説明

アルミニウム基蓄光性複合材料及びその製造方法

【課題】蓄光性を有するとともに、安価且つ軽量であり室温及び高温で高い機械的強度を有するアルミニウム基蓄光性複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末を混合装置に投入し、メカニカルグラインディングを施す。これにより、アルミニウム粉末に機械的エネルギーが付与されるため、アルミニウム粉末にひずみが導入されて加工硬化がなされ、機械的強度及び硬さが高められる。このような処理により、機械的強度及び硬さが高められたアルミニウム粉末と、蓄光材料の粉末との混合粉末が得られるので、この混合粉末を型に充填し放電プラズマ焼結法により焼結して、所望の形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性を有するアルミニウム基複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題の観点から、より安価且つ軽量であり、さらに室温及び高温で高い機械的強度を有する材料の開発が望まれている。また、高機能化の観点から、様々な機能を有する軽量な材料の開発が望まれている。例えば、安価で軽量なアルミニウムに高強度化と蓄光性の付与とがなされれば、高強度化により、建築材料や建築構造材等としての適用が可能となるとともに、蓄光性により、安全性や防犯性の優れた建築材料や建築構造材等を製造することができる。また、蓄光性により、太陽光や蛍光灯の光を有効利用することが可能となるため、地球温暖化問題の解決の一助となり得る。
【0003】
特許文献1には、発光顔料粒子がアルミニウム中に分散されてなる、発光機能を有するアルミニウム基複合材料が記載されている。このアルミニウム基複合材料は、発光顔料粒子を加圧成形してプリフォームを形成し、このプリフォームにアルミニウム溶湯を加圧浸透させることにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−225754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のアルミニウム基複合材料は、アルミニウム溶湯が凝固してなるアルミニウム中に発光顔料粒子が分散したものであるため、その機械的強度は、純アルミニウム材料の通常の機械的強度(室温で100MPa以下)と同レベルであった。よって、建築材料や建築構造材として適用するには、機械的強度が不十分である場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、蓄光性を有するとともに、安価且つ軽量であり室温及び高温で高い機械的強度を有するアルミニウム基蓄光性複合材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料は、蓄光材料の粉末と、機械的エネルギーを付与することにより強度が高められたアルミニウム粉末と、の混合粉末の焼結体であることを特徴とする。
このような本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料においては、前記アルミニウム粉末は、メカニカルグラインディングを施すことにより強度が高められたものであることが好ましい。また、放電プラズマ焼結法による焼結体であることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法は、アルミニウム粉末に機械的エネルギーを付与して前記アルミニウム粉末の強度を高める高強度化工程と、蓄光材料の粉末と、前記強度が高められたアルミニウム粉末と、を混合して混合粉末とする混合工程と、前記混合粉末を焼結して成形する焼結工程と、を備えることを特徴とする。
さらに、本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法は、アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末に機械的エネルギーを付与して、前記アルミニウム粉末の強度を高めつつ前記アルミニウム粉末と前記蓄光材料の粉末とを混合した後に、この混合粉末を焼結して成形することを特徴とする。
【0009】
これらの本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法においては、メカニカルグラインディング法により粉末に機械的エネルギーを付与することが好ましい。また、放電プラズマ焼結法により焼結を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウム基蓄光性複合材料は、蓄光材料の粉末と、強度が高められたアルミニウム粉末と、の混合粉末の焼結体であるので、蓄光性を有するとともに、安価且つ軽量であり室温及び高温で高い機械的強度を有する。
