説明

アルコールの再利用方法

【課題】水を含むアルコール溶液から効率よくアルコールを分離・回収する方法を提供する。
【解決手段】水を含むアルコール溶液と、ベタイン、アミノ酸及び下式(1)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種とを混合することにより、アルコール溶液において水とアルコールを分離させる方法。


(式中、Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミノ基又はハロゲン原子を表し、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表すか、隣接する炭素原子と二重結合を形成することができる。Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミノ基又はハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含むアルコール溶液からアルコールを回収する方法に関する。また、本発明は、当該回収したアルコールを再利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、大気中の温室効果ガスの一種である二酸化炭素の増加防止への活動が活発になっており、加えてPRTR法の施行、悪臭防止法の規制強化、大気汚染防止法など、環境保全に関する法律も年々厳しくなっている。
【0003】
アルコールは化学品、医薬中間体、食品原料などの製造や精製など一般に広く使われている溶媒であるが、排出規制の強化、近年の円高等による原料高騰により、効率よく回収・再利用する方法が求められている。
【0004】
アルコールを回収する方法として蒸留があるが(特許文献1参照)、水を含むアルコールの蒸留では、別途蒸留装置が必要となること、水を多く含むアルコールからの蒸留では負荷が大きくコストが高かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−275019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、カルニチンを製造する際に、合成したカルニチンはアルコールを含む溶媒を使用して精製する。その精製を行う際に、晶析等の操作を行った後、母液を再利用することでアルコールを回収・再利用することができる。しかしながら、母液には有機化合物等の不純物も多く含まれるため、それらを取り除くの操作が必要となり、アルコールの回収方法としては煩雑になり満足いくものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、水を含むアルコール溶液から効率よくアルコールを分離・回収する方法を提供することにある。また、当該分離・回収したアルコールを再利用する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水を含むアルコール溶液に特定の化合物を添加することにより水とアルコールが容易に分離すること、更には、このようにして得られたアルコールを再利用することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、水を含むアルコール溶液と、
ベタイン、アミノ酸及び一般式1
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。Rは水素、ヒドロキシル基又は隣接する炭素と二重結合を形成することができる。Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるが、好ましくは塩素である。)
で示される化合物から選ばれる少なくとも1種とを
混合することにより、アルコール溶液において水とアルコールを分離させる方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水を含むアルコール溶液からアルコールを容易に分離することができる。また、分離したアルコールを再利用することもできるので、環境に優しい方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
(1)本発明の第一態様:アルコールの溶液からアルコールの分離
(1−1)水を含むアルコール溶液
水を含むアルコール溶液とは、水とアルコールが相分離していない均一な溶液を示す。アルコールとしては、炭素数3〜5のアルコールをいい、その種類は限定されず、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコールのいずれであってもよい。
【0015】
本発明で使用するアルコールのうち好ましくは、イソプロパノール、ノルマルブタノール及びイソブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である。より好ましくは、ノルマルブタノール又はイソブタノールである。当該アルコールを使用することにより、アルコールと水の分離及び分離したアルコールの再利用を効率的(容易に)に実施することができるからである。また、アルコールを2種以上組み合わせて用いる場合には、アルコールから水を効率よく分離することができれば、混合するアルコールの組み合わせの種類及び混合比は限定されない。
【0016】
アルコール溶液に含まれる水の量は限定されず、例えば、アルコールへの水の最大溶解度以下とすることができる。1〜60質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましい。水の含有量を60質量%以下とすることにより、水を含むアルコール溶液から水とアルコールを分離するために使用する化合物(以下、「分離用化合物」という。)の添加量を少なくすることができる。また、1質量%以上とすることにより、水を含むアルコール溶液から効率的にアルコールを回収できる。
