説明

アルミナセラミックス物品の製造方法

【課題】焼成したアルミナセラミックス部品同士を直接接合することにより、クラックの発生のない、しかも形状寸法に優れたアルミナセラミックス物品の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の形状を有するアルミナ成形体を作製する工程と、前記アルミナ成形体を1250℃〜1700℃で焼成し、アルミナ焼成体からなる部品を作製する工程と、前記アルミナ焼成体からなる複数の部品を組み合わせて、13.3Pa〜1.3×10-2Paの真空状態で、部品の接合面に対して、0.1MPa〜1.5MPaの圧力を加えると共に1350℃〜1650℃で加熱することにより、複数の部品を一体になす工程と、を含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアルミナセラミックス焼成体からなる部品を、加熱及び加圧下で直接接合して形成することができるアルミナセラミックス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部品から構成されるセラミックス物品の製造方法として、特許文献1に記載されらた発明が知られている。
この方法は、まず、セラミックス成形体を作製し、その後、ペーストを介在させることなく、これらセラミックス成形体を組み合わせる。そして、これらセラミックス成形体を組み合わせた組み合わせ体を、等方静圧加圧により圧密せしめた後、常圧焼結することにより、前記組み合わせ体を一体に接合するものである。
【特許文献1】特開昭61−111975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記したような、セラミックス成形体を組み合わせた組み合わせ体(セラミックス物品)を、等方静圧加圧により圧密せしめた後、常圧焼結することにより、前記組み合わせ体を一体に接合する方法にあっては、セラミックス成形体の収縮量の違いから組み合わせ体(セラミックス物品)にクラックが生じるという問題があった。このクラックのため、セラミックス物品をガス路等に用いた場合、洩れが生じるという問題があった。
また、セラミックス物品の形状寸法は、最終的にセラミックス成形体の収縮量に依存するため、高精度のセラミックス物品を得ることは困難であった。ここで、焼成後の組み合わせ体(セラミックス物品)に対して、研磨等の機械加工を施し、寸法精度を向上させることが考えられるが、組み合わせ体(セラミックス物品)は複雑な形状である場合が多く、その機械加工が困難であった。
【0004】
本願発明者はこれら問題点を解決するために鋭意研究を重ね、アルミナセラミックス焼結体同士が、直接、接合できることを見出し、本願発明を想到するに至ったものである。
【0005】
本発明は上記事情の下なされたものであり、焼成したアルミナセラミックス部品同士を直接接合することにより、クラックの発生のない、しかも形状寸法に優れたアルミナセラミックス物品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、本発明にかかるアルミナセラミックス物品の製造方法は、所定の形状を有するアルミナ成形体を作製する工程と、前記アルミナ成形体を1250℃〜1700℃で焼成し、アルミナ焼成体からなる部品を作製する工程と、前記アルミナ焼成体からなる複数の部品を組み合わせて、13.3Pa〜1.3×10-2Paの真空状態で、部品の接合面に対して、0.1MPa〜1.5MPaの圧力を加えると共に1350℃〜1650℃で加熱することにより、複数の部品を一体になす工程と、を含むことを特徴としている。
【0007】
このような製造方法によるため、ペーストを介在させることなく、アルミナ焼成体からなる部品を直接接合できる。しかも、組み合わせる部品がアルミナ焼成体であるため、接合の際の加熱、加圧による収縮量は小さく、クラックの発生が抑制され、漏れ等も抑制される。更に、アルミナ焼成体からなる部品の段階で、機械的加工を施すことにより、形状寸法に優れたアルミナセラミックス物品を得ることができる。
【0008】
ここで、所定の形状を有するアルミナ成形体を作製する工程において、粒度が5μm以下、純度が90%以上のアルミナ粉が用いられることが望ましい。
このように粒度が5μmを超え、あるいは純度が90%未満である場合には、アルミナ焼成体からなる部品を直接接合することができない。
【0009】
また、前記アルミナ成形体を1250℃〜1700℃で焼成し、アルミナ焼成体からなる部品を作製する工程において、前記焼成後、部品の接合面の表面粗さRaを、0.1μm以下になす研磨工程が含まれることが望ましい。
前記部品の接合面の表面粗さRaが、0.1μm超える場合には、アルミナ焼成体からなる部品を直接接合することができない。
