説明

アルコール及び/又はケトンの製造方法

本発明は、水蒸気の存在下、酸化物触媒を用いて、気相でアルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する方法に関する。本発明によれば、水蒸気の存在下、気相でアルケンを含有する原料を酸化物触媒と接触させて反応を行うことによって、アルコール及び/又はケトンを製造する方法であって、酸化物触媒が、(a)モリブデン及び/又はスズの酸化物を含有すること、及び(b)反応中において、酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量が0.1〜10質量%の範囲に制御されていることの要件を満たす、上記方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、水蒸気の存在下、酸化物触媒を用いて、気相でアルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する方法に関する。
【背景技術】
水蒸気の存在下、気相反応によりアルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する例としては、例えば、プロピレンからのアセトンの製造、1−ブテン又は2−ブテンからのメチルエチルケトン(MEK)の製造、シクロヘキセンからのシロヘキサノンの製造、イソブテンからのtert−ブタノールの製造等が挙げられる。これらの生成物はいずれも化学出発原料や溶剤として工業上極めて重要な化学物質である。
上記の反応の従来技術には、主として、パラジウム化合物等の貴金属触媒を用いるワッカー型の反応と、モリブデン、タングステン、スズ、コバルト等の非貴金属の複合酸化物触媒を用いる反応が挙げられる。
前者のワッカー型反応の例としては、パラジウム及び/又はパラジウム化合物と塩化銅をシリカ、アルミナ等の担体に担持した触媒を用いて、オレフィン、酸素、水蒸気の存在下でカルボニル化合物を製造する方法がある(例えば、特開昭49−72209号公報参照)。特開昭49−72209号公報の実施例には、塩化パラジウムと塩化銅をシリカに担持した触媒を用いて、1−ブテンからメチルエチルケトン(MEK)を製造する記載がある。
他に塩化物を触媒に用いない例として、オレフィン類を水蒸気の存在下に酸素又は酸素含有気体によって気相酸化してアセトアルデヒド又はケトン類を製造するに際し、触媒としてパラジウム塩及びバナジル塩を活性炭に担持させた触媒を使用する方法がある(例えば、特開昭59−163335号公報参照)。特開昭59−163335号公報の実施例には、硫酸パラジウムと硫酸バナジルを活性炭に担持した触媒を用いて、プロピレンからアセトンを製造する記載がある。
しかしながら、これらの触媒は非常に高価な貴金属を用いる上、本発明者らの追試によれば、両触媒共に短時間で活性劣化が認められた。
一方、貴金属触媒を用いない後者の例としては、モリブデン酸化物と均一に担体に分布した微粒子状のスズ酸化物とからなる触媒を用いて、オレフィンと酸素とを水蒸気の存在下で反応させる方法がある(例えば、特公昭47−8046号公報参照)。特公昭47−8046号公報の実施例には、二酸化スズと三酸化モリブデンをシリカに担持した触媒を用いて、プロピレンからアセトンを製造する記載がある。
また、類似の触媒を用いた例として、酸化モリブデン、酸化スズ、特定量のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を担体に担持させた触媒を用いて、オレフィンと蒸気との混合物を反応させる方法がある(例えば、特開昭49−61112号公報参照)。特開昭49−61112号公報の実施例には、二酸化スズ、三酸化モリブデン、ナトリウムをシリカに担持した触媒を用いて、トランスブテンからMEKを製造する記載がある。
他に、類似の触媒を用い、反応原料中に酸素を少量含むオレフィンと水蒸気からなるガスと、酸素を多量に含むガスとを交互に触媒に接触させる方法がある(例えば、特公昭49−34652号公報参照)。特公昭49−34652号公報の実施例には、二酸化スズ、三酸化モリブデンをシリカに担持した触媒を用いて、n−ブテンからMEKを製造する記載がある。
しかしながら本発明者らの追試によれば、これらの非貴金属触媒を用いるいずれの場合においても、反応により触媒上に極めて多くの炭素質物質が生成するため、供給したアルケンに対する目的生成物であるケトンの選択率が低くなるという欠点が判明した。
【発明の開示】
本発明は、水蒸気の存在下に、酸化物触媒を用いて、気相でアルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する反応において、反応の際に触媒上に蓄積する炭素質物質の生成を抑制して、目的生成物(アルコール及び/又はケトン)の選択率を大幅に向上させた製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(a)モリブデン及び/又はスズの酸化物を含有し、(b)触媒上の炭素質物質の蓄積量が特定の範囲に制御された触媒を用いることが、その目的に適合しうることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記に示された製造方法に関する。
(1)水蒸気の存在下、少なくとも一種のアルケンを含有する原料を気相で酸化物触媒と接触させて反応を行うことによって、該アルケンに対応するアルコール及び/又はケトンを製造する方法であって、
前記酸化物触媒が、
(a)モリブデン及び/又はスズの酸化物を含有すること、及び
(b)前記反応中において、前記酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量が0.1〜10質量%の範囲に制御されていること、
の要件を満たす、上記アルコール及び/又はケトンの製造方法。
(2)前記反応によって得られた反応混合物から未反応のアルケン、アルコール及び/又はケトンを回収し、未反応のアルケンは原料の一部としてリサイクルすることを含む、上記(1)項記載の方法。