また、本発明のアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法は、アルミニウム粉末に機械的エネルギーを付与してアルミニウム粉末の強度を高める工程を備えているので、蓄光性を有するとともに安価且つ軽量であり室温及び高温で高い機械的強度を有するアルミニウム基蓄光性複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】粉末にメカニカルグラインディングを施した時間と粉末のマイクロビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図2】焼結温度と焼結体のビッカース硬さ及び相対密度との関係を示すグラフである。
【図3】X線回折のチャートである。
【図4】焼結体の組織を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図5】焼結体と光源と輝度計の配置図である。
【図6】光の照射時間と焼結体の輝度との関係を示すグラフである。
【図7】粉末にメカニカルグラインディングを施した時間と焼結体の輝度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルミニウム基蓄光性複合材料及びその製造方法の実施の形態を、以下に詳細に説明する。
まず、アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末を混合装置に投入し、アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末を撹拌すると、アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末が均一に混合される。このとき、撹拌によりアルミニウム粉末に機械的エネルギーが付与されるようにすると、アルミニウム粉末にひずみが導入されて加工硬化がなされ、機械的強度及び硬さが高められる。なお、混合時における焼付きを防止するために、ステアリン酸等の滑剤をアルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末に混合してもよい。
【0013】
機械的エネルギーを付与しながら粉末を撹拌し混合する方法は、アルミニウム粉末の機械的強度及び硬さが十分に高められるならば特に限定されるものではないが、メカニカルグラインディング法が好ましい。メカニカルグラインディング法は、金属製の容器内に金属製ボールと粉末を装入し、容器を連続的に回転させることにより、金属製ボールを粉末に激しく衝突させて、金属製ボールから粉末に繰り返し衝撃(機械的エネルギー)を付与するという方法である。
【0014】
なお、粉末にメカニカルグラインディングを施す時間は、5分以上10時間以下が好ましい。メカニカルグラインディングを施す時間が長いほど、アルミニウム粉末に強いひずみが導入されて大きな機械的エネルギーが付与されるので、機械的強度及び硬さがより高められる。さらに、蓄光材料の粉末が微細に粉砕され、その粒子が均一にアルミニウム粉末中に分散するため、硬さがさらに高められる。ただし、蓄光材料の粉末が微細に粉砕されると、蓄光性が低下する傾向があるため、上記の作用とのバランスを考えて、メカニカルグラインディングを施す時間の長さを決定することが好ましい。
【0015】
このような処理により、機械的強度及び硬さが高められたアルミニウム粉末と、蓄光材料の粉末との混合粉末が得られるので、この混合粉末を型(型の素材は金属,セラミックス,炭素等があげられる)に充填し焼結して、所望の形状に成形する。これにより、蓄光性を有するアルミニウム基蓄光性複合材料が得られる。このアルミニウム基蓄光性複合材料は、金属成分がアルミニウムであるので、安価且つ軽量であり加工性が優れている。また、アルミニウム粉末の機械的強度及び硬さが高められているため、アルミニウム基蓄光性複合材料の室温及び高温における機械的強度(例えば比強度)と硬さは、純アルミニウム材料よりも優れている。
【0016】
焼結方法の種類は特に限定されるものではなく、一般的な焼結法を採用可能であるが、放電プラズマ焼結法により焼結を行うことが好ましい。放電プラズマ焼結法は短時間で焼結体を得ることができるので、従来の粉末冶金法(粉末を冷間加工した後に熱間押出しして焼結体を得る方法)などと比べて、焼結体の製造に要する時間や工程を大幅に削減することができる。よって、焼結体を安価に製造することができる。また、圧力,温度,時間等の焼結条件は特に限定されるものではなく、アルミニウム基蓄光性複合材料に要求される機械的強度,硬さ,密度等に応じて適宜設定すればよい。
【0017】
なお、上記のように、アルミニウム粉末と蓄光材料の粉末を共に混合装置に投入して撹拌すると、蓄光材料の粉末に対しても機械的エネルギーが付与されるため、蓄光材料の粉末が微細に粉砕された粒子がアルミニウム粉末中に均一に分散することによって硬さが上昇する一方で、蓄光材料の蓄光性が低下する場合がある。よって、まず、アルミニウム粉末のみに機械的エネルギーを付与して、アルミニウム粉末の機械的強度及び硬さを高めた後に、蓄光材料の粉末と混合する方法を採用してもよい。
【0018】