【0010】
更に、前記複数の部品を一体になす工程における加熱時間は、前記部品の形状の大小にもよるが、1時間〜3時間であることが望ましい。
加熱時間が1時間以下の場合には、アルミナ焼成体からなる部品を直接接合することができないか、あるいはまた接合できたとしても、その接合強度が不十分なものとなる。
【0011】
前記複数の部品を一体になす工程の後、接合された前記部品を、大気中で高温熱処理することにより、酸化復元処理を行うことが望ましい。具体的には、1200℃〜1600℃で熱処理を行う。このように、酸化復元処理することにより、前記した加熱、加圧処理で変色したアルミナセラミックスの本来の色に戻すことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、焼成したセラミックス部品同士を直接接合することにより、クラックの発生のない、しかも形状寸法に優れた接合アルミナセラミックス物品の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかるアルミナセラミックス物品の製造方法について説明する。尚、図1乃至図5に示すアルミナセラミックス物品を例にとって説明する。
まず、粒径5μm以下、純度90%以上のAl23粉末と焼結助剤、バインダーを加え、ボールミルに投入すると共に、適量のイオン交換水を添加してスラリーを得る。
【0014】
次いで、得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥、造粒して、造粒粉を得た後、造粒粉をラバープレスを用いて、所定の形状を有するアルミナ成形体を得る。
即ち、図1に示したアルミナセラミックス物品10を製作する場合、部品として蓋部11と、胴体部12と、底部13とを、ラバープレスを用いて成形することにより、所定の形状を有する夫々のアルミナ成形体を得る。
尚、この成形後に、各種機械加工を行い、蓋部11の凹部11a,11b、貫通穴12bを形成し(図2,3参照)、底部13の上面の溝部13bが形成される(図2,4参照)。
【0015】
そして、この成形体を脱脂仮焼後、1250℃〜1700℃の温度で焼成する。この焼成によって成形体時に比べて、前記蓋部11、胴体部12、底部13は、20%程度収縮する。そのため、焼成後の蓋部11、胴体部12、底部13の各部品を仕上げの機械加工し、所定の寸法に仕上げる。このとき、各部品毎に機械加工を行なうため、容易に機械加工をなすことができる。
【0016】
この機械加工で、各部品の外形形状を所定の寸法に研削、研磨する。特に、部品の接合面、具体的には蓋部11の下面11A、胴体部12の上面12A、下面12B、底部13の上面13Aの表面粗さRaを0.1μm以下、平行度10μm以下、平面度10μm以下になるように研磨する。
このように、接合面を表面粗さRaを0.1μm以下、平行度10μm以下、平面度10μm以下になるように研磨することによって、後に説明する接合工程において、各部品を直接接合することができる。
【0017】
前記焼結体である部品の機械加工が終了した後、図5に示すように、蓋部11と、胴体部12、底部13を重ね合わせ、真空加圧加熱装置内に収容する。
この真空加圧加熱装置としては、13.3Pa〜1.3×10-2Pa程度の真空状態を作り出すことができ、部品の接合面に対して、0.1MPa〜1.5MPaの圧力を加えると共に1350℃〜1650℃で加熱することができる装置が用いられる。具体的には、前記機能を有する真空ホットプレス装置を用いることができる。
【0018】
この真空加圧加熱装置内に収容した組み合わせ体を、まず、13.3Pa〜1.3×10-2Paの真空状態下に置く。そして、部品の接合面に対して、図5に示すように、上方から圧力Pを加える。この圧力Pは、0.1MPa〜1.5MPaであり、また同時に1350℃〜1650℃で加熱する。
この部品の接合面に対する圧力は、前記したように0.1MPa〜1.5MPaであり、前記加圧状態で1〜2時間保持する。
一方、この部品の接合面に対する加熱温度の昇温速度は、10℃/分〜15℃/分であり、1550℃の状態で1〜2時間保持する。
【0019】
そしてその後、接合面に対する加熱を解除する。このときのこの部品の接合面に対する降温速度は、4℃/分〜8℃/分である。そして、500℃まで降温させた後、接合面に対する圧力を解除する。その際の圧力の降圧速度は、0.1MPa/分〜1.5MPa/分である。
そして、真空加圧加熱装置内を真空状態から大気圧状態に戻し、前記部品を装置外に取り出す。
【0020】
前記処理より、各部品は接合され一体化し、図1に示すアルミナセラミックス物品10が製作される。この図1に示したアルミナセラミックス物品10には一つの管路、即ち、図5に示すように、凹部12a,13a、溝部13b、貫通穴12b、凹部11a,11bからなる管路が形成される。