(3)前記反応を流動床反応方式で行う際に、反応に供した酸化物触媒を反応器から抜き出し、酸素含有ガスの存在下で該酸化物触媒を再生処理し、該再生処理済みの酸化物触媒を再度反応器に戻す触媒循環方式を用いる、上記(1)又は(2)項に記載の方法。
(4)反応器に戻る酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.1〜10質量%の範囲に制御する、上記(3)項記載の方法。
(5)酸素含有ガス存在下での酸化物触媒の再生処理温度が270〜550℃である、上記(3)又は(4)項に記載の方法。
(6)反応器に戻る酸化物触媒量/反応器に供給するアルケン量(質量比)が、0.5〜100の範囲である、上記(3)〜(5)項のいずれか1項に記載の方法。
(7)酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.3〜5質量%の範囲に制御する、上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の方法。
(8)酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0.29及び0.51以外の範囲である、上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法。
(9)酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0≦X<0.50(0.29を除く)の範囲である、上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法。
(10)酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0.01≦X≦0.24の範囲である、上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法。
(11)反応器に供給する酸素ガス量/反応器に供給するアルケン量(モル比)が、0.0〜0.5の範囲である、上記(1)〜(10)項のいずれか1項に記載の方法。
(12)反応器に供給する水蒸気量/反応器に供給するアルケン量(モル比)が、0.05〜10.0の範囲である、上記(1)〜(11)項のいずれか1項に記載の方法。
(13)前記反応後の回収水の全部又は一部を再度該反応に使用する、上記(1)〜(12)項のいずれか1項に記載の方法。
(14)アルケンが1−ブテン及び/又は2−ブテンである、上記(1)〜(13)項のいずれか1項に記載の方法。
(15)アルケンとして1−ブテン及び/又は2−ブテンを含有する原料が、イソブテン、ブタジエン、tert−ブチルアルコール、メチル−tert−ブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む、上記(14)項記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の方法に用いられる触媒は、モリブデン及び/又はスズの酸化物を含有する触媒である。
これらの酸化物は、単独で用いても良いが、モリブデンとスズの酸化物の両方を機械的混合及び/又は複合酸化物として用いることにより、触媒活性や目的生成物の選択率を向上させる効果がありより好ましい。また、触媒活性や目的生成物の選択率の更なる向上のために、他元素の酸化物を添加することもできる。周期律表第4族、第5族、第6族、第8族、第9族、第10族、第11族、第14族、第15族に属する元素が好ましく、より好ましくは、第4族元素がチタン、ジルコニウムであり、第5族元素がバナジウム、ニオブであり、第6族元素がタングステン、クロムであり、第8族元素が鉄であり、第9族元素がコバルトであり、第10族元素がニッケルであり、第11族元素が銅であり、第14族元素が鉛であり、第15族元素がビスマス、アンチモン、リンである。ここで言う周期律表とは、化学便覧基礎編I改訂4版(日本化学会編、丸善、1993年)I−56頁記載の18族型元素周期律表のことである。微量であれば、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等のアルカリ金属やマグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物を更に添加しても良い。
また、これらの酸化物は適切な担体に担持して用いることがより好ましい。担体としてはシリカ、シリカアルミナ、アルミナ、チタニア、シリカチタニア、ジルコニア、シリカジルコニア等の無機酸化物が好ましく、特に好ましくはシリカである。更に、触媒の機械的強度を増すためにカオリン、タルク等の粘土を添加しても良い。
酸化物触媒がモリブデンとスズの酸化物を含む場合には、モリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0.29及び0.51以外の範囲であることが好ましく、0≦X<0.50(0.29を除く)の範囲がより好ましく、0.01≦X≦0.24の範囲が一層好ましく、0.05≦X≦0.24の範囲が更に一層好ましく、0.08≦X≦0.15の範囲が特に好ましい。Xが0.01未満では、触媒活性が低い傾向があり、また、0.29以上では選択率が低下する傾向があり、さらに0.51以上では触媒を焼成する際にモリブデンの結晶が触媒外部に析出し、流動床方式の反応に用いるときに触媒の流動性を低下させる傾向がある。触媒の流動性及び目的物質の選択率の両面において好ましい範囲は、0.01≦X≦0.24である。
以下、本発明に用いる酸化物触媒の調製方法について詳細に述べる。
触媒調製は、主に1)触媒原料溶液の調製工程、2)触媒原料溶液の乾燥工程及び触媒前駆体の焼成工程から成る。
1)触媒原料溶液の調製工程