【0017】
(1−2)水を含むアルコール溶液において水とアルコールとを分離させる化合物(分利用化合物)
本発明において水を含むアルコール溶液からアルコールを分離するために使用する化合物(分離用化合物)は、ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類である。当該分離用化合物は、1種を単独で使用することもできるし、複数を混合して(組み合わせて)使用することもできる。複数使用する場合の組み合わせの種類や混合比については、水とアルコールを容易に分離することができる限り限定されない。
【0018】
これらの分離用化合物は、光学活性の有無や種類、光学異性体の種類については限定されない。また、当該化合物は、塩を形成していてもよい。塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素、硫酸、硝酸又は燐酸等の無機イオンとの塩が挙げられる。
【0019】
ベタイン
ベタイン類であれば特に限定されない。例えば、3−カルボキシラト−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(ブチロベタイン)、3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(カルニチン)、N,N,N−トリメチル−3−カルボキシラト−2−プロペン−1−アミニウム(クロトノベタイン)等であれば効率よく水とアルコールを分離することができるので好ましい。
【0020】
アミノ酸
アミノ酸としては、水との親和性の高いものが好ましい。水との親和性がないか又は低い場合は、添加したアミノ酸がアルコール相に溶解してしまい、水とアルコールが相分離できない可能性があるからである。好ましいアミノ酸としては、例えば、プロリン、リジン、フェニルアラニン、4−ヒドロキシ−L−プロリン、ヒスチジン、バリン、ノルバリン、タウリン、シトルリン、グリシン、オルニチン、エルゴチオネイン、アルギニン、β−アラニン、アラニン、γ−アミノ酪酸を挙げることができる。これらの中でも、L−プロリン、リジン、4−ヒドロキシ−L−プロリン、L−ヒスチジン、L−オルニチン、L−アルギニン、β−アラニン、L−アラニンがより好ましい。効率よく水とアルコールを分離することができるからである。
【0021】
一般式1で示される化合物
一般式1で示される化合物は、以下の通りである。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。Rは水素、ヒドロキシル基又は隣接する炭素と二重結合を形成することができる。Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示し、好ましくは塩素である。
【0024】
より詳細には、一般式1で示される化合物としては、1,3−ジクロロ−2−プロパノール,2,3−ジクロロ−1−プロパノール、4−クロロ−3−ヒドロキシ−ブチロニトリル、カルニチンニトリル、4−ヒドロキシ−2−ブテンニトリル、3−ヒドロキシ−4−シアノブタンアミド、3,4−ジヒドロキシブタンアミド、3,4−ジヒドロキシブタン酸ナトリウム、3−ヒドロキシ−4−カルボキシブタンアミド、3−ヒドロキシペンタンジアミド、3‐クロロ−2−オキシ−プロピルトリメチルアンモニウム、4−シアノ−3−ヒドロキシブタン酸ナトリウム、2,3−ジヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−N,N,N,N,N,N−ヘキサメチル−1,3−プロパンジアミニウムクロライド、3−ヒドロキシグルタロニトリル、N,N,N−トリメチル−4−アミノ−4−オキソ−2−ヒドロキシ−1−ブタンアミニウム、4−ヒドロキシ−2−ブテンアミド、4−ヒドロキシ−2−ブテン酸ナトリウム、3−ヒドロキシグルタル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
これらの中でもより好ましくは、3−ヒドロキシグルタロニトリル、N,N,N−トリメチル−4−アミノ−4−オキソ−2−ヒドロキシ−1−ブタンアミニウム、4−ヒドロキシ−2−ブテンアミド、4−ヒドロキシ−2−ブテン酸ナトリウム、3−ヒドロキシグルタル酸ナトリウムである。これらの化合物は、容易に水とアルコールを分離することができるからである。
【0026】
分離用化合物を使用する際の形態は特に限定されず、好ましくは結晶、乾固した固形分又はスラリーを使用することができる。より好ましくは、水とアルコールの分離を容易に行うことができることから、結晶又は乾固した固形分である。
【0027】
例えば、WO2008/056827号公報記載の製造方法を用いて3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(カルニチン)を製造する場合、得られたカルニチンをノルマルブタノールを用いて精製し結晶を取得することが知られている。当該精製工程において生じる母液(廃液)を濃縮又は乾固して得られる結晶又は固形物(主成分:カルニチン)を使用することも可能である。この場合、母液に含まれる成分を本発明における分離用化合物として添加することができるため、新たに化合物を使用する必要がなく効率的である。
【0028】
(1−3)アルコール溶液における水とアルコールの分離
本明細書において相分離とは、水を含むアルコール溶液と、分離用化合物とを混合することによりアルコール相と水相の2相に分離する現象を指す。更には、水とアルコールの2相に分離した溶液と分離用化合物を混合させることにより、アルコール相から更に水を除くことができる。
【0029】