すなわち、まずアルミニウム粉末を混合装置に投入し撹拌して、アルミニウム粉末に機械的エネルギーを付与し、アルミニウム粉末の機械的強度及び硬さを高める(高強度化工程)。次に、蓄光材料の粉末と、機械的強度及び硬さが高められたアルミニウム粉末と、を混合して混合粉末とする(混合工程)。このとき、機械的強度及び硬さが高められたアルミニウム粉末と蓄光材料の粉末との混合方法は、前述のような機械的エネルギーが付与される混合方法(メカニカルグラインディング法等)でもよいし、機械的エネルギーは付与されない一般的な混合方法でもよい。そして、この混合粉末を焼結して成形する(焼結工程)。このような方法によりアルミニウム基蓄光性複合材料を製造すれば、より優れた蓄光性を有するアルミニウム基蓄光性複合材料を得ることができる。
【0019】
また、焼結温度が高いと、蓄光材料が固相で分解しアルミニウムと固相反応するおそれがあるので、アルミニウムと蓄光材料が反応しない程度の低温で焼結を行うことが好ましい。アルミニウムと蓄光材料が反応すると、機械的強度及び硬さは向上するものの蓄光性が低下する場合があるため好ましくない。また、高強度化工程と混合工程を別々に行う前述の方法を採用すれば、焼結における蓄光材料の固相分解や固相反応が抑制されるため、機械的強度及び硬さを維持しながら、優れた蓄光性を発揮することができる。
【0020】
ただし、アルミニウム粉末と蓄光材料の粉末を高温で反応させて、機械的強度及び硬さを向上させ、この機械的強度及び硬さを向上させた粉末と、別途用意した高温に曝されていない蓄光材料の粉末を混合して焼結すれば、優れた機械的強度及び硬さと優れた蓄光性とを兼ね備えるアルミニウム基蓄光性複合材料を得ることができる。
このような本実施形態のアルミニウム基蓄光性複合材料は、優れた機械的強度及び硬さと優れた蓄光性とを備えているので、建築材料や建築構造材等として好適に使用可能である。例えば、駅,空港,病院,学校,商用ビルディング,映画館等の公共施設において使用されている手摺,ドアノブ等は、一般的に木材やステンレス鋼で製造されている。防犯性や緊急避難時の安全性等の観点から、暗所,暗時において手摺やドアノブが光を発して目印となることが好ましいので、現在は手摺やドアノブに蛍光テープを貼付したり蛍光塗料を塗布したりしている。
【0021】
しかしながら、蛍光テープや蛍光塗料は、耐候性の点で屋外での使用が制限される。また、蛍光テープや蛍光塗料が剥離したり、耐用年数を過ぎて蛍光能力が低下したりするおそれがあるので、蛍光テープの貼り替えや蛍光塗料の再塗布を定期的に行う必要がある。これに対して、本実施形態のアルミニウム基蓄光性複合材料で手摺,ドアノブ等を製造すれば、蛍光テープを貼付したり蛍光塗料を塗布したりする作業を行う必要がない。また、アルミニウム基蓄光性複合材料から蓄光材料が脱落することはないので、手摺,ドアノブ等を定期的に取り替える必要性はほとんどない。
【0022】
本実施形態のアルミニウム基蓄光性複合材料の用途としては、手摺,ドアノブの他には、階段滑り止め,床面標示,壁面標示,スイッチ,コンセント,道路標識,誘導標識,緊急用懐中電灯,避難用具,非常持出用具,消化器,消火栓,火災報知機,救命器具,階段階数標示,その他の安全標識等があげられる。また、インテリア用品,レジャー用品,玩具,文房具,自動車用品,暗室用品,釣具,漁具等にも適用可能である。
【0023】
本発明に使用可能な蓄光材料の種類は特に限定されるものではないが、アルミン酸カルシウム,アルミン酸ストロンチウム,アルミン酸バリウム等のアルミン酸塩や、酸化カルシウム,酸化ストロンチウム,酸化バリウム,酸化アルミニウム,酸化セリウム等の金属酸化物や、硫化亜鉛,硫化カルシウム,硫化ゲルマニウム,硫化ストロンチウム,硫化イットリウム等の金属硫化物が好ましい。
【0024】
また、アルミニウム粉末と蓄光材料の粉末との混合比率は特に限定されるものではないが、アルミニウム粉末と蓄光材料の粉末の合計の体積における蓄光材料の粉末の体積の割合は、10%以上50%以下であることが好ましい。10%未満であると、アルミニウム基蓄光性複合材料の蓄光性が不十分となるおそれがあり、50%超過であると、アルミニウム基蓄光性複合材料の機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0025】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、出発原料として用いたアルミニウム粉末は、純度99.9%,平均粒子径25μmの純アルミニウムの粉末である。また、蓄光材料の粉末は、株式会社テールナビ製の商品名G201−60(以降は「LG」と記す)である。このLG粉末は、SrAl を主成分とする複合酸化物である。
【0026】
メカニカルグラインディングには、800rpmで回転するモータによってミル容器に上下左右の複雑な振動を与えることができる振動型ボールミルを用いた。直径51mm,長さ64mmの工具鋼製ミル容器に、直径6mmの工具鋼製ボール70個(約70g)と、アルミニウム粉末及びLG粉末を合計で10gと、焼き付き防止剤としてステアリン酸0.25gと、を装入した。
