説明

アルミニウム焼結体及びその製造方法

【課題】室温及び高温で高い機械的強度を有するとともに安価なアルミニウム焼結体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】純アルミニウム粉末とステアリン酸とにメカニカルグラインディングを施して混合粉末を得、この混合粉末を放電プラズマ焼結法により焼結して焼結体を得た。焼結時にステアリン酸中の酸素及び炭素がアルミニウムと固相反応し、酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムが生成するため、焼結体中には酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムが微細に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化問題の観点から、より安価且つ軽量であり、さらに室温及び高温で高い機械的強度を有する材料の開発が望まれている。
アルミニウム材料は安価且つ軽量であるため、種々の用途に使用されている。例えば純アルミニウム材料は、軟銅を基準として導電率をパーセント表示したIACS(The International Annealed Copper Standard)値が61%であり、高い導電性を有するため、銅の代替材料として送電線等に使用されている。
【0003】
しかしながら、純アルミニウム材料の機械的強度は100MPa以下であり鉄鋼材料等と比較すると低いため、構造材料として使用するには性能が不十分であった。また、高温下における機械的強度の安定性にも問題があるため、機能性材料として使用するにも用途に限りがあった。例えば、送電線の材料として使用した場合は、送電量が増加すると、電気抵抗によって発生するジュール熱により軟化するという問題があった。
【特許文献1】特開2006−348352号公報
【特許文献2】特開平5−271709号公報
【特許文献3】特表平11−504388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、純アルミニウム材料の機械的強度や高温特性を向上させるために、新規なアルミニウム合金の開発や、材料特性を向上させる加工方法,熱処理方法の検討がなされているが、高性能な合金や有効な加工方法,熱処理方法を見出すことは容易ではない状況である。
また、純アルミニウム材料の機械的強度や高温特性を向上させるために、純アルミニウムにセラミックス粉末やセラミックス繊維を分散させた複合材料が開発されている。しかしながら、この複合化工程においては、セラミックス粉末やセラミックス繊維の分散状態が不均一となったり、ポロシティが発生するなどのプロセス上の問題が生じる場合があった。また、セラミックスが高価であることと、複合化工程が複雑で長時間を要することから、複合材料は高価であるという問題があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、室温及び高温で高い機械的強度を有するとともに安価なアルミニウム焼結体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のアルミニウム焼結体の製造方法は、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方と、滑剤と、アルミニウムと反応して酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる反応剤と、を機械的に混合する混合工程と、前記混合工程により混合した混合粉末を放電プラズマ焼結法により焼結して成形するとともに、アルミニウムと前記反応剤とを反応させて酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる焼結工程と、を備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る請求項2のアルミニウム焼結体の製造方法は、請求項1に記載のアルミニウム焼結体の製造方法において、前記滑剤と前記反応剤とを兼ねて有機酸を用いることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のアルミニウム焼結体の製造方法は、請求項2に記載のアルミニウム焼結体の製造方法において、前記有機酸がステアリン酸であることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明に係る請求項4のアルミニウム焼結体は、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方と、滑剤と、アルミニウムと反応して酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる反応剤と、を機械的に混合した混合粉末を、放電プラズマ焼結法により焼結してなり、アルミニウムと前記反応剤とが前記焼結時に反応することにより生じた酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項5のアルミニウム焼結体は、請求項4に記載のアルミニウム焼結体において、前記滑剤と前記反応剤とを兼ねて有機酸を用いたことを特徴とする。 さらに、本発明に係る請求項6のアルミニウム焼結体は、請求項5に記載のアルミニウム焼結体において、前記有機酸がステアリン酸であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項7のアルミニウム焼結体は、請求項4〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム焼結体において、多孔質体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルミニウム焼結体は、室温及び高温で高い機械的強度を有するとともに安価である。また、本発明のアルミニウム焼結体の製造方法によれば、室温及び高温で高い機械的強度を有するとともに安価なアルミニウム焼結体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るアルミニウム焼結体及びその製造方法の実施の形態を、以下に詳細に説明する。