触媒の活性種である酸化物(以降、用語「酸化物」は複合酸化物も包含するものとする)を形成する原料の化学的形態に特に制限はない。好ましくは、200〜1000℃において酸化物を形成する塩、化合物を用いる。例えば、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、アンモニウム塩、塩化物、水酸化物等である。また、市販の酸化物をそのまま用いることもできる。
通常、原料の1種以上を水又は適切な溶媒に、20〜80℃で十分に溶解させる。この時該原料の溶解度を高めるため、溶液の液性を酸性又はアルカリ性に制御しても良い。難溶性の場合は過酸化水素等を添加する場合もある。
原料溶液はそのまま乾燥しても良いが、先述の様に適切な担体に担持させるべく、担体成分を含有する粉末、溶液、ゾル、ゲル等と十分混合することが好ましい。
この時、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等を酸化物原料として用いる場合には、後の焼成工程で腐食性ガスが発生するために、アンモニア水を添加し水酸化物に変換することが好ましい。更に粘度等を調節するために、該混合液の液性を酸性やアルカリ性に調整しても良い。
2)触媒原料溶液の乾燥工程・触媒前駆体の焼成工程
この工程は、上記触媒原料溶液(以降、用語「触媒原料溶液」は担体成分を含む場合も包含するものとする)から乾燥により溶媒を除去し触媒前駆体を得、その後焼成等の処理をして酸化物触媒に変換する工程より成る。
触媒原料溶液の乾燥方法に特に制限はない。例えば、エバポレーターで該触媒原料溶液から減圧下に50〜90℃で溶媒を除去後、真空乾燥器にて50〜150℃で1〜48時間乾燥する方法や、150〜300℃に加熱したホットプレート上に該触媒原料溶液をノズルで吹き付け乾燥する方法、またスプレードライヤー(噴霧熱風乾燥器)を用いて乾燥する方法等が挙げられる。工業的にはスプレードライヤーでの乾燥が好ましい。スプレードライヤーとは乾燥室、原料液噴霧部、熱風吸気・排気部、乾燥粉末回収部からなる熱風乾燥器のことであり、好ましい噴霧乾燥条件は、該触媒原料溶液をポンプを用いて供給し、ロータリーアトマイザー(遠心式噴霧器)、加圧ノズル、二流体ノズル(ガス式噴霧器)等により乾燥室内に噴霧する。噴霧された該触媒原料溶液の液滴は、入口温度150〜500℃に制御された熱風と向流または並流に接触され溶媒を蒸発し、乾燥粉末として回収される。
この様にして得た乾燥触媒前駆体を焼成する方法に特に制限はない。好ましくは、電気炉中で窒素等の不活性ガス及び/又は酸素含有ガスの流通下、400〜1000℃で0.5〜48時間焼成する。
更に、触媒活性種を触媒上に均一に分散させるために、焼成前又は後に水蒸気で150〜500℃で0.5〜48時間処理しても良い。
また、本発明の触媒は反応の形式に応じて、打錠成形、押し出し成形、噴霧成形等の公知の成形方法により、円柱状、円筒状、球状等に成形して反応に供される。該成形は、触媒前駆体においてなされても良いし、焼成後になされても良い。
本発明の反応を流動床反応形式で実施する場合には、触媒原料溶液をスプレードライヤーを用いて乾燥し、成形された触媒前駆体を得、酸素含有ガスを流通させながら500〜800℃で1〜24時間焼成する方法が特に好ましい。
次に、本発明の酸化物触媒上に蓄積される炭素質物質について述べる。
本発明の反応に用いる触媒は、反応中において触媒上の炭素質物質の蓄積量(以下に定義される)を0.1〜10質量%の範囲に制御した触媒である。
ここで言う炭素質物質とは、炭素を主成分とする、有機化合物を介する化学反応により触媒上に蓄積し、反応中には触媒上から飛散せず蓄積する重質物のことである。例えば、アルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する際に、または、前記反応とは別に反応性に富む有機化合物との接触によって、触媒上に蓄積する重質物等である。
本発明において、触媒上での炭素質物質の蓄積量の範囲は、上記のように0.1〜10質量%の範囲に制御することが必要であり、好ましくは0.3〜8質量%であり、より好ましくは0.3〜5質量%であり、更に好ましくは0.5〜5質量%であり、特に好ましくは1〜5質量%である。炭素質物質の蓄積量が、0.1質量%未満では、後述する反応による炭素質物質の生成を抑制する効果が不十分な傾向があり、10質量%を超えると触媒活性が不十分となる傾向がある。
触媒上の炭素質物質の蓄積量は、有機元素分析に使用されるCHNコーダーを用いて炭素質物質が蓄積された触媒の炭素質量を測定し、次式により定義される。
触媒上の炭素質物質の蓄積量(質量%)=B/(A−B)×100
A:炭素質物質が蓄積された触媒全体の質量(Kg)
B:CHNコーダーで測定した炭素質物質が蓄積された触媒の炭素質量(Kg)
CHNコーダーの分析条件は、CHNコーダーの一般的な測定条件で良いが、具体的には、被検体数mg〜十数mg(触媒上の炭素質物質の蓄積量に応じて加減する)を850℃の燃焼炉内において、一定量の酸素ガスを含むヘリウム気流中で被検体中の有機成分を燃焼させ、その燃焼ガスより炭素質量を測定する。
触媒上の炭素質物質の蓄積量を制御する方法については、例えば本明細書に記載の反応条件に代表される適切な反応条件を選択することによって上記範囲に制御できる。また、触媒上に炭素質物質が蓄積した反応後の触媒を再生する際に、例えば本明細書に記載の再生条件に代表される適切な再生条件を選択することによって、再度反応に供される再生触媒上の炭素質物質の蓄積量を制御し、結果的に反応器内の触媒上の炭素質物質の蓄積量を上記範囲に制御できる。
特に、アルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する反応を流動床反応器と再生器間で触媒を循環させる方式で行う場合には、以下の再生条件で再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量を上記範囲に制御することが好ましい。すなわち、酸素ガス濃度が10容量ppm〜21容量%の酸素ガス含有雰囲気下に100〜550℃で10秒〜10Hr保持することである。温度については、より好ましくは270〜550℃であり、特に好ましくは270〜500℃である。270℃未満では、行われた反応条件が過酷であった場合には触媒活性の回復が不十分な傾向があり、550℃を超えると、触媒上の炭素質物質が完全に燃焼してしまう傾向がある(すなわち、本発明において規定された範囲の下限を下回る)。
アルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する反応を分子状酸素の存在しない条件又は極めて分子状酸素が少ない条件で行う際には、反応時に酸素源として酸化物触媒の格子酸素が使われる。このような場合には、上記再生条件下で処理することにより、格子酸素も同時に補充できるので好ましい。
他にも、触媒を適切な処理条件の下、芳香族炭化水素類やジエン類の様な反応性に富む有機化合物と接触させることによって、触媒上への炭素質物質の蓄積量を制御することができる(例えば、上記化合物の気相雰囲気下、130〜500℃での処理が好ましい)。
いずれにしても、反応条件、再生条件、処理条件等を適切に選択し、触媒上での炭素質物質の蓄積量を、反応中において0.1〜10質量%の範囲に制御することが重要である。
次に、触媒上の炭素質物質の蓄積量を特定の範囲に制御した場合の効果につき述べる。
フレッシュな触媒や触媒上に炭素質物質がほとんど蓄積していない触媒(すなわち、触媒上の炭素質物質の蓄積量が本発明によって規定された範囲の下限を下回る触媒)を、アルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する反応に用いたとする。この場合、反応により生成し触媒に蓄積する炭素質物質が極めて多いため、供給したアルケンに対する目的生成物の収率(すなわち、生成物中の目的生成物の選択率)が著しく低下する。
これに対し、炭素質物質の蓄積量が特定の範囲になるように制御した本発明の触媒は、反応によって生成する炭素質物質の触媒上への蓄積を著しく抑制でき、結果的に目的生成物の選択率を大幅に向上することができる。しかも、本発明の触媒により、目的生成物の生産性をフレッシュな触媒並にすることができる。
特に、分子状酸素の存在しない条件又は極めて分子状酸素が少ない条件で、上記反応を連続して行う際には、触媒活性を維持するために、頻繁に酸素ガス含有雰囲気下で触媒を再生しなければならない。反応の酸素源として使用された酸化物触媒の格子酸素を補う必要があるからである。この再生処理の際、従来の様に触媒活性を回復させる目的で触媒に蓄積した炭素質物質までもほぼ完全に除去してしまうと、再度反応による炭素質物質の生成及び触媒上への過度の蓄積が起こる。その結果、触媒の再生頻度に比例して、不要な炭素質物質となる原料の損失が大きくなり、またユーティリティーコストも増加する。本発明の触媒により、これらの損失を顕著に抑制することが可能となる。
次に、本発明の方法につき詳細に述べる。
本発明の方法とは、水蒸気の存在下、気相でアルケンを含有する原料を酸化物触媒と接触させて反応を行い、該アルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する反応である。
反応の機構は明確ではないが、本発明者らは、まずアルケンと水蒸気との水和反応によりアルコールを生成し、次に生成したアルコールと気相の分子状酸素又は固相酸素(すなわち、酸化物触媒の格子酸素)とが酸化的脱水素反応を起こして、ケトンを生成するものと推定している。
反応原料に含有されるアルケンは、好ましくは、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン(シス及び/又はトランス)、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、シクロオクテン等が挙げられる。更に好ましくはプロピレン、1−ブテン、2−ブテン(シス及び/又はトランス)、シクロヘキセンであり、特に好ましくは1−ブテン、2−ブテン(シス及び/又はトランス)である。これらは単独で用いても良いが、2種以上を混合して用いることもできる。特に、工業的にはナフサの熱分解によって得られるC留分から抽出によってブタジエン(1,2−ブタジエン及び/又は1,3−ブタジエン)を除いたCラフィネート−1や、Cラフィネート−1をHO又はメタノールと反応させて、含まれるイソブテンをtert−ブチルアルコール又はメチル−tert−ブチルエーテルに変換して除いたCラフィネート−2は有用な原料である。ただし、これらは完全には除けないため、1−ブテン及び/又は2−ブテン1モルに対し、1モル以下、好ましくは0.5モル以下、より好ましくは0.1モル以下、特に好ましくは0.05モル以下の範囲であれば、イソブテン、ブタジエン、tert−ブチルアルコール、メチル−tert−ブチルエーテル等が含まれていても良い。このことは原料精製コストを低減できる有益な特徴である。
また、反応原料には窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス等の反応に不活性なガスを希釈ガス、キャリャーガスとして混合、同伴させても良い。
反応器に供給する水蒸気量/反応器に供給するアルケン量(モル比)は、好ましくは0.05〜10.0の範囲内であり、より好ましくは0.2〜5.0の範囲内であり、特に好ましくは0.5〜2.0の範囲内である。そのモル比が、0.05より少ないと反応速度が遅くなる傾向があり、多い場合は反応速度は上がる傾向があるが、10.0より多くしても特に効果が少なく、水蒸気を製造する余剰のエネルギーが必要となる。
上記反応には、分子状酸素は存在させても良いし、存在させなくても良い。前記の様に本発明者らは、分子状酸素を気相に存在させない場合には、酸化物触媒の格子酸素が反応の酸素源に使用されるものと推定している。
反応器に供給する酸素ガス量/反応器に供給するアルケン量(モル比)は、好ましくは0.0〜5.0の範囲内であり、より好ましくは0.0〜1.0の範囲内であり、更に好ましくは、0.0〜0.5の範囲内であり、特に好ましくは0.0〜0.3の範囲内である。酸素が過剰になると生成物中の目的生成物の選択率が低下する傾向がある。そのモル比が0.0とは、分子状酸素を存在させず、酸化物触媒の格子酸素を反応に用いる場合である。本発明の反応においては、この分子状酸素を存在させない場合が最も好ましい。