本明細書において、アルコール溶液と分離用化合物との混合とは、アルコール溶液に分離用化合物を添加することも含み、また、分離用化合物にアルコール溶液を添加することも含む。更には、アルコール溶液に分離用化合物を添加(又はその逆)した後に撹拌等を行うことも含む。撹拌等の方法も限定されず、通常の混合に用いられる装置で混合することができる。例えば、撹拌子、攪拌羽で攪拌する方法、容器底部からガスを吹き込むことにより混合する方法、超音波で混合する方法、水を含むアルコール溶液と分離させるための化合物のスラリー溶液をインラインで混合する方法などが挙げられる。本明細書では、便宜的に、アルコール溶液に分離用化合物を添加する態様について代表して述べる。
【0030】
分離用化合物又はアルコール溶液を添加する方法としては、分離用化合物が迅速に溶解すれば特に限定はされない。徐々に添加しても良く、一括で添加しても良い。必要に応じて撹拌することも可能である。例えば、分離用化合物を添加しながら撹拌(撹拌しながら分離用化合物を添加)してもよく、分離用化合物の全量を添加してから撹拌してもよい。
【0031】
水を含むアルコール溶液に添加する分離用化合物の量は、十分に水とアルコールが分離できれば特に限定されず、アルコールの種類及び分離用化合物の種類に応じて適宜選択することができる。添加量を増やすことにより、より多くの水をアルコールから分離することができる。一方、添加量が過剰になると、当該分離用化合物の溶解度を超えてしまい、当該分離用化合物が溶解せずに残留する可能性がある。
【0032】
イソプロパノールの場合、分離用化合物の好ましい添加量は、アルコール溶液に含まれる水に対して40〜500質量%であればアルコール相(イソプロパノール相)と水相に分離することができる。さらには、40〜300質量%であれば添加する化合物量を抑えて効率よく相分離させることが可能である。
【0033】
例えば、イソプロパノールは水を50質量%含む溶液(アルコール:水=1:1)では均一(相分離していない)となる。当該アルコール溶液に対して、(R)−3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(L−カルニチン)を室温で20質量%(アルコール溶液に含まれる水に対して40質量%)を添加すると相分離する。添加量を増やすことにより、アルコール中の水分をさらに低減することができる。
【0034】
また、ノルマルブタノールの場合、分離用化合物の添加量は好ましくはアルコールに含まれる水の量に対して1〜500質量%が好ましく、4〜300質量%がより好ましい。500質量%以下とするのは、それ以上添加すると水の分離効率が悪化するからである。また、1質量%以上とするのは、効率よく水をアルコール溶液から分離することができるからである。
【0035】
ノルマルブタノールは、水を20質量%含む均一な(相分離していない)溶液(アルコール:水=4:1)に対して、1質量%(含まれる水に対して6質量%)のL−カルニチンを添加することにより十分に相分離する。31質量%(含まれる水に対して153質量%)のL−カルニチンを添加する場合、十分に相分離する上に、ノルマルブタノール中に含まれる水は3.9質量%にまで減少する。
【0036】
分離用化合物の添加量に対する相分離の効果については、添加する化合物量を増やしていくと化合物質量当りの相分離に与える効果は低下する(ノルマルブタノールの場合)。例えば、水を20質量%含有するノルマルブタノールにL−カルニチンを添加する場合、含まれる水の量に対して当該化合物を50質量%添加した時には添加した化合物重量に対して120質量%の水が水相へ分離される。また、分離用化合物を150質量%添加した場合には50質量%の水が水相へ分離される。更には、分離用化合物を200質量%添加した場合には40質量%の水が水相へ分離される。
【0037】
分離用化合物を添加する際の溶液のアルコール溶液の温度は限定されず、アルコールの種類や水との混合比率に応じて適宜選択することができる。水を分離させる際には低温で行われることが好ましい。高温の場合は相互溶解度高くなり、分離しにくい状況が生じる可能性があるからである。例えば、イソプロパノール、ノルマルブタノール又はイソブタノールであれば−80℃〜60℃の範囲で行えばよい。60℃以下とすることにより、効果良くアルコール溶液から水を分離させることができる。−80℃以上とすることにより、工場等で運転する場合には運転コストを抑制できるからである。
【0038】
添加した分離用化合物が溶解した後、混合を終了し溶液が完全に相分離するまで静置又は遠心分離等の操作で分離する。このときのアルコール相中の水分量は、添加した化合物の量にもよるが、2〜40質量%の範囲とすることができる。2〜20質量%の範囲であれば、工業的に有意に再利用できるので好ましい。
【0039】
上記方法で得られた相分離したアルコール溶液から、必要に応じてアルコールと水を別々に回収することができる。水相はアルコール相より重く、容器の下部に溜まることから、例えば、分液やデカンテーションなどの方法でアルコールと水を回収することができる。
【0040】
(2)本発明の第二態様:アルコールの再利用1
本発明におけるアルコールの再利用の一例を示す。例えば、ベタイン(カルニチン等)の製造において、電気透析により精製して得られたベタインの水溶液の溶媒を水からアルコールに置換し(溶媒置換)、当該溶媒を濃縮することによりベタインを得る方法を採る場合に、本発明の方法を利用することができる。
【0041】
(2−1)工程(a):ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液にアルコールを添加する工程
まずは、ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液の濃度を調製する。濃度は特には限定されず、アルコール溶液の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、50〜90質量%、好ましくは75〜80質量%に調製すればよい。50質量%以上とすることにより、次の工程(b)での濃縮脱水に要する負荷を抑えることができる。また、90質量%以下とするのは、そのような効果の飛躍的な向上が認められにくいからである。
