が、ピリジンまたはアルキルピリジンにおけるように、1つまたはそれ以上の窒素原子を含有するヘテロ環式窒素含有塩基もまた使用することができる。好ましくは、有機中和剤は、ヒドロキシアルキルアミン、特に1、2または3個のヒドロキシアルキル基を有するモノアミンであり、窒素の残りの原子価は、もし存在すれば、水素またはアルキルによって満たされる。ヒドロキシアルキルおよびアルキル基は、2個のヒドロキシエチル基の場合と同様に、1〜6個の炭素を含有する。オリゴアルキレングリコールアミンもまた使用することができる。好ましいアミンは、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンおよび対応するイソプロパノールアミンである。塩基性化合物は、HFの少なくとも半分、好ましくはHFの少なくとも全部を中和することができる量で添加されうる。
【0053】
HFを不活性化する試剤の別の種類は、HFを用いて揮発性フッ化物を形成することができる試薬である。二酸化ケイ素は、後のストリッピング段階においてアルコキシル化生成物から気化されて離れて行くことができる四フッ化ケイ素を形成するので、こうした試薬の一例である。
【0054】
HFの除去または不活性化は、通常、100℃未満(20〜80℃など)の温度において、または特に温度を40℃未満に維持しながら実施される。
【0055】
HFの除去または不活性化は、未反応アルキレンオキシド、あらゆる副生成物(1,4−ジオキサンなど)およびことによると未反応アルコール供給原料などの、揮発性物質の含有量を低減させるための、いずれの除去またはストリッピングの前でも後でも、実施することができる。除去は、好ましくは減圧下で実施され、150℃未満、好ましくは100℃未満(40〜70℃など)の温度において実施されうる。揮発性物質の除去は有利には、窒素などの不活性気体を、反応生成物中を通過させることにより促進される。HFの除去がストリッピングの前に行われる場合は、HFを中和するために使用されるいずれの塩基も、好ましくは無機物であるか、またはHFを除去する前にストリッピングが行われる場合と比較して、おそらく揮発性のより高いもの[例えば、100℃未満の大気圧沸点を有するかまたはアミンを含有する6個未満の炭素原子を有するもの]である。(HFを除去がストリッピングの後に行われる)後者の場合は、いずれの塩基も、好ましくは無機物であるか低揮発性のもの[例えば、150℃を超える大気圧沸点を有するかまたはアミンを含有する12個超の炭素原子を有するもの]である。このようにして、(HFの除去がストリッピングの前に行われる)前者の場合は、ストリッピングは、残留揮発性塩基の痕跡を除去することを促進する。好ましくは、ストリッピングは、上記の低揮発性アミンまたは非揮発性アミンを添加することによってHFを除去する前に実施される。
【0056】
ストリッピングおよびHFの除去の後、アルコキシル化生成物は、そのままで使用されうるか(例えば、洗剤中で)、または使用される前にさらに精製し、例えば、未反応アルコール、フッ化物の塩を分離し、および/または生成物の色を改善することができる。
【0057】
本発明を、以下の実施例によって、本発明をこれらの特定の実施形態に限定されることなく、さらに説明する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
第二級アルコール2−ウンデカノールのエトキシル化
マグネチックスターラの棒が装着されている、(水)冷却浴中に浸漬された「テフロン」瓶へ、2−ウンデカノール(58mmol、10g)、ホウ酸(50mg)およびフッ化水素(50mg)を投入した。大気圧において気相のエチレンオキシドを、温度が50℃を超えないような速度で添加した。約3時間後、エトキシル化の程度が摂取量ベースで6.2に相当するエチレンオキシド15.8g(358mmol)が消費され、次いで生成物をジエタノールアミン約50mgによって処理した。エトキシル化2−ウンデカノールの収量は、0.316kgEO/HF 1gであった。
【0059】
2−ウンデカノール1モル当たりのエチレンオキシドのモル数の平均数、エトキシラートの分布および残留遊離アルコールの測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施した。これらを測定するための技法は、4−ニトロベンゾイルクロリドを用いてエトキシル化されたアルコールを誘導体化することを含む。次いで、生成物を、イソヘキサン/酢酸エチル/アセトニトリル移動相を備えた、ポリゴシルアミノ(Polygosil Amino)固定相を用いる勾配溶離高速液体クロマトグラフィーによって分析する。検出は紫外吸収によって行った。定量化は、内部正規化法(internal normalisation technique)による。エトキシラートの分布および残留遊離アルコールの結果は、下表1に示し、質量%(m/m%=wt/wt%)で表している。
【0060】
(実施例2)
第二級アルコール2−ウンデカノールのエトキシル化
2−ウンデカノールのエトキシル化を、反応温度を70℃に維持したこと以外は、実施例1の方法を用いて実施した。2−ウンデカノール1モル当たりのエチレンオキシドのモル数の平均数、エトキシラートの分布および残留遊離アルコール含有量の測定は、実施例1において使用したのと同じ技法を用いて実施した。結果を下表1に示す。
【0061】
(実施例3)
第二級アルコール2−ウンデカノールのエトキシル化
2−ウンデカノールのエトキシル化を、反応温度を130℃に維持したこと以外は、実施例1の方法を用いて実施した。2−ウンデカノール1モル当たりのエチレンオキシドのモル数の平均数、エトキシラートの分布および残留遊離アルコール含有量の測定は、実施例1において使用したのと同じ技法を用いて実施した。結果を下表1に示す。
【0062】
(実施例4(比較例))
第二級アルコール2−ウンデカノールの、水酸化カリウムで触媒されたエトキシル化
