説明

アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物の製造方法

0〜0.1の極性を有する溶媒を使用することを含む、アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合におけるオリゴマー性および二官能性の光開始剤の使用は、モノマー性および単官能性の光開始剤の使用と比較して、処方物からの光開始剤の低い移動可能性およびそれらの光分解から生じる揮発性化合物の低減された量などの、様々な利点を有する。これらの特徴は、最終製品の望ましくない化合物での汚染のリスクを減らすので、工業的な使用に重要である。
オリゴマー光開始剤の中で、アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体が知られている。
これらの光開始剤は、例えば、US 4,987,159に記載されている。
これらは二量体および三量体異性体の混合物で主に構成される。室温において、混合物は非常に高粘度の生成物であって、工業的用途などにおいて容易に使用することができない。
【0003】
本明細書において、「アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物」の表現は、式Iの化合物の混合物を意味し、式中nは0以上の数字である:
【化1】

【0004】
US 4,987,159特許において、出願人は、アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物(主に二量体および三量体)の製造を記載し、これは、アルファ−メチルスチレンのオリゴマー化および同時の結晶化;それに続く、塩化イソブチリルでの反応による、芳香環へのカルボニル基の導入;カルボニルのアルファ位の塩素化;および最後の加水分解により、所望の化合物を得る。
US 4,987,159のアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物は、40〜50℃の流動点を有する生成物である。
本明細書において、この生成物は、「高粘度混合物」の表現でも表示される。
【0005】
同一の出願人により出願された、国際出願WO 02/085832は、少なくとも90%の二量体異性体を含む、アルファ-メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の固体混合物の製造方法を記載し、ここで、少なくとも60重量%の二量体異性体を含む高粘度混合物から開始し、より反応性の二量体異性体が優勢となる。
WO 02/085832のアルファ-メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の固形混合物の製造方法は、高粘度混合物を0.1〜0.7の極性を有する特定量の溶媒に溶解し、固形混合物を沈殿し、収集することからなる。
【0006】
残念なことに、固形生成物の収率を高めるために、アルファ-メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の高粘度混合物から、二量体5および6を完全に沈殿させることを試みる場合は特に、0.1〜0.7の極性を有する溶媒は、粘着性で収集が困難な固形混合物を生成する。
CIBAにより出願された、国際特許出願WO 2004/099111は、アルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体結晶の代替の製造方法を記載する;この製造は、オリゴマー含有量の低い、純粋な1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンから開始し、塩化イソブチリルの使用および塩化スルフリルまたは塩素ガスでの塩素化を含む特定の合成経路を経る。
イタリア国特許出願IT VA2006A000021は、塩素化工程を含まない、アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の便利な製造方法を記載する。
【0007】
US 4,987,159またはIT VA2006A000021に記載のように簡単に製造することのできるアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物から、アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物を高収率および高純度で容易に製造することができることが見出された。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明は、アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物からの、高純度であるアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の高収率な製造方法である。
本発明の方法から得られる粉末状結晶混合物は、95%より多いアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体を含み、二量体5の二量体6に対する比率は、1.5〜7.0である(以下に説明する分析方法において特定されるように測定したHPLC純度)。
【0009】
表現「二量体異性体5」または「二量体5」は、式IIの生成物を意味する。
【化2】