【0042】
当該水溶液は市販の化合物を水溶液にしたものでもよいし、公知の方法で製造して得られたものでもよい。例えば、WO2008/056827に記載された方法で得られたベタインの水溶液を使用するのが好ましい。
【0043】
このようにして調製した水溶液にアルコールを添加する。アルコールの添加量は効率良く溶媒置換ができれば限定されないが、例えば、化合物に対して3〜20質量倍、より好ましくは4〜10重量倍とすることができる。
【0044】
また、アルコールを添加する際の水溶液のpHは特に限定されず、5〜10とすることができる。アルコールを添加する際の水溶液及びアルコールの温度は水溶液の流動性が悪化しない限り限定されない。例えば、20〜70℃、好ましくは40〜60℃とすることができる。当該範囲内では、分離用化合物を含む水溶液の流動性が良く、扱い易いからである。
【0045】
(2−2)工程(b):工程(a)で得られる水溶液を濃縮脱水し、留出液を回収する工程
次に、工程(a)で得られたアルコールを含む水溶液を濃縮脱水する。濃縮脱水する方法は特に限定されず、蒸留等の公知の操作で行うことができる。蒸留を行う際の水溶液の温度は添加するアルコールの種類及び量によって適宜選択することができる。例えば、20〜140℃、好ましくは40〜90℃とすることができる。20℃以上とすることにより効率良く蒸留を行うことができる。140℃以下とすることにより化合物の分解を抑制することができる。
【0046】
蒸留は減圧下で行うのが好ましい。効率良く濃縮脱水を行うことができるからである。水溶液の温度をあまり上昇させなくてもよいからでもある。濃縮脱水を終了するタイミングは、以下の工程が効率良く進めば特に限定されない。好ましくは、終了時の水の量が0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下となるまで行えばよい。0.5質量%以下とすることにより、水が多量に残留したことによる本発明の第三の態様の工程(h)での結晶の収率低下を抑制することができるからである。
【0047】
また、濃縮脱水して得られる、カルニチン等の化合物が濃縮された濃縮脱水液は、スラリー濃度が10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%とすることができる。10質量%以上とすることにより、スラリーの流動性を確保しながら固液分離を行うことができる。50質量%以下とすることにより、結晶と母液の分離(固液分離)が円滑に実施できる。
【0048】
留出液の回収方法としては限定されず、当該濃縮脱水操作を完了してから一括で回収することもできるし、濃縮脱水途中で回収することもできる。途中で回収する場合は複数回に分けて回収することもできる。
【0049】
例えば、まず留出開始から蒸気中の水分量が0.5〜30質量%となるまでの留出液を回収し、別途それ以降から濃縮脱水完了までの留出液を回収することができる。このようにすることにより、水を多量に含んだ留出初期の留出液を分けて回収することができるので、相分離させる水を含んだアルコール溶液の量を抑えることができ、効率よくアルコールを回収することができる。
【0050】
別途回収した留出液は処理の必要なく再利用することもできる。より好ましくは蒸気中の水分量が5〜25質量%の時であれば、まとめて回収した留出液中に高濃度の水が含有した状態で回収でき、水とアルコールを効率よく分離させることができる。さらには、それ以降の留出液はそのままアルコールとして再利用することも出来、効率的である。
【0051】
また、ディーンスターク等の装置を用いることにより水を優先的に留出させ、得られた留出液からデカンテーション等の方法で水の飽和したアルコール相を回収することもできる。この場合、後から回収する留出液中の水分量が低いため、再利用した際の濃縮・脱水にかかる負荷を抑えることができる。
【0052】
(2−3)工程(c):工程(b)で得られる留出液に、ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を添加することにより、留出液を水とアルコールとに分離する工程
分離用化合物及び分離する方法については、上記(1−2)及び(1−3)で述べた通りである。工程(b)で得られた留出液は5〜40質量%の水分を含んでおり、化合物を添加することにより水とアルコールを分離したり、その後さらにアルコール相から水分を水相に移動させたりすることができる。
【0053】
(2−4)工程(d):(c)で得られる相分離した留出液からアルコールを回収する工程
次いで、工程(c)で得られた相分離した留出液から、水を除去しアルコールを回収する。当該方法についても上記(1−3)に記載した通りである。
【0054】
(2−5)工程(e):(d)で得られるアルコールを、工程(a)に再利用する工程
その後、工程(d)で得られたアルコールを工程(a)において再利用する。すなわち、ベタイン等の化合物を含む水溶液に工程(d)で得られたアルコールを添加する。そのときのアルコールは、工程(d)で得られたものをそのまま使用しても良いし、再度化合物を添加することにより水分を減少させたアルコールを使用することもできるし、蒸留等の処理を行ってさらに脱水したアルコールを使用することもできる。
【0055】
(3)本発明の第態様:アルコールの再利用2
更に、本発明におけるアルコールの再利用の一例を示す。例えば、アルコール溶媒を用いてベタイン等の化合物を精製する際に、当該精製により発生する不純物等を含むアルコール廃液(以下、「母液」と称することがある)を更に濃縮し、固液分離することによりアルコールと固形成分(スラリーを含む)に分離する。残った固形成分を脱水濃縮で得られた留出液に添加することにより、留出液のアルコールを分離することができ、当該アルコールを再利用することができる。