【0027】
アルミニウム粉末及びLG粉末の配合組成については、3種類検討した。すなわち、アルミニウム粉末:LG粉末が90体積%:10体積%のもの(以降は「Al−10LG」と記す)、70体積%:30体積%のもの(以降は「Al−30LG」と記す)、50体積%:50体積%のもの(以降は「Al−50LG」と記す)についてメカニカルグラインディングを行った。
【0028】
メカニカルグラインディングの処理時間については、5分,30分,60分とした。なお、ミル容器への粉末の装入と取り出しはアルゴン雰囲気中で行なった。そして、メカニカルグラインディングを施した混合粉末について、マイクロビッカース硬さHV0.01を測定した。メカニカルグラインディングの処理時間と得られた混合粉末のマイクロビッカース硬さHV0.01との関係を、図1のグラフに示す。
【0029】
次に、メカニカルグラインディングの処理時間が5分の各混合粉末を、放電プラズマ焼結装置で固化成形した。成形には黒鉛ダイス(外径50mm,内径20.1mm,高さ40mm)と黒鉛パンチを用い、これに5gの混合粉末を充填した。チャンバー内を真空に保ち、焼結温度が673K,773K,又は873K、焼結圧力が49MPa、保持時間が15分という条件で焼結した。焼結温度と焼結体のビッカース硬さHV1及び相対密度との関係を、図2のグラフに示す。
【0030】
なお、混合粉末のマイクロビッカース硬さHV0.01と焼結体のビッカース硬さHV1は、測定面をエメリー紙で研磨後、研磨用アルミナ粒子でバフ研磨し、それぞれマイクロビッカース硬度計又はビッカース硬度計で測定した。また、焼結体の相対密度は、アルキメデス法に基づいて測定した。水中での焼結体の質量は、焼結体の表面をパラフィン処理して測定した。さらに、焼結体の構造解析はX線回折(XRD)で行った(図3のX線回折のチャートを参照)。X線回折は、強度40kV,60mAのCuKα線を用いて、回折速度1.66×10-2deg/s及び回折角度20〜80°の条件で測定した。
【0031】
ここで、メカニカルグラインディングの処理時間について考察する。純アルミニウム粉末のみにメカニカルグラインディングを施した場合の結果(図1では純Alと表示してある)と比較すると、各処理時間において、純Alは各混合粉末よりも硬さが低かった。特に、Al−50LGの60分処理した混合粉末と比較すると、70HV低かった。また、メカニカルグラインディングの処理時間が5分の場合は、LG粉末の添加量が増加しても各混合粉末の硬さに大きな差は認められず、50HVを示した。さらに、メカニカルグラインディングの処理時間が30分の場合は、Al−30LGとAl−50LGの硬さは、処理時間が5分の場合よりもわずかに高かった。
【0032】
一方、メカニカルグラインディングの処理時間が60分の場合は、全ての混合粉末の硬さが急激に上昇し100HVを超えた。これは、メカニカルグラインディングによってLG粉末が微細に分散したことと、アルミニウム粉末の加工硬化が要因であると考えられる。また、メカニカルグラインディングの処理時間が60分の場合は、LG粉末の添加量の増加に伴って、混合粉末の硬さも上昇した。
【0033】
次に、焼結温度について考察する。焼結温度673K及び773Kでは、各焼結体の硬さは20〜30HVを示し、焼結前の混合粉末や純アルミニウムよりも低い値を示した。これは、相対密度が低いことが主な原因と考えられる。一方、873Kで焼結した焼結体の硬さは、673Kや773Kで焼結した焼結体よりも高い値を示した。また、相対密度も増加していることから、焼結温度が高いことにより緻密化し、それに伴って硬さが高くなったと考えられる。
【0034】
ここで、メカニカルグラインディングの処理時間が60分である混合粉末を焼結温度873Kで焼結した各焼結体のX線回折結果を、図3に示す。比較のためにLG粉末のX線回折結果を併せて示す。LGの回折ピークのほとんどは、SrAlと同定された。また、各焼結体は、アルミニウムとSrAlからの回折ピークで構成されており、メカニカルグラインディング処理中や焼結中の固相反応による化合物の生成は認められなかった。このことから、SrAlは熱力学的に安定で、アルミニウムに分散させる物質として適していると考えられる。
【0035】
次に、メカニカルグラインディングの処理時間が5分である混合粉末を焼結温度873Kで焼結した各焼結体の組織を観察した結果を、図4に示す。組織観察は、焼結体をケラー氏液で腐食した後に光学顕微鏡で観察することにより行った。灰色の部分が添加したLG粉末の粒子に対応しており、白い部分がマトリックスであるアルミニウムに対応している。図4(a)に示すAl−10LGでは、分散している粒子の量が少なく、図4(b)に示すAl−30LG及び図4(c)に示すAl−50LGでは、Al−10LGよりも粗大な粒子が多く観察された。
【0036】