【0010】
表現「二量体異性体6」または「二量体6」は、式IIIの生成物を意味する。
【化3】

【0011】
表現「アルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体」は、二量体5および6を意味する。
出発生成物として有用なアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物は、US 4,987,159またはIT VA2006A000021に説明されるように製造してもよい。
【0012】
アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法は、以下の工程を含む:a)アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物を、0.1〜0.7、好ましくは0.25〜0.6の極性を有する溶媒に、溶媒/アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物の比率を0.2〜4、好ましくは0.4〜2.5で溶解する;b)混合物を40℃より低い温度に、10〜120時間保持する;c)得られた固形沈殿物を濾過により収集し、これを少なくとも1重量部の、0〜0.1の極性を有する溶媒で洗浄する;d)溶媒残留物を従来の方法で除去する。
【0013】
工程a)のアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体は、通常少なくとも60重量%の二量体異性体5および6を含有する。
溶媒(□°)の極性は、Alで測定する吸収エネルギーに対応する。
【0014】
工程c)は、好ましくは20〜100℃の温度で、攪拌下で行う。
工程c)の好適な溶媒の例は、140℃より低い沸点を有するC〜C脂肪族炭化水素、例えばn−ヘキサン、石油エーテル、n−ペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、イソオクタン、n−オクタン、n−ヘプタンおよびこれらの混合物などであり、n−ヘキサンが好ましい溶媒である。
【0015】
本発明の手順は、二量体5および6のほとんど全てを、少なくとも95重量%、好ましくは97%以上の純度を有し、光開始剤として反応性の高い、粉末状結晶形状で回収することができるという素晴らしい利点を有している。
他の関連する利点は、塩素または環境的に有害である硫化ガス副産物を生成しえる他の試薬などの、ガス状試薬の使用およびその結果必要となるガス状試薬の調節を伴わないことである。
【0016】
そして単離された二量体の粉末状結晶混合物は、WO 02/085832にしたがって得られる固体混合物よりも非常に優れた流動性を有している;さらに、結晶混合物は、(フェニルインダン基の酸性触媒による開裂−脱アリール化により生成する)合成の通常の副産物である、単官能性のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体不純物(例えば2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンなど)を欠いている。
【0017】
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンは、移動可能な物質である;したがって、光硬化産業における多くの使用のために、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの含有量が可能な限り少ない、アルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物を得ることが非常に望ましい。
【0018】
本発明の方法から得られるアルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物は、0.1%より少ない2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンを含有し、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの含有量は、UV 265nm検出器を用いたHPLC分析方法から得られるクロマトグラフの面積の%として判断される。
【0019】
WO/085832の方法および本発明の方法を組み合わせて使用する場合、二量体5および6において95%以上の純度、優れた流動性および高い反応性を有する、典型的に二量体5および6の混合物であって、二量体異性体5の二量体異性体6に対する比率が2.5〜7である、特に有利な生成物が得られる。
【0020】
他の有利な態様において、結晶化工程b)を二量体5および6の60%以上が沈殿するまで長引かせ、工程c)に記載のように洗浄し、そして二量体において少なくとも95%の純度、優れた流動性および高い反応性を有し、典型的には、純粋な形状の二量体5および6混合物である、より高い収率の生成物を得る。
【0021】
後者の態様において、二量体異性体5の二量体異性体6に対する比率は2.5より低いが、改善された純度のため、結晶混合物の反応性はアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の出発混合物のそれよりも高い。
【0022】
本発明の手順に従って得られるアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物は、エネルギー硬化技術、特にアクリルおよび/またはメタクリルタイプの不飽和化合物または不飽和化合物の混合物を含む処方物の光硬化のための、光開始剤として用いられる。
【0023】
本発明の結晶混合物の好ましい使用の中で、低黄変塗料およびニス、食品パッケージのコーティング、接着剤、グラフィックアート、工業的コーティング、光ファイバーコーティング、印刷版のための光硬化組成物における光開始剤としてそれらの使用を挙げる。
【0024】
以下の例において、例において説明する二量体異性体の含有量、二量体異性体5および6の2つの間の比率、ならびに2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの測定は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって行われた。クロマトグラフの条件:nova-packカラムPR18-15cmx3.9mm-4 □mおよびプレカラム;溶離液A=水中20%メタノール、溶離液B=メタノール;100%Aから100%Bへ30minの勾配、100%B 10分、100%A 20分;流速 0.8ml/分、検出器 265nm。
【0025】