【0056】
(3−1)工程(a):ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液にアルコールを添加する工程
上記(2−1)で述べた通りである。
【0057】
(3−2)工程(b):工程(a)で得られる水溶液を濃縮脱水し、留出液を回収する工程
上記(2−2)で述べた通りである。留出液を回収した後に残った液(固形分を含む)を濃縮脱水液という。
【0058】
(3−3)工程(f):工程(b)で得られる濃縮脱水液から固液分離により母液を回収する工程
本工程では、工程(b)で得られる濃縮脱水液を固液分離することにより、濃縮脱水液を結晶と母液とに分離することができる。
【0059】
当該固液分離の方法は、結晶と母液が十分に分離される限り特には限定されない。例えば、遠心濾過、加圧濾過、減圧濾過、自然濾過等の公知の方法を用いることができる。これらの中でも、遠心濾過や加圧濾過が簡便なので好ましい。
【0060】
固液分離に用いる濾材の種類は限定されない。例えば、濾紙、濾布、メッシュクロス、金属メッシュ、カートリッジフィルター等を使用することができる。当該濾材の孔径は限定されず、分離する結晶の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、保留粒子径が0.1〜100μmの範囲内であれば、固液分離を効率よく実施することができる。
【0061】
分離された結晶は、特に限定されないが洗浄(リンス、リパルプ、リスラリー)することができる。好ましくはイソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノールから少なくとも一種以上選択されるアルコールなどのアルコール類を用いて洗浄することにより、結晶のロスを少なく洗浄することができる。より好ましくは、ノルマルブタノール、イソブタノールを用いることで効率的に洗浄することができる。
【0062】
得られた結晶は、必要に応じて乾燥することができる。例えば、80℃以下で加熱しながら、必要に応じて常圧又はアスピレーターや真空ポンプ等の減圧が可能な装置を用いて減圧することにより、残留する溶媒を除去することができる。
【0063】
工程(g):工程(f)で得られる母液を濃縮する工程
工程(f)で得られる母液を濃縮することにより、残渣を得ることができる。当該残渣は、例えば次の工程(h)の、水を含むアルコール溶液においてアルコールと水を分離するための分離用化合物として使用することができる。
【0064】
ここで得られる残渣は、スラリーであっても固体であってもよい。濃縮操作によりスラリー状態で得られる残渣を乾燥又は固化することにより、残渣を固体として得ることができる。
【0065】
濃縮の方法は限定されず、工程(b)の濃縮操作と同様に、蒸留等の操作で行うことができる。当該濃縮操作で得られる留出分は水含有の少ないアルコールであり、回収して別途再利用することができる。
【0066】
濃縮は当該残渣の濃度が20質量%から完全に乾固するまでの任意の濃度に調製することができる。次の工程(h)におけるアルコールと水の相分離を効率良く実施することができるので、30〜100質量%が好ましい。高濃度の残渣のスラリー又は粉体を分離用化合物として用いることにより、次の工程(h)における添加量を抑えることができることから、40〜100質量%がより好ましい。
【0067】
工程(h):工程(g)で得られる残渣を工程(b)で回収した留出液に添加し、当該留出液を水とアルコールに相分離させる工程
次いで、工程(g)で得られた残渣(分離用化合物)を工程(b)で回収した留出液に添加する。当該操作により、留出液を水とアルコールに相分離することができ、更に、場合によっては、アルコール相中の水をアルコール相から水相へ移動させる(アルコール相中の水を除去する)ことができる。
【0068】
本工程における方法は、(1−3)で述べた方法で行えばよい。(1−3)のアルコール溶液を留出液と読み替えることができる。
【0069】
工程(i):工程(h)で得られる相分離した留出液からアルコールを回収する工程
工程(h)で得られる、アルコールと水とに相分離した留出液から、アルコールを回収する。当該方法については、(1−3)に記載した通りである。
【0070】
このとき得られるアルコール中の水分量は、工程(h)で添加した留出残分の量によって任意に変化させることができる。例えば、アルコールを再利用する目的から0.2〜20質量%となるように化合物の添加量を調節することが好ましい。0.2〜10質量%であれば、再利用した場合の水の影響を低減することができるのでより好ましい。
【0071】
工程(j):工程(i)で回収したアルコールを工程(a)に再利用する工程
工程(i)で回収したアルコールは工程(a)において再利用することができる。更に、工程(f)において母液を濃縮する際に別途回収したアルコール(母液中の溶媒)も、本工程においてアルコールとして再利用することもできる。
【0072】
再利用の方法は特に限定されず、例えば、工程(a)において、水溶液中にそのまま添加することができる。また、一部溶媒を留去した後に再利用することもできるし、蒸留精製した後に再利用することもできる。再利用にかかる精製負荷を低減することができることから、アルコールをそのまま再利用するのが好ましい。
【0073】
再利用する際のアルコールは、水溶液に含まれる化合物に対して、好ましくは3〜20重量倍量を添加することができる。より好ましくは4〜10重量倍量である。
【0074】
本発明における水分量の測定方法は限定されず、例えば、(株)製水分計(カールフィッシャー法)を用いた公知の測定方法で行うことができる。