アルケンの触媒に対する供給量(重量空間速度(WHSV))に特に制限はない。好ましくは、0.01〜10Hr−1であり、より好ましくは0.05〜5Hr−1である。特に好ましくは0.1〜2Hr−1である。
重量空間速度(WHSV)は以下の式で定義される。
WHSV(Hr−1)=アルケン供給量(Kg/Hr)/触媒量(Kg)
反応温度は原料により好ましい範囲が異なるが、一般には130〜500℃が好ましい。より好ましくは、200〜450℃であり、特に好ましくは、230〜350℃である。反応圧力には特に制限はない。好ましくは、0.01〜1MPaであり、より好ましくは0.03〜0.5MPaであり、特に好ましくは0.05〜0.3MPaである。
本発明の方法に用いられる反応方式には、固定床反応方式、移動床反応方式、流動床反応方式等が挙げられる。ただし、本発明の反応は多くの場合発熱反応であることから、反応温度制御の容易な流動床反応方式が好ましい。特に好ましい反応方式は、反応を流動床反応方式で行いながら、反応に供した触媒を、再生器に連続的又は間欠的に抜き出し、前記した条件で再生処理して、再生器から反応器へ戻る触媒の格子酸素を補充する。それと共に、触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.1〜10質量%の範囲に制御し、該触媒の全部又は一部を連続的又は間欠的に流動床反応器に戻す操作を繰り返す、いわゆる触媒循環方式の流動床反応である。
この際、反応器に戻る酸化物触媒量/反応器に供給するアルケン量(質量比)は、好ましくは0.5〜100であり、より好ましくは2〜100であり、特に好ましくは10〜100である。その質量比が、0.5未満では、触媒の定常的活性が低くなる傾向があり、100以上では触媒の定常的活性を上げる効果が少ない傾向がある。
上記の反応方式での触媒上の炭素質物質の蓄積量を測定するための触媒のサンプリングは次の様に行う。
流動床反応器内又は触媒再生器内では、連続的又は間欠的に触媒が供給又は排出されるため、内部の触媒は流通ガスにより攪拌されてはいるものの、触媒上の炭素質物質の蓄積量の局所的な分布を生ずる可能性がある。この様な場合には、反応器から再生器に触媒を抜き出すライン、又は、再生器から反応器に触媒を戻すラインから触媒をサンプリングすることにより極力均質なサンプルを得、その触媒上に蓄積された炭素質物質量を測定することで、反応器内又は再生器から反応器へ戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量を定義する。具体的には、触媒の少なくとも1g以上を3検体以上サンプリングし、それぞれの炭素質物質量を測定して、その算術平均をとることが好ましい。
図1に流動床反応器と触媒再生器との概略図を示す。すなわち、図中触媒抜出しライン▲1▼のS、触媒リサイクルライン▲2▼のSより触媒をサンプリングし、触媒上に蓄積された炭素質物質量を測定する。
本発明においては、反応器内の触媒上に蓄積された炭素質物質量が0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜5質量%の範囲に制御されておればよいので、S及び/又はSからのサンプルの炭素質物質量が前記の範囲にあるか、S及びSからのサンプルの炭素質物質量の平均がこの範囲であれば良い。
以上の様な反応により得られたアルコール及び/又はケトンを含有する反応混合物から、冷却、蒸留、抽出等の公知の回収、分離、精製操作により、アルコール及び/又はケトンを回収できる。未反応のアルケンについては反応混合物から分離後、必要に応じリサイクルして反応原料の一部として利用できる。
また、反応に供した水蒸気の全部又は一部を冷却液化した後に得られる回収水は、ある程度の量の反応副生物を含んだ状態でも、再度反応に使用できる。例えば1−ブテンの反応により副生するアセトンや酢酸等の副生物を含む回収水を、再度反応に使用できる。このことは廃液処理の負荷を大幅に低減できる有用な特徴である。
例えば、1−ブテン及び/又は2−ブテンからMEKを製造する場合には、反応混合物を冷却し、MEKと水蒸気を凝縮させる。これを気液分離した後、凝縮液から蒸留によりMEKを回収する。MEKを回収した後の副生物を含む回収水の全部又は一部は、再度水蒸気として反応器にリサイクルする。凝縮しなかったガス相は圧縮・冷却により、気相に同伴したMEKを液化・回収するとともに、未反応の1−ブテン及び/又は2−ブテンは炭酸ガス等の軽質ガスと分離し、再度反応器にリサイクルする。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の反応を触媒循環方式による流動床反応で行った場合の反応器、再生器の概略図である。その中で、▲1▼は触媒抜出しライン、▲2▼は触媒リサイクルラインを示す。
【実施例】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、以下に使用した分析装置と分析条件を記す。
(反応ガス分析)
ガスクロマトグラフィー: 島津GC−17A(島津製作所製)
キャピラリーカラム: SPB−1(φ0.25×60m)(SPELCO社製)
INJ温度: 250℃ FID温度: 250℃
カラム温度: 40℃×10min、5℃/min昇温、200℃×8min保持
(反応ガス中二酸化炭素、一酸化炭素分析)
ガスクロマトグラフィー: 島津GC−8A(島津製作所製)
充填カラム: PorapacQ(φ3×2m)(Waters社製)及びMS−5A(φ3×3m)(島津製作所製)の並列カラム
INJ温度: 70℃ TCD温度: 70℃
カラム温度: 70℃保持
(触媒上の炭素質物質蓄積量の測定)
CHNコーダー分析装置: 型式MT−5(Yanaco製)
(触媒化学組成分析)