例1(比較)
溶媒としてトルエン(□°0.29)で、二量体含有量が85.1%であり、二量体異性体5と6との比率が1.93である高粘度混合物を用いて固体混合物の沈殿を行う。この高粘度混合物は、特許US 4,987,159の例10に説明されるように得られた。
14kgのトルエンを加熱した反応器に移し、温度を120℃に設定し、そして28kgの混合物1を攪拌下で添加する。溶解を完了した後、温度を20℃に設定し、従前に沈殿した生成物のごく一部を添加する。
【0026】
沈殿混合物を20℃で攪拌下で48時間放置する。沈殿物を吸引により濾過し、トルエンで2度洗浄する。真空下(200 mmHg)および攪拌下で25℃でケーキを乾燥し;16時間後、残留トルエン含有量は0.5%より少ない。
不整形粒子の形状であり、粗い塊(1〜30nm)を含む、乾燥した沈殿物の量は、11.8kg(収率41.3%)であり;二量体異性体の含有量は96.8%であり、二量体異性体5および6の比率は2.93である。
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン不純物の%(クロマトグラフ面積)=0.37%
【0027】
例2(比較)
二量体含有量が90.4%であり、二量体異性体5と6との間の比率が2.09である高粘度混合物200gを、200gのトルエンに環流で攪拌下で溶解した。溶解が完了した後、混合物を室温(18℃)に冷却し、2gの従前に沈殿した生成物を添加した。混合物を攪拌下で同じ温度で72時間維持した。濾過により結晶の収率を評価するために、48時間後および72時間後のサンプルを収集した;固形物の組成もHPLCで評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
例3
二量体含有量が87.2%であり、二量体異性体5および6の比率が1.98gである高粘度混合物118gを、118gのトルエンに環流で攪拌下で溶解した。溶解が完了した後、混合物を室温(18℃)に冷却し、2gの従前に結晶化した生成物を添加した。混合物を攪拌下で同じ温度で72時間維持し、母液を吸引で濾過した。固形物を150gのn−ヘキサンにけん濁し、環流で1時間攪拌し、そして冷却した後に濾過により固形物を収集した。ケーキを真空および攪拌下で乾燥し;12時間後残留溶媒の含有量は0.5%より少なかった。白い、自由流動性の粉末(65.7%)として、77.5gの生成物を収集した。mp 99°〜100°C、粒径:20〜25%>16メッシュ、25〜35% 16〜35メッシュ、5〜10% 35〜45メッシュ、30〜50%<45メッシュ;HPLCおよび他の分析データを表2に説明する。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法であって、a)アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物を、0.1〜0.7の極性を有する溶媒に、溶媒/アルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物の比率を0.2〜4で溶解する;b)混合物を40℃より低い温度で10〜120時間保持する;c)得られた固体沈殿物の濾過により収集し、少なくとも1重量部の0〜0.1の極性を有する溶媒で洗浄する;d)従来方法での溶媒残留物を除去する、の工程を含む、前記製造方法。
【請求項2】
工程a)のアルファ−メチルスチレンのオリゴマーのアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の混合物が、少なくとも60重量%の二量体異性体5および6を含む、請求項1に記載のアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。
【請求項3】
工程c)を20〜100℃の温度で、攪拌下で行う、請求項2に記載のアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。
【請求項4】
工程c)の溶媒が、140℃より低い沸点を有するC〜C脂肪族炭化水素である、請求項2または3に記載のアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。
【請求項5】
工程c)の溶媒が、n−ヘキサン、石油エーテル、n−ペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、イソオクタン、n−オクタン、n−ヘプタンまたはこれらの混合物である、請求項4に記載のアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。
【請求項6】
工程c)の溶媒が、n−ヘキサンである、請求項5に記載のアルファ−メチルスチレン二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の粉末状結晶混合物の製造方法。
【請求項7】
95重量%より高い純度を有し、0.1%より少ない2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンを含む、アルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物であって、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの含有量は、UV 265nm検出器を用いたHPLC分析方法からフロマトグラフィー面積として測定される、前記結晶混合物。
【請求項8】
97重量%よりも高い純度を有する、請求項7に記載のアルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物。
【請求項9】
請求項7または8に記載のアルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物の光開始剤としての使用。
【請求項10】
請求項7または8に記載のアルファ−メチルスチレンの二量体のアルファ−ヒドロキシカルボニル誘導体の結晶混合物の、食品パッケージのコーティング、低黄変塗料およびニス、接着剤、グラフィックアート、工業的コーティング、光ファイバーコーティング、印刷版のための光硬化組成物における光開始剤としての使用。

【公表番号】特表2012−520260(P2012−520260A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553439(P2011−553439)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053021
【国際公開番号】WO2010/103035
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(501185604)ランベルティ ソシエタ ペル アチオニ (17)
【Fターム(参考)】