【実施例】
【0075】
本明細書において、アルコール溶液中又は蒸気中の水分含量は、(株)製水分計(カールフィッシャー法)を用いて測定した。
【0076】
<実施例1>
水を49.5質量%含むイソプロパノール溶液83.3gに(R)−3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(L−カルニチン)を16.6g添加し、25℃で30分攪拌して混合させた後、1時間静置しアルコール相(イソプロパノール)と水相に分離させた。
【0077】
この時のアルコール相(イソプロパノール)中の水分をカールフィッシャー法で測定した結果、35.0質量%とアルコール相中の水分濃度が水を含むアルコール溶液中の水分濃度より低減していることが確認できた。この結果より、水とイソプロパノールが完全に混和した状態からイソプロパノールを分離することができることが分かった。結果を表1に示す。
【0078】
<実施例2〜3>
それぞれ、L−カルニチンを20.6g(実施例2)又は24.6g(実施例3)添加した以外は、実施例1と同様に実験を行った。L−カルニチンの添加により、水とイソプロパノールが分離することが分かった。また、イソプロパノール中の水分濃度を測定したところイソプロパノールから水が低減していることを確認した(表1中、アルコール相水分濃度参照)。
【0079】
【表1】

【0080】
<実施例4>
水を20.0質量%含むノルマルブタノール溶液9.51gに、L−カルニチンを0.48g添加し、25℃で30分攪拌して混合させた後、1時間静置しアルコール相(ノルマルブタノール)と水相に分離させた。
【0081】
この時のノルマルブタノール中の水分を測定したところ、11.5質量%と水を含むノルマルブタノール溶液中の水分濃度より低減していることが確認できた。この結果より、水とノルマルブタノールが完全に混和した状態から、ノルマルブタノールを分離することができ、更に水分を除去(低減)することができた。
<実施例5〜16>
表2に記載したように、L−カルニチンの添加量を変化させた以外は実施例4と同様に実験を行った(実施例5〜12)。また、L−カルニチンの代わりに、4−ヒドロキシプロリン(実施例13)、DL−リジン塩酸塩(実施例14)、L−プロリン(実施例15)又はL−カルニチン塩酸塩(実施例16)をそれぞれ使用した以外は、実施例4と同様に実験を行った。実験条件(添加した化合物の種類、添加量その他)及び結果を併せて表2に示す。
【0082】
水とノルマルブタノールが完全に混和した状態から、水を除去しノルマルブタノールを分離することができた。また、化合物の添加量を調整する事でアルコール相(ノルマルブタノール)中の水濃度を低減することができた。
【0083】
【表2】

【0084】
<実施例17>
水を20.0質量%含むノルマルブタノール溶液29.96gに、分離用化合物として、L−カルニチン0.9750g、(S)−3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(D−カルニチン)0.4694g、N,N,N−トリメチル−3−カルボキシラト−2−プロペン−1−アミニウム(クロトノベタイン)0.1138g、2−ヒドロキシ−N,N,N,N,N,N−ヘキサメチル−1,3−プロパンジアミニウムクロライド0.0119g、4−ヒドロキシ−2−ブテンアミド0.0060gの混合物を添加した以外は、実施例4と同様に実験を行った。
【0085】
この時のノルマルブタノール相中の水分を測定したところ11.2質量%と、低減していることが確認できた。この結果より、水とノルマルブタノールが完全に混和した状態から、ノルマルブタノールを分離することができることが分かった。また、分離用化合物の添加量を調整することにより、アルコール相(ノルマルブタノール)中の水濃度を低減することができることも分かった。
【0086】
【表3】

【0087】
<実施例18>
L−カルニチン及びD−カルニチンが質量比96:4のものを77質量%含む水溶液100.0gを調製し、ジャケットを60℃で加熱して溶液の温度が50℃以上となった時に溶液の温度を50℃以上に保ちながらノルマルブタノール331.1gを添加しよく混合させた。添加中は溶液の温度が50℃以下とならないよう添加速度を調整した。
【0088】
次に、ジャケット温度60℃のまま6.7〜9.3kPaに減圧を行い、溶液を濃縮脱水した。この時の留出液を留出量141.5gのところ(この時の蒸気中の水分は5.1質量%であった)で回収した(以下「留出液A」と称す)。
【0089】
さらに濃縮脱水を続け、88.0g留出したところ(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)で濃縮を終了した。この時回収した留出液中の水分は4.1質量%であった(以下「留出液B」と称す)。
【0090】
留出液A(141.5g)中の水分を測定したところ、14.1質量%の水分が含まれていた。そこにL−カルニチンを20.0g添加し、室温で30分攪拌した後、1時間静置し完全に相分離させた。アルコール相(ノルマルブタノール相)からサンプリングし水分量を測定したところ、4.0質量%であった。
【0091】
ノルマルブタノールと水が完全に分離した後、分液ロートで水を除去しノルマルブタノールを回収した。得られたノルマルブタノールの重量は113.3gであった。
【0092】
上記と同様の方法で調製したL−カルニチンを77質量%含む水溶液100.0gに、上記で相分離して得られたノルマルブタノール113.3g、留出液B88.0g、ノルマルブタノール155.8gを添加し、上記と同様に濃縮脱水を行ったところ、濃縮脱水液が200.1gの時、濃縮脱水液の水分濃度は0.16%であった。
【0093】
以上の方法より、ノルマルブタノールを留出液より分離し再利用することができることが分かった。また、再利用することによって使用するノルマルブタノールの量を抑えることができた。