まず、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末と滑剤と反応剤とを混合装置に投入して機械的に混合し、混合粉末を得た。この混合工程において加工硬化がなされるため、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末の強度が向上する。また、滑剤を使用しないと混合時に焼付きが生じ、混合装置に投入した純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末の多くが撹拌翼に付着して、得られる混合粉末の量が少なくなってしまうが、滑剤を使用すれば、その潤滑作用により焼付きが抑制されるため、撹拌翼に付着する純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末の量が少なくなり、得られる混合粉末の量が格段に多くなる。
【0011】
次に、得られた混合粉末を型(型の素材は金属,セラミックス,炭素等があげられる)に充填し、放電プラズマ焼結法により焼結して所望の形状に成形し、充填密度(純アルミニウム材料の密度を基準とした焼結体の密度)100%の焼結体を得た。この焼結工程においては、高温によりアルミニウムと反応剤とが反応(固相反応)し、酸化アルミニウム(Al2 3 )及び炭化アルミニウム(Al4 3 )の少なくとも一方が生成する。純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末の焼結体に、硬く熱安定性に優れた酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方が含有されており、しかも焼結体中に微細に分散しているため、この焼結体は室温及び高温において高い機械的強度(比強度)を有する。また、高温下でも高硬度である。
【0012】
よって、現在使用されているアルミニウム合金材料,チタン材料,鉄鋼材料の代替材料ともなり得、自動車,輸送機器等の構造材料としても使用可能である。このような焼結体を自動車,輸送機器等の構造材料として使用すれば、車体が軽量化されるため、燃費の向上や排気ガス量の低減に寄与する。また、高温下でも高硬度であるため、高温下でも十分に使用可能である。さらに、比較的高い導電率を有するため、純アルミニウム材料,銅材料,銅合金材料の代替材料ともなり得、送電線材料,電気接点等の機能性材料としての使用も可能である。
【0013】
さらに、高価なセラミックス粉末を用いることなく安価な滑剤及び反応剤を用いて上記のような優れた性能を有する焼結体を得ることができるので、セラミックス粉末を純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末に添加して混合及び焼結を行う方法よりも、焼結体を安価に製造することができる。
さらに、放電プラズマ焼結法は短時間で焼結体を得ることができるので、従来の粉末冶金法(粉末を冷間加工した後に熱間押出しして焼結体を得る方法)と比べて、焼結体の製造に要する時間や工程を大幅に削減することができる。
【0014】
なお、圧力,温度等の焼結条件を変更することにより、種々の充填密度の焼結体を製造することができ、多孔質体の焼結体を製造することも可能である。多孔質体の焼結体は、フィルター等の用途に使用可能である。
滑剤の種類は、混合工程において焼付きを十分に防止できるならば特に限定されるものではなく、一般的な滑剤や潤滑剤を問題なく使用できるが、有機酸が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。また、反応剤の種類は、焼結工程においてアルミニウムと反応して酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生成するものであれば、特に限定されるものではなく、アルミニウムを酸化させる酸素及びアルミニウムを炭化させる炭素の少なくとも一方を分子中に有する化合物が使用可能であるが、有機酸が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0015】
このように、ステアリン酸のような有機酸は、滑剤と反応剤との両方の機能を有していて、滑剤と反応剤とを兼ねる薬剤であるので、有機酸を用いれば2種の薬剤を用いる必要がない。なお、ステアリン酸のような有機酸は分子中に酸素と炭素を有しているので、焼結工程において酸素と炭素がアルミニウムと反応して、酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの両方が生成する。
【0016】
滑剤と反応剤とで別種の薬剤を用いる場合には、反応剤は滑剤としての機能を有していないが、混合工程において純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末に反応剤を添加し、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末と反応剤とを十分に混合する必要がある。混合が不十分であると、その後の焼結工程において、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末と反応剤との反応が十分に進行せず、酸化アルミニウムや炭化アルミニウムの生成量が少なくなるため、アルミニウム焼結体の室温及び高温での機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0017】
滑剤の添加量は、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末100質量部に対して、2.5質量部以上4.5質量部以下が好ましい。滑剤の種類にもよるが、2.5質量部未満であると、混合工程において焼付きを十分に防止できないおそれがある。一方、4.5質量部超過であると、焼結体の機械的強度等の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、反応剤の添加量は、純アルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末100質量部に対して、2.5質量部以上4.5質量部以下が好ましい。反応剤の種類にもよるが、2.5質量部未満であると、酸化アルミニウムや炭化アルミニウムの生成量が少ないため、焼結体の機械的強度が不十分となるおそれがある。一方、4.5質量部超過であると、焼結体の機械的強度等の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0018】
