説明

アルデヒド系化合物

【課題】調合香料原料としての利用を制限させる強いアルデヒド香を有さず、フレッシュな甘さとフローラル香気を有するアルデヒド系化合物、その製造方法、及び当該アルデヒド系化合物を含有する香料組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物を含有する香料組成物、アルデヒド系化合物及びその製造方法である。


(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示す。R2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド系化合物、その製造方法、及びアルデヒド系化合物を含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シクロヘキサンカルバルデヒドには、フローラル香気を有する多数の香料化合物があることが知られている。例えば、4−(4−メチル−3−ペンテニル)−3−シクロヘキセンカルバルデヒドが新鮮なフローラル香を有することが知られている(非特許文献1参照)。しかし、同時に強いアルデヒド感を有することから調香上問題があった。
【0003】
一方、1,2−ジメチルシクロヘキサンカルバルデヒドや1,3−ジメチルシクロヘキサンカルバルデヒドの合成例(例えば、非特許文献2及び3参照)、あるいは4−t−ブチル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒドの合成例(例えば、非特許文献4参照)が知られている。
しかし、当該文献には香気に関する記載は無く、このようなアルデヒド系化合物が香料として有用であることは知られていなかった。
【0004】
【非特許文献1】印藤元一著、「増補改訂版 合成香料 化学と商品知識」、株式会社化学工業日報社、2005年3月22日発行、197−198頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー 第31巻2480−2483頁(1966年)
【非特許文献3】テトラヘドロン・レターズ 第13巻1215−1217頁(1967年)
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー 第43巻第19号3792−3794頁(1978年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、強いアルデヒド香を有さず、フレッシュな甘さとフローラル香気を有するアルデヒド系化合物、及びその製造方法、並びに当該アルデヒド系化合物を含有する香料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々のアルデヒド系化合物を合成し、その香気について検討したところ、六員環炭化水素骨格上にアルデヒド基が結合した炭素原子に1〜4の炭化水素基を有する化合物が、強いアルデヒド香を有さず、フレッシュな甘さとフローラル香気を有することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)アルデヒド系化合物を含有する香料組成物、(2)新規アルデヒド系化合物、及び(3)当該アルデヒド系化合物の製造方法に関する。
(1)一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物を含有する香料組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示す。R2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。)
(2)一般式(II)で表されるアルデヒド系化合物。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R3は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。R4は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。ただし、R4がtert−ブチル基であって、かつアルデヒド基に対して4位に結合する場合を除く。)
(3)一般式(III)で表される化合物を、塩基性化合物の存在下でアルキル化して、R3基を導入する、一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R3は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。R2は前記と同じである。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルデヒド系化合物は、調合香料原料としての利用を制限させる強いアルデヒド香を持たず、フレッシュな甘さとフローラル香気を有し、トイレタリー用品等への賦香成分として有用なアルデヒド系化合物、及びその製造方法、並びに当該アルデヒド系化合物を含有する香料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物〕
本発明の香料組成物は、一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物を含有する。
【0018】
【化5】

【0019】
ここで、R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示す。R1の炭化水素基としては、具体的には、炭素数1〜4のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が好ましく挙げられる。
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基が挙げられる。
炭素数1〜4のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、及び1−メチルビニル基等が挙げられる。
炭素数2〜4のアルキニル基としては、エチニル基、2−プロピニル基、及びプロパ−2−イン−1−イル基等が挙げられる。
1としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、拡散性とフローラル様の甘さを持たせる観点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合する。特に、匂いの質の観点から、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して4位に結合するものが好ましい。
2の炭素数2〜4の飽和炭化水素基としては、具体的には、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基が挙げられる。この中で、フローラル様の華やかさを付与する観点から、エチル基、イソプロピル基がより好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。
一般式(I)で表される好ましい化合物としては、4−イソプロピル−1−メチルシ
クロヘキサンカルバルデヒド、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド、1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド等が挙げられる。
【0020】
一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物において、アルデヒド基とR2基の立体配置がシス形である異性体と、トランス形である異性体との質量比率は、好ましくは100:0〜10:90である。ここで、シス形とは、アルデヒド基とR2基とが、シクロヘキサン環に対して同じ側にあるものを言い、トランス形とは反対側にあるものを言う。このシス形とトランス形との質量比率が前記範囲内であれば、よりフローラルな甘さとフローラル感を併せ持ったアルデヒド系化合物を提供することができる。以上の観点から、より好ましくは100:0〜50:50であり、更に好ましくは100:0〜90:10である。
【0021】
〔一般式(II)で表されるアルデヒド系化合物〕
本発明のアルデヒド系化合物は、一般式(II)で表される。
【0022】
【化6】