しかも、前記接合処理において各部品はアルミナ焼結体であるため、その収縮は殆どなく、良好な寸法精度が維持されている。したがって、一体化した物品において、更に機械加工する必要がない。
しかし、接合後において機械加工が必要な場合、例えば、凹部12a、凹部13aにねじ加工が必要な場合には、接合後、機械加工を行う。尚、真円度等、高精度の寸法が要求される場合にも、接合後、機械加工をしてもよい。また凹部12a、凹部13aのねじ加工は、焼成後に行われる機械加工によって行っても良い。
【0021】
また前記接合工程において還元作用のため、組み合わされた部品の色が変色する場合がある。この場合には、酸化復元処理を行うことで、変色を抑制できる。この酸化復元処理は、大気中で、1200℃〜1600℃の高温の下で行なわれる。
【0022】
更に、図6乃至図8に示す他のアルミナセラミックス物品を例にとって説明する。この接合アルミナセラミックス物品20は、蓋部21、上部胴体部22、下部胴体部23、底部24、側部反転部25の五つの部品から構成されている。
【0023】
この場合も前記した場合と同様に、所定の形状を有する夫々のアルミナ成形体を得る。尚、この成形後に、機械加工により、図7に示すように、蓋部21には凹部21a,21b、上部胴体部22には貫通穴22a、下部胴体部23には貫通穴23a、ネジ部23b、底部24には貫通穴24a、側部反転部25には貫通ネジ部25aが形成される。
【0024】
そして、これらアルミナ成形体を脱脂仮焼後、1250℃〜1700℃の温度で焼成する。この焼成後、各部品を機械加工し、所定の寸法に仕上げる。このとき、各部品毎に機械加工を行なうため、容易に機械加工をなすことができる。
【0025】
この機械加工で、各部品の外形形状を所定の寸法に研削、研磨する。特に、部品の接合面、具体的には、蓋部21の内底面21A、上部胴体部22の上面22A及び下面22B、下部胴体部23の上面23A及び下面23B並びに側面内底部23C、底部24の内底面24A、側部反転部側面の25Aの表面粗さRaを0.1μm以下、平行度10μm以下、平面度10μm以下になるように研磨する。
このように、接合面を表面粗さRa0.1μm以下、平行度10μm以下、平面度10μm以下になるように研磨することによって、後に説明する接合工程において、各部品を直接接合することができる。
【0026】
前記焼結体である部品の機械加工が終了した後、図8に示すように、各部品を組み合わせて、真空加圧加熱装置内に収容する。そして、加熱装置内に収容した組み合わせ体を、まず、13.3Pa〜1.3×10-2Paの真空状態下に置く。
そして、部品の接合面に対して、図8に示すように、上方から圧力P1、側方から圧力P2を加える。この圧力P1、P2は、0.1MPa〜1.5MPaであり、また同時に1350℃〜1650℃で加熱する。
以下、前記した図1乃至図5に示したアルミナセラミックス物品と同様な処理を施すことによって、図6に示すアルミナセラミックス物品を製造することができる。
【実施例】
【0027】
まず、粒径5μm、純度90%のAl23 粉末と焼結助剤、バインダーを加え、ボールミルに投入すると共に、適量のイオン交換水を添加してスラリーを得え、得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥、造粒した造粒粉をラバープレスを用いて、図1に示した蓋部11と、胴体部12と、底部13とを、ラバープレスを用いて成形した。前記蓋部11の凹部11a、貫通穴12bを形成し(図2,3参照)、底部13の上面の溝部13bを形成した(図2,4参照)。
【0028】
そして、この成形体を、脱脂し、900℃で仮焼した。その後、1500℃の温度で焼成した。その焼成後、蓋部11、胴体部12、底部13の各部品を仕上げの機械加工し、所定の寸法に仕上げた。このとき、蓋部11の下面11A、胴体部12の上面12A、下面12B、底部13の上面13Aの表面粗さRaを0.05μm、平行度5μm、平面度5μmになるように研磨した。
【0029】
前記機械加工が終了した後、図5に示すように、蓋部11と、胴体部12、底部13を重ね合わせ、真空加圧加熱装置内に収容し、組み合わせ体を、1.3×10-2Paの真空状態下に置き、上方から0.8MPaの圧力Pを作用させ、また同時に1550℃で加熱する。そして、前記加圧、加熱状態で1時間保持する。
【0030】
そしてその後、接合面に対する加熱を解除する。このときのこの部品の接合面に対する降温速度は、6℃/分である。そして、500℃まで降温させた後、接合面に対する圧力を解除する。その際の圧力の降圧速度は、0.8MPa/分である。
そして、真空加圧加熱装置内を真空状態から大気圧状態に戻し、前記部品を装置外に取り出す。