【0094】
<実施例19>
実施例18と同様の方法で、カルニチンの77質量%水溶液100.0gを調製し、ノルマルブタノール331.1gを添加した。
【0095】
次に、実施例18と同様に溶液を濃縮脱水し、留出液が34.4g留出したところで留出液を回収した(以下「留出液C」と称す)。この時の蒸気中の水分は20.2質量%であった。さらに濃縮を続け、193.5g留出したところ(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)で濃縮を終了した。この時回収した留出液中の水分は7.8質量%であった(以下「留出液D」と称す)。
【0096】
留出液C34.4g中の水分を測定したところ、21.0質量%の水分が含まれていた。留出液CにL−カルニチンを11.0g添加し、実施例18と同様に相分離させた。アルコール相(ノルマルブタノール相)からサンプリングし水分量を測定したところ、3.9質量%であった。
【0097】
ノルマルブタノール相と水相が完全に分離した後、分液ロートで水相を除去しノルマルブタノール相を回収した。得られたノルマルブタノール相の重量は24.5gであった。
【0098】
上記と同様の方法で調製したカルニチンを77質量%含む水溶液100.0gに、上記で得られた相分離したノルマルブタノール24.5g、留出液D193.5g、ノルマルブタノール162.9gを添加し、上記と同様に濃縮脱水を行ったところ、濃縮脱水液が200.3gの時、濃縮脱水液の水分濃度は0.15%であった。
【0099】
以上の方法より、ノルマルブタノールを留出液より分離し再利用することができることが分かった。また、再利用することによって使用するノルマルブタノールの量を抑えることができた。
<実施例20>
L−カルニチンを77質量%含む水溶液100.0gを調製し、ノルマルブタノールを331.1g添加した。
【0100】
次に、実施例18と同様に溶液を濃縮脱水し、留出液が34.9g留出したところで留出液を回収した(以下「留出液E」と称す)。この時の蒸気中の水分は20.0質量%であった。さらに濃縮を続け、194.0g留出したところ(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)で濃縮を終了した。この時回収した留出液中の水分は7.7質量%であった(以下「留出液F」と称す)。留出液E34.9g中の水分を測定したところ、20.9質量%の水分が含まれていた。
【0101】
得られた濃縮脱水液の重量は200.0gで、含まれる水分は0.09%であった。濃縮脱水液には結晶が析出していたため、当該濃縮脱水液を室温まで冷却し濾紙(アドバンテックNo.4A)を装着した加圧ろ過機でろ過し、15.4gのノルマルブタノールで結晶を洗浄し結晶及び母液を回収した。得られた結晶は湿粉で92.0g、母液は113.2gであった。
【0102】
母液をジャケット温度60℃で2.7kPaにて減圧を行い濃縮、乾固し、カルニチンの粉末を3.1g取得した。この時の留出液(母液中の溶媒)を回収したところ、105.1gで水を0.2%含んでいた(以下「留出液G」と称す)。得られた乾固物を全量留出液Eに添加し、室温で実施例18と同様に相分離させた。アルコール相(ノルマルブタノール相)からサンプリングし水分量を測定したところ、9.1質量%であった。アルコールと水が完全に分離した後、分液ロートで水を除去し、ノルマルブタノールを回収した。得られたノルマルブタノールの重量は25.1gであった。
【0103】
上記と同様の方法で調製したカルニチンを77質量%含む水溶液100.0gに、上記で得られた相分離させたノルマルブタノール25.1g、留出液F194.0g、留出液G105.1g、ノルマルブタノール59.2gを添加し、上記と同様に濃縮脱水を行った。283.1g留出して(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)濃縮を終了し、濃縮脱水液中の水分を測定したところ、0.14質量%であった。濃縮脱水液を上記と同様の方法で固液分離し、結晶及び母液を回収したところ、得られた結晶は湿粉で92.1g、母液は112.2gであった。
【0104】
以上の方法より、母液中のL−カルニチンを用いて、留出液よりノルマルブタノールを分離し再利用することでノルマルブタノールを循環利用することができた。また、再利用することによって使用するノルマルブタノールの量を抑えることができた。
【0105】
<実施例21>
L−カルニチンを73.9g、D−カルニチンを3.1gを含む水溶液100.0gを調製し、ノルマルブタノールを331.1g添加した。
【0106】
次に、実施例18と同様に溶液を濃縮脱水し、留出液が141.0g留出したところで留出液を一度回収した(以下「留出液H」と称す)。この時の蒸気中の水分は5.2質量%であった。さらに濃縮を続け、88.5g留出したところ(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)で濃縮を終了した。この時回収した留出液中の水分は3.7質量%であった(以下「留出液I」と称す)。留出液H141.0g中の水分を測定したところ、14.0質量%の水分が含まれていた。
【0107】
得られた濃縮脱水液の重量は199.1gで、含まれる水分は0.08%であった。濃縮脱水液には結晶が析出していたため、当該濃縮脱水液を室温まで冷却し濾紙(アドバンテックNo.4A)を装着した加圧ろ過機でろ過し、15.4gのノルマルブタノールで結晶を洗浄し、結晶及び母液を回収した。得られた結晶は湿粉で86.0g、母液は120.0gであった。また、湿粉に含まれるL−カルニチンが68.4g、D−カルニチンが0.3gであった。
【0108】