【0023】
ここで、R3は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基が挙げられる。R3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、香料組成物用途において拡散性とフローラル様の甘さを持たせる観点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基がさらに好ましく、特にメチル基、エチル基が特に好ましい。
4は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合する。特に、匂いの質の観点から、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して4位に結合するものが好ましい。ただし、R4がtert−ブチル基であって、かつアルデヒド基に対して4位に結合する化合物は除かれる。R4における炭素数2〜4の炭化水素基としては、具体的には、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基が挙げられる。この中で、フローラル様の華やかさを付与する観点から、エチル基、イソプロピル基がより好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。
一般式(II)で表される好ましい化合物としては、4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒド、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド、1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド等が挙げられる。
【0024】
〔一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法〕
次に、下記一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法について説明する。
一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法としては、特に制限はないが、一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物を、塩基性化合物の存在下でアルキル化してR3基を導入することにより効率的に得ることができる。前記一般式(II)で表されるアルデヒド系化合物も、一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物と同じ方法によって製造することができる。
【0025】
【化7】

【0026】
一般式(IV)中、R2及びR3は、前記と同じである。
【0027】
〔一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物の合成〕
一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物は、特に制限されるものではないが、例えば特開2005−97285号公報明細書に記載の方法によって製造することができる。具体的には、以下の式(A)で示されるように、一般式(V)で表される芳香族アルデヒドに酸触媒の存在下でアルコール類を縮合させてアセタール化して芳香族アセタールとした後、水素化し脂環式アセタールとし、これを加水分解して一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物を製造することができる。
【0028】
【化8】

【0029】
式(A)中、R2は、上記一般式(I)と同様である。
また、一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物は、例えば特開平2−188549号公報明細書に記載の方法によっても製造することができる。
具体的には、以下の式(B)で示されるように一般式(VII)で表されるアルコール類を脱水素触媒の存在下で加熱するか、あるいは有機溶媒中で酸化剤と反応させることにより一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物を製造することができる。
【0030】
【化9】

【0031】
式(B)中、R2は、上記一般式(I)と同様である。
【0032】
〔一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の合成〕
本発明の一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物は、特に制限されるものでないが、例えば以下の式(C)に示すように、一般式(III)で表される化合物に、塩基性化合物の存在下でアルキル化剤を反応させて得ることができる。
【0033】
【化10】

