説明

アルミニウム材のフラックスレスろう付方法

【課題】大気圧下の非酸化雰囲気のろう付けにおいて、フラックスレスで安定した接合状態を得る。
【解決手段】質量%で、Si:5.0〜12.0%、Mg:1.0〜5.0%を含有し、液相線温度が610℃以下であるろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するブレージングシートを用いるろう付方法であって、前記ろう材と被ろう付け部材を接触密着させ、ろう付熱処理を、酸素濃度50ppm以下の非酸化性雰囲気中で、ろう付け加熱温度を590℃以上で3分以上保持して行い、前記ろう材により接触密着部の密着面において前記芯材と前記被ろう付け部材を接合するフレックスレスろう付け方法により達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧下の非酸化性雰囲気においてフラックスを使用せずに接合可能なアルミニウムのろう付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジエータやコンデンサをはじめ、インタークーラー等を代表とする自動車用熱交換器や、その他アルミニウム合金にて製造される熱交換器や放熱器等は、現在、不活性ガス雰囲気下で非腐食性のフッ化物系フラックスを用いてろう付されるか、ろう材に0.5〜1.5質量%程度のMgを添加して真空雰囲気下でろう付される工法が主流となっている。
上記フラックスを用いる場合、多くが被ろう付け部材をプレス成形等で加工後、所望の組み付け状態とし、フラックス粉末を溶媒に溶いた混濁液を組み付け体に塗着・乾燥させ、高純度窒素ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で加熱ろう付している。この場合、フラックスを使用すること自体、或いは、その塗布工程の設置や管理にコストを要するという問題がある。また、フラックスは、その一部がろう付加熱過程で蒸発し、炉内壁に付着、堆積することが知られており、堆積物の除去を目的とした定期的な炉のメンテナンスも必要コストとして生じる。そして昨今、自動車の軽量化促進に伴い、自動車用熱交換器でも材料の薄肉高強度化が求められ、アルミニウム材料の高強度化には、アルミニウム合金へのMg添加が有効であることは一般的に知られているが、フラックスを用いたろう付ではMgとフラックスが反応して高融点のMgFを生成することから、これがろう付阻害要因となったり、材料中のMgを消費してしまうため、折角添加したMgが高強度化に寄与しないという問題がある。すなわち、フラックスろう付では製品中のMg添加部位や量に制限があり、積極的に材料高強度化手法として用いることができていないのが現状である。
【0003】
一方、真空ろう付では、ろう材に添加されたMgがろう付昇温過程で材料中から蒸発し、その際に、ろう付阻害要因であるアルミニウム材料表面の酸化膜を破壊し、雰囲気中では水分や酸素と結合するゲッター作用により、炉内雰囲気をろう付可能な状態としている。本手法では、フラックス塗布工程は必要ないものの、真空炉が高価な設備であること、炉の気密性管理等に相応のコストが生じること、などの点で問題がある。また、自動車用熱交換器等では、製品の耐食性確保を目的にZnが添加されるが、真空加熱下ではZnが蒸発してしまい、製品材料中に十分なZnを残すことができないというデメリットもある。更に、炉の内壁には蒸発したMgやZnが堆積することから、定期的な炉内清掃も必要となる。
【0004】
これらに対し、最近では上記問題を解消しようとする大気圧下のフラックスレスろう付が提案されている。例えば特許文献1では、被ろう付け部材、もしくはそれ以外の部位にMg含有物を配置し、且つ、被ろう付け部材に覆いをすることによって非酸化性雰囲気大気圧下のフラックスレスろう付を提案している。しかし、この技術では覆いをすることが必須となっており、覆いを製品サイズ別に用意したり、量産で想定される使用個数を準備する必要があったり、更に、覆いのメンテナンス等が必要となり、量産適用においては手間やコストがかかるという問題がある。また、覆いをすることにより被ろう付け部材の昇温速度が低下してしまい、生産性を低下させてしまうという問題もある。
【0005】
上記問題に対し、特許文献2では、予め、ろう付炉内で加熱された風除け冶具(覆い)によって炉内で被ろう付け部材を覆うような仕組みを提案し、昇温速度の低下を改善している。しかし、本方法においては、炉内に風除け冶具の動作を制御する機構を設ける必要があり、設備の導入や維持にコストと手間が掛かるという問題がある。
一方、覆いを必要としないフラックスレスろう付としては、特許文献3では、クラッド材のろう材にMgを添加し、そのクラッド材で成形された熱交換器チューブの内側を不活性雰囲気中大気圧下でフラックスレスろう付する方法が提案されている。
【0006】