【0031】
前記処理より、各部品は接合され一体化し、図1に示すアルミナセラミックス物品10が製作される。この図1に示したアルミナセラミックス物品10には一つの管路、即ち、図5に示すように、凹部12a、13a、溝部13b、貫通穴12b、凹部11a,11bからなる管路が形成される。そして、凹部12a、凹部13aにねじ加工を行う。
【0032】
そして、このように製作された図1に示すアルミナセラミックス物品に形成された、凹部12a,13a、溝部13b、貫通穴12b、凹部11aからなる管路の洩れ試験を行なった。この洩れ試験は、Heガスリークデテクタ試験(感度:6×10-11Pa・m3/sにより行なった。その結果、洩れがないことが確認された。
【0033】
また、前記図1に示すアルミナセラミックス物品の色は、還元作用で変色しているため、大気中で、1500℃で熱処理を行った。その結果、本来の色に復元されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は,半導体製造装置の冷却路ガス路、温水路を始めとして、熱交換器等、各種産業分野における各種用途に用いられるアルミナセラミックス物品の製造方法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明にかかる製造方法によって製造されるアルミナセラミックス物品を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示すアルミナセラミックス物品の分解図(断面図)である。
【図3】図3は、図2に示したA−A矢視図である。
【図4】図4は、図2に示したB−B矢視図である。
【図5】図5は,加圧状態を示す図である。
【図6】図6は他のアルミナセラミックス物品を示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示すアルミナセラミックス物品の分解図(断面図)である。
【図8】図8は,加圧状態を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 アルミナセラミックス物品
11 蓋部
11A 下面(接合面)
12 胴体部
12A 上面(接合面)
12B 下面(接合面)
13 底部
13A 上面(接合面)
20 アルミナセラミックス物品
21 蓋部
21A 内底面(接合面)
22 上部胴体部
22A 上面(接合面)
22B 下面(接合面)
23 下部胴体部
23A 上面(接合面)
23B 下面(接合面)
24 底部
24A 内底面(接合面)
25 側部反転部
25A 側面(接合面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有するアルミナ成形体を作製する工程と、
前記アルミナ成形体を1250℃〜1700℃で焼成し、アルミナ焼成体からなる部品を作製する工程と、
前記アルミナ焼成体からなる複数の部品を組み合わせて、13.3Pa〜1.3×10-2Paの真空状態で、部品の接合面に対して、0.1MPa〜1.5MPaの圧力を加えると共に1350℃〜1650℃で加熱することにより、複数の部品を一体になす工程と、を含むことを特徴とするアルミナセラミックス物品の製造方法。
【請求項2】
所定の形状を有するアルミナ成形体を作製する工程において、粒度が5μm以下、純度が90%以上のアルミナ粉が用いられることを特徴とする請求項1記載のアルミナセラミックス物品の製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ成形体を1250℃〜1700℃で焼成し、アルミナ焼成体からなる部品を作製する工程において、前記焼成後、部品の接合面の表面粗さRaを、0.1μm以下になす研磨工程が含まれることを特徴とする請求項1記載のアルミナセラミックス物品の製造方法。
【請求項4】
前記複数の部品を一体になす工程における加熱時間は、1時間〜3時間であることを特徴とする請求項1記載のアルミナセラミックス物品の製造方法。
【請求項5】
前記複数の部品を一体になす工程の後、接合された前記部品を、大気中で、高温熱処理することにより、酸化復元処理を行うことを特徴とする請求項1記載のアルミナセラミックス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−119262(P2007−119262A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309589(P2005−309589)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(505398907)
【Fターム(参考)】