【0034】
式(C)中、R2は、上記一般式(I)と同様であり、R3は、上記一般式(II)と同様である。R3Xは、後述するアルキル化剤を示す。
塩基性化合物は、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムtert−ブトキシド等を使用することができる。
塩基性化合物の使用量は、原料となる一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物に対して50〜1000モル%の範囲が好ましく、100〜500モル%の範囲がより好ましい。
【0035】
上記式(C)に示される方法において、アルキル化剤としては、炭素数1〜4のアルキル基を有する化合物であって、塩化アルキル、臭化アルキル、ヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキルや、ジメチル硫酸等のジアルキル硫酸等が好ましく挙げられる。この中で、反応性の観点から、臭化アルキル、ヨウ化アルキルがより好ましい。
アルキル化剤の使用量は、原料となる一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物に対して50〜1000モル%が好ましく、100〜500モル%がより好ましい。
【0036】
上記式(C)に示されるアルキル化反応は、無溶媒で行うこともできるが、有機溶媒を用いて行うこともできる。有機溶媒としては、塩基性条件下で使用できる溶媒であれば特に限定されず、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
反応温度は、通常−78〜110℃であり、−20〜100℃が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0037】
〔一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物の合成〕
一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法としては、特に制限はなく、上記で述べた一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法と同様の方法で得ることができる。例えば一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物に、塩基性化合物の存在下でR1基を有するアルキル化剤、アルケニル化剤又はアルキニル化剤を反応させて、R1基を導入することにより得ることができる。
【0038】
アルキル化剤としては、上記と例示したものが同様に挙げられる。アルケニル化剤としては、塩化アルケニル、臭化アルケニル、ヨウ化アルケニル等が挙げられる。アルキニル化剤としては、塩化アルキニル、臭化アルキニル、ヨウ化アルキニル等が挙げられる。これらのアルキル化剤、アルケニル化剤及びアルキニル化剤の使用量は、原料となる一般式(III)で表されるアルデヒド系化合物に対して50〜1000モル%が好ましく、100〜500モル%がより好ましい。
反応温度、塩基性化合物の種類及びその使用量、有機溶媒の種類は、上記式(C)の方法と同様である。
【0039】
上記一般式(I)、(II)及び(IV)で表されるアルデヒド系化合物は、精製しても未精製でも香料として使用可能である。精製方法としては、特に制限はなく、通常の蒸留、カラムクロマトグラフィー等により精製を行い、香料として使用しうる純度にすることができる。
上記一般式(I)、(II)及び(IV)で表されるアルデヒド系化合物は、強いアルデヒド香を持たず、フレッシュな甘さを有するフローラル香気を有することから、単独で又は他の成分と組み合わせて石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー製品、芳香剤、香水、入浴剤等の賦香成分として使用できる。
また、本発明の一般式(II)で表されるアルデヒド系化合物は、下記一般式(VIII)で表されるフローラル香気を有するアルコール系化合物(例えば特願2006−174994号参照)の合成中間体としても有用である。
具体的には、以下の式(D)に示されるように、化合物(IV)を還元することにより、一般式(VIII)で表されるアルコール系化合物を得ることができる。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
式(D)中、R2は、上記一般式(I)と同様であり、R3は、上記一般式(II)と同様である。
【0043】
〔香料組成物〕
本発明の香料組成物は、通常用いられる他の香料成分や、所望組成の調合香料に、一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物を単独で又は2種以上を混合し、配合して得られるものである。
その配合量は、調合香料の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により異なるが、調合香料中に0.01〜90質量%を加えることが好ましく、0.1〜50質量%加えることがより好ましい。
本発明のアルデヒド系と組み合わせて用いることができる香料成分としては、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、カーボネート類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、ニトリル類、カルボン酸類、ラクトン類等の天然精油や天然排出物、合成香料を挙げることができる。
【0044】
炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、アンバーコア(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
フェノール類としては、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、パラクレゾール、バニリン等が挙げられる。
【0045】
エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が挙げられる。
【0046】
ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート等、酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート、パラクレジルフェニルアセテート等、プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート等、酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート等が挙げられる。
【0047】
また、ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエート等、安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエート等、メチルシンナメート、桂皮酸エステルとしては、ベンジルシンナメート等、サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレート等が挙げられる。
さらに、ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレート等、チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレート等、ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート等、グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデート等、アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレート、フルーテート(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
【0048】
カーボネート類としては、市販品として、ジャスマシクラット(花王株式会社商品名)、フロラマット(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
アルデヒド類としては、n−オクタナール、n-ノナナール、n−デカナ−ル、n−ドデカナ−ル、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、リラール(IFF社商品名)、2−シクロヘキシルプロパナール、p−t−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
【0049】
ケトン類としては、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、ダマセノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、ジヒドロジャスモン、ローズケトン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、マルトール、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、等が挙げられる。