また、同じく覆いを必要としないものとして、特許文献4では、ろう材表面に酸化防止層をクラッドし、そのクラッド材を積層構造としたもので、重ね合わせた部材全体を加圧密着した状態で、ろう材の液相線温度以上で加熱して大気雰囲気中でろう付する方法が提案されている。
【0007】
そして特許文献5では、芯材の表面にAl−Si−Mg系合金からなるろう材をクラッドし、且つ、ろう付前に材料表面を酸洗浄し酸化膜の厚みを20Å以下とすれば、非酸化性雰囲気中でのフラックスレスろう付が可能になるという提案がある。
【0008】
これらに対し、本発明者らは鋭意研究を進めた結果、クラッド材のAl−Si系ろう材に添加するMg量を適正な範囲に収めることで、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で良好なろう付状態が得られ、さらにSiとMg添加量を最適化することで、接合率と接合強度が著しく向上することを見出している(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−85433号公報
【特許文献2】特開2006−175500号公報
【特許文献3】特許第4037477号公報
【特許文献4】特許第3701847号公報
【特許文献5】特開平10−180489号公報
【特許文献6】特許第4547032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、ろう付加熱時に雰囲気中の酸素濃度が高いとろう材中のMgとOが反応し、Mgの酸化皮膜(MgO)が生成し、部分的に接合率が低下するため、安定した接合状態が得られにくいことが課題である。これまでもろう付条件や部材の改善(先行技術;酸素濃度低下や前処理による酸化皮膜除去)、さらには接合部の形状変更、部材仕様の最適化により、接合の安定性向上を図っているが、まだ十分な接合状態が得られていない。特に近年は部材の薄肉化や熱交換器の高耐圧化により、接合部では安定した接合強度を確保することが必須であり、その改善が求められている。
【0011】
本願発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、大気圧下の非酸化性雰囲気においてフラックスを使用せずに安定した接合強度が得られるアルミニウム材のフラックスレスろう付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記接合不良の改善にはろう溶融前に接合部の酸化皮膜をフィルム状からなるべく微細な粒子状に分断し、溶融ろうの濡れ性や流動性を向上させる必要がある。しかし、従来のAl−Si−Mg系ろう材では表面酸化皮膜の分断や除去が不十分となる場合が多く、接合の安定性が確保しにくかったが、発明者らはろう材中のMg添加量を増加し、Si添加量を最適化することで、著しく接合状態が改善することを見出した。
従来のろう材合金ではろう付加熱時にろう材の融点に達すると、局所的にろうの溶融が始まり、徐々に溶融ろうの量が増加して接合が行なわれるが、ろう材固相分が接合界面に残存するため、材料表面の初期酸化皮膜の分断や流動が不十分であるため、接合状態が安定しにくかった。そこで、ろう材合金の成分を共晶組成付近とし、ろう付温度をろう材の液相線温度に近づけることで、ろう付昇温時にろう材のほとんどが短時間で液相となり、ろう材表面の初期酸化皮膜が細かく分断され、部材の初期酸化皮膜が溶融ろうと共に接合面外部に流動するため、非常に安定した接合状態が得られることが判明した。また、ろう材のMg添加量の増加により、ろう付時に低い温度域から表面酸化皮膜の形態がフィルム状から微細な粒子状に変化し、接合界面で金属−金属接合面積が増加するため、接合強度が著しく向上することが確認された。
また、接合界面においては、母材への著しいろう侵食が発生しない程度に元素拡散を促進すると、安定した接合強度が得られることが確認された。
しかし、ろう材のMg添加量を増加すると、ろう付加熱時に酸化皮膜が成長しやすくなるため、雰囲気中の酸素濃度は可能な限り低下することが必要となる。
以上のように、ろう材成分ならびにろう付条件の最適化により接合率だけでなく、従来法に比べ、接合強度を飛躍的に向上することが可能となる。
【0013】
すなわち、本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法のうち、第1の本発明は、質量%で、Si:5.0〜12.0%、Mg:1.0〜5.0%を含有し、液相線温度が610℃以下の組成のAl−Si−Mg系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するアルミニウム合金ブレージングシートを用いるろう付方法であって、酸素濃度50ppm以下の非酸化性雰囲気中で、加熱温度590℃以上で3分以上保持し、前記Al−Si−Mg系ろう材により、ブレージングシートろう材面とろう付対象部材を接触密着させ、その密着面においてブレージングシートの芯材と前記ろう付対象部材を接合することを特徴とする。