母液を濃縮、乾固し、カルニチンの粉末を8.2g取得した。粉末はL−カルニチンを5.4g、D−カルニチンを2.8g含んでいた。この時の留出液(母液中の溶媒)を回収したところ、106.1gで水を0.2%含んでいた(以下「留出液J」と称す)。得られた乾固物を全量留出液Hに添加し、室温で実施例18と同様に相分離させた。アルコール相(ノルマルブタノール相)からサンプリングし水分量を測定したところ、9.0質量%であった。ノルマルブタノールと水が完全に分離した後、分液ロートで水を除去しノルマルブタノールを回収した。得られたノルマルブタノールの重量は115.5gであった。
【0109】
上記と同様の方法で調製したカルニチンを77質量%含む水溶液100.0gに、上記で得られたノルマルブタノール115.5g、留出液I88.5g、留出液J106.1g、ノルマルブタノール62.6gを添加し、上記と同様に濃縮脱水を行った。273.0g留出したところ(この時の蒸気中の水分は0.6質量%であった)で濃縮を終了し濃縮脱水液中の水分を測定したところ、0.16質量%であった。濃縮脱水液を上記と同様の方法で固液分離し、結晶及び母液を回収したところ、得られた結晶は湿粉で86.5g、母液は121.1gであった。湿粉に含まれるL−カルニチンが68.5g、D−カルニチンが0.3gであった。
【0110】
以上の方法より、母液中のカルニチンを用いて、留出液よりノルマルブタノールを分離し再利用することでノルマルブタノールを循環利用することができた。また、再利用することによって使用するノルマルブタノールの量を抑えることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含むアルコール溶液と、
ベタイン、アミノ酸及び一般式1
【化1】

(式中、Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。Rは水素、ヒドロキシル基又は隣接する炭素と二重結合を形成することができる。Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミド基、四級アミン又はハロゲンを示す。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素であるが、好ましくは塩素である。)
で示される化合物から選ばれる少なくとも1種とを
混合することにより、アルコール溶液において水とアルコールを分離させる方法。
【請求項2】
以下の工程を含むアルコールの再利用方法。
(a):ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液にアルコールを添加する工程
(b):工程(a)で得られる水溶液を濃縮脱水し、留出液を回収する工程
(c):工程(b)で得られる留出液に、ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を添加することにより、留出液を水とアルコールとに分離させる工程
(d):工程(c)で得られる相分離した留出液からアルコールを回収する工程
(e):工程(d)で得られるアルコールを、工程(a)に再利用する工程
【請求項3】
以下の工程を含むアルコールの再利用方法。
(a):ベタイン、アミノ酸及び一般式1で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液にアルコールを添加する工程
(b):工程(a)で得られる水溶液を濃縮脱水し、留出液を回収する工程
(f):工程(b)で得られる濃縮脱水液から固液分離により母液を回収する工程
(g):工程(f)で得られる母液を濃縮する工程
(h):工程(g)で得られる残渣を工程(b)で回収した留出液に添加し、当該留出液を水とアルコールに相分離させる工程
(i):工程(h)で得られる相分離した留出液からアルコールを回収する工程
(j):工程(i)で回収したアルコールを工程(a)に再利用する工程
【請求項4】
アルコールが炭素数3〜5のアルコールである、請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
アルコールが、イソプロパノール、ノルマルブタノール及びイソブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ベタインが、3−カルボキシラト−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(ブチロベタイン)、3−カルボキシラト−2−ヒドロキシ−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウム(カルニチン)及びN,N,N−トリメチル−3−カルボキシラト−2−プロペン−1−アミニウム(クロトノベタイン)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸が、L−プロリン、リジン、4−ヒドロキシ−L−プロリン、L−ヒスチジン、L−オルニチン、L−アルギニン、β−アラニン及びL−アラニンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
一般式1で示される化合物が、3−ヒドロキシグルタロニトリル、N,N,N−トリメチル−4−アミノ−4−オキソ−2−ヒドロキシ−1−ブタンアミニウム、4−ヒドロキシ−2−ブテンアミド、4−ヒドロキシ−2−ブテン酸ナトリウム及び3‐ヒドロキシグルタル酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−102042(P2012−102042A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251617(P2010−251617)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】