アセタール類としては、ホルムアルデヒドシクロドデシルエチルアセタール、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタール等が挙げられる。
【0050】
エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、アンブロキサン(花王株式会社商品名)、ハーバベール(花王株式会社商品名)、ボアザンブレンフォルテ(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリル等が挙げられる。
カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリド等が挙げられる。
【0051】
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
(1)試料の同定
実施例で得られたアルデヒド系化合物の構造を、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)及びIRにより同定した。核磁気共鳴スペクトルは、溶媒としてクロロホルム−dを用いて、Varian社製のMercury 400により測定し、IRは、株式会社堀場製作所製のFT−710により測定した。
シス異性体/トランス異性体の質量比率は、ゲステル(Gerstel)株式会社製のガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0053】
実施例1(4−イソプロピル−1-メチルシクロヘキサンカルバルデヒドの合成)
フラスコにカリウムtert−ブトキシド331gとテトラヒドロフラン700gを入れ0℃で数分間攪拌した後、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド350gを0℃下2.5時間かけて滴下した。その後、ヨードメタン483gを0℃下3時間かけて滴下した。0℃下30分攪拌後、室温まで昇温を行い更に30分攪拌した。その反応液を水700gで3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濾過、濃縮を行い、アルデヒド混合物357gを得た。そのアルデヒド混合物83gを、圧力70〜150Pa、温度60〜65℃の条件で蒸留し、4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒド66g得た。
【0054】
得られた4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒドは、フレッシュな甘さを持ったジャスミン、ミューゲを想起させるフローラル様香気である。また、同定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm):0.81 (s, 3H), 0.83 (s, 3H), 0.95 (s, 3H), 0.94-0.99 (m, 2H), 1.19-1.25 (m, 2H), 1.36-1.41 (m, 2H), 1.59-1.62 (m, 2H), 2.08 (d, 2H, J=12.8Hz), 9.43 (s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm):20.21 (q), 24.36 (t), 24.54 (t), 27.04 (q), 27.04 (q), 32.95 (d), 33.88 (t), 33.88 (t), 43.70 (s), 46.99 (d), 206.97 (d)
IR(neat, cm-1):2956,2927,2870,2688,1728,1456,1385,1367,1124,933,741
シス異性体:トランス異性体=91:9(質量比)
【0055】
実施例2(1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドの合成)
フラスコにカリウムtert−ブトキシド19gとテトラヒドロフラン40gを入れ0℃で数分間攪拌した後、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド20gを0℃下2.5時間かけて滴下した。その後、ブロモエタン22gを0℃下3時間かけて滴下した。0℃下30分攪拌後、室温まで昇温を行い更に30分攪拌した。その反応液を水40gで3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濾過、濃縮を行い、アルデヒド混合物21gを得た。そのアルデヒド混合物を、圧力70〜150Pa、温度60〜85℃の条件で蒸留し、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド17g得た。
【0056】
得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドは、甘さを持ったフルーティ、フローラル様香気である。また、同定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm):0.78 (t, 3H, J=7.6Hz), 0.81 (s ,3H), 0.83 (s, 3H), 0.87-0.92 (m, 2H), 0.94-0.99 (m, 2H), 1.14-1.17 (m, 2H), 1.38-1.44 (m, 2H), 1.60-1.64 (m, 2H), 2.09-2.13 (m, 2H), 9.39 (s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm):8.36 (q), 20.21 (q), 20.35 (q), 26.92 (t), 26.92 (t), 31.17 (t), 31.70 (t), 33.03 (d), 36.93 (t), 44.10 (d), 50.49 (s), 207.46 (d)
IR(neat, cm-1):2956,2937,2870,1726,1462,1385,1367,1001,937,806
シス異性体:トランス異性体=90:10(質量比)
【0057】
実施例3(1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドの合成)
フラスコにカリウムtert−ブトキシド14gとテトラヒドロフラン30gを入れ0℃で数分間攪拌した後、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド15gを0℃下2.5時間かけて滴下した。その後、2−ヨードプロパン25gを0℃下3時間かけて滴下した。0℃下30分攪拌後、室温まで昇温し、更に30分攪拌した。その反応液を水30gで3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濾過、濃縮を行い、アルデヒド混合物13gを得た。そのアルデヒド混合物13gを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=50/1)で精製し、1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド3g得た。
【0058】
得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドは、甘さを持ったフルーティ、フローラル、グリーン様香気である。また、同定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm):0.81 (s, 3H), 0.82 (s, 3H), 0.87 (s,3H), 0.89 (s, 3H), 0.90-0.99 (m, 4H), 1.21-1.44 (m, 2H), 1.59-1.64(m, 2H), 2.05-2.08 (m, 2H), 9.45 (s, 1H)
13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm):17.66 (q), 17.71 (q), 20.20 (q), 20.31 (q), 27.08(t), 28.91 (t), 30.04 (t), 34.29 (t), 39.00 (d), 44.07 (d), 44.19 (d), 52.73 (s), 208.53(d)
IR(neat, cm-1):2958,2939,2870,1724,1468,1387,1367,939,806
シス異性体:トランス異性体=94:6(質量比)
【0059】
比較例1
実施例1で得られた4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒド、実施例2で得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド、実施例3で得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドの香調を4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドと比較した。
【0060】
【表1】

