説明

アルドール縮合反応のための新しい触媒

この発明は、無機アンモニウム塩、またはそのような塩から調製された水溶液もしくは有機溶液の存在下で、少なくとも1つのアルデヒドまたは1つのケトン出発物質を反応させるステップを含む、アルドール縮合反応のための触媒系を提示する。この発明の触媒系の効率は、従来の強酸および強塩基の触媒の効率と同程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明はアルドール縮合反応に関し、より特定的には、そのような反応を触媒するために使用可能な無機アンモニウム塩またはその溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルドール縮合反応またはアルドール化反応は、当該技術分野において公知である。ゴッドウィン(Godwin)等への米国特許第6,090,986号を参照されたい。また、メストレス(Mestres)等、グリーンケム(Green Chem.)、2004、6、584−603も参照されたい。ケトンおよび/またはアルデヒドは、アルドール縮合のための出発物質であり、アルドール縮合はC−C結合を形成するための便利な方法で、たとえば大量生産にとって、または精製化学および製薬業界において重要である。
【0003】
アルドール縮合反応は、典型的には、強酸もしくは強塩基、および/または金属触媒の存在下で行なわれる。これらのプロセスの欠点は、金属触媒についてのそれらのコストと、大量生産で使用される強酸/強塩基触媒についての環境への悪影響である。さらに別の欠点が、強酸または強塩基によって課される過酷な条件によってもたらされ、それは、あらゆる種類の出発物質が使用可能ではない、ということを意味する。不均一触媒作用または相間移動触媒作用を用いることによって、環境により優しい生産が提供されるが、これらは実現が複雑で、かつ(少なくとも大規模では)高価なプロセスである。
【0004】
よく遭遇する2種類のアルドール縮合反応は、自己アルドール縮合(アルドールI)反応、および交差アルドール縮合(アルドールII)反応である。
【0005】
アルドールI反応では、同じアルデヒドまたはケトン出発物質の2つの分子が反応して、反応生成物を形成する。また、これに代えて、アルドールII反応では、2つの異なるアルデヒドまたはケトン出発物質が反応して、反応生成物を形成する。実際、アルドールを形成するアルデヒドまたはケトンの2つの分子の縮合の直後には、通常、脱水が続き、当初の数の2倍の炭素原子を有する未飽和のアルデヒドまたはケトンを形成する。アルドールI反応およびアルドールII反応は双方とも、それらの縮合をもたらすために必要な条件として、当該技術分野において周知である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、無機アンモニウム塩またはその溶液の存在下で、少なくとも1つのアルデヒドまたはケトン出発物質を反応させることを含む、アルドール縮合生成物を形成するためのプロセスである。溶液は、水溶液または有機溶液であってもよい。
【0007】
無機アンモニウム塩またはその水溶液の使用は、特に、他の工業プロセスの副産物である硫酸アンモニウム、(NH42SO4について、安価である(有機触媒、金属系触媒、および不均一触媒よりも安価である)。無機アンモニウム塩は、強塩基または強酸の触媒用に現在使用しているのと同じ液相反応器で使用可能であり、強塩基または強酸の触媒と同等の(場合によってはそれらよりも良好な)触媒効率を有する。無機アンモニウム塩溶液、特に硫酸アンモニウム溶液、(NH42SO4は、強酸または強塩基よりも環境により優しいプロセス(より穏やかなpH範囲)を提供するという利点を有しており、それは廃棄物処理のコストを著しく低減させる。加えて、無機アンモニウム塩溶液は、これまで公知のプロセスよりもゆるやかな反応条件(穏やかなpH)を許容する。この方法は、感受性官能基を有する基質の使用を可能にする。たとえば、アルドール反応は、エステルおよびカーボネート官能性を含む基質に適合する。
【0008】
出発物質として、ケトンおよび/またはアルデヒドが使用可能である。よく使用されるアルデヒドの例は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、または他の分岐アルデヒド(置換メチル−、エチル−)、小さい環を含有するアルデヒド(C5,C6)、ベンズアルデヒド、グリオキシレート、ピルピン酸、およびそれらのうちのいずれか2つの混合物といった芳香族基を含有するアルデヒドを一例として含むが、他のアルデヒドも好適である。
【0009】