【0014】
第2の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1の本発明において、前記Al−Si−Mg系ろう材は、質量%でSi:5.0〜12.0%、Mg:1.0〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0015】
第3の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1または第2の本発明において、前記Al−Si−Mg系ろう材は、さらに質量%で0.1〜5.0%のZnを含有することを特徴とする。
【0016】
第4の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされている芯材が、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0017】
第5の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされている芯材が、質量%で、Mg:0.01〜1.0%を含有し、さらにMn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0018】
以下に、本発明で規定する成分等の限定理由について以下に説明する。なお、各成分量
はいずれも質量%で示される。
【0019】
1.ろう材
本発明に用いるアルミニウムクラッド材では、ろう材としてAl−Si系合金をベースに、Mgを添加したものを用いる。
【0020】
Mg:1.0〜5.0%
Mgは、材料表面に生成する緻密な酸化皮膜(Al)を還元し、微細な粒子状に分断することでろうの濡れ性や流動性が向上し、接合率が向上する。また、接合界面で金属−金属接合面積が増加し、接合強度が向上する。ただし、Mgの含有量が1.0%未満であると、Al酸化皮膜の還元、分解作用が不十分となるため、十分な接合状態が得られない。一方、Mgの含有量が5.0%を越えると、ろう材の強度が向上し、クラッド圧延が製造困難になり、また、Mgの酸化皮膜が厚く成長し、ろう付性も阻害される。したがって、Mgの含有量は上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を1.0%、上限を2.5%とするのが望ましい。
【0021】
Si:5.0〜12.0%
Siは、Alに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付温度にて溶融して所定の継手を形成するための必須添加元素である。また、ろう材表面に存在するSi粒子上ではアルミニウムの緻密な酸化膜の成長が抑制され、酸化皮膜の欠陥部が生成する。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化膜がろう付熱処理中に厚膜となっても、金属間化合物の周辺からろう材の染み出しが発生し、この部位を起点に酸化皮膜の破壊や分断が進み、溶融ろうの濡れ性が向上するため、より安定した接合状態を得ることが可能となる。
ただし、Si含有量が5.0%未満では生成する液相量が不足するため十分な接合状態が得られない。一方、Si含有量が12.0%を超えると初晶Siが急激に増加し、素材としての加工性が悪化するとともに、ろう付時に接合部のろう侵食が著しく促進される。したがって、Siの含有量は上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を6.5%、上限を11.0%とするのが望ましい。
【0022】
上記適量のMgおよびSiの含有により、ろう付昇温時にブレージングシートのろう材が短時間で完全に溶融し、液相になると、細かく分断されたろう材表面の初期酸化皮膜が溶融ろうと共に接合面外部に流動しやすくなるため、接合の安定性が向上する。ろう材成分は共晶組成に近い(液相線温度と固相線温度の差が小さい)ものほど、その効果が大きい。また、ろう材のMg含有量が高いほど、ろう付時に低い温度域から酸化皮膜の形態(緻密→ポーラス)が変化し、接合強度も著しく向上する。
【0023】
Zn:0.1〜5.0%
Znはろう材の電位を低下させ、犠牲陽極効果によりブレージングシートの耐食性を向上させる効果を有するので、所望により含有させる。Znの含有量は、所望により含有させる場合、0.1〜5.0%とする。0.1%未満では電位がほとんど変化しないため十分な耐食性向上効果が得られず、5.0%を超えると腐食速度が著しく増大する。なお、Zn含有量の一層好ましい下限は0.5%、上限は3.0%である。Znを積極的に添加しない場合、0.1%未満のZnを不純物として含有することは許容される。
【0024】
液相線温度が610℃以下