2−ウンデカノール(10.0g)および水酸化カリウム0.2gを、130℃で撹拌した。次いで、トルエン3mlを添加し、(水を除去するために)窒素を用いたストリッピングによって除去した。残っている溶液(9.9g)に、大気圧下でEOを投与し、EO16.7gを消費した後停止した。冷却した後、混合物を酢酸によって中和した。エトキシル化2−ウンデカノールの収量は、0.083kgのEO/KOH 1gであった。
【0063】
1モル当たりのエチレンオキシドのモル数の平均数、エトキシラートの分布および遊離アルコール濃度は、実施例1において使用したのと同じ方法を用いて測定した。結果を下表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
HF/ホウ酸触媒を使用して調製したエトキシル化第二級アルコールは、従来の水酸化カリウムエトキシル化触媒を使用して調製したエトキシル化第二級アルコールと比較して、遊離アルコールの濃度が大幅に低減され(k=0)、比較的狭いエトキシラート分布(すなわち、とがったピークの分布)を有することが、表1から明白に読み取ることができる。
【0066】
(実施例5から7)
プロピレンオキシド(4g)を、tert−ブタノール(0.2mol、14.8g)、イソ−プロパノール(12.0g、0.2mol)およびエタノール(0.2mol、9.2g)の等モル混合物に添加した。次いで、ホウ酸トリメチル0.1mlを添加し、48%のHF水溶液0.3mlを添加した。反応は直ちに開始した。プロピレンオキシドが消費された後(±30分)、混合物をGLCによって分析した結果、tertブタノール、イソプロパノールおよびエタノールのモノ−プロポキシル化誘導体を含む混合物が示された。
【0067】
(実施例8から10)
ホウ酸トリメチル0.1mlと48%のHF水溶液0.3mlとを含有する、tert−ブタノール(0.2mol、14.8g)、イソ−プロパノール(12.0g、0.2mol)およびエタノール(0.2mol、9.2g)の等モル混合物の中に、エチレンオキシドをバブリングした。温度は30℃未満に維持した。±10分の後、反応を停止させ、混合物をGLCによって分析した結果、tert−ブタノール、イソプロパノールおよびエタノールのモノ−エトキシル化誘導体を含む混合物が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二級アルコール、第三級アルコールおよびこれらの混合物から選択される出発モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む、アルコキシル化アルコールを調製するための方法。
【請求項2】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物が、ホウ酸、無水ホウ酸、ホウ酸エステルおよびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物が、ホウ酸、無水ホウ酸およびこれらの混合物から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物がホウ酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物がホウ酸トリメチルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、グリシドールおよびこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルキレンオキシドがエチレンオキシドである、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
0℃から200℃まで、好ましくは50℃から130℃までの範囲にある温度において実施される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
出発アルコールが第二級モノ−ヒドロキシアルカノールである、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第二級アルコール、第三級アルコールおよびこれらの混合物から選択される出発モノ−ヒドロキシアルコールをアルコキシル化するための、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の使用。
【請求項11】
第一級モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含み、C14/C15アルコールを、HFおよびホウ酸トリメチルの存在下においてエチレンオキシドと反応させることを含む方法を除く、アルコキシル化アルコールを調製するための方法。
【請求項12】
第一級モノ−ヒドロキシアルコールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含み、前記ホウ素含有化合物が、ホウ酸、無水ホウ酸、およびこれらの混合物から選択される、アルコキシル化アルコールを調製するための方法。
【請求項13】
出発モノ−ヒドロキシフェノールを、フッ化水素および少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物の存在下においてアルキレンオキシドと反応させることを含む、アルコキシル化フェノールを調製するための方法。
【請求項14】
少なくとも1つのB−O結合を含むホウ素含有化合物およびアルキレンオキシドが、請求項2から5および請求項6または7のいずれか一項において、それぞれ定義されている、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2008−514574(P2008−514574A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532899(P2007−532899)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054777
【国際公開番号】WO2006/034997
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】