化学組成分析装置: EPMA(Scanning Electron Microanalyzer)、X−650(日立製作所製)
参考例1(触媒Aの調製)
塩化第二スズ5水塩9380gを純水60Lに溶解し、シリカ微粉末(商品名:日本アエロジル株式会社製アエロジル200V)3040gを添加し、500rpmで攪拌しながら、8質量%アンモニア水をpHが5〜7になるまで添加し、シリカとスズ水酸化物との白色沈殿を得た。この白色沈殿をろ過後、純水で十分洗浄した。このケークにモリブデン酸アンモニウム660gを純水12.7Lに溶解した水溶液を添加し、均一なスラリーとした後、濃硝酸を添加し、スラリーのpHを2〜4とした。このスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し球形の成形体粉末を得た。得られた成形体粉末を電気炉中で空気雰囲気において650℃で1時間焼成した。この触媒Aの組成をEPMA組成分析装置にて分析したところ、SnO51質量%、MoO7%質量%、SiO42質量%であった。この触媒AのMo/(Sn+Mo)原子比は0.13であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例2(触媒Bの調製)
参考例1とほぼ同様の方法で組成の異なる触媒Bを調製した。この触媒Bの組成は、SnO48質量%、MoO11%質量%、SiO41質量%であった。この触媒BのMo/(Sn+Mo)原子比は0.19であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例3(触媒Cの調製)
参考例1とほぼ同様の方法で組成の異なる触媒Cを調製した。この触媒Cの組成は、SnO65質量%、MoO5%質量%、SiO30質量%であった。この触媒CのMo/(Sn+Mo)原子比は0.07であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例4(触媒Dの調製)
参考例1とほぼ同様な方法で触媒Dを調製した。この触媒Dの組成は、SnO31質量%、MoO30%質量%、SiO39質量%であった。この触媒DのMo/(Sn+Mo)原子比は0.50であり、成形粉末が塊を作り焼成が均一にできず、流動床触媒に不適であった。
このことから流動床触媒としては、Mo/(Sn+Mo)は0.50未満が好ましく、より好ましくは0.24以下と言える。
参考例5(触媒Eの調製)
塩化第二スズ5水塩の代わりに三塩化クロム6水塩を用いた以外は参考例1とほぼ同様の方法でCr及びMoの酸化物からなる触媒Eを調製した。この触媒Eの組成は、Cr42質量%、MoO17%質量%、SiO41質量%であった。この触媒EのMo/(Cr+Mo)原子比は0.18であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例6(触媒Fの調製)
塩化第二スズ5水塩の代わりに四塩化チタンを用いた以外は参考例1とほぼ同様の方法でTi及びMoの酸化物からなる触媒Fを調製した。この触媒Fの組成は、TiO44質量%、MoO17%質量%、SiO39質量%であった。この触媒FのMo/(Ti+Mo)原子比は0.18であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例7(触媒Gの調製)
モリブデン酸アンモニウムを除いた以外は参考例1とほぼ同様の方法でSnの酸化物のみからなる触媒Gを調製した。この触媒Gの組成は、SnO45質量%、SiO55質量%であった。この触媒Gは流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、十分な機械的強度を有していた。
参考例8(触媒Hの調製)
担体の一部にアルミナゾルを用いた以外は参考例1とほぼ同様の方法で触媒Hを調製した。この触媒Hの組成は、SnO51質量%、MoO7質量%、SiO28質量%、Al14質量%であった。この触媒HのMo/(Sn+Mo)原子比は0.13であり、流動床触媒に好適な滑らかな球形をし、シリカのみの担体より機械的強度が優れていた。
【実施例1】
図1に示す様な流動床反応器と触媒再生器からなる反応装置に触媒Aを充填し、触媒Aを反応器と再生器間で循環させながら、反応及び触媒再生を連続的に行う触媒循環方式で流動床反応を実施した。反応器には、1−ブテン/水蒸気/N=20/40/40(容量比)の割合の原料を反応器の触媒量に対し、重量空間速度(WHSV)=0.2で供給した。反応温度は250℃であった。再生器には空気とNの混合ガスを供給した。再生温度は320℃であった。供給する1−ブテンに対する触媒循環量(すなわち、再生器から反応器に戻る触媒量)の比は15(質量比)であり、再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.5質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
以下に定義を示す。全て炭素基準で示す。
MEKの生成量(Cmol):1時間に生成したMEK量
各成分の選択率(mol%)=P/(F−L)×100
F:フィードした1−ブテン及び/又は2−ブテン量(Cmol)
L:未反応の1−ブテン及び/又は2−ブテン量(Cmol)
P:生成した各成分量(Cmol)
1−ブテンの異性化反応の生成物である2−ブテンは原料として再使用できるため、未反応物として扱った。
表中の副成物とは、CO、CO、アセトン、酢酸、ブチルアルコール、炭素数5以上のオリゴマー等である。
表中の炭素質物質選択率とは、反応により新たに生成した炭素質物質の選択率である。
比較例1
再生温度を600℃とした以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は0.03質量%であり、ほぼ完全に触媒上の炭素質物質が除去されていた。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例1と比較例1の比較から、再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.1〜10質量%の範囲に制御することにより、MEK生成量は同等でありながら新たな炭素質物質の生成の抑制により、MEKの選択率が大幅に向上したことが判る。