ろう付昇温時にろう材の固相線温度到達後に短時間で溶融し、ろう付昇温時にろう材のほとんどが短時間で液相となり、ろう材表面の初期酸化皮膜が細かく分断され、溶融ろうと共に接合面外部に流動するため、非常に安定した接合状態が得られる効果が得られる。そのため接合部における溶融ろうの濡れ性が向上し、安定した接合状態が得られる。
ろう材の液相線温度が610℃超であると、ろうの溶融開始温度付近での液相率が低下し、完全に液相になるまでに時間がかかるため、上記効果が不十分となる。したがって、ろう材の液相線温度は610℃以下であることが必要である。
【0025】
2.芯材
本発明に用いるアルミニウムクラッド材の芯材組成は、接合を得るにあたって特に限定されるものではないが、フラックスレスろう付を実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加が積極的に行える。
芯材成分としては、質量比で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが例示される。
また、芯材成分としては、Mg:0.01〜1.0%を含有し、さらに、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものが例示される。各元素の作用及び限定理由は以下の通りである。
【0026】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。ただし、0.2%未満では、上記効果が不十分であり、一方、2.5%を越えると鋳造時に巨大金属間化合物が生成し、圧延が困難となる。したがって、Mnを含有させる場合、Mn含有量を上記範囲とするのが望ましい。なお、同様の理由でMn含有量の下限を1.0%、上限を1.7%とするのが一層望ましい。
【0027】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、材料中に固溶してろう付後の強度を向上させると共に、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、0.05%未満では、上記効果が不十分になり、一方、1.0%を越えると、鋳造時に割れが生じたり、圧延性が低下する。したがって、Cuを含有させる場合、Cu含有量を上記範囲とするのが望ましい。なお、同様の理由でCu含有量の下限を0.1%、上限を0.7%とするのが一層望ましい。
【0028】
Si:0.1〜1.0%
Siは、単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させる他、本発明においては、Mg添加との相乗効果によって得られるMgSiの析出により、材料強度を向上させる。このMgSiの析出は、ろう付熱処理後の時効硬化により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。また、Mnと同時に添加されるとAl−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる効果も有する。ただし、Siの含有量が0.1%未満であると上記効果が不十分になり、一方、1.0%を越えると、融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。したがって、Siを含有させる場合、Si含有量を上記範囲とするのが望ましい。なお、同様の理由でSi含有量の下限を0.4%、上限を0.8%とするのが一層望ましい。
【0029】
Fe:0.1〜1.0%
Feは金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、最終焼鈍時とろう付時の再結晶を促進する。ただし、Feの含有量が0.1%未満であると、上記効果が不十分となり、一方、1.0%を越えると、鋳造時に巨大金属間化合物が生成し、圧延が困難となる。したがって、Feを含有させる場合、Fe含有量を上記範囲とするのが望ましい。なお、同様の理由でFe含有量の下限を0.2%、上限を0.5%とするのが一層望ましい。
【0030】
Mg:0.01〜1.0%
Mgは、単独では固溶強化により、また、Siと同時に添加されるとろう付後に微細な金属間化合物MgSiとして析出し、時効硬化することで著しく強度を向上させる効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化膜の破壊や変質に寄与する効果を有する。ただし、Mgの含有量が0.01%未満では、上記効果が不十分となり、一方、1.0%を越えると融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。したがって、Mgを含有させる場合、Mg含有量は上記範囲とするのが望ましい。なお、同様の理由でMg含有量の下限を0.2%、上限を0.6%とするのが一層望ましい。
【0031】
3.ろう付条件
雰囲気中の酸素濃度50ppm以下