これは、メカニカルグラインディングの処理時間が短く且つLG粉末の添加量が多いことにより、LG粉末の微細化が抑制されたためと考えられる。各焼結体では、LG粉末の粒子が均一に分散した組織を呈したが、Al−50LGでは、気孔に対応する黒い部分が多く観察され、これらの気孔はLG粉末の添加量が多くなるに従って増加した。一方、これらの気孔は、LG粉末を含有しないアルミニウム粉末のみの焼結体(図4(d)を参照)では認められなかった。このことから、LG粉末の粒子は焼結体の緻密化の妨げになっていると推察される。
【0037】
次に、製造した各焼結体の蓄光性を評価した。光の明るさの指標には輝度と照度があり、特に輝度は光源などが輝いている程度を表すのに多く用いられているので、ここでは焼結体の輝度を測定して蓄光性を評価した。蓄光性の評価の具体的方法は、以下の通りである。
まず、暗室内に焼結体と光源と輝度計を、図5に示すように配置した。すなわち、焼結体から50cm離れた位置に光源を配するとともに、焼結体から1m離れた位置に輝度計を配した。光源としては、ブラックライト(東芝ライテック株式会社製の商品名ネオボール5ブラックライト 15W)を用い、輝度計としては、コニカミノルタ社製の商品名CS−100A(輝度の測定範囲0.01〜49900cd/m2 )を用いた。
【0038】
焼結体の輝度の測定方法は、以下の通りである。光源から焼結体に光を所定時間照射し、照射を終了してから1分以内に、焼結体から発せられる光の輝度を輝度計により測定した。光の照射時間は、1分、5分、又は10分である。
Al−50LGの焼結体において、光の照射時間と輝度の関係を図6のグラフに示す。焼結温度が673Kの焼結体と773Kの焼結体については、光の照射時間が1分の場合と5分の場合とで輝度に差はなかったが、光の照射時間を10分にすると、1分の場合及び5分の場合に比べて輝度が0.01cd/m2 向上した。これに対して、焼結温度が873Kの焼結体については、光の照射時間にかかわらず輝度は0.05cd/m2 であり、Al−50LGの焼結体の中で最も高い輝度を示した。よって、放電プラズマ焼結法で焼結する場合は、高い輝度を得るためには焼結温度を873Kとすることが好ましいことが分かる。
【0039】
次に、メカニカルグラインディングの処理時間と焼結体の輝度との関係を、図7のグラフに示す。メカニカルグラインディング時間が5分である場合は、Al−50LGの焼結体の輝度は0.05cd/m2 であり、Al−30LGの焼結体の輝度は0.03cd/m2 であった。一方、メカニカルグラインディング時間を30分,60分と長くすると、焼結体の輝度は低下し、ほとんど発光しなかった。
【0040】
蓄光材料の粉末が安定した輝度を発するためには、好適な粒子サイズが存在すると考えられるが、メカニカルグラインディングによってLG粉末の粒子が微細化し、蓄光の機能が低下したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光材料の粉末と、機械的エネルギーを付与することにより強度が高められたアルミニウム粉末と、の混合粉末の焼結体であることを特徴とするアルミニウム基蓄光性複合材料。
【請求項2】
前記アルミニウム粉末は、メカニカルグラインディングを施すことにより強度が高められたものであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム基蓄光性複合材料。
【請求項3】
放電プラズマ焼結法による焼結体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム基蓄光性複合材料。
【請求項4】
アルミニウム粉末に機械的エネルギーを付与して前記アルミニウム粉末の強度を高める高強度化工程と、
蓄光材料の粉末と、前記強度が高められたアルミニウム粉末と、を混合して混合粉末とする混合工程と、
前記混合粉末を焼結して成形する焼結工程と、
を備えることを特徴とするアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム粉末及び蓄光材料の粉末に機械的エネルギーを付与して、前記アルミニウム粉末の強度を高めつつ前記アルミニウム粉末と前記蓄光材料の粉末とを混合した後に、この混合粉末を焼結して成形することを特徴とするアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法。
【請求項6】
メカニカルグラインディング法により粉末に機械的エネルギーを付与することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法。
【請求項7】
放電プラズマ焼結法により焼結を行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム基蓄光性複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102356(P2012−102356A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250882(P2010−250882)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】