また実施例1は、生成したMEKの純度を表す、生成した炭素質物質を除いたMEK選択率の値が非常に高く、MEKの分離・精製が容易であることを表す。
【実施例2】
再生器に供給する空気量を減少させた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.3質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例3(水蒸気/アルケン比=1.0、WHSV=0.4の例)
1−ブテン/水蒸気/N=46/48/6(容量比)の割合の原料を反応器の触媒量に対し、重量空間速度(WHSV)=0.4で供給した以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.1質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例4(触媒Bを用い、触媒循環量/アルケン比=60の例)
触媒Bを用い、再生温度を280℃とし、供給する1−ブテンに対する触媒の循環量の比を60(質量比)とした以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.7質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例5(触媒Bを用い、炭素質物質の蓄積量が0.5質量%の例)
触媒Bを用い、再生温度を500℃とし、1−ブテン/水蒸気/N=20/50/30(容量比)の割合の原料を反応器の触媒量に対し、重量空間速度(WHSV)=0.1で供給した以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は0.5質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例6(触媒Cを用い、O/アルケン比=0.2の例)
触媒Cを用い、1−ブテン/水蒸気/N/O=20/40/36/4(容量比)の割合の原料を反応器に供給(O/1−ブテン=0.2)し、供給する1−ブテンに対する触媒の循環量の比は0.5(質量比)であり、再生温度を280℃とした以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は2.5質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例7(反応副生物を含む反応回収液を再使用した例)
実施例1の反応液からMEKを蒸留分離した残液を水の代わりに用いた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この残液には副生物の酢酸が4質量%及び高沸成分が0.5質量%含まれていた。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.5質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例8(原料をCラフィネート−2に変更した例)
1−ブテンの代わりにCラフィネート−2を原料に以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。Cラフィネート−2は、1−ブテン及び2−ブテン(シス及びトランス)78%、n−ブタン及びイソブタン18%、イソブテン1%、1,2−及び1,3−ブタジエン2%、その他微量成分1%を含んでいた。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は4.5質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例9(原料中にTBA、MTBEを含有する例)
原料にtert−ブチルアルコール(TBA)とメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)を、1−ブテン/水蒸気/N/TBA/MTBE=20/40/38/1/1(容量比)で供給した以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.4質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例10(Mo、Cr酸化物触媒Eを用いた例)
触媒Eを用いた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.3質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例11(Mo、Ti酸化物触媒Fを用いた例)
触媒Fを用いた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は3.7質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例12(Sn酸化物のみの触媒Gを用いた例)
触媒Gを用いた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は1.0質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
実施例13(担体がシリカアルミナの触媒を用いた例)
触媒Hを用いた以外は実施例1とほぼ同様の条件で触媒循環方式の流動床反応を実施した。この時の再生器から反応器に戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は4.2質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
担体をシリカアルミナとすると反応ガス中のCOが極端に減少した。
実施例14(触媒を前処理して炭素質物質を蓄積させた例)