雰囲気中の酸素濃度を調整することで、ろう付時に酸化皮膜が成長してろう付性が低下するのを抑制する。酸素濃度が高くても接合自体は可能であるが、接合部の形状によっては、接合率や接合強度が低下する。雰囲気中の酸素濃度が50ppmを超えると、ろう付時の酸化皮膜が成長し、接合状態が不安定となり、特に接合強度が低下する。
【0032】
加熱温度590℃以上で3分以上保持
加熱温度590℃以上で3分以上保持のろう付により、接合界面において、ろう材から母材への元素拡散を促進し、接合強度が安定する。加熱温度ならびに保持時間が下限未満であると十分な効果が得られない。
【0033】
4.クラッド材
本発明に使用する上記クラッド材においては、少なくとも片面に上記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされていればよく、適宜、片面と両面クラッド材を使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面に上記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材等のその他の材料がクラッドされているものであってもよい。
【0034】
5.被ろう付け部材の材質
ろう材以外の被ろう付け部材として、一般的に用いられているアルミニウム合金は何れも問題なく使用可能である。
【0035】
6.炉内雰囲気
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、被ろう付け部材の再酸化を抑制する必要がある。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素を用いることが好適である。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、フラックスや真空設備を必要としない、大気圧下のフラックスレスろう付が可能となり、従来よりも安定し、かつ良好な接合状態を容易に得ることができる。また、ろう材以外の被ろう付け部材へMgを添加した場合にもろう付阻害要因とはならないことから、Mgを構造部材に添加した、熱交換器用アルミニウム高強度部材への用途展開も図れることになる。その他、減圧を伴わない雰囲気での加熱となるため、アルミニウム材料からのMgやZnの蒸発はほとんど発生せず、炉内壁等の汚染を生じないというメリットも得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態におけるろう付前の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
質量%で、Siを5.0〜12.0%、Mgを1.0〜5.0%含有し、所望によりZnを0.1〜5.0%含有するAl−Si−Mg系ろう材と、芯材とは常法により製造することができ、両者またはこれに犠牲材などの他の材料とを重ねてクラッド圧延する。該クラッド圧延での製造条件は特に限定されるものではない。また、各層のクラッド率も本発明としては特定されるものではない。Al−Si−Mg系ろう材は、代表的には、残部がAlと不可避不純物からなる。
【0039】
なお、上記のように芯材の組成は、質量比で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるもの、あるいは、質量%で、Mg:0.01〜1.0%を含有し、さらに、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものが好適である。ただし、本発明としては芯材の組成が特定のものに限定されるものではない。
【0040】
常法により得られるアルミニウムクラッド材1は、図1に示すように芯材2の片面または両面にクラッドされた上記Al−Si−Mg系ろう材3が最表面に位置しており、初期酸化膜厚として20〜500Åの酸化皮膜が形成されている。
上記アルミニウムクラッド材1は、前記Al−Si−Mg系ろう材3が、ベアフィン、無垢材コネクタなどの被ろう付け部材4に接触密着するように組み付けられて、好適には熱交換器組立体などを構成する。なお、被ろう付け部材としては種々の組成のアルミニウム材料を用いることができ、本発明としては特定のものに限定されるものではない。
【0041】
上記組立体は、減圧を伴うことなく非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。該非酸化性雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスまたは水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。非酸化性雰囲気は、ろう付加熱時には減圧を伴わず、通常は大気圧とされる。なお、非酸化性雰囲気を得る前に、置換などの目的で減圧工程を含むものであってもよい。加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するものであってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性雰囲気が維持される。該非酸化性雰囲気は酸素濃度が体積比で50ppm以下であることが必要である。上記雰囲気下で590℃以上で3分保持する加熱をしてろう付を行う。ろう付においては、被ろう付け部材4との接触密着部5がフラックスレスで良好に接合される。