よく使用されるケトンの例は、アセトンおよび他の脂肪族ケトン(ブタノン、ペンタノン)、置換ケトン(メチル−、エチル−)、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンなどの環状ケトン、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、および芳香族ケトン(フェニルケトン)を一例として含む。大きな有機分子はアンモニウム塩の水溶液中では溶解度が限られるかも知れず、その場合、これらの塩を含有する有機溶液が好ましいかも知れない。バルク業界で広範に使用される基質の例はアセトンであり、そのためにアルドール縮合は、業界において非常に需要があるメチルイソブチルケトン(MIBK)の生成の第1段階である酸化メシチルをもたらす。
【0010】
別の実施の形態では、この発明は、アルドール縮合によって形成される化合物の調製において使用するための装置を提供する。そのような装置は、バッチモードで行なわれる反応のための容器であってもよく、または、連続フローモードで行なわれる反応のための容器であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
「アルドール縮合」という言葉はここでは、アルデヒドおよび/またはケトン出発物質を反応させ、即時脱水によりアルドール縮合生成物を形成するプロセスを指すために使用される。アルドールIおよびアルドールIIは、2種類のアルドール縮合を分類するために使用される用語である。
【0012】
「触媒」という用語はここでは、従来の開始剤、共開始剤、共触媒、活性化手法などを含むあらゆる形の触媒を含むために使用される。好ましくは、「触媒」という用語は、無機アンモニウム塩、またはその水溶液もしくは有機溶液を含む。溶液は好ましくは水性である。好ましい一実施の形態では、NH4F、(NH42SO4、NH4NO3、NH4Cl、NH4Br、NH4I、(NH4CO3、(NH4)HSO4、(NH4)HCO3、および、NH4+カチオンを含有するあらゆる無機塩から、無機アンモニウムの水溶液が調製される。低コストで環境に優しい好ましい無機アンモニウム溶液は、硫酸アンモニウム、(NH42SO4から調製される。
【0013】
この発明は、アルドール縮合反応を実行する新しい方法を説明している。無機アンモニウム塩またはその溶液を触媒として利用することにより、安価で簡単なプロセスとしてアルドール縮合を行ない、より感受性の高い基質を使用することが可能である。加えて、無機アンモニウム塩の水溶液を使用することは、強塩基または強酸条件、有機溶剤、もしくは金属系触媒を用いる現在のプロセスよりも環境に優しく、生産コスト(特別の反応器または安全策が必要ない)および廃棄物処理コスト(酸または塩基の中和)の双方を低下させるであろう。無機アンモニウム塩の効率は、当初のカルボニル化合物に依存して多少の変動があるものの、従来の強酸または強塩基の触媒のものと同程度である(表1の比較を参照)。アセトンについては、無機アンモニウム塩は、強塩基よりも効率のよい触媒である。
【0014】
この発明は、アルドール縮合生成物を形成するための方法であって、無機アンモニウム塩、またはそのような無機塩から調製された水溶液もしくは有機溶液の存在下で、約0℃〜約120℃の温度範囲および約1気圧〜約1000気圧の圧力範囲で、アルドール縮合生成物を形成するのに十分な時間、少なくとも1つのアルデヒドまたはケトン出発物質を反応させるステップを含む、方法を提供する。
【0015】
一実施の形態では、無機アンモニウム水溶液は、NH4F、(NH42SO4、NH4NO3、NH4Cl、NH4Br、NH4I、NH4CO3、(NH4)HSO4、(NH4)HCO3、および、NH4+カチオンを含有する他の無機塩を含む群から選択される無機塩から調製される。
【0016】
反応は、溶液中で、または液相および固相を有する不均一系中で起こり得る。均一液系は、飽和までの濃度の無機アンモニウム塩からなり得る。好適な濃度の例としては、共に水中の、2MのNH4Fおよび3.6Mの(NH42SO4である。条件の他の例は、表1〜3に与えられている。
【0017】
無機アンモニウム塩の水溶液が好ましいものの、DMSO、DMF、NMP、THF、トルエン、CH2Cl2、CH3CNといった有機溶剤において無機アンモニウム塩を使用することも可能である。
【0018】
無機アンモニウム塩はまた、不均一触媒作用、すなわち反応物にとって異なる相にある触媒作用における触媒としても使用可能である。この場合、無機アンモニウム塩は固相であってもよい。たとえば、無機アンモニウム塩はその飽和濃度を越えて上述の溶液中に存在し得る。
【0019】