【0061】
比較例1に示した成分の香調の比較から、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドにアルキル基を導入することにより、大幅に香調が変化することが確認できた。
【0062】
実施例4及び比較例2:
実施例1で得られた4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサンカルバルデヒドを用いて、第2表に示すように配合し、フローラルミューゲ様の製品用香料を調製した。第2表中の数値は質量部である。
【0063】
【表2】

【0064】
比較例2に示したフローラル・ミューゲ様の調合香料において、ジプロピレングリコール20質量部の替わりに本発明化合物の4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサンカルバルデヒド20質量部を加えることにより、スズラン香を想起させるフレッシュなフローラル香気が増強されたフローラル・ミューゲ様の調合香料が得られた。
【0065】
実施例5及び比較例3:
実施例2で得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドを用いて、第3表に示すように配合し、フローラルミューゲ様の製品用香料を調製した。第3表中の数値は質量部である。
【0066】
【表3】

【0067】
比較例3に示したフローラル・ブーケ様の調合香料において、ジプロピレングリコール22質量部の替わりに本発明化合物の1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド22質量部を加えることにより、フルーティなフローラル香気が増強されたフローラル・ブーケ様の調合香料が得られた。
【0068】
実施例6及び比較例4
実施例3で得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒドを用いて、第4表に示すように配合し、フローラル・グリーン様の製品用香料を調製した。第4表中の数値は質量部である。
【0069】
【表4】

【0070】
比較例4に示したフローラル・グリーン様の調合香料において、ジプロピレングリコール35質量部の替わりに本発明化合物の1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド35質量部を加えることにより、フルーティなグリーン香気が増強されたフローラル・グリーン様の調合香料が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物を含有する香料組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜4の炭化水素基を示す。R2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。)
【請求項2】
一般式(I)で表されるアルデヒド系化合物において、アルデヒド基とR2基の立体配置がシス形である異性体と、トランス形である異性体との質量比率が、100:0〜10:90である、請求項1に記載の香料組成物。
【請求項3】
一般式(II)で表されるアルデヒド系化合物。
【化2】

(式中、R3は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。R4は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。ただし、R4がtert−ブチル基であって、かつアルデヒド基に対して4位に結合する場合を除く。)
【請求項4】
一般式(III)で表される化合物を、塩基性化合物の存在下でアルキル化して、R3基を導入する、一般式(IV)で表されるアルデヒド系化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R2は炭素数2〜4の飽和炭化水素基を示し、シクロヘキサン環上のアルデヒド基に対して2、3又は4位に結合していることを示す。)
【化4】

(式中、R3は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。R2は前記と同じである。)

【公開番号】特開2009−149811(P2009−149811A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330309(P2007−330309)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】