さらに、焼結体に含まれる酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの合計量は、10質量%以上30質量%以下が好ましい。10質量%未満であると、酸化アルミニウムや炭化アルミニウムの含有量が少ないため、焼結体の機械的強度が不十分となるおそれがある。一方、30質量%超過であると、焼結体の機械的強度等の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0019】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、純アルミニウム粉末10gとステアリン酸0.3gとを混合装置に投入し、機械的に混合して(メカニカルグラインディングを施して)混合粉末を得た。混合時間は、4,8,32,64時間のうちのいずれかとした。メカニカルグラインディング前の純アルミニウム粉末の平均粒径は100μmであったが、メカニカルグラインディング後は40〜50μmであった。
【0020】
次に、炭素で構成された型に混合粉末を充填し、放電プラズマ焼結装置に装着した。そして、真空度5Pa,温度600℃,圧力49MPaの条件で1時間以上保持することにより焼結し焼結体を得た。焼結時にステアリン酸中の酸素及び炭素がアルミニウムと固相反応し、酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムが生成するため(図1のX線回折のチャートを参照)、焼結体中には酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムが微細に分散している。また、この焼結体の密度を測定したところ充填密度は100%であり、ポロシティがないことが確認された。
【0021】
メカニカルグラインディング後の混合粉末のビッカース硬さと、その焼結体のビッカース硬さとを、それぞれ測定した。また、比較のため、メカニカルグラインディング前の純アルミニウム粉末のビッカース硬さと、メカニカルグラインディングを施さずに放電プラズマ焼結法で焼結した焼結体のビッカース硬さとを、それぞれ測定した。結果を図2のグラフに示す。なお、粉末のビッカース硬さはマイクロビッカース硬度計で測定し(荷重は0.098N)、焼結体のビッカース硬さはビッカース硬度計で測定した(荷重は9.8N)。
【0022】
図2のグラフから、メカニカルグラインディング前の純アルミニウム粉末のビッカース硬さは50HV程度であり、これの焼結体のビッカース硬さも同程度であるが、メカニカルグラインディングを施すことによりビッカース硬さが2.5〜3倍に向上し、100〜150HV程度となることが分かる。また、メカニカルグラインディングを施す時間の長さは、混合粉末や焼結体のビッカース硬さに大きな影響を与えないことが分かる。
【0023】
次に、焼結体を長時間600℃に保持して、ビッカース硬さの変化を測定した。結果を図3のグラフに示す。なお、ビッカース硬さの測定は室温下で行った。図3のグラフから、600℃で500時間保持しても、ビッカース硬さは僅か10%程度しか低下しないことが分かる。また、メカニカルグラインディングを施す時間の長さは、ビッカース硬さの低下の程度に大きな影響を与えないことが分かる。
【0024】
次に、メカニカルグラインディングを8時間施した場合の焼結体(表1においては実施例と記してある)の圧縮強さ(室温),破壊時のひずみ,導電率(IACS値)を測定し、メカニカルグラインディングを施さずに放電プラズマ焼結法で焼結した焼結体(表1においては比較例と記してある)や純アルミニウム材料(H111),アルミニウム合金材料(7075−T6)の測定値と比較した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例の焼結体の圧縮強さは440MPaであり、メカニカルグラインディングを施さずに放電プラズマ焼結法で焼結した焼結体と比べて約2.5倍の強度であった。また、実施例の焼結体の圧縮強さ及び破壊時のひずみは、純アルミニウム材料(H111)と比較して格段に優れているとともに、航空機材料として使用されているアルミニウム合金材料(7075−T6)とほぼ同程度と大変優れていた。さらに、実施例の焼結体の導電率は純アルミニウム材料の約50%である34%であった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】X線回折のチャートである。
【図2】メカニカルグラインディングを施した時間と粉末及び焼結体のビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図3】焼結体の熱処理時間とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方と、滑剤と、アルミニウムと反応して酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる反応剤と、を機械的に混合する混合工程と、
前記混合工程により混合した混合粉末を放電プラズマ焼結法により焼結して成形するとともに、アルミニウムと前記反応剤とを反応させて酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる焼結工程と、
を備えることを特徴とするアルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記滑剤と前記反応剤とを兼ねて有機酸を用いることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸がステアリン酸であることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも一方と、滑剤と、アルミニウムと反応して酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を生じさせる反応剤と、を機械的に混合した混合粉末を、放電プラズマ焼結法により焼結してなり、アルミニウムと前記反応剤とが前記焼結時に反応することにより生じた酸化アルミニウム及び炭化アルミニウムの少なくとも一方を含有することを特徴とするアルミニウム焼結体。
【請求項5】
前記滑剤と前記反応剤とを兼ねて有機酸を用いたことを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム焼結体。
【請求項6】
前記有機酸がステアリン酸であることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム焼結体。
【請求項7】
多孔質体であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−41087(P2009−41087A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209484(P2007−209484)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】