【実施例1】
【0042】
以下に、本発明の実施例を説明する。
表に示す組成(残部Alと不可避不純物)のAl−Si−Mg系ろう材と、同じく表に示す組成(残部Alと不可避不純物)の芯材とをクラッドしたアルミニウムクラッド材として用意した。各合金の鋳造時の凝固速度は一般的な半連続鋳造の条件である0.1〜2.0℃/secの範囲に制御した。各ろう材について、DSC(示差走査熱量測定)を用いて液相線温度を測定した。
【0043】
上記アルミニウムクラッド材は、前記表に示した各種組成のろう材を芯材の両面に貼り合わせて各5%のクラッド率とし、H14相当調質の1mm厚に仕上げた。
本ブレージングシートを50mm角に切断し、5枚を積層して、250gf/cmで均一に加圧し、窒素ガス雰囲気中にて、所定温度まで加熱するろう付熱処理を行った。雰囲気中の酸素濃度は窒素ガスの流量を変化させ、制御を行った。
また、被ろう付け部材としてJIS A3003合金、H14相当調質のアルミニウム
ベア材(0.1mm厚)のフィン材を用意した。
【0044】
○ろう付性
各コアを表に示す窒素雰囲気中のろう付炉にて、ろう付条件を各種変化させて、それぞれ表に示す各温度で加熱し、ろう付性を評価した。 なお、ろう付時の材料温度は、上記チューブ材の複数箇所に熱電対を配置して測定した。
【0045】
(1)接合率
作製したサンプルについて、任意部3箇所の断面観察を行い接合状態の観察を行なった。接合部における各接合断面の不良部(ボイド部)の長さを測定し、接合率を求め、ろう付性の優劣を判定した。
【0046】
(2)接合強度
作製したサンプルをφ10mm×厚さ5mmの円柱状に加工し、治具に接着剤で固定し、引張試験を実施し、積層接界面の破壊強度を測定し、接合強度を判定した。
【0047】
表から明らかなように、本発明の実施例は従来例に比べ良好なろう付性を示したのに対し、比較例では十分な接合が得られなかった。また、実施例では高い接合強度が得られたのに対し、比較例では著しい接合強度の低下が見られた。また、ろう材、芯材の成分が好適範囲を外れる参考例では、種々の不具合が認められた。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【符号の説明】
【0050】
1 アルミニウムクラッド材
2 芯材
3 Al−Si−Mg系ろう材
4 被ろう付け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Si:5.0〜12.0%、Mg:1.0〜5.0%を含有し、液相線温度が610℃以下の組成のAl−Si−Mg系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するアルミニウム合金ブレージングシートを用いるろう付方法であって、酸素濃度50ppm以下の非酸化性雰囲気中で、加熱温度590℃以上で3分以上保持し、前記Al−Si−Mg系ろう材により、ブレージングシートろう材面とろう付対象部材を接触密着させ、その密着面においてブレージングシートの芯材と前記ろう付対象部材を接合することを特徴とするアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
【請求項2】
前記Al−Si−Mg系ろう材は、質量%でSi:5.0〜12.0%、Mg:1.0〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
【請求項3】
前記Al−Si−Mg系ろう材は、さらに質量%で0.1〜5.0%のZnを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
【請求項4】
前記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされている芯材が、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
【請求項5】
前記Al−Si−Mg系ろう材がクラッドされている芯材が、質量%で、Mg:0.01〜1.0%を含有し、さらにMn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49085(P2013−49085A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189459(P2011−189459)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)