再生器と反応器の中間に前処理器を設け、反応は実施例1とほぼ同様に行った。再生温度は600℃とし、再生器から前処理器に入る触媒上の炭素質物質の蓄積量を比較例1と同様にほぼ完全に炭素質物質を除去した。この触媒を前処理器内でベンゼン30容量%、1,2−、1,3−ブタジエン20容量%、N50容量%から成るガスと350℃で接触させ触媒上に炭素質物質を蓄積させた。この前処理器から反応器へ戻る触媒上の炭素質物質の蓄積量は2.0質量%であった。上記反応を約10時間連続し、任意の1時間の反応結果の一部を表1に示す。また、反応成績は反応中はほぼ一定であった。
ほかに触媒Aを用いて、原料のアルケンを1−ブテンからプロピレン、シクロヘキセンに変更して実施例と同様な反応を行っても、触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.1〜10質量%に制御した触媒は、新たな炭素質物質の生成を抑制し、アセトン、シクロヘキサノンの選択率を向上させる効果が認められた。


【産業上の利用可能性】
本発明の製造方法は、酸化物触媒を用いて、気相でアルケンから対応するアルコール及び/又はケトンを製造する場合に、反応中の触媒上への炭素質物質の蓄積を抑制する効果があり、目的生成物の選択率を大幅に向上できる。従って、炭素質物質生成による原料アルケンの損失の抑制、触媒再生等に必要なユーティリティーコストの削減が可能となり、生産性が非常に高い上記目的生成物の製造方法が提供される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気の存在下、少なくとも一種のアルケンを含有する原料を気相で酸化物触媒と接触させて反応を行うことによって、該アルケンに対応するアルコール及び/又はケトンを製造する方法であって、
前記酸化物触媒が、
(a)モリブデン及び/又はスズの酸化物を含有すること、及び
(b)前記反応中において、前記酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量が0.1〜10質量%の範囲に制御されていること、
の要件を満たす、上記アルコール及び/又はケトンの製造方法。
【請求項2】
前記反応によって得られた反応混合物から未反応のアルケン、アルコール及び/又はケトンを回収し、未反応のアルケンは原料の一部としてリサイクルすることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記反応を流動床反応方式で行う際に、反応に供した酸化物触媒を反応器から抜き出し、酸素含有ガスの存在下で該酸化物触媒を再生処理し、該再生処理済みの酸化物触媒を再度反応器に戻す触媒循環方式を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応器に戻る酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.1〜10質量%の範囲に制御する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
酸素含有ガス存在下での酸化物触媒の再生処理温度が270〜550℃である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
反応器に戻る酸化物触媒量/反応器に供給するアルケン量(質量比)が、0.5〜100の範囲である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
酸化物触媒上の炭素質物質の蓄積量を0.3〜5質量%の範囲に制御する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0.29及び0.51以外の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0≦X<0.50(0.29を除く)の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
酸化物触媒中のモリブデンとスズの原子比X{Mo/(Sn+Mo);ここで、Moは該酸化物触媒中のモリブデンの原子数であり、Snは該酸化物触媒中のスズの原子数である。}が、0.01≦X≦0.24の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
反応器に供給する酸素ガス量/反応器に供給するアルケン量(モル比)が、0.0〜0.5の範囲である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
反応器に供給する水蒸気量/反応器に供給するアルケン量(モル比)が、0.05〜10.0の範囲である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応後の回収水の全部又は一部を再度該反応に使用する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
アルケンが1−ブテン及び/又は2−ブテンである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
アルケンとして1−ブテン及び/又は2−ブテンを含有する原料が、イソブテン、ブタジエン、tert−ブチルアルコール、メチル−tert−ブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項14記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/060843
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564523(P2004−564523)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016722
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】