溶液のpHは調整される必要はない。無機アンモニウム塩の非緩衝水溶液は、4〜7のpHを有する。例:(NH42SO4 3.6M、pH=4.9;(NH4)Cl 4M、pH=4.6;(NH4)F 1M、pH=7.5(表3も参照)。pHのこれらの穏やかな値は、現在使用されている触媒に対するこの発明の強力な環境的利点および強力な合成利点の双方を構成している。無機アンモニウム塩触媒は、現在の触媒によって生成される酸/塩基廃棄物を回避し、pH感受性化合物と共に、またはpH感受性合成方法において使用可能である。無機アンモニウム塩はまた、pH=4−8の範囲にわたって、あらゆる緩衝条件の下で使用可能である。それらの触媒効率は、無機アンモニウム塩および出発カルボニル化合物に依存して、この範囲にわたって変化するが、競争力を保ち続ける。たとえば、硫酸アンモニウムを用いると、より低いpH(〜4−5)ではアセトンの反応がより効率的であるが、より高いpH(7−8)ではアセトアルデヒドの反応がより効率的である(表3を参照)。
【0020】
さらに別の一実施の形態では、この方法は、約25℃〜約70℃の温度で行なわれる。
さらに別の一実施の形態では、商業的に重要な一用途は、アセトンの自己アルドール縮合である。アセトンについては、無機アンモニウム塩は、よく使用されている強塩基触媒よりも効率の高い触媒である(表1を参照)。アセトンの反応は酸化メシチル(4−メチル−3−ペンテン−2−オン)を生成し、それは、次の水素化により、メチルイソブチルケトン(MIBK、4−メチル−2−ペンタノン)を生成する。このプロセスは1年で何千トンも行なわれ、その後、大量の強塩基廃棄物の処理が続く。したがって、硫酸アンモニウム、(NH42SO4などの環境に優しい無機アンモニウム塩を使用することは、この生成についての著しいコスト削減を示すであろう。
【0021】
さらに別の一実施の形態では、縮合生成物は、反応の完了後、(a)触媒から縮合生成物を分離し、(b)イオン性の液状媒体および触媒を回収することにより精製される。
【0022】
無機アンモニウム塩、反応物、基質、および、温度、圧力、またはpHといった他の条件の選択に依存して、反応環境は、化学的プロセスの触媒作用および分離に最も効率的に対応するよう設計され得る。
【0023】
この発明の場合、あらゆるアルデヒドまたはケトンが出発物質として使用されてもよい。また、これに代えて、アルドールII反応は、縮合生成物を生成するために2つの異なるアルデヒドまたはケトン出発物質を反応させることを伴う。アルドール縮合生成物を形成する際に利用される好ましいアルデヒドまたはケトン出発物質は、式RC(O)R′を有する1つ以上のアルデヒドまたはケトンであり、式中、Rは、水素原子、または、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子、最も好ましくは1〜4個の炭素原子を有する長鎖、分岐、もしくは環状脂肪族基である。
【0024】
さらに別の一実施の形態では、交差アルドール縮合(アルドールII)の商業的に重要な一用途は、ネオポリオールを形成するためのホルムアルデヒドと第2のアルデヒド出発物質との反応である。実際、ネオポリオール生成物を生成する前に、ホルムアルデヒドに関するいくつかの中間アルドール添加工程と最後の交差カニッツァロ(crossed Cannizzaro)工程とが起こる。最も好ましい第2のアルデヒド出発物質は、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、およびイソブチルアルデヒドであり、それらは、ホルムアルデヒドと反応すると、それぞれのネオポリオール生成物であるペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、およびネオペンチルグリコールを生成する。
【0025】
ケトンおよびアルデヒド出発物質は、飽和までの濃度で使用可能である。好適な濃度範囲の一例は、1M〜10Mの出発物質であるが、出発物質が可溶性である限り、さらに高い濃度の溶液が使用可能である。
【0026】
アルデヒドおよびケトンは、飽和または未飽和脂肪族化合物であってもよく、受容体化合物にα−水素が存在する限り、置換可能である。例示的な脂肪族アルデヒドは、ホルムアルデヒド(プラス別のカルボニル化合物、なぜならそれは供与体としてのみ作用可能なため)、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ドデカナール、オクタデカナール、2−エチルヘクス−2−エナール、クロトナール、ヘクス−2−エナール、2−エチルブト−2−エナール、ビニルクロトナール、2−メチルプロパナールなどを含む。例示的な脂環式アルデヒドは、シクロヘクス−3−エニルアルデヒドを含む。
【0027】
代表的な脂肪族ケトンは、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、酸化メシチル、2−メチルノン−5−エン−4−オンなどを含む。必ずしも必要ではないものの、これらのアルドール反応において有機溶剤が使用されてもよい。この目的のため、ペンタン、デカン、ヘキサンなどの5〜12個またはそれ以上の原子を有する炭化水素が使用されてもよい。
【0028】
上述の例は単にそのようなものとして解釈されるべきであり、この発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【0029】
アルドール縮合生成物を形成するための上述の反応は、通常、約1気圧(大気圧)〜約1000気圧(上昇気圧)の圧力で行なわれてもよい。反応は幅広い範囲の温度にわたって実行可能であり、特に限定されない。通常、反応温度は、約−20℃〜120℃の範囲内、より典型的には10℃〜100℃、または25℃〜100℃、たとえば25℃〜70℃の範囲内である。
【0030】
アルドール縮合反応の期間は重要ではなく、通常、所望の量の生成物が形成されるまで続けられる必要がある。生成物の形成は、たとえば紫外−可視光分光計を用いて光の吸収度を測定することによる分光法などのさまざまな分析方法を用いることによって、モニターおよび定量化され得る。生成物の量を測定するための別の方法は、高分解能質量分析法(HRMS)などの質量分析法、またはガスもしくは液体クロマトグラフィなどのさまざまなクロマトグラフィ法を用いることによる。核磁気共鳴(NMR)も使用されてもよい。これをモニターする他の方法は当業者には周知である。
【0031】
この発明では、触媒は、当該技術分野において公知の方法によって再生され、反応媒体として適用されて、追加のアルドール縮合生成物を形成し得る。触媒はまた、他の反応での使用のために再生されてもよい。
【0032】
この発明のさまざまな実施の形態およびある種の利点をさらに実証するために、以下の非限定的な例が提供される。
【実施例】
【0033】
例:
一般的な条件:連続して撹拌され、光から保護された、4mlの塩水溶液(表を参照)
反応物濃度:アセトアルデヒド:0.1〜0.5M;アセトン:0.5〜1M
温度=25C(室温)または35C
反応の変換度は、アセトンについての反応物の消費、およびアセトアルデヒドについての生成物の形成を、紫外可視吸収により測定することによって求められた:アセトンは260nmでモニターされ、アセトアルデヒド生成物(2,4,6−オクタトリエナール)は320および350nmでモニターされた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドール縮合生成物を形成するための方法であって、無機アンモニウム塩、またはそのような塩から調製された水溶液もしくは有機溶液の存在下で、約0℃〜約120℃の温度範囲および約1気圧〜約1000気圧の圧力範囲で、アルドール縮合生成物を形成するのに十分な時間、少なくとも1つのアルデヒドまたはケトン出発物質を反応させるステップを含む、方法。
【請求項2】
無機アンモニウム水溶液は、NH4F、(NH42SO4、NH4NO3、NH4Cl、NH4Br、NH4I、NH4CO3、(NH4)HSO4、(NH4)HCO3、および、NH4+カチオンを含有する他の無機塩を含む群から選択される無機塩から調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
温度は約25℃〜約70℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
出発物質は、特にメチルイソブチルケトン(MIBK)の生成のために使用される場合、アセトンである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
(a)触媒から縮合生成物を分離するステップと、
(b)イオン性の液状媒体および塩基触媒を回収するステップとをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2010−540515(P2010−540515A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526855(P2010−526855)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051091
【国際公開番号】WO2009/045156
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510086556)
【Fターム(参考)】